萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
錦木千束ゥ!!
何故、君が今日まで生きてファースト・リコリスに昇進できたのか。
何故井ノ上たきなと出会えたのか、何故変身後に頭が痛むのかァ!
その答えはただ一つ……、アハァー……!
ハァァァ……。錦木千束ゥ!
君が(以下略)
<───お昼のニュースです。昨夜、何と警察署で悲惨な事件が発生しました>
今日も今日とて、カウンターの小型モニターが全国のスクープを報じている。
<こちらが暴力団による襲撃を受けた警察署です。現場付近には、暴力団が使用した銃器の弾丸が散らばっており、事件の凄惨さを物語っています……>
「ウワッ、
ミズキさんの呟き。映っている暴力団員は……なるほど、これは確かにすごい。上半身の広範囲に渡って、虎やら梅の花やらの入れ墨が彫り込まれている。
それにしても、暴力団による警察署の襲撃とは……。日本では久しく無かったような凶悪事件だ。DAは何をして……いや、このニュース自体がなんらかのカバーストーリーなのか?
などと思っていたら、少し珍しい来客があった。
「─────おい、千束は居るか?」
少し前にも見た顔だ。目つきの鋭い小柄なファースト・リコリス、春川フキ。
傍らには当然、彼女のパートナーである乙女サクラも帯同している。
「お~!! フキ、いらっしゃい!」
「今のニュースは……ちょうどいい、説明は不要だな。見せたいものが……」
カウンターに座り、そこまで話したところで、春川フキは言葉を切った。
どうしたのだろうと思って見てみれば……その鋭い眼光が、『
「……ニコルはともかく、こっちは見ない顔だな」
「でっ、ででででDAの者です……」
「そうなのか?」
「えっ! あ、あぁ……うん。う、うちのコンピューターの人……」
腹芸が下手過ぎる。かつて転属初日の私を騙し切ったニコルを見習って欲しい。
とはいえ春川フキも暇ではないらしく、それ以上追及されることは無かった。
「なら、ちょっと
春川フキがクルミのタブレット端末を指差す。二人がそれぞれスマホとタブレットを操作している内に、乙女サクラは小型モニターの電源を落とした。
まだ営業中だが、平日の半端な時間帯であり、お客さんの姿は無い。静かになった店内で……。
「署内の監視カメラの映像だ」
「……
そこに映っていたのは───銃火器を乱射する、
サングラスで目線は隠れ、服装に特徴と呼べる特徴も見受けられないが、逆に言えば
私たちにとっては、見覚えのある集団だった。
「報道はカバーしてるに決まってるじゃないッスか」
「けど、悪い人が事件を起こす前にやっつけるのがリコリスのお仕事でしょ?」
「……ふん……」
ニコルの鋭い指摘に、乙女サクラがそっぽを向く。
まぁ、ニコルの言い分は尤もだが、またもやDA司令部が出し抜かれてしまった案件なのだろう。現場のいちエージェントでしかない彼女に文句をつけても詮無いことではある。
「───おや? 珍しいお客さんだな」
「あっ。ども〜ッス先生! ……『先生』、でいいんスよねフキ先輩?」
「……っ、どうも……」
「注文いいスか? あたし団子セットで! 抹茶のやつ!」
「フ……。抹茶団子セットね。フキ、お前は?」
「いえ……任務中なので……」
うん?
これはどうしたことか。あの春川フキが、店長を前にした途端、ずいぶん静かになってしまった。
店長は『喫茶リコリコ支部』の発足以前はDAの訓練教官であり、先代の司令官も務めていた時期があるという。その頃に何かあったのだろうか……。
「……千束ォ!! どれだ!? どいつだっ!」
「あーあー、そんな大声で叫ばなくったって───、ん……?」
と、今はそれどころではない。
……阿鼻叫喚の地獄絵図と化した警察署を、悠々と練り歩く男が居る。毒々しい緑色の髪、黒いロングコートに、ピンクのアロハシャツのテロリスト。
監視カメラの存在に気づいたようで、真島が大胆にも
「うおっ、フキ! こいつだよこいつ! ねぇ二人とも!」
「そだね」
「ほら! 髪型っ、私は合ってたよ!」
「色だけじゃないですか……」
ちなみに、私たちが描いた真島の似顔絵は、何故かカウンターのモニターの横に貼り出されている。
ニコルのものだけはDA本部に提出されており、現物は無く……いや待て、なんで私たちのは貼り出してあるんだ? 誰の仕業だ?
「そうか。だいたいニコルの似顔絵の通りだな」
……そうかな。そうかも……。
「よし。こっちの用事は済んだ、邪魔したな。行くぞサクラ」
「え? は、ちょっ!? まだ団子が〜!!」
乙女サクラの襟首を引っ張り、春川フキはそそくさと出て行ってしまった。
真島の件で忙しいのかも知れないが、注文したからにはちゃんと食べて代金を払ってもらいたい……。
「これどうするんですか?」
「んにゃ、フキは割といつもあんなんだよ。作っちゃった分は私が勝手に食べてる」
「もったいないもんな。千束、ぼくにもくれよ」
やがて、店長が持ってきた抹茶団子セットを、コンピューターの人と不良店員がつまみ始める。
その横で、改めてタブレットの映像を確認していたニコルが、何かに気づいた様子で話しかけてきた。
「たきなお姉ちゃん」
「……っ! これは───」
破壊され、酷く荒らされた一室。机と椅子の大きさからして、恐らくは警察署長の部屋だ。
その部屋の壁には、赤いペンキ──だと信じたい──で、『勝負だリコリス!!』という文言が大きく書きつけられていた。
◇ ◆ ◇ ◆
<……、確認取れました。ヤツが『真島』です>
<わかった。ご苦労だった、フキ。今日のところは戻りなさい>
「はい、それでは。───ほら帰るぞ」
「団子食ってからでもよかったッスよねぇ? なーんでいっつもミカさんの前だと良い格好するん……イッテ!! ちょっと蹴る事ァ無いっしょ! 最近の先輩ひでぇッスよー!」
◇ ◆ ◇ ◆
すっかり日も暮れて、終業時間になった。
「今日もお疲れ~。あー、何か小腹空いちゃったなぁ」
ミズキさんがそんなことを言い出す。
もちろん、
「おうどんでも湯がきます?」
「お、気が利くわね」
「はいはい! 私も食べまーす!」
皆が何となくそういう雰囲気になる中、店長は店の出入口に手をかけて……。
「あぁ。悪いが私は用事で外出する。帰る時は戸締まりを頼むよ」
「はーい。いってらっしゃい、先生!」
よし───ニコルの見立て通りだ。
店長の姿が外に消えるのを見届ける。さっそく行動を開始しよう、まずはそれらしい衣装に着g
「……っと、言い忘れたがガスの元栓……。……どうした?」
その場の全員が不自然な姿勢で固まっていた。
「い、いやぁ、うどんはどこかなーと……」
「こっちにはありませんでしたー」
「無いかー」
「クルミちゃん、押し入れはー?」
「HAHAHA、あるわけないだろー」
「ふむ。うどんなら
助かったぁ……。
何というか、千束辺りの影響かも知れないけど、店長は経歴の割に抜けているところがある。
「じゃあな。元栓と鍵、頼んだぞ」
店長が今度こそ立ち去り、たっぷり30秒近く経ってから。
私たちは安堵の溜息と共に、一斉に姿勢を崩した。
◇ ◆ ◇ ◆
気を取り直して、オペレーション……オペレーション?
まぁとにかく、『店長尾行大作戦』の決行である。
「そろそろだぞ。準備できたか、二人とも?」
「はい」
「はいは〜い」
今回は潜入任務ということで、リコリコの倉庫から持ち出してきた潜入用衣装に着替えている。
私は執事風の燕尾服、千束は貴婦人らしい真っ赤なドレス姿だ。
「いいなー。わたしも綺麗なお洋服着たかった」
「さすがにアンタやクルミは駄目でしょ。本当なら、アタシみたいな大人の女が適任だろうけど……千束のことだもんね」
「まぁ、うん。そこは素直にありがと」
言って、いつものペンダントを首から下げる千束。
梟を象った、鈍い金色のエンブレム───アラン機関の
「……それ、今朝もテレビで。何か金メダル取ってました」
「あっ、そう? ふふ。じゃあやっぱ私もそういう才能あっちゃうかな〜?」
「弾丸を避けるなんて、誰でも出来ることじゃないと思いますけど」
似たような芸当が出来る人間を3人ほど知っている私の言えた義理ではないが。
「あー、わたしのは身振り手振りで相手の射撃を誘導してるだけなんだよね。言っちゃえばただの手品だから、ジンのおじさんみたいなプロには通用しないの。千束と同じように『視て』避けるのは無理」
「私も見えてなんかないっての、ありゃ勘だよ。御門みたく弾より速く動ければ、メダルも取れるんだろうけどー」
「御門はあれ、もう妖怪か何かでしょう。人間の基準で考えちゃいけません」
以前、御門かなはの使う剣術───というより"刀剣を軸とした総合戦闘術"である『天朧真月流』について、私たちにも応用できそうな体術部分に絞って手ほどきを受けたことがある。
その際にどうやって銃弾を斬っているのかと質問してみたが、『落ち着いて自分に当たる弾を見分けて軌道上に剣を置くだけ』とか『火薬で飛ぶモノの軌道には制約があるから見切りやすい』とか意味不明な理屈を並べ立てられ、まったく参考にならなかった。
「フィジカル最強は御門ってことか。千束を推した
「なんちゅうこと言うんだ貴様」
「ミズキ、そこ右」
「はいよ」
さて、事前に調べていた住所にはもうすぐ到着である。
「───ま、金メダルは取れなくても、誰かの役には立てるでしょ。DAに戻されてる場合じゃないんだよね」
◇ ◆ ◇ ◆
会員制バー『BAR Forbidden』は、如何にも資産家の所有物といった風情のタワービルの地下に所在していた。
「やべぇなこの雰囲気……!」
強敵を前にした戦闘民族みたいなことを千束が言う。概ね同感である。
「えっと……ここですか」
壁面に設けられた窪みに指を入れ、奥のスイッチを押し込むと、壁の模様だと思っていた箇所が滑らかにスライドした。数字盤の付いた受付端末が露わになる。
「すげー!」
定期的に男子小学生になる『最強のリコリス』のことは放っておいて、クルミが入手していた『本日のパスコード』を打ち込む。
当然、我らが天才ハッカーに手抜かりは無い。第一関門は容易に突破された。地下への自動ドアが開く。
「通りましたね」
「さすがウォールナット。さぁ───
千束は妙に楽しそうだが、やっていることは普通に不法侵入なので、用事が済んだら早く帰りたいところだ。
◇ ◆ ◇ ◆
「ようこそいらっしゃいました。恐れ入りますが、お名前を頂戴願えますか?」
受付の男性が聞いてくる。
当然、本名を言うわけにはいかないので……。
「ウーピー・ゴールドバーグ」
「サミュエル・L・ジャクソンです」
耳元に装着した
<アホっ! そんな偽名があるか!>
<へ、平気だって……>
「はい───確認いたしました。ゴールドバーグ様とジャクソン様ですね。ご案内いたします」
<マジか!?>
マジなのである。
ぶっちゃけ私もどうかと思ったが、この店はどうも"金さえ払えば詮索は無し"というスタイルらしい。
『
<データしか信じない
それをハッカーであるクルミが言ったらおしまいというか、ハッカーのクルミが言うから重みがあるというか。
◇ ◆ ◇ ◆
店長がリコリコの営業車は使わず、電車と徒歩で移動するのは読めていた。
ミズキさんの運転で先行してきた甲斐あり、今は店長と"お相手"を待つのみとなっている。
「───店長、来ましたよ」
「うわ〜……。先生、めっちゃキメてんだけど」
<珍しいねー>
店長は普段の紫色のリコリコ制服ではなく、黒いシャツに白のジャケットという出で立ちだ。
基本的にオフの日は店長と会わないので、私から見てもなかなか新鮮ではある。
<ほら、やっぱ逢引だ逢引。
<楠木司令は無いって。あの人は……女性だし>
<えっ?>
え?
「来たっ……!」
そして、やってきた店長の待ち人とは─────。
長身痩躯のスーツ姿。
よく整えられたクリーム色の髪。
温厚そうな微笑を浮かべる、壮年の男性。
「───え」
端的に言って、私たちの知っている人だった。
なるほど。規模は小さいようだが、貿易会社の社長を務めていると言っていた。このバーの会員になれるだけの財力はあるのだろう。
「ヨシ……さん?」
吉松シンジ。
喫茶リコリコの常連客にして、ミカ店長の旧友。
<……ったー……。逢引だなこりゃ>
<え>
「え……」
「あ〜……私としたことが」
<ちょ、待て待て待て。……ミカって、
<ふぇっ……。う、噂には聞いてたけど……ホンモノのオトナの世界だぁ……!>
"
どうしてここに吉松氏が。それも、店長と会って何を?
「行こう。邪魔しちゃ悪い」
「はい……」
「愛の形は様々なんだよ、たきな」
インカムを外しながら立ち上がる千束。
まぁ、店長の密会相手が楠木司令ではなく、単に旧交を温めに来ただけだとわかった以上は、私たちがここに居る意味は無い。
それにしたって、千束の態度は思い切りが良すぎる気もするけれど……。
物陰に隠れながら、いそいそと立ち去ろうとする私たち。
しかし、千束も店長と吉松氏が何を話しているのか気にはなっているらしく、わざと近くを通るルートを選んでいた。
「急に呼び出してすまなかったね」
「いいさ」
「……ハッキリさせておきたいことがあってな」
「改まって、何だ?」
前を行く千束に小声で提案する。
「そんなに気になるなら、挨拶くらいしてもいいでしょう。正直に言えばわかってもらえますよ」
「いいからいいから。そーゆーんじゃないの、詳しいことは後で───」
「
千束の足が止まった。
しゃがんで進んでいたため、私は不覚にも千束のお尻に突っ込む形になってしまう。
「んっ……ちょっと、千束?」
「何のために千束を救ったと思っている? あの心臓だって、アランの才能の結晶なんだぞ」
「え───。……、……ヨシさん、なの……?」
吉松氏が一言話す度に、千束の顔が驚愕に染まる。それは少しずつ納得に変わり、次に歓喜に変わり、最後は笑顔のままほとんど泣きそうな様子になっていた。
「千束? ……出ないんですか?」
「ヨシさんだよっ!!」
<おいおい、何してる?>
<千束……どうしちゃったんだろ>
<あの馬鹿!>
<仕方ない。フォローに入るぞ、妖怪婚活メガネ>
<あ〜もう……! 絶対後でしばき回すからな、妖怪インターネット穀潰しッ!>
───そして、愉快な凸凹コンビがこちらにやってくる暇も無かった。
「ヨシさんなの?」
錦木千束は10年の時を経て、あの日の『恩人』と再会した。