萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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#13 Recoil of fate
Optimistic hero,Hungry tiger!(1/X)


 

「エリカ。ここ、押さえていて」

 

「はいっ。ガーゼ、まだある?」

 

「千束の分がまだ───」

 

「……、……っ。……どんな……感じッスか……? 結構、痛いんスけど……」

 

 旧電波塔で一度は倒したはずの、真島による強襲。

 ヤツが使っていたクリス・ベクター短機関銃は、DAの標準装備のひとつだ。恐らくは延空木攻略作戦に動員されたリコリスが取り落としたもの。

 

「あ……っ、大丈夫……だよ。ちょっと血が出てるけど……絆創膏、貼っておくからね……!」

 

「そっか。……、危なかったァ……」

 

 春川フキの即時の防御が奏功し──あるいは真島の方も牽制のつもりだったのだろう──、私たちに大したダメージは無かった。

 ただ一人、乙女サクラを除いて。

 

「おいっ、サクラ!! 司令部!」

 

<アルファ1より報告。真島が延空木第2展望台に出現……アルファ2が負傷し、輸血を求めています>

 

<ポイントγの救護班を回しなさい、急いで!>

 

<第2展望台の映像を出せ>

 

<映像、出ます!>

 

 私たちには確認できないが───DAの司令部は今、夕刻の赤光がまっすぐに射し込む展望台に、ふたつの影が立っているさまを見ているのだろう。

 白金の髪のリコリス、錦木千束。黒布の外套のテロリスト、真島。

 

「……。アルファ1、了解。おい……サクラ? 下で救護班が待機してるってよ! ……おい!!」

 

「───、……!」

 

 しかし、半狂乱となって叫ぶ春川フキを嘲笑うかのように、エレベーターの下降が中途で止まった。

 同時に、エレベーター内の電灯までもが消える……停電だ。真島が何か仕掛けてきたらしい。

 

 戦いは、まだ終わっていない。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「これからどうすんの?」

 

「身の安全の確保が最優先だ。今やロボ太のやつの目がどこにあるかわからん、春先の件みたいに暗殺者を送り込まれたら一堪りも無い。まず作業に集中できる環境が必要……。……ん?」

 

「そう。じゃあとりあえず(リコリコ)に戻……今度は何よ」

 

「DAから連絡だ。楠木のアドレスじゃなさそうだが……。───、『Agent Gogh(エージェント・ゴッホ)』?」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───突如として目の前に現れた学生鞄(バックパック)

 たきなからのプレゼント(ブルドッグのキーホルダー)を惜しむ気持ちも嘘ではなかったが、それが明らかに怪しいことには、千束自身も気づいていた。だから、あえて自ら罠にかかりに行ったのだ。

 チェシャ猫めいた笑みを浮かべ、真島が嘯く。

 

「これでしばらく二人っきりだ。うぜぇハッカーどもも、電気が無きゃ何も出来ねぇだろ」

 

「……。何の用? もう終わったでしょ」

 

 夜が近づきつつある東京の空は薄暗いが、千束の『眼』を封じられるほどではない。

 展望台の手すりにもたれかかり、千束は心底億劫そうな様子で吐き捨てた。

 

「終わってねぇ」

 

「ふん。今度は何?」

 

 真島が自身のスマートフォンを取り出し、千束に見せつける。

 画面には、60分から目減りしていく何らかのカウントダウンが表示されていた。

 

「この塔が立ってられる残り時間だ」

 

「また爆弾か。好きだねぇ〜」

 

「確かに……俺の仕事は終わった。こうして俺が投げ込んだ石は波紋を呼び、やがて巨大な渦となって()()()()呑み込む。DAが何をどう隠蔽しようとな」

 

「あっそ。ならもう満足でしょ」

 

 満足など─────。

 この国における真島の仕事は終わった。()()()()()()()

 これは蘭堂が語った終末の時代、大いなる破局の始まりに過ぎない。真島にはすべてを見届ける権利と義務がある。立ち止まるという選択肢は無かった。

 

「お前との決着がまだだ」

 

「それもさっき着いた」

 

 まだ、何一つ、終わっていない。

 

「へっ……。相棒抜きで頼むよ───」

 

 銃声が3度響いた。救世主の、否、『英雄(錦木千束)の銃』だ。

 第2展望台に苦悶の声が響き渡る。命を奪わず戦意を砕く、()()()()()()非殺傷弾(『先生の弾』)

 

 五体を駆け抜ける激痛に、真島は歯を食いしばって耐えた。

 すぐさま身を翻す。錦木千束には銃弾がまともに当たらない。確実に殺すには工夫が要る。

 

「!? ぐっ……!」

 

「これでさっきの負けはチャラにしてやる!!」

 

 真島は大股で2歩跳躍した。瞬時に肉薄して千束の右腕を押さえつつ、もう片方の手で喉輪絞めを仕掛ける。

 

「は、良い服……。高かったんじゃないの?」

 

「へへッ。ヨシさん(吉松シンジ)の贈り物だ」

 

 千束の足払いが真島の脛を打つ。その程度で動じるような鍛え方はしていないが、リコリス制服のローファーには爪先と踵に軽金属の仕込みがある。

 想定以上のダメージに拘束が緩んだ瞬間、千束の銃が吼えた。

 

「ぐっ……! あァ!」

 

「っ!」

 

 非殺傷弾の衝撃力で真島が仰け反り、わずかばかり間合いが開く。

 真島の切り返しは速い。クリスベクター短機関銃による近距離からの掃射。

 『眼』をフル稼働させる千束には当たらなかった。しかし、回避のために無理な体勢を取ったのが祟り、床に倒れ込んだ───と見せかけて、刹那の油断を穿つかのようなハイキックが真島を襲う。

 緑髪の男は左腕を盾にして防いだ。双方示し合わせたかの如く、一時後ろへと跳び退る。

 

 リコリスとテロリスト。

 英雄と餓虎。

 互いに一歩も退かぬ攻防が続く。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 停止したエレベーターの中で、乙女サクラの救命措置を続けている。

 何かと問題の多い後輩だが、優秀なセカンドだ。失うには惜しい。それに……もう私の目の前で、誰も命を脅かされて欲しくはない。

 

<アルファ1。予備電源を手配しました、すぐに降下を再開しなさい>

 

「……停電の原因は?」

 

<調査中ですが……ほぼ間違いなく、真島でしょう。アルファ1、今はそれより至急降下を。予備電源はあまり長く保ちません>

 

「く……」

 

 とはいえ、命を脅かされていると言うなら、千束だってそうなのだ。

 千束にとっては凡百の犯罪者など物の数ではないけれど、相手はあの真島だ。何を仕掛けてくるかわからない。不測の事態に備え、援護に向かいたいところだが───。

 

「では……ッ、我々は上昇します!!」

 

「フキ!? それじゃサクラが……!」

 

()()()()()()()()()!! 任務のために死ぬ覚悟は出来てるはずだ!」

 

「だけどっ!!」

 

「これまでだって、そうしてきた……!!」

 

 ……。春川フキが、ここまで取り乱すなんて。

 そうだ。私たちはリコリスだ。日本の国体を護持するために育てられた、非情なる暗殺者。

 春川フキの言うことにも、一理ある。

 

<フキ、命令だ。引き上げなさい。サクラのこともそうだが……これ以上、リコリスの痕跡を残すな>

 

「……〜ッ……! 真島は、どうするんですか───」

 

<まだ千束が居る。奴に任せるしか無い>

 

 そして、司令部の方針も尤もだ。

 その後の催眠音波の放送で有耶無耶になったとはいえ、真島の演説はリコリスの存在を暴くべく行われたものだった。あの言い方では陰謀論の類にしか聞こえなかったかも知れないが、一度植えつけられた疑念というものは簡単には消えない。

 

「……()()()()()()()()()

 

<二度は言わん。聞き分けろ>

 

 春川フキが沈黙する。……たぶん、私が彼女と同じ立場でも、同じような葛藤に苛まれたと思う。

 ───けれど、恐らくは一点だけ、違っている部分がある。

 

「フキさん」

 

 これは……あまり、褒められた生き方ではないかも知れない。

 でも、私は。

 

 

 

 ───私はいつも、やりたいこと最・優・先!!

 

 ───今日を生きられない人に、明日や未来はやってこないんだから。

 

 

 

 ……私は。

 生きて、戦って、今を選べる人でありたい。

 

「……、……! お前っ……駄目だ! 命令だ!」

 

「今更でしょう。また私の独断ということで」

 

「たきな……。だ、だったらわたしも行くっ」

 

「駄目だッ!! ……現場のリーダーは、私だ……!」

 

 板挟みだ。現場と司令部の間だけではない。

 現在の相棒(乙女サクラ)古い友人(錦木千束)、どちらも簡単に諦められはしないだろう。

 

「だから、あなたにお願いしています」

 

 けど……それでいい。

 私たちは神様じゃない。一人の手が届く範囲は限られている。

 

「今、千束を救えるのは私で、サクラを救えるのはあなたです。()()()()決めましょう」

 

 故にこそ。こうして、互いの手を取ることが出来る。

 みんなで困難を分かち合い、共に戦うことが出来る。

 

 春川フキは、私に殴られた時よりも数段酷い顔をした後……鋭い視線を取り戻し、ひとつ息を吐いてから告げた。

 

「───千束を頼む」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「お前は、黒い方(たきな)ほど射撃が上手くねーな」

 

 (まなじり)を釣り上げて戦う千束に対し、真島は未だ余裕を崩していなかった。

 それは決して勝利を確信しているわけではなく、むしろ先の展開が読めないことに()()()()()()いるためであったが。

 

「もっとよく狙え。足とか良いんじゃねぇか?」

 

「……そうかよ!」

 

 千束は半ば皮肉のつもりで、言われた通りにした。身体を横に寝かせ、超低位置からの発砲。

 対する真島は、跳んだ───展望フロアの外周に敷き詰められた強化ガラスに速度と遠心力で貼りつき、そのまま回り込んでくる。

 

「うぇっ、御門みたいな真似を……!」

 

「ハッハァ!!」

 

 クリス・ベクターの連射。千束には真島の一挙手一投足すべてが視えている。如何に距離を詰めようと命中するものではない。

 とにかく接近を試みる真島に対し、千束は次々と非殺傷弾を撃ち込んでいく。だが、千束の『眼』と身体は無意識下でマシンガンの回避を優先しており、射撃にまで割り振れる集中力は残っていなかった。

 いつにも増して当たらない弾に痺れを切らし、千束が内心で格闘へ意識を向けた時、

 

「オラッ……!」

 

 黒布の外套がはためき、真島の袖口から何かが飛び出した。

 手のひらサイズで暗緑色の、レモンめいた紡錘形の物体───US M61破片手榴弾。

 

「はっ、あ!? おいおいおいおいッ……!!」

 

「ハハハハハハハ!!」

 

 衝撃と熱波。爆風と、飛散する鉄片。

 如何に『旧電波塔の英雄』と言えど、これに直撃されて耐えられる道理は無い。

 

「───、……」

 

 ただし。

 それは無論、本当に()()()()()()()の話だ。

 

「あ?」

 

 真島の超聴覚が、接近する足音を捕捉した。

 すぐに音の方向を見やるが、そちらには一見して何も無い。

 延空木の第2展望台は、フロアの中心が擬似的な吹き抜けとなっている。天井と床面は、ドーム状の強化ガラスで形成されてこそいるが、人間の侵入を想定した造りにはなっていない。落下防止用の手すりと柵もある。

 

「……!!」

 

 ─────否。

 延空木の建物に使用されている強化ガラスが、()()1()()()()()()()()()()()()()ことは、真島自身が証明済みだった。

 

「!?」

 

「フッ……!」

 

 爆発で巻き上げられた粉塵の煙幕の中から、無傷の錦木千束が飛び出してきた。

 『英雄の銃(M1911DCMカスタム)』のリロードは完了している。すかさずトリガーが引かれた。

 1発目、胴体に命中。2発目、左腕を掠める。3発目、側頭部を掠める。

 そこは既に、リコリス(錦木千束)の距離だった。4発目の非殺傷弾が─────。

 

 

 

 

 

 刹那、千束の呼吸が止まった。

 

 

 

 

 

 拍動に依存しない新機軸の流体制御機構。現行技術の数世代先を行く人工心臓を持つ千束に、"息切れ"は限りなく無縁の言葉だ。

 ただし───機械製の人工心臓が充分に稼働できるだけの電力さえあれば、という前提の上で。

 

「かっ……! は、ぁ」

 

「……! ……、?」

 

「ぁ……はぁ、は……ッ、こんな時に……!」

 

 10年前、先天性心疾患に冒されていた頃を思い起こさせる息苦しさ。

 肺の中身をすべて重油に置き換えられたかのような重圧。

 何人たりとも逃れ得ぬ、死の影。

 

「もうちょっと、頑張んなさい───」

 

「…………」

 

 怪訝そうな表情を浮かべた真島は。

 胸を押さえて必死に立ち続ける千束に向かって、容赦なくクリス・ベクターを持ち上げ。

 

「……。良くねぇ音だ」

 

 ───その脇にあった、飲料の自動販売機を蜂の巣にした。

 内部機構と制御システムの両方に異常をきたした自販機が、次々と缶やペットボトルを吐き出し始める。

 

「休憩にするか」

 

 圧倒的有利にある餓虎は、手近な飲料缶を拾って、悶え苦しむ英雄へと差し出した。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ─────、……。…………あ〜、もうっ!!

 何なのこいつ? 本当、何なの!?

 

「一体、何がしたいんだよ……」

 

 私は今、5分前まで本気で殺し合っていた男の隣で、そいつが投げて寄越した缶ジュースの蓋を開けている。

 

「これだよ」

 

 緑髪の男・真島は、両手を上に向けて答えた。

 相変わらずチェシャ猫みたいなニヤニヤ笑顔で、かえって表情が読み取れない。

 

「どれだよ」

 

「命懸けの勝負。俺が唯一、()()()()()()()()()()()奴とのな」

 

 うぇへぇ。ニコルみたいなヤツだな。

 あー……実際、応援に呼んどくべきだったかも。完全にDA本部に戻ったたきなと違って、ニコルは書類上は『喫茶リコリコ支部』所属のままだったはず……。

 

「……ここを壊したいんじゃないの?」

 

()()()()ならすぐにでもやったさ。調子の悪いお前と()り合ってもつまらねぇ。まだ死ぬな」

 

 何だそりゃ。ツンデレってやつか? 可愛くねぇ〜。

 

「とりあえず時計、止めなさいよ」

 

「そりゃ駄目だ」

 

 ちぇ。どうせなら徹底的にデレてくれたっていいだろうに。

 真島が眺めているスマホの画面を、横目で確認する。カウントは……残り20分と少し。

 

「モザイク無しの現実ってのを見せないとなァ」

 

「何それ」

 

「俺ァ世界を守ってるんだぜ? 自然な秩序を破壊するお前らからな」

 

 なんかまた変なこと言い出したよ。

 世界を守ってるぅ? お前が〜?

 

「壊してるのはあんたらテロリストでしょ」

 

「そう。お前らが壊すから俺も壊す。バランスを取ってるだけだ。DAや『DEMONS』みたいのが消えれば、俺も必要なくなるだろうさ」

 

 ……ん?

 ───、少し引っかかる言い草だな……?

 いや。まぁ……それはさておき、

 

「しぶしぶ悪人を演じてるっていうの?」

 

「悪者やってるつもりは無ぇよ。ンなもんは()()()()()()()。弱きを助け強きを挫く、これが一番性に合ってるってだけだ」

 

 どっちでもいい……ね。

 弱きを助け〜って部分だけ聞くと、何の冗談だって感じだけれど。

 

「もしDAが劣勢なら、俺はお前らに味方するぜ? そしてもしかすれば、そういう時代はすぐそこまで来てるかも知れない」

 

「……。結局、あんたですら自分を正しいと思ってるわけね。本当のワルは、映画の中にしか居ないってか」

 

 真島は、一瞬だけ真剣な目になってこちらを見た。

 やがて堪らえ切れないとばかりに吹き出し、くつくつと肩を震わせる。

 

「だから映画は面白いんだろ? 現実は正義の味方ばかりだ……。理想や、希望や、平和を願って、自称善人同士が血みどろの殺し合いを演じる。それがこのクソッタレな世界の真実だ」

 

 どこか遠い故郷を思い出すかのように、テロリストはゆっくりと語った。

 

「そうだな。お前らが言うところの悪党っつーのは、こんなクソな世界をブッ壊すために生まれてくるのかも知れねぇ。善意に溺れて地球の心臓が止まらないように、()()()みたいなヤツが必要なんだ」

 

 ……セーフハウスや旧電波塔で話した時と、少し様子が違う気がする。

 とんでもない大悪党なのは変わらないが、言葉の端々から、淀みみたいなものが消えたような。ある種の悟りと余裕を得た風だ。

 旧電波塔から延空木まで来る短時間で、何があったんだろう……?

 

 爆破のカウントダウンが進む。

 残り時間は、およそ15分。

 

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