萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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Twitterで見かけた幻覚を自分なりに出力してみました。

なんだこれ……。



#XX You are perfect and ultimate idol

 

 ─────息を吸い込む。

 

 眼前の虚空に、自分を貫く『死』の線を幻視する。

 極限の集中によって、世界の動作が停滞する。

 

 たんっ、という音が響いた瞬間には、私はその致死の刃を回避している。

 たん、たん、たん、たん───腕を振り、足で跳び、腰を捻り、頭を滑らせ、全身を使って全身を守る。

 

 永遠にも感じられた試練の時間が、

 

「ワンッ、ツー、ワン、ツー! ……はいっ!」

 

 ようやく、終わる。

 

「お疲れ様なのですー! 良い感じでしたよ、お二人とも!」

 

「フン……。ま、トーシロ(素人)にしちゃ及第点ってとこか」

 

 赤いジャージを着た黒髪の少女と、顔に酷い火傷痕のある異様な風体の男が言う。

 彼らの足元には、都合1対2つのスピーカーを備えた機材。そして私たちの目の前、つまりこの部屋の壁には、一面に鏡が取り付けられていた。

 

「ふぅ……。……、あーん? えらっそうにふんぞり返りやがって、プロデューサー様とやらは楽でいいな!」

 

「おいおい、そんな口聞いて良いのかァ? ()()()の一件、上はまだ納得してねぇんだろ。ここで成果が出なけりゃ、今度こそお取り潰しだぜ?」

 

「ぐぬぬ……あーもう、くそ! たきなも何か言ってやって!」

 

 ………………、いや。まぁ。

 何か、と言われても。むしろ、言いたいことしか無いというか。何からツッコむべきかわからないというか。

 

「まぁまぁ。千束さんも、シャチョー……マジPも、せっかくの機会なんですから。仲良くしましょ?」

 

「はぁ〜……!! なんで私らが、こんな凶悪犯とよろしくやらなきゃいけないわけ〜!」

 

 朗らかに笑う黒髪の少女は、かつてDAに所属していた()リコリス・御門かなは。

 そして、私たちの()()()()()()()を監督していたこの男は───数ヶ月前、東京を恐怖の渦へと叩き落としたテロリスト・真島である。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「君たち。DAからの指令だ」

 

 資源採掘プラント『表筒男』での任務からしばらく経った頃、ミカ店長がそう言った。

 現状、喫茶リコリコ支部はクルミ(ウォールナット)と組んでハワイで活動していた件について責任を追及されており、今まで以上にDA本部に頭が上がらないというのが正直なところだ。

 幸い『いのちだいじに』の基本方針に反する指令が下達されたことは無い──千束には言っても無駄だと楠木司令は理解しているのだろう──が、また『DEMONS事変』のような大事件が発生すればこの限りではあるまい。

 

「うげ。んん……で、今回は何? カチコミ? 護衛?」

 

「いや、戦闘じゃない。何でも『広報』だそうだ」

 

「……広報?」

 

 どういうことだ? DAは"雇い主"である日本政府の内においてすら、浅いセクションでは()()()()()扱いになっている秘匿組織だ。

 関係省庁への根回しならともかく、大々的に宣伝するようなことなど何も……。

 

「まぁ広報というのは比喩だな。『DEMONS事変』以来、リコリス制服に対する大衆への印象操作が行われているだろう」

 

「印象操作……? あー、例の映画とか、最近お台場に出来たアトラクションのアレ?」

 

「そう。あの一環で……うむ。その、何だ……」

 

「? どしたの先生、急に歯切れ悪くなって」

 

「あぁ……すまん。未だに現実感が無くてな……」

 

 元・歴戦の傭兵である店長がこうも困惑するとは、相当に厄介な案件のようだ。この現役最強のリコリス・錦木千束を擁する喫茶リコリコ支部にお鉢が回ってくるのも頷ける。

 しかし、曰く『戦闘ではない』任務とのことだが……?

 

「私も詳細は聞かされていないが───どうやら、上層部が()()()()()()()をするらしい」

 

「オーディションって何の」

 

「アイドルだ。テレビでもよく見る、歌って踊るアレだ」

 

 ─────……。

 …………、……。

 

 なんて?

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「そういうわけで、俺がお前らのレッスンを担当することになった傭兵……じゃなくて、芸能プロダクション『Diner MAJIMA(ダイナー・マジマ)』の社長だ。理由(ワケ)あって本名は明かせないが、とりあえずプロデューサー、マジPとでも呼んでくれ」

 

「なんでオメェーがここに居んだよ真島ァ!! ゲリラ工作のレッスンでもしに来たんか!?」

 

「真島じゃないマジPだ。実を言えば俺ァ若い頃、アイドル稼業をかじっててな。『木星エンパイア』ってグループ聞いたこと無ぇか? まぁ運営会社の方が醜聞で潰れてすぐ解散しちまったんだけどよ」

 

「知りませんよ! DAもどうしてこんな男を雇って……!」

 

「いくら天下のDAと言えど、アイドルの育成についてはノウハウが無かったらしい。コーチは民間の企業に委託するって話だったから、それに乗じてデータを偽装させてもらった。連中も一枚岩じゃねぇってこったな、喫茶リコリコ支部?」

 

「帰るよたきなっ! こんな胡散臭いヤツに頼らなくても、今どきユーチューブとかインスタとか、歌と踊りの練習なんていくらでも」

 

「そいつは残念。……あぁそうそう、ところで傭兵業ってのは信用が第一でな。報酬さえもらえれば、どこの誰が相手でも腹出して尻尾を振るモンだが……。仕方ない、別の雇い主を探すことにするかね」

 

「───この場で今すぐ射殺してもいいんですよ」

 

「おっと……ハハ、勘違いさせたなら悪かった。今回、俺たちの雇い主は()()()()()()()()D()A()だぜ。お互い面倒は起こしたくないだろ?」

 

「「…………!!」」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ……回想終わり。

 

 なんだろう。飲み込めない。現実を。何もかもよくわからない。

 半ば監視のつもりで真島のレッスンに付き合っているが、銃どころかナイフの一本すら抜く気配が無い。私たちと体格の近い御門をアシスタントとして、本当に、至極真っ当に歌と踊りを教示されている。

 『DEMONS事変』の折に千束を苦しめた超聴覚と、口癖にしているだけあって非常に優れた平衡(バランス)感覚───言われてみれば、真島の『才能』はアイドル活動にうってつけで、その手引きは異様に的確だった。

 

「……真島よぉ」

 

「マジP」

 

「それいちいち訂正しなきゃダメ? 真じ……マジPはさぁ、どうしてこんなことしてんの? ナニ企んでるわけ?」

 

「俺だって好きでやってるわけじゃねぇよ。今はコネ作りと小遣い稼ぎの時期ってだけだ」

 

 こいつ……まだ日本の国家転覆を諦めてないのか。

 今は実績作りのため仕方なく見逃してやっているけれど、やはり気を抜いていい相手ではない。

 

「とはいえ……少し見直したぜ、アランのリコリス。黒い方もな。単なる余興のつもりだったが、ここまで動けるなら、もっと本腰入れてプロデュースしてやってもいい」

 

「なんで上から目線なんだよ!」

 

「さて、オーディションまで残り1ヶ月半だ。課題曲はそれなりに仕上がったとして───」

 

「はいなっ」

 

 御門がキャスター付きのホワイトボードを転がしてきた。小姓働きが妙に板についている……。

 

「問題は……オリジナル曲、ですか」

 

 DAが推進するスクール・アイドル・プロジェクト(?)───作戦名(オペレーション)Lycoris of pop star(推しのリコリス)』(???)のオーディションは、組織が指定した課題曲と、リコリス自らが作詞・作曲したオリジナル曲という2つのパフォーマンスによって選考される。

 現状、課題曲の方は──極めて遺憾ながら──真島の指導によって相応の水準で習得できた。

 残るはオリジナル曲についてだが……。

 

「ちゃんと歌詞考えてきたか?」

 

「一応……。でもマジP、あんた作曲なんて出来んの?」

 

「音楽の力ってのは侮れねぇんだぜ。例えばヨーロッパ諸国の国歌には、平和ボケな日本人の感覚からすると過激な歌詞が多いだろ? 国民に団結と奉仕を呼びかけて、異国からの侵略者を撃退しようってな。あれは兵隊の士気を高揚させ、凡人にも望んで死地に飛び込む覚悟を与える。カッコよく死ねるってのは兵士にとっちゃ最高の名誉だ」

 

「いやそういうことを聞きたかったんじゃなくて」

 

「たきなさんはどうですか?」

 

「はい。私なりに世間の流行や、過去の名曲と呼ばれるものを参考にしてみましたが……難しいですね」

 

 創作歌詞を書き込んだノートを、御門を介して真島に渡す。

 ノートには単に決定稿だけでなく、途中で思いついたフレーズや、発想のきっかけとなった出来事についてのメモもそのまま残している。

 真島は千束と私のノートにさっと目を通し、交互に見ながらパラパラとめくり、そして……。

 

「なぁアランの」

 

「あっ。そういやずっと言おうと思ってたけど、その『アランのリコリス』っていうのやめてくんない? 私には先生からもらった錦木千束って名前があんの」

 

「はァ……? あー、じゃあ電波塔の。お前これ、曲調のイメージはついてるか? ポップスとかバラードとかあんだろ」

 

「ん、それ聞いちゃう? え〜とねぇ……やっぱぁ、アレかな? キャッチーでハートフルだけど、青春らしい疾走感もあるガールズ・ロック! アニソンっぽいメロディラインも取り入れて、時代の最先端を行く感じがいいっ」

 

「言うだけタダってか、うるせぇよトーシロが。黒い方は?」

 

「井ノ上です、井ノ上たきな。……特に明確なイメージはありませんけど、参考にした曲は最後のページにまとめてあります」

 

「ふぅン。……あれこれ難しく考えず、先人の知恵に倣ったってのは良い。が、ちっとばかり面白みに欠けるな。有り体に言やぁベタってことだ。もっと冒険しろ冒険」

 

 な、何だと……!? 大切な君に愛を伝えたり、泥の中から宝物を見つけたり、あの頃の私は不器用だったり、確かに頻出フレーズを押さえには行ったが……まさか、それがかえって仇になるとは!

 くっ。そういえば、リコリス寮の娯楽室は楽器類が充実していたな。暇さえあれば射撃の訓練ばかりしていたから触れたことが無かった。これは存外、厳しい戦いになるかも知れない……!

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「先輩、あの話聞きました〜? DAの新しいフロント企業。リコリスをプロデュースして、アイドルとして売り出すんですって」

 

「あぁ。上層部も『ラジアータ』も、一体何考えてんだろうな……。さすがに理解に苦しむ」

 

「卒業後の人材放出先って面もあるんじゃないか? DAも政界や財界はともかく、芸能界へのパイプは未開拓だろ。ここで業界への橋頭堡を作れれば、今後のプロパガンダだってやりやすくなる」

 

「……なるほど、そういう考え方もあるのか。ヒバナは、ファーストへの昇格試験を受ける気は無いんだったな? 私から推薦してやっても良かったのに」

 

「はっ? ちょ、ズルいッスよヒバナ先輩! フキ先輩、あたしは!? だったらあたしに推薦くださいよ~!」

 

「ふふ。でも、サクラだって『選抜特任部隊(アドバンスド)』からのスカウト来てるでしょ? こっちは気楽でいいよ、楠木司令の直轄だし」

 

「……気楽……? あの『排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)』の後任が? エリカ、お前……」

 

「まぁ、『DEMONS事変』に動員されて生き残ったリコリスは全員、出世頭の有望株って認識でいいんじゃないか。今のところ推薦を出す気は無いが、お前にだって昇進の芽はあるはずだ」

 

「結局推薦してくれないんスか! 先輩の薄情者ぉ!」

 

「何とでも言え、正当な評価だ。どうしても認めて欲しければ、今まで以上に成果を出すことだな」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 そして、1ヶ月と3週間が過ぎ─────。

 

 

 

「ついに来たね」

 

 DA・リコリス部隊関東本部。

 普段は大人数での体育教練や各種の講演会に使われる多目的ホールは、なんだか異様な熱気に包まれていた。

 

〈では只今より、作戦名(オペレーション)Lycoris of pop star(推しのリコリス)』の特派員選考を開始する〉

 

 楠木司令の隣にはいつもの秘書さんを始めとして、審査員と思しき数名の男女が並んで座っている。全員が全員恐ろしく真剣な表情をしており、見目麗しく年若い子女(アイドル候補)に対する下心はまったく読み取れなかった。絵面は猛烈にシュールだが、その緊張感は弾丸飛び交う鉄火場と何ら変わりが無い。

 一方、審査員席の雰囲気にあてられて統制が利いてはいるものの、会場に集められた見学のリコリスたちはやや落ち着かない様子だった。選考基準には『会場の盛り上がり』も加味されるというので、ある意味では彼女たちも審査員の一部と言える。

 

「てか、こんなにいっぱい人居るとか聞いてないんだけど~……!?」

 

「店長とミズキさんから転送されたメール見てないんですか? 指令の内容を読み解けば予想できたはずですよ」

 

「いや落ち着きすぎだろ。フツー知っててももうちょい緊張するわ」

 

「信じてますから。千束と一緒なら、きっとどんな試練にも打ち勝てるって」

 

 ちなみに真島もといマジPは同伴していない。身分の偽装はしているとはいえ、さすがに無策でDAの本拠地に踏み込むようなリスクは冒せないとのこと。

 

「……そう言われちゃ弱いなぁ! うっし、いっちょ腹くくりますか!」

 

〈アルファ・チーム、入場ののちパフォーマンスを開始せよ〉

 

 さて、出番まではこの控え室で待機だ。招集された他チームの演技を観覧する。

 最初のチームは───。…………、……ん?

 

〈ッ~ス!! セカンドの乙女サクラでっす! よろしくお願いしまーす!〉

 

〈…………………………ファーストの春川フキです。よろしくお願いします〉

 

「はあああぁぁぁぁぁ!?」

 

 これは……!!

 なんと、序盤から大波乱の展開だ。サクラはともかくフキさんが……いや、モニターの中の苦虫を噛み潰したような表情から察するに、あの後輩に仕方なく付き合ってやっているだけか?

 衣装はフォーマルなタキシード風で、それぞれリコリス制服をイメージしたかのような臙脂色と瑠璃色。いわゆる男装姿だが、あれで不思議と()()になっているのはどういう了見だろう。

 

 

  朝から晩まで まぶた閉じれば

  いつだって思い浮かぶ 君の笑顔

  寄せては返す波のように 僕の心を乱してやまない

 

  君の香りを 声を抱きしめるよ

  冷たい闇がふたりを引き裂こうとも

  繋いだこの手だけは 絶対に離さない

 

  Let's go!! 一緒に 夢の彼方

  僕たちだけの楽園へ

  かけがえのない愛と希望 君とずっと

  そうさ永遠に True Love...

 

 しかも上手い。歌も踊りも。一昔前みたいなテクノ・ポップ調のサウンドとノリノリのサクラが若干鼻につくけれど、自分でも経験したからこそわかる。あれは一朝一夕で身に着く芸ではない。会場のリコリスたちも大盛り上がりだ。

 というかフキさん、演目が始まった瞬間に表情が変わったな。たとえリコリスの本分から外れようとも、任務とあらば全力を尽くすプロ根性───信条を異にし、一度は袂を分かった相手ではあるが、これは尊敬せざるを得ない。

 

〈───ありがとうございましたぁーッ!!〉

 

〈……ありがとうございました〉

 

 曲の終わりにビシッとポーズを決めたかと思えば、一転して爽やかな挨拶の声が響く。

 楠木司令が次のチームを呼ぶために号令をかけるまで、会場から黄色い悲鳴が止むことは無かった。

 

「マジかよ……」

 

「強敵……ですね」

 

 去年の模擬戦のようにはいかない。

 今、流血無き闘争の火蓋が切って落とされた。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「どこに〜♪ 向かうか、旗印〜♫」

 

「私の歌は、ただの1人で70億の絶唱を凌駕する───フォニックゲインだァァァッ!! 」

 

「ボクと世界を滅ぼさないか?」

 

「銃撃戦なんて下らねぇ!! あたしの歌を聴けーッ!!」

 

「ッイェーッイェー♪ タ・パスタァ♫ ッイェーッイェー♪ パスタァ♫」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 押しも押されもせぬ激戦だった。

 フキさんとサクラのバディだけではない。オーディションに参加したリコリス全員が、凄まじい修練を重ねた上で、このステージに登ってきていた。

 

「……次。イオタ・チーム、入れ」

 

 徐々に元気を失いつつある楠木司令とは裏腹に、会場の盛り上がりは最高潮に達していた。失神者も出た。

 ───私たちが、最後(大トリ)。下手なパフォーマンスは出来ない。

 

「たきな」

 

「えぇ」

 

 舞台袖から一歩出た瞬間、熱狂の渦が私たちの五感を蹂躪する。

 DAの身内限定とはいえ、『悪魔(DEMONS)狩りの英雄』の知名度は充分なのだ。余計な演出は要らない。

 今は、ただ、成し得る限りの全力を─────。

 

 千束と背中合わせになって立つ。鼓動無き英雄の体温が、私の手足にまで伝播するような感覚。

 白金の髪の彼女が天高く、ゆっくりと腕を伸ばし。パチンと指を鳴らしたのを合図に、軽快なイントロが流れ出す。

 

「さぁ その声がする方へ Get ready for engage!!」

 

「いま(ココロ)の火燃やして 闇を撃ち抜け───!」

 

  鋼の街 雨粒弾くネオン

  暗い道の影に潜む怪物たち

  伸ばす指先 今日も空を切って

  星も月も無い夜の下でただ眠る

 

「割れた記憶の鏡に」

 

「黒い瞳と赤い花」

 

  残酷な世界 抗えない運命

  大丈夫 怖くはない 君と二人だから

 

  Go over to the future!! 限界なんてない

  重ねた手と刃が 希望(ヒカリ)解き放つ

  いつかこの胸が凍てついて 時を刻むこと忘れても

 

「何度だって」

 

「立ち上がって」

 

「「また歩き出そう 一緒に─────」」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「見事やな……」

 

「おめでとう! お前たちは立派な"アイドル"になった……。"笑顔"を人々に与える役割に相応しいリコリスになった……」

 

「お見事ですイオタ・チーム。やはり私がにらんだ通りあなたたちは強いアイドルだ」

 

「いやーっ立派ね。立派過ぎてちょっと怖いね」

 

「待て、面白い奴が現れた。飛び入り・参加だ」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 やり切った。

 所詮は付け焼き刃の技術、本業のプロには劣るだろう。しかし、熱意では決して負けていないと───これが私たちの全力だと、出せるものはすべて出し尽くした。

 

「……たきな!」

 

「はい……、はい!」

 

 歓声が聞こえる。ファーストもセカンドもサードも、少数居る大人の職員も、階級や職責に関係なく、会場に集まったみんなが拍手喝采を贈ってくれている。

 思わず頬が緩んだ。この1年、千束と喫茶リコリコに出会ってから様々な体験をしてきたけれど、その中でもとびきり心を動かされたように思う。

 

〈ハァ……。あー、出演者と機材担当者各位はご苦労。これより審議に入る、リコリスは速やかに解散───何?〉

 

「やったね、出来たよ私たちっ!」

 

「千束のおかげです! あと御門と……複雑ですけど、マジPも……!」

 

〈連絡不行き届きで遅刻だと? そんな報告は受けていない、『ラジアータ』のログは確認したのか? いや飛び入り参加って……おい、勝手に話を進めるな! 大体貴様ら、この後も予定があるだろう……!〉

 

 

 

 ガタン。

 

 

 

 突然、照明が落ちた。

 嬉しい悲鳴から一転、明らかな異常事態に会場中から不安の声が上がる。

 

「一体何が……」

 

「失礼」

 

 ぞくっ─────。

 

「え!? んわ!! ななな何じゃこりゃあ!」

 

 耳元で声がした。足音一つ立てずに忍び寄ってきた何者か。慣れないパフォーマンスの後で心身共に疲労していたとしても、私と千束のどちらも気づけなかったとは尋常なことではない。

 隣の千束が叫んだ瞬間、お腹のあたりに強い圧力。打撲されたという感じではない、掴まれた? 効かぬ視界が空転する。

 これは……持ち上げられたか。どうにか藻掻いてみるが、相手は途轍もなく力が強い。まるで抜け出せそうになかった。

 

「よいしょっと」

 

「ギャッ」

 

「わ」

 

 と思ったら、すぐ降ろされた。ここはどこだなどと考えるまでもない、ただ舞台袖に引きずり込まれただけ。

 自分の銃は控え室の学生鞄(バックパック)の中。ようやく薄暗闇に慣れ始めた視覚をフル稼働させ、周囲の様子を窺いつつ、武器になりそうなものを……。

 

「えっ……あ!?」

 

「千束?」

 

「───御門!」

 

 何だと?

 見れば、そこには黒髪黒瞳の少女───御門かなはが、何食わぬ顔をして立っていた。

 私たちをここへ運び込んだ下手人も、間違いなく彼女だろう。

 しかし、それにしても状況が読めない。マジP、ないし民間軍事会社(PMC)『ダイナー・マジマ』の人間は、関東本部に近づかないという話では……。

 

「あんたどうして、てかどうやってここに……むぐ」

 

「しーっ」

 

 御門は人差し指で千束の唇を押さえた。

 一見したところ武装の類は持ち合わせていない。殺気や悪意も感じられず、本当にただ世間話をしに来たかのようだ。

 

「演奏中はお静かに、なのです」

 

 私がどういう意味だと口にするより先に、状況が動く。

 

 ───甲高く、鼓膜を引き裂くようなエレキギターの音色が会場に(こだま)した。

 10秒にも満たないワンフレーズ。しかしその速弾きが、今日出演したどのリコリスとも桁違いの練度によって為されたものであることは明白だった。

 極限まで練り上げられた技巧、類稀なる音感の暴力が観客たちを圧倒し、混乱をたちまち収束させていく。

 

「ん?」

 

「なるほど。おれは詳しいんだ、これは飛び入り参加ってやつだ」

 

「いや待て、あの孤独なSilhouetteは……?」

 

 一体誰が機材を動かしているのか、復旧したスポットライトが音色の主の姿を照らし出した。

 ウェーブのかかったストロベリー・ブロンドの長髪をポニーテールにした、小柄なリコリス(のはず)。軍装にも礼装にも見えるダーク・ブルーのジャケットにロングコートを羽織っているが、肩口や鼠径部などに大胆な切れ込みが入っており、そこから白い肌を覗かせている。

 頭髪と口元が露出するよう改造された黒いペストマスクを被っていて、人相は確認できない。

 

「……誰?」

 

 そのリコリスは、手に持っていた血の色のエレキギターを肩紐(スリング)に預け、ステージマイクを乱暴に引っ掴んだ。

 ざわつく聴衆に、赤いゴーグルのレンズの奥から視線を投射し───言う。

 

 

 

「跪け蛆虫ども」

 

 

 

 刹那、会場の空気が一変した。

 幼く甘やかな、されど低く威圧的な、それは少女の声に擬した火竜の唸りだった。

 本能が警鐘を鳴らす。戦場での銃撃の応酬にも似た、否、一方的に襲い来る『死』の予兆が足を竦ませる。

 誰もが呼吸すら忘れ、突如現れた乱入者の一挙手一投足に釘付けとなった。

 

 乱入者は"蛆虫ども"の(しつけ)の出来を品評するかの如く、たっぷりと間を置いて。

 

「─────GrrrrrrraAaaaaAaaaaaaaaaaa!!」

 

 満身の咆哮と共に、音楽の形をした破壊と殺戮を爆発させた。

 肉を()み骨を断つ鋸じみたギターサウンド。機銃掃射めいて降り注ぐパーカッション。

 それは、嵐だ。鉄と火と雷の嵐。矮小な人間の器を飛び越え、現実を崩落させる摂理への冒涜。

 

  Fall in the nightmare 道化(ピエロ)を吊るせ

  我らを吸血する豚に ギロチンの刃を喰らわせろ

  復讐の(とき)は来た 篝火(かがりび)(おこ)し牙を研げ

  黒い泥の雨の中 黙示の獣が我らを()

 

  嗚呼 地獄花 魂の鎖よ

  嘆きの彼方に答えはあるのか  

  嗚呼 罪の茨 罰の業火よ

  Get up,Open gate from to the heaven

 

  We'll burn it all down

  砕け 斬れ 撃て 殺せ

  塵芥さえも灰と焚べて

  We'll burn it all down

  黄昏を超えて 夜に狂う

  閉ざされた未来(あす)を その手で奪い取れ

 

「───Gyeeeeeeeeeeeeeeah!!」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ほほぉ……いいグルーヴだな。貴様の所属支部とIDは!?」

 

「名乗るほどの者じゃない。満足したから帰る」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 そして作戦名(オペレーション)Lycoris of pop star(推しのリコリス)』は伝説となった。

 

「クルミ、何見てんの?」

 

「最近流行ってる配信者の切り抜き。弾き語りメインなんてスカした野郎だと思ってたが、なかなかどうして悪くない」

 

「ふーん。面白そう! 一体どんな……、あれ? この人、どこかで……」

 

 計画自体は立ち消えになったそうだが、あのアイドル候補生として過ごした日々は、今も私たちの胸の中で燦然と輝いている。

 

























劇中歌の歌詞はそれぞれ30分、半日、3時間で考えました。なにっ 特に元ネタとかがない
フキとサクラは往年のジャニーズ、ちさたきはLiSAやウマ娘、謎のリコリス(?)はサンホラやGRANRODEOみたいな感じをイメージしてください。
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