萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
これが年内最後の更新となるかと思います。
読者の皆様、今年は大変お世話になりました。
よいお年をお過ごしください。
『教団』はしばしば拠点を移すことがあった。
看板商品である『
特定地域から既存の犯罪組織を駆逐して居着くような真似も出来ず、世界各地を転々とし、オレたちはやがて極東の島国・日本へと辿り着く───。
当然、『教団』のような危険極まりない集団を、国防機密組織『Direct Attack』が放っておくはずも無い。衝突はすぐに始まった。
と言っても、護衛として飼っている『実験体』の
潮目が変わったのは……ある一人のリコリスが、戦線に投入されてからだ。
曰く、リコリスの中でも相当に若い部類の少女。
曰く、未来が見えているかのように精確な機動射撃を行う。
曰く、執行対象を殺すためなら狙撃、爆破、奇襲、待ち伏せ、騙し討ち、およそあらゆる手段でもって戦う。
曰く。目に映るすべての敵を廃滅するまで止まらず、どんな重傷を負っても戦闘を続行する怪物。
日々上がってくる被害報告を聞きながら、ふざけた噂だと思った。
人間を超えた能力を持つ『実験体』の軍勢との戦線を、たった一人で維持しているだと? 有り得ない。
状況の悪化という事実は認めるにしても、敵方によほど優秀な特殊部隊が居るか、それこそDAがオレたちのような化け物を飼っていなければ説明がつかない。
かつて
そうとわかっていれば、何も恐れる必要は無い。ただ粛々と対処し、いつものように抹殺するだけだ。
「オレたちは死なない。オレたちは負けない。何が相手であっても」
◇ ◆ ◇ ◆
やがて、『教団』との決着を果たすべくDAが発動したのは、中隊規模のリコリスによる包囲殲滅作戦。
正式な記録は確かめていないが、
先の延空木攻略作戦ですら──錦木千束の存在を差し引いても──動員数は50人に届かなかったことを考えると、DAがどれだけ『教団』を危険視していたかが窺える。
さりとて、『教団』も無策でDAを迎え撃ったわけではない。
当時、稼働可能な『実験体』は30名に満たなかったが、その全員が過酷な
プロアスリート並みの腕力、スピード、反射神経。極めて高い自然治癒力と、無尽蔵のスタミナ。最後発のA400番台の『実験体』に至っては、数こそ3人と少ないものの、アメコミじみた特殊能力まで備えている。
数の不利と『ラジアータ』のバックアップを考慮に入れても、負ける理由が思いつかなかった───。
◇ ◆ ◇ ◆
「……! ……、奴だ」
そう言ったA342番の顔を、今でもよく覚えている。
物静かで何を考えているかイマイチよくわからない奴だが、戦績は優秀で仲間想いの頼れる男だった。
「───……」
A342番が見据える通路の向こう、血の海に沈んだ無数のベージュ色の制服──1つか2つは紺や赤も混じっていたはず──の間を縫って、またひとりのリコリスが現れる。
比較的、小柄だ。まだ中学生にも満たない年齢だろう。腰まで伸び、腹の辺りで緩やかにウェーブした銀の長髪は、しかし生々しい真紅に染まっている。紺色の学生服もまた黒く濡れており、ここまで相当な数の『教団』の人間を屠ってきたと見えた。
「……72番」
「何だ?」
「あいつは、……あいつは、ダメだ」
「ダメって……何が」
「き……来てたのか、あいつ。くそ……、くそ……! ダメだ……」
「だから、何がダメなんだよ!?」
「あいつには!!」
いつも冷静なA342番が、今まで聞いたことが無いほど大きな声を出した。
それと同時に、幽鬼の如くふらふらとした歩みで近づいてくる、紺の学生服の少女から───。
「……っ。……
通路内に、ドルルン、ギチュイィィン、という異様な音が響いた。
そのリコリスの右手には、
「は……?」
……相手は国家公認の
だが、それでも、やはり異様ではあった。まだ年端も行かぬ童女の手に、
オレがわずかに動揺した、たった数秒で充分だった。
次の瞬間、チェーンソーのリコリスが目の前から消えた。
視線を下にズラす。速い───それに巧みだ。極限まで身を沈め、地を這うような疾走。身体を小刻みに揺らして、こちらの視線を振り切ろうとしてくる。
だが、強化されたオレたちの反射神経を上回るほどじゃない。
すぐに応戦の構えを取り、懐から
「がっ」
「……あ?」
奇妙な呻き声と共にA342番の頭が半ば割れ裂け、飛び散った鮮血と肉片と骨片と脳漿がオレの視界を塞いだ。
それと同時に、チェーンソーのリコリスの額を照準していたはずのMk.23が、右手ごと喪失した。
「ぎ……ッ、ぁあ……!!」
A342番は……脊髄チップの処理システムの起動より早く、即死していた。
───直感。
「……テメェェェっ!!」
切り落とされた右手を空中で掴み取り、手首に"接合"する。
チェーンソーの微細な鋸歯でズタズタに引き裂かれた傷口は……接合こそ間に合ったが、『実験体』の再生能力をもってしても完全修復には遠い。恐らくこのリコリスは、過去に戦ったオレたちの体質を分析し、
筋肉と神経の再生は到底間に合わない。銃撃なんて夢のまた夢だが、
「……」
「らぁっ!」
右フック。バックステップを踏んで躱された。
Mk.23を左に持ち替えて発砲。至近距離で5発撃ったものの当たらない。本当に未来が見えてやがんのか?
反撃───右手のAKM、そのまま撃つか銃剣が来るか。最悪の二択だ。
「───」
答え、両方。銃剣の薙ぎ払いと同時に、扇状に3発射撃。
と言っても、
「ナメんじゃ……」
「!」
「ねぇ!!」
捉えた。低い姿勢から懐に潜り込み、オレの膝蹴りがチェーンソーのリコリスに直撃する。
体重が軽いので少々わかりにくかったが、肋骨をブチ折ったらしい手応えがあった。
逃さない───ショックで半ば嘔吐いている今がチャンスだ。
ひたすら殴る。蹴る。Mk.23での銃撃を交えつつ、右手の再生完了を待つ。このペースなら……!
……いや、待て。
普通なら激痛で身動きもままならないだろう。極限環境下で痛覚が麻痺しているにしても、折れた骨が内臓に突き刺さればタダでは済まない。
そんな状態で、オレの攻撃を捌いてるなんて───。
背筋に走る薄ら寒い感覚をどうにか噛み殺しつつ、格闘術の応酬。
まだ少し痺れが残っているものの、右手の再生も概ね終わった。太腿のホルダーからナイフを抜いて斬りかかる。
それに応じ、チェーンソーのリコリスはAKMを放棄した───と見せかけて、銃剣の基部を握り込み、ライフルの銃身全体を用いての殴打を仕掛けてくる。
オレが防御した隙に、相手は神懸かり的な早業で銃剣を取り外す。射撃を捨てた完全な格闘戦への移行。
銃剣とチェーンソー、異形の二刀流だ。
「……、───」
「ぐっ……く、そ!」
とはいえ……チェーンソーがホラー映画の殺人鬼御用達の凶器になっている理由も、何となく肌で実感できた。
高速で振動し、掠めただけでも人体を細断する鋸歯の刃。その威力は一目見れば容易く想像でき、おぞましい駆動音が否応なくこちらの神経を苛む。
一撃でより多くの面積を抉り斬ることで再生力を無効化する以外にも、『
最初はふざけているのかと思ったが、とんでもない。本気でオレたちを殺したければ、あれほど理に適った武器は無いだろう───実用性を度外視さえすれば!
「……ハァッ……。ハァ……ハッ……」
「…………」
「……ッ! この───」
弾切れになったMk.23の前後を持ち替え、
直撃はしなかったが、その回避は織り込み済みだ。満身の力を込めて、右手の銃剣を弾き飛ばす。
これであいつには取り回しの悪いチェーンソーしか残っていない。後は体格の有利を活かして、慎重に攻めていけばきっと、
「───今」
ロボットのように黙々と攻撃を繰り返していたそいつが、ぼそりと呟いた。
『今』? 何のことだ? いや……。
「っ……! そっちか!」
奇襲と騙し討ちは
視界の隅、死んだふりをして伏射の姿勢を取っている奴が居る。周りの雑魚は殲滅したつもりだったが、
敵ながら見上げた根性だが……詰めが甘かったな。お前がその
「……、え?」
投擲したナイフは、狙い過たず伏兵のリコリスの眉間に食い込んだ。
オレたち『実験体』でさえ、脳にダメージを負えば大抵は死ぬ。たとえ即死を免れても重傷は重傷だ、しばらくは動けなくなる。
なのに……視線はあらぬ方を向き、クリス・ベクターの銃身に添えられていた左手から力が抜けても尚、そいつは這ってこちらに進もうとしていた。
「あ……」
……違う。
チェーンソーのリコリスの、銃剣を失った右手……というよりは右の袖口から、奇妙な物体が覗いている。
学生服の袖に収まるほど小さな、
後から聞いた話だが───オレの見立て通り、そいつは超小型の特殊なボウガンで、専用の
このワイヤーはクモの糸の分子構造を参考に作られた特殊素材で出来ており、昼夜を問わず視認も困難なほど極細でありながら、アラミド繊維を上回る強度・靭性を誇るという。
伏兵のリコリスが生き返ったんじゃない。あれは文字通り、
すべて、奴の手のひらの上だった。
「……───!!」
拷問に耐える訓練なら何度となく受けた。
下手な
本物の戦場で何人もの仲間を失った。『実験体』の水準からしても死ななかったのが不思議なほどの重傷を負った。四肢や内臓が吹き飛んだことも珍しくない。
痛みなんて、とうの昔に克服したと───。
そう、思っていた。
自分を切り刻むチェーンソーのリコリスと目が合った瞬間、これまでに積み重ねてきた何もかもが崩れ去る音がした。
そいつの目の中には、星と月の出ない夜の色が、果てどなき闇黒と虚無が満たされていた。
痛みに耐えた経験も、仲間たちから受け継いだ想いも、兵士としての自負も、世界に対する怒りも、あらゆるものが飲み込まれていく。
生娘のような悲鳴、絶叫が聞こえる。
それが己の喉から飛び出たものだと気づいた瞬間、オレの意識は暗転した。
◇ ◆ ◇ ◆
<───ニコル。状況を報告しろ>
「要警戒対象の制圧完了。この個体で最後です、確実に撃破を……」
<そうか。よくやった。では、その生き残りは捕縛して後方部隊に引き渡せ。ここでのお前の仕事は終わりだ>
「……、執行対象の殲滅が終わっていません。わたしはまだ戦えます」
<雑魚を相手にお前を遊ばせておく余裕は無い。連中が何か隠し玉を残していないとも限らん、単独で『教団』の『強化兵士』を殺せるのはお前だけだ。私が錦木千束ではなく、お前を招集した理由を忘れるな>
「……。了解。一時帰投します」
◇ ◆ ◇ ◆
─────目を覚ますと、いやに清潔なベッドの上だった。
知らない天井だ……なんつってな。
病院という施設に来たことが無いわけではなかったが、こうして病床で寝転がる側になるのは初めてだ。
「……、……は、ぅ……あ」
身体は───再生は完了しているけれど、ひどく腹が減った。
ファンタジーにはファンタジーなりの理屈がある。『
肉体表層のダメージなら壊れた組織を再構築するくらいで済むが、手足などより広範囲の欠損を補うには、さらに多くのリソースを必要とする。要するに、失った箇所以外の部位から筋肉や骨を分解して充当しなければならない。
もちろん、4本ある腕と脚を丸ごと再生して──チェーンソーでバラされたんだから、流れ出た血液の量も相当だったはず──いたら、肉体を構成する材料を調達し切れずに餓死すると思う。この治癒能力は、意識さえ残っていればある程度は自力でコントロールできるのだが、モロに気絶していたのでそれも期待できない。
「……。く、そ……」
そして、こうやって五体満足で目覚めた以上、オレを生かすために
四肢は繋がってこそいるが、再生の進行している感覚が鈍い。短時間に重大なダメージを受け続けたことで、治癒能力が劣化している。
だからこそオレは、こんな普通の病院の平均的な病室に居て、手錠でベッドに固定されるだけで済んでいる。拘束を解くのは……諦めた。
「ちく……しょう……」
そもそも、頭から爪先までグルグルと巻かれた包帯の下に、異様な疼痛と熱感があった。少し身じろぎしただけで神経が悲鳴を上げる。治癒能力の代償だけでは説明がつかない。
強化改造されたこの身体は、薬物や毒物に対しても耐性を持つ───生け捕りにされた時に一服盛られたか? あるいは、オレの頭がパァになって忘れちまってるだけで、今はもう尋問を受けた後なのか。
常人なら脳が焼き切れる量の自白剤を投与されても、『
「……、……っ!」
───やがて、気づいた。
てっきり個室かと思っていたが、オレの反対側のベッドに、もう一人の患者が居る。
そいつは……オレよりいくぶん軽傷ではあるものの、それでも身体中が包帯と治癒パッドだらけで、見るからに痛々しい姿をした少女だった。
「おま……え。……チェーンソーの……」
銀髪の少女───チェーンソーのリコリスが、包帯で覆われていない方の左目を、一瞬だけこっちに向けた。すぐに視線を戻す。
何を見ているかと思えば、手元には小さな本……題名は読めない。日本の
「…………」
「テメェ、何で……。いや、それより仲間は……『教団』はどうなった」
「……」
「オレ、オレはどうして……違うっ。オレの仲間は……!」
「無理に喋らない方がいい」
チェーンソーのリコリスが、ぽつりと言った。
年齢相応に愛らしい、しかし絶対零度の冷たさが滲む声。
「
……クソ。この死ぬほど不快な状態はそのせいか。
それにしれっと言いやがったが、『調べた』ってのはつまり……そういうことだろう。
「あなただって、わたしたちの仲間をたくさん殺した。批難される謂れは無い」
「……、っ。何も言ってねぇだろうが……」
マジかよ。こいつ、本物の
『教団』の連中ですら話半分にしか信じていなかったが、まさか実在するとは。
いや、でも確かに、至近距離からの銃撃を避けるなんて真似……。
「先に言っておくと、わたしは別に心なんて読んでない。あなたが勝手に顔に出してただけ。わたしの経験上、あなたみたいな捕虜は、こういう状況で理不尽に激昂することが多い」
「んな───」
こ、こいつ……!
「っ……、ケッ!」
気に食わねぇクソガキだ。
……。気に食わねぇ、けど……。
「───、……。……仲間は……『教団』は、どうなった」
病室に他の人間は居なかった。いくら何でも無用心すぎると思うが、このチェーンソー幼女に見張られている(?)状況で事を構える気にもなれない。
あいつもあいつで誰かを呼ぼうとかしないし、必然的に話しかけることになった。
「主要な幹部は軒並み死んで、組織としては再起不能。あなた以外の『強化兵士』もわたしが全員殺した。ただ、研究者を処刑する前にありったけの情報を吐かせておいたから、脊髄のインプラント・チップの機能はこちらで掌握している」
あぁそうかよ。道理で拘束が雑なはずだ。
「……結局、お前らも『教団』と同じなんだな」
この後の展開は、何となく読めている。
オレたちを一度でも見たことのある相手なら、『実験体』の……『強化兵士』の力を欲しがらないわけが無い。
「隷属か死か。そういうことだろう? わざわざオレを生かしたのは」
「今の会話だけで理解できたなら話が早い」
チェーンソーのリコリスが本のページを捲った。
その目は、相変わらずオレの方を見ていない。
「上層部でもあなたの扱いについては意見が分かれている。結論を急ぐ必要は無いけれど、死にたくないなら態度をはっきりさせておいた方が賢明」
……諸悪の根源である『教団』こそ滅びたものの、状況はより悪くなった。
飼い主が挿げ替わっただけで、
オレたちが本当に欲しかったもの───鳥籠の外の"自由"は、きっと永遠に手に入らない。
「オレは」
しかし、だったらいっそ死にたいのか、と言われれば少し違う。……そんな気がする。
「……。……、わかんねぇ……」
「……」
「少し……考えさせてくれ」
「そう」
奇妙な感覚だ。
今、この瞬間だけ、オレには自由があった。生まれて初めて、己の生死を己で選ぶ自由が。
◇ ◆ ◇ ◆
死にかけながら休むのには慣れている。
DAの医務室のベッドは、これまで使ったことのあるどんな
戦闘と大規模な再生の疲労もあってか、自分でも信じられないほどよく眠れた。
そうして
死者は何も語らない。もし彼らの姿を夢に見たところで、それはオレ自身の記憶と感情から投影された
◇ ◆ ◇ ◆
チェーンソーのリコリスは、オレより先に退院することになった。
……あれ、オレ確かあいつの
「フン……世話になった」
「? わたしはあなたのお世話をした覚えは無いけど」
「皮肉だよバカ。言わせんな恥ずかしい」
「そう。皮肉を言えるくらい余裕があるなら、退院ももうすぐだね。その時は今度こそ殺してあげる」
「待て待て、どうしてオレが
「じゃあ、リコリスになるの?」
オレが? あぁ、いや、そりゃそうか。
DAの戦闘員として雇われるんだったら、いちおう女のオレは『リコリス』になるわけだ。
「そいつは……、その……」
「言い忘れてたけど。『教団』攻略作戦の事後処理が片付いたから、もうすぐ楠木さん……わたしたちの司令官がこっちに来る。急用が入らなければ、このあと
「ンな大事なこと言い忘れんなよ!?」
「尤も、ここで抵抗するのはあまりお勧めしない。わたしが別の任務で同席できない代わりに、楠木さんの護衛には錦木千束がついてる。千束は現役最強のリコリスで、わたしは彼女の戦闘記録から白兵戦と銃撃の避け方を学んだ」
えぇ? こいつみたいな、つーかこいつ以上のリコリスがもう一人って……。
正真正銘のバケモンであるオレが言うのも何だけど、DAには人間の形をした
「……。まぁ……わかった。昨日とか1週間前よりか、いま聞けて良かったって感じもする」
「うん」
銀髪の少女はそそくさと荷物を纏め、入院着から紺の学生服に着替え始める。
しばらく大人しく寝ていただけで監視を解かれるとは、『強化兵士』もナメられたもんだ───と言いたいところだが、今日はどうも廊下を行き交うリコリスの足音が多い。どのみち拘束具を外されたわけでも、脊髄チップを摘出されたわけでもなければ、チェーンソーのリコリスが居なくなったところで同じことだった。
「……なァ」
そういえば……。
「なに?」
「お前、何のために戦ってんだ?」
たった2週間そこら、ぽつぽつと話しただけだが──付け加えるなら全力で殺し合いもした──、こいつの人となりは何となくわかったと思う。
DAの国家安寧という大義に共感しているようには見えない。さりとて、自分や仲間の命のために仕方なく銃を握っているという風でもない。人殺しか戦争そのものが好きなのかも知れないが、オレとやり合っていた時の空疎な目は、戦場を楽しんですらいなかった。
「わたしには、それしか無いから」
チェーンソーのリコリス───星谷ニコルは、告げた。
「他に無いの。したいことも、出来ることも」
そして、オレは。
滔々と語る、少女の、背中に。
「自分で選んだ道だから、最後までやり遂げるだけ。……本当は、こんな問答をすることも煩わしい。わたしは、ただ───何も想わず、何も祈らず、すべてを焼き尽くす炎でありたい」
憎悪や怨念と呼ぶのも生温い、極大の意志の
あまりに純粋な殺意の塊。その他の感情を一切寄せつけない根源的
目の前に立つこの少女は、無の虚空へと回帰せんと渦巻く、大いなる"死"そのものだ。
「あなたも、きっとそうでしょう?」
◇ ◆ ◇ ◆
その後、予告通りDAの司令官が来た。
返事には迷わなかった。
もはやオレを縛る
だが、A94番は確かに
否定しなければならない。
人を超える存在として生み出されたオレたちを、人の身にありながら討ち果たした者が居る。
オレたちはついぞ、人間にはなれなかったかも知れないけれど───あいつが万物を灰にする炎として在る限り、きっと
そんな運命を背負う者は、オレたちだけでいい。
星谷ニコルはただの人間だということを、オレが証明してみせる。
◇ ◆ ◇ ◆
延空木攻略作戦の裏側、都内防衛任務の最中にて。
結論から言うと、国内最大の暴力団『海山會』は、『DEMONS』の日本における支部のような立ち位置にあった。
そして、星谷ニコルこそが、『DEMONS』の次期首領として見出された人物であるとも。