萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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#9 To a Louse
Small embers(1/3)


 

「すみません。6()1()6()()()の方と面会希望なのですが」

 

「……。……はい、確認しました。こちらへどうぞ」

 

「どうも」

 

 受付の人に言ったのは、ある種の符牒(合言葉)だ。一般ではないDAの管轄エリアへ入るのに必要となる。

 階段を数段飛ばしで駆け上がり、山岸先生の駐在する診察室へ急ぐ。

 

「山岸先生っ!」

 

「あら? たきな……どうしたのよ?」

 

「千束はどこに?」

 

「もう帰ったはずよ。この時間なら採血も終わって───」

 

「採血の部屋は?」

 

「え、えぇ……ここから4つ隣よ。たきな、何か心配事でも? 私も見に行った方が……あ、ちょっと!?」

 

 山岸先生の言葉を聞き終わるが早いか、診察室を飛び出して走る。

 4つ隣───居ない。異常事態であることは確定だ。

 

「千束……!」

 

 どこに……どこに行ったの?

 

 ……っ、……。こういう時こそ、落ち着かなきゃ。

 

「すぅ」

 

 4秒吸って、4秒吐く。

 このルーティンをやるのも久々だ。ここしばらくは、そこまで追い詰められることが無かったとも言える。

 

「はぁ───」

 

 敵の行動を、細部に至るまで観察する。

 物事の原因を考えて、対策する。

 

 加速した意識で、世界を捕捉する。

 視覚、聴覚、嗅覚、皮膚感覚。五感すべてに集中し、そして……。

 

 医療機関に特有の強い消毒剤の臭気の中に、ごくごくわずかな違和感がある。

 普段から()()を嗅ぎ慣れている私でなければ、恐らく気づかなかっただろうもの。

 

「……コーヒーの匂い」

 

 廊下に戻る。後はもう直感だ。

 行き先は、リコリコのコーヒーの匂いが教えてくれる。

 

「ここだ」

 

 扉を開ける。部屋の中の光景が、目に飛び込んでくる。

 赤毛の女性看護師が1人。手術台にも似た処置用ベッドが1つ。

 その上に、

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、意識を失っている、千束の姿が─────。

 

 

 

「───ッ!!」

 

 深呼吸の効果で青く染まっていた視界が、真っ赤に沸騰した。

 あぁ……そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()

 私は、半ば無意識的に学生鞄(バックパック)から銃を抜いていた。

 

「!」

 

 赤毛の女に向けて、何発か撃ったが外した。処置室の壁や窓に穴が空く。

 すぐさま処置用ベッドの向こう側に逃げ込む動きは、どう考えても看護師のそれではない。

 

「お前っ……! 何をした!?」

 

 女が次に姿を見せた時、その手には拳銃が握られていた。

 リコリスとしての訓練と経験が、血中を流れる冷たい怒りが、敵の攻撃の瞬間を察知する。

 あちらは処置用ベッド、こちらはドアの陰を遮蔽物として、しばらくの撃ち合い。

 

「……潮時か」

 

「何───」

 

 女の発砲。私がそれをやり過ごしていると、ガラスの割れる甲高い音が響いた。

 すぐに室内へと駆け込むが、赤毛の女の姿が無い。破壊された窓の外を覗き込む───(ましら)の如き俊敏な動作で脱出し、アスリート並みの健脚で去っていく、看護師に扮した何者かの背中が見えた。

 まだ間に合う。この距離なら当てられ……、……。

 

 いや……自分の目的を見失ってはいけない。

 『やりたいこと最優先』、だ。

 

「っ……、千束!! ……千束……、千束……!!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───なまぬるい、みずのなかに、ういている。

 

 

 

 

 

 一寸先も見通せない深淵(やみ)の中、泡が生じては消える音だけが反響している。

 何となく、私もそのうち、あの泡のように弾けて失くなるんだという確信があった。

 

 

 

 冷たく暗い海の底で、それでもわずかばかり()()を感じられるのは、水面から差し込む一条の光があるからだ。

 自分自身の輪郭すら曖昧な私に、触れる手がある。優しく力強い誰かの手。私をまるで■■■■のように見つめる視線。

 

 

 

 ───大丈夫。

 

 

 

 記憶の中の光は、その一言と共に、たちまち明るくなっていって─────。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 千束が目を覚ました。

 

 起きて最初の一言はこうだ。

 

「───……、お……おぉ。みんなお揃いだな……?」

 

 ニコル、店長、ミズキさん、クルミ。チーム・リコリコの全員と、それから山岸先生。

 確かにその通りだが……私は何か、もう少し他のことを言って欲しかったように思う。

 

「採血の時よ。あんたが寝てる内に調べてみたけど、血中にかなり強力な麻酔成分が検出されたのよ。廃棄予定の使用済み注射針が1本足りなかったから、そっちに細工がされてたんだと思うわ。そのせいでしばらく怠いと思うけど……」

 

「……私、何された?」

 

 核心部分については、私たちもまだ聞かされていなかった。

 山岸先生は、20秒ほど真剣に悩む様子を見せてから、パソコンの画面に千束の電子カルテを表示する。

 

「あの女───。急激な高電圧による過充電で、ハードとのアクセスが不可能になった。もう、充電も出来ないのよ。単純だけど、一番効果的な破壊方法よ」

 

 過充電……? ハードとのアクセスが……それに、破壊って……。

 

「マジか。あとどのくらい()つ?」

 

「幸い充電の直後だったから……仕様通りに概ね2ヶ月ってとこよ。下手に動き回らなければ、もう少し保つよ」

 

「待ってください。何が2ヶ月なんですか……!」

 

 ───そんなもの、決まっている。

 千束の心臓のことを知っている。あの胸に奇妙なケーブルが挿されていた場面を見ている。

 こんな質問は……ただ、()()()()()()()()()()()というだけの、私のわがままみたいなものだ。

 

「余命だ。千束の余命」

 

「……え」

 

 わかっていたのに、間抜けな声が漏れた。

 

「そ───そんなっ! だったら、壊れた箇所を交換でもして」

 

「出来ないのよ。……悔しいけど、アタシたちの知識と技術じゃどうにもならないのよ」

 

「千束の人工心臓に、代わりは無いんだ」

 

 それが、『アラン機関』の技術だからだ。

 あらゆる"才能"を支援し、その才能が生み出す利益を世界に還元する秘密組織。

 彼らは自身が育てた『子供たち(チルドレン)』に見返りを求めないが、彼らの力が()()()()()()()()()の救済に役立つなら話は別だ。

 

 私は、私たちは、あまりに無力だった。

 

 手足と背骨は猛吹雪の最中にあるように冷たく、頭と心臓は溶岩を流し込まれたように熱かった。

 理性が機能していない。足が勝手に動く。右手が再び、学生鞄(バックパック)の銃へ伸び───。

 

「どこ行くの。たきなお姉ちゃん」

 

 スカートの端を、ニコルに掴まれた。

 

「……っ。あの看護師を、始末します!!」

 

「始末して、どうなるの?」

 

「でも……今ならまだ!」

 

「たきな、ニコル。やめて。……私なら、いいよ」

 

 いいわけないだろう、と叫ぼうとして。

 振り返った瞬間、息を呑んだ。

 

「本当だって。元々、長くなかったんだから」

 

 錦木千束が、笑っている。空恐ろしいほど、穏やかに。

 老練の美術家が、この世ならざる幻想として描いたかのような微笑。ただ口の端を緩く持ち上げているだけなのに、そこには曼荼羅めいてありとあらゆる感情が表現されていた。

 

「……もと、もと?」

 

 千束。

 

「あいつを殺したところで変わんないよ」

 

 どうして、あなたは、

 

「さっ。帰ろう!」

 

 そんな───何もかも悟った(諦めた)ような顔を、していられるの?

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 喫茶リコリコ、今日もいつも通り営業中。

 常連の山寺さんが、メニュー表を眺めて言う。

 

「えっ! あのパフェやめちゃったのォ?」

 

「たきなが恥ずかしがっちゃって」

 

「まだ食べてなかったのになぁ……」

 

 なるほど、そりゃ残念だ。

 見た目はともかく、味は良いってもっぱらの評判だったのに。

 

「……。よし」

 

 とはいえ、ニコルが考案した『シン・どら焼き』とたきなの『例のアレ』は、材料が共通なのだ。

 昔からこういうの上手いんだよね、ニコル。有り合わせのもので何とかしちゃう感じ。依頼の時も敵の持ってる武器とか平気で(パク)ってブッ放すので、油断すると死体が出来上がってそうで怖い。

 

「オーダー入りましたー!!」

 

 閑話休題。

 そんで要するに、この場合・・・・伝票と材料の上ではシン・どら焼きを提供した(てい)にしておいて、こっちで勝手に『例のアレ』を出すことも可能ということ・・・・! まさに・・・・悪魔的発想・・・・!

 

「まーたアンタ勝手に……。たきな怒るよ~」

 

「いいのいいの。お客さん第一っ」

 

 実際大した手間じゃないし。たきなにさえ見つからなければもーまんたい!

 さーてと? デニッシュ生地の上に〜、ホットチョコをぐ〜るぐる……。

 

「………………」

 

「あっ」

 

 ……、ダメでした。

 たきなの絶対零度の視線が突き刺さる。

 

「……あっちゃ~ちゃちゃちゃ、ちゃ」

 

 バレちまったからにゃしょうがねぇ。

 だが、これもお客さんの笑顔のため。ここは焼き土下座でも何でもしてやろう───。

 

「……。……」

 

 と思っていたのだけれど、たきなはふいと目を逸らして、自分の作業に戻っていってしまった。

 あるぇー……? いつになく冷たいというか……心ここに在らず、みたいな。私、何かやっちゃいました?

 

「───ばか」

 

 一部始終を見ていたと思しきニコルから、辛辣なコメントがお届けされる。

 いや、そんな……。誰がバカだよって話。あはは……。

 

 カウンターの電話が鳴った。

 

「はーい、リコリコ看板娘!」

 

 えぇい。気を取り直して、仕事だ仕事。

 さて、どちら様からのお電話かなー?

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 翌日。

 お店の方は定休日で、今はミズキの運転する営業車に乗っている。

 

「この大変な時期に、よく本部に顔出す気になったわね」

 

「なってないー。何か楠木さんがね、『渡すものがあるから来い』ってしつこいの」

 

「お金かしら?」

 

「DAって退()()()なんか出してくれんの?」

 

「……やめなさいよ。縁起でもない」

 

「ごめん」

 

 それからしばらく、営業車のエンジン音だけが聞こえていた。

 嫌な沈黙だ。けど……今の私に喋れることと言えば、こんな話くらいしか無い。

 

「たきな。……意識しちゃってるね」

 

「そりゃあそうでしょ」

 

「あーあー。だから言いたくなかったんだけどな」

 

「アンタはいつも通りね」

 

 ミズキはそれだけ呟くと、じっと運転に集中して、もう返事をしてくれなかった。

 そうして再び、車内に静寂が満ち─────。

 

「……チッ!」

 

「ヒャッハァーッ!!」

 

 なかった。後方からクラクションの音が迫ってくる。

 見れば、黄色いスポーツカーが──真島の乗ってたヤツを思い出すな──、私たちの横や後ろをウロチョロしていた。

 

「ケヒャヒャヒャヒャヒャ!!」

 

「あーもう、クソガキども……。……えっ?」

 

「ミズキ、そっち窓開けて」

 

「は!? ちょ、待っ!!」

 

 『救世主の銃』を抜いた。

 先生の弾は接触した物体の表面で弾け、よほど運が悪くなければ貫通しない。窓ガラスの奥に居るあいつらには当たらないだろう。

 ニコルに倣って、とりあえず3発。

 

「うっ……うわああァァァ〜ッ!!」

 

 良い気味だ。

 気分が晴れたわけじゃないけど、これでまた世の中が少し平和になったと思う。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 DA関東本部の司令室。

 来るのは何年ぶりかなぁ。相変わらず綺麗なカーテン使ってるね。うちの店にも欲しいかも。

 

「じき死ぬにしては元気そうだな」

 

「開口一番それかよ。耳が早いですねぇ。で、何の用事ですか?」

 

「それだけ元気なら話は早い。DAに戻れ」

 

 ……おいおい。何の冗談だそりゃ。

 楠木さんの表情は……なんだろ。疲れてるのかな。いつも私と話す時はもう少し、微妙そうな顔をしてるんだけど。

 

「はぁ。いやでも、もう死ぬんで体調が」

 

「真島と会ったそうだな」

 

「えぇまぁ……都合2回かな?」

 

「そして2度とも取り逃した。ファーストにあるまじき失態だ」

 

「どっちも一方的に襲われただけですから。反撃する用意が無かったんですよ」

 

 あー、嫌だ嫌だ。もうやってらんない。

 せっかくの休日に遠路はるばるやってきて、聞くのが楠木さんのお小言なんて。そう、たとえそれが───。

 

「……。ここに来るのも最後だと思いますし〜。もっと楽しい話しません? ほら、何かくれるって聞いてきたんですけど?」

 

 楠木さんは無言で、白い軍服風のスーツのポケットから何かを取り出した。

 それを私がどっかり座るソファの前の机に、やけに丁重な手つきで置いてくる。

 

「ん……」

 

 ─────、は?

 

 楠木さんがくれたのは、どこにでもあるような、少しばかり年代物のデジカメ。

 まさかと思い入っているSDカードを確認すると、そこには確かに()()()()()、10年前のある時期の日付が書かれていた。

 

「こ……れ。何で……楠木さんが持ってんの?」

 

「情報漏洩阻止のために回収していた。重要な機密資料だ」

 

「ずっと探してたのに! ドロボー!」

 

 ……まぁ、ずっと探してた大事なものなのは事実だけど。

 元はと言えば、10年前までDAの訓練教官や司令官をやってた先生の持ち物(備品)だし……冷静に考えてみても、これにはD()A()()()()()()()()()()()が入っている。

 

「何と言おうと勝手だが。DA(我々)は報酬を提示したぞ、()()()()()()?」

 

「え、ええぇ……。すっごい怖いんですけど……」

 

「近く、大規模な『真島討伐作戦』を行う。お前も参加しろ」

 

「……、……ふふふ。冗談キツいね」

 

 あっぶね。もうちょっとで『勘弁してくれ』と叫ぶところだった。

 腹芸で目の前に居るリコリスの女王に敵わないことは百も承知だが、この局面で弱みを見せるべきでないのは何となくわかる。

 

「多くの人間が、お前を優秀なリコリスにするために尽力した。だというのに、ろくに役割も果たさないまま死ぬんだな」

 

「私の思う『役割』は、楠木さんが考えてるのとは違う」

 

 ───役割、役割って。楠木さんまでそんなことを言うんだ。

 もう話すことは何も無い。ふかふかのソファに別れを告げる。

 

「……話は終わっていない。座れ」

 

「人手が要るなら、たきなをここに戻してあげて。ニコルは……放っといてもたきなにくっついて来るだろうし。あの子が何かやらかした時は呼んでよ、最後の仕事はふたりと一緒が良い」

 

「…………」

 

「あ。これ(カメラ)のことは、ありがとう」

 

 右手に持ったカメラを振り振り、司令室のドアを開けて立ち去る。

 それっきり、私が本部の建物から出るまで、楠木さんは追いかけてこなかった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「お待たせ」

 

「で? 何の話だったの?」

 

「ん〜……。泥棒が自首した」

 

「何だそりゃ」

 

「ふふっ─────」

 




















竈門たきな、爆誕。
視覚と聴覚の天才が居るのに、嗅覚の天才が居ないのはバランスが悪いよなぁ!
まぁその場合、真島さんが(中の人的に)触覚と味覚の才能をも獲得してしまいそうなわけですが……。
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