萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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お久しぶりです。
本編の連載は終了しましたが、ひとつネタを思いつきましたのでもうちょっとだけ続くんじゃ。



#16 Double "0"───(1/n)

 

 日本の新電波塔・延空木占拠事件を皮切りに、全世界を震撼させた未曾有の大規模テロ『DEMONS事変』より数ヶ月。

 国防機密組織『Direct Attack』は、戦後以来稀に見る混乱に陥っていた。

 

 錦木千束と星谷ニコル───現役最強クラスのリコリス2名の失踪。並びに、高強度特務部隊『第1.5級(ドットフィフス)』の壊滅。

 先の『DEMONS事変』にて行われた、国際犯罪組織『DEMONS』の第1級エージェント(ファースト・リコリス)に対する首狩り作戦。

 昨年春より続いた『真島事案』において──錦木千束率いる喫茶リコリコ支部の活躍を除けば──真島一派が延空木テロの敢行に至るまで、何ら有効な反撃が出来なかったという事実。

 性能の陳腐化が明白となり、全面改修に着手せざるを得なくなった戦略・戦術司令統合支援AI『ラジアータ』。

 

 以上をもって、"世界で最も平和な国"日本における最強の治安維持組織・DAの権勢は大いに揺るがされた。

 犯罪抑止力の弱体化、上級士官の不足、情報支援の欠如───さらにはそこへ、『DEMONS事変』に続いて勃発した、国内最大の暴力団『海山會』のトップ・通称"長老"の死を端緒とする黒社会間の抗争が重なる。

 事態の終息には下級エージェント(セカンド・サードリコリス)の促成教育および繰り上げ昇格と『ラジアータ』の完全復旧を待たねばならず、必然、巷の犯罪発生率や警察関係者の殉職率は跳ね上がり───後の人々は、これを『魔の5ヶ月』と呼んだ。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 ─────あの夜、瞬き燃ゆる星を見た。

 

 

 

 血と屍の海に沈んで、指の一本も動かせない。いや、動けば今度こそ自分もこの地獄の仲間入りだ。

 それなのに。

 

「うゔぅぅああぁ────あ゛あ゛あ゛ああぁ゛ぁ゛ぁぁぁぁ゛っ!!」

 

 屍山血河の頂で躍る、深紅の颶風(かぜ)に目を奪われた。

 降り注ぐ銃弾の雨にも怯むこと無く、その()()が細腕を振るう度に朱い花が咲く。

 

 その光景を記録する手段を持ち合わせていなかったことを、ひどく後悔した。

 敵の死に揺らぎ、友の死に嗚咽していたそれまでの自分が、ひどく惨めに思えた。

 

 リコリス一個中隊を壊滅させた海外マフィアの尖兵、()()5()7()()()()()()()()()し───最後に駆けつけた応援の赤服(ファースト)に連れられ、戦闘から離脱。

 このような現場に送り込まれたのだ、そちらの彼女もまた生半可な使い手ではないのだろう。

 そこは、彼女らふたりの世界だった。"力"という共通言語を持って生まれた者たちだけの領域。余人が立ち入ることを許されぬ別宇宙。

 

 

 

 DA最強のリコリスは誰か。

 

 "最強"───男女を問わず、兵士を、戦士を、"武"を志した者ならば、誰もが一度は夢見る称号。

 

 "旧電波塔の英雄"・錦木千束の名を知らぬリコリスは居ない。

 "排撃者数第1位(ダブル・オー・ワン)"・星谷ニコルの鬼神の如き戦いぶりは、同胞たるリコリスにすら畏れられるほどだ。

 現場からの支持と司令部の評価、すなわちは規律ある軍隊を運用する能力という点で言えば、春川フキを推す声もあるだろう。

 

 そして記録を紐解けば、彼女らに勝るとも劣らぬ異能のリコリスは少なくない。

 携えた二刀で弾丸をも斬り伏せる剣士。

 放つ銃撃の軌道を曲げる絶技を操る銃士。

 旧式小銃で有効射程外の目標を撃ち抜き、近距離では敵の銃口へと弾丸を滑り込ませることで武装を破壊する狙撃手。

 幽鬼の如く影に潜み、鍛え上げられた格闘術で瞬時に敵の命脈を断つ暗殺者。

 不具の身にありながら極めて優れた頭脳を持ち、電子戦において無双を誇った諜報員。

 神憑り的な用兵センスを有し、現役中一度も部下を失わなかった伝説的な指揮官─────。

 

 現場のリコリスから内部の上級スタッフに至るまで、世代と公私を問わず続いてきた議論だ。

 それは、このDAという組織か、日本なる国家が滅びる日まで続くのかも知れない。

 

 

 

 ……あぁ。

 

 私が過去に奪った命。かつて散っていった仲間たち。

 永遠に戻ること無きそれらに報いるため、私に何が出来るだろう?

 

 こんなにも、簡単なことだったのか。

 

「いつかきっと───辿り着いてみせる」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 静岡県は富士山麓、DA・関東本部。

 日本の国家安寧を司る白亜の巨塔のさらに中枢、リコリス部隊司令官の執務室に、一人のエージェント(リコリス)が招集されていた。

 

「格別のご高配を賜り、大変光栄です。しかし───恐縮ながら、お断りします」

 

 そのファースト・リコリスの返答に、楠木は誰にもそうと悟られない程度に眉を顰めた。

 

「何故だ?」

 

 他に言葉を重ねてもよかったが、楠木はあえて端的に聞いた。

 彼女は将来のDA上級スタッフ、すなわち組織官僚候補だ。『卒業』に際して外部に放出される十把一絡げの人材とは訳が違う。

 

「一口に同じ高強度特務部隊とは言っても、『第1.5級(ドットフィフス)』部隊とはまた毛色が違うのでしょう? 『選抜特任部隊(アドバンスド)』は。自分のような若輩者が預かるには、時期尚早かと存じます」

 

 ───『選抜特任部隊(アドバンスド)』。

 解体されたドットフィフス・クラスに代わり、DAが創設を計画している特殊部隊。

 "はみ出し者"の受け皿兼楠木直下の便()()()であったドットフィフスとは異なり、その編成はリコリス部隊とリリベル部隊の垣根を超え、さらには警視庁や内閣筋の諜報機関───日本の国家中枢部が擁するD()A()()()()()()()()()()()からも人材を抽出するという壮大なものだ。

 

「謙遜することはない。お前には充分な経験と実力がある。アドバンスドには旧ドットフィフス同様、徹底した実力主義を布くつもりだ。規律は重要だが最優先ではない。そのために()()()()の超法規的権限を整備したのだから」

 

「司令の尽力はお察ししますが……」

 

 曖昧に口籠る彼女に平時の聡明さは無く、視線は眼鏡の奥で彷徨っている。

 楠木はしばし、彼女と目を合わせる努力を続け、諦めたように嘆息してから告げた。

 

「お前の意志は理解した。では、リコリス部隊司令官として命じる」

 

「……!」

 

()()()()()冨加宮(ふかみや)カズラ」

 

 彼女───眼鏡のファースト・リコリス、冨加宮カズラは、はっとして(おもて)を上げた。

 

 『DEMONS事変』以後、楠木の言動に多少の変化があるという噂はカズラも耳にしていた。

 曰く、要領を得ない抽象的な、どこか朴訥とした問いかけや優しげな説法が増えた───有り体に言えば『丸くなった』のだと。

 組織の風通しが良くなったと喜ぶ者も居れば、楠木司令は腑抜けてしまったと憤る者も居る。とはいえ、表向きには傲岸で冷徹な"影の女王"のイメージが覆されるほどではなく、ここ数ヶ月の切迫した状況下での部下(リコリス)の損耗を憂いていると見るのが最も合理的だろう。

 

 だから、カズラは命令通り、自分の胸の内を包み隠さず明かすことにした。

 

「……私は、()()()()()()()()の座になんて興味ありません。繰り上がりで得た"第1位"の称号に、どれだけの価値があるでしょうか」

 

「自覚無き能力ほど危ういものはない、謙遜も過ぎれば非礼になるぞ。事実として彼女(ニコル)は死んだ。錦木千束もだ。ならばお前が頭を張るしかあるまい」

 

「あの二人が? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 この時点で、錦木千束・星谷ニコル両名の生存は確認されておらず───しかし、さも当然のようにカズラは言い放った。

 長い沈黙が降りる。消極的だが、それは半ば以上、肯定と同義だった。

 

「だいいち、私だって元・ドットフィフス()()ですよ。例えば……春川先輩では、何か不都合が?」

 

「フキは『卒業』が近い。上の要望でな。"経験豊富な新進気鋭"などという代物を用意できるのは我々(DA)だけの強みだから、だそうだ」

 

「なるほど。じゃあ、声をかけたリコリスの名前くらいは教えていただけますね。噛み合いそうな子を何人か見繕っておきましょう。私より優秀な指揮官はいくらでも居ますから」

 

 その態度は、正規の戸籍すら持たぬ組織の駒にしては大いに不遜なるものだ。

 そして、リコリスの取り扱いについてあらゆる決定権を持つ楠木がそれを咎めない事実が、何よりも彼女の力を雄弁に物語っていた。

 

 DAという組織が暗躍する黒社会において、人材の入れ替わりは通常以上に激しい。

 紆余曲折あってDAに錦木千束が戻るまで───あるいは彼女が戻ってからも、突出した個人の活躍だけでは限界があり、つまるところ『魔の5ヶ月』には英雄も超越者も不在であった。

 それでも、これまでDAの布いた安寧のヴェールが完全に剥がれ切らなかったのは、まず間違いなく───。

 

「……、わかった。それでいい。お前の見る目なら信用は出来る。話は以上だ、下がれ」

 

「はい。失礼します」

 

 カズラが退室する直前、執務室の椅子に背を預けながら楠木が言った。

 

「変わったな。誰に影響された?」

 

 出入り口のドアに手を掛けたまま、彼女は半分だけ振り返って応える。

 

「私は私ですよ。ずっと変わりなく」

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 カズラと春川フキがハワイに逃亡した『喫茶リコリコ支部』の追跡・捕縛作戦の陣頭指揮を任されたのは、それから3日後のことだった。

 他方、星谷ニコルと御門かなはの生存──つまりは脱走者の存在──については、海上プラント『表筒男』の事件以降も、組織の権威維持の観点から機密事項とされ───しかし、その数週間後にカズラの知るところとなる。

 

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