萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
「でたなゲッター○○」構文、何かの間違いで流行って欲しい(叶わぬ願い)
星の見えない東京の夜闇の中、スポーツカー風のハイエンドモデル車が高速道路を走っている。
車内には各種通信端末と連携する電子システムを備えており、フリーハンドでの音声通話も可能だ。
現在の状態はオンライン。スピーカーからくぐもった声が響く。
<この距離のドローンに気づくとは>
ノイズ混じりの加工された音声。
通話の相手を指し示すカーナビの画面には、しかし何ら意味のある情報が記述されていない。空白の登録名、出鱈目な番号、戯画化された
「千束……か」
手元の端末で直前までの記録映像を見返しながら、後部座席に座る男が呟いた。
男の瞳に映るのは、一人の少女。旧電波塔事件の英雄にして、史上最強のリコリス───錦木千束。
<『リコリス』と知り合いか? 国家に仇成す者を消して回る噂の処刑人が、まさかこんな少女だったとは。驚きだ>
「さすがは『ウォールナット』。博識だな」
<無知であることが嫌いなんだ>
片や本来の声色を明かさず、片や本心を声音に出さない。
そういう者同士の、限りなく暗闘に近い会話が続く。
<……だから、もっと知りたいことがある>
「あぁ。報酬の件だね? こちらの代理人の不手際だ、支払いが滞っていることは謝罪しよう。依頼した
<そうじゃない>
男は視線を上げ、運転手の女とミラー越しに目を合わせた。
「ほう。何かね」
<どうして、こんな銃取引なんぞに関わる? "施しの女神"に
漆黒のフォーマルスーツの胸には、フクロウを象った鈍い黄金のバッジ。男が属する
<───『アラン機関』>
その単語が聞こえた刹那、男は一切の音を発さずに笑った。
すぅ、と左手を立てる。運転手の女に向けたサイン。
「そうだな。生憎、君の質問に答えることは出来ないが。代わりに一つ教訓を授けよう」
女がカーナビの画面を操作する。
すると、高速道路から見えるビル群の一角が火を噴き、跡形も無く消し飛んだ。
「人は、無知である方が幸福なんだよ。ハッカー」
◇ ◆ ◇ ◆
あの日から一昼夜明けて─────。
「おはようございます」
「おっ、来たねーたきな」
「おはよー!」
「出たなゲッターニコル。はい、じゃあ皆さん。まず制服に着替えますよー」
バックヤードの更衣室にて、私は青い和風の『リコリコ制服』を支給された。サイズもぴったりで動きにくいということは無い。
リコリスには定期的に
ニコルの方は転属が『急に決まった』ため、こっちはさすがに用意する暇が無かったと思われるが……。
「悪いけど、ニコルはとりあえず私のお下がりで我慢してね。ちゃんとしたのはまた今度届くからさ」
「おー。千束のにおいする?」
「まだ若いくせして妙なフェチに目覚めよってからに。心配せんでもちゃんと洗ってあるって……だ、大丈夫だよね?」
「……くんくん。これは……」
「……これは?」
「ホルモン焼きそばのにおい!」
「変な嘘つかないでくれる!? たきなが勘違いしたらどうすんの!」
「だいじょうぶ、たきなお姉ちゃんは賢いもん。こんなことで騙されたりしないよ……千束と違って」
「か〜ッ口の減らないガキめ! ほら、下らないこと言ってないで、早く着替えた着替えたっ」
まるで姉妹だな。顔立ちは全然似てないけど。
千束さんはどうにもニコルのことが苦手なようだが、実際は喧嘩するほど仲が良いというやつだろうか。
「ニコル、どう? 私も二択までは絞れてんのよ。三つ編みかポニテってとこかな」
「あの、千束さん」
「たきなお姉ちゃんの顔立ちなら、わたしはやっぱり清楚系で行くべきだと思うの」
「ニコルも……」
「なるほどね。そりゃ尤もだ。しかし、だからこそあえて……?」
「開店時間が……」
「あえて、攻めの姿勢を見せていく……!」
「よぅし決まり! ではお嬢さんちょっと失敬、これをこうして! こう! こう!」
そして、飲食店なので長い髪は纏めましょう、という話になり。
「───はい、いっちょ上がり〜!」
「おぉ〜! たきなお姉ちゃん、かわいいっ!」
結局、私は三つ編みでもポニーテールでもなく、耳の後ろ辺りで二つ結びにしたツインテールとなった。
自分で言うのも何だけれど、私はあまり愛想の良い人間ではない。この手の髪型は似合わない気がするのだが……。
とはいえ、千束さんとニコルには好評のようだし、彼女たちの目から見て不格好でないなら及第点だろうか。
「んー。たきながツインテなら、ニコルは三つ編みかなぁ。清楚系をあえてキュートにしたんだから、逆に貞淑な感じで……バランス取っていこうか」
「うん、いいよ! 上手に結んでね」
「えぇ? あんた小器用だし、そのくらい自分で出来るでしょ?」
「えー!? たきなお姉ちゃんにはやってあげたのに! 不平等だー!」
「……。あの、なら私がやりましょうか? あまり他人の髪を結んだ経験はありませんが、ご指南いただければ覚えますので」
「やったぁ! たきなお姉ちゃん大好き!」
「えぇい、しれっと末っ子ポジに収まるのやめい! わかったわかったやればいいんでしょやれば!」
自由奔放に見えて、意外と世話焼きな千束さんであった。
いや、この場合はニコルが甘え上手なだけか?
◇ ◆ ◇ ◆
「二人とも、よく似合ってるじゃないか」
「でっしょー! たきなはもちろん、ニコルだって顔と声だけは良いからねぇ」
「あは、胸とお尻だけは大きい千束が何か言ってる〜」
「それもはや褒めてすらなくない!? あーもう、とりあえず全員集合ー! 先生とミズキもっ」
千束さんがスマートフォンを取り出し、カメラを起動する。
これは……あぁ、自撮りというやつか。リコリスとしては何らかの機密事項に抵触しそうだが、ここは『ラジアータ』の性能を信じよう。運用開始から30年、DAの通信インフラと情報戦を支えてきたスーパー
「アンタねぇ。イチャついた写真をひけらかして大変なことになったカップル、つい最近見なかったかしら?」
「まだ言ってる……。良い歳した大人が、僻まないの」
「僻みじゃねーよ! アタシはSNSへの無自覚な投稿がトラブルを招くってことを……」
「これは私も入るべきなのか? 女性は女性で固まった方が受けが良いんじゃないか」
「いいからいいから、寄ればいけるって。ほら───みんな笑って〜、はい、チーズ!!」
「ぶい!」
パシャリ。……あ、笑うの忘れた。
しかし、まぁ、別にいいか。たとえ私が仏頂面でも、千束さんとニコルが同じ画面に居れば充分華やかだろう。ミズキさんもあんなことは言いつつ、完璧な営業スマイルで写ってるし。
「じゃ、これがメニューね。下げたお皿はここに、先生の指示があったら冷蔵庫を……。こういうのはミズキがやってくれるから……」
それから、業務全般について説明を受ける。
昨日、私とニコルは休暇扱いで、あの戦闘の疲れを癒やすと共に、喫茶リコリコのマニュアルを読み込んで来いと指示された。
マニュアルは一昨日の内にミズキさんが用意していたものらしい。DA情報部の出身だけはあり、なかなかわかりやすくて大いに助かった。
「あ、と、は……ニコルはどうせ上手くやるだろうからいいとして。どう? たきな。心の準備は?」
「問題ありません。
「んん……? ま、まぁそれならいっか!」
───といったところで、ついに
◇ ◆ ◇ ◆
コーヒー用のお湯が沸く音に、涼やかな鈴の音が重なる。
本日最初の来店客にして、私とニコルにとっては初めての"お客さん"である。
「おっ。ほら、お客さん! 練習通りにっ」
「挨拶の練習なんてしましたっけ?」
「……、うん。まぁ適材適所だ、最悪上手いことニコルに合わせて!」
「いらっしゃいませー!!」
やれやれ……。こんなことならホールスタッフなんて引き受けず、店長に喫茶メニューの調理を教えてもらうべきだったか……。
「───やぁ、ミカ」
そう言って現れたのは、優雅に撫でつけられたクリーム色の髪を持ち、上品な紺のスーツを纏う痩身の男性。
第一声からして、
「いらっしゃいませ」
「おぉ、ヨシさん! いらっしゃいっ。
「今日は早いな、シンジ」
「久しぶり、千束ちゃん。あぁ……実は海外出張の帰りで、どうにも時差ボケ気味でね。昨夜の内から決めていたんだ、今朝起きたらここのコーヒーを飲みに来ようって」
「ありがたいことだ。いつものでいいか?」
「よろしく頼むよ」
ヨシ……シン……、
私はマニュアル通り、冷水と手拭きを持ってきて提供する。
「どうも。───それにしても、しばらく来ない内にずいぶん賑やかになったね?」
「って思うじゃん? 実はこっちの二人、今日が初めての出勤でして。ヨシさんが初めてのお客さんなんですよ!」
「本当かい? ハハ、光栄だが少し照れくさいな」
「はじめまして、私は
なるほど。小さい会社で……ということは、社長かそれに近い役職なんだろうか。身なりが良いのも納得だ。
「新人の井ノ上たきなです」
「お手伝いの星谷ニコルでーす」
「うん、よろしく。で……
「めっちゃ驚いてたよね、先生」
店長が目を閉じて溜め息をつく。痛いところを突かれたといった風情だが、特に反論する気配は無い。
「フフ。いやはや、あの時は私も驚いたな───。おっと、そうそう」
吉松氏ははっとして自分の鞄を開いた。中から四角い暗緑色の紙袋を取り出し、千束さんに手渡す。
「はい、千束ちゃん。これお土産だよ」
「おぉ!? えへへっ、何これ〜。今度はどこ行ってたの? アメリカ? ヨーロッパ? あっわかった、中国でしょ!」
「残念。ロシアさ」
海外出張の帰りに、わざわざ行きつけの喫茶店へ土産を持ってくるとは。大人の見栄の一言で片付けるには太っ腹なことをする。
「あちゃ~そっちかぁ! ふぅん……じゃ、先生と出会ったのもロシア?」
「千束。そのくらいにしなさい」
「えぇ〜いいじゃん教えてよ〜」
「まぁ、機会があれば。おいおいね」
程なくして、店長のコーヒーが出来上がった。
「───美味い。また腕を上げたか?」
「世辞は止せ。10年ずっと同じ味だ」
「先生、嘘ついちゃダメだよ~。最初の頃はとても飲めたもんじゃなかったって」
朗らかな笑い声が喫茶リコリコを包む。
……みんなを笑顔にするのが私たちの仕事、か。
「ありがとうございましたぁー!!」
吉松氏は社長業らしくそれなりに忙しい身のようで、コーヒーを飲み干すとじきに退店していった。
大体いつでも元気に明るく振る舞う千束さんだが、吉松氏と話している時は特に楽しそうな気がする。
存外に年上趣味……いやいや、何事もすぐに
「……。……アラン、機関───」
氏の去り際、ニコルが何かを小さく呟いていた気がしたが、私は考え事に気を取られていてよく聞こえなかった。
たきなのバイト用の髪型決めるシーンって、本編にありませんでしたっけ? 無い? 知らなかったそんなの……。