ブラッド・オブ・ジョジョ   作:けーやん

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人工生命と黄金の生命 その1

アイランド・ノース──企業の研究所が建ち並ぶ、絃神島北地区の研究所街。島内でももっとも人工島らしさを感じる未来的な街の片隅に、目的の研究所跡地があった。

 

「あれが製薬会社の研究所ですね」

 

街路樹の陰から顔を出して、雪菜が警戒した表情で訊いてくる。

 

「ああ。念写した写真とSW(スピードワゴン)財団からの情報通り、あれで間違いない。この研究所街で人工生命体(ホムンクルス)の施設は此処だけだ」

 

條士も街路樹の陰に身を隠しながら答える。

 

そもそも人工生命体(ホムンクルス)とは、生化学的な技術によって創造された生命体の総称である。遺伝子レベルまで完全に人為的に設計されているのが、合成生物等との決定的な違いであり、技術的な難度は高いが、その分設計の自由度も大きい。

 

原始的な人工生命体(ホムンクルス)の製法は、16世紀には既に確立されていたといわれている。安価な労働力を生み出すため、或いは人類の良き友人となる様にと様々な人々の手で長く研究が続けられていた。

 

しかし結果的に、人工生命体(ホムンクルス)が一般に広く普及する事はなかった。

 

それには大きく2つの理由があると言われている。1つは倫理的な問題だ。生命の創造は、造物主である神の領域に人間が踏みこむ行為であるとして、宗教界を中心に根強い反発があった。また、創り出された人工生命体に人権を認めるか否か、という点でも激しい論争が続いており、いまだに結論は出ていない。

 

そしてもう1つは、単純に製造コストの問題である。労働力として使うにせよ、兵士として戦場に投入するにせよ、人工生命体(ホムンクルス)の製法はあまりにも繊細で、費用が掛かり過ぎるのだ。クローン技術などによって本物の人間を使った方が、圧倒的に安く済ませられるのである。

 

その為、人工生命体(ホムンクルス)の製造は今では殆ど行われておらず、研究する科学者も随分減っていると言う。

 

しかし、現在でも例外的に人工生命体(ホムンクルス)の研究が盛んな分野がある。それは人工生命体(ホムンクルス)技術を応用した医薬品の開発だった。人為的に遺伝子構造を変更できる人工生命体(ホムンクルス)は、新薬の臨床実験や免疫抗体の研究などに最適で、医学の進歩のためという大義名分によって、倫理的な批判もある程度は沈黙させられる。そのため大手の製薬会社のほとんどが、自社の中に人工生命体(ホムンクルス)を製造、研究する施設を持っていた。

 

このスヘルデ製薬の研究所も、嘗てははその様な医薬品研究施設の1つだったらしい。

 

「一応聞きますが、本当に着いて行くつもりですか?」

 

そう言って雪菜は、背負っていたギグケースを降ろすと、すらりと銀色の槍を引き抜いて、穂先の刃を展開する。

 

「今更過ぎるんじゃあないか?俺が居なかったら姫柊は此処まで来れなかっただろ」

 

「そうですが……。けど、先輩は攻魔師ではありません。自分を危険に晒す必要なんて」

 

「それこそ今更だ。それに、俺の監視役である姫柊の身に何かあれば、俺の中に後味の悪いものが残るし、凪沙や浅葱たちが心配する。なら、一緒に行くべきじゃあないか?」

 

條士がそう言って雪菜を見つめると、その勢いに気圧されて雪菜が沈黙する。

 

「わ……分かりました。確かに先輩の言う事にも一理あると思います」

 

小さく咳払いして、雪菜は真面目な表情を作った。

 

「そもそもわたしの本来の任務は先輩の監視ですし、先輩から目を離すべきではないですね。なるべく一緒に行動しましょう」

 

「ああ」

 

すると、雪菜は自分よりも長身の條士の顔を見上げ、辛うじて聞き取れるくらいの小声で呟く。

 

「あの、先輩……」

 

「何だ?」

 

「ありがとうございます」

 

「……何の事か分からないが、どういたしまして」

 

條士はそう言い、雪菜と共に建物へ向かう。

 

 

◾️◾️◾️◾️

 

 

閉鎖された研究所の建物には鍵がかかっていた。ガラス張りの正面玄関は勿論だが、通用口の扉も太い鎖と南京錠で封鎖されている。安物の南京錠は赤く錆びついて、長い間使われていなかった事を示していた。

 

だが、條士は違和感を感じていた。

 

「これは……幻術の類か?姫柊」

 

「はい。先輩、少し離れて下さい」

 

雪菜は銀の槍を通用口の扉に突き立てた。その瞬間、甲高い高周波音が鳴り響き、目の前でガラスが砕け散ったような気配があった。そして、通用口を縛っていたはずの鎖と鍵が消滅し、ゆっくりと扉が開いていく。

 

「当たりだな」

 

「はい。しかし、先輩。魔術が使える訳でも無いのに、よく幻術に気付きましたね」

 

「主に爺さんの付き添いによる経験だ」

 

建物の中は暗かった。祖父の調査に同行して来た事で暗闇でも歩く事が出来る條士は兎も角、雪菜もそれを苦にした様子も無く奥へと歩いて行く。おそらく、霊視と呼ばれる剣巫の特殊技能なのかもしれない。弱冠14、5歳の少女が此処まで技術を身に付けている事に、條士は少し興味を抱くも、先へ行く為にその考えを一旦止める。

 

「姫柊」

 

「はい。当たりです」

 

條士と雪菜の目の前にまるで教会の聖堂の様な、天井の高い広い部屋が広がっていた。ステンドグラスの代わりに壁際に並んでいるのは、円筒形の水槽で、それぞれ直径は1m程はあった。高さは2m弱と言ったところで、それらが左右合計で20基ほど、整然と配置されている。

 

水槽の中には、濁った琥珀色の溶液が満たされていた。採光窓から射しこむ光が溶液を淡く照らしていたが、美しいと呼ぶにはほど遠い光景だ。  そこはただの実験室だった。廃棄された人工生命体(ホムンクルス)の調整槽だ。

 

「これが…… 人工生命体(ホムンクルス)だと」

 

琥珀色の溶液の中を漂っているのは、子犬程の大きさの奇妙な生物たちだった。その姿は、伝説の魔獣の様でもあり、或いは美しい妖精の様でもあった。いずれにせよ、自然界に存在するモノでは無かった。

 

「……ッ。姫柊、構えろ」

 

「はい!」

 

僅かに聞こえた呼吸音を察知した條士の言葉に、雪菜は條士に背中を向けて銀色の槍を構えて姿勢を低くする。すると、水槽の陰から現れたのは、藍色の髪の少女である。薄い水色の虹彩が、自分に槍を向けている雪菜を無表情に見つめている。

 

アスタルテと呼ばれていた、 人工生命体(ホムンクルス)の少女だった。

 

「あいつは」

 

アスタルテの存在に気づいて、條士も振り返った。しかし雪菜は、ハッとしたように條士の目の前で左の掌を広げる。

 

「先輩は見てはダメです!」

 

「おい」

 

「見てはダメです。此方を向かないで下さい!」

 

「姫柊。視界を塞ぐな。此処が敵地なのを分かってて言ってるのか?」

 

條士は雪菜の掌越しにアスタルテの姿を見ると、彼女の足元には、透明な雫が滴り落ちていた。 人工生命体(ホムンクルス)である彼女は調整を終えて水槽から出てきたばかりだった。

 

そして、彼女が身につけているのは、手術着のような薄い布きれが1枚だけ。その布も濡れそぼっており、彼女の素肌にぴったりと張りついている状態で、殆ど裸同然の際どい姿をしていた。

 

「先輩……」

 

アスタルテを見る條士を睨んで、雪菜が低い声を出す。條士はそんな姫柊に呆れながら言う。

 

「生憎、俺にあんな小柄な女の体を見て興奮する性癖は持ち合わせていない。何をそんなに睨んでいる」

 

「……いやらしい」

 

荒々しい溜息を洩らして、雪菜が怒った様にそっぽを向く。

 

しかし條士は、アスタルテを警戒し続ける。透けるように白い彼女の肌に、虹色の影が揺らいでいたからだ。

 

するとアスタルテが、唐突に静かに口を開く。

 

「……警告します、直ちに此処から退去して下さい」

 

「何?」

 

少し予想外だった彼女の言葉に、條士は聞き返す。その間に雪菜は槍の構えを変えていた。警戒ではなく先制攻撃が可能な体勢に。しかしアスタルテは無防備な姿を晒したままで淡々と繰り返す。

 

「この島は、間もなく沈みます。その前に逃げてください。なるべく、遠くへ……」

 

「島が沈む?」

 

條士は眉間に皺を寄せながらアスタルテを見る。抑揚の乏しい機械的な声のせいか、アスタルテの言葉は素直に信じられた。人工生命体である彼女が、こんな形で條士たちに噓をつく理由が無いからだ。

 

「〝この島は、龍脈の交叉する南海に浮かぶ儚き仮初めの大地。要を失えば滅びるのみ〟……」

 

「え?」

 

「…… SW(スピードワゴン)財団の情報通りと言う事か」

 

人工生命体が紡ぐ詩のような言葉に、雪菜が驚きの声を洩らした。そして、條士はSW(スピードワゴン)財団から得た情報と合致した事に納得の表情をする。オイスタッハが目的としているのは、東西南北四基に分かれてる人工島である絃神島を連結してるメインケーブルを固定する為の土台となっているアンカーブロックと呼ばれる頑丈な鉄の塊。特にその中でもキーストーンの名を与えられた、主柱中央の要石である。

 

すると、そのアスタルテの背後に大柄な影が現れる。荘厳な法衣と装甲強化服をまとった巨漢。ロタリンギア殲教師ルードルフ・オイスタッハだ。

 

彼は、怯えた様に振り返る 人工生命体(ホムンクルス)の少女を冷ややかに見下ろした。

 

「然様。我らの望みは、要として祀られし不朽の至宝。そして今や、その宿願を叶える力を得ました。獅子王機関の剣巫よ、貴女のお陰です」

 

身構える雪菜に、半月斧の刃を向けながらそう言った。謎かけのような殲教師の言葉に、雪菜は困惑の表情を浮かべる。しかしオイスタッハに答えたのは、彼女ではなく條士の方だった。

 

「力を得ただと?それは、その子の体内に埋め込んだモノの事か?」

 

「先輩?」

 

條士の鋭く低いの声に、雪菜がはっきりと動揺する。オイスタッハは無関心そうに條士を見下ろす。

 

「気づきましたか。流石だと言っておきましょう。しかしもはや貴方といえども私たちの敵ではありません。我らの前に障害は無し」

 

「そんな事を聞いているんじゃあない。テメェ、その子に眷獣を植え付けたな?」

 

「えっ……!?」

 

條士の言葉を聞いた雪菜が、驚いたようにアスタルテの細い身体と、彼女の左右に置かれた培養槽内に浮かぶ奇妙な生物の姿を見た。魔獣や妖精に似た、この世界に存在しないはずの歪な生物。それは人工の生命体に、眷獣を寄生させたものではないのか。

 

オイスタッハが傲然と告げる。

 

「如何にもその通り。自らの血の中に、眷属たる獣を従え得るのは吸血鬼のみ。ですが私は、捕獲した孵化前の眷獣を寄生させることによって、眷獣を宿した 人工生命体(ホムンクルス)を生み出すことに成功したのです──成功例は、そこにいるアスタルテだけですが」

 

「どうして吸血鬼以外に眷獣を使役出来る魔族が居ないのか、テメェも知らない訳じゃあ無いだろう?」

 

「勿論ですとも。眷獣は実体化する際に、凄まじい勢いで宿主の生命を喰らう。それを飼い慣らせるのは、無限の〝負〟の生命力を持つ吸血鬼だけだと言いたいのでしょう?」

 

「それなら……やはり、その子の寿命は」

 

「ロドダクテュロスを宿している限り、残りの寿命はそう長くはないでしょう。保ってせいぜい2週間といったところでしょうか。これでも倒した魔族を喰らって、随分引き延ばしたのですがね……しかし、私たちが目的を果たす為には十分です」

 

オイスタッハは、苦悩や罪悪感を微塵も感じさせぬ口調で言った。條士は、そんなオイスタッハに何も言わなかった。代わりに雪菜が自分の想像に怯えるかの様に、彼女は槍を握りしめながら口を開いた。

 

「魔族を……喰ったって……まさか、この島で魔族を襲っていたのは……」

 

「そう。1つは、彼らの魔力を眷獣の生き餌にする為でした。そしてもう1つの理由は、アスタルテに刻印した術式を完成させる為に……獅子王機関の剣巫よ、その槍を持つ貴方との戦いは、素晴らしく貴重なサンプルになりました」

 

名指しで呼びかけられた事に、雪菜が肩を震わせる。

 

「そんな事の……そんな事の為だけに、その子を育てていたんですか、あなたは!?まるで彼女を道具みたいに!」

 

怒りを露わにした雪菜の事を、オイスタッハは愉快そうに眺めた。

 

「何故憤るのですか、剣巫よ? 貴女もまた獅子王機関によって育てられた道具ではありませんか?」

 

「……それはっ……!」

 

「不要な赤子を金で買い取って、ただひたすらに魔族に対抗する為の技術を仕込む。そして戦場に送り出す。まるで使い捨ての道具の様に。それが獅子王機関のやり口なのでしょう? 剣巫よ、その齢でそれ程の攻魔の術を手に入れる為に、貴方は何を犠牲に捧げたのです?」

 

オイスタッハの静かな指摘に、雪菜の全身が凍りつく。無言で唇を嚙みしめた彼女の頰が、血の気を失って蒼白になっている。

 

その時──

 

「……無駄だな」

 

「何?」

 

條士のまるで落胆した様な言葉に、オイスタッハが眉を吊り上げる。

 

「少年。今何と?」

 

「無駄、だと言ったんだ。話に付き合ってはみたが、時間の無駄だった。テメェの……価値の無い話を聞いた時間は」

 

條士の言葉が癇に障った様で、オイスタッハの顔に怒りと苛立ちが現れる。

 

「安い挑発をッ。良いでしょう。アスタルテ! 彼らに慈悲を」

 

命令受諾(アクセプト)

 

創造主であるオイスタッハの命令に従って、アスタルテが條士たちの前に立ちはだかる。すると、突如彼女の小さな身体から巨大な眷獣が陽炎の様に姿を現したのは、虹色に輝く半透明の巨体。今はもはや腕だけでなく、ほぼ全身が出現しており、それは体長4、5メートル程もある巨人だった。全身を分厚い肉の鎧で覆った、顔の無いゴーレムだ。宿主である少女を身体の中に取り込んで、人型の眷獣が咆吼する。

 

「眷獣の相手は俺がやる。姫柊はオイスタッハを頼む」

 

「先輩?」

 

指示を出す條士を雪菜は見上げる。そして、條士は雪菜に視線を送りながら言う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。行けるか?」

 

「ッ!……はい!」

 

雪菜が力強く頷くのを確認し、條士は眷獣に突っ込む。そして、雪菜も槍を構えてオイスタッハの方へ向かう。

 

 

「『ウーバー・ワールド!!』」

 

 

『ドラァッ!!』

 

 

條士は『ウーバー・ワールド』を出現させ、眷獣との攻撃を開始する。人型眷獣の攻撃が條士に届く前に、『ウーバー・ワールド』の拳が眷獣を捉える。

 

 

『ドラララララララララララララララララララララララララララァッ!!』

 

 

反撃の隙を与えず、『ウーバー・ワールド』の怒涛のラッシュ攻撃が眷獣に叩き込まれる。眷獣は視えない拳による攻撃により、殴られた衝撃が全身に駆け巡った。

 

 

『ドラァッ!!』

 

 

最後に『ウーバー・ワールド』の拳が眷獣の腹部に深々と突き刺さり、後方へ10数m近くも弾き飛ばし、壁に激突した衝撃が空間全体を揺らす。容赦の無い攻撃に、眷獣は再起不能に陥ったと思われた。だが、眷獣はその巨体を揺らしながら起き上がる。

 

「やれやれ、これだけ打ち込んでも起き上がるか……。これは、単純な殴り合いじゃあ勝負は着かないかもしれないな」

 

目の前の眷獣の驚異的な頑丈さに、條士は溜め息を吐く。

 

「……それなら、()()()()()()()()

 

條士は少し考えると、『ウーバー・ワールド』の姿が変わり始める。白を基調とした屈強な肉体が徐々に変化し、()()()()()()()()彿()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()

 

 

「『黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)』」

 

 

眷獣を前に、條士は黄金の幽波紋(スタンド)の傍に立って構える。




スタンド能力解説

『ウーバー・ワールド』

固有能力:『別のスタンドに変身する能力』
『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズに登場した歴代のスタンドに変身する能力。
近距離パワー型・遠隔操作型・自動操縦型(遠隔自動操縦型、自動追跡型)は勿論、人間型(生物型)・非生物型・群体型等にも変身が可能。
まだ能力が発展途上のため、現段階では1()()()()()()()()()()()()()1()()()()である。
変身した状態時は、元のスタンドのパラメータを忠実に再現される。
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