萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
今回は久々に、皆さんお待ちかねビックリドッキリメカが登場します。
エレベーターの上面に設けられたハッチから外へ。緊急時用の梯子に飛びついて登る。
千束に何度か見せられたアクション映画に、こういうシーンがあった。
真島の工作のせいで電気系統はダウンしている。DAと『ラジアータ』が予備電源を起動したあのエレベーターを除いて。
分厚い隔壁が閉まっていたり、占拠時に敵が破壊していたりで、通れる道は思っていたよりずっと少ない。
エリカ──と彼女に屋内戦での『歩き方』を教えたらしいニコル──に倣って、天井裏や通気口を使えないか模索してみる。
しばらく進むと、激しい物音と銃声が聞こえてきた。
錦木千束が、戦っている。
◇ ◆ ◇ ◆
自販機を撃った時点で、鹵獲品のクリスベクター短機関銃は弾切れだった。
真島がチアッパ・ライノを抜き放つ。千束は首をわずかに傾けると同時に発砲。
と同時に、真島も千束の動きを読んでいた。回避動作から立て続けに前蹴りが飛ぶ。
異能の『眼』による動体視力がそれを捉える。懐に入り込んで───千束の狙いは、真島が持つスマートフォンだった。
「ッ!」
「あァ?」
黒布の外套を掴んで投げ技を試みる。ポケットから携帯端末が零れ落ちた。
千束の意識がそちらに向いた一瞬、真島は空中で身体を捻る。着地と共に千束の白金の髪を捕まえ、意趣返しの如く端末から引き離す。
「がっ!?」
「ハ───!」
「……、!」
至近距離からの銃撃。しかし、今度は双方ともに回避する素振りを見せない。命中しないとわかっているからだ。
床に落ちた端末を追う千束と、それを阻むように立ち塞がる真島。銃を持つ方の腕を押しつけ合う姿勢に。
「勝負に集中しろよ……!」
「止めろ時計っ!」
真島はそれ以上反駁せず、端末を床の向こうに蹴り飛ばすことで応えた。
千束の有効視野は広い。───故に、
刻一刻と迫る爆破の時間と、心臓の限界を感じて焦っていたのもある。真島を無視して背を向けたのが運の尽きだ。
「……お前にはがっかりだ」
如何な錦木千束であっても、完全に視認不能の攻撃は回避できない。
弾丸が少女の肩口に喰らいついた。
「っ、あ……!!」
千束が真島に手傷を負わされたのは都合2度目だが、銃弾はただの徒手空拳とは訳が違う。皮膚を突き破った金属片に骨肉を抉られる激痛は、単なる打撲とは比べ物にならない。
地に倒れ伏した英雄を足蹴にし、餓虎は戦いの決着を告げる。心底、つまらなさそうに。
「俺も残念だ。こんな形で終わるのは」
たとえ失望が死闘の狂熱を冷まさせていようと、虎の狩りは精妙だ。負傷した千束の肩口を踏み躙り、抵抗する意志を砕かんとする。
それでも這って進み、端末へと手を伸ばす千束の頭蓋へ、チアッパ・ライノの銃口を突きつけた。
真島の超聴覚は、この第2展望台へと徐々に近づく足音を捕捉している。
増援、恐らくはあの
だが間に合わない。
たきながこのフロアの非常扉まで辿り着き、施錠された物理鍵を銃撃して破壊するよりも、虎の牙が英雄の息の根を止める方が早い。
「───千束っ!!」
扉が開いた刹那、引き金に指が掛かり─────。
◇ ◆ ◇ ◆
<だいじょうぶだよ。たきなお姉ちゃん>
声が、聞こえる。
<伏せて>
◇ ◆ ◇ ◆
超聴覚を有する真島の警戒網は、常人のそれより遥かに広い。臨戦態勢の真島に奇襲を仕掛けることはまず不可能だ。
増援のたきなへの対処ではなく、千束にとどめを刺すことを優先したのもそのためだ。経験上、この距離でたきなに出来ることは何も無いと、真島は理解していた。
そして、千束の『眼』がそうであるように、真島の『耳』にも弱点はある。
即ち───
1400万の東京都民が、空を征く一筋の流星を見た。
一拍遅れて、『ジュッ』という異音。
「……、?」
それが真島の耳に届いた頃には、右の肩口から先が
腕の断面は焼灼を通り越して即座に炭化しており、また真島と千束の隣の空間では、プラズマ化した大気が揺らめく陽炎を作り出している。
「───は?」
真島の右腕を奪った閃光の源は、『YHV-X82
荷電した重金属粒子に莫大な電圧を与えて亜光速にまで加速、然るべき後に解放し、また事前に展開した『
DAの技術研究部が生み出した、およそあらゆる超先端技術の結晶だった。
致命的な熱量と電磁パルスを放出しつつ、命中した物体を原子崩壊によって瞬く間に溶解せしめるその一射は、しかし大気中においては粒子が拡散して容易く減衰するという弱点がある。
そして───その弱点さえも計算に入れての、長距離狙撃だった。
延空木の第2展望台に飛び込んできたのは、粒子ビームのほんの末端。射程限界に達し、大幅に威力を損なった最後の残滓が、真島の半身をわずかに掠めたに過ぎない。至近距離に居た千束とたきなを傷つけること無く。
米粒に絵筆で仏画を描くが如き、常軌を逸した射撃精度。
こんな芸当が可能な人間を、彼女たちは一人しか知らない。
◇ ◆ ◇ ◆
─────今しか無い。
何が起こったかさっぱり理解できなかったけれど、それだけは確信が持てた。
駆け寄ってくるたきなと/どうにか身を起こした千束と、目が合う。
『錦木千束の銃』をヤツの脳天へ/S&W M&P9を真島の足へ、照準する。
放たれた弾丸は、狙い過たず諸悪の根源を打ちのめした。
衝撃によって真島の足取りがふらつく。
その背後には、さっきの閃光が強化ガラスに穿った奈落の穴が口を開けている。
「……たきなっ!!」
「ッ─────!!」
ワイヤーガンから金属繊維が射出され、真島の身体をその場に縫い止めようとする。
しかし、それこそ良くなかった。フラフラと揺れていた男の姿勢が、むしろまっすぐに矯正される。残った左腕までもが拘束されて動けないまま、さらに後方へと押しやられ───。
「そうか。
最後に
◇ ◆ ◇ ◆
撃ち抜かれた肩の痛みも忘れ、私は第2展望台のフロア外縁部まで走った。たきなもそれについてくる。
くれぐれも穴から落っこちないよう気をつけて、覗き込んだ眼下の景色に───真島の姿は無かった。
ふたりで顔を見合わせる。達成感とか、安心感とか、それらしい気持ちは何一つ湧いてこなかった。
「……。……、終わっ……た……?」
「千束───。……ごめんなさい、私」
「いや……」
……真島だけを特別扱いするつもりは無い。誰かの時間を奪うのは気分が良くない。たとえそれが真島であってもだ。
けれど、その反面───この結末は、私たちには抗い難い、それこそ運命とでも呼ぶべき
「───たきなは……たきなは、悪くないよ」
そんな当たり前のことしか言えなかった。
気持ちに整理がつかない。いや、
何のやり甲斐も感じられなかった一方、何の悲しみも生じなかった。自分はこんなにも薄情な人間だったかと驚くくらい、ただ圧倒的なまでの納得しか無かった。
「……! そうだ、爆弾!」
しまった。真島には悪いが、いつまでも呆けている場合じゃない。
「スマホスマホ〜っ! ……う、ぐっ……!」
「ちょっ……ていうか、肩撃たれてるじゃないですか!? とりあえず座ってください!! いま応急処置を───」
「くぅ……! はぁ、はぁッ……そ、それどころじゃないんだよ!!」
たきなへの説明もそこそこに、蹴り飛ばされたスマホを探す。
幸い、モノ自体はすぐに見つかったけど……。
「あったぁ!!」
「制限時間は?」
「えっと、残り1分と30秒……1分と30秒!? あっ今10秒経った!! えっと、えーと……!」
「真島から聞いてるでしょう! アテがあったから探してたんじゃないんですか!?」
「ごめん完全にノリで取り合ってた!! でもほら、わざわざ見せびらかしてきたんだから、フツー何かあると思うでしょお!?」
「何かって何です!?」
「うるせ〜! 知らね〜! どれだどれだどれだ? ……くそっ、バランスがどうこう言うくせに、ホーム画面の整理できてねーじゃん……!」
カウントが残り1分を切った。
謎に地図アプリと音ゲーが入り混じるホーム画面を次々とスクロールしていくものの、それっぽいアイコンは見当たらない。
「ああぁぁぁ!! もうダメ〜っ!!」
「やめてくださいよ千束らしくもない! せめて……せめて爆破を凌げる場所を見つけましょう! ほらあの、冷蔵庫に入って核爆発から逃れる映画、見せてくれたじゃないですかっ」
「あっインディ・ジョーンズね。鉛で出来た冷蔵庫に逃げ込めば安心……ってそんなもんあるかー!!」
ん? 何となく
そういえば、夏にパンツ買いに行った時にこんな会話したな。あはは。ついに走馬灯が見えてきたぞぅ。
「んなぁぁぁ! こうなったらもうアドリブで何とかすっべ! まず窓ガラスから離れるっ……!」
「周り、窓ガラスだらけですけど」
「くたばれ設計者!! と、とりあえず階段! 非常階段行こう!」
「時間どうなってます!?」
「え? んと、残り───15秒」
全然くっちゃべってる場合じゃなかった。
心臓のバッテリーがやや不安だけれど、非常階段に向かって全力でダッシュ。どうせ死ぬならやれるだけやってみてからだ。
いざって時は……たきなだけでも、絶対、地上に帰してあげないとな。
10秒。
5秒。
4。
3。
2。
─────1。
◇ ◆ ◇ ◆
西暦20██年11月██日、午後18時30分。
新電波塔『延空木』完成セレモニーを締め括る花火は、
◇ ◆ ◇ ◆
「───……」
「……」
「…………」
「…………」
「……、……。……ふざけやがって」
「……ですね」
◇ ◆ ◇ ◆
緋色から藍色へと色彩を変えていく空の下、遠く浮かび上がる街明かりを見つめながら、ミカは今日2本目の煙草に火を点けた。
全体の5分の1が灰に変わった頃、インカムにクルミからの通信が入る。
<すまない、遅くなった。こっちも忙しくてな>
「構わんさ。楠木から聞いたぞ。大仕事なんだろう」
<それはもう大仕事だとも、何せ全人類のピンチと来てる。こいつに比べりゃ、お前の頼み事なんか屁でもないね>
苦み走った中年の男は、煙を一度深く吸い込んで返事に変えた。
<ついさっき執刀医と連絡がついた。医者のくせに顔にでかい傷のある変人だが、界隈では有名な本物の天才だ。法外な手術代も、人工心臓のデータと引き換えで格安にしといてくれるとさ>
「あぁ」
<明日の昼には山岸のクリニックに着くそうだ。細かい話はその時に詰めてくれ>
「あぁ。感謝する」
<───、ミカ。待ってるからな>
必要なことを必要なだけ伝えて、クルミは通信を切る。
大前提にして最大の懸念事項───人工心臓の所在については、決して口にしなかった。
「……ありがとう」
ミカはもう一度、感謝の言葉を虚空に投げかけた。誰に聞かせるでもなく。
まだ数本残っている煙草のケースをその場に置いて、静かに立ち去る。
都心に
◇ ◆ ◇ ◆
「話は済んだか?」
「まぁな」
これから徹夜で作業しなきゃなんだ。他のタスクはちゃっちゃと片付けておくに越したことは無い。
「そうか。
「? 何がだ」
「いや……。じゃ、行くとするか。新天地に」
念のためゴッホを先頭にして、店を後にする。辺りはすっかり暗くなっていた。
さっそくいつものリコリコ営業車が待つガレージへ……向かおうとした、のだが。
「おいおい……フツーの喫茶店の収入で買えるような車で移動しようってんですか? 敵のハッカーがどっから見てるかもわかんないんでしょ」
「うん? 何よ、スーパーカーでも用意してくれてんの?」
「フフッ。ま、見ててください」
そう言う包帯女が左手首のスマート・ウォッチをいじり、しばらくすると───。
ゴゥン、という大気を揺るがす爆音が轟いた。
遠隔自動操縦でカッ飛んできたのは、一見してスポーツカー風の、しかし日本の公道を走れているのが不思議なほどゴツいモンスター・マシンだった。
概ね鋭角的……というよりは
「……バットモービルかよ」
「ロケット噴射は実装されてないから安心しろ。あぁミズキさん、マニュアル渡すんで読んどいてもらえますか? 万が一敵の襲撃があったら、護衛と運転は同時に出来ませんし」
「DAはいつから悪の組織の怪人と戦うようになったのかしらね。上等なクルマは大歓迎だけど、これ最高速度はどのくらい?」
「循環型イオン・プラズマ・エンジンのおかげで燃費は良好ですが、装甲が厚いぶん重量があるので───スピードも操作感も、そこらの大衆車と変わりませんよ。リミッターさえ
それ絶対どっかでリミッター解除しなきゃいけなくなるフラグだろ。
『チェーホフの銃』って言葉知ってるか? 知らんやつはググれ。