萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
執筆にあたって本編を一通り見返しているんですが、筆者の脳内にしか存在しない記憶が結構あって笑っています。
このシーンもうちょっとキャットファイトしてなかったっけ? みたいな……。
I am not yet awake(1/3)
『最強のリコリス』を擁する支部へ、『ダブル・オー・ワン』の二つ名を冠する才媛と同時期に転属───というなかなか貴重な体験を経て、私は喫茶リコリコの一員となった。ちなみに後者の二つ名の意味は結局聞けず終いである。
色々と思うところはあるけれど、仕事は仕事だ。今の私がリコリスとして為すべき使命は、この和風喫茶で従業員として働き、地域の皆様の困り事を解決していくことなのだ。時たま来るらしいDA本部からの指令を待ちながら。
……これでいいのかな、私……。
「おはよう新人諸君!」
「おはようございます」
「おはようだよー!」
着任2日目。喫茶リコリコは定休日。
今日は朝から千束さんに呼び出され、さっそく喫茶店業務の研修でも行うのかと思って来てみれば、何と『今日はリコリスらしいことをやるよ!』と言う。
私としては願ったりだが、一体どういう風の吹き回しだろうか。
「んじゃ、行こっか」
◇ ◆ ◇ ◆
─────千束さんに連れられて目的地へ向かう間、昨日詰め切れなかった質問を再び投げかけてみる。
「普段は喫茶店、時々ボランティア、それに今日は
「え? 昨日言わなかったっけ。困ってる人を助ける部署、だよ」
「それはそうですが。私たちリコリスは……国を守る公的機密組織のエージェントですよ」
「お、良いフレーズだね。映画みたいでカッコいい、け、ど───」
千束さんがぐぐっと伸びをして、プラチナ・ブロンドの白髪が揺れる。
にこやかな表情は変わらないまま、ほんの半音だけ声を低くして。
「……凶悪犯を処刑して回ってる殺し屋、って言われたりも。ねぇ?」
───何か大切なことを問われている気がして、少し返答に窮した。
隣を歩く『最強のリコリス』の表情を窺う。視界の隅の遥か彼方に、奇妙な形の建造物が見えた。
私は無責任にも、この人なら勘づくだろうと思い、そのまま口を開く。
「
無数の
盛りつけを失敗したモンブランのような、鉄骨と窓ガラスの複合建造物。
かつて東京の電波事情を支えていたそれは、10年前に起きた未曾有の大規模テロの標的となり、そして錦木千束の手によって完全崩壊を免れた。
「そうね。……そうなんかもねぇ」
「しかし、新しい電波塔が完成間近なのに、何故残してるんですかね」
「壊れて出来た意味もあるんじゃない?」
「そんなものありますか?」
「さぁ? どうかな。でも、そういう意味不明なところが私は好き」
「意味ならちゃんとあるよ。テロで失われた命を悼む慰霊碑であると共に、それでも倒壊を免れたことにあやかって、『私たちはテロリズムに屈しない』っていう決意と復興と平和の象徴なんだから。自分で守ったものの癖に不勉強だね、千束」
「ハッ、お子ちゃまめ。そんなWikipediaに書いてあるような話はしてないんだな〜これが」
何なんだ、まったく。
千束さんよりニコルの方が付き合いやすい理由がわかった気がする。
この人は明朗快活だが、そのくせ変なところで素直ではない。
「意味不明が好きだから、意味不明なことしてるんですね」
「うひひ……言うねぇ」
千束さんは一歩踏み出して私の横から抜け出すと、振り返って真剣な目をする。私には理解できない種類の、含みのある笑みを浮かべて。
「ま、ともかく───DAが興味持たなくても、困ってる人はいっぱい居てさ。みんな助けを求めてる」
ウサギめいた、あるいはルビーの如き真紅の瞳が、まっすぐに私を捉えている。
「だからたきな、ニコル。力を貸して」
……。この人は、本当に……。
まぁ、ファースト・リコリスに命じられた以上は仕方ない。
私は隣のニコルと目を合わせると、左右それぞれで差し出された手を取った。
「往来で立ち止まると通行の邪魔ですよ」
「やれやれ、リコリコ支部での初仕事が先輩の撤去になるとは」
「あれぇ!? ここって何か感動的な和解のシーンじゃないのッ!?」
彼女の考えていることはよくわからないが、ただの変人に『最強』の称号は付かないだろう。
私を喫茶リコリコに送り込んだDA本部の
ならばいつか、この意味不明の
◇ ◆ ◇ ◆
目的地に到着。
東京都墨田区、押上警察署。
「こちら、新人の井ノ上たきなさん。と、その親戚でお手伝いの星谷ニコルちゃん」
「ほほう。いやぁ、またリコリコに行く楽しみが増えちゃったな」
「お店の常連さんなんだよ」
薄橙のジャケットを着崩した、温和で優しげな雰囲気の中年男性。
少々くたびれて覇気に欠ける印象ながら、柔和に細められた目の奥には、どこか鋭い輝きが覗いている。
「よろしく。警視庁の阿部です」
「はじめまして」
「はじめまして!」
警視庁の……刑事か。なるほど。
DAはその性質上、警察組織全般と関係が深い。
リコリスの存在を秘匿するため、日本国内すべての通信インフラに対する優先権を持つDAと『ラジアータ』だが、人間はプログラムで出来た生物ではない。あらゆるコミュニケーションの基本は人対人の関係であり、情報通信技術はそれを媒介する装置に過ぎない。
地域の事情に精通した協力者として、現場の刑事を選ぶのは実に合理的だ。
建物の裏口に場所を変え、阿部刑事がひっそりと話し始める。
刑事との密談───さすがに外見と
「君らにこんなこと頼むのは申し訳ないんだけど、自分の担当じゃない事件には首突っ込み辛くてね」
懐から1枚の写真が取り出された。写っているのは、眼鏡をかけた若い成人女性。
「この人、
阿部刑事はボールペンで写真の裏に連絡先を書き込み、千束さんに手渡した。
「女の子同士の方がいくらか話しやすいだろうし、ちょっと話を聞いてきてくれない?」
これが……リコリスらしい仕事、か?
まぁ、DAの情報部がいつもやっていることだと思えばわからないでもない。リコリコ支部では情報収集から執行までを一手に担うというだけだ。
さすがにストーカー程度に射殺許可は降りないけれど、現行犯なら民間人逮捕も出来る。
「了解です、刑事。うら若き乙女を敵に回すとどうなるか、思い知らせてやりますよ」
「頼もしい。くれぐれもよろしくお願いするよ、バイト代は弾むからさ!」
なんて?
「さっすが阿部さん! それじゃ、後のことは私たちにお任せあれっ。行こ、たきな!」
「え? あっはい、失礼します」
ば、バイト代……。
確かにDAでも、個人単位で要人警護などの依頼が舞い込み、報酬の授受が発生することは無くもないのだが……これは、こう、リコリスの給与規定とか職業倫理に抵触しないのか?
◇ ◆ ◇ ◆
ニコルと合流、情報共有を済ませて警察署を出る。
『英雄』と『ダブル・オー・ワン』が早くも
「次はたきな向きの仕事かもよ? 何たってボディガードだから!」
「おー、それはありがたいなぁ。わたし、護衛って苦手なんだよね」
「護衛というか……そんな大袈裟な」
さっそく千束さんが件の篠原沙保里氏と連絡を取る。
どうやら事前に阿部刑事が根回しをしていたようで、その日の内に会って話す流れになった。
指定された待ち合わせ場所に向かいながら、私は思わず呟く。
「……こんなことをしていて、評価されるのでしょうか」
「わたしガリガリ君とか結構好きだよ」
「それは
待ち合わせ場所のフードコートに着くまで、さほど時間はかからなかった。旧電波塔の近辺に隣接する商業施設。
周囲を見回しても篠原氏の姿はまだ無く、私たちの方が先に到着していた。
「なーるほどねぇ。それでさっさと汚名を返上して、DA本部に戻りたいと。……そんなに戻りたい?」
「当然です。失敗による損失は、それ以上の成功と貢献によって償う他ありません。謹慎や降格ならまだしも……、このような再評価の機会に乏しい部署への出向など。私への人事は正当だと思えません」
「じゃあ」
砂糖とフレッシュを入れたコーヒーをかき混ぜながら、錦木千束は告げる。
「なんで撃ったの?」
あまりに端的な質問。
例の作戦の顛末を聞いたリコリスなら、抱いて当然の疑問。
「あぁ。いやいや、責めてるんじゃないよ? モメたくないならどーして命令無視したのかなって」
「……お言葉ですが、例の作戦の報告書はお読みになりましたか。あの時は司令部からの通信が途絶えていたんです。つまり正式な命令は何も無く、私たちは孤立無援の状態で、敵勢力との遭遇戦を強いられていたんですよ」
「現場指揮官のフキだって居た」
「あの状況なら緊急時作戦条項が適用されます。ファーストに対する抗命権の行使は妥当でした。最も合理的な行動を選択したまでで、私……は……」
───私は。
あれが……
ファーストの指揮も聞かず、司令部との通信回復も待たず、捕虜の確保も考えず、味方を殺しかけ、ただ
「む〜……ちーさーとー! たきなお姉ちゃんをいじめるなー!」
「いじめてない。さっきも言ったでしょ、責めるつもりじゃないって」
「……え?」
一度コーヒーで唇を湿らせてから、千束さんはこう言った。
「な〜にビックリしてんの。失敗して悔しいって思うのは、
「…………」
「おまけに、結果オーライとはいえ、仲間の子は助かったんでしょ? 必死に考えて、ピンチに立ち向かって、自分の身の危険も承知で撃つって決めた! だから、たきなは大切な仲間を救えたんだ。カッコいいぞっ」
白金の髪の『英雄』は、相も変わらず屈託の無い笑顔を見せている。
同情や慈悲ではなく。ただ純粋な称賛。私を想う暖かな心。
……そんな目線を向けられたことが、これまでに何度あっただろうか───。
「うん。私、協力するよ。たきなの本部復帰に」
「えー。わたしはずっとリコリコに居て欲しいなぁ」
「えぇいこのちっこいヤツめ、あんたはいちいち私の台詞を混ぜっ返さなきゃ気が済まんのか!」
「そーゆーんじゃないよぉ、選択肢は多い方が良いって話〜。リコリスとしての使命に殉ずるだけが幸せじゃない、でしょ?」
「またわかった風な口を……、ん? ……。あー、そう……そうね。一理あるか。……ニコルのくせに」
「でもまぁ、たきなお姉ちゃんの好きにすればいいよ。千束は好きにし過ぎだけど、こういう生き方もあるって覚えておくといいんじゃないかな。リコリコで一緒に居る限りは、わたしもたきなお姉ちゃんの味方だし!」
「は、はい。ありがとうございます……?」
赤銀の『ダブル・オー・ワン』は、……千束さんほどではないけれど、ニコルはニコルでちょっとよくわからない時がある。
天真爛漫な振る舞いの一方、妙にドライというか、達観した面が顔を出す感じ……。
「─────、あっ」
「?」
「さて、お喋りはここまでだ新人諸君。仕事の時間だよ」
そして千束さんは椅子から立ち上がり、その場で大きく手を振った。
視線の先には、見覚えのある女性。写真の中の依頼人。
「沙保里さーん!」
喫茶リコリコ支部の、本当の仕事が始まる。