萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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Versus(Ⅲ)

 

 ─────あーあ。

 

 たきなお姉ちゃん。『先生の弾』なんて使わずに、ちゃんと殺しとけばよかったな。

 てか、何で普通に殺さなかったんだっけ。えーと……千束に勝った後で、自慢しようと思ってたから?

 あは。ばっかみたい。それで自分が殺されてたら世話ないじゃん。

 

 まぁ……でも、いいか。

 

 千束、わたしを殺したら落ち込むだろうなぁ。一生の思い出だね。

 だいじょうぶだよ、千束。わたしみたく変な子じゃない普通の人も、何回かやったら慣れるんだって。

 これからもリコリス、続けるでしょ? わたしは……千束がわたし以外の誰かに殺されるの、嫌だからね。千束には、今日のことを忘れずに、いつまでも長生きして欲しい。

 

 わたしの千束。わたしの英雄。鐘の鳴らない心臓の死者(あなた)

 わたしの炎はあなたの中に。わたしが死んでも、わたしの代わりに、ずっと───。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 英雄の腕の中で、白い刃が煌めく。

 英雄の瞳の奥で、黒い炎が燃える。

 

 魔の女王は、これから訪れるすべての運命を受け入れたように見える。

 

 

 

 今だ。

 

 

 

 右手の『千束の銃』をニコルへ。

 左手のS&W M&P9を、()()()

 

 全力で引き金を絞る。

 非殺傷弾(『先生の弾』)が数度、『必滅の邪剣(ダインスレイヴ)』の戦装束(バトル・ドレス)を叩く。

 殺到する9mmパラベラム弾を、『最強のリコリス』は容易く回避する。

 

 銃を捨て、両腕を広げて、走る。前に進む。

 呆気に取られるふたりの間に、飛び込む。

 

 千束とニコルの首筋に抱き着いて、勢い余ってビルの屋上の床に倒れ込んで。

 決して離さないよう、ぎゅっと力を込めて───言う。

 

「───もう、いいですっ!!」

 

 ふたりの吐息が耳をくすぐる。

 それは、音の形を成すことのない困惑の声だった。

 

「……全部聞きました。ニコルのこと」

 

 やるべきことはすべてやり終えた。

 私に出来ることはもう無い。

 ニコルを助けることはたぶん、私の運命には含まれていない。

 

「私は」

 

 DAの命令や交戦規定に違反するのとは、わけが違う。

 彼女を救うということは、人類種の未来、より良い明日へ向かって生きようとするすべての命への反逆に等しい。

 

「生きていて……欲しいです。あなた(ニコル)に」

 

 そんなもの───()()()()()()

 

「……それから、千束も千束ですっ! そんな……そんなふうに、泣くくらいなら……私の仇なんて、取ろうとしなくてよかったんですよ!」

 

 私にそう言われて初めて、千束は自分の目元を拭った。

 吉松と対峙したあの時と同じか、それ以上に動揺しているように見えた。

 

「ダメ……です。どんな理由があっても……。それが、ニコルにとって大事なことでも……。あなたたちが戦って死ぬのは、嫌だ。私は、ふたりに、生きていて欲しい」

 

 ───それから、どれだけそうしていただろう。

 私たちが言葉を失くしていた時間は永遠にも等しく感じられたが、実際には大して経っていなかったんじゃないかと思う。何となく。

 

「……───。……、たきな……お姉ちゃん」

 

「……」

 

「……、わ……。……わかん、ない。わたし、わかんないよ、お姉ちゃん……」

 

 これまでで、一度も聞いたことの無い声音だった。

 

「だってそんなの……おかしいもん。わ……わたし、許して欲しいなんて、思ってないよ? 生まれつきの病気だから、とか、そんな言い訳は……したくない」

 

 そう話す『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』の姿の、何と弱々しいことか。

 

「リコリスになったのも、それが一番、都合が良かったからで……。いつだって、自分の意志で、自分のために殺してきた。たきなお姉ちゃんや、千束に頼まれたって……い……今さら、普通の人みたいに生きてく、とか。……無理だし、やりたくない」

 

 赤銀の髪の少女は言う。

 嘘偽りの無い本心で、己はただ死と混沌の化身でありたいと願っている。

 

「だから……だから、いいの。わたしは、どうしようもない殺人鬼でいい。何も想わない、祈らない、全部を燃やす火であれば……それで」

 

 ───星谷ニコルは、いつからそうなっていたのだろう。

 彼女が真に、冷酷無比の殺戮機構であったなら……そもそも、このような言葉を口にするだけの情動を、果たして持ち合わせていただろうか。

 

「……、……。ふたりは……、リコリスは、平和のために戦ってるんじゃないの? 英雄(ヒーロー)悪党(ヴィラン)を倒すものなんだよ。わたしが生きてても……千束たちにとって、良いことなんて……ない」

 

「ニコル……」

 

 私の右腕の側で、千束がぼそりと呟いた。

 

「わたし……これからもきっと、たくさんの人を殺す、よ? じ……自分の意志、で、自分の、都合の良いように……。それって……、いけないこと……だよね。千束は、たきなお姉ちゃんは、嫌じゃないの……?」

 

 腕の中で、千束の肩が強張るのがわかった。

 千束もニコルも、まだ互いの得物を手放してはいない。

 

 私の、答えは。

 

「許しません」

 

 宵闇の極黒に沈んでいた空へ、少しずつ濃紺が混じり始める。

 そうだ。彼女はこの国(日本)のみならず、人類(ヒト)の拠って立つ地平全土に混沌と破滅をもたらす魔の女王。そのようなおぞましいモノを野放しにしておく道理は無い。

 

「───でも。ここでニコルが死ぬことは、もっと許しません」

 

 私たちの頭上を覆う藍錆(あいさび)の円蓋に朱が差し、灰色が混じり、やがて白んでいく。

 彼方の紅鏡より注ぐ陽光は、わずかに冬の寒気を和らげ、私と千束に『それでいい』と告げているかのようだった。

 

「私は……ふたりの友達ですから。どちらか片方なんて選べないし、選ぶべきじゃない。千束には怒られそうですが、それがニコルの『やりたいこと』なら……」

 

 たとえこの少女が、どれだけの命を奪った殺人者であろうと。

 これからの未来、どれだけの命を奪う悪逆無道の暴君に成り果てようとも。

 

「止めますよ、()()()()()。私たちが───生きている限り、ずっと」

 

 隣から、からん、という音がした。

 既に『英雄』の手の中に刃は無く、瞳の内に炎を宿してもいない。

 

「……うん」

 

 身を焦がすほどの憎悪と絶望を征した『最強のリコリス』が、静かに微笑む。

 

「そう、だね。私……やっぱり、殺したくない。あんたのこと」

 

 つい昨夜まで、錦木千束の他者を憎む機能は壊れて──あるいは、自ら封じ込められて──いた。

 今は違う。そしてその上で、彼女は最凶の魔王を赦すと決意したのだ。

 

「ニコル。さっき言ってたよね。私やたきな、みんなのことが大好きだって。()()()嘘じゃないって。じゃあ……()()()()()()()()()()だ。どうしようもない殺人鬼で、『DEMONS』の女王様で……私の後輩で、たきなの友達で、ドットフィフスのリコリスで、リコリコの店員。どれかじゃなくて、全部がニコルなんだよ」

 

 『リコリス(私たち)』は皆、友と繋いだ手で銃を握っている。

 人間は複雑で、矛盾していて、自力では言動の一貫性すら保証できない生き物だ。

 選ばなくていい。許さなくていい。ここで彼女を救うのは悪いことじゃない。

 

「何度ぶつかることになっても、私はニコルの友達でいたい」

 

 世界を焼き尽くすために生まれてきた燎原の火に、私たちは一体、何をしてあげられるのだろう。

 

「…………、……ぅ……あ」

 

 それでも───今ここにある、私たちの気持ちは。

 私たちの『やりたいこと』は、間違ってない。

 

「あぁ……。うぁあぁぁぁぁぁっ───……!!」

 

 ごとり、という重い音が響く。

 『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』の小さな手から、銃が零れ落ちる音だった。

 

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