萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
その日、DAが流布した
───徐々にスピードを増していく1台の特殊装甲車両と、それを追う6台のバイクを除いて。
バイク集団はみな一様に黒いヘルメットとライダースーツに身を包んでおり、素性は窺えない。
だが、装甲車を包囲する淀みの無い動きは、彼らが真島の引き連れていたような十把一絡げの戦闘員ではないことを示していた。
そして、戦端は開かれた。H&K MP5と
騎乗戦を前提とするためか、バイク集団───『DEMONS』の強襲部隊は、火力よりも命中精度や反動制御を重視した装備を採択している。
DAの特殊装甲車両───『TDR-252-VE
「ひいぃぃ!!」
「ふむ。ミズキ、どうやらこいつの頑丈さは信じて良さそうだぞ。まるで米帝の
「あ、アンタどうしてそんなに落ち着いてんの!?」
「実は前に一度、たきなに盾にされたことがあってぇ……」
「フン」
センター・クラスターに3面が存在する多目的コンソールの内、ゴッホは上部左側のタッチパネルを手早く操作した。
内蔵火器の管制システムをオンラインに。フロント・フェンダーとリア・フェンダーから、回転式の基部を持つ全方位迎撃機銃が、都合2対の計4門展開。
「お返しだ。遠慮しないで全部持ってけ」
毎分120×4発の.41AE弾が吐き出され、サイクロトロン・ボーイに群がる強襲部隊を薙ぎ倒していく。
銃口は補助AIによる自動照準、尚且つ
『DEMONS』の精鋭たちも、見事な
「残弾……、67%。まだやれる」
「そりゃありがたい。新手だ、後ろから3人……」
車と併走するようにドローンを飛ばし、周囲の様子をモニターしているクルミが、額に冷や汗を浮かべながら言った。
「じ───
「嘘でしょ!? ここ本当に日本!?」
「向こうさんはよっぽどアンタが怖いらしいぜ、ウォールナット! 上等だッ」
ゴッホはコンソールを叩くと同時、全力でハンドルを切った。甲高い擦過音を響かせながら、走行中のサイクロトロン・ボーイの前後が反転する。
車体の天面が盛り上がり───6門の
「月まで吹っ飛びやがれ!!」
ドアの手すり部分からポップアップした照準器の操縦桿を握り、トリガーを引く。敵ライダーによるジャベリンの発射と同時だった。
リリースされたマイクロ・ミサイルは狙い過たず、1発がジャベリンに衝突して爆散させ、残る5発が3台のバイクへと殺到した。轟音。
「……東京はいつからこんなクソ物騒な街になったんだ?」
「歴史を紐解けばわかると思うが、日本は昔からテロリズム先進国だぞ。ゴッホ、増援4人」
「大盤振る舞いだな。装備は?」
「さすがにもう大砲持ちは来ないみたいだ。……けど───」
言葉に詰まるクルミ。ゴッホはサイドミラー──正確には車窓にAR投影された車外カメラの映像──をチラリと見た。
そこに映っていたものこそ、まさしくクルミの動揺の源泉だ。
「妙なのが居るな。あれは……
それを聞いた瞬間、ここまではいくぶん余裕を漂わせていたゴッホの目から光が消えた。
リコリコでの顔合わせの後、クルミたちが身辺の整理や千束の執刀医との契約といった諸事を済ませていた間に、ゴッホもまた装備を整えている。
平時より愛用しているロングコートは防弾仕様。
「
軽装での暗殺を旨とするリコリスはおろか、並みの
ドットフィフスはその職務も権限も通常のリコリスとは一線を画す部隊だが、明らかに異様で過剰な装備だった。
「えぇ? こんなトコで代わるっても……どーすんのよ。車ん中這って進めって言うの?」
「さっき確認したヘルメット、あるでしょう。アレ被ってもらえればわかりますよ」
釈然としないながらも指示に従うミズキだが、疑問符を浮かべていられた時間はほんのわずかだった。
視界を覆うヘルメットのバイザーの内側に、青い光が灯る。途端、ミズキの手元にハンドルやメーター類、3枚のコンソールが
「うおっ!? 何じゃこりゃ」
「いいですか、このあと10秒で一時減速してコントロールを移しますよ! 敵のことはオレに任せて、時速300㎞の旅を楽しんでください───
「え!? ちょ、はあぁ!? マジかアンタ!!」
現在この距離では無用の長物であるPSG1狙撃銃を置いて、ゴッホはスカー突撃銃とサイガ12散弾銃を引っ掴む。
再び包囲網を形成しようと迫るバイク集団に対し、車体を揺らしながら急減速すると、敵の一人へと体当たりを敢行───。
「オラァッ!!」
する寸前で、ドアを開けて車外に躍り出る。その勢いのままバイクの上の戦闘員を蹴り飛ばし、ハンドル・グリップを奪い、横転寸前の状態から強引に姿勢を戻した。
包帯頭のエージェントはショットガンを
「……あいつも全然普通にイカれてるな」
「あのオレンジ制服、まともな人間は着ちゃいけない決まりなのかしら……」
◇ ◆ ◇ ◆
目を覚ますと、DAの医務室……ではなかった。
「……あれ?」
間抜けな声も出ようというものだ。
だって、ここは─────。
「私、なんで」
コーヒー豆と木の混じった匂い。畳の座敷。自然光が──この時間は月の光が──差し込むステンドグラス。
喫茶リコリコ。先生と作った出発地点であり、街の人たちの笑顔が集まるお店であり、たきなやクルミと出会った場所。
たぶん、もう二度と帰ってくることは無かったはずの、私の……。
「……っ」
身体を起こす。私は座敷席の座布団の上に寝かされていた。
店内には他に誰も居ない。それでも、状況を説明してくれるものは何か無いかと目を凝らすと、カウンターの上にスマホと……謎の白い"ケース"が置かれているのに気付いた。
とりあえず、誰かに連絡しよう。たきなか、先生か、クルミか。
そうだ、たきなはどこに行った? 真島に撃たれた傷は、適切な応急処置のおかげで酷くなってはいないけれど、それでも相当なダメージだ。あの心配性のたきなが、理由も無く私を放ったらかしていくとは思えない───。
スマホのロックを解除した瞬間、知らない番号から電話が入った。
いや……あまり正確には記憶していないが、この番号にはどことなく見覚えがある。
真島一味の、『DEMONS』のハッカー・
「───、もしもし」
<どうも。昼間ぶりだな、ナッツクラ……ロボ太だ。いま起きたところか? 電波塔のリコリス>
「そうだけど……ちょっと雰囲気変わった? てか、何の用だよ」
<良い報せと、悪い報せと、大事な報せがひとつずつある。どれから聞きたい?>
は……? 何だそりゃ。
むしろ、一から十まで全部説明して欲しいことだらけなんですけど。
「……悪い報せからで」
返事は無かった。
代わりに、カウンター席横の小型モニターの電源が入った。
星が、燃えている。
何度か画面が切り替わる。いずれも日本のニュース番組ではなかった。
契約していないはずのチャンネルが流れている時点で相当薄気味悪かったが、映し出されている"現実"の衝撃に比べればまったく大したことは無い。
すべては一瞬の内に進行したらしい。
纏めて要約するとこうだ。
エジプトのシャルム・エル・シェイクで発生した
軍事テロ、政治的クーデター、民衆の暴動。その他、ありとあらゆる種類の破壊と狂乱が地上に解き放たれた。
混沌の最中、5つの頭を持つ異形の怪物のエンブレムを身に着けた武装集団───『DEMONS』の"国境無き軍隊"が世界各地に出現。
官民を問わない、
この攻撃によって、南米や東アジア、アフリカの一部地域はほぼ完全に壊滅したらしい。
世界が
アメリカの米軍基地が、国内外を問わずいくつも全力稼働状態に移行している。それに呼応して、ロシアや中国にも軍事的な動きがある。ヨーロッパ諸国は協調と分断、どちらの道を選ぶのか考え始めることすら出来ていない。
オーストラリアの大地に衛星軌道上から確認できるほどの穴が開いたとか、北極海に国籍不明の巨大な武装潜水艦が浮上したとか、眉唾物の情報も出てきている。
───そしてたった今、日本国籍の貨物輸送船が数隻、行方不明になっているとのニュースが入った。
言葉を失う。
真島による延空木の襲撃など、まるで序の口だった。
けれど……私に、もしくは世界中の誰もに、想像できただろうか?
あまりに荒唐無稽すぎる現実。比喩も誇張も抜きにして、
「…………、……。……な───」
<どうして、とか何で、とかは聞かないでくれよ。『ウォールナット』を超えた今、僕が『DEMONS』に協力しているのは単なる義理のためだ。奴らが僕をどう使おうが、その結果何が起ころうが、僕の知ったことじゃない>
じゃあ次は良い報せだ、と電話の声が続ける。
これだけの事態が起こっているのに、ロボ太は本当に何も気にしていない風だった。
<そこのケースを開けろ。机の上にある白いケースだ>
思考が上手くまとまらないまま、指示の通りにケースを手に取る。
つるりとした質感の眼鏡入れか何かに見えたが、左右2つの留め具を外して開いたケースの中には、軽金属製の蓋で密封された奇妙な
<我らが『女王様』からの贈り物だ。本当は論文のデータを転送した方が早いんだが……お前のような人間には、口頭で説明してやった方がよさそうだ>
「ちょっとそれどーゆー意味よ」
<そいつは最新鋭の医療用分子ロボット───いわゆるナノマシンが封入された溶液さ>
無視された。このやろう。
試験管の中身は、薄青い──照明が点いてないので少し自信が無いけど──液体で満たされている。
最新鋭の……何? ぶ、分身ロボットのヨード液? これがぁ? つか、なんでそんなもんを私に……。
<ある種の極限環境微生物と
「マジか」
<それで今、そいつには『自壊と引き換えに電力を生み、任意の箇所に流し込む』というプログラムが書き込まれている>
「───っ!?」
え……。
ちょ、それってつまり、
<要するに、そいつを飲めばお前の寿命がいくらか延びるってわけだ。僕の計算ではせいぜい半月ほどだが……。これが良い報せ>
「何が目的?」
間髪入れずにそう聞いた。
どう考えても、誰が考えても、全会一致で怪しい。これは暗殺用の毒です飲んでください、と直球で言われた方がまだ信じる気になる。
<だから、知るかよ。それも僕の采配じゃない。次に、大事な報せだけど───>
こ、こいつ~……! たった何時間か喋らない内に、謎にダウナーキャラに転身しやがって!
ていうか、何でお前が知らないことの方が多いんだよロボ太っ。お前のハッキングが計画の要だったんじゃないのか?
<
通話終了と同時にメールが着信。件名は『無題』、本文も空白で、地図アプリの座標と紐づけされた写真が1枚添付されているのみ。
そこに映っていたのは、どこかの屋内らしい薄暗い部屋だった。黒光りするワイヤーで縛りつけられた誰かが、壁にもたれかかるようにして座らされている。
女の子だ。座高からの目算だが、身長は私と同じくらい。着ているのは紺色の学生服。艶やかな濡羽色の長髪で、端正な顔立ちの─────。
ふと、つい今朝も似たようなことあったな、なんて呑気な感想が浮かんだ。
それが頭の中の冷静な部分の声だったと気づくのに、もうしばらくかかった。
地下室への鍵を開け、階段を2段飛ばしで駆け下りる。
旧電波塔で喪失した
『
本能のレベルにまで刻み込まれた動作を反復する。
銃の動作と弾倉を確認。───問題無し。
店の扉を蹴破りかけ、寸前で足を止めた。
この試験管が罠でない保証は無いけれど、罠であるという確信もまた無い。
典型的な劇場型のテロリストで、頭のおかしい戦闘狂だった真島のことを思い出し、私はまだ見ぬ『DEMONS』の『女王様』を信じることにした。
蓋を千切り捨て、中の液体を一息に流し込む。
わずかにとろみのある無味無臭。でも、最後に心なしかアルコール消毒っぽい匂いがした……ような。
逸る気持ちを抑え、念のため3分ほど待ってみた。
とりあえず即効性の猛毒ではなかったらしい。心臓の方は……よくわからない。
とはいえ、心臓の不調をここで立ち止まる理由にするつもりは、最初から無い。
最後に、冷蔵庫からパックの栄養ゼリーを取り出して、10秒で吸い尽くした。
晩ご飯としては下の下だけれど、時にはこういうものに頼らざるを得ない時もある。明日以降の食事で取り返すことを前提に。
「───たきな」
色々考えたけど、自転車で行くことにした。スクーターを買う前まで使ってたやつだ。
幸いにも、目的地のビルはここから然程遠くない。
「今、行くからね……!」
夜の東京へと駆け出す。
朝日は、しばらく拝めそうにない。
正直、ここまで派手に世界を焼くつもりは無かったのですが……(自重するのを)やめました。
ありがとうアーマード・コアⅥ、ありがとうフロム・ソフトウェア。
俺、世界を燃やすよ……!!