萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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ニコニコたきなさんすき
ところで錦木千束、オメェーさてはヒモ適性あんな?



#6.5 Childhood's end?

 ─────ざばり。

 

 

 

「手酷くやられたな。アランの虎よ」

 

 朦朧とする意識の隅で、真島は声の主の姿を捉えた。

 時代劇に登場する隠居した幕府要人のような、古風な装束の老爺。

 

「しかし、あれで死ななかったのはさすがと言うべきか」

 

「……。……、ぁ……ぐ、く。ゴホッ……ゴホッ、ゴボッ!」

 

 人工池の濁った水と血の混合物を吐き出し、真島は公園の芝生に仰向けとなった。

 糸のように細められた老爺の目が、緑髪のテロリストを見下ろしている。

 

「……。よぉ。直接……かはっ……面ァ合わせんのは、初めて、かい」

 

「"アランのリコリス"からの要請でね。君たちの後片付けを頼まれた。私もたまにはこのように、責任者として現場に赴かねば、部下の人心が離れていってしまう」

 

「ケッ……か、はっ、はっ。良い、趣味……してやがん、な」

 

 老爺の傍らに護衛は居ない。()()()()のだ。

 真島を人工池から引き上げたのは、彼の部下である『掃除屋(クリーナー)』の作業員たちだろう。

 

「……何人死んだ?」

 

「17人。2人は焼死、10人は失血死だ。手足のいずれか、あるいは四肢すべてを欠いた者は、死者を除いて9人。招集に応じておきながら逃げた者はもっと多い。"無傷"の24人は君に返却してもいいが……果たしてどれだけがまだ使い物になるかな」

 

「何があった」

 

()()()が来た。君たちには『赤帽鬼(レッド・キャップ)』と言ったほうがわかり易いかね」

 

「……、バケモンの噂は……眉唾じゃなかったってことか」

 

 真島は、茫洋とする意識を虚空に漂わせたまま、しばし微睡むような時間に身を任せた。

 星の出ない東京の夜が、真島と老爺を包み込んでいる。

 

「───面白ぇ」

 

 緑髪の鬼札(ジョーカー)は静かに笑った。

 声を張り上げるだけの体力はもはや無く、されどその胸中に、溢れんばかりの歓喜を宿して。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 クルミが私の目の前で正座している。

 

「イテテテ……」

 

 千束は店長に応急手当を受けている。経緯はどうあれ、彼女ですら不覚を取るなど並大抵の敵ではなかった。

 ニコルが御門かなはを応援に呼んでいなければ、あのRPG-7の一射で全滅していた可能性すらあったかも知れない。

 

「んと───まぁ、それで?」

 

「つまり、全部コイツが原因ってこと」

 

 ミズキさんがビールをジョッキで呷りながら告げる。

 妙に刺々しい言い方をしているのは……酔っているからだと思いたいが。

 とはいえ、クルミが『例の銃取引』に始まる一連の事件と、リコリコ周辺の騒動に深く関わっていたことは事実である。

 

「な……何だよぅ、これまで散々助けてやっただろ〜!?」

 

「そういう恩着せがましいの良くないと思いまーす。たきな、あんたも被害者なんだからさ。ガツンと言ってやった方がいいよ」

 

 ───、……。

 千束はこう言ってくれるけれど……。

 

「うぅ、千束っ……、……あ! ごめん、たきな!」

 

 ……そうだな。

 先刻も考えたことだが、かつてDAの敵であった頃の『ウォールナット』の悪行を、クルミをリコリコの味方として迎えたいま糾弾するのは筋が通らない。

 それに、過去は変えられなくても、未来に向けて手を取ることは出来るのだから。

 

「あれは私の行動の結果で、クルミのせいじゃ」

 

「───ごめんなさい!!」

 

 え?

 

「ニコル……?」

 

「あ……あの、その、ね。たきなお姉ちゃんは……覚えてる? 例の作戦の時……」

 

 覚えてるかと聞かれても……何のことだろう。

 少なくとも私には、『例の作戦』の裏で進行していた出来事について、これ以上遡るべき事実は無いように思える。

 

「わたし……。わたしも、()()()()()()()。おっきな作戦があるって聞いたから、フキさんたちにこっそり付いていって」

 

「……!」

 

「は!?」

 

「そこで、えと、お姉ちゃんを……初めて、見て。……、……お友達に、なれるかも知れないと、思ったから……」

 

 ───記憶の片隅に、ぽっかりと空いた穴がある。

 今でこそある程度受け入れているものの、当時の私にとって『例の作戦』のことは、大いに忌むべき記憶でしかなかった。

 これまでは、むしろ一度受け入れてしまったからこそ、あまり考えてこなかった。

 すなわち……私はあの時、何故、()()()()()()()()()()()()()()()ということを。

 

「助ける……つもりで。……ぅ、わたしっ、それが一番早いと、思った、から……! ()()()()()()()()()から、たきなお姉ちゃん(このひと)ならわかってくれるんじゃないかって、それで……!」

 

 そして……思い出した。

 通信障害のノイズが混じっていても、脳に染み入る甘やかな声。

 『敵の武装を鹵獲し、火力で圧倒せよ』という指示。

 ()()()()を私に入れてきたのは、星谷ニコルだ。

 

「ニコル、あんた……」

 

「わっ、わた、わたし……お姉ちゃんのことも、エリカちゃんのことも、全然考えて……なかった! だから……うぇ、ぐすっ……! ごめん、なさいぃ……!」

 

 いつもにこやかで、どこか超然としていて、そしていざ戦いとなれば誰よりも苛烈な『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』の涙。リコリスならざる年相応の少女としての顔。

 千束と御門かなはですら、初めて目の当たりにした姿なのだろう。当たり前に慌てるクルミやミズキさんより、この二人の方がよほど愕然としているように見えた。

 

 ─────あぁ……、でも。

 

 大丈夫だ。

 私の答えは、決まっている。

 

「ニコル」

 

「うっ……ふ、うぅ、ひぐっ……」

 

「もう一度、はっきり言います。あれは私が考えて、私が選んで、私が決めた行動の結果です」

 

「……、───え」

 

「たとえあなたに誘導されていたとしても、()()()()()()()()()()()()()()()()。あのとき起きたことすべては、ニコルのせいでも、クルミのせいでもありません」

 

 膝を曲げて、視線の高さを合わせる。

 色素の薄いオリーブ色の瞳。膨大な戦闘経験がもたらす、敵対者の一挙手一投足までをも見通す恐るべき天眼。

 それが、今はただ、後悔の雨に濡れる少女の目だ。

 

「……そう、だったんだ。じゃあ……。私も謝んなきゃかな」

 

「はい?」

 

 千束まで……?

 

「いや……。実は、私もあんとき応援に呼ばれててさ。現場でそんなことになってるとか、全然知らなくって……。楠木さん(DA司令部)とちゃんと連携取ってたら、通信の異常に気づいてもっと早く駆けつけられたかも……みたいな。たらればの話でしかないけどね」

 

「そうなん……ですか?」

 

 一応確認したが、千束の言葉はきっと真実だ。

 でなければ、『例の作戦』の様子が記録された流出映像に、千束の顔もあったことに説明がつかない。

 

「……うん。だから、みんなちょっとずつ悪かったっていうか。とにかく間が悪かったんだよ。結局、ぜんぶ不幸なすれ違いで……」

 

 すると千束は立ち上がり、私とニコルとクルミを巻き込んで、全員でお互いの肩を抱くようにした。

 

「───けど!! 今はこうしてみんな一緒に、同じ方向を見て頑張ってるっ。これって、とっても素敵なことだと思わない?」

 

 過去は変えられない。時間は前にしか進まない。一度起きてしまったことをすべて無かったことにするなんて不可能だ。

 でも、それでいいのかも知れない。終わり良ければ全て良し───行き着いた果てで、最後に笑うことが出来るのならば。

 

「……ちさと。たきな、お姉ちゃん」

 

「おーおー、な〜に湿っぽくなってんだニコルぅ〜? いつもみたいにニヤニヤ笑ってないとダメでしょーが! あんた、しおらしくしてっと普通の美少女にしか見えないんだから!」

 

「ニコルはどんな顔でも可愛いですけどね。確かに、笑ってる方が素敵です」

 

「……たきな、お前それ素で言ってるのか?」

 

「それはさておきクルミ、反省する気があるなら最後まで働いてもらいますよ。『リコリス狩り』を駆逐し、1000丁の銃を回収するのが我々の使命です」

 

「お、おう! もちろんだ! ……なんかぼくとニコルで扱い違わない? 見た目ならぼくの方が庇護欲を煽る感じだと思うんだけど」

 

「そういうとこだぞウォールナット〜」

 

 あぁ、そうだ。私たちはこれでいい。

 喫茶リコリコ支部は、これがいい。

 

「───。……ふ……ふ、ふ。あはははははは!」

 

「……タイチョー」

 

「ごめん御門。さっきの、ゴッホちゃんには黙っててくれる? 一生ネタにされる気しかしないし」

 

「ふふ、了解なのです。武士に二言はありませんっ」

 

「うむ……うむ。雨降って地固まる───か」

 

「なーに黄昏れてんのよオッサン。まだ何にも解決してないっての」

 

「よぅしお前たち! さっそくだが、()()の名前がわかったぞ!」

 

 すっかりいつもの賑やかさを取り戻したリコリコに、心なしか普段よりテンションの高い我らが天才ハッカーの声が響き渡る。

 クルミがタブレット端末を取り出し、先ほどドローンで空撮していたと思しき映像を再生した。

 

<まっ……真島さァ───ん!!>

 

「真島さーん! だってさ」

 

 御門かなはが"跳ね返した"対戦車ロケット弾に直撃され、乗りかかっていた車両ごと吹き飛ばされる緑髪の男。

 そのまま公園の人工池に突っ込んだ辺り、今も生きているかは少々怪しいが……そうか。

 『真島』。この男が、地下鉄襲撃犯と『リコリス狩り』の首魁。

 喫茶リコリコ支部(私たち)が倒すべき、本当の敵。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───あれから何日か経ったけど、真島のヤツどうなったのかな〜。

 一応、アランの男には生死不明って報告しといたものの……アレはさすがに死んでるだろ。

 アイツらも変な連中だよね。何で『我々の子供たち(チルドレン)があの程度で死ぬはずが無い』なんて断言できるんd

 

「オラアァ!!」

 

「よう、邪魔するぞ」

 

「またドアああぁぁぁ!?」

 

 せっかく前より頑丈なやつ買い直したのにぃぃぃ!!

 

「……お前こそ、何でまだ拠点(ヤサ)移してねぇんだよ。無用心じゃねぇか?」

 

「僕のマシンとネット環境は気軽に引っ越せるもんじゃないんだよ!」

 

 イカれたテロリストに身バレのリスクを説かれてしまった……。僕も焼きが回ったもんだ。

 

「てか、おい? お前生きて……ッ、ちょ、ま……!」

 

 な……何か……前に来た時より、取り巻きの人数多くない?

 あ、いま気づいたけど真島のヤツ、車椅子に乗ってるのね。重傷は重傷だったらしい。ロケットランチャーで車ごと吹き飛ばされて、手足の一つも千切れてないってのは大概だが……。

 

「……どうも。皆さん、ご無事で……」

 

 出来れば全員死んでて欲しかった。

 アランの男との商談は魅力的だけど、依頼の度にこんな輩と絡んでたら命がいくつあっても足りない。

 

「まぁ、それはいいとしてだ。……なぁ、なぁなぁオイ、ハッカー!」

 

「はいぃ!!」

 

 顔が近い! うるせぇ! 怖い!!

 

「───見直したよ」

 

 ……。

 ……、なんて?

 

「面白い連中を見つけたなァ……、ありゃ凄ぇぞ!! こっちも遠慮なく、ありったけブチかまさなきゃ釣り合いが取れねぇ! こんなに楽しい戦争は初めてだ!!」

 

 えぇ? 何言ってんのコイツ……。

 

「これから忙しくなるぞォ! あのリコリスどものこと、もっと教えろよハッカー!!」

 

「え……えぇぇ〜!?」

 

 ……。……拝啓、過去の僕へ。

 アラン機関なんぞに近づくなッ、このクソボケが───!!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 千束と共に、DA傘下の総合クリニックに来ている。

 私は付き添いで特に用事は無かったが、千束は先日の怪我を改めて診療してもらうついでに、すっぽかしていた定期検診も受ける形になった。

 ふくよかな年配の女医───山岸先生が、千束の左腕に包帯を巻いていく。

 

「いっつ……。ふぃ〜」

 

「はいよ! 終わりよ。あんたが任務で怪我するなんて珍しいわね」

 

「んー、任務ってかねぇ」

 

「……千束の弱点は、『眼』ですね」

 

「いやいや。誰だってそうだろ」

 

 む。……それもそうか。

 ニコルは明らかに視線を向けていない敵を()()()発砲することがあるけれど、あれは耳で音を、肌で空気の流れや振動を捕捉している。本人曰く『運が良ければ出来る』程度のもので、それほど確実な技術ではないらしい。

 

「フフッ。良いコンビよ、あなたたち」

 

「でっしょ〜♪ ねぇたきな、2人で居れば安心だし? しばらく同棲続けないと!」

 

「『リコリス狩り』はもう落ち着いたそうですよ。私たちが真島を撃退した成果ですね」

 

 女性2人分では大した作業量でもないものの、さすがに私だけが延々と家事を任されるという状況は愉快ではない。

 付け加えるなら、ただでさえものぐさな千束のことだ。私にずっと甘えっ放しでは、いつか最低限の自立した生活能力すら失ってしまいかねない。

 

「つれないこと言うなよぉ〜。私、たきなのご飯大好き!」

 

「では、いっそここで決着をつけてしまいましょう」

 

 ───さて。

 審判の時だ。覚悟してもらおうか、"錦木千束族"筆頭。

 

「ジャンケンで千束が勝ったら同棲は続ける。いいですね?」

 

「おっ。いいねぇ、くひひ……」

 

 早くも勝った気でいるようだ。

 だが、千束の異常なジャンケン勝率のタネは既に割れている。

 ……敵の行動を、細部に至るまで観察する。物事の原因を考えて、対策する。なべてあらゆる経験が自らの糧となる───ニコルの教えだ。

 

「よぅし、行くよっ! 最初は……」

 

 千束は『最初はグー』のルーティンによって相手の行動パターンを限定し、そこから次に出す手を『眼』によって予測、『グー→グー』に勝つパーか、『グー→パー』に勝ち『グー→チョキ』に負けないチョキを出す。

 つまり裏を返せば、千束はジャンケンで()()()()()()()()()()ということになる。

 後はパーとチョキの2択になるわけだが、千束は私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ここで私が奇襲をかけた場合、千束は意表を突かれて()()()()()()()()()しか出せないはずだ。

 故に、導き出される最善手は─────!

 

「ジャン! ケン!」

 

「うえぇ!? あっちょっ」

 

「「ポンッ!!」」

 

 

 

 井ノ上たきな、チョキ。

 

 錦木千束───パー。

 

 勝者、私。

 

 

 

「───うわあぁぁッ!?」

 

「よし!! よしっ! しっ、しっ……!」

 

 思わず声が弾んでしまう。

 勝てた……。勝てるんだ。私も、『最強のリコリス』に!

 あぁ、リコリコ支部に転属になって良かったなぁ!

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