萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
なんか一気に寒くなって体調ガタガタなんですけど、読者の皆さんは気を付けてくださいね!
喫茶リコリコに新しい仲間───ゲンさんことエージェント・ゲンティウスが加わってしばらく。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
ゲンさんはどうも表情の変化に乏しく、そんな彼が接客業に従事するとあっては少々不安──その懸念を千束に伝えたら驚いたような呆れたような顔をされた。心外だ──だったが、正面戦闘が主任務のリリベル部隊でも
平時の仏頂面からは想像もつかないほど爽やかな笑みを浮かべ、給仕はもちろんのこと、店長や千束の調理の手伝いにまで入っている。私でさえあそこまで信頼されるには3ヶ月かかった。クルミは未だに厨房の出入口を跨ぐことを許されていない。
「千束が戻りましたよ~!」
「おかえりなさい……」
「あっ。そうそう、見てよこれ! 食べモグの口コミでさぁ、『最近入った店員の男の子がカッコいい』って! 絶対ゲンさんのことだよね、ねっ」
「そうなのか? 何も特別な貢献はしていないが」
千束はものの2週間ほどですっかりゲンさんに懐き、その様子を見ていたミカ店長、ミズキさん、リコリコの常連客諸兄も徐々に彼との距離を詰めつつある。クルミだけは警戒を解いていない……というか立場上
……そして、何より厄介なのが、
「井ノ上殿、5番と7番テーブルの始末は俺がやろう。今日は客足も落ち着いている。早めに切り上げて休憩に入るといい」
「あ……、はい。ありがとう……ございます」
───私自身、彼と接していて悪い気分ではないことだ。
まぁ、その、単純に助かってはいる。ものすごく助かっている。あれこれの気配りを欠かすことは無いし、私たちや足の悪い店長には難しい力仕事も率先してやってくれる。
裏の仕事でもそう。後衛向きの私と、『避けて殴る』戦法ゆえに意外と"待ち"に回りがちな千束を補うように、攻撃性と突破力に優れた切り込み役として申し分ない。
ただ……なんというか、こう……。仮にも年頃の女性として、ちょっと同じ職場で働いただけの男性に、容易く気を許してしまうのは……こう……!
「そういやたきな、なーんかゲンさんに素っ気ないよね。苦手?」
「苦手……じゃ、ないですけど。そうですね……強いて言うなら、これまで周囲に居なかったタイプの人なので……」
「あ〜……、言われてみればそうねぇ。仕事人っぽい男の人ならDAの養成教官にも居るけど、あんなに紳士じゃないもんね。
そうして取り留めのない話をしていると、店の固定電話に着信。近かったので千束が取る。
「はいもしもし〜、リコリコ看板娘───げぇっ楠木さん!? あ、いえ、失礼しましたぁっ。……それで、なに? また仕事? いいけど最近やっぱ多いですよ、あんまり店空けてるとまたお客さんたちに心配され……あーはいはいわーかーりーまーしーたー! 聞けばいいんでしょ聞けば、ふんっ!」
口喧嘩は今回も千束の惨敗だった。
「先生ぇー、午後からリコリス来るって。また長くなるかもー」
遣いの人員が来るようだ。いつも通りならフキさんかヒバナかな。
ちなみにサクラとエリカは、『
「そうか、わかった。ミズキとクルミにも声をかけておく。ゲン君は───」
「虎杖司令からも、こちらに居る間のことは自分に任せるとお墨付きをいただいています。組織の一員として、余程の軍紀違反でもなければ協働すべきかと存じますが」
「……あの男にしては気前が良いな。まぁいい、君が居れば万事捗りそうだ。千束たちのバックアップを頼むよ」
さて、今回はどんな任務だろうか?
◇ ◆ ◇ ◆
臨時休業の看板を出しているはずの表から、来訪者を報せる鈴の音。
すなわちは『リコリコ支部』に用がある人間だ。
「お邪魔します」
「いらっしゃ〜い……あ!
「ご無沙汰してます、千束さん。ミカ教官にミズキさんも、それから───」
「井ノ上たきなです」
「DAの者で〜す。リコリコのシステム担当〜」
「エージェント・ゲンティウス。ゲンでいい」
クルミはそれでいいのか。と、まぁそのへんはさておき……。
「しばらく見ない内に賑やかになりましたね。では……はじめまして、冨加宮カズラと申します。この度は楠木司令からの任務を受けて参りました」
冨加宮カズラ───
背丈は私や千束より一回り高く、ミズキさんと変わらない程度。品良く纏められた後ろ髪といい、理知的な雰囲気を醸し出す丸眼鏡といい、なるほど『委員長』というニックネームがよく似合う。
「おー、しばらく見ない内にファーストになったんだねぇ。おめでとっ」
「ありがとうございます。実はもう2年目になるんですけど、なかなかお知らせする伝手が無くて」
「そりゃしゃーない。あっ、名前はいま聞いたけど改めて紹介するね。こちら
「え」
そうなのか? 人は見かけによらないものだ。千束の2つ3つ上と言われても信じてしまいそうなほど落ち着いている。
「個人成績のランキングじゃいっつも上位でねー。ここ数年はニコルと並んでワンツーフィニッシュだっけ?」
「えっ?」
「そうですね。捕縛や討伐補助の場合はカウントされませんから、チームでの総合成績はドットフィフスにも劣らないと自負していますが」
「んや、それがいいって。誰でも彼でも片っ端はダメだよ」
う~ん……世界は広いし、世間は狭いな。
あのニコルに次ぐ戦績とはつまり、リコリス全体でも最上位の実力者ということだ。私より年下(らしい)でファーストの制服に袖を通していることが何よりの証左である。
一国の首都を守っているのだから当然と言えば当然だが、東京支部に属する人材の層の厚さには舌を巻く他ない。たかだか真島の尻尾を掴んだ程度で本部に復帰できると思っていた自分の甘さを痛感する。
「カズラ。積もる話もあるだろうが、それはもう少し後にするといい」
「あぁ、これは失礼しました。では───」
各種書類の入った封筒が店長に手渡される。中身を検めた店長はやや厳しい顔をし、それを共有されたミズキさんも似たような表情。
「ん? どったの二人とも」
「単刀直入に言いましょう。今回の任務は、『星谷ニコルの追跡』です」
「───っ……!」
……あのビル屋上での決戦の顛末について、私と千束は店長やクルミにすら事実を明かしていない。
DEMONSと真島一派が引き起こした全世界同時多発テロと『ラジアータ』のクラッキングが重なり、現場は空前の大混乱を呈していた。そこで私たちは表向き、延空木の戦闘で負傷してからの撤退中にDEMONSの襲撃に遭い、命からがら撃退したということになっている。
リコリコ組は何となく事情を察しているに違いないし、恐らく楠木司令も私たちに隠し事があるのには気づいていただろうが、今日まで追及されることは無かった。
「司令部は以前より、DEMONS事変の折にMIA判定を下されていた元・
それが、先日の『海上プラント占領事件』で、私たちはついに再会を果たした。
現場には後詰のリコリス部隊が控えていて、ニコルたちは未知の機動兵器に乗って離脱したが、ともかく彼女らの生存はDAも知るところとなったのだ。
「『ラジアータ』の改修は完了しているものの、稼働停止期間中に山積した種々の案件に対して
「ふ……、ふぅん? それで、知り合いの私たちに探すのを頼みたいってこと?」
「えぇ。リコリコ支部には『ラジアータ』のバックアップが失われた状況下でも、十二分の作戦遂行能力がありますので」
眼鏡の奥の視線が私たちを見回す。……クルミを見ている時間が若干長かった気もする。
まぁ、ハワイで活動していた時期は事実そうだった。愛用の
「ちょっと待ちなさい。『ラジアータ』に頼れない状況なのはわかったけど、その手の
「本部から離れているとはいえ、俺もしばらく脱走者の噂は聞いていないな。DEMONS事変の混乱も収束しつつある今、"
「それは……、ご尤もな指摘ではあります。しかし」
カズラさんは、眼鏡の弦をくいっと押し上げながら言った。
「
「…………あ~……」
私含め、リコリコ組のほぼ全員が頷いた。店長とゲンさんは若干ピンと来てない感じだった。
「実は近々、複数の新興犯罪グループが連合を組んで、黒社会に新たな経済圏を築こうとする動きがあります。国際的にも海山會に代わるDEMONS傘下組織として注目されており、大半の海外勢力は歓迎路線を取っている一方、国内外を問わずこれを快く思わない者も居るでしょう」
「世も末というやつか。実はハワイに居る間にも、古馴染みからの連絡が増えていた。DEMONS事変の傷が癒えるまで、どこの国も長くかかるだろうとは思っていたが……こうも話が大きくなっていたとは。DAは何をしている?」
「DAは件の犯罪組織連合を仮称コード『
「ほう。まるで真島の亡霊だな」
クルミが妙に呑気な様子で言う。私たちは延空木の戦いにおいて、あの男が電波塔の壊れた窓から落ちていくのを見たはずなのだが……この辺りは彼女の『ウォールナット』としての顔にまつわる領分らしく、未だ多くを明かされていない。
とはいえ、クルミの
「いやに的確な喩えですね……まぁ、それはともかく。星谷ニコルとその雇い主がDANEに接触、ないし干渉することは確実視されています。そこに網を張って───」
長身の
しばらく視線を交わした後、頬を緩めてから続ける。
「わかってます。『いのちだいじに』、ですよね。目下のところ、彼女がDAや日本の国体に深刻なダメージを与えたという話は聞きませんし……特記戦力としての価値と、本気で敵対した場合の損害を鑑みれば、楠木司令も無下には扱えないでしょう。ちょうどこのリコリコ支部のように」
「やったっ! さすが委員長、話がわかる~!」
「要するに、ニコルを見つけて連れ戻すってことでいいのね?」
「
「そうですね。俺とて皆さんと同じ釜の飯を食った間柄、そのご友人とあれば命を救うに異論ありません」
───話を切り出された瞬間はどうなることかと思ったけれど、これなら大丈夫そうだ。
私だって、もうニコルを撃ちたくは──
「長丁場の任務になります。明後日の朝にまた迎えに参りますので、それまでに準備を整えておかれますよう。───『延空木の双翼』と共に戦える日を、楽しみにしていますね」
「……はい!」
「ゑ? 委員長、いま変なこと言わなかった? ねぇ……ねーぇー! ソウヨクって何のことだよぅー!」
待っていて、ニコル。いま迎えに行くから……!