萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
<よう。愚民ども>
新電波塔、『延空木』。
その完成セレモニーの最終段、電波送信システムの実働開始と共に、初の電波ジャックが行われた。
「……!? 延空木からです!」
「───遮断しろ」
「『ラジアータ』のアプローチ、侵入から放送カットまで見込み90秒!」
DA司令部の読みはまたもや外れた。真島一派の目的は延空木の破壊ではなく──それ
それは、奇襲と排撃に特化した組織の体質上生まれた思考の癖であり、なまじ100年以上の"成功体験"を重ねてきたが故の慢心だった。
<本日、
セレモニー会場に、否、延空木からの電波が配信されている東京中に動揺が広がっていく。
<我らがニッポンだけは平和そのもの。気持ち悪いくらいにな>
緑髪の男は朗々と声を張り上げる。
戦争屋として訓練してきた
<民度の高い国民だから? 日本人ってすごーい! ってか? ハッ───取り柄の無いやつに限って、カテゴリに誇りを持ちたがる>
そして男は真実を告げる。
この歪で狭い島国だけが認識していない、世界すべてが共有しているはずの真実を。
<……テロは何度も起こっているのさ。隠蔽されてしまうだけだ。虚偽と誇張にまみれた平和の押し売り……汚点にはとにかく蓋をする>
一拍遅れて、事態を関知した各政府機関が動き出した。
もはやDAだけの問題ではない。彼らの『上層部』にあたる政界の魑魅魍魎たちが、あらゆる種類の保身と
<この国には、そんな薄汚い"平和"に執着する連中が居るんだよ。俺はそれが気に食わない>
映像の中の男は、懐から何かを取り出した。
チアッパ・ライノ。2インチの200DSモデル。
夕日の影のような黒色に鈍く艶めく、殺人のための装置。
<だから───>
ドン、という多くの日本国民が聞き慣れない音がした。
男の背後に広がっていた青空に、放射状のヒビが走る。銃撃によって展望台の窓が砕けたのだ。
<これと同じものを都内にバラ撒いた>
そのパフォーマンスを見た瞬間、楠木は稲妻に打たれたかのような衝撃を受けた。
これですべてが繋がったのだ。4月から続く真島一派の暗躍の意味が、これで説明できる。
「1000丁の銃は、このためか……!」
真島が海外から引き連れてきた各組織の手勢と、一派に協力する海山會の構成員を合計しても、その人数は精々が200を超える程度だと推測されている。
200人の兵隊に対して5倍の銃。兵站に余裕を持たせるにしても明らかに過剰なこの数は、
「……銃を持った一般人には
この国における善と悪の天秤が、大きく傾こうとしていた。
◇ ◆ ◇ ◆
「……、? 何だこれ……オモチャ?」
「───!! そこのお前、銃を捨てろッ!!」
「え!? い、いや違う! 俺は……あっ!?」
ドン、という多くの日本国民が聞き慣れない音がした。
混乱と、悲鳴の唱和が、広がっていく。
◇ ◆ ◇ ◆
<さぁ、心のままに撃て!! そして奴らから身を守れ!!>
心底愉しくて堪らないといった様子で、映像の中の真島は両手を広げた。右手にはチアッパ・ライノがぶら下がっている。
<手にした力で何をするかはお前ら次第だ! 嘘偽り無い世界の真実を───>
「延空木からの電波、遮断しました」
ここでようやく、『ラジアータ』による情報封鎖が実を結ぶ。
だが、1分34秒の演説と、1年間の暗躍によって真島一派がもたらした被害は、それだけで到底カバーし切れるものではなかった。
「……、……司令……。『本部』から、連絡です」
楠木は歯噛みして応答せざるを得ない。
<───楠木君。これはどういうことかね?>
DA司令部のモニターに、紫色のスーツを着て口髭を生やした初老の男が映し出された。
独立治安維持組織『
「……情報操作は『ラジアータ』でどうとでも可能です。リコリスの存在は必ずや秘匿されます」
形式上、楠木と虎杖は対等の立場ではある。
だが、DAの活動の要たる各政府機関との連携に関しては、明治時代以来の伝統によってリリベル側の権勢が強かった。本質的に『上層部』との繋がりが深いのも彼らの側だ。
<しかし、君たちの存在を日本中に向けて示唆されてしまった。これはこの100年で最大の失態だぞ。我々
楠木は最高速度で思考し、頭の中で反論を組み立てていくが、それよりも事態の進行する方が速い。虎杖が何かを口にするのも。
<───『錦木千束』を何故使わない? こういう時のために飼っていたんじゃないのか>
錦木千束。DAのリコリス部隊が擁する最強のエージェント。
旧電波塔事件を解決した英雄であり───混沌へと向かう世界情勢の中、政府上層が国内の治安維持という課題に対して、
「作戦立案は
<……楠木君。
そして、千束があらゆる困難を解決する
◇ ◆ ◇ ◆
───中国・香港、港湾マフィア『17Q』。
「
「……そうか。よく報せてくれた。よし、ムンバイに繋げろ。メッセージはこうだ。『氷炎から苦艾へ。黒き月と
───インド・ムンバイ、盗賊キャラバン『プシュパカ・ラタ』。
「『苦艾』から『無明』へ。黒き月と最果ての光」
───カタール・ドゥハーン、新興宗教系秘密結社『無常旅団』。
「『無明』から『暴食』へ。黒き月と最果ての光」
───イタリア・パレルモ、シチリア系マフィア『アルレッキーノ・ファミリー』。
「『暴食』から『戦禍』へ。黒き月と最果ての光」
───ロシア・サンクトペテルブルク、武器密輸シンジケート『ズメイ・ゴルイニチ』。
「『戦禍』から『終局』へ。黒き月と最果ての光」
───アメリカ・フェニックス、麻薬カルテル系ギャング『ディオニュソス』。
「『終局』、了解。……オーケイ兄弟、これまで世話になったな。パーティーの支度は頼んだぜ。俺たちの友情と、ヴァルハラ行きの花火に乾杯!」
◇ ◆ ◇ ◆
スマホから、滅多に聞かない種類の通知音が鳴り響いた。
最大級に嫌な予感がして、カウンターの小型モニターの電源を点けた。ほぼ同時に、お店の電話が鳴る。
<え〜、繰り返します。本日、完成セレモニーが行われていた新電波塔、延空木が正体不明のテロリストに占拠され、電波ジャックされた模様です。主犯はこちらの20代後半から30代と見られる男性と───>
「……何、これ」
全国放送のニュースの画面に映っているのは、毒々しい緑色の髪の男。
春から続く一連の事件の黒幕であり、恐らくはヨシさんと何らかの繋がりを持ったテロリスト・真島だ。
「……もしもし。喫茶リコリコ」
<ミカ。私です>
「楠木か」
<千束に代わってください>
楠木さん。……これは……DAは、何をやってるんだ?
そして、非常事態はそれだけに留まらなかった。
またもやスマホが鳴る。ビデオ通話の着信……知らない番号からだ。
だが、この状況と無関係であるとは思えない。すぐさま電話に出て───。
「っ!?」
思わず、息を呑んだ。
<聞こえてるな? 電波塔のリコリス>
奇妙な機械音声が聞こえてくると共に、画面に表示されるカメラの映像。
薄暗い部屋に……身体を縛られて椅子に座らされた、男の人。
クリーム色の髪と、少し汚れているがきっちりとした紺のスーツ。胸元に輝く、金の梟のエンブレム。
「千束は……ちょっと今、手が離せそうにないんだが」
「先生、貸して! ……千束ですっ」
ヨシさんだ。間違いない。
楠木さんからの電話に出つつ、スマホの画面を先生に見せる。
「……!」
<事態は把握しているな。今すぐ延空木に向かえ。我々と合流し、制御室に陣取る真島を討つんだ>
右手の受話器から楠木さんが言ったかと思えば、
<おっと、お前が延空木に近づけばこいつの命は無いぞ。ついでに、逃げることも許さない! 旧電波塔に爆弾を仕掛けた。逃げれば1時間で起爆する!>
左手のスマホから何か知らないやつが言う。
あーもう、用件ならどっちか片方にしてよ……!
<どうした千束? ……誰と話している?>
「え? あ、いえ……」
<フン。お前のようなリコリスに来られると都合が悪い。だがどうだ?
「楠木。すまないがこちらも緊急事態だ。また後で掛け直す。……信じてくれ」
見かねた先生が楠木さんに話をつけてくれた。
そうだね……先生だって、ヨシさんのことを見捨てたくはないよね。
<あぁ、それでいい。下手なことをするなよ。ずっとお前らを見ているからな>
……この感じ……。こいつもしかして、クルミと同じハッカーか?
ちらりと窓の外を窺うと、ドローンらしき小さな影が中空を浮いているのが見えた。
「───。罠だろうな」
敵のハッカーの通話が切れてから、先生はそう言った。
声音は重苦しかったけれど、そこに迷いは感じられない。
「だからって、見殺しには出来ない」
「千束。さっきも言ったが、シンジは」
「先生を疑ってるわけじゃない。けど、ヨシさんに会って、直接聞きたい!」
私だって、もう迷わない。曖昧なままにはしたくない。
辛くても、苦しくても、それが私の今『やりたいこと』だから。
「……。武器庫の弾薬が処分できそうだな。ありったけ持ってこい!」
「先生……」
「延空木はたきなやフキが守ってくれる。あの二人もお前と同じ、私の優秀な教え子だ。それに、ニコルたちが東京全体の守りを固めてるのは聞いただろう? 背中のことは気にせず、前だけ向いて走れ」
───あぁ、そっか。そう……だよね。
私だけじゃない。みんな一緒に戦ってる。
誰もが神様じゃないから、私たちは手を取り合って、お互いを支えて生きていくんだ。
晴れ着をしまい、地下室に戻る。
銃の手入れよし。弾は持てるだけ全部持ってく。
準備中、ふと気配を感じて振り返ってみれば、何と今回は先生も出撃するらしい。最高の援軍だ。
「さて」
「用意はいいか」
「もちろん───」
行こう。
私たちの『救世主』を、助けに!