萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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Wake up from a ideal,again(3/3)

 

「─────ヨシさんなの?」

 

 赤いドレスを着た白金の髪の少女、錦木千束が問う。

 10年前、先天性の心疾患により死に行くばかりだった彼女を、機械式の人工心臓を提供することで救った命の恩人。

 今、彼女の眼前に座る『ヨシさん』と呼ばれた男───吉松シンジこそが、まさにその人物だった。

 

「……千束!」

 

 傍らに居る肌色の濃い男───ミカが、驚愕のあまり叫ぶ。

 彼は吉松の旧友であり、千束の師でもあった。

 

「ミカ」

 

「い……いや、違うッ」

 

「ごめんなさい! ……先生のメールを、うっかり見ちゃって……」

 

「『千束の今後について』という話でしたので、てっきり司令(楠木)と会うのかと」

 

 千束の側に侍る黒髪の少女、井ノ上たきながフォローを入れる。

 吉松は尚も怪訝そうな表情のままだったが、千束の次の言葉を聞いて、とりあえずは怒りを収めることとした。

 

「でも……今の、話。ちょっとだけ……ちょっとだけ、ヨシさんと……話をさせて」

 

「───。……何かな」

 

 千束は───しかし、咄嗟に話したいことが出てこない。

 10年。命を救われ、されど感謝の言葉も告げられずに過ぎ去った時間。

 たったこの一時で埋めるには、あまりに巨大な断絶があった。

 

「……。私、先に出てますね」

 

「うん……ごめん」

 

 それだけ言い残して、たきなは立ち去った。ミカも、今は何かを語れる余裕が無いらしい。

 しばらく間を置いてから、千束はゆっくりと話し始めた。

 

「……まさか、ヨシさんだったなんて。あ、すみませんっ……吉松さん、の方がいいか」

 

 それで、その、とにかく……。

 しどろもどろになりつつも、一番伝えたかったことを告げる。

 

「───ありがとうございました!! あなたを……ずっと探してて。手術の後、お礼を言えて、なかったから」

 

 ようやく話せた、たった一言。

 礼儀として、感情として、人として当たり前の、ずっと『やりたかったこと』。

 

 千束の心からの感謝に対して、吉松は、

 

「それを認めることは出来ない」

 

 俯きがちに、そう答えた。

 

「……え?」

 

「そういう決まりなんだ」

 

 心底興味の無さそうな、およそ表情というものが抜け落ちた空疎な顔で、痩身の男は呟いた。

 

「あ……、えっ……と。そうなんだ? で、でもね、私もこうして頂いた時間()で、ヨシさんみたいに誰かを」

 

「千束。()()()()()()()()()() 君の才能は───」

 

 

 

「差別だーッ!!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ですから未成年は……」

 

「IDをよく見ろ! ここに30って書いてあるだろ!?」

 

「で……でもォ……」

 

「かーっ、出たよ出た出た。すると何か? この店は外見で人を判断するのか〜?」

 

「そうよ。10代に見えるかも知れないケド、こう見えて───」

 

「……見えて?」

 

「ハ・タ・チ♡」

 

「お前のことじゃねーよ!!」

 

「ぐほっ!! な、何だそのボディーブロー!?」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ……えぇ?

 何やってんのあいつら……。

 

「ちょっと二人とも……!」

 

「……。『アラン・チルドレン』には役割がある。ミカとよく話せ」

 

 ついぞヨシさんは立ち上がり、そのまま去っていこうとする。

 

「あのっ、ヨシさ───」

 

 私の肩に先生の手が触れた。止められている。

 振り向くと、小さな怒りと大きな悲しみの籠もった視線が、私とヨシさんの両方に向けられていた。

 

「しばらくここに居なさい」

 

 そう言って、先生もヨシさんを追いかけて行ってしまった。

 ……静かで控えめなピアノ曲が流れる、格式高いバーの中心に、いやに若い小娘が独り。

 

「ヨシ……さん。……また……リコリコ(お店)で、待ってますから。……、……待ってます」

 

 徐々に遠くなる背中に、届きもしない言葉を投げかける。

 虚しくても。無意味でも。私は、それが、『やりたい』と思ったから。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 地上階の出入口へと戻るエレベーターの中で、ミカと吉松は向かい合っている。

 

「……。シンジ。ジンなら()()()()()

 

「知っているとも。昔の君ならそんな甘いことはしなかった。どうした?」

 

 ミカは質問に答えなかった。

 次の言葉が答えだった。

 

「───千束の望む時間を、与えてやろう……!」

 

 吉松はミカの声に応えなかった。

 次の言葉が、すべての結論だった。

 

「ミカ。才能は神の所有物だ。人間(ヒト)のものではない……ましてや、私たちのものでもない」

 

 長身痩躯の男は、その表情のみでミカを圧倒し、壁際にまで追い込んだ。

 相手の頭越しに壁へ手を突き、獰猛に笑いながら囁く。

 

「私たちは約束したじゃないか。そうだろう?」

 

 大柄で色黒の男は、吉松を力任せに引き剥がし、右腕を突きつけた。

 

「……やめろ!!」

 

 その手の中にあるのは、1丁のコルトM1911(自動拳銃)

 

「千束を自由にしろ……。私には、この引き金を引く覚悟がある!」

 

 吉松は知っている。それが如何なる死の予兆(武器)であるか。

 吉松はよく知っている。ミカがどれだけの敵をその銃で葬ってきたか。

 

「君の店を初めて訪れた時は、胸が弾んでいたよ。本当さ」

 

 そういった事実すべてを無視して、男は尚も嗤っていた。

 

「10年前のあの日のように」

 

 瞬間、ミカの脳裏に、あらゆる記憶(過去)去来(フラッシュバック)した。

 

 

 ───初めまして。吉松シンジです。

 

 ───お互い秘密が多いな。……上手くやれると思わないか? 私たちは。

 

 ───あぁ……! 成功だよ、ミカ!

 

 

 

 ─────さようならだ。約束だぞ。才能を世界に届けてくれ。類稀なる……、

 

 

 

 殺戮の才をね。

 

 

 

 

 

 そこまでを回想し終えた時、エレベーターは停まっていた。

 吉松の姿は既に無い。ミカの手には、引き金を引かれなかった拳銃だけが残っている。

 

「…………。……っ」

 

 そのコルトM1911は、誤射防止用の安全装置(セーフティ・ロック)が解除されてすらいなかった。

 

「……覚悟なんか……あるわけが無いだろう───」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「……あ」

 

「おや」

 

「えっ……と。あの! ……先程は、お邪魔してしまってすみません」

 

「あぁ。いや」

 

「でも千束、喜んでました。またリコリコ(お店)でお待ちしています。千束はずっと、あなたのことを」

 

「……君ならわかるはずだ」

 

「?」

 

「千束の居場所は()()ではないと。───君には期待しているよ、たきなちゃん」

 

 アランの男はニヤリと笑い、待たせていた車に乗り込んで消えた。

 見送るたきなの瞳は、凪いでいる。吉松の語った言葉の真意は、まだ理解できていなかったが───いずれはそれが、千束に"何か"をもたらすのだと確信して。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 千束の指先で、ペンダントが踊っている。

 

「───何で黙ってたの?」

 

 ミカは、一度深く溜息をついた。両手で顔を覆いながら答える。

 

「……それが君を助ける時の条件だった。アラン機関は支援した相手に見返りを求めない」

 

「じゃあ……。……、()()()()()()()()

 

 梟を象った、鈍い金色のエンブレム。

 見返りを求めず、感謝を受け取らず、ただ『才能』に奉仕することのみを存在意義とする───そんな組織が『子供たち(チルドレン)』に与える、唯一の物質的繋がり。

 

「うん、その方が先生らしい。やるな〜? この千束を欺くとは!」

 

 どうしようもなく、()()()()()()()()()()ような気がして。

 

「すまなかった、千束……」

 

「いいって。気にすんなよぅ」

 

「……、すまない……」

 

 ただ謝罪を述べ続ける以外に、ミカに出来ることは無かった。

 

 夜が更けていく。闇が深くなっていく。

 人の心にも影が差す。夜明けはきっと、まだ遠い。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 一晩明けて───今日はリコリコ恒例、月に一度のボードゲーム大会の日だ。

 正確に言うと、普通は閉店後の夜間にのみ開催しているところを、延長戦という体でその翌日にまで持ち込んでいる形だ。というかむしろ、私の知る限り、延長戦までもつれ込むのが半ば常態化している。

 

「あれ、千束ちゃんは?」

 

「今日はまだ。少し体調が優れないようで」

 

 常連の阿部刑事と北村さんにお茶を出しつつ答える。

 

「伊藤さん、参加しませ〜ん?」

 

 女性の北村さんが、少し離れた位置に居る伊藤さんに声をかける。

 伊藤さんは漫画家で、今日はボードゲームには参加せず、〆切が近いらしい漫画の制作に没頭している。

 

「さっきからめっちゃ携帯鳴ってるぞ。編集(担当編集舎)じゃないのか?」

 

「鳴ってない。幻聴幻聴」

 

「あは〜。結局今月もこの調子かぁ」

 

 我らがリコリコのちっちゃい者倶楽部は、不甲斐ない大人の醜態に容赦しない。

 せめて私だけでも伊藤さんの味方で居よう……。そっと優しげな手つきでお茶を出す。

 

「どうぞ」

 

「あー、ありがとう。……ねぇたきなちゃん、悪人(ヴィラン)ってやっぱ死ぬべきだと思う?」

 

「? ……べきだと思いますけど」

 

 一瞬何の話だと思ったが、漫画の展開(ネーム)のことか。

 漫画の登場人物(キャラクター)は現実の生き物ではないのだから、死んで誰が困るわけでもないだろう。

 ましてや悪人(ヴィラン)というならば、むしろ悪行に対してきっちり制裁を加えた方が、読者も気分が良いはずだ。

 

「……ミズキ?」

 

 などと言っていると……何だろう。奇妙な格好をしたミズキさんがバックヤードが出てきた。

 黒光りする破れやすそうな生地のドレスだ。確か……昨日見た潜入任務用衣装の中に、あんなのがあったような?

 

「おまっ───こんな日の高い内から、なんちゅう格好しとるんだ」

 

「お、キマってるねぇ~。ちょっと懐かしい感じするなぁ」

 

「ミズキさん、お出かけですか?」

 

 クルミ、阿部刑事、北村さんで反応は三者三様だ。

 個人的にはクルミの感想を支持したい。

 

「まぁね。ちょっくらBARに繰り出そうかと」

 

「バー? もしかして昨日の?」

 

「他にどこがあんのよ? ふふ、昨日はお子様同伴のせいでダメだったけど、私一人なら入れますから。このゴールドカードで!」

 

 あぁ、偽造会員証……。

 自信満々のオーラが出ていると思ったら、そういうことか。

 

「馬鹿言うな。そいつならもう失効してる」

 

「……はっ!?」

 

 自信満々のオーラが霧散した。短い天下だったな。

 

「な、何で!? 高級バーよ!?」

 

「お前が低級だからだ。いいから座れ」

 

「やあだぁ〜!! 絶対行く〜っ!!」

 

「ねぇ伊藤さん、あの人の生き様ってギャグ漫画にならない?」

 

 我らがリコリコのちっちゃい者倶楽部は、不甲斐ない大人の醜態に容赦しない。

 あの二人、能力的に相性が良いし、性格面でも割と気が合うらしい。

 

 閑話休題。

 

「遅いですね、千束」

 

「いいさ。今日くらいは休ませてやろう」

 

 ……まぁ、尤もだ。

 あのあと合流した千束の表情を見て確信したが、残念ながらあまり友好的な再会ではなかったらしい。

 いっそ丸一日悩むくらいで健全だろう。たとえ異能の『眼』を持つ最強のリコリスであっても、錦木千束とて年頃の女の子なのだから─────。

 

 

 

「千束が来ました〜っ!!」

 

 

 

 ……だが、それでも、彼女は来た。

 

 無理をしているのかも知れない。内心穏やかではないのかも知れない。

 けれど、千束は今日も、喫茶リコリコに来ることを選んだのだ。

 

「え〜!! あのイケメン殺しちゃったの!? 死ぬのはダメでしょ読者人気高いんだから〜」

 

「こっちは遊びでやってんじゃないんだよ! やっぱり悪党はそれ相応の報いを受けなきゃ、物語上の説得力ってもんが……」

 

「イケメンが死ぬのがダメなら怪獣出そうよ! わたしビルとか景気良く吹っ飛ぶの大好き!」

 

「思想がもはやテロリストなんだよな」

 

 ───、さて。

 せっかく喫茶リコリコの看板娘が出勤してきたのだ。

 

「千束! 営業始まってるんですから、早く着替えてきてくださいっ」

 

「はーい!!」

 

「え、待って! 千束が居てくれないと〜!」

 

「すぐ戻りますってー。たきなに怒られちゃいますからぁ」

 

 自分にしなだれかかる伊藤さんを引き剥がし、バックヤードへと走っていく千束。

 その背中を見送る店長が、小さく笑った。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「……よし」

 

 着替え終わり。

 梟のペンダント(ヨシさんからの贈り物)は、とりあえずロッカーの扉の内側に掛けておく。

 

「千束ー?」

 

「はーい先生! いま行きまーす」

 

 『あの人』に告げられた言葉の意味は、まだわからない。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ─────『アラン・チルドレン(俺たち)』には、使命がある。

 

「……フッ」

 

 ()の使命は……何だろうな?

 

<なぁ……真島? 警察署さぁ……、あんなに派手にやらなくてもよかったんじゃないか? やっぱり隠蔽されてたし>

 

 手元にはペンダントがある。梟を象った、鈍い金色のエンブレム。

 あのリコリスが持っていたのと、同じもの。

 

「ハハ。ハッカーお前、力仕事についちゃ素人(トーシロ)だな? ありゃ目眩ましだよ。色々派手にブッ壊して現場を乱雑にしといた方が、小さな違和感を隠し通せる。現場保存の原則っつーのもあるし……おかげで、お前のUSBは見つからなかっただろ」

 

<そういうもんか? なら理解できなくもないけど……。───っと、よし! 接続できたぞ>

 

「OK。よくやった、ハッカー」

 

 いま立っているこの場所からは、東京の街並みがよく見渡せる。

 地上に咲いた鉄の花、旧電波塔。その反対側に建造された、もうひとつの電波塔───延空木。

 ……あぁ。片方は歪で、片方は綺麗で、こんなのは……バランスが悪い。

 

「次は、も〜っとド派手に行くぜ」

 

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