萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
本作はロボ太くん救済SSとなっております。
Deadline is approaching(1/3)
───新電波塔『延空木』近傍。
私たちはDAの大規模移動用バスに乗り込み、作戦変更の通達と部隊の再編成を受けている。
<……真島一味は、起爆予想ポイントの第1展望台に───>
「た……たきな。戻れて、よかった……」
隣の席になった……えっと、あぁ。『例の作戦』で私が銃を向けてしまったセカンド、蛇ノ目エリカだ。
私に向けて何かを呟いているようだが、声が小さいのでよく聞こえない。
「あの……! わたし、ずっと話そうと思ってたんだけど……」
う〜ん……。あの件については私も充分反省しているから、もう彼女に気を遣ってもらう必要は無い。
今はブリーフィングに集中して欲しい……とは、いくら何でも言いにくいか。
<それでは、編成を発表します>
バスの各部に備え付けられたモニターに、再編成された部隊のメンバーリストが表示される。
私は春川フキをリーダーとする『
───だが。
看過できない問題が、ひとつ。
「……!」
「たきな?」
『
今はここに居ないはずのリコリス。そして、きっとこんな場所に居るべきではない人。
「千束を呼んだんですか!?」
錦木千束の名前が、その編成表には組み込まれていた。
<井ノ上たきな、席に着きなさい>
「司令っ! 千束は!」
<奴は来ない。連絡がつかなくなった>
え?
「連絡が? ……店長もですか?」
<そうだ>
それは……。
事情を知る私としては、千束がこのような作戦を避けてくれたのは、喜ばしいことだけれど。
「何故、です?」
<知らん。事ここに至って、もはや我々には関係の無いことだ>
でも、
「たきな! 会議中だぞ!」
「この状況を見て二人と連絡がつかないなんて、絶対変ですよ!」
そうだ。形はどうあれ、今が首都圏の存亡に関わる一大事であるという事実は動かない。
錦木千束の事情ではなく、
<たきな。千束とドットフィフスを欠いている今、戦力の不足を懸念する意見は理解できる。だが奴らは運用に相応の慎重さを要する
「そんな話をしているんじゃありません! 私は……!」
<それとも、何か? お前は
……話にならない。
こんなにも融通が利かない相手だったのか? 楠木司令は。千束が嫌うわけだ。
「───、納得できません」
<何だと?>
「そこまで言うのなら……私が。私が、錦木千束を捜索して来ます」
『やりたいこと最優先』、だ。
「おいッ!」
「作戦までには戻ります!」
バスを飛び出して、喫茶リコリコの方へ向かって走り出す。
これまで散々助けられてきたんだ。ここで助けてあげられないで、千束の
◇ ◆ ◇ ◆
「くそ、たきなァ……! あいつまた!」
<もういい。好きにさせろ。たかだか2人欠員が出た程度で破綻するような作戦は立てていない>
「お言葉ですが司令、あのような逸脱行為を許していては規律に関わりますッ」
<言い忘れていたな。
「……え?」
<これ以上議論を続けるつもりは無い。時間の無駄だ。ブリーフィングを続けるぞ>
「わ……。たきな、ほんとに出て行っちゃった。えと……ぷ、プランB、だよね。ニコルちゃんに知らせなきゃ……」
◇ ◆ ◇ ◆
ドアを開けると、リコリコの前に一台の車が停まっていた。
……あれだな、こいつもたぶん、ハッカーの息が掛かったやつだ。私もいい加減慣れた。
ずっと警戒していても仕方ないので、堂々と乗り込む。ナビの画面から加工音声が鳴った。
<携帯は置いてきたな?>
「まぁ、うん。でもハッカーなら携帯の通話くらい妨害できんじゃないの?」
<そうしてもよかったが、僕だって労力はなるべく削減したい。それと、お前らがちゃんとこっちの指示に従うかどうかも試したかったんでな>
いけ好かねぇ〜。
クルミはパツキン碧眼の激マブ美少女だったけど、こいつは絶対底意地の悪い痩せた眼鏡小僧だわ。
つーか、クルミで思い出したけど、もしやこいつアレか? 護衛依頼の時からたまに話してた……。
<以降はこの通信だけを許可する。僕の誘導に従え>
「ちっ。わかったからさっさとしろ、
<お、おぉ? 僕のこと知ってるのか!? ハハ……ま、今やウォールナットを超える最強のハッカーだからな! へへ!>
調子の良いやつだ。真島と協力さえしてなければ友達になれたかも知れない。
だがお前は真島と協力しているし、クルミの命も狙ったので許さん。ナビの画面を蹴りつける。
<うおっ!?>
「早くしろって言ってんだろ」
<は……、発進しろ>
……意外と動揺しないな。真島に普段からこういう扱いされてるのかしら。
だったら同情する。やっぱり許さんけど。
◇ ◆ ◇ ◆
着信音が、1回。2回。3回───。
「っ、出ない……」
急がなきゃ。
リコリコまでは……まだ少し距離がある。作戦開始時刻と、千束の捜索にかかりそうな時間を勘案すると……。
くっ、タクシーでも拾うか? もしくは、DA傘下の業者から車両を提供してもらって、
「ハロー、
……聞き間違いかと思ったが、どうやらそうではなかったようだ。道路の角で、何者かが私を待っている。
170cmを超す長身。目と口を除いて、頭部全体を覆い隠す包帯。───
「あなたは」
「前に一度だけ会ったね。オレはゴッホ……エージェント・ゴッホ。ニコルの同僚って言えばわかるかな」
「……ドットフィフスは、真島討伐作戦中の穴埋めとして、東京全体の守りを固めていると聞きましたが」
「それについては安心してくれ。オレたちはここ2日で、
エージェント・ゴッホは、顎をしゃくって自身の後方を示した。
そこには、一台の大型バイクが鎮座している。白を基調として赤と黒の差し色が入った、狐や龍を思わせる流線型の車体。DAの備品というよりは特撮番組か何かに出てきそうな、文字通りのモンスター・マシンだ。
「うちの隊長の指示だ。カボチャの馬車はご所望かい?」
返事は───迷うまでもない。
「……ぜひ!」
◇ ◆ ◇ ◆
何やら上等なソファに身を沈めた。良い座り心地だ。おまけに頼めばワインも出る。
「ラウンジ! 最高だわぁ〜っ」
あんまり大きな声では言えないけど、隣に居る妖怪インターネット穀潰しにはもう足を向けて寝られない。
「初めてアンタと一緒で良かったと思った」
「もう行くからな」
「はいはい」
いやー、旅券といい空港までの足といい、コイツには世話になりっぱなしだ。
バンクーバーのイケメンとゴールインした暁には、彼が山の方に持ってるらしい別荘に招待してあげるとしましょう。
「……。……」
ん?
普段からダウナーなクルミだが、コイツはこんな雰囲気の割に意外と調子乗りだ。
それが今は……なんというか、本当に深刻そうな表情に見える。
「……ぼくはともかく。お前こそ、最後まで千束と一緒に居るべきじゃなかったのか?」
あぁ……何だ、そんなことか。
「
そう言うと、クルミは微妙に渋い顔をした。
何秒かの沈黙の後、絞り出すような声が漏れる。
「───、あぁ。楽しかったな」
……フン。
当たり前よ。千束と
「アンタとも最後かな」
「そうだな。……じゃあな」
立ち去る前に見たクルミは、確かに笑顔だったと思う。
千束じゃないが、湿っぽいのはリコリコ・チームの流儀ではない。そこだけはクルミも理解しているようだった。
「ファーストクラスのチケット、ありがとね〜」
「? お前のはエコノミーだぞ」
「エコ……!?」
ゑ? じゃあアタシ、何でラウンジに通されてんの?
◇ ◆ ◇ ◆
エージェント・ゴッホの協力を得て、予定より数段早く喫茶リコリコに到着。
「閉店……」
まず最初に目に入ったのは、扉に貼りつけられた『閉店のお知らせ』。
もしかすると千束はそういうつもりなんじゃないか、とは予想していたが……いざそれが現実になってしまうと、想像以上に胸に来るものがある。
ドアには鍵が掛かっていたものの、そこは私も元・店員だ。
植え込みの花壇の裏に1つだけ、
警戒しつつ店内に入る。……誰も居ない。
カウンターの上には、千束と店長のスマホが置いてある。
「どうして……。あっ」
さっきから何度となく掛けていた電話のバイブレーションに押しやられ、千束のスマホが床に落ちた。
それと同時に、私のスマホからも呼び出し音が鳴り始める。相手は作戦司令部だ。
「……はい」
<あと30分で再突入だ。戻れ>
「
<それがどうした>
「何か変です。真島が絡んでるかも」
<何故そう思う?>
何故……、説明が難しい。ニコルなら『勘』の一言で済ませられたものを。
真島、アラン機関、千束の心臓、吉松シンジ。この辺りの因果関係を整理しなければ……。
<先日、真島に話した『吉松』とは何者だ?>
「!」
楠木司令……。
「……、千束の恩人です」
<『心臓』の提供者か>
「はい。真島は、千束が吉松を探しているのを知っていました」
<そうか。ならば、真島は延空木に居る。知りたいことがあるなら本人に聞け。奴が死ぬ前に>
もう頭は冷えただろう、という一言が添えられる。
さっき私を止めなかったのはつまり、そういうことだ。
「───はい。戻ります」
千束も今、きっとどこかで戦っている。
私も目の前の戦いから逃げるわけにはいかない。
◇ ◆ ◇ ◆
出国前に、最後の心残りを片付けておくことにした。
アラン機関に吉松シンジ、そして機械式人工心臓。あとついでにDA技研のサーバー。
無知は嫌いだ。『ウォールナット』の名に懸けて。
VRゴーグルを被り、中途だったセッションを復元。
世界中の論文を取り纏めているデータベースにアクセスする。
「完全置換型、かつ拍動の無い新機軸の流体制御機構ってのがミソだな。スペックが尖り過ぎだ。特定してくれと言ってるようなもんだよ」
186件……53件……11件……ビンゴ。ラスト1件。
発表そのものは複数の研究機関の連名となっているが、内情をいくらか知ってるぼくらを騙すことは出来ないぞ。
「これの著者洗い出して。そうそう、どうせ名前変えてるから。メタデータよりフェイシャルデータ……」
「えっと……お客様?」
「ん?」
何だよこんな時に。誰だ?
ゴーグルを取ると、苦笑いを浮かべるキャビンアテンダントが居た。
「飛行機が飛ぶ時はやめてね」
子供扱いしやがって。ぼくがやってるのは、人の命が懸かったゲームなんだぞ。
「当分飛ばないだろ」
というか……真島が起こした延空木テロのせいで、ほとんどのフライトは延期か中止になっている。
よーし気兼ねなく続けるとしよう。一刻千金、善は急げだ。
「見つけたか? この女が……、アランのペンダント。間違いないな」
後はこいつの写真を片っ端から調べ上げる。いくらかはアラン機関の隠蔽工作が入っているだろうが……さて。
情報通信技術の発達とそれに伴う社会情勢の変化により、総じて正しい真実を知ることが難しくなった昨今だが、一方で
「手頃な写真は……あった。目の辺り、拡大して。色調と明度補正……、よし来た。反転して詳細解析にかける。場所の特定お願い」
写真の中、『研究者の女』の
あぁまったく、ミズキやニコルがそばに居ないのがつくづく惜しい。あいつらと一緒なら
「ん~……何だ、この建物。今は閉鎖されて……、10年前のデータある? ……なるほど、町工場か」
定番だな。現行技術の数世代先を行く人工心臓のルーツは、技術立国・日本の下町に眠る職人技だったってわけだ。
「お、いいね。監視カメラのデータが残ってる。吉松っぽいやつは……しまった、人相を知らん。写真も無いし……。まぁいいや、えっと……女のオフィスがこの部屋だから……。遡れる範囲で
アランの連中も存外詰めが甘い。まぁ、こんな辺鄙な田舎の企業だからな。ちゃんとした警備システムが揃ってるとは思わなかったのかも知れない。
……あるいは。千束を救うために、吉松はよほど焦っていたのか───。
「っは、
<───直接会うのは、5月以来? ドクター吉松……>
<良い実験体が見つかったんだ>
これで決まりだ。確定だ。
吉松の動きは例外にしても、
後はこの『研究者の女』の足跡を追えば、新たな人工心臓を調達する目が見えてくる。
「骨格から10年照合。追跡に使うピンは……町工場の経営主体の変遷と、吉松が手を回しただろう出資金の流れで……」
……。ん?
「去年?」
また別の地点、都内某所の工場の執務室にて。
タイムスタンプは昨年の末頃。研究者の女と……、スーツの男が話している。
<少女の命ひとつで、10年越しの悲願が結実するなら安いだろう>
<いいわ、そんなこと。その子にこれを……救ってあげて>
<君が心配すべきはこれからの幾多の患者だ>
……おい。
おい、おい……おいおいおいおいおい……!
<被験者のことは私に任せてくれ。君同様、アランの子だからね>
女と男の傍ら、木製のテーブルの上には、
ケースの蓋が開き、中から……複数の曲線で構成された奇怪な形状の、見たことも無いような機械装置が───。
「あったああぁぁぁ~~~~~ッ!!」
◇ ◆ ◇ ◆
バンクーバーへの出発まで一眠りしていると、スチュワーデスに声をかけられた。
「お……お客様?」
「はい?」
「生き別れの娘様が、あちらでお待ちです……」
「娘……?」
何だそれは。こちとら娘どころか恋人すら……いやバンクーバーの彼とはもう実質恋人みたいなものだけど、とにかくそういう、その、
仮眠用のアイマスクを取って、窓の外を覗き込む。
「───!! ……、……! ~~~……!!」
妖怪インターネット穀潰しだった。
なんか大声で色々叫んでいるが、聞こえるわけも無い。
「知らない子です」
◇ ◆ ◇ ◆
「ひ~ん……! バンクーバーの彼に連絡しなきゃ……、あっ!? ちょっと何すんの、ケータイ返しなさいよっ」
「まだ付き合ってないだろ!! たきな、出てくれよ……!」
◇ ◆ ◇ ◆
それは、延空木突入作戦の開始直前のことだった。
私を送り届けて都内防衛の任務に戻ったエージェント・ゴッホと別れた後、インカムに突如として奇妙なノイズが走る。
すわ『ラジアータ』にまた問題が起きたのかと思ったが、周りのリコリスたちは気づいていない。私にだけ聞こえているのか?
<……もしもし!>
「クルミ?」
と───そこで、聞き覚えのある声がした。クルミだ。
そう言えば、喫茶リコリコは閉店ということになっていたが、彼女やミズキさんたちがどうしているかまでは確認していなかった。
<いいか、よく聞け。……千束の心臓、もうひとつあるぞ!>
「……!!」
何だって?
嘘や冗談で言うような台詞じゃない。それもクルミが言ったとなれば、
「どこに……!?」
<たぶん吉松が持ってる。アランの支援を受けた研究者が、既に改良型を完成させていたんだ>
改良型……。じゃあ、それさえあれば千束は助かる……!
<そいつを吉松が持ち出してる。目的は恐らく……そっちじゃない! こっちだミズキ!>
<命令すんなガキンチョ!!>
ミズキさんも一緒か。相変わらず仲が良さそうで何よりだ。
「吉松は今どこに?」
<それは……すまん。人相も声紋も割れたから調べちゃいるが、少なくともここ数日の足取りはさっぱりだ>
<うぅ、さよならダーリン……!>
<また連絡する。差し当たって今は……>
……人相と声紋?
そうか、
ならば───彼女の力を借りない手は無い。
「待ってクルミ! さっき、リコリコに行ったんですが」
<ん? あぁ……閉店してたろ。すまん、千束の希望でな>
「いえ、それはともかく。……妙だったんですよ。千束も、店長も居なくて。なのにスマホだけが放置されていて……」
何かの足しにはなるんじゃないかと、一応回収しておいて助かった。
どこの、誰が、何の意図で千束たちを連れ出したのかは知らないが、まったく迂闊だったな。こちらには
「そちらから解析できませんか? 吉松への手がかりが残ってるかも」
<わかった。やってみよう>
───希望が見えてきた。
真島を討ち、吉松を見つけ出して、人工心臓を手に入れる。
あと少しだ。あと少しで千束を救える。だから……信じよう。
千束は、きっと生きて帰ってくると。
◇ ◆ ◇ ◆
<虎よ。
「あん? 蘭堂の爺さんか。
<作業に集中していて手が離せんらしい。何、計画の進行に抜かりは無いとも。君の合図は私から伝えよう>
「ハハ、それならいい。こいつはもう俺たちの計画だからな。あんたが欠けてちゃバランスが悪い」
<光栄だ。あぁ、すまないがあと5分だけ時間をもらいたい。ロボ太君は充分努力している>
「了解。3分で済ませるよう伝えてくれ。─────さぁ、第2幕だ」
◇ ◆ ◇ ◆
…………、どうして……。
「さて。他ならぬ彼の要請だ。急がねばな」
どうして、こうなった?
「あ……あの……」
糸のように細い目をした和服の爺さん、蘭堂。
国内最大の
「ロボ太君。手短に話そう。君の悲願は何だった?」
そう聞いてくる蘭堂の表情は穏やかだ。尤も、この人は基本的にこういう顔しかしないけれど。
穏やかでないのは……僕が今、この爺さんが連れてきた屈強な男2人に、両腕をガッチリ押さえられているということ。
「……。『ウォールナット』を超えて、世界最強のハッカーになること……です」
正直に答えた。こういう時、下手に誤魔化したりしても仕方ない。真島との付き合いで学んだ。
実際その夢はもう叶っているし、教えたところで何か不都合があるわけでもない。
「そう。そして君は拙いながらも謀略を巡らせ、
だ……だが?
「それでは不充分だ。そも、『ウォールナット』は
「…………。……、……え……?」
何を……言ってるんだ?
こいつは……蘭堂、あんたは……一体、何を知ってる?
「あれの正体は"システム"だ。クラウド型の大容量AIプログラムと、マスターユニットたる量子コンピューター、そしてそれを使役する人間の『継承者』によって運営されるシステム。無際限に拡大するダークウェブの秩序を保つ、文字通りの
ここまで言えば、君なら『ウォールナット』が何度も死んでいる理由に思い至るんじゃないかね、と問われる。
ほとんど条件反射的に思考が巡るが、あまりの驚愕にそれらを統合する理性が機能していない。こんなのはあまりに
「クラウド型の……大容量AI。つまり……つまり、それは、地球上のどこかにシステムを形成する端末があるはずで……」
「ウォールナットの端末は、世界のインターネット上の
ウォールナットの不死の秘密。
かつてダークウェブ上でウォールナットを名乗り、あるいはウォールナットではないかと疑われ、時には消されてきたウォールナットは、ある意味ではその全員が『ウォールナット』だった。
マスターユニットを持つ『継承者』以外の"ウォールナット候補"をどれだけ攻撃しても無意味だ。そいつは超巨大な電子的総体である『ウォールナット』の、ほんの些細な一部に過ぎないのだから。
「とはいえ───私はね、君を高く評価しているんだよ。ロボ太君」
「へ……?」
「悪魔的偶然か、それとも君の『最強』の称号への妄執が成さしめたことか……。半世紀以上にわたって
掛け値無しの称賛。目の前の老人は常に笑顔で表情を読み辛いが、本気で言っているのが何となくわかった。
僕が殺したはずの、でも口ぶりからして実際には殺せていなかったらしい
僕は間違いなく、歴史に残る偉業を達成したのだと告げられている。
「故に、君には資格がある」
なのに。
これ以上なく実力を認められているというのに。
背筋を走る怖気が、脳から迸る悪寒が、止まらない。
「さぁ……受け取りたまえ」
僕を押さえているのとはまた別の部下から、蘭堂は何かを受け取った。
それは奇妙な銀色のヘルメットだった。ただしバイザーや覗き穴の類は見当たらず、頭に被れば顔全体が隠れてしまうだろう。
「なっ、な、な、何ッ? それ……」
「君のハッカーとしての能力は、ウォールナットの『継承者』と互角かそれ以上だ。尤も、
とん、という杖を突く音。
控えていた方の部下が前に出てきて、僕の半身である『
あれは一種のARデバイスであり、ドローンのカメラ映像などを網膜投影できると同時に、僕の視覚を補正する機能も担っている。
要するに高性能な眼鏡なので、それを剥がされた僕は、視界がぼやけてモノがよく見えない状態になっていた。
「どうだろう。君ほどのハッカーが、世界最強のシステムを手中に収めた時……一体どれほどのことを成し得るのか、試してみたくはないかね?」
───とはいえ。
たとえ目が霞んでいたって、これから僕が何をされるかは、火を見るよりも明らかだ。
「ひ……! ぁ、や、僕は……! もごっ」
老人とは思えない力で襟首を掴まれ、銀色のヘルメットが被せられる。
構造上、多少の隙間はあるが、通気孔のひとつも設けられていない。息が苦しい。何も見えない。
「そのヘッドギアは錦木千束の心臓と同じ、『アラン・チルドレン』によって造られた超先端技術の結晶だ。強力な電磁パルスによって人間の脳の神経パターンをスキャンし、光ニューロ型の量子演算基盤へと変換する」
「ん……? んん? ん?」
ヘルメットのせいでくぐもった、そのくせ妙に耳に残る声で、蘭堂が言う。
電磁パルスによって、人間の脳の神経パターンをスキャン……。光ニューロ型の量子演算基盤へと変換?
そんなもの、何に使うんだ? VR技術か何かの延長だということは、辛うじて推測できるが……。
……それに……『変換』という、表現は。
「実を言えば……私はアラン機関の、エージェントではないが、スポンサーの一人でね。ある種の特権を行使してこれを手に入れた。無論、それなりの交換条件を飲んで来てもいる」
カチリという音がした。何かのロック機構が作動したようだ。
僕はもう、このヘルメットを自力で脱ぐことさえ出来ない。
「ロボ太君。私たちはこれから、
は?
「安心してくれ。『ウォールナット』を
待て、どういうことだ? 『ユニットとして生まれ変わる』だと?
そ……それじゃ、それじゃ本当に、まるで、
「……脳神経パターンのスキャンに用いられる電磁パルスの瞬間最大出力はおよそ5000W。これが君の脳を焼き尽くし、肉体の枷から解き放つ」
「んっ!? ……ん、んんーッ!! んん、んん……ングゥー!!」
「気をしっかり持つといい。この装置を造った『チルドレン』は、量子変換の成功率は被験者の自我の強さに左右される
「んんんんんんん!! ンンンゥゥゥ!!」
い……嫌だ!! ふざけるなっ!! まだ死にたくない!
僕、僕は、ウォールナットを超えたんだ! 全部これからなんだ!
ウォールナットを……そうだ、ウォールナットをまた殺してやる!! 何度だって殺してやるっ! 僕が本当に世界最強のハッカーになるまで!
「電源の準備、完了しました」
「ご苦労。よく縛っておけ。巻き込まれては敵わん」
「んんん!! んん! んんんん!」
だから、まだ死ねない! 今度こそウォールナットを超えるんだ!
僕がっ……僕の、力で……。そんなの、ウォールナットと、
「んん! んんンンンンンン!」
「これだけ元気なら、さぞ活きの良い『ウォールナット』が出来上がるであろうなぁ。楽しみだ……。あぁ、いや。我々はかの『継承者』を破るために君を使うのだから、また別の名前が必要か」
だ……誰か僕を助けろっ!! 真島!! ウォールナット!
なんで……どうして誰も居ないんだよ!? こんな肝心な時に限って、役立たずどもが! 僕は……。
「そうさな。では、ロボ太君」
「ンン! ウグ、んんんンンんんンンゥゥゥゥ!!」
「─────今日から君は、『
嫌だああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!