萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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#F Go over to the future
Farewell


 

 ───東京の空を明々(あかあか)と照らす曙光を遮って、巨大な影が私たちに覆い被さった。

 

 鋭い唸りを上げる回転翼。先刻去ったはずの夜闇が舞い戻ってきたかのような、黒塗りの機体。

 左右に張り出した兵装用短翼(スタブ・ウイング)に懸架されているのは長距離航行用の燃料タンク(増槽)であるものの、機体中央の円筒型銃座(ターレット)から覗くガトリング砲の火力については言うまでもない。

 航空機にはあまり詳しくないが……あれは米軍の攻撃ヘリコプター『AH-76 Cerberus(サーベラス)』だろう。AH-64(アパッチ)系列からの更新が進行中で、最近になって西側諸国への普及も始まった次世代主力機だ。

 まさか、自衛隊やDAから流出したとは考えたくないけれど───というか、そもそもどこの誰が乗っていて、どんな目的でここに?

 

 ローター・ブレードが風を切る音に混じって、千束とニコルの懐からメロディが──状況が状況なので聞き取りにくい──鳴った。

 私はとりあえず、二人の首に回していた腕を離す。全員で立ち上がり、二人がスマホの画面をタップするのを見守る。

 

女王(クイーン)。何を遊んでいる?>

 

「……ロボ太」

 

 ロボ太? 誰だ……あ、えっと確か……。

 そう、クルミが度々口にするハッカーの名前(ハンドル)だ。ということは、こいつが『DEMONS』のハッカーなのか。

 

「う……いや、これは……その」

 

<……、まぁいい。状況が変わった。撤退するぞ>

 

「え?」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 時間は少し遡り───。

 

 

 

<ウォールナット。私だ、楠木だ>

 

 おん? 何だよ、このクソ忙しい時に。

 これだけのタスクを手作業で捌くのは久しぶりでな。集中してるし、激励の言葉以外は聞きたくないぞ。

 

「何か?」

 

<リコリコの連中が行方不明だ。負傷した千束を乗せた救急車両が戻ってきていない。たきなとニコルが同行しているはずだが、そちらとも連絡がつかん>

 

「ぶっ」

 

 えぇ!? 嘘だろあいつら、よりにもよって今?

 どんだけトラブル体質なんだよ……!

 

<我々の方でも、『DEMONS』の手の者と思しき暗殺者を複数確認している。交戦の報告もあった。どうやらファースト(指揮権持ち)を狙った首狩り作戦らしい>

 

「あぁ、そういう……」

 

「クルミ〜? 黄色と緑のシールがついた板って、これでいいの?」

 

「ん〜? オッケー、それだ。じゃあこっちのラックに挿して電源入れといてくれ。あ、ケーブルはこれ使って。上から2番目の穴と向こうの……いや。そっちに挿すのはぼくがやっとく」

 

 うぅむ忙しい。知恵熱で卵が焼けそうだ。

 どう考えても脳に糖分が足りていない。全部終わったら(リコリコ)の冷蔵庫を空にする勢いで甘味を請求してやる。

 

「……で? そっちにも情報部はあるだろ。『ラジアータ』のリソースだって、指揮司令機能の方までは使ってないはずだが。千束たちのスマホの位置情報くらいは確認したんだろうな?」

 

<していなければお前に伺いを立てたりはしない。奴らの端末に敵のハッカー(ロボ太)が侵入した形跡があった。GPSは無効化されている>

 

「へぇ───」

 

 わざわざ『ファースト狩り』なんて作戦を敢行する辺り、敵はリコリス部隊の組織構造についていくらかの知識があると見えた。

 結局さっきは組織内部に裏切り者が居たかどうかはハッキリしなかったが、あるいはDAの"さらに上"で何かしらの密談があったのかもな。『DEMONS』の()()()である『掃除屋(クリーナー)』は証拠隠滅の専門家だ。国政を司る権力者の中にだって、奴らの世話になったことのある人間が居ないとも限らない。

 で、そんな全世界で未曾有の大規模テロを引き起こした犯罪結社からしても、『旧電波塔の英雄(錦木千束)』と『赤帽鬼(星谷ニコル)』の二人は怖いらしい。通信を遮断してあいつらを孤立させたのは、つまりそういうことだ。

 

「わかった。こっちの作業の片手間になるが、どうにか探してみよう」

 

 『ウォールナット』は取り返す。友達を探して助け出す。

 両方やらなきゃいけないのが一流のハッカーの……いや、これ要はどっちも『ロボ太の野郎をブッ飛ばす』ってことだな?

 上等だ、付き合ってやるよロボ太。覚悟はいいか? ぼくは出来てる───!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「フキっ!! 大丈夫!?」

 

「───、あぁ。問題無い」

 

「こいつら……何者だ? どう見てもカタギの人間じゃないよね」

 

「さぁな……。だが……」

 

「……やっぱり、パートナー(サクラ)が心配? なら、無理して現場に居る必要は」

 

「そんなんじゃない。余計な気ぃ遣ってんじゃねぇ」

 

「フキ……」

 

「───謹慎だの何だのっつっても……クソ、リコリスとしちゃ言語道断だ。だが……千束もたきなも、きっとまだどっかで戦ってる。私らが休んでるわけにはいかねぇだろ。次に行くぞ。エリカ、ヒバナ」

 

「……はい!」

 

「おう!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「あっはっはっはっは!!」

 

 時刻も午前3時を回った頃、ついにクルミが壊れた。

 件の『ロボ太』とやらの根城は、アングラなPCオタクの部屋にしてはよく整理されていたが、それも我らが妖怪インターネット穀潰しによる大改造でなかなかカオスなことになっていた。

 床と壁と天井から吊り下げたハンガーを埋め尽くすタコ足配線などは序の口で、予備のサーバー・ユニットやら、冷却用の送風機やらが無秩序に氾濫している。

 サーバーは時々、どういうわけか火花を散らして焼け焦げたりするので消火が大変だった。これはゴッホの車に備え付けられていた消火器が役に立った。

 

「ちょ……だ、大丈夫?」

 

 自慢のつるピカおでこに冷えピタを貼り、4本目のエナジードリンクを開け、目の下にドス黒い隈を作ったクルミは、どこからどう見ても大丈夫ではなかった。

 作業の手伝いや爆発したサーバーの消火、補給物資の買い出しでアタシもそれなりに疲れているのだけれど、まぁコイツの苦労に比べればという話ではある。

 

「いいぞロボ太ァ……ぼくはお前の仕掛けたウイルスに滅茶苦茶にされるのが好きだ。必死に守るはずだったサーバーが蹂躙され、データが盗まれ壊されていくさまはとてもとても悲しいものだ。DDoS攻撃の物量に押し潰されてファイアウォールを食い破られるのが好きだ。攻性AIに追い回され、害虫のように地べたを這い回るのは屈辱の極みだ」

 

「なんて?」

 

「ククク……お前の戦略は素晴らしかった! I.C.E.(アイス)ブレイカーも量子暗号も! だが……しかし、まるで全然ッ───このぼくを倒すには、程遠いんだよねぇ!」

 

 傍らに置いてあった愛用のVRゴーグルを引っ掴み、額の冷えピタにも構わず装着する天才ハッカー。

 3枚あるキーボードを、腕が5、6本に増えたかのように見えるほどの速度で叩き、仕上げだと言わんばかりに絶叫する。

 

「世界最強のハッカー? 2万年早いわ!!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

<計画は失敗だ。『DEMONS』が掌握し、現時点までに発射された26発の核はすべて、大陸遠洋や人間の住んでいない土地に誘導され落ちた。各地の暴動はまだ続いているが、催眠音波の拡散が止まった以上、そう遠くない内に鎮圧されるだろう>

 

 ……、───そうか、よかった。

 核、という聞き捨てならない単語はあったが……どうやらクルミが上手くやってくれたらしい。さすがは『ウォールナット』だ。

 

<『僕』も少々厄介なウイルスを打ち込まれてしまって、『ウォールナット』とのリンクを切られた。とても取り返せないほどじゃあないけど、リカバリーにはそれなりの時間が要る>

 

「……。……そう」

 

 ニコルが、ぽつりと呟く。

 世界の破局は回避された。今度こそ、すべてが終わったのだ。

 

<じきにここもDAに踏み込まれる。リコリスとリリベルの精鋭同士が手を組んだ特殊部隊だ。お前と錦木千束の両名を撃破した可能性のある敵戦力を警戒して、だとさ。……だが>

 

 ヘリの中からこちらを見ているのだろうか。

 少しだけ間を置いて、ロボ太の声が続く。

 

<……。戻りたいなら、好きにしろ。蘭堂は既にプライベート・ジェットの中だ。海山會も『DEMONS』も、組織すべてが消滅することはないにせよ、当分は表立って動けない。通信記録は改竄済みだから、いくらでも言い訳は立つだろう?>

 

 どちらともなくヘリから視線を外し、千束と目を合わせた。頷く。

 とはいえ、結局はニコルの気持ち次第ではある。

 

 やがて、赤銀の髪の少女が口を開いた。

 

「ひとつ聞いてもいいかな。御門は……わたしの仲間のリコリスは、どうしてる?」

 

<ん? ───あぁ、生きてはいそうだが。なるほどな……元とはいえ、()()()()()()()

 

 ……っ!?

 御門が……身内(リコリス)を? そんな……。

 

「そっか。……、……わかった」

 

 ニコルは、3秒だけ目を閉じてからそう言った。

 足元に落ちていた斧付きの大型拳銃を拾い上げ、腰の後ろのホルスターへ差し込む。

 

「───ごめん、二人とも。わたし、リコリコには戻れない」

 

 …………、……。

 

「放っておけないんだ、御門のこと。あの子も……わたしの、大事な友達だから」

 

 ……予想できていたことでは、あった。

 ニコル自身、最初からそのつもりだったんだろうし、ほんの一時とはいえ『DEMONS』に与した───あるいは、制御不能の『必滅の邪剣(ダインスレイヴ)』の刃を折る機会と見て、DAはきっと彼女の存在を許さない。私たちが口裏を合わせたところで限界がある。

 

「二人は悪くない。DAに何か聞かれても、絶対に譲っちゃダメだよ? わたしたちのことは……どう言ってくれても構わないからさ」

 

「これからどうするの?」

 

 漆黒の攻撃ヘリに向かって歩き出そうとしていたニコルに、千束が声をかける。

 時間はあまり無い。DAの強襲部隊が迫っている。

 

「わかんない。でも」

 

 ニコルの背から伸びる機構の鞭が再起動した。4匹の黒銀の蛇が鎌首をもたげる。

 それらが私たちに向けて振るわれることは無く、己が主の道行きを静かに見守っている。

 

「考えてみる。探してくるよ。わたしが生まれてきた意味を」

 

 搭乗口が開く。AH-76(サーベラス)は中空で浮揚(ホバリング)していたが、黒銀の蛇が身震いするかのようにのたうつと、ビル屋上を蹴ってニコルの身体を宙に射出した。

 ───別れの時は、皆に来る。私たちにとっては、今がそれだ。

 

「……、ニコル!!」

 

 言いたいことも、聞きたいことも、まだまだたくさんあったけれど。

 

「私たち、また会えますよね───いえ」

 

 そうではない。そのような弱腰ではいけない。

 今日を生きて、戦い続ける私たちには、きっと未来(あした)を選ぶことが出来るのだから。

 

「───また会いに行きます!! 約束ですよ!!」

 

 赤銀の髪の少女は、ほとんど泣きそうな様子で()()()()と笑った。

 どんな時も笑みを絶やさなかったニコルの、本当の笑顔を初めて見たような気がした。

 






























次回、最終回(の予定)です。
たぶん。きっと。メイビー。
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