萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
錦木千束とかいう2022年最強の誘い受け
「いぃ〜らっしゃいませ〜! らっしゃいませ〜! ららららっしゃいらっしゃいっ、ららしゃいま、いらっしゃいまっせ〜!」
「じゃかぁしいっ!!」
「あっごめん」
千束オリジナル・いらっしゃいラップを披露していたらミズキに怒られた。
しかし、いらっしゃいラップで無聊を慰めたくなるのも仕方ない。今日はなんか……『例のパフェ』騒動も一段落し、同時に客入りも落ち着いてしまったので、久しぶりに営業中も暇なのである。
「……あーあ。暇だな……、おっ」
とか言って油断してたら、普通にドアのベルが鳴った。念願のお客さんだぁ。
さっそく、いらっしゃいラップで鍛えたいらっしゃいコールを……。
「いらっしゃいまー! ……お、おおお、お?」
扉を開けると私服姿のたきなであった。
あら……? 昨日から本部に呼ばれてるらしいニコルはともかく、確かに今朝は出勤遅いなーと思ってたけど。
「……おかえり?」
「ちょっとお話が」
「えっ」
こいつめ。話聞けよ。
……。あー、でも……何かちょっと、たきなさんらしさが戻ってきたような?
「で……何ごっこ?」
座敷席にて正座。たきなも正座。
たきなの目はだいぶ真剣で、明らかに初動を間違えた気しかしなかったのだが、幸い特に何も言われなかった。
「そうですね。強いて言うなら」
「強いて言うなら?」
鞄から何かを取り出し、ちゃぶ台の上に置くたきな。
どれどれ。これは……冊子? えーと、『あそびのしおり 〜休暇プログラム〜』───。
「恋人ごっこです」
「ぶほっ」
この女マジで言ってる?????
「まぁ、それは冗談ですけど。単なるお出かけのお誘いです。本当はニコルや御門も誘いたかったんですが……」
「えぇ? あー、だからデート……って、いやいや言い方ァ!」
ビックリしすぎて心臓止まるかと思ったわ!
も〜、無駄に驚かさないでよ! バッテリーの心配してくれてたんじゃないの!?
「嫌ですか?」
「嫌……なわけ無いけど。そりゃあ、全然行きたいけど……」
今日は暇だからまだ良いようなものの、いま普通に営業中ですしおすし……。
などと思いつつ、こっそり先生の方へ目配せする。
「行ってこい」
やったぜ。さすが先生、話がわかるぅ。
◇ ◆ ◇ ◆
それではさっそく、たきなさん謹製の『あそびのしおり』に従い、やって参りましたのは旧電波塔。
「まずはここかぁ」
思い出は……色々ある。良いことも悪いことも。
10年前、リコリスとしての戦いの原点となったのがこの場所だった。いま思えばすべての始まりだった沙保里さんの『例の写真』について、相談を受けたのもここのフードコート。初夏にはみんなで買い物にも来たし、
「……てかさ。寒くない? それ」
もうすっかり冬だよ、タキナンティウス。今日はどうして半袖なの?
「これ千束が選んだやつですよ」
「夏服だろ……。他の無いの?」
「無いです」
あぁ……そういやあれ以来、一緒に服とか買いに行ったこと無いわ……。てっきり私服くらい自分で買うようになったとばかり。
かーっ、色々気遣いの出来る子に成長したと思ったらこれだよ。まったくしょうがないねぇ───。
「よぅし! だったらこの千束さんが、たきなの冬バージョン選んじゃるよー!」
というわけでショッピングモールへダッシュ。
いつぞやの繰り返しのように洋服屋さんに向かい、たきなを試着室へ押し込む。
「わっはー!!」
「やっぱたきな、良い素材だわ~!」
いやー、最高だね。ご覧なさいよこのファッションモデルぶりを。写真撮ってニコルたちにも送っちゃお、うふふ。
次はコートだな。これから寒くなってくるし。たきな的には、あんまりモコモコし過ぎてない奴が好みかしら?
「あ」
……などと考えていると、たきなのスマホからアラームが鳴った。
こんな時に何の予定を入れてたんだろう、と一瞬思ったが。
「時間です。移動しましょう」
「え? でもまだコート……」
「時間無いのでこれで!」
「えぇ~!?」
まさかと思って『あそびのしおり』を確認してみたら、その……ほとんどの予定がきっかり30分あるいは1時間、移動にかかる時間に至っては5分や10分刻みになっており……。
タキナンティウス。こういうのはね、もっと余裕持って設定しとくもんだよ。1日で色んなとこ行きたい気持ちは、痛いほどよくわかるけどさ。
◇ ◆ ◇ ◆
ゲームセンター、コスメショップ、パンケーキ屋さん───。
食事の時間までギリッギリだったのはちょっぴり閉口したが、まぁいいさ。たきなが考えてくれた初めての……えと……デートプラン、なんだし。
急いで詰め込んだパンケーキをもぐもぐ咀嚼しながら、たきなの後について歩く。
次はいつもの水族館だっけ。……あれ? でも、今日って確か……。
「……、あっ」
館内の、少なくとも入り口から見える範囲の照明は落ちている。
立てかけられた看板には、『本日水槽の整備のため臨時休館』という旨が書かれていた。
「ドンマイ。人生、計画通りにはいかないもんだよ」
言わんこっちゃない。たきなは表面的にはクールだけど、意外に直情型だからなぁ。
予定を考えて『しおり』を作るのに必死で、行き先ひとつずつのことまで頭が回らなかったんでしょう。まったくカワイイやつめ。
「どうしましょう……」
「ふふふ」
「?」
まぁ、こんなこともあろうかと……っていうのは嘘だけど、代案ならいま思いついた。
魚がダメならまた魚、だ。ちょうどここから行ける範囲に面白い場所がある。
「問題ナッシン。たきな、ついて来んさい!」
◇ ◆ ◇ ◆
───池。
街路樹。椅子。おじさんたち。
「トラブルを楽しむのが千束流だよ」
一本の棒から伸びる、針のついた糸をちゃぽんと垂らして、寒風ひとつ。
何とも風流だ。ここは隅田公園の隣の釣り堀である。
「…………。……釣れませんね」
「釣れないねぇ」
その点については私も失敗だった。魚がダメだったから魚を見に来たはずなのだけれど。
うふふ……しかし、こんなやらかしもまた旅情なり、か。
「楽しい……ですか?」
おん? 何言ってんのこの子は。
「楽しいよ。たきなと居ればさ」
楽しくないわけが無い。リコリコのみんなでわちゃわちゃしているのも好きだが、たまにはこうして少人数でゆっくりするのも良い。
それに、何というか……やっぱりたきなとは、一度ちゃんと話しておきたい感じでもあったし。
「…………」
「お。時間ですな」
たきなのスマホが鳴った。
残念ながら釣果は鳴かず飛ばずだ。悔しい。さっきパンケーキ食べたとこなのに、お寿司食べたくなってきた。
◇ ◆ ◇ ◆
「なぁ……蘭堂さんだっけ? 情報提供には感謝するけどさ。見返りがこんな……単純なデバッグ作業でいいの?」
<君の頭脳と仕事の速さを買ってのことだ。我々は個人主義者の雑多な集いでしかないが、それでも
「は? ちょ……ちょっと待て。アンタ、アラン機関だけじゃなく、ウォールナットとも知り合いだったのか?」
<さてな。アダムズはともかく、
「はい……」
<すまないが、急用が出来た。私は席を外させてもらうよ。作業を続けてくれたまえ>
◇ ◆ ◇ ◆
どくどくと溢れる鮮血が、雨天時用の排水溝を流れ落ちていく。
薄暗いアパートの廊下、深紅の海に沈んだ空間で、ただひとつ立ち上がる影があった。
「……助けなきゃ」
右手には、片刃の
左手には、DAの技術研究部が開発した特殊装備、
「千束」
入居者の7割が暴力団関係者、残りの3割が彼らと何らかの利害関係にある───その近所では有名な、"ヤクザアパート"と呼ばれる建物だった。
銃を持った者が居た。短刀を持った者が居た。
「千束」
『それ』に立ち向かった者は、全員死んだ。
「千束」
ギチュイィィン、という強烈で不吉な金属音が響く。
「だめだよ」
背後からバタフライナイフによる刺殺を狙っていた男は、意を決して走り出した次の瞬間、左の脇腹にチェーンソーを捻じ込まれて両断された。
「───まだ、わたしの千束に、なってないんだから」
その表情に笑みは無い。喜びは無い。何の達成感も無い。
『それ』はこの世に生まれ落ちてから、ただの一度も──あるいは、たった一度の機会を除いて──、安らぎというものを得られたことが無い。
新たな気配を感じ、ゆっくりと振り返った『それ』の視線の先に、一人の男が立っている。
時代がかった古風な和装を身に纏う、糸のように細い目をした老爺だった。
◇ ◆ ◇ ◆
───結構遠いね~。どこ行くの?
───秘密です。
『あそびのしおり』の一番最後に書かれた予定は、『秘密です。』という素っ気ないコメントだけだった。
何度聞いてもそれと同じ台詞しか返ってこず──別に危ない場所には行かないだろうが──、少々不安になって……。
「へっくしゅん!!」
いたのは直前までで、到着してみればなんてことは無かった。
「だからコート買えば良かったんだよ~」
今、私たちは、東京の街並みが一望できる小高い丘に居る。
ベンチに座って他愛もない話をしながら、穏やかな時間を過ごしている。……たきなの健康状態はちょっと穏やかじゃないけど。
「ほれ」
「すみません……」
放ったらかしておくのも酷なので、私のマフラーを外して巻いてやった。温めておきましたお館様、なんつって。
私? そりゃあ寒いけど、まぁうん。鍛えてますから。ドヤッ。
「……、……」
「………………」
しかし。
それにしても───。
「何か待ってる?」
昼間はガチガチにスケジュール固めてきたと思ったら、急に立ち止まっちゃって。
たきなは……一瞬だけ子供のような目をした後、静かに顔を伏せて言った。
「……。……雪。
え。
「……あー。ははっ……それで」
最近の気象予報やお天気アプリの精度はすごいけど、それこそ天気なんて予定通りには変わらない。
だいたい、雪なんて降ったらそれはそれで困る。本格的に風邪引いちゃうぞ貴様ー。
「完璧なスケジュールのはずだったんですが……」
「神様は気まぐれだからなぁ」
「……。今日だけは……やめて欲しかった、ですね」
それは、
「なんで?」
「なんでって……」
「───DAに復帰が決まった、とか?」
「!!」
ふふん。千束さんには
ニコルじゃないけど、10年も
「やっぱり〜。やったじゃん! いつ?」
「明日……」
「嬉しくないの?」
「……わかりません」
「そっか」
あぁ───それは。
たきなには申し訳ないけど、
私たち、たきなの居場所に、ちゃんとなれてたってことだもんね。
「雪……確かに降ったら良かったねぇ」
「……、はい」
それを聞くと、俄然神様に腹が立ってくる。
せっかくのたきなの栄転だっていうのに、お祝いの紙吹雪も用意してくれな……いや、下手なことを考えると本物の吹雪がやって来そうだ。今のは無し。
「───理不尽なこと、ばかりです。……そうは思いませんか?」
今夜の天気も。『例の作戦』の時、たきなに下された処分も。
それから、たぶん……、私の……。
「私たちは神様じゃない。自分の手が届く範囲のことしかどうにもならない」
知ってるよ。この世界は理不尽で、不公平で、冷徹で、残酷だ。
それに嘘をつくことは出来ない。私たちの手から零れ落ちるものがあるって現実を、小綺麗な理屈で取り繕うことは許されない。
「でも……だからこそ、みんなで手を取り合うんじゃないかな。誰かが誰かと出会って、お互いの足りない部分を補って……もっとたくさんの人や、大きな夢に手を伸ばす。そうすれば、ほんのちょっとずつでも世界は平和になる。いつかきっと───みんなが幸せになれる日が来る」
ただ。世界は理不尽で残酷だけれど、それでも、
この広い地球の全土を見渡しても、本当は"敵"なんかどこにも居ないってことを、私は信じている。
「……その日が、今日や明日じゃなかったとしても?」
「だとしても。それに、
今日私が受け取った幸せを、明日誰かに受け取ってもらえるなら、私はそれだけでもっともっと幸せなんだ。
「私が何でも完璧に出来る神様だったら、たきなと友達になろうなんて思わなかったかもね。そんなの絶対つまんないし……うん。今日は、めっちゃ楽しかったぜっ」
たきなと目が合う。出会った頃と比べて、感情豊かに……いや、感情が見えるようになってきた菫色の瞳の中に、私の顔がしっかりと映っている。
「やるな」
握り拳を作って、差し出す。
……既に差し出しといて何だが、たきなは
「───、やったぜ」
こつん。
……、……ふわぁ~っ!! ヤダ、千束さん超感動……!
ぴろろん。
一人で勝手に感動していると、たきなのスマホがまたまたアラームを鳴らした。
おや? 『しおり』の内容はほぼ消化したし、さすがに今から追加のイベントは無さそうだが。
「あ……。ごめんなさい。実は辞令への返答がまだで、今日中にと言われてるんです。異動に関わることなので、書類はDAに指示された窓口まで行かないと……」
「えぇ!? そんな大事なこと後回しにしてたの? あぁこっちはいいから、急いで〜!」
まったくこの子と来たら! ひとつ熱中すると周りが見えなくなるんだから、もう……!
「わ、わかりました。……でも、これ」
この期に及んで何? あっ、マフラー?
「餞別だ、持ってけ!」
本当はもっとちゃんとしたプレゼントをあげたいところだけど、時間が無いので仕方ない。大切にしてね。
「……、ありがとう。行ってきます」
おーおー、本当に急げよな。楠木さんそういうのマジで待ってくれないから。後でめんどくさいぞぅ。
慌ただしい別れになってしまったけれど、その分、走り去っていく背中をしっかりと見つめた。
足取りは軽く、それでいて力強く、後ろ姿は頼もしい。うん。たきなはもう大丈夫だ。
ニコルやフキとも、こうやって時間取ってあげた方がいいかなぁ……なんて、柄にもなくしんみりしていると─────。
「あ」
視界の隅に、白いものがちらついた。
マフラーを外した首筋に鋭い冷たさが触れ、思わず身を震わせる。……しまった、早く新しいの買わなきゃ。
「おぉ〜」
予定より20分ほど遅いものの、これで今度こそ『あそびのしおり』の内容は完遂だ。
ありがとう神様、最高の演出だ。あんた良い映画監督になれるよ。
「───!」
丘の下に戻る階段を見てみれば、たきなもこちらを振り返っている。
花開くような満面の笑み。淡雪が降りしきる冬の夜更け、そこだけ一足先に春が来たみたいだった。
◇ ◆ ◇ ◆
人気の無いトンネルを、一台の自動車が走っている。黒塗りでスポーツカー風のハイエンドモデル。
その後部座席に座る男の携帯端末に、最近は──具体的には10年ほど──あまり見ることの無かった名前と番号から着信があった。
男はまず自分がその連絡先を削除していなかったことに驚き、続いて相手が10年ずっと同じ電話番号を使い続けていることに驚いた。
「……?」
しかし結局、男が電話に出ることは無かった。端的な事実として。
出る気があったのかどうかは、もはや誰にもわからない。
「!」
運転手の女がブレーキを踏んだ。車の進路上に人影があったからだ。そして、その人影の正体が、彼らにとって無視できない存在でもあったからだ。
「どうした」
「いえ……その……」
当惑する女が言い淀んでいる内に、周囲の暗がりから拳銃で武装した集団が現れる。
後部座席の男と運転手の女も自衛の手段は備えているが、自身らの命と───車で運搬していた『あるもの』を守りながら逃げ切ることは、不可能だ。
「はじめまして、ヨシさん」
武装集団の頭目───緑髪の男・真島が、チェシャ猫のような笑みを浮かべた。