萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

48 / 78

ちさとおねーちゃんをなかせるわるいおとな、ゆるせねぇ……!



#12 Doom's footsteps
Day the savior fell from the sky(1/4)


「……千束、マガジンが」

 

「シッ。黙って。あいつは地獄耳だ」

 

「弾切れか?」

 

 お陰様でな。けっ。

 先生の弾を胴体に何発かお見舞いしてやったが、どうにも効果が薄い。

 詳しいことはわかんないけど、あのサーモンピンクの素敵なアロハシャツの下に、防弾チョッキ的なものを着込んでいるのは間違いない。

 

 でも、まぁ───向こうは1人で、こっちは2人だ。

 

 そっと目配せして頷く。

 私がしゃがんだ体勢から指だけを伸ばすと、たきなが真島を照準する。たきなの射撃の腕であっても、ただでさえ動きが巧みな上、防弾装備を着ているあいつに有効打を与えるのは難しい。だから撃つのは最小限。

 太腿のホルダーからマガジンを取り出す。走りながらリロード完了。この隙さえ作れれば良かった。

 

「ハ……」

 

 とりあえず牽制のため1発撃ったが、翻したロングコートの裾で防がれた。先生の弾の『貫通せず砕ける』性質を見破られている。

 

「フフッ」

 

 展望フロアのシャッターが破壊されたのは1箇所だけ。また暗闇に潜られた。

 陽光は私の『眼』とたきなの射撃の味方だが、真島の方から見ても良い的になる。

 闇そのものが質量を得たかのように、無駄に長い蹴り足が飛んできた。

 

「ぐ……!」

 

「千束っ! この……」

 

「甘ェよ」

 

「うっ!?」

 

 私が膝を折った瞬間、たきなも前に出てくる……が、文字通り一蹴される。

 本当に、淑女(レディ)の扱いってのをわかってない野郎だ。

 

「─────!」

 

 そんなやつには……お仕置きが必要だな。

 

 

 

 ───喫茶リコリコ支部の、ここには居ないもう一人の仲間。

 最凶のリコリス、『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』・星谷ニコルの戦闘哲学。

 

 その1。敵の行動を、細部に至るまで観察しろ。

 その2。物事の原因を考えて、対策しろ。

 その3。奇襲を制する者が戦闘を制する。仕掛ける時も、仕掛けられた時も、冷静さを失うな。

 

 その4。勝ちたいなら()()()()()()()()()()()()を潰し、自分の得意技を押しつけ、ゲームのルールそのものを書き換えろ。

 

 

 

 真島。あんたの強みと、弱点は───。

 

「ハハハハッ!」

 

「ふっ……!」

 

「あ?」

 

 立ち上がる勢いを利用して疾走。肉弾戦に付き合うと見せかけ、目の前で身体を低く沈める……真島に背を向けながら。

 一瞬虚を突いた隙に、銃を持つ右手を高く掲げた。顔を狙っても良かったが、あんまり()()()()攻撃を意識すると、かえって()()()()()()()

 だから、そのまま引き金を引いた。たぶん、真島にはよく効くだろう───耳元ピッタリの位置から放たれる、『銃の発砲音』は!!

 

「───ッ!? ぐ、ぁ……!!」

 

 ビンゴ!!

 ほら、右耳だけだとバランスが悪いだろ? 左にもくれてやる!

 

「ぁあぁぁ……!」

 

 ついでに脳天にも1発。えぇとそれから、念のためにもう何発か、

 

「───チェストおおぉぉぉ!!」

 

「えっ」

 

「えっ」

 

「ぐがあぁぁッ!?」

 

 ……、……し……シャッターの穴から……リコリスがもう一人……。

 何か……めちゃくちゃ達成感を覚えている顔をして、袖で額を拭っているのは───。

 

「……。……御門、どうしてここに?」

 

 銃ではなく刀剣を振るう異端のリコリス、御門かなはである。

 今日は腰の二刀に加え、何故か木刀を持っていた。さっきはいつものブレードでシャッターを壊して、いま木刀で真島を殴り倒したってことか。

 うーん……。木刀とはいえ、御門の剣の腕でフルスイングされたとなると……どれだけのダメージだったのやら。ちょっと想像したくない。

 

「ご無沙汰してます、千束さん! あ、今のは峰打ちなのでご安心なのです」

 

「木刀に峰とかなくない? 思いっ切り頭殴ってたよね? いやまぁ、リコリコ(うち)の方針に合わせてくれたのはありがたいけど……」

 

 ……。というか。

 私たち、真島を、倒して───。

 

「……あ。マズっ……」

 

 やば……。緊張の糸が切れたら、身体が、

 

 こてん。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 真島を倒した後、戦闘で蓄積したダメージが祟ってか、千束はその場で倒れ込んでしまった。

 幸い意識はあり、大きな怪我も無い。御門かなはが手早く応急処置を済ませてくれたので、私は今は千束の頭に膝を貸している。

 

「……DAはどうしたんだよぅ」

 

「はい? ……あぁ。辞めてきました」

 

「えぇ? あー……、はぁ。……バカだねぇ〜」

 

 心外だ。これでは万難を排してやって来た甲斐が無い。

 ───尤も、こう言われても仕方ないくらいバカな真似を重ねたことも、事実ではあるのだが。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 DA司令部、作戦指揮所───。

 

アルファ-4(井ノ上たきな)が真島を押さえました! 旧電波塔ですっ」

 

「……まだ油断は出来んが、これで一段落か。情報部と工作部は現行任務を継続。現場の処理は『掃除屋(クリーナー)』を向かわせろ、予算には糸目を……」

 

「もう『クリーナー』頼りか?」

 

 ざらついた、低く重たい声が響く。

 組織の歴史上でも稀に見る大規模作戦の最中、人員の移動が引っ切り無しに行われているとはいえ、この指揮所は無関係の人間が出入りできるような部屋ではない。

 

「全員そこまで!!」

 

 深い紫のスーツを着た口髭の壮年男性、『リリベル』部隊司令官・虎杖。

 何人もの帯銃したSPを引き連れて現れた虎杖は、まるでこの指揮所を制圧しにやって来たかのようだった。

 

「楠木君。先の真島一派───いや、『DEMONS(デモンズ)』なる組織による電波ジャックの際、ここの『ラジアータ』がクラッキングを受け、敵の放送に利用されたという報告があった」

 

「それは……」

 

 事実だ。

 事実ではあるが、極めて不可解な事態でもあった。

 春先の一件以来、DAもハッカーの優先排除のみならず、『ラジアータ』のセキュリティ強化に舵を切ってはいた。

 30年間無敗を誇っていたシステムを、さらに最新の知識と技術でもってアップデートした。

 その『ラジアータ』を───()()()()()()()()()()()()()()()()など、率直に言って人間業ではない。オペレーション担当の情報官は、未だに混乱から抜け出せずにいた。

 

「我々も『ラジアータ』の堅牢性はよく知っている。故に此度の攻撃は、組織内に忍び込んだ『裏切り者』の手引きによるものと判断された」

 

「……!?」

 

 外部からの攻撃は極めて困難。ならば、内部犯による工作を疑うのは当然のこと。

 すべては状況証拠に基づく推測でしかないが、元より、リリベル部隊には()()()()気質と側面がある。たったそれだけの根拠で、部隊を動かせる権限とコネクションがある。

 何故ならリリベルとは、リコリスでは対処困難な性質の任務に従事する"軍隊"であり、同時に組織(DA)からの逃亡や反逆を企てたリコリスの『処刑人』でもあるからだ。

 

「どういうことですか。我々(リコリス)の中に、本気でそのようなものが居ると……!」

 

「自分は無関係だと言い張るつもりかね? それはそれで、君の目の節穴ぶりを露呈する羽目になると思うが。何にせよ、『上層部』は本作戦の指揮権を我々(リリベル)に移譲した」

 

「指揮権を……。……どうするおつもりですか?」

 

「リリベルで対応する。それと、上層部からはリコリス部隊の徹底的な内部監査も要請されている。今の君たち(リコリス)我々(国家)の敵ではないが、味方でもない。延空木内の『DEMONS』の生き残りごと制圧する。そして、今後の状況如何では……残念だが、全員の『処分』も有り得ると覚悟してもらおう」

 

 あまりにも理不尽な仕打ちに、楠木は反論することさえ出来なかった。胸の奥から湧き起こる感情は、顔に出さず抑制できる閾値をとうに超えている。頭の中で処理できるレベルも。

 楠木がただ愕然とする一方、司令助手は気丈にも何か言葉を発しようとして───黒いスーツに身を包むSP、否、虎杖司令直属のエージェントに銃を突きつけられた。

 

「動くな」

 

「二度言わせるなよ、楠木君。我々は既に仲良しこよしの身内ではない。どうしても私を納得させたいならば、諸君らが国家に仇成す逆賊ではないということを、今この場で証明してみせろ」

 

 それはつまり、東京を守るリコリスの女王・楠木から、この動乱の行く末を左右する権利が失われたことを意味していた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「本部から待機命令だ」

 

「えー!? 生き残りの追撃、しないんスか? 確かまだ制御室とかに……」

 

「状況が変わったらしい。だいたい、エレベーター組との合流もまだだろうが」

 

「そりゃそうですけど。でもほら、今、あたしらだけで突撃して全員ブッ殺してきたら英雄ッスよ英雄! 出遅れた分は取り返さなきゃ」

 

「命令違反は許さん。待機だ」

 

「じゃあ何で井ノ上たきなは見逃したんスかー! 不平等ですよぉ!」

 

「……、千束はアホだが使える駒だからな。目先の作戦より、DA全体の利益になることを優先したまでだ」

 

「は? センス無いッスよその言い訳……あいでっ!? また殴った! ひどいッスフキ先輩ー!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 真島を倒した千束とたきなは、彼や他の敵の監視をかなはに任せ、戦闘中に消えた吉松を捜索し始めた。

 隔壁が作動してからは下の階に戻れなくなっていたため、必然的に最上階の第2展望フロアを目指すこととなる。

 

 果たして───クリーム色の髪をした痩身の男、吉松シンジはそこに居た。

 周辺警戒のため一列になって進んでいたところ、そっと頷いたたきなを後方に残し、千束は吉松の下へ急ぐ。

 

「……来てくれたんだね、千束」

 

「だって、あんなの見せられたら……。あぁ、携帯無いんだった」

 

 あくまでいつもの調子で、千束は吉松と向かい合った。想像していたよりずっと穏やかな気分だった。

 尤も、そんな態度を維持できたのは、次に吉松が口を開くまでの短い間でしかなかったが。

 

「奴は死んだか?」

 

「……え?」

 

「私を、こんな目に遭わせた真島を、殺したか?」

 

 千束の脳裏に、あの時の『存在しなかった誰か』との対話が(よぎ)る。

 サイレント・ジンと戦った依頼における、『松下』を自称する正体不明の操り人形(パペット)。彼もまた、このような言い回しを使っていた。

 

「殺してくれたんだろう?」

 

 両肩に手を置き、千束に笑いかける吉松。

 笑顔だ。少し年を取った、けれど10年前と変わらない、『救世主』の笑み。

 

「……ヨシさん」

 

 白金の髪の少女が目を伏せる。

 つい先刻、ミカの話を聞いて得た燃えるような決意。真島に捕らえられているところを、再会した瞬間に感じた安堵。そういった温かい感情すべてが抜け落ちていく。

 

 そして、それは、吉松の方も同じだった。

 

「───殺してないのか?」

 

 アランの男は慄然とし、信じられないものを見るような目で震え、千束の肩を突き飛ばした。

 何もかもが破綻する予感を前に、千束はまだ何かを変えられるのではないかと言い募る。

 

「よ……ヨシさんの期待に応えられなかったのは、わかってる。でも……」

 

「なんだっ。マザー・テレサにでもなったつもりか!?」

 

 吉松は本気で怒っていた。千束から目を逸らし、大声を張り上げ、独りで後悔しているようですらあった。

 

「だって……! 誰かに救われた命で、誰かの命を奪えるわけないじゃない!!」

 

「君はわかっていないようだ……。この地上における明確な役割、人生を賭すべき真の使命を持った人間は少ない! だが君にはそれがある! これほど幸せなことは無い───」

 

 二人の言葉は、明らかにずれている。あらゆる歯車が致命的に噛み合っていない。

 それは対話ですらなかった。ただ信念と哲学を異にする2種類の生き物が、己の意志を再確認し合っているだけだ。論争の終着点は、最初から用意されていなかった。

 

「幸せ……。……、殺しが私の幸せなの?」

 

「そうだ。それによって君は、人類と世界に貢献できるのだから」

 

「……私は……殺しなんかしなくても、結構幸せだったよ。人を殺さなくたって、誰かの役には立てた。そういうやり方も()()なんじゃないかな? ……あなたが私にしてくれたみたいに!」

 

「私はそんなことのために、死にかけの人形の発条(ぜんまい)を巻いたわけじゃない」

 

 言い切って、吉松は千束の方に視線を戻した。否、少し前から向き直ってはいたのだ。千束の目を見て話していなかっただけで。

 かつて全霊を懸けて命を繋いだ少女を見る『救世主』の瞳は、ひどく空疎で冷笑的な蔑みに満ちていた。

 

「───……、……。……にん、ぎ……。人形……か。……上手いこと言うな、ヨシさん」

 

 至極真剣な論争の場面に、あまりにも不釣り合いな台詞と声音だった。

 そうやって茶化しでもしなければ、とても自分の心を守れなかった。

 

「君はその銃を持つべきじゃない。返してくれ」

 

 アラン機関のプロデュースによって専用のカスタマイズが施された、M1911デトニクス・コンバットマスター。

 千束は自らの得物を黙って手渡した。10年苦楽を共にした愛銃であろうと、それはやはり『救世主の銃』であり、彼女のものではなかった。

 

「……ミカめ。こんなものを」

 

 装填されていた非殺傷弾のマガジンを抜く吉松。

 代わりに、このようなこともあろうかと用意していた実弾のマガジンに入れ換える。

 

「君には、実弾(こちら)が相応しい」

 

 『救世主の銃』ではなく、単なる殺戮の道具に成り下がったそれを、吉松は千束に向けた。躊躇なく引き金を引く。

 至近距離から放たれた.45ACP弾を───千束は本能に従って易々と回避し、弾丸は彼女の白金の髪をわずかに散らすだけに終わった。

 

「素晴らしい……」

 

 自分が何をされたのか、千束は理解が追いついていなかった。

 決壊寸前の感情が驚愕で塗り潰され、彼女の精神は結果的に守られていた。それも時間の問題でしかないが。

 

 だから─────。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 この男を、許してはおけないと思った。

 

 

 

 銃声が聞こえた次の瞬間には、通路の陰から出て引き金を引いていた。

 いま外したのは、慈悲だ。千束の命を一度救った分。ただそれだけ。

 

「動くな」

 

 千束は人を殺さない。殺せない。

 だけど私は、死ぬべき人間なんてこの世に居ないとは、思わない。

 錦木千束と対等の友達でありたいからこそ、その点は───そういう"自分の意志"だけは、譲らないでいようとしてきた。

 最初は漠然と考えているのみだったが、今、ようやくわかった。これは単なる意地じゃない。

 

「次は眉間を吹き飛ばす」

 

 私には撃てる。

 『最強のリコリス(錦木千束)』に倒せない敵を、私なら殺すことが出来る。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。