萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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#14 Versus
Versus(Ⅰ)


 

 千束はS&W M&P9(たきなの銃)を右手に握り、反対の左手で鹵獲品の打刀の鞘を払った。それまでの道中で使っていた時とは異なり、相手に峰ではなく腹を向ける。

 名の通った鍛冶師の作などではなく、1世紀近く前の大戦中に量産された軍刀の横流し品だが、その切れ味は現代の刃物と比較しても何ら劣るものではない。

 

「───あんたは……。あんた、だけは……!」

 

 対するニコルの姿は、既にリコリスのそれ(制服)ではなかった。

 近未来的な漆黒のボディ・スーツに、ゴシック・ロリータ調の意匠が融合した独特の戦装束(バトル・ドレス)。童話の魔女めいた装いに身を包んで、『必滅の邪剣(ダインスレイヴ)』が笑う。

 

「あはっ───!」

 

 その一声と共に、スーツの腰部後方から一振りの()()が引きずり出される。

 剥き出しの鈍鉄色(ガンメタル)に輝く44口径回転式拳銃(リボルバー)、『TG-AB64 Nightmare grave(ナイトメア・グレイヴ)』。拳銃と呼ぶのも憚られる大筒めいた銃身と銃床(ストック)、銃口の下に銃剣(バヨネット)ならぬ『銃斧(アックス)』の刃を備えた、獰悪極まりない代物である。

 

 最強と最凶。

 

 左右で異なる武器を携える千束と、一丁の銃を両手で構えるニコル。

 それは奇しくも、平時における互いの戦闘スタイルを交換した形となり───。

 

「……ッ!!」

 

「はっ……!」

 

 銃声が5度、立て続けに響いた。

 千束のS&W M&P9から2発、ニコルのナイトメア・グレイヴから3発。当然のようにどちらも当たらなかった。

 天賦の動体視力と反射神経により瞬間瞬間における最適解を選び続ける千束の『眼』と、あらゆる環境情報と膨大な戦闘経験から敵対者の未来の行動を予測するニコルの『天眼』は、お互いに長所を潰し合う相剋の関係にある。

 千束はニコルの銃撃を回避でき、ニコルは千束の回避ルートを予測して()()()()()()()ように撃つことができ、千束はニコルが()()()()()()()ことを"視て"から動きを変えることができ、ニコルは千束が回避ルートを予測して撃った弾を()()()回避することを予測できる。

 

 彼女たちの戦いにおいて、銃が決定打となることは有り得ない。

 故に必要なのは致命の一射ではなく、肉を削る打撃であり、骨を砕く()めであり、血を流させる刃である。

 

 互いにもう1回ずつトリガーを引いた後、千束は左手の打刀をニコルの顔面目掛けて突き込んだ。

 ニコルは小首を傾げてやり過ごし、反撃の銃斧(アックス)を振るう。素早く引き戻された刀がそれを防ぐ。

 千束の銃が火を噴いた。ニコルは床を転がって回避、起き上がると共に膝立ちとなって発砲。放たれた.44マグナム弾は、千束が軽く身を(ひね)るだけで虚空に消えた。

 白金の髪が翻る。千束は小刻みに跳躍して瞬時に距離を詰め、渾身の回し蹴りを放つ。

 ニコルが両腕を交差させて防御した、ところで千束の刀が閃き、頭から両断する───。

 

 

 

 寸前で、止まった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 御門かなはが、宝刀『風巻国永(しまきくになが)金烏丸(きんうまる)』を抜くということ───。

 銃弾が効かない、まではいい。『旧電波塔の英雄』錦木千束に匹敵する人材を求めて開設されたドットフィフス・クラスの中に、たかが至近距離からの拳銃弾程度に対処できないリコリスなど存在しなかった。過去に『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』星谷ニコルと協働して使()()()()()()23人とて、最低でもその基準は満たしていたのだ。

 

「……、……おいおい」

 

 だが、信じられるだろうか。

 

()()()()かよ」

 

 IMI デザートイーグル自動拳銃。FN SCAR(スカー)突撃銃。イジェマッシ・サイガ12散弾銃。US M67破片手榴弾。

 撃破済みの『DEMONS』の敵から奪ったH&K MP5やSIG Sauer(シグ・ザウアー) MPX、コルトM4だのUDP-9だの拳銃弾仕様騎兵銃(ピストル・キャリバー・カービン)も使った。

 

「銃は品切れですか、ゴッホちゃん」

 

 ()()()()()を相手に、もう何百発撃ったか覚えちゃいない。

 こっちの弾は全部斬られて失くなった。

 

「チッ……」

 

 ……リコリコ組に『サイクロトロン・ボーイ』を預けたのは失敗だったか。

 とはいえ、あの剣の前ではどんな装甲も役に立たないだろうし、戦車の機関砲くらいなら容易く捌かれそうだが。

 

「いや」

 

 頼みの綱は───残り2つ。

 さっきあいつ自身が取り落とした、超音波振動ブレード『玉兎』と……。

 

「こいつはあんまり、使いたくなかったんだけどな」

 

 御門を侮ってたわけじゃない。けど、ニコルと戦う羽目になるまでは温存しておくつもりだった。あのチビはこっちの情報を与えれば与えるだけ厄介になる。

 ただ、もはやそうも言っていられそうにない。ニコルがどうこうという話ではなく、ここでオレが『ウォールナット』を逃がし切れなければ()()()()()()

 

 防弾コートを脱ぎ捨て、ショルダー・ホルスターとチェスト・リグを外す。

 必要なものは既にコートのポケットから抜き出してあった。強化プラスチック製のケースに入った、深紅のカプセル。

 

「───すみません、司令」

 

 死ぬのは怖くない。少なくとも、死ぬほど苦しんだことは何度だってある。

 義理とか、使命とか、信念とか。言葉は何でもいいけれど、そういうものを裏切って生きることの方が、オレにはよっぽど耐えられない。

 

 星谷ニコルを超える。

 世に憚る"天才"を下すために創造された、生まれながらの人外として。オレたちを上回る『人間』の存在など、決して認めるわけにはいかない。

 それが、オレの戦う理由だった─────けれど。

 

 今は、()()()()()

 

 リコリスになってから初めて受けた任務の後で、楠木司令にかけてもらった労いの一言を覚えている。

 ある潜伏拠点(セーフハウス)の近所に住んでいた、黒社会とは縁もゆかりも無い普通の家族の笑顔を覚えている。

 この世のすべてを拒絶する冷たい炎みたいだったニコルが、いつの間にかよく笑うようになったことを、知っている。

 

 DAのやり方を手放しで認められるわけじゃないが、ここでの生活は『教団』で戦っていた頃よりずっとマシだった。

 このクソッタレで、どうしようもなく汚濁に(まみ)れた世界にも。確かに、愛すべき美しさはあるのだと───心の底から、そう思った。

 

「お世話になりました」

 

 だから、オレはこれでいい。

 この歪でちっぽけで、何よりも尊い平和のためなら、オレは死んでも構わない。

 

 ケースから取り出した紅いカプセルを、一息に飲み込む。

 『教団』の壊滅と共に、連中が有していた危険な知識は大半が破棄された。しかし、DAとてオレという存在を運用するにあたり、何の研究もしてこなかったわけじゃない。

 こいつは……文字通り、最後の切り札だ。

 

「───っ!! が、ぅぐ……!」

 

 途端、全身を焦がすような熱感。頭痛。吐き気。そして……それらすべてが、緩やかに鈍麻して遮断されていく。

 カプセルの効果は単純。『実験体(オレ)』が持つ改造された()()()()()()()()()()()()だ。

 細胞分裂を促進して自然治癒力を高めるのではなく、細胞の組成そのものを変異させて物理的に強化する。

 ()()()()()()()()ことによって得られる、ただ一時だけの絶大な力。己が五体を決戦兵器とするための最終手段。

 

「! ゴッホちゃん───」

 

「……るっせぇ! それが、一度『斬る』って決めた相手への態度か!? 御門ッ!!」

 

「っ、……!」

 

 ハハ……『死』を見る魔剣士の目、か。

 じゃあ、バレてんだろうな。今のオレなら斬れば死ぬってこと。それと……オレを斬らなきゃ、お前の方が死ぬってことも。

 あぁ、その通りだぜ御門。こいつを使ったオレは、さっきまでとは別の生き物だ。目の前の敵を黙らせるまで絶対に止まらねぇ。

 

「───ブッ殺す」

 

 あん畜生を驚かせてやれないのは残念だが……そうだな。

 ニコルの下で働いてるって意味じゃ、御門はオレの()()()ってことになんのか?

 

「───はい。斬ります!!」

 

 いいだろう。不死身の化け物の死に場所としちゃ、これ以上無ぇ舞台だ。

 DA最凶のリコリスの従僕にして、武芸百般なる錬鉄の大剣豪。相手にとって不足無し!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「……よーし、到着。部屋の中は……、特に罠とか無さそうだな。無用心な奴らだ」

 

「けど、考えてみたらそもそも変よね。そのロボ太? っていうヤツ、別に『DEMONS』の専属ハッカーってわけでもないんでしょ? どうしてこのタイミングで根城を引き払ったのかしら」

 

「さぁ、そこまでは。催眠音波の拡散に先んじて、影響を受けない場所に逃げたか……怖いお兄さんたちにでも連れてかれたんじゃないか? 何せアイツには、ぼくと違って千束やたきながついてないからな」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 斬撃が赤銀の髪に届く寸前、千束の振り下ろした刃が()()に阻まれた。

 見れば───ニコルの背中から、黒光りする『触手』のような物体が伸びている。

 都合2対4本、まるで蜘蛛か蛸の脚の如く蠢くそれは、戦闘開始前の不意打ちで千束のマシンガン(クリス・ベクター)を破壊したのと同じものだ。

 

「ッ、それ……!」

 

「あっは! すごいでしょ? 蘭堂のお爺ちゃんからもらったんだ〜♪」

 

 鋭利な棘状の節と鏃状の先端を備えた、黒銀の四つ腕。

 刀を押し留めていた触手が(たわ)み、想像以上の──ニコルの細腕よりもさらに細い直径からは見て取れぬほどの──馬力で千束を弾き飛ばした。

 

「電気を流すと常温で粘性を帯びる特殊合金と、CNT繊維製の人工筋肉を組み合わせた鋼線型義肢(ワイヤー・アーム)だよ。元々は災害救助のために開発された技術なんだって」

 

 八つ脚の異形と化した少女は、『何でも人殺しの道具になっちゃうもんだね』とくすくす笑う。

 周囲では4本の触手───ワイヤー・アームが、恐らくはニコルが操作しているのだろうが、まるで別々の生き物であるかのように千束を()()()()()いる。

 

「んふ。千束、いつもなら『スパイダーマンかよ』とでも言いそうなのに。今日は大人しい」

 

「……っ、うるさい!」

 

 実際には、千束はそのようなジョークを考え始めてすらいなかった。

 普段であれば即座に思い至っていたところだとは認めつつ、しかし今日に限ってはそんなことに脳のリソースを割いている暇は無い。

 

「にしし、もうすぐ3分経過〜。次は誰を殺そうかな? クルミちゃんを殺せば、だいぶわたしたちが有利になるけど……それじゃ面白くないよねぇ」

 

 ニコルの口調は軽い。他ならぬ錦木千束から学んだ、鉄火場においても笑顔と軽口を絶やさない在り方。

 決定的に異なるのは、千束の『お喋り』が己を鼓舞し敵の戦意を挫くために()()()()()()()()である一方で、ニコルのそれはすべからく殺意に帰結する()()である点だ。破壊と殺戮の申し子たる彼女にとっては、挑発の一言さえ立派な武器となる。

 

「よし決めた。次に殺すのは、フキさんだ。都内のリコリスとリリベルは、昼間の催眠音波で出た被害の処理に動いてるから……1人くらい死んでも、不思議じゃないよね?」

 

「ニコル───ッ!!」

 

 千束の動きが変わる。未だに頭のどこかで感じていた殺人への忌避と、人工心臓の寿命に対する懸念。それら無意識の枷を捨てるには、充分な宣告だった。

 正確無比の銃撃に加え、縦横無尽に振るわれる機構の鞭───躱し、凌ぎ、すり抜けて前に出る。致死の領域へ。『リコリス』の支配域(テリトリー)へ。

 

「───……!!」

 

「っふ……あは!」

 

 圧倒的な動体視力と有効視野、反射神経を有する千束は白兵戦に長ける。尚且つ体格でも優っているとなれば、たとえニコルが相手でも後れを取ることは無い。

 故にこその、射程距離と手数を補うワイヤー・アームだ。高速かつ不規則に駆動する黒銀の四つ腕は、DA最強のリコリスをして回避困難なまでの斬撃の波濤を生む。

 時に銃弾を跳ね返し、時に蹴り足を受け止め、時に刀の一閃を阻み。時に、小柄な少女とはいえ、ニコル自身の全体重を持ち上げて移動する。()()()()()の万能武器。

 

 戦闘の均衡が崩れるのは、時間の問題だった。

 

 ニコルが持つ異形の大型拳銃が、.44マグナム弾を吐き出す。

 千束は斜め前にステップを踏んで回避。と同時に、ニコルが得物の銃身を折るのが見えた。手品の如く一瞬で取り出した6発の弾丸を、中空に放り投げる瞬間も。

 有象無象の凡兵が相手ならばいざ知らず、怒りに燃える『英雄』の前で晒すには、あまりに致命的な隙だ。

 

 一歩、前に出た。瞬間に───。

 

 極限の高速戦闘中、フルスロットルで回転する千束の脳が違和感を訴える。

 いま見えた光景を信じるなら、ニコルの大筒めいた斧付きリボルバー拳銃『ナイトメア・グレイヴ』の装弾数は6発。しかし彼女はここまで、明らかに再装填(リロード)を経ないまま6発以上の弾を撃っていた。

 あの銃がDAの技研やアラン機関の手になる超先端技術の結晶で、外見以上の装弾数を持つものなのか。それとも、ニコル自身が手先の器用さと立ち回りの妙で、リロードの瞬間を見せずにいたのか。

 恐らくは後者だが、なればこそ───どうして今になって、そのような隙を晒したのか。

 

 決まっている。

 度重なる挑発によって冷静さを欠いた千束が、短絡的な速攻を仕掛けるのを誘うためだ。

 

「───うぁっ!?」

 

 4本の触手が逆巻き、(ニコル)の懐に飛び込む千束へ背後から襲いかかった。

 機械の蛇は瞬く間に千束の四肢を捕らえ、ぎりりと絞め上げる。

 

「あは」

 

 宙に浮かんでいた6発の銃弾が、示し合わせたかの如くリボルバーの円筒部(シリンダー)に収まる。

 

「残念。ゲームオーバーだよ、千束」

 

「ニ、コル……」

 

「……あぁ、5分経った。まずはこれで、もう1人」

 

「っ!! ああっ……ぅあぁああぁぁ!!」

 

 ワイヤー・アームの表面は、硬質金属の外装を纏って──『節』があるように見えるのはそのため──おり、それには魚の骨にも似た形状のスパイクが設けられている。

 ニコルはこれが千束の肌を刺さぬように配慮していたが、その拘束されている当人がもがいては仕方がない。千束が身を(よじ)る度に真紅(ファースト)のリコリス制服が裂け、棘が食い込んで出血を強いる。

 

「ありがとう。千束」

 

「はな、せ……! ッ、離せったら!」

 

「わたしを本気で殺しに来てくれて、ありがとう」

 

「ぐぅ……、ぅ、あぁ……! このっ、こんな! こんなの、で───」

 

「わたし、本当に楽しかった! ねぇ……千束?」

 

「……、……。…………なんで」

 

「千束が教えてくれたんだよ。気づかせてくれたんだ。世界はこんなにも、たくさんの幸せで満ちてるんだって」

 

「なんでなの、ニコル……」

 

「だから……わたしは、もういいの。"普通の人間(ひと)"の思い出は、これで充分。千束やたきなお姉ちゃん、御門に、ゴッホちゃん……みんなにもらった分だけでいい」

 

 赤銀の髪の少女が笑った。

 困ったように、少し寂しそうに。

 

「わたし、なるよ。『DEMONS』の女王様(首領)に───。千束が、生きてていいって言ってくれた、本当の"魔王(わたし)"に」

 

 『最強のリコリス』は今、黒銀の蛇に手足を戒められ、星の無い月夜に掲げられている。ゴルゴダの丘で磔となった救世主の如く。

 神殺しの槍には既に、魔王の指が掛かっていた。死を吐き出す鋳鉄の顎門が、白金の髪の少女へと狙いを定める。

 

「……ありがとう。さよなら」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ─────今際に、夢を見ている。

 

 

 

 DA京都支部の寮室。飾り気も何も無い、支給品だけの部屋。

 関東本部やリコリコ支部に異動になっても、この状況はあまり変わらなかった。

 

 関東本部、リコリス寮エントランスの噴水。

 栄転当初は感激したものだが、こうやってしげしげと眺めてみると、存外大したものにも見えないのだから不思議だ。

 それとも、知っていれば見え方が変わるような、何か劇的な歴史があったりするのだろうか。

 

 東京の下町にひっそりと佇む、喫茶リコリコ。

 考えてみれば、ここに左遷されてからまだ1年も経っていない。それなのに、もう何十年もここで過ごしていたような気さえする。

 

 私の物語は終わった。

 ───と、思う。

 

 千束を救い、真島を討って、蛇ノ目エリカとのわだかまりも解けた。

 リコリスの……いや、人の死とは得てして唐突なものだが、私は恵まれている方ではないだろうか。やるべきことはすべてやり終えていたのだから。

 

「………………」

 

 私の物語は終わった。

 やるべきことはすべてやり終えた。

 私に出来ることはもう無い。

 

 ()()()()()()()ことはたぶん、私の運命には含まれていない。

 その証拠に、私はあの時、戦うことすら許されなかった。

 私の銃は彼女の手にあった。考えれば考えるほど、私は、彼女に殺されるためだけにあの場に居合わせたのだ……と思い知らされる。

 

「……。……、……」

 

 だいたい───助けると言っても、具体的な方法が思いつかない。

 世界を焼き尽くす、黒き死の羽。闇黒より生まれし血塗れの魂にして、混沌の律を掲げる悪魔の王。

 ただ呼吸しているだけで傷つき、届かぬ月に向かって吼え猛る狼に、私が何をしてあげられるというのだろう。

 

「……ニコル」

 

 私は。

 

「千束」

 

 ───DAの命令や交戦規定に違反するのとは、わけが違う。

 この決意は、人類種の未来、より良い明日へ向かって生きようとするすべての命への反逆に等しい。

 

「……私、は」

 

 それでも。

 それでも、私は、この"死"を踏破しなければならない。征服しなければならない。

 

「私は」

 

 迷い(理性)を生む脳は死んでいる。もはや葛藤は無い。

 今は、ただ、

 

「……させない」

 

 怒りを抱くのはいい。それだけ何かを大切に思う気持ちがあるということだから。

 憎しみを抱くのはいい。それだけ誰かを愛する心があるということだから。

 

「やらせ、ません」

 

 リコリスの存在意義とは、戦いとは、結局のところ命の奪い合いだ。

 それは悲しく恐ろしい所業だが……きっと、()()()()()で済ませてはならない。

 悲しくて恐ろしいから、命のやり取り自体を放棄する(から逃げる)というのは、やはり間違っている。

 

「私は。私には、どちらか片方を取るなんて出来ない」

 

 矛盾している。命の輝き(錦木千束)を認めていながら、戦いと死(星谷ニコル)にも価値を見出しているなんて。

 けれど……私は、あのふたりが。私の大切な友達同士が。

 

「あなたたちが、互いの血に濡れて死ぬのは、見たくない───!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 そして、夜が明けた。

 




















え? 別に『原作キャラ死亡』のタグなんて付けてなかったですよね?
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