萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
I don't wanna know 下手な真実なら
I don't wanna know 知らないくらいがいいのに
Why,Why,Why...
都内某所、某総合クリニックにて───。
恰幅の良い年配の女医、DA所属の医務官である山岸は、とある支部に電話をかけていた。
<はい、カフェリコリコ>
「あら。ミカさん? 千束は居る?」
<ちょっとお待ちを……。千束! 山岸先生だ>
<は〜い。もしもし?>
「コラ、千束!
<ご、ごめんなさ〜い……。いや、そうなんですけどぉ……。実は今、お店が過去イチ忙しくって>
「忙しい? 何でよ?」
<いやぁ、何かわかんないけど急に流行っちゃって……>
「まったく! まぁアンタのことだからこっちも余裕は持たせてるけど、当日になる前に連絡くらい入れなさいよ! とにかく、早く時間作って検診来るのよ。いいわね!?」
<あ〜、はは……。近々……はい。ありがとうございま〜す……>
受話器を半ば乱暴に叩きつけ、通話を切る。
山岸は手元の書類を何枚か片付けると、向こうで待機していた赤毛の看護師に声をかけた。
「ハァー……。今日も来ないってよ」
「はい。わかりました」
そうして、看護師は自分の仕事に戻っていく。
こう何度も準備を不意にされては気が滅入りそうなものだが、彼女は愚痴の一つも言うことが無かった。
「……。妙な新人」
◇ ◆ ◇ ◆
───今日は10月31日。世間一般で言うところのハロウィンだ。
私たちも、千束が某激安の殿堂で買い込んできた衣装──千束は悪魔の羽が生えたカボチャモチーフのドレス、私は狼の耳が付いた三角帽子と魔女のローブ──を身に纏い、保育園のハロウィンパーティーのお手伝いに来ている。
「ふむ……。千束、ニコル」
「トリック・オア・トリッ……トリック・オア・トリッ……、ん?」
「なぁに?」
「こちらはお菓子を配るだけなので、人手は足りています。分担しましょう」
というのも、最近は喫茶店営業の方が多忙を極めており、裏表問わず市井の人々からの依頼を受注できていなかったのだ。
あまり健全なやり方ではないが、今日まで溜まった案件をこの機会に一斉に処理しておきたい。
「えぇ? はぁ……配達に、タヌキ取りに、カチコミが3件に、エトセトラエトセトラ……。外回りばっかじゃん!! 何で!?」
「まぁ……。千束が残るのは勝手です。けどそうなった場合、誰が代わりに討伐依頼に出ると思います?」
横目でちらりとニコルを見る。青いフリルワンピースに、トランプの意匠があしらわれた白の前掛け。黒いウサギ耳のカチューシャと懐中時計を模したバッグを身に着けた、『不思議の国のアリス』風のコスチューム。
幻想的なストロベリー・ブロンドの髪と相まって、まさに絵本から飛び出してきたかのような愛らしい外見だが───。
「ニコルですよ。
「謹んで拝命させていただきます」
「え〜。たきなお姉ちゃんならいくら殺しても怒らないのに」
「オメェーほんっとそういうトコだぞ! 制服着てないんだし銃は禁止だかんね!」
「あはっ、わかってるよー」
どうやら丸く収まりそうだ。
千束はニコルが私に懐いていると考えているようだけれど、本当に懐かれているのは千束の方なんじゃないかと思う。
何せ、『
◇ ◆ ◇ ◆
「───ややっ? ゴッホちゃんじゃありませんか! こんな往来でどうしたのですー?」
「あん? 何だ御門か。こんな所で会うなんざ奇遇だな。オレは、ただの休暇だけど」
「その包帯男の仮装、よくお似合いですよっ」
「わかって言ってんだろブン殴るぞテメェ。……ま、こんな日でも無けりゃあ、お天道様の下で歩けねぇ見てくれなのは自覚してるよ」
「ふむん……。でも実際、その包帯って
「だとしても、オレにとっちゃ意味がある。あいつに敗けた日から───いつかあいつを超える日まで、この傷は癒えなくていい」
「そんな日が来るですかねぇ」
「フッ……さぁな。つーか、お前こそ珍しいじゃねぇか。ニコルはどうした?」
「今年はリコリコの皆さんと過ごすそうなのです。『ハロウィン』は異国の盆祭りのようなものと聞きました。タイチョーと一緒でもないのに、年に何度もお盆が来ても嬉しくないかなぁと」
「盆祭りて。いや確かに、見方によっちゃ間違ってないが……」
「まぁ、ゴッホちゃんだけでも会えて嬉しかったのです! では、ミカドはこのへんで───」
「おっと、待て御門。……あー、その、このあと暇か?」
「? あぁ、これはただお買い物に来ただけですので。特に急ぎの用事は無いのです」
「そいつは良かった。なぁ、……ちっと気が早いが、もうじき昼時だよな。一緒に食わないか? 世の中こんなに浮かれてるんだ。オレらもちょっとくらい浸ったって、バチは当たんねぇだろ」
「───。……、はいっ。喜んで!」
◇ ◆ ◇ ◆
「「「「「トリックオアトリートー!!」」」」」
保育園の子供たちが唱和する。
「はい、ハッピーハロウィン。良い子ね」
「わーい!」
「ハッピーハロウィン。良い子ね」
「ありがとー!」
純真無垢な少年少女の笑顔を見ていると……リコリコの経理担当への就任以来、何かとささくれ立っていた心が洗われるようだ。
思い返してみれば、DAのリコリス寮も──私がろくすっぽ参加してなかっただけで──割とこんな感じだった気がする。
娯楽に触れる機会や自由に出来る財産が少ないからこそ、無条件で面白がれる"ハレの日"を大切にしていたし、素朴な創意工夫があった。
「ハッピーハロウィン……」
「ハッピーハロウィン!! 良い子だよ! あ〜私もたきなのプレゼント欲しいっ!」
「いつの間に戻って……。もう、子供じゃないんですから」
「JKはまだ子供でしょお〜」
「ちさとおねーちゃん、こっちのふくろもおかし?」
……袋?
子供たちが群がっているのは……、あの白い袋は一体……。
「おっ。その袋に気づくとはやりおるのう。ははは!! そうだぞ〜、たくさんのお菓子と交換できる魔法のチケットだぞぅ!」
いや───今日の依頼の報酬だアレ!!
な、何であんなサンタクロースの袋みたいなのに、万札がぎっしり詰まってるの!?
「すっごーい!!」
「わーい! たーのしー!」
「はっはっは!! おれの財宝か? 欲しけりゃくれてやる! 探せ!! この世のすべてをそオギャアッ」
あっ。
に、ニコルの
「みんなごめんねー。千束お姉ちゃん、急にお腹が痛くなっちゃったみたい。このお金は、千束お姉ちゃんがお医者さんにかかるために使わせてもらうね」
「それならしかたない」
「ちさとねーちゃん、おだいじにー」
「ニコルちゃん、ちさとおねえさんをよろしくおねがいします」
…………、……。
何この茶番……。
◇ ◆ ◇ ◆
─────さて。
「「「「「おぉ〜っ!!」」」」」
何かと慌ただしい1ヶ月だったが……どうだ。
圧倒的ではないか、我がリコリコの収益は……!
「ふふっ……。良い音だ……」
店長は、長年憧れていたレコードプレーヤーを、店に置くことが出来たし。
「うおぉぉ〜ぉぉぉおぉぅ〜……っ!!」
「泣くほどか?」
ミズキさんは、念願の自動食洗機を導入して、皿洗いの重責から解放されたし。
<ドーモ、モーターウェイター、です。私は偶然ここへ来て、給仕して、います。Mr.コショウは無関係>
「これがIT革命かぁ」
「安かったので」
「クルミよりは使える……」
私は、中古ながらそこそこの性能を持つロボット・ウェイターを採用したりもした。
もちろん、すべての出費には相応の経済的効用を見込んでいる。
店長のレコードによって店内にBGMが流れるようになれば、お客さんに高いリラックス効果を与え
ミズキさんの食洗機などは作業効率化の最たるものだし、私のモーターウェイターも……正直スペックは怪しいけど、クルミと合わせてギリギリ一人前くらいにはなるはずだ。
喫茶リコリコの未来は、明るい───!!
◇ ◆ ◇ ◆
喫茶リコリコは、街のみんなのお店。
お客さんが気持ち良く過ごして、笑顔で帰ってもらえることが一番大切───だったのはもはや過去の話!!
街のみんなのお店として、お客さんを満足させることなど……出来て当然!
時代はライフワークバランス! つまり、お客さんのみならず、働く従業員の幸せも考慮されねばならない!
その点、たきな経理主任の営業改革は完璧なものだった。
レコードプレーヤーを買った時の先生は、ここ数年で最も嬉しそうな笑みを浮かべていた……。
ついでに私のお小遣いも増えたし、最高だね!! サンキューたきな経理主任! イェイ!!
「いやぁ、たきな様々ねぇ」
「ほんとにね〜。ん? ところで、そのたきな様はどちらに?」
「クルミと一緒に居るのは見たが」
「たきなお姉ちゃんなら
というわけで、クルミえもんのお住まいを覗いてみると……何だろう。
たきな様とクルミえもんが、薄暗い押し入れの奥に光るモニターをじっと見つめている。
ちなみにBGMは演歌だった。確か、初めて会った護衛依頼の時も車内でかかってたし、クルミの趣味なんだろうか。
「ここか。何してんのよ怪しいなぁ」
二人が目を皿にして注視しているのは……細かい文字と数字に、折れ線グラフ。
おぉ、こいつはもしや……。
「……株?」
「はい。以前はこれがクルミの主な収入源だったそうで」
「死んだフリをしたせいで凍結した口座が結構あってな。サボってた分を取り返すつもりで手伝うことにした」
「そこまでやるか」
たきな、一度ハマると極めるまで止まらないタイプなんだなぁ。真面目というか頑固というか。まぁ、たきならしいとも言えるけどさ。
半ば呆れつつ感心していると───懐からおどろおどろしい着信音が聞こえてきた。
うっ……。着信音の時点で知ってはいたが、改めて画面を確認すると……。
「い、今は忙しいんだっての……」
「千束? ……あ。貸してください」
「あっ!?」
貸すっていうか強奪されたよ今!
「もしもし、山岸先生。たきなです。定期検診ですよね?
うっそでしょお!?
ぴえん……何がたきな様だよぅ、同じ神でも邪神とか鬼神の類じゃんか!
「組員の健康管理も私の役目です」
「組員?」
「とにかく行ってください」
「……、はぁい……」
もはや先生よりも喫茶店、いや営利組織の長をやっている。
DAから距離を置いた結果、意外な才能が開花したタキナンティウスであった。
◇ ◆ ◇ ◆
「ども〜。あれ? 今日、千束ちゃんは?」
「今日は遅番なんです。健康診断で」
<ピー、ガガガ。ヤッホー。ご注文、ドーゾ>
「……大丈夫なのか? あれ」
「あの制服……。千束、ニコルと来て、3代目がロボになるとはねぇ……」
◇ ◆ ◇ ◆
休憩中。
バックヤードの押し入れの前を通りかかると、戸が開けっ放しになっていた。クルミは……お手洗いだろうか。
少々無用心だなと思いつつ───ふと、気になることがあった。
クルミは普段、どんな活動をしているのだろうか?
株取引も再開したようだし、まさかずっとゲームして遊んでいるわけではあるまい。
『無知は嫌いだ』という口癖からして、調べ物でもしてるのかな。いま開いている画面は、何かSNSのタイムラインのように見えるが───。
《見た目はすごいけどおいしい!》
………………。
…………、え?
《笑顔でウ○コ持ってて草 でも味マジ最高!》
─────そん、な、
《リコリコの店員さんを見てくれ、美少女がう○こ持って走ってるぞ おいしいんだけど・・・》
これ……私だ……。
《おいリコリコの店員やめろ、やめてくれ、鼻をつまむんじゃねぇ! おいしいんだけど・・・》
ち、千束? そんな、あなたまで……!
《リコリコの店員さん純真無垢な少年になんてものを・・・・おいしいんだけど・・・・・》
わ……私、は……!!
「─────、あっ」
手洗いから戻ってきたクルミの後ろから、水の流れる音がした。
◇ ◆ ◇ ◆
……嫌な事件だったね。
さておき、そうか。さっきのがソーシャル・エンジニアリングというやつだな。
IT技術に依存せず、単純なミスや心理的な隙につけ込んで情報を盗むアレだ。
リコリコに来るまではずっと引きこもりだったから、ぶっちゃけまったく想定してなかった……。
これがもしDAやその他のチンピラだったと思うと、大いに致命的だ。その点においては、今回の相手がたきなで良かったとは思う。
「…………。……もう……そのパフェやめます……」
「あちゃー……。気づいちゃったかぁ」
「別にいいんじゃないか? 人気は人気なんだからさ」
「クルミちゃん。リコリコは飲食店だよ。たきなお姉ちゃんには悪いけど、今までアホみたいにバズってた方が異常なんだよ」
基本的にたきな全肯定botであるニコルですらこう言う辺り、もう何もかんも終わりのような気がする。
一生物のトラウマではなかろうか、これ。
「じゃあ……『ロボリコ』、片付けお願い」
<見敵、新たな廃棄物を発見。デウカリオン・モード重点>
デウカリオン……? あぁ、いわゆるギリシャの『洪水伝説』の登場人物……。つまり『流しておく』という意味か。
このモーターウェイター改めロボリコ、明らかに言語モジュールがバグってるんだが、何か絶妙に面白いせいで直す気にならないんだよな。
「よーしよしよ……あ!? チッ、クソが……!」
どうやら流し損ねたようだ。バグっていたのは言語モジュールだけではなかったらしい。
あとミズキ、罵倒とはいえ語彙の選択には注意した方がいいと思う。完全に死体蹴りになってるから今。
「ん?」
おや電話だ。
ミズキはロボリコの世話、ミカは買い出し、たきなは傷心……動けるのはニコルだけ。がんばれ。ぼくも応援してる。
「わ、わたし出てくるね」
計画通り。
「───はーい、カフェリコリコです!」
<山岸よ。あのー、お店によ。千束は居ます?>
「? 居ませんけど……。もしかして病院、ちゃんと行ってないんですか?」
<来てないのよ。携帯も出なくてよ>
「も〜、千束ったら。わかりました、こっちでも探してみます」
フッ。『最強のリコリス』にも苦手なものはあるってことか。
そこまでゴネなくても良いだろうとは思うが、ありゃもう意地だな。
「たきなお姉ちゃん。千束、検診来てないって。山岸先生が」
「ん……」
「こーゆーのは、わたしよりたきなお姉ちゃんが連絡した方が効果あるんじゃない?」
「そうでしょうか。まぁ、ニコルがそう言うなら」
手早くスマホを取り出し、千束に電話をかけるたきな。
着信音が、1回、2回、3回───……。
◇ ◆ ◇ ◆
スマホが鳴り出して、4回、5回、6回……しばらく。
「鳴ってるぜ。ん?」
───いや、銃突きつけながら言う台詞じゃないだろ。
毒々しい緑色の天パ。黒いロングコートに、サーモンピンクのアロハシャツ。
私のセーフハウスにやってきた素敵なお客様……テロリストの真島さんが、ニヤリと笑った。