萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
問題の回です。
Consideration on the distorted narrow capitalist society(1/3)
「ありがとう」
痩身の男、吉松シンジのグラスに赤ワインが注がれる。
その日は比較的多忙な一日で、外食に出かける余裕も自宅に帰る暇も無く、オフィスで秘書の姫蒲に夕食を作らせていた。
「なかなか良かったよ、姫蒲君。君にコックの才能まであったとは知らなかった」
「過分なお言葉です。私が調理師の道を選んでいたら、機関は支援しましたか?」
「選ぶ?」
吉松はグラスから立ち昇る香気を吸い込む。葡萄酒を一口含んで飲み干してから、滔々と語り始めた。
「機関が支援する才能は神からの
「自由には責任が伴う。正しき選択無くして正しき自由は無い。この地上で唯一、天に定められし人の才のみが、正しき選択を成さしめる」
「そうだ。神より賜った才能を完全な形で振るうことこそ、
アラン機関の理念、己が奉ずる絶対の真理を唱え、吉松は満足げに頷いた。
彼はそのために生きている。そのためだけに生きている。他のすべては些事だ。
「……時に姫蒲君。次の仕事だが」
「承知しています」
赤毛の女性秘書・姫蒲は、部屋の片隅に置いてあったスーツケースの方へ歩みを進める。
入っているのは、潜入任務用の衣装。そして───白金の髪を持つ、とある少女の写真。
「彼女の扱いは丁重にな」
「相手は手練です。確約はいたしかねます」
「君なら出来るとも。
「───はい」
吉松は疑わない。機関の理念と、それが育てた才能の活躍を。
『
「あんなところで……いつまでも
大いなる使命に背き、天意に沿わぬ人生を選択した愚か者。
聞かん坊の子供を躾け直すこともまた、
◇ ◆ ◇ ◆
───最近、気づいたことがある。
「ヘイお待ちっ!!」
「千束ちゃ〜ん、居酒屋じゃないんだから〜」
どうにか修羅場を切り抜けたらしい漫画家の伊藤さんが注文したのは、喫茶リコリコ名物『千束スペシャル』。
小豆餡や抹茶アイスに黒蜜、白玉をふんだんに使い、またその日の千束の気分でプレッツェルなどのトッピングが追加されるパフェ(みたいなもの)だ。
単品の値段は1000円を超えるが、千束によって
「おっ! 昼から呑めるのかい?」
「ありますよー、ミズキの飲みかけなら」
「阿部さん、勤務中……」
「今日のもすごいねぇ」
北村さんの言う通りである。本日の千束スペシャルも、すごい。
小豆餡と黒蜜の山から、放射状に突き立つ無数のプレッツェル。まるで太閤・豊臣秀吉の甲冑兜だ。
「千束Specialだからね! 北村さんも食べます?」
「食べる〜!!」
「はいはい! 俺も!」
「私もー」
「俺も〜!」
「はぁいスペシャル1丁2丁3丁ー!!」
市販品をそのまま使っている部分もあるが、パフェを構成する各スイーツは店長が
この夢のようなパフェに存在する、唯一の問題点は……。
「たきなお姉ちゃん。スペシャル3つだって」
「……まずいです。このままでは……」
提供コストが、悪夢のように高いことだ。
◇ ◆ ◇ ◆
終業後、従業員一同を緊急招集。
クルミに喫茶リコリコの帳簿を取り纏めてもらったデータを、タブレット端末に表示する。
「……赤字だな」
赤字である。
それはもう、完膚なきまでに、赤字である。
「
「DAからの支援金があるのよ。千束のリコリス活動費って名目で」
「……それでも足出てますよね」
「
「たぶん
あぁ……。一口に非殺傷弾と言っても、店長のあれはハンドメイドの特注品だから……。
……というか、
「独立していると言いながら、お金はDAに頼っていたと」
「う、楠木さんみたいなことを……。えっへへ……」
まったく笑い事ではない。
前回は結局勘違いだったからいいようなものの(?)、今度はDA支部としてではなく、喫茶店としての存続が危ういとは。
う〜ん……。……、そうだな……。
「……わかりました」
かくなる上は─────。
「以後、私が! リコリコの経理をします!!」
喫茶リコリコ、営業改革の陣だ!
◇ ◆ ◇ ◆
とはいえ、飲食店経営については店長たちに一日の長がある。
私からまず提案できる改善点と言えば───。
「わっしょーい!!」
「ぐわっ!?」
今日の依頼は、暴力団を元締めとする振り込め詐欺グループの討伐。
私と千束、ニコルの三人に、クルミの情報支援が加われば勝敗は考えるまでもない。
ここで重要になってくるのは、『勝ち方』だ。
「……千束」
「ん〜?」
現場となった雑居ビルの屋内は、非合法組織が使っていたとはいえ、普通に民間の建物である。
当然、DAや『
「『クリーナー』を使うと膨大なお金が飛びます。現場を壊さず、原状復帰が不要な活動を心がけてください」
ちなみにその点で言うと今回は下の下だ。
窓は割れているし、空薬莢も弾痕も山ほど残っている。これを直す経費といったら相当なものだ。
「あは〜。本当は人間の回収が一番お金かかってるんだよね。DAに引き渡せばタダで済むよ?」
「そ、そこはマストでしょお! 絶対譲らないかんね!」
「だったら、ちゃんとたきなお姉ちゃんの言うことを聞きなさいっ」
「……。はぁい……」
頼もしいドットフィフスだ。
それに引き換えこっちのファーストと来たら、ワガママでかなわない。
◇ ◆ ◇ ◆
「いよーし! 行っくよー!!」
「ちょっと待ってください」
「え、何で止めんの? 早くしないと逃げられ……」
「ここまでハゲの人に5発、グラサンの人に2発、刈り上げの人に3発、鍵を壊すのに3発。
「だそうです。訂正ありませんか?」
「……ありません」
「撃ち過ぎです」
「へへ……」
◇ ◆ ◇ ◆
それから─────。
「〜♪」
「ミズキさん! 冷蔵庫の開けっ放しは電気の無駄です!」
「ひえっ……! め、メンゴ……」
妖怪婚活メガネの悪癖を矯正したり。
「3……7……、あ。うぅむ……まぁこのくらいは誤差……」
「誤差じゃ済みません代わってください」
「おぉっ」
歴戦の傭兵のはずなのに、妙に機械に弱い店長のヘルプに入ったり。
「ぬうぉっ……お、わ」
「たきなお姉ちゃん!」
「……うわわ〜!!」
「とうっ───!」
運んだ皿を高確率で割るクルミを助けたり……これは改善の兆しが見られないので、クルミにお手伝いを頼むの自体考え直す必要があるな。
…………、はぁ。
リコリコの財政健全化は遠い……。
◇ ◆ ◇ ◆
次は緊急の案件。何と、爆弾処理の依頼だという。
この手の作業は私が一番向いている。幸い、解除を任された時限爆弾の工作精度は大したことが無く、簡単に処理できそうだった……のだが。
依頼人である地下酒場の店主が、用心棒と思しきスキンヘッドの双子と何やら話し込んでいる。
隣のニコルに目配せすると、呆れた様子で首を横に振っていた。……なるほど、
「「さぁ!! 終わったら帰るアル!!」」
見上げた根性だ。大事な職場を吹き飛ばされないようにしてやったというのに、報酬の支払いを渋るとは。
「……報酬がまだですが?」
「ほれほれ〜」
「ホーシュー? ハッ───これのことアルカー!?」
スキンヘッドの双子の片割れ、茶色の服を着た中国人がトカレフTT-33を抜く、と同時に懐に潜り込んでいたニコルが男の右腕を捻り上げてそれを奪い、隣に立っているもう片割れに向けて発砲した。
3発すべてが大腿部狙いだったのは、千束と行動を共にしているが故の手心に過ぎない。
「グワーッ!!」
「兄者ァァ!?」
「はいおじさん、これ返すよ。千束、後はよろしく〜」
「なっ!? ……〜〜〜、
残った茶服の方が引き金を引くが、既に目の前から消えていたニコルと、代わって目の前にいるはずの千束には命中しない。
「!? おい! やめ───」
「ウオォォ!!」
そのまま連射したところで結果は同じだ。
狙いの逸れた弾丸が、カウンターの後ろにある酒瓶に命中し、甲高い音と中身の液体を撒き散らして割れた。
「あぁ〜ッ……!!」
「弁償しませんからね」
「ど、どして……? ナンデ当たらない?」
「
「ところで皆さん」
絡まったコードにニッパーを引っ掛け、
「───実はまだ、最後の2本を残してあります」
「ボランティアはここまで! 後はおじさんたちで頑張ってねっ」
爆発までの残り時間は、あと1分も無い。
「わっ、わっ……わかった! 払うっ……! 払うよ!」
よし。
「ども〜☆」
いち、じゅう、ひゃく……。
弾薬費ゼロ(私たちは)でこの報酬とは、上々の成果だ。思わず頬が緩む。
「たきなお姉ちゃん! わたし、1発も使わなかったよ! どうだった?」
「よく出来ました。ニコルはえらいですね」
「えへへ……♪」
「あ、ずるいぞニコル! たきなー、私も褒めて褒めて!」
「いつも通り弾避けて変なポーズしただけじゃないですか……。……まぁ、でも、最近の努力は認めてあげます。千束もそこそこえらいですよ」
「っはー!! やったぜ!」
それにしても、さっきニコルが披露した"無刀取り"は使えるな。恐らく御門かなはの『天朧真月流』の技だろう。
千束の
◇ ◆ ◇ ◆
───たきながリコリコの『経理担当』に就任して、しばらく。
曰く、支出を減らす努力が徐々に実りつつあるので、今度は収入を増やす試みをやりたいらしい。
具体的に言うと、1日あたり数量限定の提供となった千束スペシャルに代わる、新たな看板メニューの開発だ。
「ミズキさん。あの、新しいパフェ……考えてきました」
「え? 見たい見たい! 作ってみて」
朝、出勤してくるとそんな会話が聞こえてきた。さっそくやってんねぇ。
新メニュー開発に関しては、せっかくなのでたきなとニコルの二人に任せている。新しい風を取り入れようってことだね。
「寒くなってきた今の時期に美味しい、ホットチョコたっぷりのパフェです!」
「……あ゛っ……!!」
おぉ? いいじゃない。話を聞いてる限りは。
ミズキが変な声を出したのが若干気になるけど、私も着替えてバックヤードに向かう。
「はーい、グッドモ……」
─────それは、パフェというにはあまりにも茶色すぎた。
サクサクのデニッシュ生地は大きく、
そこに
初見のインパクトという点では間違いなく重く、
そして、たきなの感性は大雑把すぎた。
それは、まさに『塊』だった。
「……なにこれ?」
「私が考えた新メニューですっ」
く、曇り無き瞳……!
貴様、その目で見ればこっちが何でも言うこと聞くと思ってないかい? タキナンティウス。
「これってうん……」
「しっ!」
ミズキに窘められた。解せぬ。
「うん……いいんじゃない、かな?」
「本当ですか!?」
あぁ……『ずっとリコリコで働いてた
「おはよー。ねぇ千束? かれこれ半年くらいなぁなぁで過ごしてたけど、そういえばわたしの制服……って……」
やべーぞニコルだ!!
何故かたきなに懐いてることを差し引いても、こいつは可愛い顔して意外と口が悪い。こんな惨状を見たら……!
「……。……、えっと……説明してもらっていい?」
余計な心配だった。
星谷ニコルに空気を読ませることが出来るリコリスなど、日本中探しても井ノ上たきなだけだと思う。
「おはようございます、ニコル。こちらは私が開発した新メニュー、ホットチョコパフェです」
「そうなんだ……。そうなんだ?」
「はい。というわけで皆さん、さっそく試食をお願いしたいのですが」
「「「えっ」」」
私の『眼』でもニコルの戦術予測でも回避できない悲劇が、喫茶リコリコを襲う───!!
◇ ◆ ◇ ◆
……結論から言うと。
「お待ち遠様ですー」
「千束ー! こっちも3つ追加!」
「千束、これ2番さんな」
「い、未だかつてない大繁盛……! どうなってんのこの店の客層は!?」
「SNSで口コミが
「お客様の需要を細部に至るまで考察する、時節の移り変わりを見据えて対応する……。ニコル流戦術予測の賜物です」
「たぶん違うと思うよ」
あっ、口に出しちゃった。
しかし、それにしても、世の中何がウケるかわからないもんだなぁ……。
◇ ◆ ◇ ◆
未体験の繁忙期にヒィコラ言っていると、見慣れない制服が視界の隅を掠めた。
金髪碧眼に黄色の和装。その正体は、妖怪インターネット穀潰しことクルミである。
店長のミカもそうだが、奇妙な和洋折衷の容姿にもかかわらず、不思議と様になっている。
「え、アンタ働くの? どういう風の吹き回し?」
「そろそろ本格的に手伝え、って千束が。制服はだいぶ前からニコルのと一緒に発注してたけど、ずっと渡し損ねてたらしい」
「あぁ……。そりゃねぇ、アンタがあまりに仕事しないからでしょうが」
「ぼくは電脳戦専門だと言っている」
ホールの方を見やれば、ニコルも赤銀の髪に合わせた薄桃色の制服に着替えている。いつの間に。
千束のお下がりから解放されたためか、心なしか嬉しそうだ。
と、まぁそれはいい。あっちのイチゴ色中学生がリコリスとしても店員としても優秀なのは知っている。
問題はこっちのウォールナット(笑)の方だ。
「おっ……おまちどぉ~」
「わ。かわいい!」
「本当だ~。でもこの子、ネットに載ってなかったよ?」
「店員の誰かの妹さんとか? いくつなの?」
「……秘密だ」
「かわいい~!!」
───最初は文句タラタラだったくせに、裏方に戻ってきたらめちゃくちゃニヤついてご満悦だった。何なんだ。