萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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今回はちょっとだけ独自設定というか、独自解釈的なシーンがあります。



Rationalism with Invincible and Overdrive(2/3)

 スマートフォンの画面に表示されているのは、若い女性───今回の依頼人である篠原沙保里氏と、交際相手の男性の写真。

 男性の方は少々強面でぎこちないが、二人とも幸せそうな笑みを浮かべている。

 

「この写真をSNSに上げてから?」

 

「えぇ……。脅迫みたいなリプ(返信)も来たから、怖くなってすぐ消したんだけど」

 

 写っている場所は屋内。東京ならどこにでもあるビル群の一角のようだ。

 何の変哲も無いカップルの自撮りにしか見えないが───。

 

「その後、彼も私もずっと変な奴に付き纏われてて……」

 

「前の交際相手とかですか〜?」

 

「それ! 警察も痴情のもつれだって取り合ってくれないけど、()()()()()()()()()。本当に心当たりが無いのよ」

 

「あー。でもまぁ、どこで恨みを買うかわからない時代ですからねぇ」

 

 千束とニコルがうんうんと頷く。

 私たちは篠原氏からスマホを受け取り、改めて拡大・縮小を繰り返していると、

 

「……! このビル───」

 

「沙保里さん、ここってもしかして?」

 

「あっ、そうそう! 『ガス爆発事件』のビルの向かいなのよ。窓ガラスとか割れて大変だったっていう……」

 

 ……何てことだ。

 こんな偶然があるか? さすがに無関係とは思えない。

 

()()()()だって。ぷぷぷ……」

 

 千束さんが小声で笑うが、正直それどころではない。

 場所が()()ビルの向かいなら、反対側では例の作戦が……いや、撮られた時間帯が違う。アプリが記録している撮影時刻は、例の作戦が発動される3時間前だ。

 

「ずいぶん早くから開けてるお店なんですね」

 

「うん。朝日のインスタ映えスポットで有名なのよ」

 

 ───そして私たちは、決定的なものを発見した。

 

「たきなお姉ちゃん。ここ、頭の後ろ、二人の間」

 

「これは……」

 

 スマホ内蔵のカメラでは解像度は低く、ピントも合っていない。

 しかし、ニコルが指摘した箇所には、窓ガラス越しに例のビルの屋内が写っている。

 

 一人の男と、数組の足と、いくつかの()()()()

 普通に考えれば、早朝から営業している運送会社にでも見えるかも知れない。

 だが……無論、私たちにとってはそうではない。

 

「ぶーっ!?」

 

 遅れて写真を確認した千束さんがコーヒーを噴き出す。

 私もニコルも、千束さんも『そう』だと思ったのだ。もはや間違いないだろう。

 

「な……何かわかったの?」

 

「ぁえっ……い、いやぁ。すみません。あの、この写真、こっちに送ってもらえます?」

 

「えぇ……」

 

 メッセージアプリで連絡先を交換し、件の写真を送信してもらう。

 こちらの端末でも確認。幸せそうに笑うカップルの後ろに、男、足、コンテナ。やはり夢でも幻でもなかった。

 

「これってあれだよねぇ、たきなお姉ちゃんの言ってたやつ。取引の現場、写ってるじゃん」

 

「タイムスタンプはDAの作戦発動の3時間前……。1000丁の銃はどこかに消えたんじゃなくて、既に引き渡しが完了していた」

 

「その関係者が、SNSで写真を見つけて? うえぇエゴサの怪物かよぅ! めちゃヤバなのに狙われてるよ〜沙保里さん……!」

 

 私は阿部刑事の慧眼に舌を巻いた。単なるストーカー被害の相談から、これほど大きな()()を嗅ぎつけていたとは。錦木千束が協力者に選ぶだけはある。

 

 降って湧いた汚名返上の機会に、私は心の中で拳を握った。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 さて。

 いくつか細かい質問をした後、今日は解散としてもよかったのだが……。

 

「3人とも、ありがとう。刑事さんにもお礼言っといてね」

 

「ねぇ沙保里さん。今夜だけでも、とりあえず一緒に居ませんか」

 

「えっ?」

 

「みんなで張ってれば、ストーカーの尻尾くらい掴めると思うんですよ。それに、人数が多い方が何となく安心でしょう?」

 

「あぁ……」

 

 篠原氏はしばらく考えるような素振りをしてから、柔らかく笑ってこう言った。

 

「じゃあ、うちに来てもらえる? 部屋なら空いてるから。そのくらいは構わせて欲しいな」

 

「あは〜! やったね、お泊まりだ!」

 

「おう、遊びじゃないんだぞニコルぅ。君はお店(リコリコ)で待機だ。私たちに何かあったら警察を呼ぶ係ね」

 

「え〜……」

 

 ……。まぁ、嘘だな。

 見た目が幼くともニコルはリコリスだ。後詰めとして配置するのだろう。もし私がファーストだったら同じ指揮をする。

 

「というわけで。今夜は親睦会も兼ねて、パジャマパーティーなんてどうです!?」

 

「遊んでるじゃん! 千束、完全に遊ぶ気でいるじゃん!」

 

「ふふっ。いいわね。ニコルちゃんも、色々落ち着いてからまた泊まりに来るといいよ」

 

 千束さんはニコルを引き連れ、喫茶リコリコの方向へと歩き出す。

 去り際、私の肩に手を置いて一言。

 

「しばらく任せるね。無茶はしないように。"いのちだいじに"、だからね」

 

「はい」

 

「よしっ。……じゃあ沙保里さん、私ちょっと支度して来ますね! 今夜は大いに盛り上がりましょ〜!」

 

「お姉さーん、またねー!」

 

 そうして、白金と赤銀が夕陽の向こうに消えて行った。

 ─────しばらく一人か。どう立ち回ったものか……。

 

「何だか明るくて良い子たちね。不安が吹っ飛んじゃった」

 

「……そうですね」

 

 じゃれ合いながら遠ざかっていく二つの背中を見送る。

 とても『旧電波塔の英雄』や特殊部隊の精鋭には見えない後ろ姿に、私は今さら不安な気持ちになりつつあった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「───動いたぞ」

 

 そして、世界の悪意が顕れる。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 徒歩でゆっくりと篠原氏の自宅へと向かっていると、辺りはすっかり暗くなっていた。

 私は千束さんやニコルほど喋りやすい性格ではないが、篠原氏は明るく優しい人で、その頃にはぽつぽつと世間話をする程度には打ち解けていた。

 

「じゃあ、千束ちゃんとニコルちゃんとは、昨日初めて会ったの?」

 

「はい。ニコルはともかく、千束さんは……優秀な方らしいのですが。そうは見えませんよね」

 

「で、前のバイトに戻りたいと。けど、嫌なことがあったから辞めたんじゃ?」

 

「いえ。少し誤解があっただけです」

 

 ……多分。きっと。恐らくは。

 

「そんなに戻りたい?」

 

「戻りたいです」

 

 それとなく、周囲を窺う。警戒は厳に。

 京都支部で何度か任務に帯同したファーストには『後ろにも目をつけるんだ』などと無茶苦茶な指導をされたものだが、私にはそんな武術の達人じみた超直感は無い。意識して五感を使う必要がある。

 

「っ」

 

 ───見つけた。

 交差点に設置されたミラーに、一台の白いワゴン車が写り込んでいる。

 それだけなら何ら見咎められるものでもないが、車窓が不自然に暗く中を見通せない。

 注意深く聞いてみれば、エンジン音も妙だ。何度も止まってはまた走り出すことを繰り返している。

 

「そっかぁ……。ま、ここで会ったのも何かの縁だし、良かったら相談に乗るよ。こう見えて私、バイト経験豊富なお姉さんだからね!」

 

 ……良かったら相談……。良かったら相談、か。

 なるほど。ではさっそく、年下のお願いを聞いてもらおう。

 

「すみません、篠原さん。実はさっきの角で、怪しい影を見た気がして……。少し確認してくるので、ここで待っていてもらえますか?」

 

「えっ!? そんな、たきなちゃん一人じゃ危ないよ!」

 

「いえ、先ほど千束さんから『もうすぐ合流する』との連絡がありました。私たちで挟み撃ちにします」

 

「でも……」

 

「とにかく、篠原さんはここから動かないでください。大丈夫、何事も無ければそれでいいですし、本当に危険なら逃げてきますから───すぐに戻ります」

 

 次の返答を待たずに踵を返し、交差点の陰へと身を潜める。

 背負った学生鞄(バックパック)から、拳銃を抜く。市街戦用に静音器(サプレッサー)を装着。

 深呼吸して精神を集中させながら、戦闘開始の瞬間を待つ。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「先生ぇー、お泊まりセットは?」

 

「押入れだ」

 

「ほんとに遊びに行く気? 無理だね、今夜は荒れるよ」

 

「は〜? な〜にを根拠にほざきよるか、このイチゴカラーロリ娘め。私たちが沙保里さんを守ってるって知ったら、向こうも手ぇ出して来ないかもしれないでしょ」

 

「だからぁ、そういう問題じゃないって。わたしの勘は当たるんだ」

 

「……。……、あー……最っ悪」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 1分後、例のワゴン車が動き出した。

 行動が素早いのは良いが、無警戒だな。大きい取引を成功させた後で、気が大きくなったか?

 

 タイヤが強くアスファルトを擦る音。ワゴン車の扉が開く音。複数の足音。

 やがて篠原氏の悲鳴が住宅街に───いや。

 

「……!?」

 

 さすがにそれを許すほど馬鹿ではないか。

 

「オラッ、大人しくしろ!」

 

 篠原氏は頭から麻袋を被せられ、抵抗も虚しくワゴン車の中に連れ去られる。

 『敵』の仲間の一人が、篠原氏のバッグを拾ったのが見えた。

 姿勢を低くし、敵のワゴン車そのものを遮蔽として隠れながら、前を塞ぐ位置へ移動する。

 

「写真あったか!?」

 

「ありました」

 

「さっさと消せ! 他には拡散してないか? 他には撮ってないな!?」

 

「どうなんだ!!」

 

「んーっ……! んんー!!」

 

「消しましたッ」

 

「何止まってんだ、出せよ!」

 

 ワゴン車のヘッドライトが私の姿を浮かび上がらせる。

 ようやくこっちに気づいたようだが、遅い。私は既にS&W M&P9を構えている。

 トリガーを─────引く。

 

「うわ!?」

 

「うおっ!?」

 

 最初にフロントガラスを撃ち抜いて牽制。

 相手が驚いている内にライトを破壊し、こちらを捕捉するための光源を断つ。

 

「……取引した銃の所在を言いなさい!」

 

 少しずつ側面に移動していき、車内に9mmパラベラム弾を送り込む一方、タイヤを撃ってパンクさせ機動力を奪う。

 篠原氏は車内に寝かされる形で拘束されているので、射線は通っていない。

 

「無茶苦茶撃ってくるぞ!!」

 

「何で取引のこと知ってんだ!?」

 

()()()()を皆殺しにした奴らじゃないッスか!?」

 

 17+1発を撃ち切った。車は無力化したが、中の敵は無事だな。

 鞄から予備マガジンを取り出してリロード。スライドを引き、再び狙いをつけ、

 

「……!」

 

 背後から伸びてきた手に、発射を止められた。

 知っている気配。隣を見る。知っている顔。

 

「───何してんの!」

 

 平時の飄々とした笑みをかなぐり捨て、真っ赤な瞳で私を睨む『英雄』(錦木千束)がそこに居た。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 先ほどの交差点の陰に連れ戻された。

 待機していたニコルが『やっほー』と手を上げる。千束さんは変わらず不満そうな表情。

 

「……何をしてる、と言われましても。尾行に気づいたので、こちらへ(おび)き出しました。彼らが銃の所在を知っているはずです」

 

「ちょちょちょっ、沙保里さんは!?」

 

「車の中ですが」

 

「護衛対象を囮にしたの!?」

 

 ……?

 何だ、そんなことか。

 

「彼らの目的はスマホの画像データです。篠原さんを殺す意図は無いと思います」

 

「うえぇ? だからって……、いや、人質になっちゃうでしょ!?」

 

「───この女がどうなってもいいのか!?」

 

 陰の向こうから声。

 千束さんは苦虫を噛み潰したような顔。

 ニコルは……何故か笑いを堪えている。

 

「……止んだぞ」

 

「クソッ。今の内だ、出ろ!」

 

 悪運の強い破落戸(ごろつき)どもだ。というか……。

 

「あなたが止めなければもう終わっていました」

 

「沙保里さんに当たっちゃうでしょ!」

 

「そんなミスはしませんよ」

 

「ぷっ……ふふ。そうだそうだー」

 

 ……。何でこんなに楽しそうなんだ、この子は?

 いや、まぁいい。それはいま考えるべきことではない。

 

「この距離からでも射殺できます」

 

「わたしもやる! お手伝いするよっ」

 

「"いのちだいじに"だってば。それよりたきな」

 

「?」

 

「射撃に自信あるなら、7時方向のドローン撃ってくれる? さっきからこっち見られててさ。あぁ、音は出してね」

 

 振り返りもせずに言うので一瞬疑ったが、視線だけを動かして見てみると───本当にドローンが浮揚していた。

 敵の仲間、あるいは上役の仕業か? 末端の運び屋を監視でもしていたということか。

 

「まぁまぁ遠いよね。デザートイーグルあるけど使う?」

 

「いえ。ドローンは1箇所壊せば無力化できます。当てるだけでいいなら、この距離でも問題ありません」

 

 幸い弾はリロードしたところだ。一撃で墜とすのが理想だが、そうでなくとも4発目までには当たるだろう。

 千束さんの指示通りにサイレンサーを外し、射撃の直前まで気取られないよう、さっき一瞬見た記憶を頼りに()()()()狙いを定めておく。

 

「じゃあ、行くよ。3、2、1─────」

 

 ゼロ。

 

 上空に銃口を向ける。記憶の中の座標と現実空間の誤差を修正。

 東京の夜闇に閃光が迸り、100m先で火花が弾けた。

 

「!?」

 

「やぁ。取引したいんだけど」

 

 ドローンの撃墜を確認して視線を戻すと、千束さんが敵の目と鼻の先にまで迫っていた。

 車のドアを挟んで、距離はせいぜい50cmあるか無いか。

 

「あ───」

 

「うっ……!? お、おぉおぉぉ!!」

 

 赤いアフロ風の髪型の男が、無骨なリボルバーの引き金を絞った。

 絶叫と共に放たれた金属錐が飛翔し、錦木千束の頭蓋骨を穿ち、脳髄を掻き乱して破壊する─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら」

 

 ことは、無かった。

 

「え?」

 

「は?」

 

 極限状態で加速した思考と感覚が、はらりと地面に落ちるプラチナ・ブロンドの白髪を捉えた。

 

「交渉決裂か。残念」

 

 『英雄』の右足が跳ね上がる。

 盾として使うべくワゴン車のドアを開いていたのが仇になった。蹴りつけられたドアで両脛を打ち、悶絶するアフロ風の男に、白金の髪のリコリスが追撃を加える。

 一瞬にして5発の銃弾を叩き込まれ、男は完全に沈黙した。

 

「クソガキが! ブッ殺してやる!」

 

「あはっ、すごいすごい! チンピラさんのお手本かな〜?」

 

 連続する銃声。致命の牙が赤銀の髪の少女へ喰らいかかる。

 しかし、星谷ニコルが踊るようなステップを踏むと、その姿が霞の如く揺らめいた。どれほどの切れ味を有していようと、実体を持たぬ霞を噛み砕ける牙など存在しない。

 くるりくるりと回転し、灰髪の刈り上げ男の懐へと侵入する。その眉間に右手のジェリコ941を突きつけ、

 

「ばいば〜い♡」

 

 きっかり3発。

 飛び散る血煙すら最低限に、芸術的なまでの殺戮技巧。

 

「テメェッ!! やりやがったな!」

 

「やってはないんだけどねぇ」

 

 金髪にサングラスの男。再び、超至近距離から拳銃弾の洗礼。

 錦木千束が小首を傾げた5cm隣を、音速の死神が通過していく。

 男は反撃の3射を奇跡的に回避したが、眼前の()()()()()()()が左手から放った赤い光に目を奪われた。

 インドの特殊な刀剣(ジャマダハル)から刃を廃したような形状の武装───拘束用の金属繊維を射出する鋼線銃(ワイヤーガン)

 ワゴン車のボディに縫いつけた上で、鳩尾に2発。また1名制圧。

 

「……あれ? おっかしいなぁ……」

 

「ふっ……、ふ、ふざ、ふざけんじゃねぇ!! 畜生オオォォォ!!」

 

「ニコル! もう1人!」

 

「ん」

 

 後方から狙うスキンヘッドの男より速く、ニコルの銃が火を噴いた。右腕を曲げて肩越しに、首を動かす素振りすら見せない背面撃ち。

 3発のうち2発は外れたが、残る1発が男の左胸に命中し、絞り出すような苦悶の声が漏れる。

 そこへすかさず、錦木千束がワイヤーガンを連射して─────。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ち〜さ〜とぉ〜!!」

 

 1分足らずで銃を所持する暴漢の徒党を撃破した2人の少女(リコリス)

 その片割れが、もう片割れに突っかかって唸った。

 

()()わたしの弾、勝手に変えたでしょ! おかげで殺し損ねちゃったじゃん!」

 

 弾? それに、『殺し損ねた』とは……。

 

 私はワゴン車に縫い留められた金髪グラサン男に近づく。

 千束さんに撃たれたはずの腹部に銃創が無い。そこで踏みしめた地面に違和感を覚え、しゃがみ込んで見てみると、大量の赤と黒銀の粉末が散らばっていた。

 

 ()()()の合成樹脂……ゴム製弾頭か? それに、黒光りしている方は金属粉末だ。これを圧縮成型すると、着弾と同時に破砕してしまい貫通力を発揮しない銃弾──フランジブル弾──が出来る。

 通常は航行中の飛行機や船舶など『弾が貫通してはならない状況』での使用を想定した弾種で、体表面で金属片が破砕・飛散する性質上、人体に対しての破壊力はむしろ増大するのだが……弾頭がゴム製になっているなら話は別だ。

 

「非殺傷弾……」

 

「自分の持ち物管理が杜撰なのが悪いんでしょー。こっちも詰め替えるの大変だったんだから。先輩からの栄転祝いとして受け取っときな、フフッ」

 

「千束のいじわる! ばーか! あほ! まぬけー!」

 

 ずんずんと歩いてきたニコルが、途中に転がっていた赤アフロ男の腕を踏みつける。

 転がる拳銃と、『ぐあっ!』という呻き声。非殺傷弾による気絶から回復していたらしい。

 なるほど、確かにこれは間抜けだ───錦木千束というリコリスが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()超人でさえなければ。

 

「ハァイ皆さん、大丈夫?」

 

「……というか、"いのちだいじに"って」

 

「うぅっ……。こ、殺さないでくれ……」

 

「あれまぁ、痛そ〜。すみませんねぇウチのたきなが」

 

 『英雄』はリコリス標準装備の学生鞄(バックパック)ではなく、持参してきた旅行バッグから縄だの結束バンドだのを取り出し、男たちをてきぱきと拘束していく。

 最初の私の攻撃で手傷を負った者に対しては、救急キットを使って応急処置を施す始末だった。

 

()()ですか……!?」

 

 銃声が3つ、ついでにバキッという快音。

 (非殺傷弾を)撃った上で蹴ったな、ニコル……。

 

「そーだよ。千束は昔っからそうなの。だからこんな討ち漏らしが出るんだよね」

 

 基本的にいつもふわふわと笑っている星谷ニコルが、不機嫌さを隠そうともせず吐き捨てた。

 ……年下の女の子を相手に大きな声では言えないけれど、普段とのギャップもあって、正直結構怖い。

 

「たっ……たきなちゃああぁぁぁ───ん!!」

 

 救出した篠原氏が抱きついてくる。

 結果はどうあれ囮にしてしまったのは事実なので、こうして頼られるのもかえって気まずいのだが……。

 とりあえず、落ち着くまでは胸の中で泣かせてあげよう。これがせめてもの償いだ。

 

「あ、もしもしミズキ? うん、結局ニコルの言う通りになったよ。やんなっちゃうよねぇ……。うん、うん。じゃあ『掃除屋(クリーナー)』の手配お願い。……高いからやめろ? 大丈夫だってもうすぐ月末だから!」

 

「クリーナー?」

 

「隠語っていうか、通称だね。本当の名前は誰も知らない。『旧電波塔の英雄』御用達の民間組織……の皮を被った、国際的秘密結社ってやつ? 政治家の汚職から紛争地域で起きた戦争犯罪まで、あらゆる犯罪の痕跡消去と、人間の経歴洗浄に特化した文字通りの()()()だよ」

 

 私は思わず振り返って錦木千束の方を睨んだ。

 睨んだというか、色々と信じられないという目で見ざるを得なかったのだけれど。

 

「DAは潔癖症だからさ。こいつら程度の小物でも、一度引き渡せば問答無用で処刑しちゃうわけ。お人好しの千束はそれが嫌で、『クリーナー』なんていう怪しい組織のお得意様になってんの」

 

 ……頭が痛くなってきた。

 何が『現役最強にして史上最強』だ。喫茶店で働き、地域の皆様のお悩みを解決し、おまけに犯罪者を殺さないリコリス?

 それはもはや、リコリス(私たち)とは違う生き物ではないだろうか。

 

「あ───っ……!! もうっ!! たきなお姉ちゃん、銃貸して! こいつ一人くらい殺さないと、わたしどうにかなっちゃいそ……」

 

「はいそのムーブも予想通りー!! はい予想通りー! よいしょお!」

 

「うがーっ! がるるるるる!」

 

 腰から担ぎ上げられ、ニコルは錦木千束に連行されていく。

 やがてその場には、死なない程度に痛めつけられた4人の暴漢と、先刻からさめざめと泣いている篠原氏と───途方に暮れる私だけが残った。















えっ、『クリーナー』ってそういうことですよね?(すっとぼけ)
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