萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ 作:ごまぬん。
原作2話、電車内でのシーンは端折りましたが、これに関しては公式が最大手なので仕方ないですね。
ちさたきの医療効果はWHOにも認められています。
特急列車を乗り継いで、依頼主との合流地点に向かう。
道中、千束さんがやたら駅弁を食べたがったり、口に煮卵を突っ込まれたり、無駄に
ちなみに私は、昼食は栄養ゼリーで済ませている。移動の際に嵩張らないという理由が第一だが、激しい戦闘が予想される以上は胃の中を軽くしておきたいというのもあった。
まぁ、それはそれとして、千束さんがくれた煮卵は結構おいしかった。
◇ ◆ ◇ ◆
「ねぇたきな。今回の依頼主の───『ウォールナット』ってハッカーさんと合流したら、どうやって
「……。本当に何も聞いてないじゃないですか……」
作戦については、行きの電車内で散々説明した通りなのだが……。
「ごっめ〜ん! もっかい説明お願いっ、神様仏様たきな様!」
努めて声に出さないように溜め息をつく。
この人、普段のミズキさんやニコルとのじゃれ合いを見ている限り、地頭は悪くないはずなのに。
「店長が車を用意してくれているようです。あちらの駐車場ですね」
「おっ、マジ? はいはーい、千束が運転しまーす!」
千束さんが? それは───その、何というか。
控えめに言って、かなり不安だ。
「……いえ。私が運転します」
「えー? なぁんでぇ。たきな、運転できんのかよ〜」
「出来なきゃリコリスになれないじゃないですか」
18歳未満での車両運転資格。帯銃と犯罪者排撃の
正確に言えば『制服』は万能のカードではなく、リコリス個人の年齢や適性によって付与される権限が異なるのだが、セカンド以上の階級なら運転資格くらいは持っていて当然である。
「もうそろそろです。確かこちらに……」
「うおおぉぉぉ!?」
飛び上がって目を輝かせる千束さんの視線の先、件の駐車場の一角には、鮮烈な赤に塗装されたスポーツカーが停まっていた。
自動車にはあまり詳しくないが、流線型のボディには合理主義的な機能美があり、外観からして高い運動性能を予感させる。
「スーパーカーじゃーん!! すっげーすっげー!」
男子小学生か?
見かけ上及び社会通念上は女子高校生に相当する生物の手前、私はそう口にするのをどうにか堪えた。
「あぁ~ん、やっぱり私が運転するぅ~!!」
……しかし、速度が出そうなのは良いが、派手過ぎるな。よく目立ってしまう。
過去にDAで教官を務めていた店長が用意したにしては、どうにも違和感のあるチョイスだが……。
などと思っていると、駐車場の端の陰から、1台の白い軽ワゴンが飛び出してきた。
比喩的な表現ではなく、物理的に跳躍して駐車場外縁の柵を通り越し、道路へと着地する。
「うわっ!? なになに?」
「───ずいぶん派手な
せっかくの地味な外見が台無しだ。とはいえ、幸い周囲に敵影は見当たらない。
私たちが駆け寄っていくと、車窓が開いて運転手が顔を出した。
「"ウォール"!」
加工された音声の主は、膨れっ面の動物の
「"ナット"」
「よし。早く乗れ、追手が来るぞ」
「え? えっ? 今の何それ、合言葉? 嘘でしょカッコ悪……」
カッコ悪いかどうかはともかく、私も適当過ぎるとは思った。思ったが、こちらに居る今回の依頼人───インターネット黎明期から活動しているという凄腕ハッカー、『ウォールナット』に指定されたのだから仕方が無い。
「てか、え、あ、ちょっと! えぇ!? スーパーカーは!? スーパーカーが良いんだけど~!!」
それは知らない。
◇ ◆ ◇ ◆
少々手狭な車内に詰めて乗るや否や、千束さんがこんなことを言い出した。
「何で守られる側が颯爽と車で現れるのよ。普通逆でしょお」
ん。───それは確かに、私も思った。
千束さんに同調したという意味ではなく、単純に聞いていた予定と違ったからだが……。
「あ~あ。スーパーカー……」
まだ言ってる。あの車のどこが琴線に触れたのやら。
「目立ちますし、こっちの方が良いですよ」
「予定と違ってすまない、敵の動きが意外と素早くてな。ウォールナットだ」
「はぁい、千束です。こっちはたきな」
どうしても混雑している場合などを除き、車は高速道路を避けて下道を通っていく。
ルートの選択に淀みが無い。もし私や千束さんが運転していたとしても、同じ走行ペースにはならないだろう。
もしや、ネット上の交通情報をリアルタイムで精査しているのか? ハッカーらしいやり口だが、あの着ぐるみで運転しながらどうやって……?
「何かイメージしてた感じと違いますねぇ。ハッカーさんって言えば、もっとこう」
「底意地の悪い痩せた眼鏡の小僧とでも? だとしたら映画の見過ぎだよ」
『最強のリコリス』が小さく呻く。完全に図星だった。行きの電車でもそれらしいことを言っていたので間違いない。
「い……いやいや。だとしても
「ハッカーは顔隠した方が長生きできるってだけさ。───ぼくから見れば、
……、さすがは凄腕ハッカー。情報網も皮肉も一流ということか。
「クマのハッカーよりは合理的です」
「こらたきな。ありゃ犬だよ」
「リスだ」
何とも言い難い沈黙が、車内を支配した。
どうも、あれはリスらしい。
『
「……。どう合理的なんだ?」
リスの着ぐるみが空気を読んだ。
「? 何がです?」
「その制服が。殺し屋がJKの仮装をする意味だ」
「あぁ───」
千束さんが胸元の布を引っ張りながら答える。
明かしていいものかと思ったが、向こうはそもそも『リコリス』の名前を知っている手合だ。少なくとも今は雇用主でもあるわけだし、この程度の雑談は付き合っても損は無いだろう。
「簡単な話ですよ。か弱くてどこにでも居る普通の女の子。つまり、これが
「JKの制服は都会の迷彩服ということか」
言い得て妙だ。理解が早い。
今回の依頼を承認した店長は『重要なコネクションを作るため』と言っていたけれど、なるほど。これは敵に回したくない。
改めて、車内を見渡す。いざという時に備え、ドアの鍵の形式やエアバッグの位置を確認。
オーディオからは、何故か演歌が流れていた。ウォールナットの趣味なのだろうか。
それから助手席に─────。
「この
「ぼくのすべて。国外逃亡には身軽な方が良いだろう?」
「いやあんたの恰好は身軽じゃないですけどね」
「必要十分だ。コンピューターはどこでも調達できるが、命はひとつしか無い」
「そりゃご尤も」
依頼人相手に持ち前のコミュニケーション能力で軽口を叩きつつ、首を伸ばして後方を警戒する千束さん。その姿勢のまま再び喋り始める。
「でも、いいなぁ。私も海外行ってみたーい」
「一緒に行くかい?」
「私たち、戸籍が無いからパスポート取れないんですよ」
……楠木司令あたりに聞かれていたら、大目玉を喰らうどころか、暗殺部隊を派遣されそうな台詞だった。
錦木千束は色々と特別なので自覚に乏しいのかも知れないが、
国外への脱出など考えるまでもなく重罪で、もしそんな真似をすればDAに地の果てまで追いかけ回される。捕まった後どんな目に遭わされるかは想像すらしたくない。
「パスポートの偽造くらいなら出来るぞ。報酬から天引きでいいならやっておくが」
「マジで!? すごいぜ伝説のハッカー!」
「魅力的な提案ですが謹んでお断りします。それより」
千束さんがこれ以上余計なことを口走る前に話題を変える。
「追手は───来てませんね」
「そうね。このまま羽田へ?」
「いえ、一度車を変えるよう言われています。ウォールナットさん、ここは変更ありませんか?」
「問題ない。従おう」
「ではこちらに向かってください」
携帯端末に表示した地図を見せる。
DA情報部謹製のリコリス専用回線で通信するスマートフォン。『ラジアータ』と連携したセキュリティシステムと特殊な通信プロトコルにより、ハッキングのリスクを最小にしてデータをやり取り出来る。
「良い端末だな。偽造パスポートと引き換えで買い取れないか?」
「次言ったらリコリスの3個大隊が殺しに来ますよ」
どうやらこの人も"錦木千束族"のようだ。馬鹿と天才は紙一重と言うが、世の中には前者寄りの人間が多すぎやしないだろうか。
◇ ◆ ◇ ◆
「女2人乗せたぞ~。邪魔なら殺していい」
<すまない。公園辺りで振り切られた>
「チッ。使えねぇな、給料分働けよ」
ロボ太はそう吐き捨てて通信を切る。相手は一応の保険に雇った傭兵団だった。傭兵団とは言うが、実際には軍隊くずれの雑多な集まりだ。
とはいえ、ロボ太の本命がどのように行動するかは、ロボ太自身にも予測がつかない。制御が容易という意味では、あのような場末の傭兵団であっても、次善の策として確保しておく価値はある。
<……カッ、いけすかねぇ奴だ!>
「聞こえてるっての。終わったら後で
ちなみに、通信が切れたと思っているのは傭兵団だけだ。ロボ太の方は各地に展開したドローンを介し、現場の様子をリアルタイムで監視することが出来る。
「それにしても……ウォールナットめ、考えたな。『リコリス』を使うなんて」
やはりウォールナットは強敵だ。日本の公権力の使徒にして機密の塊であるリコリスを買収するなど、そう容易く出来ることではない。
業腹だが、認めざるを得なかった。昔からそうだった。ウォールナットは常にロボ太の上を行く。
「あぁクソ───そうだよな。お前はそうだ。そうでなくっちゃ。……だからこそ、超える意味がある」
そして、そんなことはロボ太自身が
ロボ太の力ではウォールナットを出し抜くことは不可能だ。自分の腹の内を読める敵を相手に、勝算など成立するはずも無い。
だから勝算を捨てる。自己保身と論理的思考を最優先とする、ハッカーの信念を捨てる。
「そいつらで
これは最高
自らの足下に奈落が口を開けているというのに、ロボ太は楽しくて仕方が無かった。
◇ ◆ ◇ ◆
車両の交換地点が近い。高速道路に入ってすぐのパーキングエリアがそうだ。
さしもの千束さんも、いい加減喋るネタが尽き、車内は徐々に静かになっていく。
「あれ?」
───はずだったのだが、ここで予想外の事態が起きた。
「おーい。さっきんとこ、高速乗るのでは?」
「どうした?」
「いや、それこっちの台詞なんだけど」
「敵襲ですか? ルート変更なら……」
周囲に視線を巡らせる。だが、敵影らしきものは見当たらない。
それどころか、車は少しずつ人気の無い方向、目的地とは無関係の方角に進んでいる。
「敵襲だな。こっちだ」
そして、私たちは信じられないものを見た。
運転手のウォールナットが、車のハンドルから手を離し、ペダルからも足を退かしている。
にもかかわらず、
「車を乗っ取られた。時代の流れとはいえ、電子制御アシストも良し悪しか」
「えぇ───ッ!? ちょちょちょっとちょっとちょっと!! ……うぎゃっ!」
千束さんが前部座席に身を乗り出そうとして、加速に伴う慣性に引っ張られて後部座席へ帰ってきた。
「ロボ太め。腕を上げたな」
「えっ誰!? てかなに感心してんの!! どこ行くんですかこれ!」
地図までは乗っ取られていない。カーナビの表示は……。
「加速している……、このまま海に突っ込むつもりだ」
悪趣味な敵だ。死刑宣告のつもりか?
「回線の切断を……!」
「言い訳になるが環境が悪い。今のぼくじゃ制御を取り戻せても一瞬だ。すぐ
「あ~ッもう! 何か私たちに出来ることは!?」
「───、物理切断。こちらの作業完了と同時に、ネットに繋がる設備を破壊できれば……」
「オーケー、やろっ!」
マガジンに装填されているのは例の非殺傷弾と思われるが、この距離なら対物破壊にも支障は無いだろう。
「で、ルーターどこよ?」
「知らん。ぼくの車じゃない」
店長に連絡して、この軽ワゴンの仕様を確認すべきだろうか? だが悠長に話している暇は───、いや待て。
「千束さん」
「?」
「あれを」
顔を上げて目線をずらす。何となくだが、
見据えるのはバックミラー。白昼の土手を行く私たちの車の後ろを、1機の
「はっはーん。あいつか」
「あいつ?」
「ドローンです。真後ろに1機」
「なるほど。……読めたぞ。ハンドルアシストを遠隔で
「うげ。横にもう1機……」
「準備の良い奴だ」
「一度で同時に決めないと逃げられますね」
千束さんに遅れてS&W M&P9を構える。
際限なく加速する車の振動は鬱陶しいが、幸いドローンの軌道は単調だ。この距離ならどうにでもなる。
「ありゃちょっと自信無いな。たきな、
「そのつもりでした。ウォールナットさん」
「わかった、合わせてくれ。3、2、1……」
今、という声と共に車窓を開け放って身を乗り出す。
ウォールナットが言うところの『一瞬』の正確な秒数がわからない。1射で仕留める─────。
銃声が4度。
私が1発。千束さんが3発。ドローン、2機撃墜。
「舌を噛むなよ」
すぐさま車内に飛び込む。あまりよく見えなかったが、海面が既に目の前まで迫っていた気がする。
急ブレーキ、タイヤゴムが発する甲高い擦過音、激しい振動、どうだ……!?
◇ ◆ ◇ ◆
「───はいみんな〜、とりあえず動かないで。せーので出ますよ」
「す……、スーツケース……」
「助かって第一声がそれ? コンピューターよりは命だってさっき……」
「私が持ちます」
がちゃん。
バタバタ、ガサゴソ。
ズルッ───ガタ、ずるずるずる。
バシャアァァァン…………。
あれ? ロボ太君の救済SSとして有能レベルをちょっと上げようとしただけなのに、何だこの湿度は?