萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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本作もようやく折り返し地点です。
ごめんなさい嘘つきました。次章か次々章くらいが折り返し地点です。
たぶん……。



Spearhead for a wish(3/3)

 朝起きてリコリス制服に着替えると、目の前に真島が居た。

 着替えるまでは待っていてくれたらしい。わぁ、テロリストのくせに紳士的。

 

 ……じゃなくて。おいおい、どうなってんのこれ?

 どうして警報システムが作動しなかった? DAの『ラジアータ』には到底及ばない民間のサービスとはいえ、こっちもそれなりにお金かけてるんだけど。

 

 さっきから鳴ってるスマホの着信は……たきなからだ。

 こんな時に何だろう。大方の予想がついてしまうのが悔しい。

 

「……取っていい?」

 

「うん」

 

 いいのかよ。

 ちくしょー、余裕かましやがって。

 

<───千束? 今どこです? 山岸先生から電話ありましたけど。検診行ってないんですか?>

 

「あ、あぁ……ごめんごめん。()()でさぁ。ちょい遅れるって、山岸先生にも言っといて」

 

 そこまで話したところですぐに切る。

 たきなや山岸先生には悪いが、真島はそんなことを気にしながら戦っていい相手じゃない。

 

「健康は大事だぜ。身体が資本だろ? 俺らはさぁ」

 

「『ら』って何『ら』って? 銃向ける相手に言うこと?」

 

他人(ひと)()るにはまず自分(テメェ)が生きてなきゃな」

 

 

 

 そして、銃声が響いた。

 

 

 

 ───……。あっ、この野郎。

 いま壊れた照明、まぁまぁ気に入ってたのに。

 

「ハッ!! すげぇな……。どうやってんだ?」

 

「ひみつ」

 

()()()()()()()()()()()()?」

 

 脈打たないはずの鋼の心臓が、どきりと跳ねる錯覚があった。

 

「……なーんでそれを知ってるコンニャロー」

 

「へっ……秘密だ」

 

 秘密か。お互い秘密が多いな、くそったれ。

 などと思っていると……真島は拳銃を懐にしまい、テーブルの上に置いてあるDVDのパッケージに目を留めた。

 

「ダイ・ハードじゃん。好きなの?」

 

「え? ……まぁ、うん」

 

 何だ急に。

 

「誰が好き?」

 

「パウエル」

 

「警官な。マクレーンと会ってもないのに相棒になるあの感じ」

 

 おっ。テロリストの分際で話の分かるヤツだ。私と同じマニアか?

 

「そうそう───」

 

「んでよォ───」

 

「「それでラストシーンで!」」

 

 …………、……。

 ハモっちゃった。テロリストと。私、仮にもリコリスなのに。

 

「……、あっ……あ〜……。……コーヒー淹れるけど?」

 

「苦いのダメなんだ。他のモン無い?」

 

「無い。砂糖出すからそれで我慢して」

 

 リコリス()のセーフハウスで普通にくつろぐテロリスト(真島)という異常な光景。

 ハリウッド映画でもなかなかお目にかかれない、何ともご機嫌な一幕である。

 

「ゴク……っべ! 熱……」

 

「熱いのもダメなのかよ。で? 何の用?」

 

「あ? おォそうだ。お前、俺のこと覚えてるか?」

 

「ん〜……? ツバかけられた。最悪」

 

「もっと前だ。その様子じゃ覚えてねぇな……。じゃあ昔話をさせてもらうか」

 

 ─────曰く。

 

 10年前の『旧電波塔事件』の時、真島もまたテロリスト・グループの一員だったという。

 

「俺ァ当時、若造なりにオペレーターみたいな役を任されててなぁ。仲間もそれなりに優秀で、リコリスと……何だっけか、リリベルっつーの? とにかく、ずいぶんと一方的に狩らせてもらったよ」

 

「……」

 

「ところが……どうだ。チンケな発煙擲弾(スモーク・グレネード)が1本。そいつが投げ込まれてからが本番だった。小さな足音が遠くから聞こえたと思った瞬間、仲間の一人が悲鳴を上げてブッ倒れた。もちろん全員で反撃するんだが、何百発って銃弾をバラ撒いても止まんねぇわけよ。そうして仲間が一人、また一人と、動かなくなっていき……」

 

「…………」

 

「……俺は、リーダーの指示を受けて、最終手段の爆弾を起動するしか無かった。生きて逃げ延びられたのは俺だけだった……。あァ。今でも夢に見るぜ。スモークグレネードの煙の中で、『そいつ』の真っ赤な瞳だけが爛々と輝いて」

 

「人を怪物のように描写するな」

 

 色々疑問はあったものの、とりあえずそこにツッコまざるを得なかった。

 ていうか、旧電波塔爆破したの、お前だったのかよ……!

 

「実際バケモンだろうよ。思い出したか?」

 

「いーや。お前のことなんて知るか」

 

「ハハハハハハハ!! だよな」

 

 これは皮肉とかではなく、本心だ。

 真島の言葉ではテロリストどもを一方的にタコ殴りにしたみたくなってるけど、当時の私は7歳。今ほど身体も育ってないし、『先生の弾』も使い始めたばかりで慣れていなかった。

 『英雄』だの何だのと呼ばれちゃいるが、あれで結構必死だったのである。倒した相手の顔なんか覚えちゃいない。

 

「……あァ、そうだ。ところで話は変わるんだけどよ」

 

 ま、まだ何か言う気?

 こっちは朝っぱらからヘビーなイベントで、正直辟易してるんですけど……。

 

「良い機会だから教えといてやる。こういうのは公平(フェア)じゃねぇとな。ほら」

 

 言って、真島は懐から何かを取り出した。さっきしまった拳銃ではない。

 それは……組紐に吊り下げられた、鈍い金色の─────。

 

「俺も持ってるぜ、これ」

 

 梟を象る、ペンダント。

 私の命を救ってくれたのと同じ、『アラン機関』のエンブレム。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「千束、どうだった?」

 

「急用が出来たそうで」

 

「ふぅん。ま、どうせ昨日夜更かししてて寝坊したとか、そういうのでしょ」

 

「いっそ迎えに行ってあげたら? 今日は客入りも落ち着いてるし、アタシたちで何とか回しとくわよ」

 

「それは……、はい。ではお言葉に甘えて。行ってきます」

 

「フッ。まるで千束のオカンだな」

 

「え〜? たきなお姉ちゃんが育ててたら、きっと今の千束みたいにはなってないよ」

 

「言えてるわぁ」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 金の梟。あらゆる"才能"に支援を行う秘密組織、『アラン機関』のペンダント。

 私の人工心臓を始めとして、多くの障害や貧困に悩む人々を救い、さりとて何の見返りも求めない彼らが───唯一、被支援者(『チルドレン』)に残す物質的繋がり。

 

 それが、どうして、真島(こんな男)の手に。

 

 ……いや。

 ならば───こいつは、どうして、

 

「あんたは」

 

 どんな形だったかは、想像もつかないけれど。

 こいつだって、きっと、アランに救われた一人のはずで。

 

「───じゃあ何で、こんなことしてるの!?」

 

 何故、誰かに救われた命で、誰かの命を奪うのか。

 機関が見返りを求めないというのなら、その見出された才能を使って、世界の人々を幸せにすればいい。

 それが、『アラン・チルドレン』の『役割』ってやつじゃないのか?

 

「ハァ?」

 

「それ持ってるからには、何かスゴい才能があるんでしょ? 人を幸せにするような……。あんたがやってることは真逆じゃない!」

 

「お前だって殺し屋じゃねぇか」

 

「一緒にするな! 私はちゃんと人助けしてるっ」

 

「お前……。アランを平和推進機関みたいに思ってんのか?」

 

「現にあんた以外は、そういう結果を残してるでしょ」

 

「私もメダリストみたいに世界に感動を与えたーい! ってか? おめでたいヤツだな」

 

 これだからお前みたいのは見識が狭くていけねぇ、と呟いて真島は嗤う。

 見下すような、同情するような、嘲笑と憐憫(れんびん)の入り混じった視線が私を射抜く。

 

「アランはそんな連中じゃねぇぜ。()()()()()()()()()()()()()()()()()。まぁ確かに、善人ばっか支援してちゃバランスが悪い」

 

「……何と言われようと……、私にはヨシさんとの約束がある。これはその証」

 

 制服の胸元に下げた、自分のペンダントを握る。

 見れば見るほど真島のそれと同じデザインだけど、でも……私のこれは……。

 

「ヨシさん? ……ってのは、アラン機関の人間か?」

 

「……。あんたには関係ない」

 

「アランと接触してるのか、お前」

 

「あんたがどんだけ詳しいか知りませんけどね。私は私のやりたいようにやるだけですー」

 

「ハハ。良いね。やっぱ俺とお前は同じだ」

 

 この、ああ言えばこう言う……! 私とお前のどこが!

 

()()()そうさ。殺しの腕を買われて支援された」

 

 真島は、拳銃を取り出して振りながら言った。

 だが撃つ気は無い。私の『眼』にはわかる。あれは単なるポーズだ。

 

「絶対そんなんじゃありませーん」

 

「アランの連中は純粋なんだ。俺たちの才能(殺し)を肯定できるくらいに……」

 

 すっかりくつろいでいた真島が、ふと立ち上がる。

 そのまま、セーフハウスの出入り口の方へ───。

 

「……え。え? 帰んの?」

 

「おう。()()()()()()()()()()()

 

「えっ?」

 

 当惑する私を尻目に、真島はすたすたと歩いて本当に出て行ってしまった。

 ……。……あ、そうだ。ここで捕まえればよかったじゃん!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 急いで梯子を登ると、『ばしゅっ』というくぐもった音がした。

 たぶん、()()()()()()()()()()()

 

「ッ───!?」

 

「うっ!」

 

 聞き覚えのある声───たきなだ!

 電話での態度を不審に思って、様子を見に来たらしい。

 私がたきなの無事を確認した頃には、真島の姿はもう無かった。

 

「またなァ!! 電波塔のリコリス!!」

 

 ……おいおい……、ここ4階だぞ。

 何だ今の動き? アクション俳優っつーか、もはや猿じゃん。

 

「たきな!」

 

「千束! ……いえ、今はっ───」

 

 たきなが銃を構えるも、既に真島は射線の通らない位置にまで退避している。

 相手(こっち)のことをよく見てるな……。たきなの腕なら、まっすぐに逃げても良い的だってのをわかってるルート選択だ。

 

 ───わけがわからない。

 あいつが考えてることも、あいつがアランのペンダントを持ってる意味も。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「真島が家に来たぁ!?」

 

 ……リコリコに戻り次第、さっそく情報共有。

 山岸先生には悪いが、検診の予定はまたもキャンセルさせてもらった。さすがにDAが最重要指名手配している敵の襲撃とあれば、納得してもらう他ない。

 

「戦ったの? 一発くらい当てた?」

 

「残念ながら……。目の前に居たのに」

 

「そりゃあ、まぁね。……相手が悪かったのかも」

 

 うん? 相手が悪かった、とは……。

 

「───あいつも、これ持ってた」

 

 ぽつりと呟き、千束は首元のペンダントを示した。

 梟のエンブレム。『アラン機関』の、被支援者の証。

 カウンターの奥で作業をしていた店長が、思わずといった様子で振り返る。

 

「はぁ? テロリストの親玉に何の才能があるってのよ?」

 

「凶悪犯でも支援されるものなんですか……!?」

 

「ふむ……。ミカ? 吉松(恋人)から何か聞いモギャ」

 

 一瞬ニコルの右手が霞んだかと思うと、何故か隣に居たクルミが意識を失いカウンターに突っ伏した。すかさずミズキさんが声をかける。

 

「あらあらどうしたのクルミちゃん! 眠たいのかな〜?」

 

「きっとどっかで拾ったんだ、私を動揺させるための罠だよ。ヨシさんがあんなやつを助けるわけ無い……。ね、先生」

 

「…………」

 

 店長は───すぐには答えなかった。

 どうにも渋い表情をして、カウンター奥のコーヒー豆の瓶に視線を落としている。

 

「先生?」

 

「ン……。あ、あぁ。そうだな……」

 

 ……何か、思い当たる節がありそうだったけれど。

 旧知の友の生業にまつわることだ。簡単には割り切れないのだろう。いずれ話してもらわねばならないにせよ、無理強いするのも忍びない。

 

 では。さしあたって、私たちに出来ることといえば。

 

「……。……千束!!」

 

「あ!? あぁはいっ!」

 

「今後、私からの電話は3コール以内に出てください! 出ない場合は危険と判断して、次のワン切りですぐに向かう通知とします!」

 

「えっ……あぁ。……えぇ? はい……」

 

 組員の安全を守るのも私の仕事だ。

 千束の家に来た真島は、どういうわけか軽く世間話をしただけで帰ったそうだが、これが本当の襲撃だった可能性も充分にある。

 

「嫌ならすぐに出るように」

 

「はぁ……ど、どこに居てもすぐ来てくれるのね〜……?」

 

「それと、他のセーフハウスに移ってくださいね」

 

「えぇ? あそこ、一番気に入ってるんだけどぉ……」

 

「また遊びに行きますから」

 

「ほんと!? 同棲? またご飯作ってくれる?」

 

「たきなお姉ちゃん、甘やかしちゃダメだよ。見てよこの顔、明らかに危機感足りてないじゃん」

 

「そこはまぁ、飴と鞭の要領で」

 

「こうなると本格的に千束のオカンね……」

 

「オカンっつーか。自分の電話にはソッコー出ろって、むしろ束縛系彼女じゃない?」

 

「はいはい。仕事に戻りましょう」

 

 好き放題言ってくれる。

 私は千束のお母さんではないけれど、『親の心子知らず』とはたぶん、今のような状態のことを言うのだろう。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 終業後、またもや千束の姿が見当たらないので探してみると、店の前の待合席(ベンチ)にちょこんと座っていた。白い布で愛銃のM1911DCMカスタムを磨いている。

 真剣に手入れをしているというよりは、何かを考え込む時の手慰みに持っているらしかった。

 まったく。人通りは少ないし、日も暮れてきた時間とはいえ、こんな往来で銃を……。一言言ってやらなければ気が済まない。

 

「DAの銃じゃないですよね、それ」

 

 正確に言うと、DAの制式採用銃はグロック17とされているが、実際に手に取る銃は個々のリコリス自身が選ぶ。まず私のS&W M&P9がそうだし、ニコルがどこからか調達してきたタウルス・レイジングブルのように、敵からの鹵獲品をそのまま愛用しているリコリスも少数ながら存在する。

 しかし私の知る限り、あのようなカスタムが施されたコルトM1911/デトニクス・コンバットマスターは、DA本部の備品目録には無かったように思う。

 

「うん。これと一緒にもらったんだ」

 

 梟のペンダントを指で持ち上げて言う。

 ……それにしても、アラン機関が被支援者に贈る品は、あのペンダントだけという話ではなかったか。

 

「吉松氏に?」

 

「そう……だね。大切だよ」

 

 ……いや。

 まだ仮説でしかないが……アラン機関が、支援する才能の()()()()()()()というのなら。

 『錦木千束(最強のリコリス)』に、『銃』が与えられた、意味は─────。

 

「……。……、寒くなりましたね」

 

「ね〜。たきなとニコルが来た日は、桜が咲いてた」

 

 店のドアの向こうから、何かが割れる音が聞こえた。

 またクルミがお皿を落としたらしい。モノを運ぶ時はロボリコを頼れと再三言ってあるのだけれど、まだ当分改善しそうにない。

 

「…………。……あれから……ヨシさん、来ないね」

 

 ……話を逸らそうとしていたことは、お見通しだったようだ。

 錦木千束は、微笑んでいる。寂しそうな目のまま。『やりたいこと』を優先しているのではなく、『やりたくないこと』を優先させないために。

 

 私は…………。

 

 学生鞄(バックパック)の中身を探り、()()()()を取り出す。

 

「はい」

 

「? ……おぉ」

 

 手渡したのは、水色の小袋。

 

「これ、保育園の」

 

「欲しかったんでしょう?」

 

「くれるの〜?」

 

 千束はさっそく包みを開け、中身を確認する。

 入っているのはハロウィンらしく、いくつかのお菓子と……。

 

「おっ、イッヌ()! かわいい!」

 

 ブルドッグのキーホルダー。

 せっかくの機会なので、リコリコ支部の同僚たちにも何かプレゼントしようかと思い立ち、前から用意していた内のひとつだ。後でニコルたちにも渡しておかないとな。

 

「たきな、最近大活躍だねぇ」

 

「店が潰れないようにと思っただけです。大切な場所なんでしょう」

 

「うん。ありがとう」

 

 キーホルダーを学生鞄(バックパック)に取りつけ、こちらに見せつつはにかむ千束。

 ようやくマシな笑い方になった。錦木千束は……やっぱり、この顔が一番似合っている。

 

「……あぁ、それと。定期検診、ちゃんと行ってくださいね」

 

「えぇ〜? 今それ言う? わかったけど……」

 

「何がそんなに嫌なんです?」

 

「嫌……とかじゃ、なくってぇ」

 

「何です」

 

()()()()()んだよ。千束は」

 

 ふと声がした。ニコルだ。もう帰るところだったのか、既にオレンジ色(ドットフィフス)のリコリス制服に着替えている。

 しかし、それにしても『注射が怖い』って? 錦木千束ともあろうリコリスが、まさかそんな───。

 

「あーっ!? 言ったなこの! たきなの前だぞー!」

 

「銃弾でも何でも避けられるから、痛いのに慣れてないんだよねー」

 

「え。……本当に怖いんですか? 注射」

 

「うぅ……。な、何だよぅ。私だって怖いものくらいあるっての……」

 

 千束は頬を赤くしてそっぽを向いた。

 そうして唇を尖らせる姿は、いつになくしおらしい。普段活発な彼女の貴重な表情だ。

 

「……、ふふっ。あはは……! 『旧電波塔の英雄』が、注射嫌いだったなんてっ」

 

「痛いの嫌がって何が悪いのさ〜!! お腹に銃弾めり込んでもゲラゲラ笑ってるニコルの方がよっぽどおかしいもん!」

 

「ちょっと千束、人を怪物みたいに言わないでくれる!? そんなのただの噂だから噂!」

 

 出会った人間を誰も殺さない『最強のリコリス』と、相対した敵の悉くを屠る『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』。

 銃弾でも追いすがれぬ超絶の異能者と、銃弾にも斃れぬ不屈の精兵。

 

 そんな正反対のふたりだけれど、リコリコ(ここ)では何故だか、意外と仲良くやれている。

 

 喫茶リコリコは、そういう場所なのだ。

 今はわかり合えなくたって───吉松氏とも、いつか、また。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「さっさと済ませてね……。……、終わった? 終わったね? ね? おわっ、おわ……終わった? おわ……、終わったー?」

 

「はい。いいですよ、終わりました」

 

「フゥ───ッ!! 一番の難関突破だあぁ……!」

 

「……。毎回こんな調子で?」

 

「あっ、いやぁ……ははは。まぁ〜確かに、痛いのもあるんですけどぉ。身体に異物を入れられるってのがどうも……」

 

「怖がられるようなものは入れてないんですがね」

 

「さーせん、わかってまーす。……というか……今日はあんまり痛くなかったような? お姉さん、お上手ですね!」

 

「当然です。───()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……え?」

 

「申し訳ない。ひとつ嘘をつきました」

 

「何のは、な……。……? うっ……、ぁ……! あんた、一体……やまぎ、せん、は───」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 例の『ホットチョコパフェ』は未来永劫のレシピ封印指定に処した……のだが。

 あれの発想を下敷きに、デニッシュ生地を上下に切り分け、その間にホットチョコを挟んだ『シン・どら焼き〜リコリコ流〜』なるレシピをニコルが考案。

 元より"見た目はアレだが味はおいしい"という意見が大勢を占めていたので、後継型として誕生した『シン・どら焼き』の評判は上々であり、新メニュー開発は一応の成功を収めた。

 発注してしまった原材料の処分にもなるし、何だか私の失敗の尻拭いをしてもらったみたいで……うぇっぷ、いやこの話題で『尻』というワードはダメだ……。

 

「千束まだ? 遅くない?」

 

 時刻は午後2時を回った。ミズキさんが呆れたように言う。

 千束は定期検診のため、昨日に引き続き午後からの出勤となっているが……確かに、少し遅すぎるのではないか。

 

「そうですね。連絡してみます」

 

 着信音が鳴る。1回、2回、3回。

 昨日はああ言ったものの、さすがに私もすぐに習慣づくとは思っていない。

 現実的な妥協点として、5コールくらいまでなら許容範囲だと考えている。

 

「……」

 

 だが。

 

「? たきなお姉ちゃん、どこ行くの?」

 

 昨日の今日で1()5()()()()()()()()()()()というのは、恐らく只事ではないだろう。

 

「千束の所へ。そういう約束ですから」

 

 メッセージアプリのトーク欄を開く。千束から送信された最後のメッセージは、『はーい 今から行きます・・・』というものだった。

 どうか何事も無くあってくれと願いながら、山岸先生のクリニックへ─────。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「……。……、君が悪いんだよ……ミカ」

 

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