萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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現代日本を舞台にした作品を扱うなら、やっぱり東京は燃やしておきたいですよね。



Silver sword,Devil's bullet(2/4)

 菫色の瞳に漆黒の炎を燃やして、たきなは吉松に銃を向けた。

 

「たきな! 銃を下ろして!」

 

 間に立つ千束が懇願する。誰よりもたきなの実力を知る千束だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と───何より、『錦木千束』は()()()をしている人間に勝つことは出来ないという確信があった。

 無論、千束の制止をたきなは聞き入れない。彼女の精神は既に、DAのセカンド・リコリスであった頃のそれに戻って、あるいはさらに()()()にまで到達しつつある。

 

「……吉松。お前が真島と共謀して、千束をここに誘い込んだのはわかってる。いや……お前にとっては、真島も利用する駒に過ぎなかったんでしょう」

 

 たきなは旧電波塔に至る道中で思考を整理し、既に真相に辿り着いていた。

 アラン機関は、支援する"才能"の善悪や、それが結実するまでの過程に一切の興味を持たない。

 春から今日までにあった一連の、犯罪計画にしては粗末で、かつ劇的に過ぎる事件には───すべてこの男が絡んでいた。錦木千束を、真島と同様の"殺戮の天才"として完成させるために。

 

「真島と海山會を繋げ、武器を渡したのもお前。『ウォールナット』に『ラジアータ』をハックさせたのも、それからDAに情報を流して始末させようとしたのもお前。あぁ、あと『松下』の正体もお前だ。そして……千束の心臓を壊したのも、お前」

 

 たきなは、総身に満ちる憤怒の業火を、持ち前の氷にして鋼鉄の理性でもって制御し、ただひとつの目的へと収斂させる。()()()()()()使()()()()()と、たきなはニコルから学んでいた。

 千束には、この1年を共に過ごした新たな親友が、まるで別の生き物になってしまったかのように思えた。そう、『それ』は確か、4年前の()()()に見た……。

 

「だけど、そんなことはもうどうでもいい。……そのケースさえ手に入れば」

 

 吉松の斜め後方に、影のようなマット・ブラックのアタッシュケースが置かれている。

 

「クルミが掴みました。その中に千束の命がある」

 

 改良型の人工心臓。

 真島を倒し、吉松の暗躍を暴いた今、最後に達成すべき"任務"の最大目標。

 破壊された千束のそれに代わる、唯一の希望───。

 

 だが。

 

「ハハハッ。物知りだねぇ、たきなちゃん」

 

 企みを看破され、たきなという乱入者の存在を見ても、吉松に動揺は無かった。

 思い出したかのように吉松は笑う。既に勝利を確信している類の、恐ろしく不吉な笑みだった。

 

「千束」

 

 おもむろにネクタイを外し、シャツをはだけて胸元を曝け出す。

 

「……!!」

 

 そこには───縦一文字に刻まれた、手術痕があった。

 流血や炎症こそ見られないが、古傷にもなっておらず、明らかにまだ新しい。

 

「お前を生かす心臓は()()だよ。私を撃って手に入れなさい」

 

 唖然とする千束に、一度は取り上げたはずの銃を再び握らせ、吉松は朗らかに語りかけた。

 

「これで君はまだまだ生きられる」

 

 殺人装置を握った千束の手を手で包み込み、銃口を自らの額へ押し当てる。

 男は、発売を心待ちにしていたテレビゲームのパッケージを開封する少年の如く、堪え切れぬと言わんばかりの歓喜を声に滲ませた。

 

「さぁ!! 躊躇うな。君自身の価値と人生を取り戻すんだ! そのためなら───私は命を捧げるよ!!」

 

 天の果てから地の底に届くほどの、高く深い断絶だけがあった。

 10年という時間も、原初の『勘違い』も言い訳にならない。それは端から、鳥と岩が会話を試みているようなものだった。

 彼らはあまりにも互いを知らなかった。生まれも、育ちも、出会った人間も、見てきた景色も、触れたものも、感じたことも、すべてが違い過ぎた。

 

「……狂ってる」

 

 たきなが微かな声で吐き捨てた。

 吉松は反論しなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と、心から信じている顔をしていた。

 

「千束───」

 

「……っ、バカにしないで!! 撃てるわけないでしょ!!」

 

 白金の髪の少女は後退り、手の中の(もの)を核弾頭であるかのように胸に抱えて叫ぶ。

 アランの使徒は、それを救いようのない愚物を見る目で睨んだ。

 

 

 

 刹那、たきなの中の"何か"が音を立てて弾ける。

 

 

 

 S&W M&P9が火を噴いたのと、千束がたきなの腕を押さえ込んだのは同時だった。

 

「ッ───何してんの!?」

 

「千束が出来ないなら、私がやります……!!」

 

 鋭利な目的意識が爆裂する殺意に変わったたきなを食い止めるには、千束ですら非常な努力を要した。

 自らの心臓を巡って対立する二人を見下ろし、吉松は例の空疎な、極度に冷たく乾いた声で嗤う。

 

「ハハ。千束の前で君が私を撃つことなど出来ないよ、たきなちゃん」

 

「……黙りなさい」

 

「ハハハ───」

 

「黙れっ……狂った偽善者め!! その心臓、私が引きずり出してやる! 離して千束!!」

 

 平時の冷静さをかなぐり捨て、たきなは非情なる悪鬼羅刹と化した。

 この男を、この()()()()()()()()の存在を許してはおけないと、原始的な嫌悪感すら抱いて。

 

 一方の千束は───烈火の如く怒り狂う友人を前に、かえってものを考える余地が生まれ始めていた。

 少なくとも、たきなを止めている間は『ヨシさん』を殺さなくて済む。

 

 故に、気づけた。

 千束の『眼』が持つ広い有効視界の隅に、きらりと瞬く銀色の光がある。

 

「っ……!」

 

「!?」

 

 千束が咄嗟に突き飛ばしたたきなの、1秒前まで居た場所に───鋭利なサバイバルナイフが飛来していた。

 二人のリコリスはすぐに顔を上げ、攻撃者の姿を探す。

 天井付近、旧電波塔の内外を問わず張り巡らされた鉄柱の上に、濃灰色の特殊戦闘服(タクティカル・スーツ)を着る赤毛の女が居た。

 服装こそ変わっているが、千束の人工心臓を破壊した張本人たるあの『看護師』───そして、アラン機関における吉松の秘書・姫蒲だ。

 

「お前……ッ!」

 

 再燃した怒りのままに、たきなは姫蒲に銃を向ける。だが、

 

「───」

 

「!」

 

 天井付近の鉄骨から、床までは8m近くあった。姫蒲は迷わず飛び降り、まっすぐ着地する。

 途中で減速したわけでも、受け身を取ったわけでもない。

 

「……シッ」

 

「う───あ、ぁぁ!?」

 

 赤毛の女エージェントが疾駆した。

 千束ですら目で追うのがやっとの速度で左脚が振り抜かれ、たきなの身体が吹き飛ぶ。展望フロアの外壁───強化ガラスに背中から叩きつけられ、ガラスの方にも放射状の亀裂が走る。

 

「たき……、……!」

 

 学生鞄(バックパック)は真島との戦闘で喪失、大腿部のホルダーに格納していた『先生の弾』のマガジンは今、吉松の足元に転がっている。

 

「撃つなら実弾で殺せ。友達が死ぬぞ?」

 

 吉松の宣告と共に、姫蒲の膝がたきなの胸元に打ち込まれた。

 亀裂は致命的なまでに広がり、ガラスの壁面が砕け散る。空中へと投げ出される二人。

 

「たきなぁあっ!!」

 

 濃灰色の特殊戦闘服(タクティカル・スーツ)に何らかの秘密があるらしく、姫蒲は異常な身体能力を発揮して、旧電波塔外縁の鉄骨に容易く飛び乗った。

 

「……」

 

「あっ……! が、ぐ……っ!」

 

 生身のたきなは、そうはいかない。

 奇跡的に鉄骨の上に落下したまでは良かったが、姿勢の制御が利かない。再び落下しかけたところで、先端部にしがみつくので精一杯だった。

 

「……!」

 

 腰のホルダーから予備のナイフを取り出した姫蒲が、たきなにとどめを刺そうと迫る。

 

「や……め、ろぉっ!!」

 

 『眼』をフル稼働させ、たきなたちの居る鉄骨までのルートを一瞬で見切った千束が割り込む。

 決して広くはない鉄骨の上、千束を殺す選択肢を持たない姫蒲の攻勢は止まるが───。

 

「……フン」

 

 展望フロアに落ちていたたきなの銃(S&W M&P9)を拾い上げ、吉松は引き金を引いた。

 狙いはもちろん、今も鉄骨の端から這い上がろうとしているたきなだ。

 

「ヨシさんっ!! やめて!!」

 

 男は千束の嘆願を聞き届けない。この状況で自分を止めたければ、彼女はその手の銃を使うしかないと理解している。

 『かつて救世主の銃だった銃』を、かつて命を助けてくれた『救世主』に向けて、トリガーに指をかける。

 

 

 

 

 

 撃てない。

 

 

 

 

 

 撃てるわけが無い。ここで自分を曲げてしまったらどうなるか。

 仕方なく『ヨシさん』を殺して、辛いことも悲しいこともすべて『ヨシさん』のせいにして生きていくことは、千束には出来ない。

 

 錦木千束は、決して最強のリコリスなどではない。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ずっと、考えないでいたことがある。

 

 ニコルと出会った日、あの血まみれの物資集積場で、私は何も出来なかった。

 悪夢の住人の如く暴れ回る『必滅の邪剣(ダインスレイヴ)』を前に、とてもではないが横から手を出すことなど不可能だった。それもひとつの原因ではある。

 ただ、私は───その恐ろしさとはまた別の、頭の中を掻き乱されるような怖さを感じていた。

 

 だって、そこに居たのは、()()()()"殺戮の天才"だったのだから。

 

 病魔に侵され、命の儚さと尊さを悟ることも無く。

 『救世主(ヨシさん)』とも先生とも出会わず、人の心の温かさを知ることも無く。

 どれほど困難な任務を与えられても、ニコルにだけは達成できてしまい、ニコルだけは生き残ってしまう。誰もその隣に立つことは出来ず、後ろに着いていくことも叶わない。

 そして、そんな自分を当たり前だと思い、孤独とさえも認識しない。

 

 星谷ニコルは、錦木千束の"有り得たかも知れないIF(もしも)"であり、消し去ることの出来ない闇の鏡像に他ならなかった。

 

 私はあの子の過去をよく知らない。知ろうとすら思えない。

 たとえ全人類を敵に回しても衰えることの無いであろう、極大にして無尽蔵の殺意。これがお前にも眠っているのだ、と言われているような気がして。

 ニコルの殺意の根源を知ることで、自分にもそれが乗り移ってしまうのではないかと───いつか辿り着くはずだった"殺戮の天才"になってしまうんじゃないかと、本気で恐怖している。

 

 

 

 ─────だからこそ。

 

 もう目を逸らすことは出来ない。

 

「……ごめん、ニコル」

 

 あなたの生き方を言い訳にして。

 でも……私は、弱いから。こういう風に考えなきゃ、大事なものひとつ守れないから。

 ごめんなさい、ニコル。あなたの、心を……命と命を天秤にかける覚悟を、私に貸してください。

 

 

 

「そうだ……。それでいい」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

<蘭堂。フェーズ2の準備は終わったぞ。『戴冠式』の進捗はどうなっている?>

 

「まずまずだ。()()()のご機嫌を損ねるような真似はしたくないが……これ以上、予定は遅らせられんか。始めろ、『ナッツクラッカー』」

 

<了解だ。……真島はどうした?>

 

「気になるかね? 『掃除屋』(こちら)で回収したから生きてはいる。話したければ起こして来よう」

 

<いや……いい。忠告しておくが、そいつの思考回路は不合理で矛盾だらけだ。僕たちの()()()を察知した時、どのような行動に出るか予測できない。厳重に拘束するか、いっそ殺しておくことを勧める>

 

「そうか。ならば、私が直接話そう。彼を同志に迎えぬ選択肢は有り得ん」

 

<フン。言うと思った。好きにしろ>

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「─────あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……!!」

 

 声にならない悲鳴が、東京の空に溶けて消えた。

 鉄骨の端からどうにか這い上がったたきなが、間髪入れずに叫ぶ。

 

「……行って!!」

 

 くしゃりと顔を歪ませ、千束は助けを求めるように振り返った。

 たきなの菫色の瞳は、彼女に立ち止まることを許していない。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 千束が放った銃弾は、吉松の右胸の下部に命中していた。

 重要な臓器も肋骨も外した絶妙な一射であり、適切な救命処置が間に合えば後遺症すら残らないだろう。

 吉松の求める結果には、到底程遠い『殺意』だった。

 

「……ヨシさん!」

 

「うっ……、うぅ……」

 

「良かった。弾は抜けてる……」

 

 アランの使徒は、まだ諦めていなかった。

 銃を握ったままの千束の手を引き寄せ、自らの喉元へと向けさせる。

 

「これでは……死なんぞ。君は───」

 

 ぱちん。

 

 弾丸の代わりに、千束の平手が吉松の頬を打った。

 殺意も敵意も無かった。そんなものは、つい先刻の一射で完全に霧散していた。

 

「命を粗末にするやつは嫌いだ!!」

 

 白金の髪の少女は、ほとんど自分に言い聞かせるように叫んだ。

 怒りが冷たい炎となって迸り、千束の全身を切り裂いていく。

 

「……。……嫌いだよ、ヨシさん……」

 

 千束は吉松に寄りかかるようにして項垂れるが、その実まったく触れようとしなかった。

 DAの医療棟で抱擁した時も、手術台の上で頭を撫でられた時も、嫌悪感など抱きようが無かった。それが今や、視線ひとつ合わせられなくなっている。

 

「君の……、ためだ。何故、わからない……」

 

「……違う。世界のためだって……言った」

 

「同じ、ことだ……。人の……幸せは……。正しく、世界に、貢献することにこそ……」

 

「わかんない……、わかんないよ。ヨシさんの言ってること……全然、わかんない」

 

 金の梟のペンダントを、首から外す。

 錦木千束にとってのすべての始まり。命の祝福(呪縛)の象徴。『救世主』との、誓いの証。

 

「ヨシさんの言う"世界"って、一体何なの? 私は……。たきなも、ニコルも、先生もミズキもクルミも……お店(リコリコ)の常連さんも、DAのリコリスも、ヨシさんだって! みんな、()()()()()()()()()()()だよ……!」

 

 力無く床に投げ出されている吉松の手のひらで、ちゃりんという音が鳴った。

 

「───これは返す。みんなやヨシさんの命を踏み躙るのが、『救世主』のやることなら……。()()()()を傷つけることでしか得られない幸せなんて、私は要らない」

 

 救世の理想は崩れ、少女の憧憬は夢幻と散った。

 魂を苛む激痛を飲み込んで、錦木千束は立ち上がる。その目はもはや、アランの使徒を映してはいない。

 

「……。でも、ヨシさんには感謝してる。私に、世界を知る時間をくれて───本当にありがとう。私の代わりに、きっと元気でいてね」

 

 『さようなら』とは言わなかった。別れが決定的になっても、それだけは言えなかった。代わりの台詞を口にする。

 

「先生の弾は、返してもらうよ」

 

 非殺傷弾のマガジンを回収し、交換する。

 そして千束は、そのままろくに照準を合わせることもせず、振り向きざまに3度引き金を引いた。

 

「っ!?」

 

「……!」

 

 屋内にまで戻ってきていた、たきなに1発。姫蒲に1発。並び立つ二人の間の虚空に1発。

 まるで不完全とはいえニコルの殺意を借り、吉松に対する幻想を断ち切った千束に迷いは無い。

 

「良かった。たきな」

 

「千、束……。何で」

 

 元より、素直に当てようとして撃った弾ではない。

 姫蒲は咄嗟に防御姿勢を取り、特殊戦闘服(タクティカル・スーツ)の防弾性能によってダメージを最小限に抑えた。

 たきなは、直撃こそしなかったが、飛翔する弾頭が掠めて額を切ったらしい。彼女自身の血と、彈けた粉末樹脂の混合物が、右目周辺を赤く染めていた。

 

「行って。ヨシさんをお願い」

 

「……。錦木、千束……」

 

「早く!」

 

 千束の大声を聞いて、動揺していたたきなが我を取り戻した。

 吉松が負傷して床に落としたS&W M&P9を取り戻し、たきなはすかさず狙いを定める。

 

「たきな……! もういいっ!」

 

 発射された9mmパラベラム弾は、何も穿つことが無かった。

 これまでの戦闘で少なからず蓄積したダメージと、制御を失った憤怒の感情が、たきなが本来の実力を発揮するのを阻んでいる。

 

「離してっ!! 心臓が逃げる!!」

 

 千束に押さえ込まれながら、半狂乱となってトリガーを引き続けるたきな。

 

「うぅぁあぁあぁぁぁぁぁっ!!」

 

「違う……! 違うのたきな! 誰かを殺して生きても、それはもう『私』じゃない!!」

 

 姫蒲に庇われる吉松が通路の向こうに消え、マガジンの弾丸がすべて吐き出されるまで、たきなは傷ついた獣のように吼え猛っていた。

 やがてすべてが終わり、二人は息も絶え絶えとなってその場に崩れ落ちる。

 

「……、う……うぅ、あぁぁ……!」

 

「たきな」

 

「…………、嫌。嫌……です」

 

「……ごめん。ヨシさんの代わりに生きるのは、私には無理だよ」

 

「嫌だ……。……千束が、死ぬのは、嫌だ……」

 

「ありがとう。でも……」

 

 千束は、穏やかに微笑む。

 今はこの世の誰にも、それ以外の表情を見せたくなかった。自分にさえ。

 

「私は、本当はもう居ないはずの人。ヨシさんに生かされたから、たきなにも出会えた」

 

「…………」

 

「私だけじゃない。お別れの時は、みんなに来るよ」

 

「……。そん、な」

 

「それに……。少なくとも、その時は今日じゃない。私はまだここに居る。───ずっと一緒に居るから」

 

 白金の髪の少女は、たきなの頭から流れる血と合成樹脂の混ざりものを拭った。震える肩を抱き寄せ、額を触れ合わせる。

 二人の胸中に燃え盛っていた怒りの炎は鎮まり、今はただ、いつ消えるとも知れない体温だけが残っていた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 その時、東京中のインターネットに接続された通信端末が、一斉に同じ音源データを再生した。

 荘厳にして玲瓏、格式高くも耳触りの良い、伝統的なクラシック音楽である。

 恐らくは100人規模のフルオーケストラによって演奏されているであろうそれは、ベートーヴェンの交響曲第9番・第4楽章・第1主題───『よろこびの歌(An die Freude)』。

 

 破局を告げる黄昏の喇叭(ラッパ)が、どこまでも遠く響き渡る。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「─────おーい!! お前ら無事……、あー。もしかして取り込み中か!? どうしてもって言うなら出直すけど!」

 

「……、えっ。あ……!? クルミ!? 何でヘリ……」

 

「……?」

 

「言っとる場合か!! ブン殴ってでも連れてこい!!」

 

「だそうだ! ミズキがうるさいから早くしてくれ!! ……それにしても風すごいな、目も口も乾いて仕方な……げほっ、げほ! んん゛っ、ん゛!」

 

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