萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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水星の魔女の1期最終話に無事脳を破壊されたので初投稿です。



#13.999… World breaker

 ─────虎よ、虎よ(Tyger,Tyger)

 

 お前の瞳は明明(あかあか)と燃ゆる 黒洞洞(こくとうとう)たる夜の森に

 如何なる神の手、または目が───

 その肢体、怖ろしき均整を、敢えて創り賜うたか?

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 幸いというべきか、ビル内は敵がうろついている階層ばかりではなかった。

 大抵の階は無人で、その代わり得られる情報もゼロ。パソコンや書類の入った棚はたまに見かけるけれど、たきなの居場所に繋がる手がかりは無さそうだ。

 

 つーか……敵と出くわしても、ひたすら襲ってくるだけで何も教えてくれないんだよね。

 私が非殺傷弾を使っていて、尋問すらまともに出来ないのが悪いのかも知れないが、それにしたってちょっと口が堅すぎる。

 被弾した時の呻き声以外は全然喋ってないんじゃないかと思うくらいで、正直かなり不気味……。

 

 ピリリリリリッ。

 

「うお」

 

 びっくりした! スマホに着信だ。相手は……。

 

「……ロボ太!」

 

<元気そうだな。ナノボット医療の未来は明るいか>

 

 おん? 何の話だ?

 いやそれはいい、今は細かいことを気にしてる場合じゃない。

 

「こんな場所に呼び出して、変な奴らと戦わせて……一体どういうつもり? たきなはどこ!」

 

<おいおい。ここまではほんの準備運動だぜ、電波塔のリコリス? お前には、我らが『女王様』の『()()()』で大トリを飾ってもらわなきゃならない……らしい>

 

 少し向こうから、ポーンという音が聞こえた。エレベーターの到着を知らせるベルだ。

 ……私が乗ってきてそのままだったはずだから、遠隔操作でわざと鳴らしたな。

 

<そのまま進め。目的地まで案内してやる>

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 びょう、と風が吹いた。

 

 

 

 私の抵抗は───いや、それは笑えるくらい一方的な()()で、逃走劇にすらなっていなかった。

 特殊部隊レベルの完全武装でも勝てるか怪しい相手に丸腰で挑んだのだから、よく保ったほうだとは思うけれど。

 

「何か、言っておきたいことはある?」

 

 額に銃口を突きつけられる。シルバー・スライドのS&W M&P9。

 私の銃だ。考えてみれば当然の措置だが、彼女が持っていたのか。

 

「…………」

 

「……」

 

「……。……、いえ」

 

 ───あぁ。変な気分だ。

 確かに死ぬのは嫌だし、彼女と戦うことになったのは悲しい。

 

「言葉でどうにかなる段階は、もう過ぎてるんでしょう」

 

 でも、不思議と怖くはなかった。

 彼女の目的にとって単なる駒でしかなかったはずの私に、最後の最後ですべてを話してくれたことが、何故だかとても嬉しい。

 

「……私は、信じるだけです。千束ならきっと、あなたを止められる」

 

 だから、どうか。

 私の知る、最も強き人よ。彼岸と此岸の境界(あわい)に咲く、いと気高き花の英雄よ。

 どうかあなたの手で、彼女を……私たちの友達を、助けて─────。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 どう、と誰かが倒れた。

 

 

 

 ビルの屋上に赤い花が咲く。

 それは深紅の尾を引いて、濡羽色の長髪と共に、蜘蛛の巣の如く広がっていく。

 

 別れの時は誰にでも来る。

 それが今日でないという保証はどこにも無い。

 

「あぁ」

 

 儚げで、甘やかで、頭の奥に直接染み込むような声がする。

 蜂蜜めいた多幸感を、あるいは麻薬めいた陶酔をもたらす声。

 

「遅かったね。千束」

 

 月光を仰いで斃れた少女の前に、銀色の拳銃を持つ何者かが立っている。

 井ノ上たきなの眉間を撃ち抜いて、星谷ニコルはくすりと笑った。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ずっと、気持ち悪かった。

 

 

 

 物心ついた頃からそうだった。たぶん、生まれた時からそうなんだと思う。

 理由……と呼べそうな事柄に、心当たりは無い。孤児という出自に何か秘密はありそうだけれど、両親の顔も覚えていない──DAが全国から集めてくる他のリコリスと同じく──のに、そこに理由を求めるのは間違っている気がする。

 

「───……。……、ニコル」

 

 蘭堂のお爺ちゃん曰く、歴代の『DEMONS』の首領も大なり小なり()()()()性格だったらしい。

 彼らはいずれも科学や政治、軍略、変わったところでは芸能とかスポーツの天才で───そのあまりにも隔絶した才覚故に、人間社会と相容れない存在だった。

 (はぐ)れ者、変わり者、問題児、鼻摘(はなつま)み者、厄介者、異端児、曲者。そんな言葉で形容される人たち。

 

「あは。驚いた?」

 

 とにもかくにも、わたしはそんな生き物だ。

 人間が気持ち悪い。何かが生きて歩いていることが許せない。呼吸をする度に怒りが燃え、憎しみが肺を焼く。

 自分でも理由のわからない衝動を……いや、もはや()()()()と呼ぶべきモノを持って生まれたわたしにとって、DAに拾われたのは不幸中の幸いとしか言いようがなかった。

 

「そうだよ。わたしが『DEMONS』の『女王様(次期首領)』。世界を焼き尽くす、黒い死の(はね)───尤も、これは勝手に持ち上げられてるだけなんだけど」

 

 あるいは、この衝動に理由なんて無いのかも知れない。ちょうどタツノオトシゴやチンアナゴが、人間の美的感覚からすれば、ずいぶんと変な形をしているように。

 進化っていうのは結果であって過程じゃない。遺伝的多様性の渦の中から生じる突然変異、新たな形質が、自然淘汰を経て環境に定着するだけ。そこに制御された方向性は無く、各時代ごとに適した生命のカタチのみが、絶滅を免れ残存していくに過ぎない。

 

「あんた……なん、で。どうして───たきなを」

 

 誰もがわたしを恐れるけれど、よっぽど怖いのはわたしの方だ。

 この嫌悪感は理屈じゃない。どれだけ頭で納得しようとしても変わらなかった。わたしは人を殺さずにはいられない。

 

「そりゃあ、もちろん」

 

 ……、……ただ。

 

「知って欲しかったから」

 

 この世のすべてが敵にしか見えないわたしにも。

 

「蘭堂のお爺ちゃんに……あ、『DEMONS』の偉い人ね。真島のお友達。わたしも聞いたよ? アラン機関のこと」

 

「……、アラン機関? それが一体───」

 

「吉松とか言ったっけ。バカだよねぇ、あの人も」

 

 理由の無い殺意しか持っていなかったわたしにも。

 

「なーんにもわかってない。千束が自分の命のために、他人を殺せるわけないじゃん」

 

「ッ、わけわかんない……! ヨシさんが何!? たきなとどう関係が……どうして、こんなことしてるの!」

 

 宇宙に開いた空っぽの穴みたいなわたしにも。

 

「ねぇ、千束」

 

 大切だと思えるヒトが───友達が、出来たんだ。

 

「今、どんな気持ち? わたしのことを、どう思ってる?」

 

 千束はわたしに、色んなことを教えてくれた。

 いつだって誰かの命を守るために戦う千束が、いつだって誰かの命を奪うことしか出来ないわたしに、『生きていてもいい』と言ってくれたんだ。

 

「怖い、かな。それとも悲しい?」

 

 好きなモノが、たくさん出来た。

 千束たちの居るお店。コーヒーの匂い。面白いお客さんや街の人。美味しいものとか、綺麗な場所。

 一緒に戦う仲間。かっこいい先輩。わたしのことを理解しようとしてくれる、誰か。

 

「それから……きっと、怒ってるよね」

 

 見ているだけで吐き気を催すような怪物("人間")たちに囲まれて、彼らと同じ街に住んで、彼らと同じご飯を食べて、わたしは今日も生きている。

 

「わたしのことが、憎いよね。たきなお姉ちゃんを殺した、わたしのことが」

 

 夜明けの時間、誰も居ない交差点の中心で、冷たい空気を吸い込むのが好き。

 大きな街が動き出す前の、人類社会の喧騒が消滅した凪の静穏。そこには競争も、愚かさも、恐怖も、怒りも、憎しみも、悪意も、欺瞞も、絶望も無い。

 

()()だよ。千束がいま感じてる気持ちが、わたしの戦う理由。わたしが、『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』である理由」

 

 ゆっくりと、歩み寄る。

 

「ほら」

 

 確かめるまでもない。千束が持ってきたクリス・ベクターとコルトM1911DCMカスタム(『千束の銃』)には、例の非殺傷弾(『先生の弾』)が装填されている。

 千束の根性はわたしも認めるところだけど、今日に限っては見ないふりをしてあげられない。

 

「ニ……コ、ル」

 

 動揺している今がチャンスだ。2度目は無い。

 

「これじゃわたしは殺せない」

 

 蘭堂のお爺ちゃんからもらった()()()()()()()を振るう。

 まず一撃でマシンガン(クリス・ベクター)を破壊。続くもう一撃は躱されたが、避けられるのはわかっていた。

 狙いは最初から『千束の銃』じゃない。『先生の弾』が詰まった学生鞄(バックパック)を、肩紐を切断することで脱落させる。

 

「───っ!?」

 

「はい、どうぞ」

 

 追撃はしない。一旦、そこで立ち止まり……持っていた拳銃を放り投げる。

 わざと見切りやすい軌道と速度で投げた。爆弾か何かと勘違いされるかもと思ったが、千束はちゃんと受け止めてくれた。

 

「ゲームだよ。これはわたしと、千束のゲーム」

 

 真紅の瞳が揺れ動く。わたしを見て、倒れているたきなお姉ちゃんを見て、手の中の銃を見る。

 千束がキャッチしたのは、銀色のS&W M&P9。たきなお姉ちゃんの銃だ。

 

「わたしは女王様だから、『DEMONS』の人たちを配下として使うことが出来る。わたしはこれから5分に1人、わたしたちが知ってる人……例えば先生やフキさんなんかを、配下の人たちに襲わせて殺す」

 

 この部分はハッタリじゃない。既に蘭堂のお爺ちゃんを通じて指令を発し、準備をさせている。

 リコリスとか先生みたいな黒社会の人を始末するのは簡単じゃないだろうけど、こっちにはロボ太君(『ナッツクラッカー』)が居る。インターネットの整備されたこの国(日本)において、高度な電子戦能力を持つハッカーがどれほどの脅威になるか、クルミちゃん(『ウォールナット』)を見てきたわたしたちはよく知っている。

 

「それともうひとつ。実は今、世界中に潜伏してた『DEMONS』の特殊部隊が、各国の保有する()()()の奪取に動いてるんだ」

 

 この部分ももちろん本当のこと……だけど、こっちの実行役は蘭堂のお爺ちゃんなので、正確にはわたしの裁量で動かせる範囲ではなかったりする。

 まぁ、そもそもが成功するかどうかもわからないトンデモ作戦だし、千束を焚きつける方便だと割り切れば充分かな。

 

「5分経つごとに───わたしたちの知り合いが1人死ぬごとに、彼らは集めた核を使って無差別攻撃を行う。どこから発射されてどこを狙うかはわたしも知らない。そこは現場の人たちにお任せ」

 

 つまり、消極策にはペナルティがあるってことだ。

 千束もバカじゃない。わたしの意図には気づいてくれてるはず。

 

「で、ここの12階のサーバー・ルームにはロボ太君……『DEMONS』の作戦行動を支援する、スーパーAIの中枢部があるの」

 

 そして……色々と条件を付け加えたが、本当に重要なルールはひとつだけ。

 

「あとは、どうすればいいか。わかるでしょ?」

 

 ───あの日から、ずっと考えていた。

 星谷ニコルは、錦木千束に、何をしてあげられるだろう。

 (怒り)であるわたしは。(憎しみ)であるわたしは。溺れるような、飢え(悪意)渇き(殺意)であるわたしは。

 

「っ……! あんたは……。……あんたって、やつはっ……」

 

「……」

 

「……笑ってた、じゃん……! ずっと一緒だったのに! 私も、たきなも、御門だって……!」

 

「…………」

 

「全部、嘘だったの!? 私っ、あんたのこと……友達だと」

 

「嘘じゃないよ」

 

 わたしは、ありのままの自分で、千束と向き合いたい。

 他でもない千束が救ってくれた、このわたしのままで。

 

「わたしも千束のことが好き。たきなお姉ちゃんも、御門も、ゴッホちゃんも、クルミちゃんも先生もミズキさんもフキさんもエリカちゃんも……みんな、大好き」

 

 錦木千束が、わたしを見ている。

 恐らくは生まれて初めて、わたしと同じモノを心に抱いている。

 

「けど。()()()()()()()()()()()()

 

 この短い時間で、本当に、良い目をするようになった。

 今まで他の誰にも出来なかったことだ。楠木さんや吉松って人に見せてあげたいなぁ。

 わたしの千束。わたしの英雄。わたしだけの、銀の弾丸(シルバー・バレット)

 

「誰に言われたわけでもなくて、正真正銘、これがわたしの選んだ道で『やりたいこと』。決めたんだ、自分を騙すのはもうやめるって」

 

 だから───胸いっぱいの気持ち(ほんとう)を、あなたに。

 

「さぁ、千束。世界の終わりを一緒に見よう?」

 

 慟哭(こえ)にならない怒号(こえ)が、星の無い夜空に響き渡った。

 

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