萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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デカヌチャンかわいい。



Calm before the storm(4/4)

 大火力の機関銃掃射によって、制御室前に存在したすべての遮蔽物は早々に消滅した。

 フキ、サクラ、エリカの3人は、通路の角の陰まで退避。相手の弾切れ、ないし根負けを待つ。

 閉所での近接戦ならリコリスに分がある。攻撃の手を緩めれば、今度はフキたちの方が懐に入って確実に殺す。

 FNミニミ軽機関銃は、リロードの際に必ず隙を晒すだろう。GE M134ガトリング銃は、本来は攻撃ヘリ用の大型機銃であり、生身の人間がその苛烈な反動に耐え続けることは出来ないだろう。

 制御室前の傭兵2人は彼女たちを圧倒しているように見えて、その実、一手誤れば自らの方が死ぬ綱渡りを続けていた。

 

「───あ」

 

 そして当然、彼らもまた戦闘のプロフェッショナルである。

 

「……ぐっ!!」

 

「うぁっ!?」

 

 男たちは強力な火器を自ら手放し、その鍛え上げられた肉体を存分に躍動させた。

 何気ない前蹴りの一発。たったそれだけでサクラとエリカの身体が宙を舞い、壁面に(したた)か打ちつけられる。覆しようの無い体格差だった。

 

「クソッ……が!?」

 

 黒人の男の、丸太の如く太い腕がフキを捕らえる。右手を押さえ、万力めいた膂力による痛恨の喉輪絞め。

 フキは辛うじて動く左手を腰に伸ばし、ホルダーからコンバット・ナイフを抜いた。自身の喉を掴み上げる男の右腕を突き刺す───が、敵は一度歯を食いしばったのみで、拘束が緩むことは無かった。鍛え抜いた肉体と、歴戦の経験に練磨された精神が成せる闘志だ。

 

「ぁ……! は、うぅ……っ」

 

 フキの視界が明滅し、やがて徐々に霞み始める。

 "まだ終われない"という意志に反して、五体から少しずつ力が抜けていく。

 サクラは白人の男に踏みつけられ、エリカはその男が懐から取り出した拳銃に照準されている。もはや誰にも助けを求めることは叶わない。

 

 

 

 すべての決着がついたと思われた、その瞬間───。

 

 

 

「よい……しょっとぉ!!」

 

「───!」

 

 底抜けに明るい気炎と、無言の内に放たれる銃声が響いた。

 

 白金の髪が躍る。乱入してきた赤い学生服の少女(ファースト・リコリス)は、フキを締め落とそうとする黒人の男の右腕を銃撃で撥ね飛ばす。

 反射的に迎撃を試みた男の拳打、迫り来る左腕を易々と回避すると、そのまま相手の()()()()()()()()。側頭部へ『先生の弾(非殺傷弾)』を1発。崩れ落ちる男の腕から飛び降り、着地と同時に銃口を上に向け、眉間にもう1発。

 

「……錦木、千束」

 

 濡羽色の髪が翻る。現れたもう一人、紺の学生服の少女(セカンド・リコリス)が加えた銃撃は、白人の男の両肩を的確に貫いていた。

 関節を破壊されたことに気づき、男が顔をしかめた刹那、その下顎を強烈なハイキックが撃ち抜く。

 脳震盪を起こして倒れ込む男へ、ワイヤーガンを発射。首元に軟質合金が絡みついて部屋の壁に縫い留める。

 

「たきな……!」

 

 白金の髪のファースト・錦木千束が、いつも通り不敵に笑う。

 濡羽色の髪のセカンド・井ノ上たきなが、油断なく鋭い視線を巡らせる。

 混迷を極める延空木攻略作戦に、喫茶リコリコ支部のバディが参上した。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 うはー! 我ながら最高にカッコいいタイミング! まさに私が来たーって感じ!

 ……と、それはさておき。

 

「フキ! フ〜キ〜っ」

 

「何だ!!」

 

 私が倒した色黒の巨漢に銃口を突きつけるフキを制止する。

 完全にキレているが、ここは我慢してもらう他ない。フキは少なくともニコルよりか話通じるし。

 

「やめて」

 

「お前の現場じゃない!」

 

 ご尤もなんだけど、今日に限ってはそうも言ってられない事情があんのよね。

 

「今はそいつらに構ってる暇無いよ。リリベルが来てる」

 

「なに? ……クソッ、なんで……!」

 

 『リリベル』の名前を聞いた途端、いくらか冷静になったフキ。切り替えが早くて助かる。

 古参のリコリスとして"リリベル案件"に関わるのは、フキも私も初めてじゃないし……。

 

<早くしろ〜。お出ましだぞ>

 

 クルミからの通信。ちっ、思ってたより動きが早いな。

 まぁ、制御室の鎮圧は楽勝だろう。私とたきなにフキ、それに乙女サクラと……あと確か、たきなの知り合い? の子も居るんだから!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 千束たちを延空木に送り届けたは良いが、制御室の鎮圧より早くリリベルに追いつかれてしまった。状況は五分五分って感じか。

 

「さて、どうなることやら」

 

<各部隊、配置完了しました>

 

<よし。司令部。念のため確認させていただきたいのですが、リコリスの処分はどのように?>

 

<捕縛が望ましいが、向こうもそれなりの手練だ。紺服(セカンド)白服(サード)の生死には構うな、そいつらは末端の戦闘員に過ぎん。赤服(ファースト)が1人生きていれば充分だ。()()()()()()()()()()()でよい>

 

 おいおい……『投降の呼びかけは制圧後』って、何の冗談だ? 端から殺す気満々じゃないか。こりゃあちょっと洒落にならん。

 えーと……むむ。若干気に入らないが、ロボ太が垂れ流してる『第九』の送信元を逆探知して、と。この短時間では、ロボ太と延空木の()()()()()()の中枢までは辿り着けないものの……。

 

「おうおう。すごい勢いだな」

 

 しかし、『こっち』の方はどうだ? ───くく、相変わらず詰めが甘いぞロボ太!

 最初の侵入時に一度無効化されただけで、延空木内の()()()()()()は手つかずだ。火災時用の隔壁(シャッター)の操作権限を掌握する。

 

「あー、そっちはダメだ」

 

 まったく世話が焼けるぜ、リコリス諸君。

 ほいっとな。シャッターがうぃーん、がしょん。

 リリベル部隊の性質上、この手の障害を突破する装備も持ってきているかも知れないが……時間稼ぎにはなるだろう。

 

「千束? リコリスがヤバいぞ。急げー」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ……問題発生。

 制御室に立てこもってた敵は瞬殺(殺してないけど)だったからいいとして、えっと……その……。

 

「無い……。無い無い無い無い!! えぇ? どこ!? あぁ〜……無いっ……! どこどこどこ?」

 

 クルミから受け取ったメモリを挿す場所が、わからん───!!

 

「こんな所にUSB挿すポートなんてあるのかよ?」

 

 制御室の机の下をフキが覗き込んでくる。

 とりあえず、見える範囲の機械にはクルミ謹製メモリを挿せる場所が無かったので、こうして何かゴチャゴチャした辺りを探してるんだけど……。

 

「あ? あぁ……ゆぅえす……? ゆーえすびーって、……難しいこと言わない!」

 

「ハァ!? お前、自分でなに探してんのか知らねぇのか!? さっきのドヤ顔は何だったんだよ!」

 

「いやいや、これ突っ込む穴でしょ? それくらいわかってるから」

 

「乳繰り合うなッ!! ヤバいのが来てんだろ!?」

 

 やぁサクラ、的確なツッコミをありがとう。

 私ちょっと君のこと誤解してたかも知れない。そうそう、フキのパートナーはそれくらい跳ねっ返りが強い方がいいよ。

 

<おーい! こっち(ヘリ)もいつまでも飛んでられないんだぞー!>

 

<怒鳴るなわかってる! まだか〜っ>

 

 よし、現実逃避やめ。真面目にやるのだ私。東京と世界の危機なんだから。

 

「ん……あれじゃねぇか?」

 

「は? どれ?」

 

「あれだあれ、……押すな!」

 

「おっそうか! てかフキこそどいてっ、届かないでしょ〜……!」

 

「お前横幅邪魔なんだよ!!」

 

「はぁ〜!?」

 

 こいつ、フキぃ……! ついこないだもニコルやミズキに『千束、最近なんか足太くない?』『(ふて)ぇって!』みたいなこと言われたばかりなのに!

 ぐぬぬ……今は見逃してやるけど、後で絶対しばく!

 

「ヤバいッスヤバいッスーっ!!」

 

「んんっ、あぁ〜ッ……! もうちょっ、ちょいちょいちょいちょい……」

 

 ひえぇ向こうの方で扉ガンガンいってる!!

 あっそうか、リリベルは私らが制御室に来てるの知らないんだ! ここに居るのは『DEMONS』のテロリストだと思ってるし、そもそも今はリコリスだって警戒対象───。

 

「んんんんん〜、あぁぁ───ぅんっ!!」

 

 ……入ったぁ!!

 後は任せたぜ、ボクらの『ウォールナット』!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「来たっ!!」

 

 ───延空木の放送システムに不明なアクセスを検知。

 参照元は……確認するまでも無いな。来たか、ウォールナット。

 

「どこだ〜……。どこだ〜……?」

 

 さすがに手が早い。蘭堂が寄越したアクセスコードは確かに有効だったが、『継承者』(ウォールナット)が独自に仕掛けていたセキュリティ・プロトコルのせいで、僕の方も思っていたより『ウォールナット・ネットワーク』を掌握できていない。

 

「───そこか、ロボ太……!」

 

<違う。今の僕は『くるみ割り人形(ナッツクラッカー)』だ>

 

 けれど、それももはや些細な問題だ。

 延空木の放送システムを奪い返し、『僕』の拠点を割り出したことについては、素直に称賛しよう。

 尤も、そこに()は居ない。そしてその場所は、物理的にも電子的にもかつての『僕』の根城だ。()()()()()()()()()()()()()()()

 

「住所の特定を……、……。何だ?」

 

 延空木の制御室はもう必要ない。催眠音波はこれからいくらでも垂れ流せる。

 『継承者』の逆探知をさらに逆探知。延空木の電波ジャックと『僕』(ロボ太)への攻撃にリソースを割いている今、奴の懐はガラ空きだ。

 

<見つけたぞ。今度こそ逃がさん───お前のすべてを奪ってやる>

 

 マスターユニットへのアクセス成功。生体認証には多少ブロックされたが、他のセキュリティ・ホールはすべて突破した。

 ───これで、『ウォールナット・ネットワーク』の72.4%は僕のものだ。

 

 電子世界の秩序を守護する機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)は反転し、今や混沌の尖兵たる機械仕掛けの悪魔(ディアボルス・エクス・マキナ)と化した。

 こうなってもまだ"世界最強のハッカー"を名乗れるかな、『継承者』(ウォールナット)

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 延空木からの電波ジャックは止めた。例の『第九』の放送は一旦停止した……停止した、が。

 

「……、……おい。……おい、おい、おい、おい……!!」

 

 見覚えの無いアイコンが、ノートパソコンの画面の至る所に表示されている。ぼくの端末へのサイバー攻撃。

 コーディングの癖には、どことなく見覚えがある。というかこの状況では……『敵』はロボ太以外に考えられない。

 

「どうしたんだ()()()()? ぼくがわからないのか!?」

 

 だがそれはロボ太の……というより、()()()()()()()()()()にしてはあまりに異常だった。

 明らかに単独の個人には不可能なマルチタスクと、人間離れしたタイピング速度。スーパーコンピューター級の演算リソースを確保した上で、大量の高性能AIを並列稼働しなければ実現できないレベルの攻撃(アタック)だ。

 

「何が起きて……。あぁ、……いや、まさか」

 

 『ウォールナット』の稼働率が落ちていく。いや、そうではない。ぼくのオペレーションに従わなくなっているだけだ。

 いくつかのセキュリティはまだ機能しているが、それでも制御の大半を奪い取られている。こんなの初めてだ……!

 

「だっ、あ……はあぁぁ!? 嘘だろ……、ふざけんな!! マジかよあの野郎ッ!!」

 

「ちょっとさっきからうっさい!! 一体どうしたのよ!?」

 

「畜生……!! ロボ太に()()()()()()()を乗っ取られた! 少し黙っててくれ、今リカバリーの方法を考えてる!」

 

「はっ!? 今ぁ!? あ、アンタからコンピューター取ったら何が残んのよ!!」

 

「何も残らん! だから必死にやってるんだろうが!」

 

 あぁくそ、くそ、くそっ! 畜生!

 どこからだ? どこから『ウォールナット』の秘密が漏れた? このアクセスコードは……、40年以上も前のタイムスタンプだと!? わけがわからん!

 えぇい、原因を考えるのは後だ。今はどうにかして、手持ちの演算リソースで出来ることを……ダメだ、ぼく単身で『ウォールナット』に挑むのは無謀すぎる。しかも相手はロボ太だぞ……!

 

「あまりにも手札が足りない……」

 

<く、クルミ? 何か今すごい声聞こえたけど……大丈夫?>

 

<放送は止まりました。延空木のシステムは奪還できたようですね>

 

<そうだな。後は『ラジアータ』の隠蔽(カバー)がいつ戻るかだが───>

 

 ……ん?

 カバー……、『ラジアータ』……。

 

「それだぁ!!」

 

<えっ何!?>

 

 いま使える『ウォールナット・ネットワーク』は……せいぜい全体の2割ってとこか?

 まぁ、充分だ。延空木のシステムには、ロボ太が『ラジアータ』を落とすために使ったバックドアが残ってる。こいつを経由すれば─────!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「!? 『ラジアータ』の機能が回復しました!」

 

「ですが、これは……。さ、先程とは別の何者かに乗っ取られていますッ!」

 

「何だと? 楠木君───」

 

「識別、……『ウォールナット』!!」

 

「……! やはり、生きていた……?」

 

「───老人め。敵か、味方か」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 制御室前の通路に仕掛けておいた即席バリケードが突破された。

 

「もう無理ッスよ~っ!!」

 

 制御室前にまで乗り込んできたリリベル部隊は、たぶん最精鋭の一団なのだろう。

 それはもうよーく訓練された統率力で、理想的なまでのアサルトライフル三段撃ちを披露してくれている。あの弾幕に突っ込んだら私でも……どうかな。

 保ってせいぜい1分か2分……10分耐えるのはキツい。ただし、回避に徹して反撃しなかった場合に限る。

 

「泣き言言うな!! ファーストになりてぇんだろ!」

 

 サクラがファーストになりたいのは本当だろうけど、今はそれ以上に死にたくないんだと思うよフキさん。

 

「で、こっからどうなる?」

 

「さぁ。そこまでは聞いてない」

 

「お前な───」

 

「フキも一度会ったでしょ、クル……リコリコ支部のコンピューターの人。きっと何とかしてくれるよ。実際、延空木の電波ジャックはもう解決したわけだし。ね?」

 

 ……とは言ったものの。

 肝心のクルミは、さっきから通信機(インカム)の向こう側であーでもないこーでもないと唸っている。あのクルミがここまで取り乱すなんて、状況は思っていたよりよろしくないらしい。

 一体どうなってしまうのやら……。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 『ラジアータ』の復旧完了。ついでに残りの『ウォールナット・ネットワーク』端末のセキュリティ再構築も完了。

 各メディアの報道、及びインターネット上のデータの隠蔽(カバー)を開始……まったく。よりにもよってこのぼくが、秘密を暴く側から隠す側になるなんてな。

 DA司令部のアドレスは、これか。秘匿回線をオンラインに───さて、世界の命運を懸けた『商談』を始めよう。

 

「こんにちは。ぼくは『ウォールナット』。直接話すのは初めてかな? 『Direct Attack(ダイレクト・アタック)』の皆さん」

 

 ざわざわ……ざわざわ……。うーん、良い気分。

 手の内と実力の底が知れている相手との会話は気楽なものだ。

 

<『DEMONS』のハッカーだな。何を企んでいる?>

 

 知らない声だ。男? ……あぁ、『リリベル』の司令官か。

 処刑部隊の長とはいえ、司令官自ら"離反容疑者(リコリス)"の本拠地に乗り込んでくるとは。

 と……まぁ、それはそれとして、勘違いは正しておかなければ。

 

「誤解だ。ぼくが敵なら『ラジアータ』の復旧に手を貸す理由が無い」

 

<なるほど……。だが、DA(我々)を助ける理由もあるまい>

 

「これを見ればわかる」

 

 例の『第九』の音声データの分析結果を送信する。

 ふふ、なかなか素敵なハッカー仕草だ。一回やってみたかったんだよなコレ。

 

「ロボ太───『DEMONS』のハッカーが、ジャックした延空木を使って発信していた音声データだ。こいつに含まれる可聴領域外の周波数は、人間の攻撃性を引き出し暴力に走らせる催眠効果を持つ。参考になりそうな論文もいくつか引用しておいた」

 

<何?>

 

<確認しろ>

 

 あっ楠木。居たんだ。そりゃ居るか。

 DA司令部が再びざわつく。難解な資料を押しつけておいて悪いが、考える時間はあまり与えてやれない。

 

「そこで、お前たちと取引がしたい。断言しておくが、延空木の電波ジャックはほんの始まりに過ぎない。奴らの狙いは恐らく、催眠音波の実験とデモンストレーションだ」

 

 なんて……実はぼくも今、テキトーな予想を喋りながら頭を回している最中だったりするけれど。

 まぁ、話の基本線は概ね正確なんじゃないかな。うん。

 

「"世界で最も安全な都市"である東京がテロリズムによって陥落し、しかもそこから人間を凶暴化させる音波が垂れ流されたとなると───日本だけの問題では済まないだろう」

 

 しかし、改めて言語化してみると、本当にとんでもない計画だ。

 千束たちの話を聞いている限り、真島は()()()ではなく()()()だという印象がある。たぶんあいつは前線指揮官でしかなくて、『DEMONS』の上層部にこそ、すべての絵図を描いた元凶が……文字通りの悪魔(デーモン)が居るに違いない。

 

<……要求は何だ>

 

「ぼくに対する指名手配の解除。それともうしばらくの間、ぼくに『ラジアータ』を貸せ。『DEMONS』のハッカーと戦うために、『ラジアータ』のリソースと国内の通信インフラに対する優先権が必要だ」

 

<取引と言ったな。我々のメリットは?>

 

「『ラジアータ』の復旧とお前たちの活動の隠蔽(カバー)。見ての通り幾分かは先払いしておいた。延空木からの放送はぼくが停止させたが、"東京陥落"の実績が示された以上、『DEMONS』がこの国のネット環境にこだわる理由はもう無い。催眠音波の拡散はじきに再開する……全世界規模でな」

 

 あぁそれと、ここが一番大事。

 

「ところで残念ながら、ぼくは物理的な脅威に対しては力になれない。凶暴化した一般人への対処はお前たちの仕事だ。延空木のリコリスを解放して、リリベルも呼び戻すべきじゃないか? 総力戦になるぞ」

 

<貴様、どこまで知って───>

 

<……。……ウォールナット。申し出の意義は理解したが、それでもお前が我々に協力する動機がわからない。故に信用できん。ダークウェブに潜む流浪のハッカーであるお前が、どうしてテロリストと……『DEMONS』と戦う?>

 

 えぇ? マジかよ。この段階で疑われるとは思ってなかった。いや、言われてみれば疑われて当然ではあるか。

 さすがにここで千束たちの名前は出せないし、う~ん……。

 ───仕方ない。いっそ正直に話してしまおう。

 

愛と平和(ラブ&ピース)のためさ。お前たちからすればぼくも十把一絡げの無法者(デスペラード)に過ぎないんだろうが、こっちだって過度の破壊と混乱が世に満ちるのは本意じゃない」

 

<……、そんなものが本音だと?>

 

「その内の半分ってところかな。ハッカーというのも客商売だ、世界が燃えればそのぶん人類(顧客)が減る。食い扶持を守るため、と告白すれば信じてもらえるかい?」

 

 やれやれだぜ。皆まで言わせんな恥ずかしい。

 DAにホワイト・ハッカーとして就職するプランは白紙に戻そう。こんな頭の硬い連中の下でなんぞ働けたもんじゃない。

 

<楠木君>

 

<……虎杖司令……、ここはどうかご静観を。どのみち『ラジアータ』を押さえられている今、我々は自らの秘密を守るためのヴェールを持ち得ません。素直に取引に応じた方が得策です>

 

 沈黙が降りて─────5秒。10秒。30秒。

 小さな舌打ちの音と共に、ぼくの指名手配は解除された。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「……埒が明かないな。イ号隊後列、次弾装填ののち銃剣(バヨネット)着剣。前列と中列の制圧射撃によって前方の安全を確保次第、突入する───」

 

「あ〜、どうもはじめまして? 『旧電波塔の英雄』です」

 

「!?」

 

「よっ。ほっ、と、っと……ねぇ、ちょっと話し合いたいんだけど! うおっあぶね……! 一旦撃つのやめてもらえないかなー!」

 

「クソっ……何だアイツ!? どうして当たらねぇ……!」

 

「……、撃ち(かた)()め! ───司令、錦木千束です。プランDの実行許可を……。……司令?」

 

<状況が変わった……撤収だ。全隊、ポイントCB-42まで後退。合流して補給を済ませた後、別命あるまで待機しろ>

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 はぅ、と思わず息が漏れた。

 いや~……危なかったね!! 何でリリベルがいきなり撤収したのか、全然わからんけど!

 

「…………、……」

 

「ん?」

 

 リリベルたちがぞろぞろと去っていく中、赤い戦闘服でオールバックの隊長格っぽいイケメンが、一瞬だけこっちを振り返った。うーん……顔の造作はスマートでカッコいいけど、目つきが怖い。フキと同じタイプだな。

 そういや、リリベルも隊長クラスは制服が赤いのかしら?

 

「……知り合いですか?」

 

「いや? なんで?」

 

「また恨みを買ってそうな目だ、と」

 

「えぇ~、マジか」

 

 あ、なるほど。そういう意味の視線ね。

 リコリコ支部を襲ってきた連中は何度となく叩きのめしてやったから、私のことを知ってる古参のリリベルが居ても不思議ではない。

 

「スマイルした方がよかったかなぁ。にへっ」

 

 ……何故かたきなにジトッとした目で見られた。

 いいじゃん別に、私だってそりゃモテたい願望くらいありますよ。

 あぁ、でも確かに、リリベルとはちょっとお付き合いできないかも……。

 

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