萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
前半は「The Only Thing I Know For Real」、後半は「ALIVE」をBGMにしてお楽しみください。
「GrrrrrAaaaaaaaa!!」
エージェント・ゴッホ。
人為的に改造された強化細胞を有する、国防機密組織『Direct Attack』の切り札。
最優のリコリスにして半不死の異能者であり───今はその不死性をも返上し、一時絶大な力を得た、地上最強最速の生命体。
皮膚は朱く染まり、筋肉は膨張し、
「───……!!」
御門かなは。銃ならず刀を振るう異端のリコリス
人類史上最高峰の武才を
人の身にありながら鬼神の如き法力を操る、今上の世に生まれ落ちた天狗の御子である。
鉄板入りの
技巧としては児戯にも劣るが、されど一振りで大型トラックさえも粉砕する破滅的殴打が魔剣士を目掛けた。
それを、宝刀『風巻国永・金烏丸』が迎え撃つ。神速一閃、漆黒と黄金の颶風と化した刃が、振り下ろされる羅刹の剣と衝突する。
異様な快音が響き、火花と衝撃波が四散した。
強化細胞の成長抑制を解除、オーバーロードさせたA72番の挙動は、到底人間の目に捉えられるものではない。
発揮される膂力、スピード、反射神経に加えて、体躯それ自体の強度。いずれを取っても半不死の治癒力と引き換えにして余り有る。
今のA72番は、人間の形をした爆炎だ。それは刹那の内に網膜を
かなはは既に耳目に頼ることを放棄していた。ここで
「AaaAaaaa───」
(右)
行動に先んじて生じる思考、飛び交う殺意。
次に迫り来る『死』そのものを、直接認識する。
「……Grrrrrrrr!!」
(左。上。右、左、左、足払い、掴み。路面の
ひたすらに、先の先
既存の人類種がA72番という新人類に挑む限り、
真実、暴風雨に等しい破壊力に曝されて尚、致命の被弾を避ける守りを。
遷移金属に匹敵する硬度の肉体に斬撃を捩じ込み、確かな傷を負わせる攻めを。
(……速く)
「GgrGgraaaaaaa!!」
(速く)
「Grrrrrrr! Ggraaaa!」
(速く───速く、
「AAAAAAAAAAAA───!!」
轟雷の如き剣を、完璧に弾き返さなければ死ぬ。隕石の如き拳を、より速く捌けなければ死ぬ。龍の尾の如き蹴り足を、的確に躱せなければ死ぬ。無双の怪力を誇る指に捉えられれば、五体を掴み潰されて死ぬ。
A72番の運足はとうに銃弾の速度を超えているが、周囲に転がっている小銃やバイクの残骸、『DEMONS』の戦闘員の死体を
幾度となく押し寄せる死の予兆、無限に分岐する未来を、神経に走る電光の速度で計算し尽くし、ただ一手の失着も許されぬ盤上遊戯を続けていく。
(もっと)
「Rrrrrr……」
(もっと)
「……Gaaaaaaaaa!!」
(もっと、
───瞬間。
剣士は思い至る。
御門かなはの師は、彼女に最後の奥義を教える前に逝ってしまった。
如何に武才に恵まれ、客観的には明らかに師を超えるだけの実力を身に着けていようと、かなは自身は天朧真月流を正しく継承したとは考えていない。
天朧真月流は、剣術であり兵法である。すなわち、人殺しの
翻って───
(否)
足りぬ。まったく、足りぬ。
星谷ニコルはエージェント・ゴッホを従えていた。それはつまり、あの半不死の異能者の命脈を握っていたということだ。
(拙は……師匠を。天朧真月流を、超える)
御門かなはには、天朧真月流を継げぬのならば。ただの殺人剣では、地上に顕れし修羅鬼神を討ち果たせぬのならば。
戦国の世から600年続く、
(でなければ、
奥義の壱『繊月晨鐘』は既に試した。天朧真月流最速の足運びにして神速の抜刀術であり、大抵の相手はこの一撃で頸を狩られる。A72番には通用しなかった。
奥儀の弐『光彩陸離』は、抜刀後、無拍子かつ緩急のついた斬撃を複数浴びせる技。奥義の壱に耐えるほどの敵手に対して用いられる二の矢だ。これもあまり効果を挙げていない。
奥儀の参『鏡花水月』は飛び道具に対する防御の技であり、どちらかと言えば護身や仲間との共闘を重視している。この戦いにおいては考慮するものではない。
(迅く。鋭く)
そして、魔剣士・御門かなはの知らぬ、天朧真月流最後の奥義。
奇しくもそれは、たったいま彼女が成した決意と
『繊月晨鐘』で頸を落とせず、『光彩陸離』で斬り刻んでも死なず、『鏡花水月』で身を守ることも出来ない敵が現れた時───天朧真月流に、
(高速の一太刀でも、四方からの連撃でも殺せぬなら)
第四の奥義は、"無常"の
血を吐くほどの修練を重ね、死線にて培った武芸の粋を尽くして、なお下せぬ。
そのような艱難辛苦に行き当たった時、初めて真の剣の道が始まる。
刀一本で、銃で武装した兵隊を倒すことは出来ない。
刀一本で、至高の
刀一本で、音より速く
それら、すべての道理に───否を突きつける。
故にその剣、時の果てまで永劫未完。武の極み、頂という名の袋小路は、ただ超え続けるためにある。
(
極限まで高速化していた剣士の思考が、ここへ来て
戦場を跳ね回る羅刹の足元、砕けて飛び散る路面の礫の一片に至るまで、ごく仔細に認識できる。
よっぽど無敵の要塞じみていた、改造兵士の肉体に───断つべき『死』の領域が、いくつも浮かび上がって見えた。
「Aaaaaa……! GrrrrAaaaaaaa!!」
万物を砕く羅刹の剛剣に対し、少女は、居合抜きの構えで応えた。
耐久性・継戦能力に優れた『玉兎』『玄兎』とは異なり、『風巻国永』は切断性能・破壊力に特化した調整を施されている。
その鞘はパルス振動機構に電力を供給する
さらに、リミッターを解除した最大出力状態であれば、
「
─────その一瞬だけ、地上から物理法則が消滅した。
右眼球から右脳下部、左腋窩動脈、右肺、右上腕動脈、左橈骨動脈、肝臓、左腎臓に加え、頸動脈と右大腿動脈にそれぞれ2回の斬撃。横隔膜に刺突。
0.7秒間に13回、およそ人体の致命点すべてを網羅する剣閃の嵐。
「G、r……aAaa」
「───……」
「aa……。……、……」
残心の時間───理屈に依らず、あらゆる生命の『死』を直感する御門かなはにとっては、本来不要な
「……。御見事」
他に話せることも、あっただろう。
彼女らはかつて仲間であり、友であり、命と誇りを懸けて戦う敵同士だった。
「……、……はい」
もう一度だけ剣を振るい、血を払う。霞むような小さな金属音のみが聞こえる静かな納刀。
「共に戦えて光栄でした。エージェント・ゴッホ」
『実験体』の強化細胞は、限界を迎えれば燃える灰のような塵と化し、死体を残さない。
1分前まで彼女が存在した場所には、夕焼け色の襤褸切れとなったリコリス制服だけが落ちている。
「……。……っ、は……! か、ぁ……!」
次の瞬間、かなはの方にも限界が来た。
いくらパワーアシスト・スーツを着用していたとはいえ、本来人の身で勝てぬ敵を斬った代償は大きい。激烈な運動負荷を原因とする酸欠状態だ。半不死の超生物ならざる彼女の肉体にとっては、酷使された筋繊維と骨格関節の損耗も無視できるレベルではなかった。
「はっ……、は……! タイ……チョー、……っ」
当初の目標であった『
追わねばならないが、身体が言うことを聞かなかった。思わず膝を突き、そのまま倒れ込む。
御門かなは対エージェント・ゴッホ。
流浪の剣士は戦いを生き延び、最優のリコリスは任務を達成した。
◇ ◆ ◇ ◆
「おーおー、さすがに良い機材揃ってんな。いいぞロボ太、それでこそぼくが認めたライバルだ」
「……、……ねぇ。何か外、騒がしくない?」
「あ? ……そうかな。そうかも……。おいミズキ、車の中にゴッホが置いてったデカい銃あったろ。今の内に取って来い」
「嫌よ!! アタシは元・情報部だっつってんでしょ!」
「護身術くらい習ってないのかよ? やれやれ……結局、最後はぼくが一番働かないといけないわけか」
◇ ◆ ◇ ◆
───指先が、何かに触れた。
戻ってくる。
帰ってくる。
心臓の鼓動。風を受ける頬の感覚。光。頭痛。音。声。
息を、する。長く吸って、深く吐いて、未だ疲弊を訴える全身に酸素を巡らせる。
滲み霞んで明滅する視界の中央、手を伸ばせば届く距離に、焦茶色の学生鞄が落ちている。持ち手にはブルドッグのキーホルダーが付いていた。
肩紐が切断されたそれは、落下した勢いで留め具が外れたのか、見事に中身をばら撒いている。いくつかの日用品や、救急キット、そして……拳銃と
『錦木千束の銃』を握った瞬間、身体に染みついた修練の記憶と戦場の経験が半自動的に励起し、私の意識は完全に覚醒した。
「……っ。なんでなの、ニコル───」
途端、脳が目の前の現実を認識する。
見慣れた赤銀の髪───小柄な少女の背から、黒光りする蛇のようなものが伸びて、『最強のリコリス』へと喰らいついている。
にわかには信じがたい光景だったが、
「ありがとう」
ニコルが私の復帰に気づくまで、あと何秒もかからないだろう。
そもそも、千束が眉間を撃ち抜かれる方が早いかも知れない。ニコルは狙った的を外さない。
援護できるのはこの一瞬、この一射だけ。千束の銃と非殺傷弾を使って。
彼女が千束と戦っている以上、真島の防弾ベストのような仕込みがあるのは間違いない。恐らく、露出している頭部以外への被弾は有効打にならないはず。
「さよなら」
距離は。風向きは。現状のコンディションで、慣れぬ他人の銃で、どこまでの射撃精度が出せるか。
仰向けの状態から、跳ね起きる。
千束の銃を構える。
トリガーを引く。
弾丸が飛ぶ。
「───……!?」
オリーブ色の瞳が、驚愕に見開かれて。
ニコルがこちらに振り向くよりも早く、血の色の煙が弾けた。
◇ ◆ ◇ ◆
結論から言えば。
たきなの射撃は狙いを外れ、ニコルの
首の後ろ───
対弾防刃スーツで保護された肉体にダメージは無く、制御ユニット自体も──外装の破砕と引き換えに──機能を全損したわけではない。
それでも、精密機器のコントロールをわずかに狂わせるには、黒銀の蛇を一時
「たきな、お姉ちゃ───」
「……千束っ!」
拘束を解かれ、されど未だに茫然自失としている千束に向かって、たきなは叫ぶ。
視線が重なる。
「たきな……!」
「う……く、ぁ───はは!!」
不吉な哄笑と共に、4本の機構の鞭が再起動する。だが、その挙動は先刻までと比べていささか鈍い。
うねり飛ぶ斬撃の間を縫って、千束は右手のS&W M&P9を投げ渡す。本来の持ち主に。
たきなもそれに応え、『英雄の銃』を手放そうとして───。
◇ ◆ ◇ ◆
井ノ上たきなは星谷ニコルに勝てない。地力の桁が違い過ぎる。
錦木千束ですら、単身ではかの『
私だけでは届かない。千束だけでは意味が無い。
白金の髪の彼女だって。ただ英雄たらんと己を奮い立たせているだけの、ひとりの女の子なのだから。
けれど───二人なら。
一緒なら、きっと世界の終わりだって乗り越えられる。
◇ ◆ ◇ ◆
数々の経験を積み重ねた16と1年の歳月が、死の淵を踏破せし意志力によって結実する。
4本の
白兵戦無双の英雄をして、魔王の下へと辿り着くことを許さぬ黒銀の蛇。あれを封じない限り、千束とたきなに勝ち目は無い。
一対一では、正確無比の機動射撃能力を誇るニコルと、縦横無尽に振るわれるアームの手数を上回ることは出来ない。
二人なら、話が別だ。
両手に銃を得たたきなが、一歩前に出る。
視覚、聴覚、触覚。あらゆる感覚神経を総動員して、襲い来る触手の軌道を予測する。
発砲。全力疾走中の二丁拳銃という二重の制約がありながら、放たれた9㎜パラベラム弾と『先生の弾』は寸分違わずアームの先端───鏃状の
ニコルは千束とたきなそれぞれにアームを2本ずつ振り分け、自身は右手の大筒めいた斧付拳銃『ナイトメア・グレイヴ』を操る。
真っ先に撃つべきは特異な回避能力などを持たないたきなだが、打刀を持って迫る千束へ対処するには
ドレスのスカートに隠したジェリコ941あるいはカランビット・ナイフを抜いている隙は無い。
ニコルの表情からは笑みが消えている。4年前のあの夜、千束が初めて出会った時と同じ、戦禍と混沌の王としての形相。
最強のリコリスとその無二の戦友が、共に全身全霊を懸けてようやく
たきなのS&W M&P9に予備の
残弾は右の『千束の銃』が6発、左のM&P9が10発。たった1歩、ほんの数㎝を進む度、ニコルのアームを迎撃すべき瞬間が訪れる。
黒銀の蛇の主が立つ地点まで、あと10歩。無駄撃ちは決して許されない。
千束も両の手でしっかと刀を握り、死の触手を次々と打ち払っては敵の懐へと駆ける。
御門かなはのような超人的な技量は持ち合わせていないものの、実のところ千束は銃器以上に近接武器の適性が高い。異能の『眼』であらゆる攻撃を見切れる一方、射撃の精度はたきなやニコルに及ばない──とはいえ、単純火力とそれに比しての
ただし、先の拘束時に受けた四肢の傷と出血が響いており、時折苦悶の声を上げている。動きに安定感が欠けていた。
───
ニコルにとって、たきなは恐れるに足る実力──精密射撃に関しては相応の脅威と見做していたが、その
たとえ千束が相手でも、負傷を受けて消耗しているようなら、多少手を煩わさせられるにせよ確実に倒せる自信があった。
2対1の現状でさえ、ワイヤー・アームの攻撃速度と操作精度さえ万全であれば、勝つことは出来ずとも
そもそも、前提として。
爆破や狙撃、
そのいずれもが実際には試されず、彼女が直接戦闘を選んだ時点で─────。
◇ ◆ ◇ ◆
延空木から出てきてこっち、わけのわからないことばかり起こっている。
ニコルに関わるといつもこうだ。
それでも本能と経験は身体を半ば
ニコルを挟んで向こう側では、一度死んで生き返ったたきなが、黒い蛇の注意を散らしてくれている。というか、たきなが私の銃でニコルを撃ってから、蛇の動きそのものが鈍くなった気がする。
今なら───勝てる。
もしかしたら私がなるはずだった、あるいは私を超える、本物の“
たとえ自分を曲げてでも、今までやってきたことを全部嘘にしてでも、一生後悔する羽目になっても……これだけは、やり遂げなければならない。
『DEMONS』は既に世界中で万単位の死者を出している。もう死なせずに済ませられる相手じゃない。ここで止めなきゃ冗談抜きで人類が滅ぶ。
本人も言っていた通り───元を辿れば、私が蒔いた種だ。
せめて、すべてをこの手で終わらせることが私の贖罪であり、あの子にとっても慈悲になる……と、思う。
殺すしかない。
他の誰でもない、