萌え声人類種の天敵系ロリっ娘リコリス vs 俺たちのちさたき vs ダークライ   作:ごまぬん。

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井ノ上たきなとかいう女、ヤバくない? 色んな意味で。



Double or nothing(3/3)

 貴重なルーター機能付きドローンを2機失ったロボ太だったが、まだ焦ってはいなかった。

 いま仕掛けているのは()()()であって()()()ではない。

 

「ケッ……。おい」

 

<確認している。プランCだな?>

 

「わかってんなら話は早いな。見ての通り、武装した護衛が居る。何度もしくじるなよ」

 

<……チッ。お前ら、護衛が居る。慎重にな。行くぞ>

 

「ドローンはまだ1つ残ってる。敵の座標やらはくれてやるから上手く使え」

 

 とは言いつつも、ロボ太の興味は出撃した傭兵団ではなく、液晶モニターの右下に表示される現在時刻に集中していた。

 手筈通りならもうすぐ、今回用意した最大の爆弾が起動する。ロボ太自身にすら制御不能の鬼札が。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 最近ようやっと気づいたのだが、千束さんは目が良い。目が良いというか、視野が広いというか。

 多分、喫茶リコリコで接客業をやっている内に身に着いたスキルなのだろう。どんな些細な出来事にも成長へのヒントが隠れていると教えられた気分だ。

 

「……ん。とりあえず、場所変えよっか」

 

 脱輪ののち横転して海の底に消えていく軽ワゴン車を見送った直後、千束さんはそう言った。

 千束さんが注視する方向を一拍遅れて確認する。銃火器と防弾ベストで武装した集団。

 

「───はい。今は放棄されたスーパーの屋内に避難しています。3人とも目立った負傷はありません」

 

<わかった。交換予定だった車を回収してそちらに向かう。このあと合流地点を送る……無茶はするな>

 

「了解」

 

 とは言うものの……状況は芳しくない。

 完全ではないが、事実上の包囲状態だ。あらゆる壁の反対側から足音がする。

 

「……ま、じっとしてても始まんないよね〜」

 

「ウォールナットさん、スーツケースは私たちでお預かりさせていただきます。お荷物が心配なのはわかりますが、今はあなたの命が最優先です。なるべく身軽になってもらわないと」

 

「む……。……それもそうか。では、よろしく頼む」

 

「恐縮です。それと、一応聞いておきたいんですが」

 

「何だ?」

 

「このスーツケースはどの程度頑丈ですか?」

 

「ふむ……。まぁ、大事な商売道具だからな。カーボンシート積層の耐弾仕様だ、そこらの防弾ベストよりも硬いぞ。ただ中身は普通のコンピューター(精密機器)だから、あまり手荒に扱うのは()してくれ」

 

「そうですか。わかりました」

 

「っし。行くか! さ、着いてきてくださいっ」

 

 足音が近い。敵はすぐそこに居る。

 錦木千束の顔から飄々とした色が抜け落ち、『最強のリコリス』の目に変わる。

 

「───敵は、私たちで倒しますから! 走って!!」

 

 赤い制服の少女が、戦場へと躍り出た。

 

「ッ……居たぞ!!」

 

「やれ!」

 

 男が2人、店長からの情報通りライフルを所持している。

 ウォールナットを庇って私も前に出るが、これは───少なくとも、私は千束さんのような超人的回避能力を持たない。

 

「えっ」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。

 我らが依頼主には申し訳ないが、さっそく有効活用させていただく。遮蔽物代わりにちょうどいい。

 

「フッ……!」

 

「うっ!」

 

「あぁ!? クソッ……!」

 

 千束さんが1人仕留めた。いや、例の非殺傷弾だから仕留めたとは言わないな。

 スーツケースは縦に長い。背中から倒れ込んで陰に入る。そうしたら隙を見て上半身を出して射撃。

 

「た、盾に使うのは無しだ〜!!」

 

 ウォールナットを連れた千束さんが先行する。

 あの銃弾を避ける『最強』と、こんな閉所で戦う羽目になった相手には、敵ながら同情せざるを得ない。

 そもそも取り回しと隠匿性に優れた拳銃(ハンドガン)主武装(メイン・アーム)とするリコリスにとって、屋内戦は最も得意なフィールドだ。

 

「ちょっ、ダメですって!」

 

「大事なものだって言っただろ!?」

 

 ……と思いきや、どうやら戻ってくるつもりらしい。

 聞き分けの無い護衛対象は敵より怖い……!

 

「たきなぁ!! 何かそれダメらしいよ!」

 

 自動小銃で撃たれているのにか?

 

「無理言わないでください!」

 

 何だか少し腹が立ってきた。あぁもう、わかった。やればいいんだろうやれば。

 最短最善のやり方(ルート)は───決まっている。ウォールナットがうっかり射線に闖入してくるより早く、ライフル持ちを排除すること。

 

「すぅ……。はぁ……」

 

 4秒吸って、4秒吐く。

 青色に染まっていく視界の中で、あらゆる物理運動が停滞する。

 やがて弾幕が一瞬途切れ、何か乾いた音が聞こえた。リロードの隙。

 そこからの反撃に、2秒もかからない。

 

「─────!」

 

 吐息を無言の気勢に変えて、9mmパラベラム弾を叩き込む。

 

「うっ!?」

 

 ……ちっ。肩と腋を掠めただけか。

 まぁ、銃撃の痛みというものはたとえ軽傷でも想像を絶する。あれでもう銃は持てまい。

 

「おいお前っ!」

 

「ケースは無事です。早く先を」

 

 どうも釈然としない様子のウォールナットだが、釈然としないのはこちらの方だ。

 『コンピューターはいくらでも調達できるが自分の命はひとつ』という発言は何だったんだ?

 

「とうっ! ほっ!」

 

「グゥ!?」

 

「はい残念ッ!!」

 

「うわああぁぁぁ!!」

 

 断続的な銃声と、たまに響く打擲音。

 何やらくぐもった()()()のようなものが聞こえた気もしたが、合流した千束さんは当たり前のように無傷だった。味方ながら少々恐ろし……。

 

「後ろ! たきな!」

 

「っ!」

 

 咄嗟に身を翻し、ウォールナットともども通路の陰に入る。横目に様子を窺えば、半秒前までこちらが居た場所を照準している男。

 ───待って、この位置は……この位置だと、千束さんの避ける空間(スペース)が、

 

「大丈夫」

 

 白金の髪が揺れる。

 敵の銃口が火を噴く。

 

「あ……!?」

 

 人の目に捉えられぬ音速の死の影が、しかし何度放たれようと、錦木千束に掠りもしない。

 『英雄』はただゆっくりと、射手との距離を詰めていく。その歩みには一切の恐れが無い。

 

「なっ、何でッ」

 

 否。

 彼女は銃撃を恐れていないのではなく、()()()()()()()()と理解しているだけだ。

 "アマだがプロ寄り"───"専門家(プロフェッショナル)寄りの一般人(アマチュア)"である敵の狙いは精確ではない。ましてや動揺して腰が引けた今、弾道はひどくブレており、あれではむしろ下手に回避に走った方が当たってしまう。

 

「まぁね。ちょっと()()()()んだ、私」

 

 血の色の煙が弾け、苦悶の声。どさりという音。

 数発の追撃を加えた後、流れるような動作でマガジンを替えた白金の髪のリコリスは、私たちの方を見て片頬を上げた。

 

「だから()()()()()にも気づけちゃう。伏せて」

 

 問答無用の圧力を感じて、私とウォールナットは指示に従った。

 同時に私の背後から物音が鳴り、現れた敵がライフルを向けるより速く『英雄』の銃が咆哮する。

 

「あがぁ!?」

 

 私が肩を撃って無力化したはずの男だった。

 ……この為体(ていたらく)では、千束さんをどうこう言えないな。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「うっ……、うぅ……」

 

「ん、そのまま。手当する」

 

「な……にを……グッ」

 

「血ぃ出てるでしょー」

 

 また始まった。千束さんの"いのちだいじに"だ。

 ウォールナットも不思議そうな様子で見ている……。よかった、やっぱり私の感覚はおかしくないのだ。

 

「千束さん。事前の想定より人数が少なかったです。恐らく伏兵がどこかに……敵の増援が来るまでに脱出しましょう」

 

「少し待って」

 

「待てません。囲まれますよ」

 

「死んじゃうでしょ。こっちは」

 

 などと宣いつつ、学生鞄(バックパック)からダクトテープとワセリンを取り出す。

 発砲と刃傷沙汰が常である以上、携行装備として救護キットを選択するリコリスは珍しくない。

 だが、それを排撃すべき敵勢力に使うのは、この人くらいのものだ。

 

「脱出ルートを再検索した。今ならまだ敵にマークされていない」

 

 いつの間にか手に持っていたタブレット端末を弄りながら、ウォールナットが言う。

 

「なら安心だ。私もすぐに追いかけるよ」

 

 ……、……あぁ。

 彼女は上位階級(ファースト)だ。実力だって私より高く、張り倒して無理矢理連れて行くことも出来ない。

 何より、錦木千束はとんでもない頑固者で、私には彼女の決断を覆せるほどの気概が無い。

 

「───。……、行きましょう。ウォールナットさん」

 

「また後でね」

 

 頬を緩めてそう告げる『最強のリコリス』。

 必ずですよ、とでも言ってやれば良かったのに、私はどうしても返事が出来なかった。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「ゴッホちゃ〜ん。本当にあれがそう? 何か雑魚っぽいのしか居ないんだけど」

 

<知らねぇよ。真偽は半々って言ったでしょうが。よりにもよって()()()()にあったタレコミなんて、怪し過ぎるンですよ>

 

「ひひ、お偉いさんも大変だねぇ。そんなに『ラジアータ』を落とされたのが悔しいのかな」

 

<よーし。じゃあ今から、アンタがやる気を出しそうなことを言うから耳の穴かっぽじってよく聞け? 『ラジアータ』が無ぇとリコリスの存在が世間様にバレて、アンタの大好きな出撃ができなくなる。以上だ!>

 

「えっ!? そ、それは困る……! 御門、がんばろうね!!」

 

<了解なのです! 一緒にミカドたちの職場を守りましょー!>

 

<ハァ……。もう勝手にしてくれ。オレは降りるからな……>

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

 たきなとウォールナットが去り、残されたのは2人。

 自身の手を敵の血で濡らしながら、錦木千束は敵の命を救おうとしていた。

 

「……何の真似だ」

 

「見てわかんない? 応急処置」

 

「やめろ……、からかっているのか?」

 

「じゃ死にたいの?」

 

 弱々しくも低い声を出す男に対し、千束は小器用にも左手で処置を続けながら、右手でM1911DCMカスタムを抜いて突きつけた。

 

「や……。……やめてくれ」

 

「よろしい」

 

 男の頭の中は困惑でいっぱいだった。この少女は自分を生かしたいのか、それとも殺したいのか。

 後者でないことは間違いなかったが、それはそれで直観に反するのだから始末に負えない。

 

「───今日、夕飯は誰と?」

 

「何?」

 

「ディナーだよ。どこで誰と食べるの」

 

「……それを聞いてどうなる?」

 

「いいから。ほら言いな。言わなきゃドンだぞ」

 

「……。……家族、だ。場所は……決めてねぇ。たまには外食でもと、思っちゃいるが……」

 

「良いねぇ」

 

 そして、何でもない世間話のように答えてしまったが、そもそも男と少女は先程まで殺し合いをしていた仲である。

 男はふと思い当たって、半ば朦朧とする意識のまま告げた。

 

「だが……今日、一人、欠けた。お前たちが……」

 

「それは……ごめん。あぁ、でも、私が撃った人は大丈夫だから」

 

 千束は足元に散らばる、赤い合成樹脂の粉末を摘んで見せる。

 軍属上がりの男には、それが訓練用のゴム弾の残痕らしいことが理解できた。命を取り合う実戦の場で使う意味はわからないにせよ。

 

「───、クソッ。……もう行けよ、早く……」

 

「おう。後でちゃんと鉄分摂りなね」

 

 すべての処置を終え、千束は立ち上がった。

 たきなの分析によれば、もうすぐ増援が来るらしい。怪我人の回収は彼らに任せる。

 踵を返し、相棒と依頼人が待つ方へ─────。

 

「…………おい!!」

 

 向かう寸前で、呼び止められた。

 

「そっちは……そっちは、やめろ。うちのハッカーのドローンが見てる……。お前たち、待ち伏せされてるぞ」

 

 果たして───それは、どのような意図で発せられた言葉だったのだろうか。

 どこか誇らしい気持ちになったのも束の間、男の言葉の意味を理解した千束は、脇目もふらずに駆け出した。

 

 

 

◇ ◆ ◇ ◆

 

 

 

「こっちだ」

 

 リスがドアノブに手をかける。

 

「ちょっと……。あまり護衛対象に前に出られては……」

 

 黒髪の少女が続く。

 

「─────たきなあぁぁ!! 出ないでッ!!」

 

 『最強のリコリス』が叫ぶ。

 

 

 

 乾いた音が虚空を切り裂き、真紅の花が咲いた。

 

 

 

 着ぐるみの腹部が、赤く染まっていく。

 二人の少女の顔が、青く変わっていく。

 

 さらに一拍置いて、何十発もの銃弾が『ウォールナット』に殺到した。

 暁の色のシャワーを撒き散らしながら、それは滑稽なダンスを踊る。文字通りの死の舞踏(Danse macabre)。命が消える刹那にのみ燃える火花(スパーク)

 

 

 

 

 

 

「あは」

 

 そして、本物の雷光(Spark)が大気を貫き、千束たちの眼前で爆裂した。

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