萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
ハッピーハロウィン! ご無沙汰してます。
今回は百合の間に挟まる男が出ます。
───治安維持組織『Direct Atack』には、主として2つの部隊が存在する。
ひとつは私たち、女子を中心に構成され、スーパーAI『ラジアータ』を用いた高次予測と警戒監視の下、暗殺による犯罪の
もうひとつは、男子を中心に構成され、
この2つの治安維持部隊はDA並びに上位組織『八咫烏』の統率の下、日本の国体を守護するという共通の目的を掲げていながら、まぁ恐ろしく仲が悪い。
理由としては、犯罪の抑止という命題であれば『ラジアータ』擁するリコリス部隊だけで割と充分な成果を挙げているから……なんて話はほんの一因に過ぎず、実際には人事権やら予算編成権やら過去の因縁やら上層部の
よって当然、末端の
どころか、互いの仕事の内容すら把握していないのがデフォルトなわけだけれど……。
「DA・リリベル部隊第7東京方面師団所属、
───ここに、例外が存在した。
「エージェン……ゲン、何?」
「
事の発端は、千束の『卒業』に備えて新たなメンバーをリコリコに迎えたいという話だった。
千束ももうすぐ18歳、リコリスからの『卒業』が近い時期だ。彼女の経歴と能力を鑑みれば、卒業後はDAの上位スタッフに昇格することは疑いようもないが、そうなると"リコリコ看板娘"の仕事は続けにくくなってしまう。
よって、千束と近い考えを持つ───つまりはDAから"落第生"の烙印を押されるようなリコリスを引き取り育て、錦木千束の後継者に据えようというのが今回の計画だ。
後は単純に、『DEMONS事変』によってリコリス部隊を離れたニコルに代わる人足が欲しくなった、という切実な事情もある。
「───……」
「たきな。目力目力」
喫茶リコリコ支部とリリベル部隊には因縁がある。
10年前の支部独立の折、これを組織離反の兆候と見なしたリリベル内部の一派が、半ば暴走する形で粛清に打って出たのだ。
結局、千束とミカ店長の奮戦によって襲撃計画はことごとく失敗し、楠木司令の仲介でその場はひとまず収まったのだが……。
「……む? 失敬、そちらの金髪のお嬢さんもリコリスなのか? 事前に聞いた話には出てこなかったように思うのだが」
「い、いいいいやまぁ、はい。じ……情報部、志望で……ネットワーク関係の仕事をしてます……」
「そうか」
店長は『リコリコに新しい人材が欲しい』と言った。
DAは『これ以上リコリコ支部に割ける人手は無い』と返答した。
そこで私たちは、『錦木千束の後継者を育てたい。いや絶対に育ててみせる』という方向性を強調し、またクルミの協力も得て『ラジアータ』への直談判を敢行した。
我らがスーパーAIの覚えもめでたく要請は承認され、人事部は渋々ながらに追加の人員を派遣しようとした。
……が、どうもDEMONS事変のもたらした影響というか損害は私たちの想像以上に大きかったようで、DAは組織再編にあたってかなりの無茶をしたらしい。特に『ラジアータ』が全面改修に入ってからは情報戦略部門の人手不足が深刻で、リコリス部隊とリリベル部隊の垣根を越えた大規模な人事異動があったとのこと。
そして、そんな横紙破りを快く思っていなかった上層部……の、立場的にリコリス部隊と折り合いが悪いか、個人的にリコリコ支部が嫌いな一部のセクションが、この度の私たちの要請に反発した。
とはいえ、如何に上流の人間と言えど組織の一員である以上、既に裁決の下った案件を正当な理由も無しに差し止めることは難しい。
よって、せめてもの抵抗として、『過日の延空木テロで生じたリリベル部隊との摩擦解消のための人材交流』を名目に送り込まれてきたのが彼───エージェント・ゲンティウスというわけである。
「に、しても結構男前ね。私が10歳若かったら惚れてたかも」
男前……ミズキさんの美的感覚はさておき、うん。
若白髪なのか、色素の薄い灰混じりの黒髪を除けば、さしたる特徴は無い。際立って美形というわけではないが、だからこそ整っているというかそんな感じ。
有象無象の兵士でないことは、立ち居振る舞いを見ればわかる。男女の性差もあることだし、
「まぁ、たきなもそう睨んでやるな。第一、本部に掛け合って我々の要望が通っただけでも青天の霹靂なんだ。事前に会って少し話したが、
……むぅ。店長が言うなら信用しても良いか?
しかし、『彼自身は』と来たか……。
「そうそう、ちょ〜っと思ってたのとは違ったかもだけど……仲間が増えるのは大歓迎! 錦木千束だよ、よろしくね!」
「……、井ノ上たきなです。よろしくお願いします」
「話には聞いている。10年前の電波塔事件を解決した英雄、そして過日のDEMONS事変において最も活躍したバディだと。共に働けて光栄だ」
「あんれ。ちょっと意外だわ、リリベルのくせに千束のこと悪く言わないのね」
「主義主張、歩む戦場は違えども、世の平和に貢献したいという志は同じですから。口さがない古参の連中の風評に踊らされるほど間抜けではないつもりです」
───、……案外悪い人じゃないかも?
◇ ◆ ◇ ◆
「ちさとねーちゃん!」
「たきなおねーちゃーん!」
「おーおー久しいのう皆の衆〜! 良い子にしてたかな? それじゃあ、良い子にしてたみんなに新しいお友達の紹介ですっ」
「エージェント・ゲンティ……何、『エージェント』は余計? ……失礼、それもそうだな。改めて、彼女らの同級生のゲンだ。よろしく頼む」
「おとこのこだー」
「でっかい!」
「年齢からすると身長は平均値相当なんだがな。部隊の同僚はみな体格が良いものだから、よく
「ちさとおねーさんのかれし?」
「え〜、そう見える? ふふふふふふ、さて? 一体どうでしょ~」
「いえ彼とは今日が初対面です。千束も私も。断じてそのような事実はありません」
「うむ、現状交際の予定は無いし許される立場でもないが、第一印象としては二人とも好ましい女性だと思っている。個人的な感性で語らせてもらうなら、容姿も麗しいと言って差し支えな……井ノ上殿? 何故ホルスターに手をかける? 何らかの危機を察知したことに起因する対処行動と推察するが、民間人の目がある場での火器使用は原則として禁じられ─────」
◇ ◆ ◇ ◆
「ゲン……さんは、というかリリベルって語学はどうなの?」
「問題ない。座学全般は
「お、心強〜い。じゃあさっそくだけど、今日の授業はお願いしちゃおうかな? あぁこれ日本語学校の話なんだけど」
「なるほど、了解した。士官養成課程の応用と思えば多少の覚えはある。授業の題材はこちらで指定しても構わないか? まずは我が国の素晴らしい文化について理解を深めてもらうために、たくあんの漬け方から教示したいと思う」
「別のにしてください」
◇ ◆ ◇ ◆
「錦木殿、次はどのような任務だろうか」
「……適応が早い……。1年前の私の苦労は一体……」
「あー、えっと。若頭さん……いや今は組長さんか」
「───組長?」
「そうですよね! それが普通の反応ですよね!?」
「どうしたのたきなさん急に!? あっゲンさんもそんな顔しないで! 昔は知らないけど、もうお爺さんの代からカタギなんだって! 前聞いたから! 本当だよ!?」
◇ ◆ ◇ ◆
……さて。
忘れてはならないことだが、我々DAは強制力の行使による国家の治安維持こそが使命である。その点はリコリスもリリベルも変わらない。
喫茶リコリコ支部では
「先生からもう聞いてると思うけど、リコリコの基本方針は『いのちだいじに』! おーけー?」
「郷に入れば郷に従えとも言う。民間人の安全や自衛を優先せねばならない事態も想定される故、確約はしかねるが善処しよう」
エージェント・ゲンティウス───ゲン氏は、リリベルもといDAの戦闘員にしては物分りが良いというか、実に考え方が柔軟だった。正直ありがたい。
……こういう感想になってしまう辺り、私もすっかり
〈では、
店長からの通信。市街地の奥まった路地裏だが感度は良好。作戦発動に支障無し。
〈海山會が国際犯罪組織『DEMONS』の日本における出先機関であったことは周知の事実だが、奴らが本格的にこの国の黒社会に浸透したのは、1991年に
〈金のためなら土地、クスリ、武器、ヒト、何だって
「であれば、遠慮は無用ですか」
応答するゲン氏の手には既に、無骨ながらも洗練された黒鉄の自動拳銃───H&K HK45Tが握られている。鎖を解かれた猟犬のような、努めて冷徹ながらも危険な獰猛さを秘めた瞳。
「や、遠慮は要らないけど加減はするようにー。いいかねゲン隊員?」
「あぁ、そうだったな。承知した」
……本当に大丈夫かな?
◇ ◆ ◇ ◆
インターネットとそれを応用した遠隔地同士を繋ぐサービスが普及した昨今、物流の拠点となる施設の需要は数限りない。そして我が国が自由資本主義に基づく経済競争を肯定している以上、事業の統廃合に伴う建物や土地の所有権の放棄もまた日常茶飯事だ。
故に『ラジアータ』の監視網をもってしても、このような倉庫街を根城にする反社会的組織の摘発は後手に回りがちとなる。監視カメラなどの導入が進んでいない界隈なら尚更に。
〈いやぁ、久々に諜報担当っぽい仕事したわ~! やっぱり最後に物言うのは人の足よ足〉
〈はいはい。黙って喫茶店のウェイトレスやってれば様になるのにな、いつまでもこんな世界に足突っ込んでるから男が出来ないんじゃないか〉
〈……さすがにライン超えじゃないかしら〉
〈……すまん〉
私も完全にクルミと同意見だが、まぁミズキさんにも相応の信念信条があるということか。そもそも、DAが『卒業』以外で構成員の足抜けを許したという話は──少し前まで我々の同僚だった『
そう言えば、ミズキさんってどういう経緯でリコリコ支部に来たんだろう?
「たきなー、そろそろ突入ー」
「はい」
おっと……その前に、今は仕事だ。
「ありゃ、
「排気ダクトは見かけましたが、金網で補強されてましたね。今から工具で取り外すには手間取りそうな……」
「───迂闊だな。秘匿性を考慮したのだろうが、落とされて困る本丸ならば、可能な限り守りを固めるべきだろうに」
「へ?」
千束が素っ頓狂な声を上げたのと同時、ゲン氏がH&K HK45Tを構える。
視線の先、照準しているのは施錠されたドアの横の窓。見たところ特に変わった点は無い。
「……まさか!? ちょ、待───」
「押し通る」
瞬時にして銃声3つ、ガラスに穴が開いたが早いか、それに倍する甲高い音が鳴り響いた。
肩口からのタックルで窓を叩き割り、前転を挟んで流れるように立ち上がったゲン氏は、そのまま猛然と走り出す。
「ぬわーッ!! あの
「言わんとするところは理解しますが、呆けてる場合じゃありません! 行きますよ千束!」
敵アジト内は蜂の巣を突いたような大騒ぎだ。それと小さい悲鳴もいくつか。
奥へと向かう道中にはさっそく数人の男が倒れていて、いずれも肩か脚──大腿動脈を避けて膝から下──を撃ち抜かれ、鼻っ柱を叩き折られている。
敵の装備はナイフや
とはいえ、突入から2分足らずでこれだけの人数を制圧したとなるとなかなか驚異的だ。
「ンだゴラァ!? テメェ、どこの組のモンっ───」
「フン」
千束に道中の敵の応急処置と拘束を任せ、アジトの中心部らしい開けた部屋に先行。
ゲン氏はというと───正面に居た恰幅の良い男に2度発砲、それから身体を回して後方から迫っていた2人にもう1度ずつ発砲。後者は肩口、というより鎖骨から胸骨にかけてを砕かれて崩れ落ちた。勘だが、あれは非殺傷の約束が無ければ
「クソが、起きろテメェら! ボヤボヤしてないで囲め囲め!」
当然敵もさる者、アジト内に詰めていたと思しき人員を景気良く吐き出してくる。しかし。
「───すまない。非殺傷任務なら、真っ先に試みておくべきことを忘れていた」
「あァ!?」
「貴君ら、
「……は?」
「先ほど制圧した人員の治療については保証しよう。求められるなら正式に謝罪してもいい。そしてその後、貴君らが正式に出頭し、罪を償うというのならばそれに越したことは無い……悪い提案ではないと思うが?」
───……。
「な……なななな、な……」
……、何言ってるのあの人?
「ふざけやがってこのクソガキがアァ!! 海山會をナメんじゃねぇ!!」
趣味の悪い白スーツの太った男が拳銃を取り出した。男の号令で集まった仲間も、全員ではないが数人ほど銃を持っている。
そして、複数の銃口が己を照準していても、灰髪の少年は乾いた態度を崩さなかった。
「そうか。残念だ」
集団が引き金を引くよりも、猟犬の動き出す方が速い。
白スーツの、恐らくはこの拠点の責任者であろう男に1度発砲。相手は咄嗟に避けたものの、こめかみを掠めたようで切れて血が出ている。……まさか、避けられて軽傷に収まる前提で、わざと眉間を狙ったのか?
乱雑に配置された事務机やドラム缶、コンテナの陰に滑り込みながら、適宜その周辺の敵を排除していく。注視してみれば、『殺さない動き』というより『
対多数戦の定石に忠実に、とにかく足を止めず包囲を許さない。一方の敵を掴み、関節を
人一人を引きずり回しながらあれだけの打撃を放てるとは、私たちには真似できない力強さだ。何よりも行動に逐一迷いが無い。"星谷ニコル族"……言い得て妙かも知れない。
「ゲンさん!」
「あぁ、井ノ上殿。錦木殿は?」
「あなたが道中で制圧した敵の拘束を。もうすぐ合流するでしょう。援護します」
「かたじけない。上の相手は頼む!」
施設最奥部の大部屋は吹き抜けとなっていて、上階から繋がる足場が多数合流している。騒ぎを聞きつけた敵が各階から集まりつつあり、多少遠間だが私なら射程圏内だ。
「ごめん遅れた~! ……って、あー。こりゃ私の出番ない───な、ぁっ!」
「ぐえっ!」
出番はあったようだ。西側の出入り口から現れた金髪の男に『先生の弾』を見舞う千束。
今は、部下を盾にするかの如く逃げ回る白スーツの頭目を、ゲン氏が執拗に追いかけているような状態だ。私が周囲の露払いをし、ゲン氏の後背へ千束がカバーに入る。
「く、クソッタレ。ガキどもがっ……、畜生ォ!!」
白スーツの頭目が、部屋の奥の金庫横に置いてあった縦長のジュラルミンケースに飛びつく。
中から現れたのは───
「む───」
「おっとぉ、こういうのは私にお任せッ!」
「承知したッ」
流れるような
ゲン氏は振り返りざま、千束の背後に追い縋っていた巨漢の顔面に渾身の右フックを放った。距離が開いていても『バキッ』という快音が耳に飛び込んでくる。
小銃の強烈な発砲音、しかし相手は錦木千束だ。視線が通っている限り『英雄』に銃火器は通用しない。
「何で当たらなっ……ひぃ、バケモ───」
「レディに向かって失礼だぞオッサン~!!」
回し蹴りが男の側頭部を刈り取った。アサルトライフルの銃口が下がり、無防備となった胴体に
「叔父貴ィィ!!」
「たきな! ゲンさん!」
「う……駄目だ、ズラかるぞお前らっ……がぁ!?」
背を向けて走り出そうとした作業服の男を、ワイヤーガンで拘束。今の敵で最後だ。
上階足場に並んだ敵は、ゲン氏があらかた片付けてしまっていた。周囲のコンテナを足掛かりに跳躍し、下ろされていなかった梯子に強引に飛びついて登ったようだ。
格闘術の原型は同じく柔道のようだが、いわゆる"理合い"にこだわらず積極的に打撃と武器攻撃を行うスタイルは、自衛隊式ともリコリス部隊式とも毛色が違う。リリベル部隊式、
「片付いたようだな。……それにしても……あれが件の『
「ゴースト?」
「生き残りのリリベルの間ではそれなりに有名なんだ。所詮は伝説と半信半疑だったが、こうして目の当たりにした以上は現実と認めざるを得まい」
「幽霊ごっこはもう卒業しちゃったんだけどな~。……てかさ」
感心したような、あるいは怪訝な目をしているのは千束も同じだった。
ゲン氏、戦力としては申し分なかったと思う。何か気になることがあったのだろうか?
「───そっちだって、どう見ても
「えっ」
灰髪の少年はあっけらかんとしている。
言われてみれば確かに、如何に素早く注意深く立ち回ろうと……もとい、あの至近距離で銃を持った相手に格闘戦を仕掛けて、まったく被弾無しというのも妙だ。
しかし、現実にゲン氏は傷一つ負ってないのだから……。
「あぁ。……まぁ、貴君らになら話してもいいだろう。秘密はこれだ」
ちょいちょい、とジャケット───リリベル制服の襟を引っ張って示すゲン氏。
そもそもが見慣れていないので気に留めていなかったけれど、千束曰くリリベルの階級も制服あるいは戦闘服の色で分かれているらしい。恐らく上から赤、薄青、灰の順。
そして、ゲン氏が身に着けている漆黒の制服は、そのどれとも似ていない。
「今回の任務にあたっての激励というか、DAの技研から預かった代物でな。セラミック基複合材と炭化ケイ素を織り合わせた耐熱生地に衝撃吸収ゲル、それからメタマテリアルによる電磁シールド展開機能を備えた最新の『防弾スーツ』だ。各機能の制御は
「待って待って待って急に難しい言葉使わないで」
「錦木殿も無関係ではないと聞いたぞ? ナノマシン制御による多機能複合装甲は防衛庁でも研究中だったが、稼働電力の確保がネックだった。そこに錦木殿、DEMONS事変で貴君の人工心臓の緊急メンテナンスに使われた、『アラン機関』製のナノマシンの解析データが役に立ったようだ。今では
「へぇ……」
思わず声が漏れた。あれほど高機能な代物となるとコストも相応になるだろうが、将来的に量産化されて普及すればリコリスの死亡率も大きく下がるはずだ。なかなか希望の持てる話である。
「……あ、言い忘れていたがこれは一点物だ。防護されていない部位を撃ち抜かれれば死ぬので、任務の際はまたフォローを頼みたい」
「それはわかります」
……この人、たまに天然っぽいのは何なんだろう?
安心してください、ただの百合に挟まる男じゃありませんよ。