萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
ワクチン接種の副反応に悶えながら仕上げたので初投稿です。
制御室周辺に陣取っていた『DEMONS』の戦闘員は片付けた。『
ってなところで、さぁこれからどうしよう……とみんなで話し込んでいる。
「
「そーそー。面倒くさいから楠木さんには黙っててね」
<───フキ。私だ>
おっと。噂をすれば影、もとい通信。
今こうして楠木さんが喋ってるってことは……どうも上層部で一悶着あったらしいけど、組織内の裏切り者が『ラジアータ』をサイバー攻撃した、という濡れ衣は晴れたようだ。よかったよかった。
「司令……。事後報告になって申し訳ありません。制御室奪還のため、待機命令を破って人手を割きました。すべて私の判断です。処分は如何様にも……」
<何? ……いや、そうか。それはいい、こちらでも事情は把握している。DAに『ウォールナット』から接触があった。延空木の放送システムを取り返してやった、しばらく協力するから指名手配を解除しろ、とな。このタイミングだ……恐らく偶然ではないのだろう>
およ? そうなの?
ヒューッ、さすが僕らの
<今は戻れ、フキ。戦闘で消耗した部隊の再編と、お前たちの休息が優先だ。『DEMONS』のハッカーは現在沈黙しているが、またいつ催眠音波の拡散が始まるとも知れん>
「催眠音波……?」
「あぁ。ダメですよ〜、楠木さん。その話、現場の子たちはまだ知らないんじゃないですか」
<……、尤もな指摘だが。
ん!? やっべ藪蛇……!
「き、旧電波塔で真島と話したんですよ。いやぁ、現実にも居るもんなんですねぇ! 秘密のはずの計画をペラペラ喋りたがる悪党って!」
<……、まぁいい>
ふぅ。この返事……信用はしてないが一応納得した、って感じかしら。
<負傷者の収容は完了している。お前たちも帰投しろ。詳細は追って通達する、これから忙しくなるぞ>
「え……。待ってください、電波ジャックは解決したんですよね? 真島を含めて、敵の戦闘員はすべて私たちが倒しました。脅威は去ったはずでは?」
<残念ながらまだだ。幸い『ラジアータ』の方は復旧したが、『DEMONS』のハッカーの所在が特定できていない。
ひえぇ、これで終わりじゃないの!? 死にかけの重病人をよくも働かせてくれるなぁ、楠木さん……!
と言っても、私の命で世界が救えるなら安いもんだけどね。
よーし、とりあえず帰ろ帰ろ。千束、休憩入りまーす。
◇ ◆ ◇ ◆
「……司令! 真島を回収中の『
「何だと? チッ───
<司令、私たちはまだ延空木の上層階に留まっています。ヒバナに現場指揮権を移譲し、他の人員を先行させた方が得策かと>
「わかった、提案を承認する。お前たちも早急に合流しろ」
<了解>
◇ ◆ ◇ ◆
真島が目を覚ますと、そこは薄暗く狭い小部屋の中だった。
座ったシートから伝わる振動。回転するローター・ブレードが風を切る音。飛行中のヘリコプターの機内だと知れる。
「気がついたかね、虎よ」
対面には、糸のように細い目の老爺が座している。
国内最大の暴力団『海山會』の組長にして、日本の黒社会を牛耳るゴッドファーザー。
そして、犯罪の痕跡消去と経歴洗浄に特化した
「ハッ……、あァ。してやられちまったよ」
「上機嫌だな」
「んで、俺をどうするんだ? 今度の雇い主は
「フフ。それは君の選択次第だ。……答えを聞く前にいま少し、老人の茶飲み話に付き合ってもらいたい」
和装の老爺は袖口から
半世紀にわたって日本最大の非合法組織に身を置き、真島さえ比較にならぬほどの膨大な血と屍の上に立っている男にしては、如何にも愛嬌のある仕草だった。
「まずは謝罪を。
「……あ?」
「代わりと言っては何だが……君の理想に沿えるよう、我々なりに手を打たせてもらった。その結果がこれだ」
蘭堂は『クリーナー』の業務の一環として回収していた、真島のスマートフォンを返却する。
画面上ではテレビ局のオンデマンド配信アプリが起動しており、ニュース番組の生中継が行われていた。
<こちら目黒区中町です。銃を所持した男が発砲を繰り返し───>
<続報が入りました。田園調布駅のホームに刃物を持って現れた女の───>
<ご覧ください! 暴走中のバイクの集団と、逆走していたトラックが……、あっ!? ちょっ、一度カメラ止めて───>
東京が、燃えている。
それは真島が望んだ通りの、そして想像した以上の有様だった。
同時にこうも思う。この光景は、
DAの欺瞞を暴いて国民の不安を煽り、彼らの魂に闘争の火と真なる自由を取り戻す。形はともかく、真島の目論見は達成されたように見える。
だが───昨日まで安穏とした平和を謳歌していた先進国の文明人が、武器を与え、リコリスという抑止力を排除しただけで
「……何をした?」
「君の言葉を借りるなら、善悪のバランスを取ったのさ。善なる者たちがあらゆる悪意の芽を摘んで回っているのであれば、
真島はごく静かに、注意深く、周囲の様子を探った。
まず、シートベルトこそ着けさせられているが、自分は拘束されていない。手元に武装は無いものの、服の下に仕込んだ防弾ベストは健在。
ヘリの機内は狭く、蘭堂は目と鼻の先だ。神妙な面持ちで杖を突いている。
「闘争によって勝ち取られる平和。それが君の理想とする秩序の在り方なのだろう? あぁ……まったく」
無言の圧が高まっていく。
体格と、恐らくは体力でも自分に劣る細身の老人を前にして、真島が思い起こしたのは。
錦木千束と戦った時と同じ、脊髄の中心から這い上がってくる冷たい痺れ─────。
「実に下らん」
穏やかな微笑の中に、明らかな侮蔑が混じった。
蘭堂は真島の信念──と彼自身は思っているもの──を優しく笑って見下し、窓から投げ捨てるように断じる。
「君が欲しているのは理想でも秩序でもない。
日本の黒社会を支配する長老が、ゆっくりと目を見開いた。
琥珀色の双眸から放たれる、魔王じみた眼光が真島を射貫く。
「君が均衡を求めるのは、己が宿業を合理化するための結果論だよ。動機や目的では決して有り得ない。世の天秤が傾けば、沈んだ方の皿には極上の獲物が乗っている。強大で、理不尽で、情け容赦の無い修羅の群れ。君という虎が狩り喰らうに相応しい、人界の魑魅魍魎どもが」
「話が見えて来ねぇな。何が言いたい?」
「『
それは、まさしく悪魔の囁きだった。
「欲しければいくらでもくれてやろう。戦場を。困難を。君が持つ殺戮の天賦を、存分に振るう機会を。この世界は善意と正義で溢れ返っている───故に、我々は純然たる悪意をもって、人類種に架せられた秩序という檻を焼き尽くす。ヒトの魂を真なる自由へと導くために」
物理的にも心理的にも、もはや真島に逃げ場は無かった。
「……俺は」
人間の内情とは複雑で、時にその当人ですら、己の真意を理解していないこともある。
───否。蘭堂の言葉はともすれば、真島の内心を正確に言い当てたわけではなかったかも知れない。
「……。……クク」
だが、充分だった。
悪魔の言葉とはまさしく、人の心を惑わし堕落させるために紡がれるのだから。
「ククッ……ハ、ハ───そうか。ハハ……ハハハハハハ!!」
錦木千束に問われたこともある。『どうしてこんなことをしているのか』、と。
「完敗だ」
どうしても何も無い。ただ、そうしたかったからだ。そうせずにはいられなかったからだ。
「聞かせてくれ。これから何が始まる?」
蘭堂の言葉は、真島の内情を正確に言い当ててはいない。少なくとも、世界秩序に均衡をもたらすため、その半生を戦いに捧げてきた真島の信念に寄り添う台詞ではなかった。
しかし、人間の精神とは多面的なものであり───蘭堂にそう喝破されたことで、真島はどこか目が覚めたような心地となっていた。
「世界に現存する核弾頭はおよそ9800発。大国の地方軍閥や、ある種の軍事独裁国家が秘密裏に隠し持っているものも含めれば、真の総数は11000発ほどと推測されている。このうち解体や長期保管の予定が無く、軍用に実戦配備されているのは4000発。高い警戒状態にあり、必要に応じて即座に発射可能なのは3600発と言ったところか」
老人は不敵な微笑を浮かべたまま、孫の誕生日を数えるかのように軽やかな口調で告げた。
真島の頭から爪先までを電流が伝う。
「我々の協力者は世界中に潜伏している。……協力者とは言っても、手段と目的を同一にするだけの関係だがね。この計画にどのような思想をもって賛同し、あるいは何の利益を得るかはそれぞれだ」
「その『計画』ってのは」
稀代の戦争屋にして不世出の餓虎は、眼前の悪魔が語る
「終末だよ。黙示録の時代の創造だ」
「終末……」
「我々とて、3600発の核兵器すべてが有効に機能するとは思っていない。数百発はそもそも我々の手中に収まるまい。全体の半分ほどは迎撃ないし無力化されるだろう。だが───」
蘭堂がヘリの運転席を見やるような素振りをする。
すると、一体どのような理屈か、真島のスマートフォンがひとつのデータを受信した。高度に暗号化されたPDFファイル。
「これは数年前に発見された新種の極限環境微生物に、さらに遺伝子改良を加えた『放射線を吸収するバクテリア』のデータだ。アラン機関の支援を受けた、とある研究者を殺して奪った」
「放射線を? ……、いや……そうか」
「フフフ……さすがに勘づくか。推理を聞いてもいいかね?」
「核攻撃は
フェーズ1。日本で真島が起こしたテロに便乗し、世界最強の電子情報戦力である『ウォールナット』を手に入れる。
フェーズ2。『ウォールナット』を用いた催眠音波の拡散、それに伴う民間人の暴動により、各国の警察能力を圧迫して疲弊させる。
フェーズ3。潜伏中の工作員が、各国の使用可能な核兵器を片っ端から奪取し、3600発の無差別核攻撃によって世界を破壊の渦へと呑み込む。
「そして仕上げに───このバクテリアの存在を明かし、生き残った人間に奪い合わせること」
フェーズ4。地上に残存するわずかな物資、土地、『抗放射線バクテリア』を懸けた最終戦争を引き起こす。
「素晴らしい」
真島の言葉を聞き終えた蘭堂は、満足そうに頷く。
あの
自身の思想や性情を、正義だとすら思っていない。彼が求めているのはただ徹底的な破壊と混沌であって、善悪の天秤になどまるで関心を払っていない。
「さて、もうすぐ地上に戻るぞ。虎よ。君はこれからどうする?」
─────だからこそ。
「おう。悪ぃな」
こんなおぞましいモノが存在することを、
「あんたたちとは……ここまでだ。けど楽しかったぜ。きっとこれからもっと楽しくなる」
「ははは……。あぁ、構わんさ。君は既に我々の同志だ。たとえ組織の一員ではなくとも」
「DAをブッ潰して、アラン機関を仕留めたら。次は『
「それは重畳。首を長くして待っているよ」
一際大きな揺れが機内を襲い、やがてすべての振動が止まった。
凝った身体を伸ばしながら外に出る。そこは新電波塔・延空木に程近い高層ビルの屋上ヘリポートだった。
「餞別だ。これは返しておこう」
蘭堂が懐から1丁の拳銃を取り出す。チアッパ・ライノ200DS。
真島はこの老爺のことを、よっぽど今ここで撃ち殺しておくべきだと思ったが、鷹揚に笑って受け取るだけに留めた。
『
「世話になった」
「こちらこそ。老いさらばえて逝く前に、最高の仕事が出来た。たとえ
「ハハ、せいぜい努力するよ。……あぁ、それと……餞別ついでに、もうひとつだけ聞いておきたいんだが」
虎と老人は最後の言葉を交わした。別れを惜しむ親友同士のように。
太陽が傾き、空が紅に染まっていく。終わりが、始まる。
◇ ◆ ◇ ◆
「あっ! じゃあ、あたしら全員お咎め無しってことッスか!? よかった〜! 出世に関わりますからねぇ」
サクラが何やら間抜けな感想を漏らした。まったくこの茶髪ツーブロと来たら。
まぁ、とにもかくにも万事丸く収まってよかったのは事実だ。戦いが終わってこそいないものの、これで心置きなく任務に就くことが出来る。
いや〜、気持ちよく働けそうなDAの仕事なんて何年ぶりかしら?
「───。……、エリカ」
「? ぇ、あ……な、何?」
「さっきは、ありがとう。あなたのおかげで……千束を救うことが出来ました」
……おや。
あー、なるほどね。細かいところまではちょっと想像つかないけど、たきなも今はDA本部のリコリスだもんな。
たぶん、フキがまたぞろ頭の硬いこと言ってたのを、一緒になって説得してくれたとか。そんなところだろう。
「そんな。……私こそ……フキや司令と、もっと話しておくべきだった。あの時───」
「ハッ。代わりにアンタが追い出されたおかげでまだやれてるんスよ、コイツ。礼ぐらいちゃんと言っとけよなー」
ふーん?
ってことは、もしかして……『例の作戦』の時、敵に捕まっちゃったのをたきなに助けられた子かな?
「あぁ。そういうことですか」
「……うん。本当なら、全部わたしが悪かったはずなのに……」
「確かに……。酷い奴だ」
言って、たきなは赤毛の子───エリカに笑いかけた。
表情も語調も、まるで彼女を責めている風ではなかったけれど。
「はっ……えぇ? そ、そうだけど……! そうなんだけど……!」
「ハァ……。自覚の足りんヤツばっかだ」
個性豊かな同僚に囲まれ、今後も苦労しそうなフキさんであった。ウケる。
「お店のユニフォームは何色がいい?」
「あ?」
「今回はたまたま上手くいったけど、たきなもニコルも一筋縄じゃいかないよ〜。次に何かあったら……フキにもリコリコ送りの可能性が」
「チッ……。ったく、馬鹿なこと言うんじゃねぇ」
「ま、そうなったら
同じ
何やら怪訝な顔をされたが無視した。……楠木さん、フキたちには秘密にしといてくれてるのかな。
「エレベーターが来ますよ〜」
◇ ◆ ◇ ◆
「下へ参りま〜す。……、ん?」
そうして、エレベーターの自動扉が閉まる直前だった。
かたん、という音がして。千束たちから少し離れた位置の床に、何かが投げ出された。
「───あー!」
茶色のサッチェル・バッグ。DAのリコリスの標準装備である
所有者を識別するためか、上面の持ち手には小さなブルドッグのキーホルダーが付いている。
「私の
閉まりかけていたエレベーターから、ひょひょいと飛び出る千束。
重量からして、バッグの中身には特に触れられていないようだった。埃を払いつつ大儀そうに拾い上げ、胸の前に抱えて笑う。
「おい千束。『先生の弾』が必要なのはわかるが、今は鞄なんか気にしてる場合じゃ……」
「ほらこれ! たきなにもらったやつ!」
ブルドッグのキーホルダーを示して自慢する。
何とも、錦木千束らしい楽観ぶりだった───その鞄が、
「───フキさん!!」
たきなが鋭い声を発し、フキの注意がそちらに向いた瞬間だった。
黒布の外套が揺らめく。
クリス・ベクター短機関銃が獰猛な唸りを挙げ、大量の.45ACP弾を吐き出した。
銃声を聞いたフキは、即座に自身の
緊急回避用の防弾エアバッグが作動、展開し、エレベーターの出入り口全体をカバーする。
「……千束っ!?」
間髪入れずに『閉まる』のボタンが押され、千束を除く4人はどうにか難を逃れた。
たきなはエアバッグを掻き分けて千束の姿を探すが、それよりも自動扉の閉まる方が早い。
「千束─────!!」
絶望的な距離が隔たろうとする刹那、リコリスたちの目に映ったのは。
漆黒のロングコートを靡かせる、毒々しい緑色の髪の男─────。
「よう」
「よっ」
血のように真っ赤な黄昏の中で、英雄と餓虎は三度相対した。