萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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お待たせしました。今度こそ最終回です。
ただし……前後編だがなぁ!!
どうぞ最後までお付き合いください。

あと、今回はついにダークライが出ます。



Grand Guignol is never over(First part)

 

「失礼します。虎杖司令、楠木司令。錦木千束をお連れしました」

 

 赤い制服を着たオールバックのイケメンに連れられ、DA関東本部の執務室に来ている。

 室内の空気は最悪だ───主に私にとって。

 

「ほう……。確かに本物だな。今の時代、電話で声を聞いた程度では本人かどうかなどわからんが、そのニヤケ面を見て安心したよ」

 

 私の顔を一瞥し、()()楠木さんが、ニヤリと笑った。背筋に冷たい電流が走る。

 クルミに『こういう時はふてぶてしく、かつ従順にしとけ。ぼくはそうした』と言っていたので、一応ニコニコ友好的な感じは出していたのだが……完全に失敗だった。

 さしもの楠木さんとて、人の痛みを知らぬ冷血動物というわけじゃあない。私の生存を喜んでくれてはいるのだろう、けれど……何か、それ以上にヤバい雰囲気がある。

 

「これが錦木千束か。直接見るのは初めてだが……ふむ」

 

 うん? 知らないおじさんだ。そのジョーカーみたいな紫のスーツいいね、すっごくキマってるよ。口には絶対出さないけど。

 てか……えっと、さっき横のイケメンに虎杖司令とか言われてたな。ということはこの人、もしかしてリリベル部隊の司令官……!?

 嘘だろオイ……私、また何かやっちゃいました?

 

「さて。今日、ここに呼び出された理由はわかっているな?」

 

 ───どうしてこうなった。

 よし。順を追って考えよう。

 

『DEMONS事変』の後、私は何やかんやでDAを出奔。

 沖縄県は宮古島に潜伏し、悠々自適な人生のアディショナル・タイムを楽しんでいたわけだが……そこに突如として私の相棒・井ノ上たきなが現れた。

 たきなの勧めで喫茶リコリコに復帰することを決めた私。手始めに、クルミの協力を得て常夏のリゾート・ハワイ島へと渡航、出張版リコリコをオープンしたのだ!

 国が変わっても、リコリコの経営方針は変わらず。街の喫茶店としてお客さんに美味しいものを届ける傍ら、現地の人々の依頼を受け、邪悪な犯罪者(ヴィラン)たちをやっつけて回っていたところ……。

 

 1ヶ月くらい経ったある日、リコリスの3個大隊とリリベルの2個中隊に襲撃され、為す術無く日本に強制送還された。

 全部台無しだ。

 

 ……いやー、正直? 私やたきなだけなら? どうにでもなったと思うんだけどね。

 リコリコ組の内情を全部知ってるフキが敵に居たのが大きかったね。初手でミズキとクルミを押さえられちゃどうにもなりませんよ、あんなの。

 あと、たきなの知り合いかつニコルの弟子だっていうセカンド……エリカちゃんだっけ? あの子もヤバいわ。サクラと並んで次のファースト昇進候補って噂も納得の強さだった。

 しかし、非戦闘員を人質に取るなんて、治安維持組織の風上にも置けないな! まったく───。

 

 ということで、

 

「さっぱり心当たりが無いです」

 

 楠木さんの貴重な笑顔が消滅した。

 ついでに隣のイケメンが息を呑む音が聞こえた。横目に窺うと怒りや不満を通り越して『マジかコイツ』みたいな顔をしている。

 

「国防機密組織のエージェントがろくな釈明も無いまま自発的に失踪、その後ハッカーと組んでパスポートを偽造し国外逃亡、さらには渡航先での勝手な“自警団”活動。DAの水準を適用せずとも、リコリコ組(おまえたち)全員を100回は死刑に出来る重大な不法行為のオンパレードだ」

 

 全部心当たりがあった。完全に詰みである。

 どうでもいいけど前半部分が見事に韻踏んでてちょっと面白かった。

 

「……、はぁい。反省してまーす……」

 

「楠木君。彼女は本当に、己のしでかした所業についての自覚があるのかね? 特殊部隊教練を受けた兵士が国家の制御を逸脱し、非合法のハッカーと結託して同盟国の土地に潜り込み───あまつさえ、犯罪者相手とはいえ、その戦闘技能を振るっていたという自覚が」

 

「面目次第も御座いません……」

 

 く……楠木さんを謝らせてしまった……。

 さすがの私もここまで言われてヘラヘラ笑ってられるほどバカじゃないし、モラルに欠けているわけでもない。

 

「……ハァ。そういうわけで、はっきり言ってお前たちの立場は今、最高裁判決を受けた死刑囚と大差ない。ハワイであのまま粛清されなかったのは過去の功績と、DA内部のお前の()()()たちによる助命の嘆願があったからだ。かつて働いた分の負債を返済されただけとも言えるが、その点については重々承知し、皆に感謝しておきなさい」

 

 なんと。それは予想してなかった。

 楠木さんに言われるまでもないけれど、心の中で目一杯の感謝の気持ちを用意しておく。

 

「その上で……やはり、何の(みそぎ)も無くお前たちを遊ばせておくわけにはいかない。これからも仕事を続けたいならば、組織に忠誠を示せ」

 

 うひ〜、ジョン・ウィックで見た流れだ。

 ウィックなら地下犯罪組織の王と組んで暗殺者連合に立ち向かうんだけど、私らの場合は……選択肢、無いよねぇ。

 

「ま、しょーがないですね。で? 今度はどんな厄介事押しつけるつもりです? 言っとくけど殺しは嫌ですよ」

 

 とはいえ、そこだけは譲れない。敵も味方も“いのちだいじに”。殺しダメ、ゼッタイ。

 我らがリコリスの女王様からは、『お前ら以上の厄介事が他にあるか』みたいな視線を頂戴しつつ……。

 

「第4会議室に向かえ。他の面子もじきに合流する」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 東京遠洋、小笠原諸島・沖ノ鳥島。

 日本最南端の島から広がる排他的経済水域(Exclusive Economic Zone)の、さらに南端に程近い海域に、その()()()はあった。

 総面積106000㎡、総重量50000tに達する超大型浮体式海洋構造体(メガフロート)───資源採掘プラント『表筒男(ウワツツノオ)』である。

 

 3日前、日本の工業と輸出産業を支えるこのプラントを、正体不明の──少なくとも、私たちに配布された作戦資料は黒塗りだらけだった──武装集団が強襲。

 周辺に配備されている海上自衛隊の保安部隊による抵抗をものともせず、瞬く間に内部を制圧、占拠してしまったのだという。

 そして、プラントに住み込みで働く現場の作業員や、設備の保守点検を行う技術者300名以上が人質となっており───私たちのミッションは、その武装集団を倒し人質を救出することだ。

 

()()()()()()の特殊作戦群、ねぇ。大航海時代じゃないんだから」

 

 プラントは領海の端っこも端っこに位置しているため、有事に備えて対空砲や機雷投射器が設置されていて、残念ながら今回はそれが丸ごと敵に奪われてしまっている。

 そこで私たちは最新のめっちゃ速くてステルスな、えーと、スーパーキャビンアテンダント? 潜水艦とやらに乗って、敵の対空・対潜警戒網を強引に突破した……。

 かと思えば、如何にも頼りない小さな揚陸艇で茫漠なる大海原に放り出され、どうにかこうにか上陸ポイントに到達して、ようやくスタートラインだ。

 

「だいたい、敵が何十人居るかもわからない場所に、たった2人で潜入なんてさせるかね〜?」

 

「えぇ……超空洞高速推進(スーパー・キャビテーション)潜水艦の収容人数に限界があるのは、事実のようでしたが……」

 

 私に続いて(おか)、もといメガフロートに上がった相棒───井ノ上たきなが呟く。

 

「まぁ、今回ばかりは私も司令部の判断を支持します。クルミを巻き込んでの海外脱出はどう考えても()()()()でした。せっかく寿命が伸びたんですから、ハワイ行きはリコリスの任期満了を待ってからでも遅くなかったはずですよ」

 

「くそっ、ぐうの音も出ねぇ」

 

 人工心臓の稼働限界のこともあり、これまで『やりたいこと最優先』で生きてきた私だが、今後はちょっとくらい我慢も覚えた方がよさそうだ。さもないと、ハワイ行きの旅券の代金が事実上の死刑宣告になったりするのだから。

 

「んで。実際どうすんだっけ」

 

「2人で敵をすべて制圧するのは現実的ではないので、首謀者を拘束して交渉に持ち込みましょう。万が一失敗しても強行偵察にはなります。今は少しでも成果を提示して、DAの信用を勝ち取る他ありません」

 

「おっほ〜。その言い方……たきながリコリコに来たばっかの頃思い出すねぇ」

 

「まさか。その頃の私ならこんな任務、指令が下った時点で諦めています。どう考えても達成不可能ですから」

 

 ご尤もだ。ぶっちゃけ私も、普通なら絶対無理だって言うと思う。

 けれど─────。

 

「クルミのドローンは?」

 

「既に展開済みです。……クルミ? 聞こえていますか?」

 

〈───おー、よしよし。感度良好。準備オーケーだ。ナビゲーションは任せろ、存分に暴れてやれ〉

 

〈千束、たきな。ブリーフィングで聞いた通りだが、制限時間は日没までだ。それ以上はお前たちを回収できなくなる。くれぐれも注意するように〉

 

〈そうだぞー、もしダメだったらこっちは遠慮なく撤退するからね! ちゃんと帰ってきなさいよ、悪ガキどもっ〉

 

 ここに居るみんなと一緒なら、たとえ神様だってブン殴ってやれそうだ。

 どんな注文(オーダー)も、喫茶リコリコにお任せあれ!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───そもそも、前提からして。

 

 海上自衛隊の保安部隊による警備をすり抜けて上陸し、瞬く間に制圧して見せた武装集団。

 この時点で、場末の海賊が手近な獲物に噛みついた、というような次元の話でないことは明らかである。

 

 実際に、占拠から3日が経過した今も、その武装集団は犯行声明や政治的要求を行わないまま、不気味な沈黙を保っている。

 風の噂によれば、希少金属(レアアース)鉱床を狙った他国の侵略行為である可能性すら浮上しているらしい。

 

 そもそも、前提からして。

 

 武装集団は占拠したプラントを要塞化し、あらゆる外敵を迎え撃つための対空・対潜警戒網が構築されている。

 だが───本来()()()()()()()()()()()でしかないメガフロートに、多少の軍備を持つ勢力が居着いたというだけで、そのような芸当が可能なものだろうか?

 

 プラントの名称『表筒男(ウワツツノオ)』は、日本神話に登場する海神から採られている。

 日本創生の男神・伊邪那岐(イザナギ)は、同じく創生の女神にして妻である伊邪那美(イザナミ)が死した時、彼女を追って黄泉の国(冥界)へと下った。

 されど、一度死したる者の魂が現世に戻るはずも無く、冥府魔道の恐ろしさを知った伊邪那岐は地上へと逃げ帰る他なかった。

 伊邪那岐が黄泉の国の穢れを浄めようと、禊を行った際に生まれ出たのが、『住吉三神』という3柱の海神である。

 

 まず、瀬の水面に表筒男が。

 そして、瀬の流れの中程で中筒之男(ナカツツノオ)が。

 さらに、瀬の深い場所で底筒之男(ソコツツノオ)が───。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

『表筒男』には作業員の長期滞在を前提として、循環型の補給物資生成システムが組み込まれている。

 バカ広いプラントの内部は、ほとんどがこの物資生成区画と資源採掘区画が占めており、移動には専用のモノレール(というかトロッコ?)を使わなければならない。

 

 まるで()()()のように階層化された、複雑な屋内施設。こういった環境での戦いはリコリス(私たち)の十八番だ。

 クルミのハッキングで閉鎖された区画をこじ開けつつ、適宜、警戒網を麻痺させながら進む。

 

「───ヘイヘイヘイヘーイ!!」

 

「!?」

 

「ちょっと千束、大声は慎んでください! 他の敵に嗅ぎつけられますッ!」

 

 敵武装集団の警備巡回に乗じ、モノレールを奪取してさらに奥へ。相手は(一応)一国の特殊部隊(らしい)とあってなかなか手強かったが、私とたきなのバディを下せるほどじゃない。

 楠木さんからのせめてもの情けか、弾薬(『先生の弾』)はいっぱい支給されているので、調子に乗ってジリ貧に陥る心配も無し。

 

〈……む? 待て千束、たきな〉

 

 インカムに通信。通路の陰に身を潜めてから応答する。

 

「どうしたの、クルミ?」

 

司令殿(楠木)から追加の指令(オーダー)だ。秘匿回線……。……若干キナ臭い内容だが、伝えるぞ〉

 

 おや。何の用事だろう? それもクルミが『キナ臭い』って。

 ただでさえインポッシブルなミッションを遂行中だというに……聞くけどさ。

 

〈作戦の第1目標を変更───敵に見つかるよりも先に、プラント最奥に保管されている『重要機密物資』を回収し脱出せよ、だとさ。普通ならお前たちのような現場の人間には存在すら明かされない代物だが、たったいま上層部から情報開示の認可が下りたらしい〉

 

「怪しっ! 何それ」

 

「……いよいよ司令も手段を選ばなくなりましたね。重大な秘密をあえて共有することで、いざという時に私たちを処分できる大義名分を作っておこうという魂胆ですか」

 

「勘弁してよもう……」

 

 ……人質を見捨てて自分たちだけ脱出するなんて論外だけど、それはそれとして腹を括る必要がありそうだ。

 

 更新されたナビ情報に従って素早く移動。

 普段は現場で働く人たちが住まい、今は彼らを個室に閉じ込めているという居住区画を抜けた。

 敵の警戒が厳しい。正面からは突破できない。……でも、必ず助ける。

 

 胸の中で渦巻く焦りと怒りを抑え、ついにプラント最深部・中枢区画へ。

 中枢区画と言うだけあって、ここには広大な資源採掘プラントすべての使用電力を賄う熱核反応炉と、各施設の稼働状況をモニターする中枢制御室(オペレーティング・ルーム)がある。

 

 さっそく制御室にカチコミをかけ、敵のリーダーを捕まえて人質を解放させる……と言いたいところだけど、楠木さんからの追加ミッションが先だ。

 こちらの目的地は地下階──実際には『海面下』階──なので、上の階層に位置する制御室とは真逆の方向になる。

 

 幸い、地下には発電施設しか無いと思われているのか、はたまた何かしらの理由で探索が進んでないのか、配置されていた敵は大したことがなかった。

 弾薬は十二分に支給されているとはいえ、こっちはたった2人。節約するに越したことは無い───ので、暗がりから飛び出て極め技(サブミッション)を仕掛ける。とりゃー!

 

「グオッ!?」

 

「さぁん! にぃ……! いちッ!」

 

「グ……ググ……! オオォ……!」

 

「全然倒せてないじゃないですか」

 

 パシュッ。ビリビリ。

 たきなの電磁鋼線銃(テーザーガン)が直撃し、私が絞め落とそうとしていたおじさんはあっさりダウンした。南無。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

〈ハイパー・ブースター、接続完了。ジェネレーター出力安定。チャンバー内、正常加圧中〉

 

「しっかし、お前らも命知らずだよなァ。ハッカーの計算と、あと何かバリアみてーのがあるとはいえ、射出から5秒で超音速だろ? こんなもんに人間乗せて飛ばそうなんざ、やっぱロクでもねぇよアランの奴ら」

 

「まぁまぁ。そのロクでもない人たちの発明のおかげで、こうしてお金稼げてるんだから。別にいいじゃん? ほら御門、行くよっ」

 

「はーいタイチョー!! それでは行ってきますね、シャチョー!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 一時的に発行されたDA上層部の権限(クリアランス)で、頑丈そうな隔壁を開けていく。

 先生たちの通信は届かない。決して技術的トラブルではなく、プラント最深部は物理的にも電子的にもあらゆる外部ネットワークから遮断されており、完全に独立したシステムが制御しているから……だそうで。

 ……何だか本気で怖くなってきたな。『重要機密物資』って、いったい何なんだろう……。宇宙人の死体とか?

 

 これまでのものに比べると小さいけど、どことなく一番雰囲気のある隔壁の前に着いた。

 どうやらここが本当の本当に最深部のようだ。

 

「ごくり……」

 

「行きましょう」

 

 うーんこのクソ度胸。井ノ上たきな、我が相棒ながら実に頼もしい女傑である。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ───扉を開けるとなんか暗い部屋であった。

 

 まぁ、照明がぽつぽつとしか設置されてなかったせいで、ここまでの通路も全部薄暗かったんだけど。

 中は……用途不明のゴチャッとした機械と、コンピューターの山。雰囲気は延空木の制御室と似たような感じ。

 ただし、部屋の奥の方にあるのは、テレビ放送用のモニターではなく……これまた用途不明の、内側が透けて見える巨大な筒らしきもの(シリンダー)だった。

 

「何じゃこりゃ。中に誰も居ませんよ?」

 

「水滴……。さっきまで海水が入っていたのでしょうか。しかし、それならどうして今は───」

 

 たきなとあーでもない、こーでもないと意見を出し合う。

 というか、『重要機密物資』とやらはどこにあるんだ? クルミ曰く『楠木は“見ればわかる”と言ってた』らしいけど……。

 

 ひたっ。

 

「!」

 

「!?」

 

 ─────何だ。

 

 足音? もしや、敵に尾行されていた?

 くそ、まったく気づかなかった。私もたきなも隠密行動に強いわけじゃないけど、それを差し引いても痛い失敗だ。

 どこだ……、どこに居る。来るなら来い。私とたきなのバディなら、どんな敵が相手でも───。

 

「千束、後ろです!」

 

「っ……!」

 

 すかさず振り向く。確かめてはいないが、たきなも既にいつでも引き金を引ける体勢に入っている。

 ふたつの銃口が、私たちの前に立つ黒い影に狙いを定め、

 

 

 

「……───、……?」

 

 

 

 ───そこに、知らない幼女が立っていた。

 

「……へ?」

 

「……はい?」

 

 何というか……私はどうしてこう、ロリと縁があるものか。

 

「? ……?」

 

 背丈はクルミと同じか、さらに小さいくらい。

 膝下まで伸びる長い髪は雪のように真っ白だが、見た感じ結構ふわふわしており、不健康そうという印象は無い。

 瞳は透き通った蒼玉(サファイア)色。黒い入院着っぽい服を身につけていて、首には真紅のチョーカーが巻かれている。

 

「……。おねえさんたち、だぁれ?」

 

 あらかわいい。こんなにかわいい子が私らの敵なわけがない。銃を下ろす。

 お前は誰だ、という質問は、正直こっちの台詞だけれど……。

 

「あー……千束……。錦木千束、です。はじめまして?」

 

「は、……はじめまして。井ノ上たきなです」

 

「ちさと……たきな…」

 

「あなたは?」

 

「もえ? もえ……わたしは、くすのきもえ(楠木萌衣)です」

 

「「ぶっっっ」」

 

 吹いた。たきなも一緒に吹いた。

 ま、マジかよ。楠木さんの娘ぇ!? そりゃ確かに重要機密だわ……!!

 

「く……楠木ちゃ……いや、萌衣ちゃんはどうしてここに?」

 

「? ここは、もえのおうちです。ずっとまえから、ずっとここにいます」

 

 あぁ、そういう……。さっき私たちの背後に現れたんじゃなくて、最初からこの部屋に居たわけか。道理で。

 

「ん……すみません、萌衣さん。その首に巻いているチョーカー、よく見せてもらえませんか?」

 

 といったところで、たきなが何か勘づいた。

 勘づいたも何も、この『楠木萌衣』ちゃんが件の『重要機密物資』とやら──しかし実の娘を“物資”呼ばわりとは穏やかじゃない──で間違いないと思うけれど、念のため。

 

「千束。これを」

 

「なになに……」

 

 ───『DA-R/κ1241』。

 真っ赤なチョーカーには、いくつかの得体の知れないマークと共に、無機質な黒い文字列が刻まれている。

 私たちは何となく、それが彼女の()()()()()なのだろうと直感した。

 

「……ねぇたきな、私これ絶対ヤバい案件だと思うんだけど」

 

「奇遇ですね。私も出来ればこれ以上関わりたくないと思い始めたところです」

 

「あの。ちさとさんたちは……はかせや、おかあさんの、おともだちですか?」

 

 あ!? なに、いま『博士』って言った!? それに『お母さん』って……。

 ちくしょー、もういい! こんな依頼さっさと終わらせてやるっ。楠木さんに根掘り葉掘り問い質さなきゃ気が済まねぇ……!

 

「あっ。あー、うん……そうだね。楠木さん……お母さん(推定)のお友達、かなっ? お母さん(恐らく)に頼まれてね、萌衣ちゃんを迎えに来たんだ」

 

「えぇ、はい。いいですか萌衣さん、落ち着いて聞いてください……。実は今、このプラントが……萌衣さんのお家が、悪い人たちに襲われているんです。私たちは、あなたをここから助け出して、またお母さんに会わせてあげたいと思っています」

 

「……!」

 

 たきなが『お母さん(楠木さん)に会わせる』と言った途端、あからさまに萌衣ちゃんの目が輝いた。

 まぁ……二人がどんな関係かは知らないけど、楠木さん忙しいもんな。あんまり構ってあげられてないんだろう。

 ミッションの難易度はインポッシブルを通り越してナイトメアに跳ね上がったものの、これは是が非でもやり遂げねば。

 

「よし。じゃあ行こう! たきな、萌衣ちゃんは……」

 

「そうですね……。彼女を守りながら戦うのは無理がありそうです。一度、居住区画に戻って安全地帯(セーフルーム)を確保しましょう。このあと人質を救出してからも使えますし」

 

「たたかう……?」

 

 ん?

 ……何だろう。楠木さんに会える喜びが勝ってるだけかも知れないけど、それにしても落ち着き過ぎてるような。

 相当ヤバそうな生い立ちを差し引いても、普通はこの歳の女の子がこんな大事件に巻き込まれたら、もっと不安がっててもよさそうなもの……。

 

「おねえさんたち、もしかして『りこりす(リコリス)』ですか?」

 

「うぇっ? なんでそれを?」

 

「……、司令から聞いていたんでしょうか。ある意味、話が早いとも言えますけど」

 

「あ、やっぱり、そうなんですね。だったら───」

 

 すると、萌衣ちゃんはとてとてと歩き出し、部屋の中を物色し始めた。

 自分の部屋というだけあって、どこに何がしまってあるかは把握しているらしい。すぐに目的のモノを手に取って戻ってくる。

 

「もえも、いっしょにいきます! おかあさんには、いつも、りこりすになれっていわれてるので!」

 

 そのか細い腕の中には、小型の自動拳銃───グロック42が収まっていた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 

 萌衣ちゃんは、だいたい7歳くらいに見える。

 

 リコリスの任期は成人を迎える18歳、あるいは最長で22歳までとされている。能力と“運用年数”をバランス良く最大化するため、訓練課程の修了時期は8歳から12歳くらいの間で個人差あり。

 逆に言えば、その年齢に達するまで養成所を卒業することは──私こと『旧電波塔の英雄(錦木千束)』の如く優秀でない限り──ほぼ無いと言っていい。命と国家機密をやり取りするエージェントの育成が、適当に済まされることは有り得ない。

 

 その点……。

 

「……なーんか」

 

 通路の角から、武装した屈強な男2人組が現れた、次の瞬間。

 

「───ふっ……!」

 

「ッ!?」

 

「グァ!」

 

 銃声が3度響き、男たちの手足から血が噴き出て、床に崩れ落ちるより速く萌衣ちゃんのハイキックが下顎を撃ち抜いた。

 目にも止まらぬ早業……というか、ほとんど瞬間移動したようにしか見えなかった。こっからあそこまで、5mくらい離れてたぞ? 恐ろしく速い足刀、私じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 

「あの子、私より強くねー?」

 

 もちろん7()()()()()()と比較して、だが。

 そりゃあそうでしょう。現役最強をナメないでもらいたい。ガチでやれば(たぶん)10個も年下の幼女にゃ負けんぞ。やらんけど。リコリスの先輩たるもの、余裕と気品を失ったらおしまいですよ。悪いけど私、もうそんな強さ議論とかで張り合う次元じゃないんでー。

 

「只者でないとは思っていましたが、想像以上ですね……。司令が入れ込むのも納得です」

 

「ちさとさん! たきなさん! どうでしたかっ?」

 

「おー、よくやった萌衣隊員。いやマジで……すごいな君」

 

「えへへ……♪」

 

 あらかわいい。素直で良い子、良い子。

 萌衣隊員の純白のお御髪(みぐし)をぽんぽんと撫でつつ……、う〜ん。

 それにしても、

 

「なんっか引っかかるなぁ……」

 

 左右に身体を振って相手の視線を撹乱しながら、一瞬にして懐へ滑り込む足運び。

 たきなに優るとも劣らない、まるで未来が見えているかのような射撃の腕。

 

「どうしました?」

 

「いや。この子の戦い方、どっかで見たことあるような気がして」

 

「?」

 

「なるほど。しかし、彼女が司令の肝煎りということであれば……存外、千束あたりの戦闘記録を見て訓練したのかも知れませんよ」

 

「えぇ〜? 面白いこと言うな貴様」

 

 ほほう。言われてみればそんな気がしてきた。教官って柄でもないけど、私の記録が後輩の役に立っていると知れれば感慨深い。

 そうだなぁ。リコリスって、現役卒業したらどうなるんだっけ? そのままDAの裏方に就職か? あぁ、海外の諜報組織に出向させられる、みたいな噂も聞いたことがある。

 現役最強のリコリス、卒業後は史上最強の訓練教官───アリだね。私の教えで後輩の子たちの意識が変われば、いずれは組織の“潔癖症”体質も変えられるかも知れない。うん、それこそ先生にも協力してもらったりしてさ。

 

「……千束?」

 

「ん。ごめん、ちょっと考え事してた。さっ! 萌衣ちゃんも“いのちだいじに”、一緒に頑張ろー!」

 

「はい!」

 

 大事な『重要機密物資』を危険に晒していいのか、そもそもリコリス候補とはいえこんな小さな女の子を巻き込んでいいのかとも思うけど、今は猫の手も借りたい状況だ。

 本人もめっちゃやる気だし、考えようによっては、下手に独りにするよりか安心だと言えなくもない。

 

「クルミ!」

 

〈あいよ。制御室まではもうすぐだ、最初に渡したUSBはちゃんと持ってるな? 延空木の時と同じ要領で、……何だ?〉

 

 インカム越しに聞こえるクルミの声に、ジジジッというノイズが混じった。

 

〈……! ……、んな時に……一体どこから……〉

 

〈わから……。だが、この感じ……さか、ロボ太……〉

 

「ミズキ? クルミ……先生、どうしたの?」

 

 機材トラブルかな。しかし、それにしてはスマホのアンテナはちゃんと立っている。電波中継ドローンの反応も健在(グリーン)だ。

 やがて─────。

 

〈……お前たち!! 正体不明の()()()が高速で接近中だ! 間もなくプラントに到達する───衝撃に備えろ!!〉

 

 先生の警告が聞こえた直後、『表筒男』を凄まじい衝撃が襲った。

 

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