萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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Spin now,the gear of fortune(2/3)

 

「いらっしゃいま───」

 

 ある日、お店に春川フキと乙女サクラのバディがやってきた。

 どうもいつの間にやら、DA本部とリコリコ支部を繋ぐ連絡員のようなポジションに収まったらしい。

 

「パフェパフェ〜! 何でもいいんで、すぐ出来るヤツお願いするッス!」

 

「フッ……。フキもどうだ?」

 

「いえ。すぐ帰りますので」

 

 今日も乙女サクラは甘味にありつけそうにない。

 ただ、別に大した用事でないのは本当のようだ。例によって情報共有をするでもなく、春川フキは私に1通の封筒を渡してきた。

 

「明日までに返事しろ」

 

「これは?」

 

「恐らく復帰の辞令だ。今朝の内にメールも送られてるはずだが……営業中じゃまだ見てねぇか」

 

「……!」

 

 急いでスマホを取り出す。数件の通知。そのうちひとつは───確かに、DA本部からの指令だ。

 

「真島のアジトが判明した。突入にあたって戦力が要る」

 

「おー、よかったなぁオイ!」

 

「フキさん、ドットフィフス(わたしたち)は?」

 

「司令はお前たちの投入には慎重だ。最悪の場合を想定して、エージェント・ゴッホが裏で色々動いてる。……個人的には業腹だが、お前らは()()()()()()DA最大の個人戦力だからな」

 

 ニコルと春川フキがいくつか事務的な会話を交わすが、正直頭に入ってこない。

 唐突に降って湧いた、DA本部への復帰の機会。───嬉しいとか嬉しくないとかより、どうして今なんだ、という気持ちが一番大きい。

 

「作戦は3日後だ。変更があればまた通達する───ほら、帰るぞサクラ。先生、失礼します」

 

「え? 嘘でしょ先輩、せめて飲み物のひとつくらい」

 

「もう帰るのか? ……また来なさい」

 

「ああっ!! ぱ、パフェ〜……!」

 

 乙女サクラの襟を引っ掴み、そそくさと退店していく春川フキ。

 最近は店長も学習したので、毎回やや寂しそうな顔で見送るだけに留めている。

 

「やったな。念願の本部復帰だぞ」

 

「……。……」

 

 本気なのかどうなのか、いつものダウナーな調子でクルミが呟いた。

 

 念願……。

 そう、だったこともある。より多くの成果を上げて、私を拾い育ててくれた組織に恩を返すのだと。

 

 思えば、リコリコ支部で働くようになってからも───。

 私はどういうわけか最初から、リコリコで過ごす日々が長くは続かないように考えていた。

 結局のところ、リコリスは組織(DA)の要請があればどこにでも赴き、誰とでも戦わなければならない。

 井ノ上たきなは、錦木千束や星谷ニコルほど、強くもなければ特別でもないから。いつかは、組織の秩序の中に還ることになるのだろうと、半ば無意識に確信していた。

 

 ……今は。

 今は、どうだろう。

 

 DAのマークが刻まれた封筒を見つめる。

 店の外の仄暗い曇天は、私の胸中を写しているかのようだった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「何スかあいつ? 前は本部戻りた〜いって言ってたのに。もっと喜ぶもんかと思ってましたよ」

 

「さぁな。……バカが感染(うつ)ったんじゃねぇの」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 午後からは依頼だ。麻薬取引グループの討伐。

 千束の負担を減らすためにも、リコリス3人で来たいところだったのだが……春川フキの話とは裏腹に、ドットフィフスの面々にもその日の内に招集が掛かった。あくまで真島討伐作戦の事前協議に顔を出すだけらしいが、何にせよニコルが不在というのは痛い。

 

「あぁ、終わった〜らったった〜♪ ハァイもしもし『掃除屋(クリーナー)』さん? いつもの人でーす。あとよろしくぅ!」

 

「…………」

 

「……ん? たきなっ、後ろ!!」

 

「え?」

 

 見れば、縄で腕を縛られた犯行グループの男の一人が、果断にも足の力だけで立ち上がっていた。男はふらつきながらも全力で走り去ろうとする。

 

「あ……」

 

「ここお願い!」

 

 間抜けにもその場で呆けていた私に代わり、千束がすぐさま男を追跡する。私もそれに続く。

 幸い、数メートル逃げられただけでさしたる抵抗も受けず、男はあっさり再捕縛された。

 

「すみませんっ! 走らせてしまって……!」

 

「ううん。向こうの奴らは? 大丈夫?」

 

「……あっ」

 

 しまった。千束を追うのに必死で、グループの他の人間を……。

 

「あ~、いいよいいよ。やっとく」

 

「いえ……」

 

「そいつよろしくね!」

 

「は、……走らないでくださいね!」

 

 ───なんだそれ。そんなことしか言えないのか。

 …………何やってんだろ、私……。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 リコリコ支部への依頼が入れば、喫茶店の方は臨時休業になる。

 ぼくももはや喫茶リコリコの一大戦力だ。コーヒーのひとつくらい淹れられるようになったぞと、我らが店長閣下に報告しに来たわけだが……。

 ミカは何やら物憂げな表情でカウンターに腰掛け、煙草なんぞ吹かしていた。初めて見る姿だ。

 

「吸うんだな」

 

「罪悪感を覚えると吸いたくなる。自分を痛めつけるにはちょうどいい」

 

「そんなに不味そうに吸うならやめろ」

 

 副流煙がきついし、とまでは言わなかった。

 大柄で強面な中年男は、いつも通りの鷹揚な笑みを浮かべるだけ。

 

「千束の心臓に代わりは無い、か。本当にそうなんだろうか」

 

「何かわかったのか? 天下の『ウォールナット』は」

 

「おっと、期待させたなら悪かった。今んとこお手上げだよ」

 

 このぼくをして、誠に遺憾だが。

 

「───アラン機関。吉松シンジ……。ネットの海は広いが、彼らにまつわる情報は皆、抹消された痕跡しか無い」

 

「だろうな」

 

「で、直接知る人間から聞こうと思って、慣れない(コーヒー)など淹れたわけだが」

 

 生憎と、ぼくは沈降傾向にある人間の精神を慮るような道徳的良心など持ち合わせていない。

 千束にも、たきなにも、ミズキにも聞けないことがある。ニコルはいざとなれば何をするかわからない感じがあるけど、とにかくここで切り込めるのはぼくしか居ないだろう。

 

「ミカ。これは千束のためだ。『サイレント・ジン』の一件も、千束の心臓を壊した女も……気づいてるんだろう? 黒幕が、吉松である可能性に」

 

 喫茶リコリコ支部の管理者は。

 何かを決意した表情で、虚空を見つめながら答えた。

 

「……10年前のことだ」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───わかった。じゃあ、勝手に何か買ってから帰るね。

 

 依頼の帰り、気分転換に甘いものでも食べに行こうと提案したけど、あっさり断られてしまった。

 ありゃ重傷だな、ちょっと距離を置いた方がいいかも知れない───なんて。

 のろのろ歩いている内に雨に降られて、そのへんの高架下で雨宿りをする羽目になってしまった。

 

「……。……、おぉ」

 

 仕方がないので、楠木さんに返してもらったデジカメを確認している。バッテリーは充電されていた。まったく嬉しい退職金だ。

 写っているのは……クリーム色の髪で、スーツの男の人。

 

「ほんとにヨシさんだ」

 

 10年前の写真だから、やっぱりいくらか若々しい。

 今のヨシさんとはあれ以来会ってないし、こんなほとんど後ろ姿みたいな感じでも、嬉しいもんだね。

 

 ───写真の中のヨシさんは、あの夜最後に見せたのと同じ、どこか空疎な目をしていた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 錦木千束。

 わずか7歳にして第1級(ファースト)の証、赤い制服に袖を通すことを許された、歴代最強のリコリス。

 そのリコリスの異常性は、幼少の頃から存分に発揮されていた。

 

 模擬戦の相手は7人。うち2人か3人ほどは同年代の訓練生だが、それ以外は体格でも経験でも優る現役の精鋭だった。

 半包囲状態から放たれる訓練用ペイント弾の十字砲火を、まるですり抜けるように全弾回避して、的確な反撃を叩き込む。

 初めて銃を握って以来、彼女にダメージらしいダメージを与えられた者は、誰一人として居なかった。

 

「素晴らしい」

 

 傭兵時代のコネを通じて探し当て、接触に成功した『アラン機関』のエージェント───吉松シンジ。

 待ち合わせ場所として指定された酒場(バー)で、千束の模擬戦の記録映像を見た彼は、新しい玩具を与えられた子供のように目を輝かせた。

 

「銃では彼女を殺せそうにないな」

 

「あぁ。だが、しかし」

 

 映像の中の少女が突如として苦しみ始め、同窓生が駆け寄ったのも虚しくその場に倒れ込んだ。

 

「先天性の心疾患だ。治療法は見つかっていない。医務官の見立てでは、これから保って半年……病が彼女を殺す」

 

「ふむ……」

 

 痩身の男は、シンジは、極めて真剣な表情で、錦木千束の運命を嘆いていた。

 超常の異能にも等しい『眼』と引き換えに、あまりにも早い死を運命づけられた少女。

 

「───そうはさせません」

 

 

 

 次に会った時、シンジはひとつのジュラルミンケースを携えて来ていた。

 その中に収められていたのは、見たことも無いような奇怪な形状の、しかし精緻に造られたことが一目で理解できる機械装置。

 

「これもまた、アラン機関の支援によって生まれた才能の結晶です」

 

 アラン機関は、その"才能"の結実に必要充分なだけの支援と、金の梟のペンダントを除いて、被支援者に何も贈らないし受け取らない。

 ただし、機関が被支援者からの見返りを求めないというルールは、()()()()()()()()()()()()()と判断された場合のみ覆される。

 

「拍動に依存しない流体制御機構を採用した、完全置換型の人工心臓。現在知られている技術の数世代先を行く、最も実用に足る代物です」

 

 その他にも性能や原理について何かと力説されたが、どの部分もいまいちよくわからない。

 ただ、最も重要な部分に関して、シンジは嘘偽りなく誠意をもって語った。

 

「とはいえ……残念ながら、これでも完全ではないのですが」

 

「というと?」

 

「耐久性に課題が。恐らく……保って彼女が成人するまで」

 

「……リコリスの現役はせいぜい18だ。それだけ生きれば充分」

 

 それに対するアランの男の返答は、当の私ですら予想していないものだった。一切曇りの無い瞳で言い放つ。

 

「充分、殺しますか?」

 

「───!」

 

()()()()()()()()()、それが世界に届けられることが、最も重要な条件です」

 

 職業柄、様々な境遇の人間を見てきた。人種、経歴、職種、生育環境、思想、宗教。

 まともな人間ばかりではなかった。何らかの壮絶な経験によって"壊れて"しまった者も居れば、最初からどこかネジの外れている奴も居た。

 だが……これは。この、男は─────。

 

「……期待には応えよう」

 

 吉松シンジは、私の知る限り最も強い種類の人間だった。

 すなわち、理想を抱きながら現実に夢破れ、それでもなお立ち上がった者。あるいは最初から、理想のために生きて燃え尽きる覚悟を持ち合わせ、この地上に生まれてきた者。

 己と世界の狂気を飲み下した、真に無敵の生命体。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「───お前も、千束を殺しの道具として見ていたのか」

 

 確かミカは、元・DAの訓練教官で、一時は司令官も務めていたんだったな。

 まぁ、ぼくも大いに後ろ暗い身の上ではあるから、そういう点についてとやかく言うつもりは無いが。

 

「いつ変わった?」

 

「……」

 

 この場合、重要なのはそこだ。

 いくら手ずから命を救った最大戦力とはいえ、この男は()()()()()()()1()()に肩入れし過ぎている。

 

「最初は千束を介した繋がりでしかなかった私とシンジの関係は──()()()そうなのかも知れないが──いつしか、個人的な付き合いになっていてな」

 

「あぁ」

 

「千束の心臓の置換手術を、間近に控えた夜だった。シンジが……妙なことを言ったんだ。千束を私に託す、と。DAではなくあくまで私に、と念押しして……そういう約束を交わした。シンジは……。……千束の、ことを」

 

 ─────『私たちの娘』だと。

 

 それが、すべての答えだった。

 

「……余分な話が混じってしまったかな」

 

「いや。奴の人となりも、何かの手がかりにはなるだろう」

 

 なるほど。泣かせる話だ。24時間テレビで取り上げれば、日本中の感動を掻っ攫うことは間違いない。

 しかしぼくの冷静で知的な思考を司るモジュールは、同じく脳内に現れた架空の日本全国のお茶の間とは、いささか異なる感想を出力していた。

 すなわち……"こいつらと吉松はきっと、根本的なところでわかり合うことは無いのだろう"という、悲観的な予測を。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 それから、私と先生は『親子』になった。

 

 いつだったかフキに言われた『先生(教官)持っていっといて親離れもねーわ』って台詞は、ぶっちゃけかなり的を射ていると思う。

 

 DA本部の医療棟で過ごした日々を覚えている。

 ちょっとでも身体への負担を減らすために──たきなみたいな言い方──与えられた機械式車椅子で、建物の中を走り回っていた時。

 

「……ん?」

 

 落ち着いた紺のスーツを着た、見慣れない男の人が座っていた。

 先生や楠木さん、司令助手さんみたいな例外はあるけど、リコリスではないDAの職員の制服は、主に警察官のそれに似ている。

 ここは医療棟だから、白衣やナース服や入院着でないというのも妙だ。

 何より、その人のすぐそばには、先生も立っていて───。

 

「あっ。……、わかった! あなたでしょ? 私を助けてくれる人!」

 

 初めて喋った時のヨシさんは、こんな感じだった。

 

「人違いだよ。私はここの職員だ」

 

「うそだぁ。ここにそんなかっこいいスーツ着た人いないよぉ」

 

「ハハハ……、ありがとう」

 

「ううん。ありがとうは私の方!」

 

 ヨシさんも先生もばつが悪そうに、でも嬉しいのを隠し切れない様子で笑っていた。

 私は、この人たちのために何かをしてあげられないかと、本当に真剣に思った。

 

「どうお礼したらいい?」

 

 クリーム色の髪の下で、穏やかな微笑が熱を帯びる。

 車椅子の私と座るヨシさん、ふたりの視線がしっかり重なった。

 

「───君には、大きな使命がある。それを果たしてくれ。そのために私は……差し詰め、"救世主"となったんだ」

 

 アラン機関。

 あらゆる才能を発掘し、支援し、世界に届ける秘密組織。

 そのエージェントである吉松シンジ(ヨシさん)が、彼が世界に羽搏(はばた)かせた才能が、一体どれほどの人々を救ってきたのか。

 当時はそんな組織の存在も、『子供たち(チルドレン)』の活躍も知らなかったけれど。それでも、ヨシさんの瞳から伝わってきた強い気持ちが、今も私の心の一番深いところに燃えている。

 

「……きゅーせーしゅ、かぁ」

 

 私は、

 

「ありがとう」

 

 車椅子から立ち上がって、短い腕を頑張って伸ばして、ヨシさんの首にどうにかしがみつく。

 今なら……どうかな。ちゃんとしたハグ、してあげられるのかな?

 

「私もなる。きゅーせーしゅ!」

 

 その『救世主』さんは、私の声に何も答えなかったけど……両肩に手を置いて、私の身体をしっかりと車椅子に戻してくれた。

 

「……すまん」

 

 先生が小さく何か呟いていた気がする。この部分についてはよく覚えていない。

 ヨシさんの去り際、私はデジカメを取り出した。今になってわかったけど、あれは()()()()()()に備えて、写真くらいは遺させてやろうって先生の心遣いだったんだと思う。

 

「きゅーせーしゅさーん! チーズ!」

 

 パシャリ。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「せん……せい。こわいよ……」

 

「心配ない。お前は元気になる」

 

「でも───」

 

 すべてを凍てつかせるような冷たい手術台の上で、すべてを焼き尽くすような無影灯の光の下で、その大きな手だけが暖かかった。

 

「……あ」

 

「大丈夫」

 

「……。きゅーせーしゅ、さん」

 

 そうして、私の鼓動は消える。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「……最後に、千束にあのペンダントとデトニクスを託して、それきりだ。だから、千束はあれを『救世主の銃』と───『人を助ける銃』だと言う」

 

 救世主……ね。

 あぁ、まったく。なんて便利で曖昧な言葉だ。

 

「以来、シンジは姿を消した。私の前からも」

 

「千束が殺しをしないのはそういうわけか。……皮肉だな」

 

 親の心子知らずとはよく言うが、子の心の方だって親が知らないことはある。

 いくら親子だろうと、結局のところは別々の生物でしかなくて。他人に何かを任せる時ってのは、期待するのと同じくらい、思い通りにならないことを覚悟するべきなのだ。

 

「……。しかし……なぜ千束の命を狙う?」

 

 ミカたちと吉松の過去の因縁については理解した。

 お次は具体的な現在(いま)の話をするとしよう。

 

「それは……私にもよくわからん。機関が与えた使命を果たさない者を、処分するつもりだろうか」

 

「だったらあの看護師が殺してたんじゃないか? ……まぁ、事態の大枠は読めた。ぼくを狙ったアランはたぶん吉松だし、思想からして過去に真島を支援していたとしてもおかしくはない。1000丁の銃の方はまだわからんが、奴らが組んで何か企んでる可能性は高いな───」

 

 

 

 

 

「真島を捕えれば、千束の心臓についてわかるんですか?」

 

 

 

 

 

 うおっ……ビックリした。

 こいつはまた、厄介なヤツが来たもんだ。

 

「たきな? ……聞いていたのか!?」

 

「はい。ミズキさんも」

 

「うぇ!? あ、アタシまでバラさなくったっていいじゃない〜!!」

 

 カウンターの陰から声……おいおい。お前まで盗み聞きかよ、さすがは元・情報部だ。

 つーかたきな、傘も差さずに帰ってきたのか? びしょ濡れじゃないか。

 

 ───しょうがないな。

 ここはひとつ、濡れた寒さも吹き飛ぶようなホットな話題をくれてやろう。

 

「アラン機関は徹底した秘密主義だ。吉松の足取りが掴めない以上……」

 

「……?」

 

「動きの派手な真島から追うのが早い。D()A()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 たきなの瞳の奥に、小さな火花が散った。

 

「……。……断ろうと、思ってました」

 

「何でだ。せっかくの本部復帰だろうに」

 

「…………」

 

「千束の、最期の2ヶ月だもんね」

 

 ミズキがわざとらしく答え合わせをする。

 だが、それはもはや、たきなが自分の気持ちを封じ込める理由にはならない。

 

「でも私───DAに戻ります。千束が生きられる可能性が、少しでもあるのなら!」

 

 たきなの目には、ある種の人間だけが持つ鋭い光が宿っていた。

 その姿を見たミカもまた、強い決意を持って頷く。

 

「私から千束に伝えておこう」

 

「いえ。自分で言います……時間をください」

 

 賽は投げられた。(Iacta alea est.)

 錦木千束の、井ノ上たきなの、喫茶リコリコの運命がどう転がるかは、まだ誰も知らない。

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 はぁ〜。スッキリした。

 

「よう」

 

 小便を終えて部屋に戻ると、僕の椅子に真島が座っていた。

 

「……、……わ───っ!! いつの間に!?」

 

 マジで勘弁して!!

 ドアが壊されなかったのは進歩だけど、せめてアポ取ってから来てくれよ! もうこの際だし家に上げるくらい許してやるから!

 

「なァ。錦木千束(あいつ)が『ヨシさん』っつーヤツのこと話してたんだけど、お前何か心当たりとか無ぇの?」

 

「はぁ? あるわけ無いだろ、誰のことだよそれ……わー!? 待て待てッ! 銃を抜くなぁ!」

 

「お前、アランのヤツから依頼受けたっつってたよなぁ……。そいつが『ヨシさん』じゃねぇのか?」

 

「そ、そうだとしても、それ以上のことは知らないんだよぅ! アラン機関は徹底した秘密主義で、セキュリティのレベルはDAと同じかそれ以上だっ。あいつの居場所を探れ、とか言われてもわかんないぞ!?」

 

「チッ……。良い作戦を思いついたんだが」

 

 舌打ちしたいのはこっちの方だ。

 ……まぁ、僕だって普段なら、依頼を受けたら相手の評判くらいは調べる。

 けど……あの『アランの男』については、ウォールナットを倒せる機会に飛びついちゃったから、あんまり真面目に調べてなかった……なんて言いにくいよなぁ。

 ついでに、そんな個人的な事情は抜きにしても、インターネット上にはアラン機関の情報がろくに無いってのも事実ではある。

 

 さて、どうしたもんか───と考えていると、スマホに着信があった。

 ……知らない番号だ。どうしてこの僕の携帯番号が漏れてる?

 そして、真島の方を見てみれば、あいつのスマホにも同じ番号から電話が掛かってきている。

 

「な……なぁ、これ……」

 

「あー、俺の知り合いだ。出ていいぞ」

 

 マジかよ。

 

「えーっと……もしもし?」

 

<あぁ。初めまして、■■君>

 

 ─────え?

 

<こちらから一方的に声をかけたことはあるが、話すのは初めてだね。私は……そうだな。こちらも(まこと)の名を明かすのが筋か。私の方は、もはや何の意味も無いが>

 

 ……なん、で。

 

「■■ァ? ロボ太、お前そんな名字だったのかよ」

 

「ぁ……、……は?」

 

 こいつ……こいつは、

 

<虎よ。君にも改めて名乗っておこう。私の名は、蘭堂(らんどう)

 

 なんで……()()()()を知っている……!?

 ぼ……僕にはもう、3親等以内の親族は居ないはずだ! 情報操作で戸籍との繋がりも切ったし、ネット上でも『ロボ太』として活動し始めてかなり経つ。

 僕が■■■■だと知ってる人間なんて、それこそ、ウォールナットでもなきゃ有り得ない───。

 

<アラン機関の情報を欲するならば、我々が提供しよう。対価については───悪魔は契約を守る、とだけ言わせてもらおうか>

 




















ロボ太君の本名ですが、筆者が内心勝手に当てはめてる名前はありますが、設定として明確に意識してるものは無いです。公式が後から何を言ってくるかわかんないので!
なので読者の皆様に色々と想像してもらえばよく、文字数的に「綾波レイ」とか「鳩羽つぐ」とかでも全然かまいません。
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