空城條士
真夏の街【絃神島】。
太平洋上に浮かぶその島は、カーボンファイバーと樹脂と金属……そして魔力で造られた人工島。面積は約180㎢。人口は約56万人。行政区分上は東京都絃神市となってはいるが、その実体は独立した特別行政区である。
更に暖流の影響の為、真冬でも平均気温は20度程度と所謂常夏の島である。
そんな絃神島にあるごく普通のファミレスの窓際のテーブルに、3人の学生が座っていた。彼らが囲うテーブルには飲み物の入ったグラスの他に何枚にも重なった皿、そして英語の教科書とノートが置かれていた。
「フゥ……やれやれ、漸く終わったと言ったところか」
1人の男が一息吐きながらグラスに入ったアイスコーヒーを飲む。男の外見は日本人と言うよりもヨーロッパ系に近い整った顔立ちをしており、癖っ毛混じりの茶髪に、体格も細身ながら鍛えられた肉体と言った、ファミレスの空間には場違いと言っても良い程の存在感があった。
「今は……4時前か」
男は自身の右手首に巻かれた腕時計を見て時刻を確認する。
「明日の補習まで今夜一睡もしないと仮定すると、約17時間と3分もあるが、お前さんの学力なら問題無いか。ジョジョ」
男を"ジョジョ"と呼んだ逆立った短髪にヘッドフォンを首に掛けた男子生徒"矢瀬基樹"は、シャーペンをクルクル回しながらそう言った。
「付き合ってくれて悪かったな。基樹、浅葱」
「いーって事よ」
「大体、あんたがテストをちゃんと受けていたらこんな事にならなかったけど。しかも英語
矢瀬が笑いながら答えているのを隣で爪の手入れをする華やかな髪型と校則ギリギリに飾り立てた制服を着た女子生徒"藍羽浅葱"は呆れた様な視線をジョジョ、
條士は首をコキコキと鳴らしながら呟く。
「別に狙ってサボった訳じゃあない。
「那月ちゃん相手にそんな言い訳は通じないわよ」
「分かってる。だが、あそこまで目の敵にするか?」
「あれじゃね?前にジョジョが那月ちゃんを"子ども先生"って呼んだからじゃないか?」
「嘘!?あんた命知らずにも程があるわよ」
「つい口が滑っちまったんだよ。案の定扇子をダーツの矢みてぇに投擲された。まあ、当たる前に掴み取ったが」
「余計油を注いでどうすんだよ」
そんな事を話していると、浅葱はスマートフォンの画面を見る。
「もぉこんな時間?んじゃ、あたし行くね。これからバイトだから」
グラスのジュースを一気に飲み干すと、浅葱は鞄を持って立ち上がった。
「それじゃあ條士、ご馳走様!」
「ああ。出来れば今度から食う量をセーブしてくれると助かる」
「勉強付き合ってあげてるんだから、相応の報酬を貰わないと割に合わないでしょ?それじゃあ」
そう言って浅葱は店を出て行った。
「しっかし、あんな見た目と性格なのに"天才プログラマー"なんて肩書きがあるとか反則だよなぁ」
「お前たち2人はかなり前から知り合いだったか?」
浅葱の後ろ姿を見送りながら頬杖をする基樹に條士が訊く。
「小学生に上がる前からの腐れ縁だからな。もうかれこれ10年以上だな……けど解せねえなぁ」
「何がだ?」
「あいつ、人の勉強に付き合うなんて珍しい事するんだなって思ったな。そう言うのあまり好きじゃねぇし」
「そうなのか?」
「頭良いとかガリ勉とか思われんのが嫌だと。昔あいつも苦労してたからな……。まぁ、今回は相手がジョジョだったからかもな」
基樹はコーラを飲みながら呟く。
「中学からお前たちと知り合った俺が言うのもアレだが、浅葱は元から面倒見は良いと思うがな」
條士がそう言うと、基樹は悪そうな笑みをする。
「へぇ、よく見てるな。浅葱の事」
「どうだろうな。さて、俺もそろそろ帰るがお前はまだ残るか?」
「いや、俺も補習は1教科だけだから後は徹夜で叩き込めば何とかなるし。俺も帰るわ」
「そうか。……言ってはおくが、お前の分は自分で払えよ」
「え!?奢ってくんねぇの!?」
予想外な言葉に驚く基樹に、條士は呆れる。
「浅葱には勉強を見てくれた礼として代金は持つが、お前は便乗して付いてきただけだろう?それにお前の補習は英語じゃあねぇしな」
「ケチだなぁ」
「言ってろ」
そう言って條士は勉強道具を鞄に入れて立ち上がると、基樹も荷物を片付ける。互いに会計を済ませて店を出ると、條士は店の外に視線を向ける。
條士が視線を向けたファミレス前の交差点の向かい側に、太陽の逆光をバックに1人の少女が立っていた。背中に黒いギターケースを背負ったその少女は、條士たちが通う学校の中等部の女子制服を着ていた。
「ん?どうした?」
「……いや、何でもねぇ」
後ろの基樹が不思議そうに訊くと、條士は素っ気なく答えて歩き始める。
◾️◾️◾️◾️
(やれやれ……尾けられてるな)
自宅へ帰る途中、條士は自身の後ろを約15m程距離を置きながら尾行するギターケースの少女に気付いていた。
(凪沙の知り合いか?……いや、だったら尾行はしないか。となると……
少し考えて結論を出した條士は悟られない様に普通を装ってショッピングモールの方へ足を運ぶ。そして入口近くのゲームセンターに入ると外に居る彼女の様子を窺う。彼女は中へ入らず出入口の扉の前で動きを止めた。條士と鉢合わせになるのを避ける為と言うよりも、
(さて、どうするか……。このまま
覚悟を決めた條士は出入口の方へ進む。そして自動ドアが左右に開き、少女と対面する。
「く……空城條士!」
條士が突然現れた事に、少女は上擦った声で叫ぶと重心を落として身構える。構えを見るに、何かしらの武術を身に付けている事を條士は見抜きつつ、溜め息を吐いて話し掛ける。
「やれやれ、そう身構えるんじゃあない。こっちに争う気はねぇよ」
「え?」
「取り敢えず話は聞いてやるから、何処か落ち着いた場所まで移動するぞ。構わないな?」
「あ、はい……」
少女は戸惑いながらも承諾する。彼女の返答を聞いた條士は少女を連れて移動を開始する。
(確か近くにスタバがあったからそこに行くか)
そう思った束の間、條士たちの前に見知らぬ2人組の男が行く道を阻む。
「ねえねえ、お兄さん。その子可愛いね。これからデート?」
「俺たちも一緒に行って良いかな?」
「あ?」
2人とも年齢は20前後と言ったところで、派手に染めた髪にホスト風のスーツと見るからに軽薄そうな外見をしていた。目的は少女である事は明確である。それとオマケ程度にカツアゲもするかもしれない。
條士は呆れながら少女の手を掴み、男たちを無視して先へ進む。そんな條士の態度に男たちが噛み付く。
「おい無視したんじゃねぇぞ!」
「さっさと女を寄越せつったんだよ!
プッツーーン!!
男の片割れの言葉に、條士の中で
「オイ、テメェ」
さっきまでの冷静さとは打って変わり、全身から怒りの感情が溢れ出しながら條士は少女の手を離して髪型の事を罵倒した男の方へ近づく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
「テメェ、
「はぁ?」
條士がそう言うと男は呆然とする。次の瞬間、
「ハグゥ!?」
「は?」
「え?」
謎の腕に殴られた男はくの字に折れ曲がった鼻から大量の鼻血を流しながら倒れる。少女ともう片方の男は何が起きたのか解らず呆然とする。そんな2人を他所に、條士は倒れた男の方を見下ろす。
「この髪の事を貶す奴は、誰だろうと許さねぇ」
「このヘアースタイルが
「はぁ?誰もそんな事言って──」
「確かに聞いたぞコラァ!!」
條士は頭に血が昇ったのか男の言葉が聴こえておらず、容赦無く顔を踏み付ける。
「テメェ、調子乗ってんじゃねぇ!!」
條士への怒りで片割れの男の瞳が紅くなり、口から牙が生える。それはまるで吸血鬼の様であった。
「D種!」
少女は変化した男の姿に表情を険しく顰める。
「
男の足元からドス黒い炎が噴き出そうとした次の瞬間、條士の背後から
『ドラララララララララララララララララララララララララァッ!!』
「フギャアーーーー!!?」
鎧の戦士は高速のラッシュ攻撃を全力で叩き込み、全身に強烈な攻撃を喰らったD種の男は断末魔を叫びながら大きく吹き飛び地面に倒れる。
男その①【吸血鬼】
男その②【獣人族】