萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
原作見直してるだけでおつらい……おつらいよぉ……。
Shadow of eclipse(1/3)
今日もコツコツと情報収集をやっている。
一流のハッカーは研鑽と時流の把握を怠らない。
「本当に論文から追えるの?」
「あんな人工心臓、治験は難しいだろ」
「まぁ、『入れてみて失敗!』になったら大事だ」
こういう情報分析や思考の整理はニコルが居てくれると一番捗るんだが、普通に不在だ。なので、次善の策としてミズキを付き合わせている。
あいつは千束やたきなと違ってリコリコにずっと居るわけじゃないから、ぶっちゃけミズキの方がよく喋っている気もする。
「まず理論だけが先にあって、非合法に実験する機会を与えた。つまり、千束と『心臓を造ったチルドレン』の両方に利があったんだ」
「リスクの高い人体実験をやるなら、戸籍の無いリコリスがうってつけってわけか。……どいつもこいつも、胸糞悪いヤツばっかりね」
ちなみにそのニコルは、真島討伐作戦───の実施にあたって動員される各管轄地のリコリスに代わり、東京中の悪人を片っ端から殲滅する任務に就いているらしい。
リコリコだとちょっと趣味が偏ってるだけのごく一般的なJCにしか見えないが、レールガンで殺されかけた身としてはぞっとしない話だ。
「それはともかく、アラン機関が人工心臓の理論を提唱した"チルドレン候補"に目をつけたきっかけが、どこかにあるはずなんだが……」
「クルミ? ……ヨシさんがどうかした?」
「わっ!?」
げえっ千束!
くそ〜。普段うるさいくせに、こんな時ばっか
「いやその! 千束、これはあの〜……エロい、男の。ちゅ〜……」
おいミズキ、お前はお前で何てこと言ってくれるんだ。そんなんで誤魔化せるとでも思ってるのか。
「? …………」
「ちゅ……チュウ。チュ〜……」
わぁ、千束ちゃんのジト目だぁ。貴重な表情だこと。
ミズキは後で絶対にしばく。
「───はぁ」
あー、もう。だから嫌だったんだよ。千束に見つかったら……そう。
絶対こんな顔するだろうなって、簡単に予想できたから。
「やっぱ、もう終わりにしようかね」
「……え?」
えっ……。
「リコリコは閉店しま〜す。えへ」
何言ってんだこいつ。『えへ』じゃないが?
こないだまで散々『閉店だけはダメだ!』って話してたじゃないか。
「あんまり私のことで時間取るのもみんなに悪いし。このお店は、最後まで楽しい場所じゃないとね!」
「千束はそれでいいのかよ?」
「いや、だから。元々いつかは来る日だったんだよ? 思ってたより長かったくらい。ねぇミズキ」
ミズキは……そっぽを向いて何も言わなかった。
酒瓶は出してあるが、酔っていない。虚空に視線を彷徨わせているようで、その実、カウンターのミカの方を見ている。
視線を寄越されたミカは、黙って千束を見た。千束は、お得意の曖昧な微笑を維持したまま、ぼくたちをぐるりと見回した。
……何なんだ、お前たちのその目は。
「さぁ! みんなもたきなを見習って、自分の道へ戻りたまえ〜。ヘイ、ユー! ミズキはどこに行きますか?」
「はっ? ……あー、そうね。SNSで知り合った、バンクーバーのイケメンに会いに行こうかしら」
「わーお。どれどれ?」
妖怪婚活メガネはスマホをいじりながらそう言い、千束は表示されている画面を覗き込む。感想は『うわぁムキムキ』とかそんなんだった。
こいつも元・DAの情報部なんだから、簡単に足抜けさせてもらえるとも思えんが……そうか、リコリコにはミカが居たな。彼の発言力とリコリコ支部の功績、組織と10年間距離を置いてた事実があれば、何とかなりそうだ。
「ヘイ、クルミは?」
「ぼくは───」
というか、ぼくの事情はこないだ言わなかったっけか。
あぁ、いや……正確には、そうでもないな。
「
「アンタ、未だにDAに追われてるもんね」
「潮時だな。日本を出るよ」
「へぇ。次どこ行くの? ドイツとか?」
「何でドイツ……あっ、ボードゲームか!」
「お、物知りだねぇミズキ。そうそう。やっぱ本場だし、おっきいコンペもあるし」
ドイツね。なるほど。
冬が厳しいのは若干不安だけれど、菓子も美味いし悪くない。
「ならお前も来いよ。旅券くらいは用意してやる」
「あは。それもアリかなぁ。でも、先生が寂しがるからやっぱダメー」
……強情な奴め。
それとミカ、コーヒー豆の瓶数えるのやめろ。それ、"話は聞いてるけど興味ない"フリする時の癖だってのはわかってるんだぞ。
「いつか、たきなやニコルを誘ってあげて」
「───。……、あぁ」
本当に。
馬鹿な、奴だ。
◇ ◆ ◇ ◆
───DA関東本部、第1会議室。
本部でも最も広いブリーフィングルームであり、首都圏全域の危機に関わる案件でしか用いられない。つまり、正真正銘の決戦の構えだ。
……その割には、ここが使われる時は俗に『全校集会』などと呼ばれたりもするが。
「4月の武器取引に始まり───地下鉄襲撃、リコリス殺害、警察署襲撃。これらすべての事件の首謀者が、真島と呼ばれるこの男です」
会議室正面のメインモニターに映し出されたのは、毒々しい緑色の髪の男。招集されたリコリスたちが一瞬ざわめく。
リコリス殺害事件のみならず、地下鉄での戦闘においても、奴の仕掛けた爆弾によってかなりの犠牲者が出たと聞く。動揺や恐怖より、怒りの声が多く上がっているように思えた。
「世界中を股にかける戦争屋だ。10年前に
展開される資料の中にごく小さく、見覚えのある白金の髪が映り込んでいた。
あれは……、この間会った彼女に比べてずいぶん幼い。10年前、7歳当時の千束だろうか。
「……あんなガキの頃から、ファーストの制服」
春川フキを挟んで2つ隣の席の、乙女サクラが呟いた。
にわかに信じ難いことには同意するが、私は千束ならおかしくはないとも思う。
「真島は国内外を問わず複数のマフィアや思想犯の依頼を受けて、連中が貸し出した兵隊と雇われの傭兵を束ね、戦後類を見ない規模の私設武装組織を形成している。奴らの最大目標は……新電波塔、延空木」
「我々は既に、真島一派に接触した組織の構成員の一人を確保しています。その者から得られた情報を精査した結果、真島の潜伏場所を割り出すことに成功しました」
「全力で攻撃する。奴に付き従う者はすべて敵だ。徹底的に叩き潰し、真島を引きずり出して殺せ」
楠木司令が、いつになく遊びの無い声で宣言した。
───決戦の地は、東京湾にぽつりと浮かぶ、一隻の貨物船。
◇ ◆ ◇ ◆
東京湾に面した海沿いのアパート───は、あくまで予備の仮住まいであり、外部の人間と会う時に使う応接室のようなものだった。
一派を支援する中華系マフィアのコネを利用し、日本で活動するその傍流組織を
「ほーん……。心臓、ね」
蘭堂から提供された情報と吉松の証言をすり合わせ、ロボ太に纏めさせた資料を閲覧する真島。
拘束されながらも余裕を崩さない痩身の男に対し、緑髪の戦争屋は嘲りを込めて笑った。
「お前らの関係はだいたい把握した。悲しい勘違いだな」
吉松の表情は、フラットな状態から微動だにしない。
「いやぁ……お前も罪な奴だ。憧れの『ヨシさん』がこんな腐れ外道だと知ったら、さぞかしガッカリするだろうなぁ。あいつに同情しちまうぜ」
真島はチェシャ猫めいた笑みをさらに深めた。
「まぁ、そのおかげで俺は電波塔で命拾いしたわけだが」
一触即発の雰囲気を感じ取り、真島のパソコンから遠隔で傍聴していたロボ太が慌てて言った。
<だ、だから忠告したんだアラン機関! 僕は裏切ったわけじゃないぞっ!>
実際のところ───ロボ太が真島を制御できる器でないことは、吉松も理解していた。
適当なところで盤面から退場するだろうと、その程度の期待しかされていない駒だった。
故に、吉松はロボ太をウォールナットのように手ずから排除しようと
「でもよォ。思い通りにならなかったから処分するってのは、お前らの流儀じゃねぇだろ。せっかく支援してやったのに
「……」
「そういう落ちこぼれ……つっても、さすがにマジの凡人よか有能だろうから、『近似値』とでも言うか。そんな連中が消されたって話は聞いたことが無ぇな。お前、大丈夫なのか?」
殺戮の才を見出された『チルドレン』が、金の梟のペンダントをちらつかせて問う。
アランの男は3秒だけ沈黙し、すぐに反論した。
「彼女が道を違えたのは私のミスだ。私はただ己の過ちを正し、責任を果たすまで。機関の理念に反することは何も無い」
「詭弁にしか聞こえねぇがな。じゃあ俺も殺すか? 自分で言うのも何だが、俺を生かしといても世の中に利益なんてもたらさないと思うぜ」
「
真島は即座に懐のチアッパ・ライノを抜いて突きつけた。
自身が買い付けた1000丁に含まれていない、それ以前からの愛銃だ。
「
それを聞いた吉松は、わずかに唇の端を持ち上げた。通勤電車の中で喚く子供を見るような目をしている。
「……。俺も
「アランの理想を果たせるならば。この命、惜しくはない」
真島は、明確な殺意を込めて吉松を睨みつけ───。
「…………ハッ」
あっさりと銃を下ろし、心底不愉快そうな顔をした。
錦木千束のデータが表示されたパソコンの画面を横目に見ながら、
「気色の悪いったらねぇぜ、まったく」
これが普段の拷問の仕事なら撃ち殺していたが、今はまだ吉松を切り捨てるわけにはいかない。彼にはそれなりの利用価値がある。
「昔よかマシになったって聞いてたが、いざ薄皮一枚剥いでみりゃこの有様とはな。やっぱお前らもDAも同じだわ。コソコソ隠れて、手前勝手な正義で世界を操ろうとしやがる」
世界を股にかける戦争屋は、世界を股にかける夢想家に向かって、完全に真剣な調子で告げた。
「───DAの後はお前らだ、アラン機関。本丸はどこだ? あァ?」
「……フッ」
真島は吉松に、花畑で交尾をする昆虫を見るような目を向けた。
全身が総毛立つような怖気と、脳の奥で煮え滾る怒りとが、真島の心中を等量で支配していた。
◇ ◆ ◇ ◆
やって来た緑色のタクシーは、何とAIによる完全自動運転で、運転席に誰も乗っていなかった。
あの護衛依頼の後で中古のタクシー車を購入し、業者に頼んで電子制御システムを後付けしてもらっていたものらしい。
「今度はケースに入らず空港に行けるね」
褒めたつもりだったのだが、クルミはいつになくムスッとした様子で返事をしてくれなかった。
何だか最近、誰も彼もが私に対してこんな態度を取っている気がする。遺憾だわぁ。超遺憾だわ。
「どうした〜、可愛い顔が台無しだぞぅ」
などと言ってほっぺたをプニプニしていると、
「───、……。世話になった」
「なぁに? らしくないなー」
ほとんど消え入りそうな声でクルミは言った。
それから、改造タクシーが発進するまで、クルミは私と目を合わせようとしなかった。
もう片方の後部座席に乗ってる、ミズキの方は……。
平常心、って顔してるな。湿っぽいのは確かに嫌だが、もう少し別れを惜しむ素振りくらい見せくれたってよくない?
「ミズキも達者でなー」
「うん。応よ」
握り拳をこつん。
あぁ、でも、一人くらいはこういう仲間が居てもいい。
別れすら悲しくならずに済むのは、本当に信頼し合える相手だった証拠だ。
先生の方を見てミズキは続ける。
「んじゃ、千束のこと任せたから」
「あぁ」
「アンタも。あんま無茶言いなさんな。オッサンだってもう歳なんだから」
「へいへい」
───それから、別れの言葉をわざわざ告げるでもなく、改造タクシーは静かに発進して行った。
緑色の車体が夕日の向こうに消えるまで、私と先生はずっとその行き先を見つめていた。
◇ ◆ ◇ ◆
「……」
「…………」
「……。……仕方ないだろ。千束の望みだ」
「は。何も言ってないでしょ」
「それに……まだ、たきなが居る」
◇ ◆ ◇ ◆
DA本部、重要参考人収監房。
リコリスは犯罪の兆候を事前に察知して芽を摘むことを旨とするが、一人の敵がさらに大きな敵に繋がっていると判断された場合、こうして拘束するに留める時もある。
「───真島の依頼主だな」
禿頭で小太りの、紫色の服を着た男が、監房のベッドに寝転がっている。
海外に居た真島を日本に迎え入れ、その初動を支援していた中華系マフィアの傍流組織の一員。
「……もう全部話したろ。連中の狙いは延空木だ」
「武器を供与したのはお前か?」
「またそれか……。逆だよ、俺らは兵隊の方だ。使う人間が少なけりゃ意味ないだろ、銃1000丁なんて」
「では吉松か?」
「吉松ゥ? 誰だそいつは?」
のそりと起き上がった男が、鉄格子に近づいてくる。
「───お前らが『リコリス』か。こんな奴らに仲間を殺されてたとはな」
鉄格子の隙間を縫って、男の腕がこちらに伸びる。
せめてもの抵抗、散っていった仲間たちの無念を少しでも……と言ったところだろうか。
生憎だが、そんなものに付き合ってやる義理は無い。
「うっ!?」
その腕を取って床に引きずり倒し、スキンヘッドを踏みつける。
これで中華系マフィアの傍流組織の構成員とは、お笑い草だ。まるで殺意が足りていない。
「や……やめろぉ!」
「実は私、殺し過ぎでここを一度クビになっていまして」
「は?」
「ただ……外での暮らしも、割と楽しかったものですから。また1年や2年クビになるのも悪くないかと───」
「しっ、知らん! 吉松って誰だよ!? 本当に知らないんだ!」
「なら銃は!!」
「『長老』は真島と手を組んだと言ってた!
「それが吉松───アラン機関ですか」
「わかんねぇ……。いや待て、アラン機関だと? その名前なら、どこかで」
「あっ!? ぐあぁぁ!! 肩が……!」
「やはり吉松か」
当事者から話を聞けたのは良かった。これで、ほぼ確信的な疑惑が、信頼度の高い事実に変わった。
まだ具体的に何かわかったとも、取れる選択肢が増えたとも言い難いが……それでも、方針を決定する一助にはなる。
「待てゴラァ!! ガキィッ、殺すぞォー!!」
良く吠える豚だ。本当に、殺意が足りていない。
ニコルなら口に出す前に5回は殺している。
◇ ◆ ◇ ◆
閉店のお知らせのビラを作って、お店のドアに貼りつけた。
やっぱり寂しいような、けれど清々しいような……色んな気持ちが入り混じって、上手く言葉にならない。
<───ついに完成する延空木。その完成セレモニーが明日に迫る中、会場周辺の準備が着々と進んでおります……>
あの小型モニターからニュースを聞くのも、もう最後だろうか。
今は、カウンターに独り座って、写真アルバムをめくっている。
初めて『喫茶リコリコ』制服を着た時に……わ、何これ。座敷席で居眠りしてやんの。私、かっわいい〜。
思い出に浸っていると、めくられるページを止める手があった。色素の濃い大きな手。
「あー。見てたのに」
「もう……片付けてるんだぞ」
ご尤もだ。でもこう、わかんないかな〜先生には?
掃除中に部屋の奥から出てきた、古い漫画の単行本からしか摂れない栄養素があるんだよ。この場合はアルバムだけど。
そういう意図を込めて抗議の視線を送ると、先生はあっさりと手を離してくれた。ちょろいね。
「おっ、リッキーだ! 可愛かったなぁ」
「フフ……」
リッキー。諸々の縁が重なって引き取ることになり、しばらく飼っていた柴犬。5年ほど前に亡くなったが、それまでは私とリッキーでリコリコ看板主従だった。
写真にはリッキー、私、それから珍しいくらい満面の笑みの先生。……あれ、じゃあ誰に撮ってもらったんだコレ?
「…………」
「……」
「ねぇ、先生」
まぁ〜、たぶん偶然会った常連さんだな。
写真撮るのが上手そうなのは、阿部さんとか山寺さん辺りか。
「これからどうすんの?」
───
ダメだな、私。覚悟はしてたはずなのに、いざその時が来ると未練たらたらだ。
「明日か? まず、朝は不動産屋……」
「そうじゃなくて。バイト雇ったりして、
「そうして欲しいのか?」
そりゃあ……して欲しいに決まっている。
でも、たきなはDA本部に戻ったし、ミズキはバンクーバー、クルミはドイツだ。
ニコルの進路はまだ聞けてないけど……ともかく、この店は元々、私のワガママで始めたものだ。先生はそれに付き合ってくれただけに過ぎない。
だから先生も、自分の道のことは、自分で考えて決めてくれればいいと思う。
店の外に出る。
木製のドアには、自分で作った閉店のお知らせが貼りついている。
これが、私の旅の終わり。錦木千束という人間の、本当の最後。
「……いつまでそうしてる?」
えー。まだ10分も経ってないでしょ。
そう言おうとして、念のためスマホを確認したら、30分近く経っていた。
「あぁ、はいはい」
「もう閉めるぞ」
体感的にはついさっきまで居た店内に戻る。
コーヒーと木の香りがする。10年前からずっと変わらない、もしくは10年かけて育てた、私たちのお店の匂い。
「この店とも、ちゃんとお別れしないとなー」
「……。……あまり無理するな」
「───、先生にはお見通しか」
……やっぱり寂しいですよ。
その内心を、思わず口にしないでいられなかったかは、少し自信が無い。
「コーヒー、淹れるか」
「ん〜……。ぜひ!」
そうそう。先生のコーヒーも、10年かけて美味しくなったんだよね。