萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
あけましておめでとうございます。
本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
ロボ太からのメールで示された住所には、一棟の高層ビルが建っていた。
高いというよりは縦幅も横幅も広く、雰囲気的に大企業の社屋や役場なんかに見える。
玄関部分には見張りの一人も居ない。ガラス張りの自動ドアの横に、ごく普通の電子ロックの操作盤が設けられている。
どうすればいいんだと思ったが、自動ドアは私が近付いた瞬間にあっさり開いた。付け加えるなら、玄関から続くエントランスも無人だった。
内装は三ツ星ホテルかと紛うほど綺麗に整っていたけれど、明かりが点いているのに無人というのは少々気味が悪い。
エレベーターが動いていたので、それに乗って上階へ。
"敵"に捕まっているたきなの居場所は、よくわからない。そもそも、人質を取っておいて要求どころか連絡ひとつ寄越さないとは、一体全体どういう了見だろう? ロボ太もあれから何も言ってこないし。
地下階は駐車場っぽかったから、とりあえず上に向かって1階ずつ虱潰しにする他なさそうだ。このビルはエントランスと地下を含む14階建てで、探索すべきは都合12階分。各階層の部屋数は……思わずため息が出そうになるけど、この程度の面倒が何だ。たきなの命に代えられるわけがない。
「さて」
そして───相手の正体が何であれ、私の友達を拉致したからには、錦木千束を敵に回す理由があるらしい。
到着した2階の廊下には、サングラスと……何て言うんだっけ、面頬? で顔を隠し、黒いスーツに身を包む集団が待ち構えていた。もちろん、その手にはライフルや拳銃、おまけに長短色々な
数は延空木で戦った真島の一味より少なそうだが、屋内を巡邏するその足取りからして、明らかに練度が違う。ちょっとマイルドなステータスの真島が何人も配置されてるみたいだ。
「まぁ……でも」
縮こまっていても仕方ない。エレベーターから一歩踏み出す。
スーツ姿の武装集団が、一斉にこちらを向く。彼らの動きにはおよそ迷いや淀みといったものが無い。
……そういや、サングラスされてると結構困るんだよねぇ。目線が見えにくくなるから。
「あー、一応質問したいんですけど! この中に……えーと、『女王様』から何か聞いてる人、居ませんかー!?」
───返事は沈黙と、銃弾の雨だった。
やれやれ。つまり、俺たちを倒せたら教えてやるってか? 上等じゃん。
どのみち普通に探索するにしても、こうやって邪魔してくるなら倒すしかないしな。
「フッ……!」
前方に3人。さすがに同時に捌くのは限界があるので、弾幕の中を全速力で突っ切りながら
敵の弾が胴を何発か掠めるが、リコリス制服の──無いよりはマシ程度の──防弾性能でカバーできる範囲だ。
最小限の被弾で済んだ私に対して、向こうは1人が額に直撃弾を受けて気絶、1人が姿勢を崩してライフルを取り落とす。
依然として健在のもう1人は、
「おっと……それっ!」
「が!?」
相手がライフルを構え直すより早く、
怯んだ隙に『
ついでに、さっき気絶しなかった方の敵も、懐から抜き放たれる匕首を蹴り飛ばしてからズドン。
すると、通路の左右からまた敵───挟み撃ちか。
拳銃を左手に、
上体をわずかに反らして敵の弾を回避。姿勢を戻すと同時に、両腕をそれぞれ別の方向へと伸ばし、すかさず撃ち返す。
「ぎッ」
「ぐぁっ!」
よぅし当たった。案外捨てたもんじゃないな。
ニコルやたきなほどではないにしろ、私だってファースト・リコリスだ。射撃の腕はちょっとしたものである。
「次はどっちだ〜、っと」
拳銃の
……とはいえ、ビル一棟を丸ごと制圧しようっていうんだ。たきな経理主任に言われるまでもなく、節約するに越したことは無い。
「お」
ふと、倒した敵の装備に目が留まる。
鞘に入った立派な日本刀だ。暗殺向けの
「いいねこれ。ちょっと借りてくよ」
至近距離で弾切れになった時、体格で優る敵を徒手空拳で制圧するのは並大抵の苦労じゃない。ちょうどこの手の近接武器が欲しかったところだ。マガジンを優先して
割と軽いし、峰打ちなら相手を斬り殺してしまうことも無いし、最悪ダクトテープとかで鞘を固定しちゃえばいいし。
「……それにしても、我ながら凄い格好になってしまったな」
右手にマシンガン、腰のベルトに拳銃とマガジン、おまけに日本刀。
外国人が想像するすさまじい日本の制服武装少女・錦木千束、ここに爆誕である。
◇ ◆ ◇ ◆
ロボ太改め『ナッツクラッカー』に唯一対抗し得るハッカー、『ウォールナットの継承者』───クルミを排除するため、『DEMONS』は傘下のPMCから傭兵を呼び集め差し向けた。
招集された傭兵たちはいずれも長年の実戦経験か天賦の戦才を持ち、
その強襲任務は、多少の困難こそあれど確実に達成されるはずだった。
彼らの前に立ち塞がったのが、
「オラァッ!!」
高速走行中の車両から飛び出し、接近していたバイクの騎手を蹴り落として、そのままハンドルを奪い、転倒寸前の状態から姿勢を制御し、涼しい顔でアクセルを入れる。
明白に、人間業ではなかった。"神の
エージェント・ゴッホ。
過去存在したとある非合法組織によって、人為的な強化改造を施された文字通りの『超人』。
その出自ゆえに、彼女にまつわる情報はDAの組織内でも秘匿されており、また司令部直属の特務エージェントとして多種多様な高強度任務に従事してきた。
人類の領域を外れ、
DAが擁する最優のエージェントにして半不死の超兵士の戦いは、常に迅速で一切の無駄がない。
敵方の十字砲火をくぐり抜け、ゴッホのFN
「フン」
スカーが7.62mm×51弾を吐き出す度に敵が死ぬ。脳や心臓を穿たれて、あるいは騎乗しているバイクの機関部を撃ち抜かれ爆炎に包まれて。
弾切れになればハンドルから手を離し、足腰と重心の操作だけでバイクを駆り、流れるような動作でリロードを終える。
後続の増援も含め、10人以上の人数で現れたはずの
「───オレを殺したければ、最低でも2個師団は持って来い」
人間が兵士としての要求を満たすのに、異能の『眼』も天性の殺戮本能も必要ない。
高速再生によって自壊すら厭わぬ大出力化を可能とする筋肉と、そうして自身が生み出す剛力に耐えるべく高密度化・高硬度化した骨格。強化された感覚神経は機械じみた正確無比の身体操作を可能とし、鉄火場にて蓄えられた経験値の総量は錦木千束や星谷ニコルをも上回る。
心技体の完全なる合一。ただ強く、速く、頑健で、優れた五感と技量を備える、およそあらゆる"戦う者"の理想形。
皮肉なことに───誰よりも純正の人類から遠い存在であるにもかかわらず、彼女の戦闘力はまさに、人類という器が到達すべき極点にあった。
「わぁ……! ゴッホちゃん、やっぱりすごいのです!」
故に。
「これはちょっと……クルミ先生を追う片手間では、お相手できませんね」
"人の極致"たるゴッホとの戦闘が成立するのは、
「御門───」
「では、やりましょうか」
銃ならず剣を振るう異端のリコリス───否、今や
今まで後方で様子を窺っていたバイクが一息に加速する。ゴッホはすぐさまアサルトライフルの速射でもって迎撃するが、機上で閃く銀の光に阻まれ、かなはの命脈には届かない。
「踏み込みが足りん、ですっ!」
「チッ……!」
それは、
剣の道を修め、武の頂へと昇り詰めてなお成長を続ける超絶の
御門かなはの『銃弾斬り』は決して、勘や偶然に頼った奇跡ではない。自前の身体機能と技巧を用いた必然の帰結である。
「せいっ───」
国士無双の剣士が跳んだ。
「やぁぁ!!」
かなははバイクから飛び降り、投射される7.62mm×51弾を中空で弾きながらゴッホへと躍りかかる。九郎判官・源義経の八艘跳びの伝説を思わせる、天狗の仙法が如き飛翔。
「無茶苦茶なッ……!」
毒づきつつ、ゴッホの対処は早い。かなはと同様、即座にバイクを放棄して跳躍、後方へと退避する。
DAの技術研究部が生み出した傑作兵器のひとつ、超音波振動ブレード『玉兎』と『玄兎』の切れ味は、ゴッホもよく知っている。そこにかなはの剣術と『死』を見る異能が加われば、もはやこの世で切断できない物体を探す方が難しい。
盾代わりとしたバイクは、一瞬で
ゴッホはスカー突撃銃を高速道路の路面に投げ捨て、
12ゲージの
一口に
「っか。相変わらずバケモンだな」
「ゴッホちゃんにだけは、言われたくないですねぇ」
軽口を叩き合うと共に、目にも止まらぬ速度のクイック・ドロー。
防弾コートの懐から現れたグロック17が火を噴き、かなはが逆手で抜き放った脇差型ブレード『玄兎』に迎撃される。
ゴッホはすかさず、サイガ12を腰のククリ・ナイフに換装して突き込んだ。通じない。金属同士の衝突による甲高い音が響き渡り、ほぼ同じタイミングで繰り出された両者の蹴り足がぶつかり合い、わずかに距離が開く。
片や右手に太刀、左手に脇差。片や右手にククリ、左手に拳銃。長短一対の二刀流、剣士と銃士が対峙する。
巨大な鉄塊すら一息で斬断する魔剣士を相手に、一度でもまともな踏み込みを───否、一定以上の手首の駆動を許してしまえば、ゴッホの命は無い。
かなはが剣を振り被るより先にあえて接近し、その起点となる腕の動きを制する。何としても、斬撃に速度が乗ることを防ぐ。
他方で、かなはの側も内心穏やかではない。
リコリス制服に代わって着用している
また、かなはが持つ超音波振動ブレードは、その切断力を高周波振動とかなは自身の剣技に依存している。少数精鋭による暗殺、一対多の殲滅戦を旨とするドットフィフス・リコリスの活動に最適化すべく、耐久性および継戦能力を重視して設計されているからだ。切断力と強度で遥かに上回りながら、時折衝突するゴッホの──特殊な機能は何一つ持たない普通の──ククリ・ナイフを一方的に破壊できないのもそのためである。
同僚としてかなはの動きの癖を知り尽くし、尚且つ精密な身体操作によってその隙を突くことの出来るゴッホは、ほとんど彼女の天敵と評しても間違いなかった。
『玉兎』の一閃、が手首を叩かれて停止する。グロック17がかなはの眉間を狙う。
それを読んで『玄兎』が跳ね上がる、のをさらに読んでククリが捻じ込まれ、それをまた読んでブレードの柄頭がゴッホの右手を打つ。
左手のグロック17の発砲が間に合う。かなはは首を振って回避し、その動作の勢いを利用して回し蹴りに繋げる。
ゴッホはそれを脇腹に挟み、かなはの右脚を捕らえる。引き倒して拳銃を突きつけようとするが、かなはは二刀を手放して背中から落下───する寸前で、空いた
一瞬にして姿勢を逆転されたと悟り、ゴッホは躊躇い無くかなはの拘束を解く。受け身を取ってダメージを最小限に抑え、半秒以下の時間で跳ね起き、その頃には既に死の剣閃が迫っている。
さりとて、半不死の超兵士に焦りは無い。御門かなはの振るう剣は
横薙ぎに振ったククリが『玄兎』を弾き飛ばし、左の肩口からゴッホの身体に食い込んだ『玉兎』の刃が、
「……!?」
膂力、速力、技量、いずれも互角。
対照的なのは、その身に宿す異能───如何なる傷を負っても即時の復活を可能とする生命力と、ただの一撃で確実かつ速やかな死をもたらす魔剣。
「がっ、ぐ……! ……ハ!」
エージェント・ゴッホは、尋常の生物には及びもつかぬ速度で肉体を治癒、再生する。
そしてこの再生能力は、彼女の意志で
御門かなはの剣は極めて速く正確で、
「捕まえたぜ」
肺を貫かれる激痛を堪えながら、右手のククリで斬りかかる。『玄兎』を喪失したことで空いたかなはの左手に押さえ込まれた。
先の攻防で弾切れになったグロック17を捨て、『玉兎』を抜くか放棄して離脱しようとする剣士の右腕を掴む。
常人なら、ゴッホに捕獲された時点で、理外の握力によって腕を粉砕されている。眼前の魔剣士はそうではない。かなはの
無条件で筋力を増強するわけではなく、制御を誤れば外部筋肉に
「く……ぬ、おぉッ……!」
「ぐぅ……!」
「───ああ゛ぁっ!!」
取っ組み合った状態から、ゴッホの
鼻骨の保護と引き換えにかなはの面頬が割れ砕け、それでも相殺し切れなかったインパクトが脳を揺さぶり、足はたたらを踏む。
追撃のチャンスではあるものの、ゴッホの側もまた、打撃の反作用で一時的に脳震盪を起こしていた。
ゴッホはふらついてククリを取り落とし、しかし未だ胴に突き刺さったままの太刀型ブレードを両手で握り──想像を絶する痛みは、意識と視界を掻き乱す脳の異常が誤魔化してくれる──引き抜く。
胸に開いた穴から鮮血を零しつつ、再生能力の制御もそこそこに、DA最優のエージェントは防弾コートの内側をまさぐった。左の
ここに先刻までの構図は逆転した。
天朧真月流は刀剣のみならず無手での格闘にも優れる総合実戦武術だが、自動拳銃を持った超一流の暗殺者に先んじられるほど万能ではない。
御門かなはの手に剣が無いのなら、この距離は既にエージェント・ゴッホの支配下だ。
砂漠の鷲が嘶き、その
ライフル弾に匹敵する貫通力を持つ破壊的な一射が、片膝を突いて荒い息を吐く剣士に迫り─────。
「……あぁ」
斬滅一刀。
神速の居合抜きの下に、斬り伏せられた。
かなはの後ろには、初めに乗り捨てたバイクが横たわっている。
『それ』は最初からそこにあった。国士無双の剣士が、今日まで秘して───否、
「この子を握るのは、2年ぶりなのです」
超音波振動ブレード『玉兎』・『玄兎』は、その切断力を高周波振動とかなは自身の剣技に依存している。
その原理は──端的に言ってしまえば──刀身のごく微細な振動によって、触れた物体を一瞬の内に"削り刻む"ことで切断力を高めるというものだ。
故に、刀身それ自体に特別な強化が施されているというわけではなく、最終的な性能は原型となった刃物の切れ味に左右される。
「行きますよ。『金烏丸』」
───『
平安時代末期より伝わる古刀を、最新鋭の超先端技術にて改修した
分子構造の相転移に伴って漆黒に染まった刀身には、宵闇の最中にあってなお輝く金色の刃紋が浮かび上がり、周囲に深紅の稲妻を迸らせている。
DAの技術研究部の手に成る最高傑作が一つ、国士無双の剣士が携えるに相応しい窮極の大業物だ。
「ハッ……。あぁ、クソ」
ゴッホは、先の頭突きで緩んだ顔の包帯を、半ば強引に千切り捨てた。ベリー・ショートに刈り上げられた灰緑色の頭髪と、飢えた獅子の如く剣呑な気配を放射するヘーゼルの瞳が露わになる。
足元に落ちていた太刀型ブレード『玉兎』を拾い上げ、右手のデザートイーグルと共に構えて、半不死の超兵士は言う。
「いいぜ。付き合ってやるよ、
そして、今再び、剣と銃が激突する。
◇ ◆ ◇ ◆
───目が覚めると、見知らぬ部屋だった。
タイル・カーペットの敷き詰められた床。視界いっぱいに立ち並ぶ黒い箱型の物体は、ずっとカチカチ、キリキリという駆動音を発している。
真冬にもかかわらず肌を撫でる冷房の風と、それをもってしても決して寒くはない不可思議な気温からして……どこかの
「…………。……、え?」
そこまで考えたところで、ようやく気がついた。
両腕が動かない。ワイヤーのようなもので拘束されている。
……一体、何があった?
落ち着け。深呼吸だ。最後の記憶から、少しずつ思い出していこう。
「私、は……」
旧電波塔で千束と合流し、延空木攻略作戦からも無事に帰還して……DAの救急車両に乗り込んだ。
迎えに来てくれたニコルと少し話して、疲労が祟ったのか急に眠気が強くなり……それで、そのまま……。
「……っ」
ダメだ。わからない。
ただ……私がこんなことになっているのだから、一緒に居た千束やニコルの身にも何か起きているのは明白だ。
真島一派、もとい『DEONS』の残党による報復か? 可能性は高いように思える。
早く脱出して、千束たちを探さなければ─────。
やや遠くの方で、扉の開く音がした。
誰かが近づいてくる。十中八九、味方ではない。
銃はどこだ?
状況は絶望的だ。……絶望的、だが……。
「───諦める、もんか」
そうだ。
まだ終わってない。私はまだ生きている。だから絶対、諦めたりしない。
生きて戦わない者には、何も選べないし決められない。
「今日を生きられない者に、明日や未来はやってこない」
私が今日、守るんだ。
千束と一緒に、みんなが笑って過ごせる明日を。