萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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I don't wanna know 下手な真実なら
I don't wanna know 知らないくらいがいいのに
Why,Why,Why...



"F" of terror(2/3)

 都内某所、某総合クリニックにて───。

 

 恰幅の良い年配の女医、DA所属の医務官である山岸は、とある支部に電話をかけていた。

 

<はい、カフェリコリコ>

 

「あら。ミカさん? 千束は居る?」

 

<ちょっとお待ちを……。千束! 山岸先生だ>

 

<は〜い。もしもし?>

 

「コラ、千束! け・ん・し・ん(定期検診)! 今日の約束でしょうよ!」

 

<ご、ごめんなさ〜い……。いや、そうなんですけどぉ……。実は今、お店が過去イチ忙しくって>

 

「忙しい? 何でよ?」

 

<いやぁ、何かわかんないけど急に流行っちゃって……>

 

「まったく! まぁアンタのことだからこっちも余裕は持たせてるけど、当日になる前に連絡くらい入れなさいよ! とにかく、早く時間作って検診来るのよ。いいわね!?」

 

<あ〜、はは……。近々……はい。ありがとうございま〜す……>

 

 受話器を半ば乱暴に叩きつけ、通話を切る。

 山岸は手元の書類を何枚か片付けると、向こうで待機していた赤毛の看護師に声をかけた。

 

「ハァー……。今日も来ないってよ」

 

「はい。わかりました」

 

 そうして、看護師は自分の仕事に戻っていく。

 こう何度も準備を不意にされては気が滅入りそうなものだが、彼女は愚痴の一つも言うことが無かった。

 

「……。妙な新人」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───今日は10月31日。世間一般で言うところのハロウィンだ。

 私たちも、千束が某激安の殿堂で買い込んできた衣装──千束は悪魔の羽が生えたカボチャモチーフのドレス、私は狼の耳が付いた三角帽子と魔女のローブ──を身に纏い、保育園のハロウィンパーティーのお手伝いに来ている。

 

「ふむ……。千束、ニコル」

 

「トリック・オア・トリッ……トリック・オア・トリッ……、ん?」

 

「なぁに?」

 

「こちらはお菓子を配るだけなので、人手は足りています。分担しましょう」

 

 というのも、最近は喫茶店営業の方が多忙を極めており、裏表問わず市井の人々からの依頼を受注できていなかったのだ。

 あまり健全なやり方ではないが、今日まで溜まった案件をこの機会に一斉に処理しておきたい。

 

「えぇ? はぁ……配達に、タヌキ取りに、カチコミが3件に、エトセトラエトセトラ……。外回りばっかじゃん!! 何で!?」

 

「まぁ……。千束が残るのは勝手です。けどそうなった場合、誰が代わりに討伐依頼に出ると思います?」

 

 横目でちらりとニコルを見る。青いフリルワンピースに、トランプの意匠があしらわれた白の前掛け。黒いウサギ耳のカチューシャと懐中時計を模したバッグを身に着けた、『不思議の国のアリス』風のコスチューム。

 幻想的なストロベリー・ブロンドの髪と相まって、まさに絵本から飛び出してきたかのような愛らしい外見だが───。

 

「ニコルですよ。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「謹んで拝命させていただきます」

 

「え〜。たきなお姉ちゃんならいくら殺しても怒らないのに」

 

「オメェーほんっとそういうトコだぞ! 制服着てないんだし銃は禁止だかんね!」

 

「あはっ、わかってるよー」

 

 どうやら丸く収まりそうだ。

 千束はニコルが私に懐いていると考えているようだけれど、本当に懐かれているのは千束の方なんじゃないかと思う。

 何せ、『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』と呼ばれるほどの戦いの申し子が、"いのちだいじに"という千束のモットーに従っているのだから。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「───ややっ? ゴッホちゃんじゃありませんか! こんな往来でどうしたのですー?」

 

「あん? 何だ御門か。こんな所で会うなんざ奇遇だな。オレは、ただの休暇だけど」

 

「その包帯男の仮装、よくお似合いですよっ」

 

「わかって言ってんだろブン殴るぞテメェ。……ま、こんな日でも無けりゃあ、お天道様の下で歩けねぇ見てくれなのは自覚してるよ」

 

「ふむん……。でも実際、その包帯って()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「だとしても、オレにとっちゃ意味がある。あいつに敗けた日から───いつかあいつを超える日まで、この傷は癒えなくていい」

 

「そんな日が来るですかねぇ」

 

「フッ……さぁな。つーか、お前こそ珍しいじゃねぇか。ニコルはどうした?」

 

「今年はリコリコの皆さんと過ごすそうなのです。『ハロウィン』は異国の盆祭りのようなものと聞きました。タイチョーと一緒でもないのに、年に何度もお盆が来ても嬉しくないかなぁと」

 

「盆祭りて。いや確かに、見方によっちゃ間違ってないが……」

 

「まぁ、ゴッホちゃんだけでも会えて嬉しかったのです! では、ミカドはこのへんで───」

 

「おっと、待て御門。……あー、その、このあと暇か?」

 

「? あぁ、これはただお買い物に来ただけですので。特に急ぎの用事は無いのです」

 

「そいつは良かった。なぁ、……ちっと気が早いが、もうじき昼時だよな。一緒に食わないか? 世の中こんなに浮かれてるんだ。オレらもちょっとくらい浸ったって、バチは当たんねぇだろ」

 

「───。……、はいっ。喜んで!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「「「「「トリックオアトリートー!!」」」」」

 

 保育園の子供たちが唱和する。

 

「はい、ハッピーハロウィン。良い子ね」

 

「わーい!」

 

「ハッピーハロウィン。良い子ね」

 

「ありがとー!」

 

 純真無垢な少年少女の笑顔を見ていると……リコリコの経理担当への就任以来、何かとささくれ立っていた心が洗われるようだ。

 思い返してみれば、DAのリコリス寮も──私がろくすっぽ参加してなかっただけで──割とこんな感じだった気がする。

 娯楽に触れる機会や自由に出来る財産が少ないからこそ、無条件で面白がれる"ハレの日"を大切にしていたし、素朴な創意工夫があった。

 

「ハッピーハロウィン……」

 

「ハッピーハロウィン!! 良い子だよ! あ〜私もたきなのプレゼント欲しいっ!」

 

「いつの間に戻って……。もう、子供じゃないんですから」

 

「JKはまだ子供でしょお〜」

 

「ちさとおねーちゃん、こっちのふくろもおかし?」

 

 ……袋?

 子供たちが群がっているのは……、あの白い袋は一体……。

 

「おっ。その袋に気づくとはやりおるのう。ははは!! そうだぞ〜、たくさんのお菓子と交換できる魔法のチケットだぞぅ!」

 

 いや───今日の依頼の報酬だアレ!!

 な、何であんなサンタクロースの袋みたいなのに、万札がぎっしり詰まってるの!?

 

「すっごーい!!」

 

「わーい! たーのしー!」

 

「はっはっは!! おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやる! 探せ!! この世のすべてをそオギャアッ」

 

 あっ。

 に、ニコルの崩拳(正拳突き)が鳩尾に入った……。

 

「みんなごめんねー。千束お姉ちゃん、急にお腹が痛くなっちゃったみたい。このお金は、千束お姉ちゃんがお医者さんにかかるために使わせてもらうね」

 

「それならしかたない」

 

「ちさとねーちゃん、おだいじにー」

 

「ニコルちゃん、ちさとおねえさんをよろしくおねがいします」

 

 …………、……。

 何この茶番……。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ─────さて。

 

「「「「「おぉ〜っ!!」」」」」

 

 何かと慌ただしい1ヶ月だったが……どうだ。

 圧倒的ではないか、我がリコリコの収益は……!

 

「ふふっ……。良い音だ……」

 

 店長は、長年憧れていたレコードプレーヤーを、店に置くことが出来たし。

 

「うおぉぉ〜ぉぉぉおぉぅ〜……っ!!」

 

「泣くほどか?」

 

 ミズキさんは、念願の自動食洗機を導入して、皿洗いの重責から解放されたし。

 

<ドーモ、モーターウェイター、です。私は偶然ここへ来て、給仕して、います。Mr.コショウは無関係>

 

「これがIT革命かぁ」

 

「安かったので」

 

「クルミよりは使える……」

 

 私は、中古ながらそこそこの性能を持つロボット・ウェイターを採用したりもした。

 

 もちろん、すべての出費には相応の経済的効用を見込んでいる。

 店長のレコードによって店内にBGMが流れるようになれば、お客さんに高いリラックス効果を与え再来店(リピート)に繋がるだろう。

 ミズキさんの食洗機などは作業効率化の最たるものだし、私のモーターウェイターも……正直スペックは怪しいけど、クルミと合わせてギリギリ一人前くらいにはなるはずだ。

 

 喫茶リコリコの未来は、明るい───!!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 喫茶リコリコは、街のみんなのお店。

 お客さんが気持ち良く過ごして、笑顔で帰ってもらえることが一番大切───だったのはもはや過去の話!!

 

 街のみんなのお店として、お客さんを満足させることなど……出来て当然!

 時代はライフワークバランス! つまり、お客さんのみならず、働く従業員の幸せも考慮されねばならない!

 

 その点、たきな経理主任の営業改革は完璧なものだった。

 レコードプレーヤーを買った時の先生は、ここ数年で最も嬉しそうな笑みを浮かべていた……。

 ついでに私のお小遣いも増えたし、最高だね!! サンキューたきな経理主任! イェイ!!

 

「いやぁ、たきな様々ねぇ」

 

「ほんとにね〜。ん? ところで、そのたきな様はどちらに?」

 

「クルミと一緒に居るのは見たが」

 

「たきなお姉ちゃんなら押し入れ(あっち)だよ」

 

 というわけで、クルミえもんのお住まいを覗いてみると……何だろう。

 たきな様とクルミえもんが、薄暗い押し入れの奥に光るモニターをじっと見つめている。

 ちなみにBGMは演歌だった。確か、初めて会った護衛依頼の時も車内でかかってたし、クルミの趣味なんだろうか。

 

「ここか。何してんのよ怪しいなぁ」

 

 二人が目を皿にして注視しているのは……細かい文字と数字に、折れ線グラフ。

 おぉ、こいつはもしや……。

 

「……株?」

 

「はい。以前はこれがクルミの主な収入源だったそうで」

 

「死んだフリをしたせいで凍結した口座が結構あってな。サボってた分を取り返すつもりで手伝うことにした」

 

「そこまでやるか」

 

 たきな、一度ハマると極めるまで止まらないタイプなんだなぁ。真面目というか頑固というか。まぁ、たきならしいとも言えるけどさ。

 

 半ば呆れつつ感心していると───懐からおどろおどろしい着信音が聞こえてきた。

 うっ……。着信音の時点で知ってはいたが、改めて画面を確認すると……。

 

「い、今は忙しいんだっての……」

 

「千束? ……あ。貸してください」

 

「あっ!?」

 

 貸すっていうか強奪されたよ今!

 

「もしもし、山岸先生。たきなです。定期検診ですよね? 彼女(千束)明日行きます。はい、はい、それでは」

 

 うっそでしょお!?

 ぴえん……何がたきな様だよぅ、同じ神でも邪神とか鬼神の類じゃんか!

 

「組員の健康管理も私の役目です」

 

「組員?」

 

「とにかく行ってください」

 

「……、はぁい……」

 

 もはや先生よりも喫茶店、いや営利組織の長をやっている。

 DAから距離を置いた結果、意外な才能が開花したタキナンティウスであった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ども〜。あれ? 今日、千束ちゃんは?」

 

「今日は遅番なんです。健康診断で」

 

<ピー、ガガガ。ヤッホー。ご注文、ドーゾ>

 

「……大丈夫なのか? あれ」

 

「あの制服……。千束、ニコルと来て、3代目がロボになるとはねぇ……」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 休憩中。

 バックヤードの押し入れの前を通りかかると、戸が開けっ放しになっていた。クルミは……お手洗いだろうか。

 少々無用心だなと思いつつ───ふと、気になることがあった。

 

 クルミは普段、どんな活動をしているのだろうか?

 

 株取引も再開したようだし、まさかずっとゲームして遊んでいるわけではあるまい。

 『無知は嫌いだ』という口癖からして、調べ物でもしてるのかな。いま開いている画面は、何かSNSのタイムラインのように見えるが───。

 

 

 

 

 

《見た目はすごいけどおいしい!》

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 …………、え?

 

 

 

《笑顔でウ○コ持ってて草 でも味マジ最高!》

 

 

 

 ─────そん、な、

 

 

 

《リコリコの店員さんを見てくれ、美少女がう○こ持って走ってるぞ おいしいんだけど・・・》

 

 これ……私だ……。

 

《おいリコリコの店員やめろ、やめてくれ、鼻をつまむんじゃねぇ! おいしいんだけど・・・》

 

 ち、千束? そんな、あなたまで……!

 

《リコリコの店員さん純真無垢な少年になんてものを・・・・おいしいんだけど・・・・・》

 

 わ……私、は……!!

 

 

 

「─────、あっ」

 

 手洗いから戻ってきたクルミの後ろから、水の流れる音がした。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ……嫌な事件だったね。

 

 さておき、そうか。さっきのがソーシャル・エンジニアリングというやつだな。

 IT技術に依存せず、単純なミスや心理的な隙につけ込んで情報を盗むアレだ。

 リコリコに来るまではずっと引きこもりだったから、ぶっちゃけまったく想定してなかった……。

 これがもしDAやその他のチンピラだったと思うと、大いに致命的だ。その点においては、今回の相手がたきなで良かったとは思う。

 

「…………。……もう……そのパフェやめます……」

 

「あちゃー……。気づいちゃったかぁ」

 

「別にいいんじゃないか? 人気は人気なんだからさ」

 

「クルミちゃん。リコリコは飲食店だよ。たきなお姉ちゃんには悪いけど、今までアホみたいにバズってた方が異常なんだよ」

 

 基本的にたきな全肯定botであるニコルですらこう言う辺り、もう何もかんも終わりのような気がする。

 一生物のトラウマではなかろうか、これ。

 

「じゃあ……『ロボリコ』、片付けお願い」

 

<見敵、新たな廃棄物を発見。デウカリオン・モード重点>

 

 デウカリオン……? あぁ、いわゆるギリシャの『洪水伝説』の登場人物……。つまり『流しておく』という意味か。

 このモーターウェイター改めロボリコ、明らかに言語モジュールがバグってるんだが、何か絶妙に面白いせいで直す気にならないんだよな。

 

「よーしよしよ……あ!? チッ、クソが……!」

 

 どうやら流し損ねたようだ。バグっていたのは言語モジュールだけではなかったらしい。

 あとミズキ、罵倒とはいえ語彙の選択には注意した方がいいと思う。完全に死体蹴りになってるから今。

 

「ん?」

 

 おや電話だ。

 ミズキはロボリコの世話、ミカは買い出し、たきなは傷心……動けるのはニコルだけ。がんばれ。ぼくも応援してる。

 

「わ、わたし出てくるね」

 

 計画通り。

 

「───はーい、カフェリコリコです!」

 

<山岸よ。あのー、お店によ。千束は居ます?>

 

「? 居ませんけど……。もしかして病院、ちゃんと行ってないんですか?」

 

<来てないのよ。携帯も出なくてよ>

 

「も〜、千束ったら。わかりました、こっちでも探してみます」

 

 フッ。『最強のリコリス』にも苦手なものはあるってことか。

 そこまでゴネなくても良いだろうとは思うが、ありゃもう意地だな。

 

「たきなお姉ちゃん。千束、検診来てないって。山岸先生が」

 

「ん……」

 

「こーゆーのは、わたしよりたきなお姉ちゃんが連絡した方が効果あるんじゃない?」

 

「そうでしょうか。まぁ、ニコルがそう言うなら」

 

 手早くスマホを取り出し、千束に電話をかけるたきな。

 着信音が、1回、2回、3回───……。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 スマホが鳴り出して、4回、5回、6回……しばらく。

 

「鳴ってるぜ。ん?」

 

 ───いや、銃突きつけながら言う台詞じゃないだろ。

 

 毒々しい緑色の天パ。黒いロングコートに、サーモンピンクのアロハシャツ。

 私のセーフハウスにやってきた素敵なお客様……テロリストの真島さんが、ニヤリと笑った。

 

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