萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
最終回後編です。前編からお読みください。
クライマックスでは何か良い感じのBGMをかけることを推奨します。
筆者のオススメはTrySailの『High Free Spirits』、GOD EATER3の『Nemesis』あたりです。
───謎の巨大な衝撃により、プラント内は蜂の巣に火を点けたような大騒ぎとなった。
私たちの隠密作戦の甲斐も無く、今や方々から怒号と足音が聞こえてくる。
〈迷ってる暇は無いか……! 居住区画の隔壁をすべてロックする! 人質には指一本触れさせんが、ぼくが張りついてコントロールを上書きし続ける必要がある───制御室を奪還するまで、もうお前たちを支援することは出来ないぞっ〉
〈マップデータの更新と閉鎖されてるルートの開放はやっておくわ。大丈夫、アタシだって元・情報部なんだから!〉
「了解。千束!」
「うんっ。走るよ、萌衣ちゃん!」
「りょうかい……!」
駆ける───駆ける。
幾度となく角を曲がり、階段を登り、時に通路と通路の間の奈落を飛び越えて上層へ。
立ちはだかる敵に容赦はしない。背中はたきなが守ってくれるし、萌衣ちゃんだって──こんな幼い娘を頼りにして申し訳ないけど──立派な戦力だ。私はいつも通り、前に出て、相手の弾を避け、派手に撃ちまくればいい。
そうこうしている内、制御室までもう間もなくの地点まで来た時のことだった。
パンッ、と空気の破裂する音がした。銃声。
私たちが撃ったものじゃない。そもそも、いま目に見える通路内の範囲に敵は居ない。
「……ギャアアァアァ……!!」
「アヒュッ……、ゴアァ!?」
遠くから悲鳴が聞こえる。私たちじゃない、別の誰かが戦っている?
ちょいちょいちょいちょい……ただでさえヤベー武装集団とカチ合ってるのに、また別の連中が乱入してきたってのか。
どうも
「千束、このままだと挟み撃ちですが」
「おかあさんからおそわりました。こういうときは、にげみちのかくほがさきだって」
「じゃあ
……最悪の場合は、萌衣ちゃんだけでも連れて脱出しなければならない。
助けられるかも知れない300人を見捨てるわけにはいかないが、それに固執して
極めて残酷な計算をしてしまうなら、司令部だって、私とたきなのたった2人でこの海上要塞を制圧できるとは思ってないんじゃないだろうか。『表筒男』には物資生成システムがあるので兵糧攻めこそ通じないものの、奪還作戦はもっと人の数を揃えてから実行してもよかったはずなのだ。
海底の
「
「
あ~ん? 何語だ今の。
パッと聞いた感じはロシア語に近い……でも、そこまで巻き舌っぽくなくてどこか
まぁ、国際政治的なあれこれを考えるのは
「どいてどいて~っ!!」
相手はこっちと同じ
真っ先に突っ込んで視線を集める。たきなと萌衣ちゃんを撃たせはしない。敵の練度は決して低くなく、狙いも精確だけど、充分この『眼』で見切れるレベルだ。
たきなの援護射撃が左側の1人に命中し、萌衣ちゃんが右側の1人に向かって踏み込む足音が聞こえた瞬間、私もさらに加速する。
「オッ……!?」
「だりゃっしゃい!!」
いくつもの銃弾が耳元を通過し、髪の毛を散らす感覚があった。虚を突かれた様子の真ん中の1人へ、肩口から全身を使ったタックルを仕掛ける。
その人の身体の上を転がる形で受け身を取り、膝立ちになって脳天に1発。たきなの銃撃で足をやられ、床に手を突いていた人にも背後からズドン。
萌衣ちゃんの方は、
「
「───シッ」
「!? ア、グォ、ギャアッ!!」
ライフルの銃身を使った殴打を、身体を沈めて回避。と同時に敵の太腿に装着されていたホルダーからナイフを抜き取り、続けざまにアキレス腱へ一太刀浴びせ、かと思えば跳び上がって柄で鼻先をブッ叩き、防弾チョッキに守られていない腋の隙間に突き刺した。
鮮やか過ぎて止める暇も無かった。尤も……。
「
「あっうん」
そうらしい。精密極まるナイフ捌きもだが、戦術の実行にあまりに躊躇が無かった。怖い。
だいたい、私との連携に慣れているたきなはともかく、
「千束、油断しないでください! まだ来ますよ!」
「っと危ねぇ。ここが正念場だな……!」
「も、もえもがんばります!」
───プラント中枢制御室の真下に位置するこのフロアは、ある種のエントランスのような役割を果たしており、空間は広く柱や出入り口も多い。つまりは、最高に銃撃戦向けのシチュエーションということだ。
クルミの支援があれば、こちらは制御室への階段をこじ開けつつ、敵の進入路は閉鎖しておく……みたいな芸当も可能なのだけれど、生憎今はそういうわけにもいかない。現れる敵は片っ端からやっつけ、自力で最後の階段に辿り着く必要がある。
撃ち、走り、蹴り、隠れ、投げ、敵の武器まで拾って戦う。
まさしく総力戦、10年リコリスやってきた私でもちょっと経験したことの無い大乱闘だ。
「ちさとさん、たきなさん」
「何かな?」
「ひとり……へんなのが……。うごきのちがうひとが、います」
さらにはつい今しがた、視界の隅を黒い影が奔った。速い。影が通過した場所に立っていた人が、鮮血を噴き出して倒れるのが見えた。
「たきな、気をつけて。ヤバいのが来てる」
「えぇ。萌衣さんは私の後ろに」
「はい」
増援は止まる気配が無いけれど、私たちと『それ』が敵を撃破していくスピードの方が早い。
やがて、その場で動いている人間は4人だけになった。……『それ』は未だに足を止めていない。私たちを敵だと認識している。
柱から柱へ、物陰から物陰へ。単に素早いだけでなく、気配を隠すのが巧い。足音は嫌と言うほど聞こえているはずなのに、まるで姿を捉えられない。
それでも───
「……、! 千束!」
「ちさとさん!」
わかっている。『錦木千束の銃』を斜めに傾け、両手で胸の前に構える。
意を決して振り向いた先で、『それ』もまた既に自分の
さぁ、早撃ち勝負だ。先に照準を完了し、引き金を引いた方が勝つ。このまま撃つか、左右に避けるか? 遮蔽物の位置は。こっちには味方が居る、たきなと萌衣ちゃんの射線は。
極限の集中と共に、世界の動きが停滞する。私の眼前に現れた『それ』の、一挙手一投足までが視えて───。
緩やかにウェーブのかかった、ストロベリー・ブロンドの長髪。
純白を基調として漆黒の差し色と真紅の
使い込まれて無数の細かな傷がついた、しかしよく手入れされている
思わず手が止まる。肩から力が抜け、銃口が下がる。
私を見たその
「───ニコル!?」
「───千束!?」
そう。
未知の乱入者の正体は、元・DAの
◇ ◆ ◇ ◆
─────思いのほか早かった再会に、呆れてしまうなんてことも無く。
「わ!?」
私は気がつけば、ニコルの小さな身体を力いっぱい抱きしめていた。
温かい。ふわりとした薔薇のような香気と、強い硝煙の臭気が入り混じった、独特な匂いがする。
……生きていて……くれた。千束だけでなく、彼女まで。
「ちょ……、たきなお姉ちゃん……っ」
「オギャッ……!! に、ニコルあんた……私だってそんな、たきなからハグなんてしてもらったこと無いのに!!」
どうも千束が見たことの無い種類の愕然とした表情をしているが、今さら何を言っているのだろう。
千束との
「おふたりのおしりあいですか?」
と、萌衣さんに話しかけられたところで我に返った。多少名残惜しいものの腕を離す。
「はじめまして。わたしは、くすのきもえです」
「あぁ、うん。はじめまして、星谷ニコルです。……楠木?」
「何か知らんけどこの子、楠木さんの娘らしいのよー。ニコルは……今回の一件と、無関係じゃないよねぇ? わざわざカチコミかけて来たってことは?」
「ふぅん。楠木さんめ、
「萌衣さんが何者か、知ってるんですか?」
ニコルは、まぁね、と答えて肩を竦めた。
……この土壇場に至るまで秘匿されていたような機密情報にアクセスするのは、極めて危険なことに思えるが……乗り掛かった舟だ。横紙破りはリコリコ支部の専売特許でもある。その横紙破りに対するペナルティでこんな死地に送り込まれているという事実は一旦忘れるとして。
「一言で言うと……ゴッホちゃんの娘?」
「え?」
ゴッホちゃん───ドットフィフス・リコリスの一人、エージェント・ゴッホのことか。
千束はDA本部で一度顔を合わせただけだから、ピンと来なくても無理はない。私も大して交流があったわけではないけれど、『DEMONS事変』の現場ではお世話になった。
後で気になって少し調べたところ、ドットフィフス・クラスの開設以前から、楠木司令直属の特務エージェントとして多様な任務に従事していたようだ。
とはいえ、そんな彼女も『DEMONS事変』の混乱の最中、敵の首狩り作戦──主にファースト・リコリスを始めとする、指揮官級の人員を狙った襲撃──に遭って殉職したと聞いたが……。
「んーとね。正確には、少なくとも
………………。
…………、……?
─────????????
「……なんて?」
「だからぁ」
きょとんとする萌衣さん───『DA-R/κ1241』を自身の懐へと招き、その両肩に手を置いて私たちの方に向けると、ニコルは事も無げに告げる。
「ゴッホちゃんをベースに、わたしと千束の遺伝子を組み込んで創られた
後頭部に10tトラックを叩きつけられたような錯覚があった。
いつだったか、千束がニコルを指して言った『あいつと一緒に居ると現実世界のリアリティラインが下がる』という言葉の意味を、私はいま完全に理解した。
◇ ◆ ◇ ◆
「ということで、遺伝子提供者……もとい
「いやいやいやいやいやいや」
まっ……待て。待って!! ちょっと!
え……何? ゴッホちゃん、って言うとあの包帯頭の人だよね。ニコルの同僚の。
で、そのゴッホさんと、ニコルと、
くそ、さっぱり意味がわからん! あぁもう、ニコルと一緒に居るといつもこうだ……!
「待ってくださいニコル。私たちはDAから、その子を保護するよう正式な命令を受けています。詳しい経緯は割愛しますが、今回の任務の成否はリコリコの存続に関わる……。いくらニコルが相手でも、引き渡しの要求には応じられません」
お? お、おぉ。あー……そう、そうね。
さすがはたきな、何という冷静で的確な判断力なんだ。我が親友ながら実に頼りにな
「それに、その理屈なら千束にだって萌衣さんの親権があります!」
「何言ってんだ貴様!?」
いやマジで何言ってんだ貴様!? 恋愛すらマトモにしたこと無いのにいきなり
「え~……。今回の仕事、この子持って帰らないと完全に赤字なんだけど」
「? ……? あの、みなさんは、おしりあいなんですよね? もえを、おかあさんのところに、つれていってくれるって……」
「楠木さんのとこに? あは、ごめんねぇ萌衣ちゃん。実はあの人、萌衣ちゃんの本当のお母さんじゃないんだよ~。本当のママはわ・た・し♡」
「出会って早々洗脳しようとすんのやめろ!! 私がママかどうかはともかく……私がママかどうかはともかく! その子連れて帰らないと、私らの身がヤバいのはガチなんだって……!」
「え? いいじゃないですか
「オメェーもさっきからどうしちまったんだよ!! 混乱? 混乱してんの? いや一番混乱してるの私だかんね!?」
「ふぇ……」
あ~~~も~~~~~ど~したらいいんだこの状況!?
えっと、一旦整理しよう整理。まず萌衣ちゃんは守る、ニコルは張り倒す、ついでに制御室に行って敵の武装集団はブッ飛ばす、人質は全員助けてプラントを奪還する───ヨシ! ヨシじゃないが?
「……
「
「あーあー。千束が騒いで場所教えるから、囲まれちゃったじゃーん!」
「あんたが余計なこと言うからでしょ~!?」
「聞かれたから答えただけだもん! 文句ならたきなお姉ちゃんに言ってよねっ」
「萌衣さん、安心してください。喫茶リコリコはあなたを歓迎します。たとえ何者にも、あなたの健やかな成長を妨げさせたりしません」
「は……はい。ありがとうございます……?」
「言うとる場合か! とにかくニコル、あんたに萌衣ちゃんは───」
「やだよ! それとも何、あの時の続きがやりたいならここで───」
「
「
つーか……何だぁ?
ヒトが大事な話してんのに、さっきから横でペチャクチャペチャクチャと───。
「「うるっさい!! 静かに
「「グワ─────ッ!?」」
銃声が6回。
敵は───敵、は……えっと。合計、30人以上? しかも逃げ場の無い屋内で、ライフルやら何やらがいっぱい。
「……、……。はぁ」
「しょーがないねぇ」
私と同時にぽつりと呟いたニコルが、背中に手を回す。
一見して、何も無い虚空を掴んだようにしか見えないけど───そうじゃない。最初に相対した時からずっと、ニコルの背後の空間に違和感があった。
「御門が一緒に来てる。やらせときたいことは?」
「居住区画の個室に人質が。今はクルミが隔壁を降ろして守ってるけど、いつまで保つかわからない。頼める?」
「オッケー。……聞いてたね御門、
赤銀の髪の少女が、携えた
「……それ殺す気じゃない?」
「千束がわたしよりたくさん倒せばいいでしょ。気に入らないなら実力で黙らせなー」
「かーっ、相変わらず可愛くない……! たきな、萌衣ちゃん、やるよっ」
「はい」
「はい!」
ニコル、たきな、萌衣ちゃんと、それぞれ互いに背中を預け合う。
状況は文字通りの四面楚歌。ちょっと嫌になるくらいの数の銃口が、私たちの命を狙っている。
あぁ、まったく─────負ける気がしない。
「ゲーム・スタート」
睦言めいた甘い囁きと共に、チェーンソーのモーターが始動した。
◇ ◆ ◇ ◆
〈───とまぁ、こちらの事情はそんなところだ〉
「……」
「…………」
「なぁお前ら、その顔やめてくれないか? ぼくもう今夜トイレ行けなくなりそうなんだけど」
「あ、……アンタこそ、どうしてそんなに落ち着いてられんのよ!? だって……クローン、人間のクローンよ!? それも───」
〈『教団』の遺児とアラン・チルドレン、そして両者に匹敵する人類種の
「……。計画の元締めはどこだ。DA技研の下種どもか」
〈そいつらは
「ク……ッソ! アイツら……!」
〈……というか、ウォールナット。お前、誰にも話してなかったのか?
「「えっ」」
「───、……」
〈研究データはお前が、『実験体』の身柄は僕たちが回収するという手筈だっただろう。まさかDA相手に怖気づいたわけじゃないよな?
「だからって、
「───クルミちゃん?」
「……あっ」
「『ウォールナット』。そこに直れ」
世界最強のハッカーは、世界最強の土下座を炸裂させた。
◇ ◆ ◇ ◆
鋭利な鋸歯がびっしりと生え揃った鎖刃が、獰猛な唸り声を上げる。
3人の敵兵から注がれる、見事な十字砲火を───ニコルは、剣を支えにその場で跳躍して丸ごと回避した。
「あは───!」
「!? ッ、ウヮアァアァァ!!」
勢いのまま柱を蹴って前進、
残る2人に一時背を向ける形となったものの───。
「ふっ……!」
「───!」
「グェッ!」
「ウォ!?」
右方向の敵にたきなの銃撃が、そのたきなを狙う別の敵に萌衣のカバーが入り、次の瞬間にはニコルは全員の射程圏内から離脱している。
「
「よそ見厳禁ッ!!」
「!? オッ、ガアァァァ!!」
「「ウワ───ッ!!」」
ニコルの姿を追って視線を巡らせる男に、千束のドロップキックが突き刺さった。全体重を乗せた最大速度の一撃が猛烈な運動エネルギーを生み、大の男すら吹き飛ばす。
あらぬ方向に投げ出された男の身体に巻き込まれ、敵がまた2人姿勢を崩した。すかさず銃声が5度響き、千束の
「よいしょっ」
「……そこ!」
「ギャアァッ!?」
床から身を起こそうとする千束の隙を狙う敵、の隙にニコルが喰らいついた。背後から忍び寄り、両足を膝から断ち切る。
「
「
「させないよ」
落下するグレネードを、懐に潜り込んだ萌衣が拾い上げ、
「……ごめんなさい!」
「アベシッ!?」
せめてもの慈悲だったであろう。股間をしたたか殴打された男の意識は、極めて速やかに寸断された。
萌衣はさらに、グレネードを床に投げつける。たきなの後背を取っていたはずの敵は、丸い筒状のそれを踏みつけて盛大に転倒した。
「ウワ!」
「───っ! っ!」
「グア! ヴォエ……! アギャッ」
爪先、足刀、踵。たきなのローファーに3度打ちつけられ、男の鼻骨と頬骨が致命的に変形する。
そこを、物陰から狙う長銃身のライフル───の持ち主に向かって、ニコルがチェーンソーを
「ギヤアァアアアァァァァァ───!?」
「ふっ、ほ、やっ……」
「
「む、何か今バカにされた気がする!」
「ガフッ……!」
千束は味方に檄を飛ばしていた男のアサルトライフルの速射を悠々とすり抜け、足を払ってから眉間に弾丸を叩き込んだ。
柱の裏に滑り込んで『
「……───」
「!」
アイコンタクトをひとつ。菫色の瞳と、真紅の瞳が交錯する。
たきなは、足元に倒れている敵の装備からFN
射線上には当たり前のように千束も入っていたが、もちろん無傷である。
「……たきなさん!」
「萌衣ちゃん!」
足を止めての一斉掃射の隙を突かれ、2人の敵から挟撃を受けるたきなに、萌衣が自身のグロック42を。
そうして得物を手放した萌衣に、ニコルがスカートの陰から抜いたカランビット・ナイフを投げ渡す。
「───!!」
「アグッ!」
「ゴァ!?」
「やぁぁっ!!」
「ギッ……アァアァァ!」
すぐさまミニミを放棄し、S&W M&P9とグロック42の二丁拳銃となったたきなが、2方向の敵を同時に穿った。
萌衣の小さな掌の内で、銀色の光が7度閃く。格闘ならば
───よほど地獄より湧き出る亡者の軍勢じみていた敵武装集団は、しかし恐るべき速度でその数を減らしていった。
倒れ込む人間の身体が折り重なり、決して手狭ではないエントランス・フロアに足の踏み場がなくなった頃。
一人の男がUSSR AKMS
それに一拍遅れて、男の四方をカスタム・モデルのコルトM1911、S&W M&P9、ジェリコ941、グロック42の銃口が取り囲んだ。
「まだやる?」
◇ ◆ ◇ ◆
「わはーっ!! 斬り放題の食べ放題、サイッコーなのですーっ!!」
「
「
「
「「「ウワアアアアアァァァァァァァ!!」」」
◇ ◆ ◇ ◆
─────なんか、普通に勝ってしまった。
私たちの奮戦を受けて完全に心が折れたらしく、敵のリーダーは部下共々あっさり投降。
楠木さんが遠くで待機させていたらしい、フキたちを始めとする後続組と合流し、今は解放された人質と敵武装集団の護送を任せている。
「……。……一応聞いとくが、これ全部お前らが片付けたのか?」
「いや? 私らだけの仕事じゃないよ。萌衣ちゃんとニコルのおかげー」
「ば……化け物だ……」
失敬な。まったくフキ隊員、
「ハァー…………。……、司令の娘さんはともかく。ニコルお前、今までどこほっつき歩いてたんだ」
「おっとフキさん。実のところ、諸君らの知る星谷ニコルは死んだのだ……。というわけで今のわたし、こういう者でして」
「あ?」
「お?」
いつの間に用意したのか、ニコルは懐から小さな紙片を取り出し、ずいと手渡してきた。名刺のようだ。
えーと、なになに……。『株式会社
「……マジマ?」
「タイチョー! ただいま戻りましたぁ!」
「あ、御門おかえりー。ちなみにこっちは社長秘書補佐のカナハ・ミカドね」
「いやどうせ名前変えるならそっちも変えてあげなさいよ」
「おい……何の冗談だ? いいから本部まで同行しろ、事情聴取だ。抵抗するなら……」
───そうして、フキが二の句を継ごうとした刹那。
「あは。それは困るなぁ」
ゴウッ、と猛烈な突風が吹き荒れた。
思わず顔の前で両腕を交差させる。どうにか薄目を開けて様子を窺うと、プラントの上空に何やらモヤモヤした
「御門、帰るよ」
「はぇ? でもタイチョー……」
ニコルと御門の視線が萌衣ちゃんに向く。
赤銀の髪の元・リコリスは……萌衣ちゃんの
それは、私がこれまで2度しか見たことの無い、ニコルの本当の笑みだった。
「萌衣ちゃんのことはDAに預けとく。けど少しでも不甲斐ない育て方してたらまた攫いに来るから、そのつもりで」
「お……おい! テメェ、帰るったってどこ行く気だ!? この風は何だ!!」
フキの怒号が響く……と同時に、その疑問は即座に解消されることになる。
〈───やれやれ。ずいぶん丸くなったじゃないか、『
私たち全員の耳に届く合成音声。
「………………は?」
あの春川フキの喉から、間抜けな空気音が漏れた。
……まぁ、無理もない。だって、夕焼け空を切り裂いてそこに現れたのは、
「うるさいなぁ。いいから、早く
〈ご随意に、
─────ロボットである。
滑らかな黒銀のボディを鋭角的な深紅のアーマーで包み、背中にはでっかいX字状の
頭と胴体に比べて手足が短く、ちょっぴり可愛らしい印象を受けないことも無いが、明らかに全長6mは超える
「……きゅう」
「ウワーッ先輩が倒れたぁ!? ちょ、しっかりしてくださいフキ先輩っ!!」
どこからツッコめばいいのかさっぱりわからない。
そこには、私の人工心臓など及びもつかないほどファンタジーな代物が、当たり前のように存在していた。
「……。……、───……」
「千束?」
「わぁ……! すごい、です。きれい……!」
……ったく。
ニコルぅ……あ、今はニコラウスだっけ? どうでもいいわ。
あんたってヤツは、本当にもう───。
「はは」
こんなの……。
こんなの、さ。
「───あっははははははははは!!」
ニコルを含むその場の全員から変な目で見られたけど、別にいい。
こんなハチャメチャなこと、思いっ切り笑い飛ばさなきゃ生きてる意味が無い。
「はははっ……! すっげーなぁ!! ほんとすっげー!! 萌衣ちゃん、見てる!? あれが君のもう一人のお母さんだよっ」
萌衣ちゃんの手を引いて、一緒に空を見上げる。
ニコルと御門は既に、ロボットの胸の辺りが開いて降りてきた紐ハシゴみたいなのに掴まって上の方に居た。
黄昏の中にあってなお映える、鮮血の色をした機体は───私の知る、星谷ニコルの在り方そのもので。
「おかあ、さん? ……もうひとり?」
「そーそー。あと、なんか私もお母さんらしいよ。よくわかんないけど」
「おかあさんがたくさん……」
「幸せだねぇ。日本一幸せなリコリスかもね」
「なるほど……。ではかくなる上は、私がお父さんに就任する他ありませんね」
「何言ってんの?」
たきなは目に見えてしゅんとした。後で聞くとボケのつもりだったらしい。ごめんね。
……これから先。
「またね。ニコル」
私たちは、どんな人生を歩むのだろう。
「うん。またね、千束」
世界は、どんな方向に進んでいくのだろう。
「はい。また会いましょう」
わけのわからないことも、不安なことも、正直たくさんあるけれど─────。
「バイバイですよ、みなさーん!」
きっと、戦い続けよう。
この胸に、誰かのために、心の火が燃えている限り。
生きている限り、ずっと。
「ばいばい……です! また、あおうね───!」
これにて本編完結となります。
ご愛読、ありがとうございました。
今後はネタを思いつき次第、オマケエピソード的なものを単発で書く……かも? 沙保里さんが撮っちゃった宇宙人の話とか。
あまり期待していただくこと無く、ため息混じりにお待ちください。