萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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Time for great choice(3/3)

 

<よう。愚民ども>

 

 新電波塔、『延空木』。

 その完成セレモニーの最終段、電波送信システムの実働開始と共に、初の電波ジャックが行われた。

 

「……!? 延空木からです!」

 

「───遮断しろ」

 

「『ラジアータ』のアプローチ、侵入から放送カットまで見込み90秒!」

 

 DA司令部の読みはまたもや外れた。真島一派の目的は延空木の破壊ではなく──それ()であるかも知れないが──、利用だったのだ。

 それは、奇襲と排撃に特化した組織の体質上生まれた思考の癖であり、なまじ100年以上の"成功体験"を重ねてきたが故の慢心だった。

 

<本日、(わたくし)めが皆様にお伝えしたいことはただひとつ。お前たちも聞いてはいるだろう? 時代の話だ。海外に目を向けてみろ。他の国はテロやら戦争やらでドンパチやってるのに───>

 

 セレモニー会場に、否、延空木からの電波が配信されている東京中に動揺が広がっていく。

 

<我らがニッポンだけは平和そのもの。気持ち悪いくらいにな>

 

 緑髪の男は朗々と声を張り上げる。

 戦争屋として訓練してきた煽動(アジテーション)の技能をフルに活かす、絶好の舞台だった。

 

<民度の高い国民だから? 日本人ってすごーい! ってか? ハッ───取り柄の無いやつに限って、カテゴリに誇りを持ちたがる>

 

 そして男は真実を告げる。

 この歪で狭い島国だけが認識していない、世界すべてが共有しているはずの真実を。

 

<……テロは何度も起こっているのさ。隠蔽されてしまうだけだ。虚偽と誇張にまみれた平和の押し売り……汚点にはとにかく蓋をする>

 

 一拍遅れて、事態を関知した各政府機関が動き出した。

 もはやDAだけの問題ではない。彼らの『上層部』にあたる政界の魑魅魍魎たちが、あらゆる種類の保身と便()()の手段を整えつつある。

 

<この国には、そんな薄汚い"平和"に執着する連中が居るんだよ。俺はそれが気に食わない>

 

 映像の中の男は、懐から何かを取り出した。

 チアッパ・ライノ。2インチの200DSモデル。

 夕日の影のような黒色に鈍く艶めく、殺人のための装置。

 

<だから───>

 

 ドン、という多くの日本国民が聞き慣れない音がした。

 男の背後に広がっていた青空に、放射状のヒビが走る。銃撃によって展望台の窓が砕けたのだ。

 

<これと同じものを都内にバラ撒いた>

 

 そのパフォーマンスを見た瞬間、楠木は稲妻に打たれたかのような衝撃を受けた。

 これですべてが繋がったのだ。4月から続く真島一派の暗躍の意味が、これで説明できる。

 

「1000丁の銃は、このためか……!」

 

 真島が海外から引き連れてきた各組織の手勢と、一派に協力する海山會の構成員を合計しても、その人数は精々が200を超える程度だと推測されている。

 200人の兵隊に対して5倍の銃。兵站に余裕を持たせるにしても明らかに過剰なこの数は、()()()()()()()()()をテロリストに変えるための───。

 

「……銃を持った一般人には()()()()ッ!! 絶対に発砲するな! ()()()()()()()()()()()()()()ことが、ヤツの真の目的だ!!」

 

 この国における善と悪の天秤が、大きく傾こうとしていた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「……、? 何だこれ……オモチャ?」

 

「───!! そこのお前、銃を捨てろッ!!」

 

「え!? い、いや違う! 俺は……あっ!?」

 

 ドン、という多くの日本国民が聞き慣れない音がした。

 混乱と、悲鳴の唱和が、広がっていく。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

<さぁ、心のままに撃て!! そして奴らから身を守れ!!>

 

 心底愉しくて堪らないといった様子で、映像の中の真島は両手を広げた。右手にはチアッパ・ライノがぶら下がっている。

 

<手にした力で何をするかはお前ら次第だ! 嘘偽り無い世界の真実を───>

 

「延空木からの電波、遮断しました」

 

 ここでようやく、『ラジアータ』による情報封鎖が実を結ぶ。

 だが、1分34秒の演説と、1年間の暗躍によって真島一派がもたらした被害は、それだけで到底カバーし切れるものではなかった。

 

「……、……司令……。『本部』から、連絡です」

 

 楠木は歯噛みして応答せざるを得ない。

 

<───楠木君。これはどういうことかね?>

 

 DA司令部のモニターに、紫色のスーツを着て口髭を生やした初老の男が映し出された。

 独立治安維持組織『Direct Attack(ダイレクト・アタック)』に存在するもうひとつの暗殺部隊、『リリベル(Lily bell)』の司令官───虎杖(いたどり)

 

「……情報操作は『ラジアータ』でどうとでも可能です。リコリスの存在は必ずや秘匿されます」

 

 形式上、楠木と虎杖は対等の立場ではある。

 だが、DAの活動の要たる各政府機関との連携に関しては、明治時代以来の伝統によってリリベル側の権勢が強かった。本質的に『上層部』との繋がりが深いのも彼らの側だ。

 

<しかし、君たちの存在を日本中に向けて示唆されてしまった。これはこの100年で最大の失態だぞ。我々DA(組織)の存続、ひいては日本の国防を根幹から揺るがす一大事だ>

 

 楠木は最高速度で思考し、頭の中で反論を組み立てていくが、それよりも事態の進行する方が速い。虎杖が何かを口にするのも。

 

<───『錦木千束』を何故使わない? こういう時のために飼っていたんじゃないのか>

 

 錦木千束。DAのリコリス部隊が擁する最強のエージェント。

 旧電波塔事件を解決した英雄であり───混沌へと向かう世界情勢の中、政府上層が国内の治安維持という課題に対して、リリベル(軍隊)ではなくリコリス(暗殺者)を重用する決定打となった人物でもある。

 

「作戦立案は我々(リコリス)にお任せください。千束を使わずとも、今の我々にはドットフィフスが居る。制御可能な高級戦力は揃っています」

 

<……楠木君。我々(リリベル)を甘く見ているのではないか? もう一度言う。錦木千束を使え。それ以外の()()()では話にならない>

 

 そして、千束があらゆる困難を解決する切り札(ジョーカー)などでないことは、楠木が最も身に沁みて理解していた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───中国・香港、港湾マフィア『17Q』。

 

龍頭(ボス)、日本の蘭堂殿から伝言です。『星辰は揃い、咒は成った。黒き月を眠りから起こせ』と」

 

「……そうか。よく報せてくれた。よし、ムンバイに繋げろ。メッセージはこうだ。『氷炎から苦艾へ。黒き月と最果(いやは)ての光』」

 

 ───インド・ムンバイ、盗賊キャラバン『プシュパカ・ラタ』。

 

「『苦艾』から『無明』へ。黒き月と最果ての光」

 

 ───カタール・ドゥハーン、新興宗教系秘密結社『無常旅団』。

 

「『無明』から『暴食』へ。黒き月と最果ての光」

 

 ───イタリア・パレルモ、シチリア系マフィア『アルレッキーノ・ファミリー』。

 

「『暴食』から『戦禍』へ。黒き月と最果ての光」

 

 ───ロシア・サンクトペテルブルク、武器密輸シンジケート『ズメイ・ゴルイニチ』。

 

「『戦禍』から『終局』へ。黒き月と最果ての光」

 

 ───アメリカ・フェニックス、麻薬カルテル系ギャング『ディオニュソス』。

 

「『終局』、了解。……オーケイ兄弟、これまで世話になったな。パーティーの支度は頼んだぜ。俺たちの友情と、ヴァルハラ行きの花火に乾杯!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 スマホから、滅多に聞かない種類の通知音が鳴り響いた。

 最大級に嫌な予感がして、カウンターの小型モニターの電源を点けた。ほぼ同時に、お店の電話が鳴る。

 

<え〜、繰り返します。本日、完成セレモニーが行われていた新電波塔、延空木が正体不明のテロリストに占拠され、電波ジャックされた模様です。主犯はこちらの20代後半から30代と見られる男性と───>

 

「……何、これ」

 

 全国放送のニュースの画面に映っているのは、毒々しい緑色の髪の男。

 春から続く一連の事件の黒幕であり、恐らくはヨシさんと何らかの繋がりを持ったテロリスト・真島だ。

 

「……もしもし。喫茶リコリコ」

 

<ミカ。私です>

 

「楠木か」

 

<千束に代わってください>

 

 楠木さん。……これは……DAは、何をやってるんだ?

 

 そして、非常事態はそれだけに留まらなかった。

 またもやスマホが鳴る。ビデオ通話の着信……知らない番号からだ。

 だが、この状況と無関係であるとは思えない。すぐさま電話に出て───。

 

「っ!?」

 

 思わず、息を呑んだ。

 

<聞こえてるな? 電波塔のリコリス>

 

 奇妙な機械音声が聞こえてくると共に、画面に表示されるカメラの映像。

 薄暗い部屋に……身体を縛られて椅子に座らされた、男の人。

 クリーム色の髪と、少し汚れているがきっちりとした紺のスーツ。胸元に輝く、金の梟のエンブレム。

 

「千束は……ちょっと今、手が離せそうにないんだが」

 

「先生、貸して! ……千束ですっ」

 

 ヨシさんだ。間違いない。

 楠木さんからの電話に出つつ、スマホの画面を先生に見せる。

 

「……!」

 

<事態は把握しているな。今すぐ延空木に向かえ。我々と合流し、制御室に陣取る真島を討つんだ>

 

 右手の受話器から楠木さんが言ったかと思えば、

 

<おっと、お前が延空木に近づけばこいつの命は無いぞ。ついでに、逃げることも許さない! 旧電波塔に爆弾を仕掛けた。逃げれば1時間で起爆する!>

 

 左手のスマホから何か知らないやつが言う。

 あーもう、用件ならどっちか片方にしてよ……!

 

<どうした千束? ……誰と話している?>

 

「え? あ、いえ……」

 

<フン。お前のようなリコリスに来られると都合が悪い。だがどうだ? 吉松(こいつ)の命が懸かってるんだぞ>

 

「楠木。すまないがこちらも緊急事態だ。また後で掛け直す。……信じてくれ」

 

 見かねた先生が楠木さんに話をつけてくれた。

 そうだね……先生だって、ヨシさんのことを見捨てたくはないよね。

 

<あぁ、それでいい。下手なことをするなよ。ずっとお前らを見ているからな>

 

 ……この感じ……。こいつもしかして、クルミと同じハッカーか?

 ちらりと窓の外を窺うと、ドローンらしき小さな影が中空を浮いているのが見えた。

 

「───。罠だろうな」

 

 敵のハッカーの通話が切れてから、先生はそう言った。

 声音は重苦しかったけれど、そこに迷いは感じられない。

 

「だからって、見殺しには出来ない」

 

「千束。さっきも言ったが、シンジは」

 

「先生を疑ってるわけじゃない。けど、ヨシさんに会って、直接聞きたい!」

 

 私だって、もう迷わない。曖昧なままにはしたくない。

 辛くても、苦しくても、それが私の今『やりたいこと』だから。

 

「……。武器庫の弾薬が処分できそうだな。ありったけ持ってこい!」

 

「先生……」

 

「延空木はたきなやフキが守ってくれる。あの二人もお前と同じ、私の優秀な教え子だ。それに、ニコルたちが東京全体の守りを固めてるのは聞いただろう? 背中のことは気にせず、前だけ向いて走れ」

 

 ───あぁ、そっか。そう……だよね。

 私だけじゃない。みんな一緒に戦ってる。

 誰もが神様じゃないから、私たちは手を取り合って、お互いを支えて生きていくんだ。

 

 晴れ着をしまい、地下室に戻る。

 銃の手入れよし。弾は持てるだけ全部持ってく。

 準備中、ふと気配を感じて振り返ってみれば、何と今回は先生も出撃するらしい。最高の援軍だ。

 

「さて」

 

「用意はいいか」

 

「もちろん───」

 

 行こう。

 私たちの『救世主』を、助けに!

 

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