ドラゴンボールはアビスに落ちてしまった!   作:ペン汁

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上昇負荷

 

 

 

 

 

 

 

 大穴の入り口付近に広がる街『オース』をガン無視して深界一層に降り立つセルジュニア。

 

「キキキッ」

 

 地球とは様相が全く違う自然環境を物珍しげに眺める。だが警戒は一切していない。

 この辺りにいる生物は全て自分の足元にすら及ばず、何があっても皮膚を貫かれることがないのを直感的に分かっているからだ。

 

 力場を鬱陶しげに手で払いながら、アビスのど真ん中を何の躊躇いもなく降り続ける。

 途中、小さな子供、アビスでは赤笛の探窟家と呼ばれる彼らに姿を目撃されるも全く意に介さない。気に留める価値もないほど弱いからだ。

 

 空を飛ぶツチバシを小さな手で掴み、お菓子のように生きたままポリポリと食べつつ、穴の底へと降下していく。

 そうして何の障害もなく、深界一層と二層の境目である、風乗りの風車が目に入った瞬間。

 

「待てーーーーッ!! セルジュニアーーーーッ!!」

「ギキッ!?」

 

 黄金のオーラと紫電を纏いながら、恐ろしいスピードで降下してくる男が1人。

 超サイヤ人2に姿を変え、セルジュニアを追ってきた孫悟空であった。

 

 今の彼には流石に勝てないと、焦った様子で穴の底へ向けて逃げるジュニア。

 しかし悟空の方が速い。ジュニアの体をガッシリと両手で掴み、お互いくんずほぐれつ絡み合いながら、深界二層の入り口である誘い森へと墜落した。

 

 

 

 木々を十数本薙ぎ倒して出来上がったクレーターの中心で。

 

「大人しくしろッ!!」

「キキッ!!」

 

 悟空の拘束から離れようと、全身をジタバタと暴れさせるセルジュニア。

 超サイヤ人2の力から抜け出せるほど、彼も強くはない。だが余りに暴れるので、悟空がどうしようかと意識を逸らした瞬間。

 

「ウキキーッ!!」

「あっ!!」

 

 セルジュニアが再び、ドラゴンボールが6つ入った袋を空高くへ放り投げた。

 だが腕と肩をガッチリ拘束され、殆ど手首と指の力だけで投げたからか、そこまで速くもない。これならば再び宇宙の彼方へ到達する前にキャッチできるだろう。

 

 

 ジュニアを後方へ放り投げ、『数十メートルジャンプ』してその袋を掴んだ。

 中身は確認するまでもなくドラゴンボールが6つ入っているのが分かる。

 

「へへーっ! 取り返したぞ、ドラーーーーーい“っッ!?」

 

 瞬間。

 悟空が袋を手放し、自身の頭を両手で抑えた。

 

「いたたたたっ!! いってええええっ!! 頭がめちゃくちゃいてーぞぉおお!!」

 

 今まで感じたことのないような痛み。何の前兆もなしに訪れた痛み。油断している時に来る痛みは身構えている時の倍以上だと言う。

 空に浮いたまま足をジタバタさせ、目尻に涙を浮かべる悟空。

 

 そんな彼の隙を、セルジュニアが見逃す筈もなかった。

 

 

 少し間を開けた両手を、右腰に構える。

 手の間の空間に高密度の青い気の塊が顕現し、周囲を眩く照らし始めた。

 

 チャージは3秒もあれば十分。

 バッ! と青い気と共に両手を前に突き出した瞬間、迸るような熱の奔流が一直線に悟空を飲み込んだ。

 

「ウキャキャキャーッ!」

 

 生みの親であるセルも使っていたかめはめ波。

 超サイヤ人2の悟空に致命傷を与えるには弱すぎるが、勢いよく吹っ飛ばすだけなら十分だ。

 

 かめはめ波に飲まれた悟空がアビスの内壁に衝突する。

 そのまま、クリリンの細胞から奪った精密な気の操作を利用してかめはめ波の向きを上向きに変え、間欠泉のように悟空をアビスの外まで吹っ飛ばした。

 

 

 

「ウキキ......」

 

 ニヤリと微笑を浮かべるセルジュニア。

 悟空が落としたドラゴンボール入りの袋を回収した後、深界二層の奥深く、逆さ森の方へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、アビスの外まで吹っ飛ばされた悟空。

 

「おわぁーーーーーーッ!!」

 

 深界二層と一層の上昇負荷をダブルに喰らったことで、重い吐き気と酷い頭痛が発生。

 漏れ出しそうな吐瀉物を手で抑えるうちに舞空術のコントロールを失ってしまい、落下速度を減速させる間もなく、オースの街へと勢いよく落下したのだった。

 

 

 

 

 

 

「な、何だ!?」

 

 ベルチェロ孤児院。

 偶々訪れていた黒笛のハボルグ、近くにいた赤笛のナットがすぐ近くで鳴った轟音に反応し外へと飛び出した。

 

 孤児院の扉を開けた所にある小さな広場。

 粉々になった石タイルの上に寝転がる、服が焼け焦げた黒髪の男。彼が先ほどの音の原因だと言うのはすぐに分かった。

 

「おい! 大丈夫か!!」

 

 ハボルグがすぐに駆け寄り肩を叩く。

 するとすぐに男はムクリと体を起こし、辺りをババッと見回す。

 

 そして、孤児院も扉から半目を出して様子を伺っているナットの方に駆け寄った。

 

「えっ!?」

「何ッ!!」

 

 黒笛のハボルグですら反応できなかったスピード。誰かは分からないが、危険だ。

 明らかに怪しい男からナットを守ろうと、護身用に身につけていた遺物を起動しかけた瞬間。

 

 

 ーーーナットのすぐ側にあった、花壇の花に水をやる時に使う、木製のバケツを両手で掴み。

 

「うぷっ、おぼろろろろろろろろ.......」

 

 ......男は勢いよく、胃袋の中身をぶち撒けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 


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