奈落の子育て事情   作:フドル

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2話目です。ギリギリ間に合った……。残業確定はやめてクレメンス


探窟家知識。そしておねショタ

568:困ったゴーレムだったもの

おま、おま、おま、取り敢えず落ち着いてきいてくくくれ

 

569:名無しの探窟家

いきなりどうした?

 

570:名無しの探窟家

まずイッチが落ち着け

 

571:名無しの探窟家

イッチがこんな取り乱すってミラヴィーちゃんが銃口咥えてた時ぐらいじゃね?

 

572:困ったゴーレムだったもの

お、そうだな。落ち着いたわ

 

573:名無しの探窟家

あまりにも早い落ち着き。いや、早すぎだろ

 

574:名無しの探窟家

うわぁ!いきなり落ち着くな!!

 

575:名無しの探窟家

はい、ノルマ達成

 

576:名無しの探窟家

んじゃあ、話続けよか

 

577:名無しの探窟家

本題に入る前のスムーズな会話。素晴らしい……!

 

578:名無しの探窟家

俺らも成長するってことよ!

 

579:困ったゴーレムだったもの

続けるけどさ、ミラヴィーが探窟家になりたいって言い始めた。どうしよ?

 

580:名無しの探窟家

お、ええやん

 

581:名無しの探窟家

オースの街に住むなら誰でも一度は憧れる(個人の感想)職業やん。アビス内でも有効なんやな

 

582:名無しの探窟家

でもミラヴィーちゃんが探窟家に憧れるってどうしてだ?ミラヴィーちゃんからすれば探窟家ってイッチに使われるか原生生物とか事故とかで常に死にかけてる奴らの名称じゃないの?憧れる要素あるぅ?

 

583:名無しの探窟家

確かに普通に過ごしてて憧れる要素なんてないな

 

584:困ったゴーレムだったもの

前線基地(イドフロント)でプルシュカに探窟家とは何たるかを語るに語られたらしい。俺はその間ボンドルドとミラヴィーの義手について話してたからどんな話をしてたかは知らん

 

585:名無しの探窟家

あーね

 

586:名無しの探窟家

プルシュカは『命を響く石(ユアワース)』になってまでリコについていこうとするほどやからなぁ

 

587:名無しの探窟家

ミラヴィーちゃんからしても魅力的に思えるほど熱心に話したんやろうなぁ

 

588:名無しの探窟家

まぁ、ミラヴィーちゃんが探窟家に憧れた理由は分かったけどさ。何でイッチはあんなに慌ててたのさ?

 

589:名無しの探窟家

もしかしてミラヴィーちゃんが探窟家になるのに反対だったりする?

 

590:困ったゴーレムだったもの

うん、反対やな。そもそもミラヴィーは人見知りやぞ?地上で過ごせんの?無理じゃね?流石に探窟家になればオースの街で過ごさんとあかんと思うし。それらを我慢してまで探窟家になりたいってミラヴィーが言うなら応援するけどさ。ちなみにやけど俺はミラヴィーが地上に行ってもついていくつもりはないからな。

 

591:名無しの探窟家

つまりミラヴィーちゃんには無理だと思うから反対と?

 

592:名無しの探窟家

どうせイッチはミラヴィーちゃんについていったら遺物を集められないとか言うんやろ?

 

593:困ったゴーレムだったもの

そうやで。それに探窟家にならんでも探検できるやん?

 

594:名無しの探窟家

言われてみれば確かに

 

595:名無しの探窟家

イッチからすればまさにその通りやな。探窟家にならんでも探検してるもんな

 

596:名無しの探窟家

なんならイッチとやってる普段の散歩も他の奴らからすれば十分に探検やもんな

 

597:名無しの探窟家

それをミラヴィーちゃんに言ってみたら?もしかしたら考えを改めるかも。近くにおるんやろ?

 

598:困ったゴーレムだったもの

ミラヴィーなら五層の上昇負荷で血塗れになって気絶してるからベッドに寝かしてるよ

 

599:名無しの探窟家

そんな今横で寝てる感覚で言うなよ。笑いそうになるやん

 

600:名無しの探窟家

呪い耐性がなかったらもっと大変なことになってるけどな

 

601:名無しの探窟家

んー、じゃあミラヴィーちゃんが起きれば話してみよか

 

602:困ったゴーレムだったもの

おっ、そうやな。んじゃあ、次の話や

 

603:名無しの探窟家

まだなんかあるの?怖いんだけど

 

604:名無しの探窟家

失礼、ちょっと心の準備を……よし来ぉい!!

 

605:名無しの探窟家

気合い入れ過ぎてて草。

 

606:困ったゴーレムだったもの

そんな身構えらんでもええで。話はミラヴィーがそれを聞いても諦めずに探窟家になるって言った場合どうするかって話やから

 

607:名無しの探窟家

なんだ、身構えて損した

 

608:名無しの探窟家

俺らの身構えを返して?

 

609:困ったゴーレムだったもの

しょうがないなぁ、では身構えに足る画像でも貼るわ

 

610:名無しの探窟家

すみません、勘弁して下さい

 

611:名無しの探窟家

靴舐めるから許して……許して……

 

612:名無しの探窟家

プライド無さ過ぎて草。土下座でいい?

 

613:名無しの探窟家

お前らさぁ……

 

614:困ったゴーレムだったもの

わかればよろしい。ちなみに俺は転生してから一回も靴を履いてないから靴は舐めれないぞ

 

615:名無しの探窟家

つまりイッチの素足をぺろぺろ出来るってこと!?

 

616:名無しの探窟家

帰れ変態。てか食いつきが早すぎない?

 

617:名無しの探窟家

生娘の素足をぺろぺろ出来るなら……ね?

 

618:名無しの探窟家

ね?じゃねーんだわ。

 

619:名無しの探窟家

また変態が沸いてる。殺虫剤撒かなきゃ

 

620:名無しの探窟家

虫扱いである草。効くのか?

 

621:名無しの探窟家

あっあっあ、殺虫剤はやめてクレメンス

 

622:名無しの探窟家

効くのか……

 

623:名無しの探窟家

虫疑惑が浮上した変態は置いといてやな。イッチ的にはどうするん?何か考えはあったりするのか?

 

624:名無しの探窟家

どうせないぞ

 

625:名無しの探窟家

あっても度し難やぞ。>>624の魂を賭けるわ

 

626:困ったゴーレムだったもの

今のところは祈手(アンブラハンズ)達から聞いた簡単な探窟家の知識を教えることと実践するぐらいかな。あとはボンドルドに頭下げてミラヴィーの地上生活をフォローしてもらえるよう頼むぐらいかな。

 

627:名無しの探窟家

思ってた以上にしっかりしてた……

 

628:名無しの探窟家

すまん>>624。 お前の魂はイッチのものだ……

 

629:名無しの探窟家

え?俺の拒否権ない感じ?あ、でも待てよ?イッチに魂を取られるってことはイッチと一体化できるってことでは?

 

630:名無しの探窟家

天才じゃったか……!

 

631:困ったゴーレムだったもの

>>629 君もう四層に来なくていいぞ

 

632:名無しの探窟家

出禁食らってて草

 

633:名無しの探窟家

イッチの言い方が前世の俺に刺さる

 

634:名無しの探窟家

社会人特攻やもんな

 

635:名無しの探窟家

イッチが社会人特攻を使えるのは分かったけど、ミラヴィーちゃんが探窟家ルートに行った場合の方針は俺らが思ってた以上にしっかりしてるから話すことなんてなくない?修正が欲しいとか言われても見た感じ修正が必要なとこはないぞ?

 

636:困ったゴーレムだったもの

もっと探窟家の知識が欲しい。俺が覚えてる探窟家の知識なんてロープの掛け方ぐらいやぞ?そんなもんミラヴィーには要らんわ。その気になれば針を壁に刺して移動できるんやからな。ってことでなんか役立つ知識ちょーだい?

 

637:名無しの探窟家

簡単な知識があまりにも簡単すぎて唖然としたわ

 

638:名無しの探窟家

もうこれほぼ知らないで良くない?

 

639:名無しの探窟家

いいと思う。ってことで誰が教える?みんなで教えたらごっちゃごちゃになりそうやし誰か1人がここで教えて間違えてたり足りなかったら俺らが随時指摘でいいか?

 

640:名無しの探窟家

んー、みんなに見られながら教えるんか……。やる奴おる?

 

641:名無しの探窟家

いるさ!ここに1人な!

 

642:名無しの探窟家

おぉっ!?あの転生してから得たチートで幼い頃からブイブイいわせて周りに迷惑をかけながらも探窟家になり、意気揚々と仲間を集ってみたけど幼い頃の所業で敬遠されてしまい仕方なくボッチで探窟しているうちに周りからアイツはソロで潜る奴なんだと思われてしまって今更仲間を募集中ですなんて言えずに今日も寂しくソロでアビスに潜っていそうなシルエットは!?

 

643:名無しの探窟家

そう!この俺……いやちょっと待って何でそんなピンポイントなの?あってるだけに怖いんだけど

 

644:名無しの探窟家

 

645:名無しの探窟家

 

646:名無しの探窟家

あってんのかよw

 

647:困ったゴーレムだったもの

おっ、ボッチニキが教えてくれるんか。頼んだで

 

648:名無しの探窟家

俺だって!!仲間の1人ぐらい欲しいんじゃい!!!

 

649:名無しの探窟家

渾身の叫びだなぁ。気持ちはわかるわ

 

650:名無しの探窟家

お?ボッチニキ2人目か?

 

651:名無しの探窟家

いや?俺は彼女おるし

 

652:名無しの探窟家

リア充ニキやったか。ゴコウゲに食われろ

 

653:名無しの探窟家

私怨塗れで草

 

654:名無しの探窟家

畜生メェ!!ってことでスッキリしたし話していこか。簡単な探窟家知識でよかったんやでな?

 

655:困ったゴーレムだったもの

そうやで。頼むわ

 

656:名無しの探窟家

なんか今回情緒不安定な奴多くね?

 

657:名無しの探窟家

なんならいつもより多くて草生えてるで

 

658:名無しの探窟家

パパッと話していくか。でもミラヴィーちゃんに探窟家の道具とかその使い方とか言ったところでって感じやし食糧調達とかの話でいくで?まずは食糧!基本は調味料とかを街で買って後はアビスで現地調達!とりあえず塩買っとけ。それで何とかなる。でも料理をするには自信がない……って奴は店に携帯食料が売ってあるからそれを買っとけ。次は水!原生生物が飲んでたら大丈夫なやつが多い。でも原生生物が飲んだからセーフ……ってわけじゃないパターンがあるのがアビスの怖いところ。その生物はセーフでも俺らはアウトとかもある!まぁ、基本は沸騰させてからやな。欲を言うなら蒸留の方が望ましいけど、そんなことしてる暇なんて下の層にいくほどなくなるからそこは個々の判断やな。

 

659:名無しの探窟家

ふむ、口を挟んでまで言うことはないかな

 

660:名無しの探窟家

次は原生生物かな。イッチも知ってると思うけど、原生生物は不思議生物が多い。だから初見の奴は要注意やな。あとは大型の原生生物には近づかないこと!大型は縄張り周辺に移動跡とかの痕跡がよく残ってるからそれを見て判断やな。安全重視なら探窟家組合に売ってある図鑑を買うことやな。先人達が見つけた原生生物のことが書いてあるで。俺もそれのおかげでカエルの道連れ自爆に巻き込まれずにすんだわ。

 

661:名無しの探窟家

カエルの道連れ自爆……あ、タニグク(極種)(アイツ)

 

662:名無しの探窟家

俺も色違いやーん!って思いながらトドメ刺したら危うく死にかけたわ

 

663:名無しの探窟家

酷い時は自爆した個体の爆発に別の個体が巻き込まれて誘爆するパターンな。それで先輩探窟家が1人消し飛んだわ

 

664:名無しの探窟家

おぉ、グロイグロイ

 

665:名無しの探窟家

でもアビスで人の死体ってお祈り骸骨を除けば滅多に見ないんだよなぁ

 

666:名無しの探窟家

そりゃあ、死んだら骨まで食われるんだから見れるわけねーべ

 

667:名無しの探窟家

あ、指摘部位見つけたから言うけど大型だけじゃなくて小型も注意な。まぁ、言わなくても俺らはクオンガタリを知ってるから分かってると思うけどさ

 

668:名無しの探窟家

一回四層で戦ってみたけどマジで無理です。一個体としては怖くないし噛みつかれてもちょっと痛い程度なんやけど、アイツら群れで襲ってくるし人の穴という穴から体内に侵入してこようとするからすぐに逃げたわ。よくギャリケーはアイツらの巣を焼けたな

 

669:名無しの探窟家

体内に侵入出来る穴を塞いだら噛み付きが痛い虫止まりだからね

 

670:名無しの探窟家

とかいって油断してたら腹の肉とかを食い破って体内に侵入からの苗床ルートもあるから要注意やで。

 

671:名無しの探窟家

ギャリケーが巣を焼けたのはクオンガタリの本領発揮が出来てなかったのもあると思う。本来の生息地である六層なら他の巣から大量の援軍が飛んでくるからなぁ

 

672:困ったゴーレムだったもの

つまり原生生物の特徴を理解しろってことやな?

 

673:名無しの探窟家

うむ、大体はそんなもん

 

674:名無しの探窟家

どうせイッチなら図鑑もボンドルド経由で手に入れれるやろ

 

675:困ったゴーレムだったもの

図鑑が手に入るまでは自分で原生生物を解体でもして知見を広げておくかなぁ。あとは適当な探窟家でも見つけてそいつから探窟の知識を得るのもいいかも

 

676:名無しの探窟家

いいんじゃない?原生生物解体はともかく、いろんな話を聞くのは大切やと思うで。俺らは大半が何らかのチートを貰ってるからな。チートもなにもない探窟家ならではの体験談もあるかもしれんし

 

677:名無しの探窟家

やっぱり俺らだとチートありきで話してしまうからなぁ。一回その感覚が抜けずに探窟家仲間と話したら思いっきり嫌味言われたわ

 

678:名無しの探窟家

>>677 それ絶対上から目線しながら発言しただろ。

 

679:名無しの探窟家

しししし、してねーし!?

 

680:名無しの探窟家

(あっ、これはしてるな)

 

681:名無しの探窟家

(自覚あるぶんタチが悪いな)

 

682:名無しの探窟家

(まぁ、ここは大人として生暖かい目線で見守ってやろうじゃないか)

 

683:名無しの探窟家

見えてるからな!?

 

684:困ったゴーレムだったもの

今ミラヴィーが起きたから探窟家の世知辛い現実を教えたけど、変わらず探窟家になりたいとのこと。なんで他の探窟家の話とついでに原生生物を知るために上層行ってくるわ

 

685:名無しの探窟家

お、行ってらっしゃい

 

686:名無しの探窟家

被害は最小限にな〜

 

687:名無しの探窟家

何で上層って思ったけど四層に探窟家がおる方が稀か

 

688:名無しの探窟家

てか祈手に聞けば良くね?

 

689:名無しの探窟家

玄人の意見より新人の意見が聞きたいんじゃない?知らんけど

 

690:名無しの探窟家

>>686 イッチのことを心配してるのか、イッチが向かう上層の環境を心配してるのか判別出来ない不思議

 

691:名無しの探窟家

後者だろ

 

692:名無しの探窟家

後者だな

 

693:名無しの探窟家

絶対後者

 

694:名無しの探窟家

誰もイッチの心配してなくて草生える

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

「クソッ!来るな!あっちに行けよ!」

『あっちに行けよ……ギィ……。』

『クソッ、来るな……ギィ……来るな……。』

 

 深界一層、アビスの淵。その最深部にて、首に赤笛をさげた1人の少年が2羽のナキカバネから何とか逃れようとしていた。しかし状況はほぼ詰みの段階。少年がナキカバネから逃げている最中に見つけた小さな洞穴に逃げ込み、ナキカバネはそこから少年を引き摺り出そうとしている状況だ。

 

 洞穴は奥が無く、少年が手脚を伸ばしてしまえば足先が外へ出てしまう程度の大きさだ。なので少しでも奥にいけるように少年は身体を可能な限り丸めているが、それでも引き摺り出そうとするナキカバネの鉤爪が中に潜り込んだ少年の服を何度も掠っている。

 

 もし鉤爪が服に引っ掛かりでもしたらどうなるかは明白で、少年は顔を蒼白とさせながらも声を荒げ、ナキカバネを追い返そうとする。しかしその怯えがたっぷりと含まれた怒声はナキカバネの無機質な声に変わり、周囲へ虚しく響き渡るだけだ。

 

 少年は考える。何故こうなったのかと。周りの心配を子供らしい根拠のない自信で押し切ってアビスに向かったのはいつも通り。でも少年は同じ歳の子供達よりも自身の実力をしっかりと把握出来ていた。だからこの日も実力に見合った場所で活動するつもりだったのだ。

 

 運がなかった。これに尽きる。二層の原生生物が一層に進出し始めているという話を聞き、真偽はともかく安全をとって今回はいつもの活動場所より更に上で活動していたのだが、運悪く地盤が脆くなっている場所を歩いてしまい地面が崩落。巻き込まれる形で少年は転落し、川に落ちて流されてしまった。

 

 流れが急な川から逃れることができず、溺れないようにと重しとなるリュックなどを切り捨て、何度も走馬灯を見ながらもがき続け、流れが弱くなったので何とか川から這い上がるとそこは一層の最深部。あんな滝から落ちたりしたのによく生きていたなと自分のしぶとさに感心しながら滝を見つめていると頭上から影が差し、何だろうと上を見上げると2羽のナキカバネがこんにちは今日のお昼ごはんをして来たので逃亡し、今に至る。

 

 少年も逃げながら離さず持っていたエンテン()で反撃はした。したのだが、悲しいかな赤笛が買える程度の弾丸ではナキカバネを追い払うことは出来ず、かえって興奮させてしまうだけという結果だけが残った。

 

 そんなこの状況に至るまでの経緯を思い浮かべながらも少年は思考をやめない。しかし現実とは非情なもので、強い力で引っ張られたと少年が知覚した時には身体は外へと引き摺り出されていた。

 

「……えっ?」

 

 呆然とした少年の視界にナキカバネの大きな目が映り込み、事態を理解した少年が逃げようとするが、そうする前に翼で身体を押さえ込まれてしまう。

 

 そうして動けなくなった少年にナキカバネの舌が伸び、今からここを食い破るぞと言わんばかりに服越しにだが腹部を撫でる。絶対絶命、そんな言葉が少年の頭をよぎると、強がっていた心にヒビが入り、目尻の端から涙がポロポロと零れ落ちる。

 

「や、やだ……。死にたくない、誰か……誰か、助けて!」

『誰か助けて……ギィ……。』

 

 心の底から飛び出てきた助けを求める声は、無情にもナキカバネの声に使われる。声真似をするナキカバネの表情は少年からするとどこか喜色に染まっているような気がして……無理だと悟ったのか痛みから逃げる本能で少年は目を瞑り、自身のお腹がナキカバネに食い破られる時を待つ。

 

 1秒、2秒、3秒と時間が過ぎ、いつまで経っても自身のお腹を食い破る気配を見せないナキカバネに少年は疑問を抱く。もしかして誰かが来てくれたのか?そんな期待で薄らとだが目を開き、見えた真っ白な羽に落胆する。しかし先程までお腹の上を這っていた舌はなくなっており、すぐに食べる気がないことは理解した。なので少年は状況を理解するために覚悟を決め、目を開いた。

 

 入り込んできた光景は先程とほぼ同じ。目の前にナキカバネがいて、自身は食われる数秒前。少し違うのはナキカバネが少年を見ておらず、顔を横に向けて別の何かを見ていることだろう。

 

 その視線の先にナキカバネが知覚出来る何かがいて、警戒している。もしコチラにそれが来るのなら逃げなければならないと考えているのだろうか。先程まで空を飛んでいた片割れも少年の真横に降りてきて警戒していることから、天敵なのかもしれない。

 

 唸り声を上げることすらせずに静かなナキカバネからお腹が鳴る音が響く。それを咎めるように片方のナキカバネが鳴らした方のナキカバネを睨みつけたが、直後にその個体もお腹を鳴らしたことで睨み返される。

 

 お腹が空いたから少年を逃したくない。でも天敵が近くにいるから隙を晒したくない。ならとっとと飛んで逃げればいいのにと少年は他人事のように考えたが、飛んでいたナキカバネが姿を隠すために降りてきたことから、相手はナキカバネを落とす手段を持っている可能性が高い。

 

 いっそのこと声を出してその天敵を誘き出してやろうか?どうせ死ぬなら嫌がらせをしてやるとヤケクソになりつつある少年は考えたが、このまま時間が過ぎれば誰か探窟家が自分を見つけてくれるかもしれないという希望がそれを押し留める。

 

 そのまま暫く時が経ち、ナキカバネが騒ぎ始めた。隠れるのをやめて威嚇へと移行した。ギィギィと声をあげ、ここに来るなと相手を威嚇する。

 

 その威嚇へのお返しと言わんばかりに木々の薙ぎ倒しながら巨大な手が飛んできて、声をあげていたナキカバネの首を掴んで奥の茂みへと消えていく。相方が捕まったのを察した片割れが逃げようと翼を広げ、直後に飛んできた二つの脚にへし折られた。

 

「ナキカバネかぁ、数匹ほど解体したけど……。まぁ、多いに越したことはないし別にいっか。あー、そうだ、お前。怪我はないかな?」

「え?え?」

 

 折れた翼の痛みで暴れようとするがのしかかる脚のせいで動けないナキカバネと、自身を掴む手から何とか逃げようとジタバタしているナキカバネが茂みの奥から引き摺られながら姿を現すのを少年が眺めていると、背後から少女の声がかかる。

 

 慌てて少年は振り向き、視界に入った少女の姿に驚く。そのあまりにも軽装な見た目のせいだ。

 

 荷物は何も無く、服もワンピースを着ているだけ。靴は履いてすらいない。自分と同じように致し方なく荷物などを切り捨ててきたのかと考えたが、少女の立ち振る舞いがそれを否定する。そんな少女の姿に少年の頭は疑問でいっぱいだったが、少女の顔がドアップで映り込んだことによりその思考は中断された。

 

「聞こえてんのか?おーい?」

「……え?あ、ありがとう!」

 

 鼻先が触れるかどうかの距離まで近付かれたことで我に返り、慌ててお礼をいう少年。その姿が面白いのか、少女はカラカラと笑う。

 

「んで?どうしてここにいるんだ?赤笛がこんなところに道具もなしにいるなんて死にに来たのか?」

「それについては色々あって……。」

 

 一通り笑い終えた後に、ふと疑問に思ったのか少女は首を傾げて少年に疑問を投げかけた。それに対して少年は特に隠すことでもないが、全て素直に話すのは恥ずかしいので一部に嘘を混ぜながら少女にこれまでの出来事を伝えることにした。

 

「──ってことです。」

「へぇー、いつもと違うところで活動してたら原生生物に襲われて川に転落、道具を捨てながら何とか川から出たら直後に一層ではイレギュラーなナキカバネの襲来。何というか、災難だったな。」

 

 少年の話を聞いて、少女の少年を見る目が死にたがりから不運な奴に変わったのを少年は感じた。実際はアホ面晒して自分が流れてきたであろう滝を数分間にわたって見ていたらナキカバネに襲われたというのが真相だが、それを言ってしまえば少女の少年に対する評価が不運な奴から馬鹿な奴へと変わる気がしたので少年はこの事実をアビスの底にまで持っていくことを固く誓った。

 

「まぁ、ここであったのもなんだし、自己紹介でもしようか。俺はマメナル。別に敬称とかいらないからマメナルでいいぞ。お前は?」

「僕はリスタボンです。えっと、その同情的な目はやめて欲しいです。」

 

 差し出された手を握り返しながら、リスタボンは少し気まずげにマメナルに告げると、今度は生暖かい目に切り替わった。違うそうじゃない。

 

 生暖かい視線を送ってくるマメナルの赤い瞳(・・・)から逃げるようにリスタボンは顔を背け、思っていたより近くでもがくナキカバネの姿が視界に入ったことで驚き腰を抜かす。

 

「急に腰を抜かしてどうした?あー、ナキカバネか。心配しなくても動けんよ。」

「ふー、違いますよ。驚いたからじゃなくて、疲れたから座ったんです!勘違いしないでください!」

「そんな上擦った声で言われても説得力がないぞ。」

 

 リスタボンの弁明は、残念ながらマメナルには通じなかったようだ。ナキカバネが横にいることを知っていたのに驚いてしまったことにリスタボンは恥ずかしさでいっぱいになり、思わず顔を下に向けているとマメナルがそういえばと今思い出したかのようにリスタボンを見据える。

 

「リスタボンってさ、さっきナキカバネに食われそうになってたけど───もし俺が来ていなかったらあのまま食われて死んでたよな?」

 

 リスタボンからは見えないように腰の後ろ辺りで手を組み、前屈みになってリスタボンの瞳を覗き込むような体勢で問いかけるマメナル。その声は先程の親しみやすい声から一転して冷たい。

 

 きっとこれは助けた報酬を寄越せということだろう。生と死が隣り合わせのアビスで死にかけの探窟家にたまたま別の探窟家が出会い、救助するということはそこそこある。その後で命を取り留めた探窟家が助けてくれた探窟家にお礼をしなければならないことは、まだ一度もそういう場面にあっていなかったリスタボンも理解している。命を助けられたのだからお礼をするのは当たり前。そのお礼方法は物品を渡す、探窟で手を貸すなど個々でバラけていたりするが、すること自体に変わりはない。でも中には相手を侮っているのかそれを有耶無耶にしようとする恩知らずがいるという話もある。だからマメナルも侮られないように先程の接しやすい雰囲気からこの冷たく、底が見えない何かの雰囲気に切り替えたのだろう。

 

 ただ、何というか、リスタボンは今回に限ってはその問いを肯定しては駄目だと考えてしまった。マメナルの問いを肯定してはならない。自らが下した結論にリスタボン自身が理解することが出来ず、なのに身体は勝手に行動していた。

 

「そんなことないですよ!アレはコイツらを油断させる演技です。あと少しでこのエンテンが火を吹くところだったんですよ!」

 

 エンテンを使ったことがあり、ナキカバネを知っているものからすればすぐにわかる嘘。リスタボンが取り出したエンテンをマメナルは冷たい瞳のまま見つめる。きっとバレる。助けてくれた恩人に何故こんなことをとリスタボンは自分の行動を嫌悪する。マメナル相手ならその行動は正解だと知らずに。

 

「…………そっか、なら俺は余計なことをした感じか?悪かったな。」

「いえ、大丈夫です。僕も紛らわしいことをしてすみませんでした。」

 

 明らかな嘘だったのにマメナルには通じた。何かを隠すような動きをした後で組んでいた手を解き、申し訳なさそうな顔をするマメナルにリスタボンも罪悪感から謝罪する。気まずい空気が流れ、嘘をついた罪悪感もあることから一刻も早くここから離れたくて、リスタボンはマメナルに別れを切り出した。

 

「では僕は帰ります。」

「ん?そうなのか?ナキカバネいらないの?」

「遠慮します!」

 

 仕留められるならと未だに抵抗を続けているナキカバネを解放しようとするマメナルに叫ぶように否定してリスタボンは早歩きでその場を後にする。ズカズカと進むこと数分。冷静になったところでこのまま自分だけで帰れるわけないじゃんと思い至ったのか、リスタボンは立ち止まる。そして一応所持品確認。ナタ(小)、豆鉄砲、笛、以上。帰れるわけねーだろ!!

 

 ならマメナルの方へ戻るべきだが、あんな感じで離脱してしまったのでそのままノコノコ戻るのも気まずい。どうするべきかと思考を巡らしていると、マメナルがいた方角からナキカバネの悲鳴が響いた。

 

「これは様子見です。ナキカバネの声が大きくて心配になったから戻ってきただけです。」

 

 これ幸いと戻ることに適当な言い訳を並べ、リスタボンは元来た道に引き返す。暫く歩き、マメナルの後ろ姿が見えたのでちょっと心配してますよ的な声をかけようとし、絶句した。

 

「んー、内臓の位置は変わらないかな。舌の長さは個体差があるのか……。あ、コイツ雌だったんだ。」

 

 そこには変わらずマメナルがいた。飛ぶ脚で押さえつけていたナキカバネに跨り、腹部を素手で引きちぎって解体しているマメナルが。しかもナキカバネを絞めていないのか、未だに生きているナキカバネが口から血泡を吹いてガクガクと痙攣している。しかしマメナルはそれを気にすることなく腹部に手を突っ込み、無造作に引き摺り出した内臓を興味深そうに見つめた後、興味を失ったのか後ろに投げ捨て、また別の内臓を腹部から取り出すを繰り返している。

 

「……っ!」

 

 その猟奇的な光景にリスタボンは思わず顔を背けた。リスタボン自身、今まで何度か原生生物の解体をしたことはある。でもあんな子どもが玩具で遊ぶような表情で無理矢理肉を引きちぎり、中身をもぎ取るなんてことはしたことがない。

 

 もしかしたらマメナルは危険な存在なのかもしれない。だとしたら再び接触するのは危険だ。そう判断したリスタボンはすぐにここから離れることを決断する。出来る限り音を立てないように後ろ歩きでゆっくりと進み、マメナルがまだコチラに気付いていないか確認するために背けていた顔をマメナルの方へ向けて……気付く。マメナルがいなくなっていることに。

 

「………どこに?」

「リスタボンも解体に興味あるのか?」

「……ヒッ!」

 

 いつの間にか後ろに回り込んでいたマメナルに後ろ歩きをしていたリスタボンは気付かずにぶつかってしまう。慌てて距離を置こうとしたリスタボンだったが、それよりも早くマメナルに腕を回され動けなくなってしまう。側から見たらマメナルがリスタボンを抱きしめているように見えるが、実際はゆるく手をまわしているだけ。親が急に子どもが走り出さないように、走り出してもすぐに押さえつけれるようにと。

 

 マメナルからするとミラヴィーによくやってるからと無意識にやった行動なのだが、リスタボンには効果覿面だった。自身のお腹の前で組まれた肘まで真っ赤で濃密な血の香りが漂うマメナルの腕を凝視したまま動く気配を見せない。ナキカバネに殺されかけたことを思い出しているのか、次第に息も荒くなっている。

 

「おーい、リスタボン?」

「ハァ、ハァ、ハァ……。」

「聞こえてるのか〜?……あっ。」

 

 いつまで経っても反応を見せないリスタボンにマメナルは手が1番近いという理由でリスタボンの腹部を撫でる。流石に触ればリスタボンも我に返るだろうとの行動だったのだが、今の状態のリスタボンには全くの逆効果だった。

 

 リスタボンの身体から力が抜け、マメナルにその身体を預ける。流石のマメナルもそれには少し驚いたのか、目をパチクリとさせながらリスタボンの顔を覗き込んだ。そしてリスタボンが気絶していることに気付く。

 

「……えぇ?」

 

 何で気絶しているのかマメナルは頭を捻ったが、結局は分からずじまいだった。まぁ、ナキカバネの身体を引き千切ることが出来る血塗れの手がお腹を撫でてくるという行為は、先程ナキカバネにお腹を食い破られそうになったリスタボンからするとかなりの精神的負荷がかかったとだけいっておこう。

 

 

 

 

 

 

「ん……んぅ?」

「あ、起きた。」

 

 数時間後、リスタボンは目を覚ました。ボヤけた思考のままで周りを見ると、川や木々などの一層の景色と、先端が白い綺麗な青髪が見える。身体を包み込むような柔らかい感触と、どこか落ち着く匂いが鼻を擽り、離したくなくて無意識のうちに抱きしめると、向こうも少しだけ抱きしめる力を強めた。

 

 時間が経つにつれ、ボヤけていた思考が次第にハッキリとしていき、ふと気付く。この自分を包み込む感触は何だろうと。何となく確認をしようとリスタボンは顔を向け──

 

「おはよう。よく眠れたか?」

「────!?!?!?」

 

 マメナルと目が合った。そして思い出すのは気絶前の記憶。慌ててマメナルから離れようとリスタボンは暴れたが、マメナルに抱きしめられて逃げることが出来ない。ご丁寧に尻尾まで使ってリスタボンを抱きしめているからか、リスタボンは手脚をジタバタさせることしかできない。

 

「ほらほら、落ち着け。」

 

 未だに暴れるリスタボンを落ち着かせようと、マメナルはリスタボンの背中を摩る。手慣れているその行為と、マメナルの優しげな笑みを見たことによってリスタボンはなんとか落ち着きを取り戻すことが出来た。

 

「落ち着いたか?」

「うん、マメナルは僕を殺しませんよね?」

「殺す?何で?今のところ理由もないのにやるわけないだろ。」

 

 怖がり続けるのも嫌だしもう直接聞いてしまえと意を決して投げかけた質問は、呆れとともに返された。それを聞いて無意識に入っていた身体の力が抜けた気がして、リスタボンはマメナルに身体を預ける。

 

 そしてマメナルの警戒に割いていた意識のリソースを他の部分に向けることが出来るようになったので、リスタボンはマメナルの肩に顎をおいて周りの景色を見渡し始めた。どうやらあの気絶した場所から川の近くまで移動したらしく、今の自分は川の近くにある岩に座っているマメナルと向かい合わせの状態で抱きしめられているようだ。女性とこんな至近距離で抱き合っていることがどこか気恥ずかしく、身体の熱が先程よりも上がっていることをリスタボンは自覚する。なんとかマメナルにバレないように身体の熱を下げないとと考えている最中で、ふと気付いた。なんかやけに下半身がスースーしないかと。いやいやまさかと恐る恐る顔を下に向ければ、それを裏切るように本来なら服に守られているはずの部位が惜しみなく外気へ晒されていた。

 

「あのー、マメナル?」

「んー、どうした?」

「僕のズボンとかパンツとかって……その……。」

「あー、洗ってあそこの枝に干してるぞ。まだ濡れているからもう少し待て。寒いならこのまま俺にくっついててもいいから。」

 

 マメナルが指を差したほうを向けば、風通しの良さそうな場所でリスタボンのズボンとパンツが干されていた。それを見て気絶する直前に下半身、特に股の辺りから暖かい感触がしたのを薄らと思い出し、リスタボンの顔が真っ赤に染まる。

 

 つまりアレだ。勝手に殺されると勘違いして気絶した挙句、川まで運んでもらい、粗相をした後始末もしてもらって、今は風邪をひかないように抱きしめてもらっていると。

 

 顔を真っ赤にしたままアウアウと言葉にならない言葉を漏らしていると、マメナルは微笑ましいものを見た表情になってリスタボンの頭を撫でる。

 

 それが恥ずかしさを増長させ、リスタボンはマメナルの首筋に顔を埋めた。それもなかなかリスタボンにとって恥ずかしい行為なのだが、他のものよりかは遥かにマシだと割り切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「今日はもう遅いし、野営でもするか。」

 

 あれから更に数時間。服はまだ生乾きの状態だったが、耐えきれなくなったリスタボンが構わず着ている最中に、マメナルが空を見上げながらリスタボンにそう提案した。

 

 その提案にリスタボンの反論はなく、2人は野営をすることになった。そうなれば原生生物に襲われにくい場所探し、または獣避けを焚く。他にも焚き火を作ったり、食料を集めたりと色々することがあるのだが、リスタボンが準備をしようとする前に全てマメナルが解決した。

 

 近くにいるだけの原生生物は追い払い、襲いかかってくる原生生物は全て返り討ち、焚き火も適当な木や枝を集めて手を擦ればすぐに完成した。食料は原生生物の肉だけでは物足りないのか、手脚を飛ばして果物なども集めてくる周到さ。

 

 その手際の良さに、もしかしてマメナルは月笛、もしくは黒笛の探窟家なのかなとリスタボンは疑いつつ、今はマメナルが焼いた肉に齧り付いている。ちなみに焚き火をすぐに作れるのなら抱きしめなくてもよかったのでは?とリスタボンは考えたが、その思考を先読みしたマメナルに面倒くさかったと答えられた。

 

「そういえばリスタボンから探窟家の知識を教わりたいと思っているんだが、いいか?」

「……? 僕にですか?教えることなんて何もないと思うのですが。」

 

 固い肉に当たったらしく、中々肉を食い千切ることが出来ずに苦戦していると、マメナルから思ってもいなかった要求が出てきた。リスタボンはマメナルのことを月笛か黒笛の探窟家と勘違いしているので、マメナルに教えることなんてあるのかと首を傾げるが、マメナルから赤笛ならではの発見があるからと促されたことで納得した。

 

「それなら、教えますけど……。」

「ありがとう、お礼と言っては何だがリスタボンは無傷で上まで連れていってやるよ。」

「いいんですか!?」

「いいよ、どっちにしろリスタボンのその装備だと1人で上までいけないだろう?」

 

 見抜かれていた。ならこの要求はマメナルの善意なのだろう。上まで守りながら連れていく報酬が、リスタボンの探窟家としての知識。話したところで全てマメナルは知っていると思うが、何もしないで護衛されるよりかリスタボンの気持ちが楽と考えてくれたのだろう。

 

「なら満足するまで話させてもらいますね。」

「うん、頼んだ。」

 

 聞く体勢になったマメナルにまずは何から話すべきかと考えながら、リスタボンは口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これぐらいですね。」

「うん、ありがとう。楽しかった。」

 

 マメナルは聞き上手だった。リスタボンの話した内容はとっくに知っているはずなのに、まるで何も知らないかのような反応をしてくれる。その反応がリスタボンには嬉しくて、ついつい知っててもどうでもいいことまで話してしまった。

 

「そろそろ寝るか。」

「そうですね。……あの、何をしているので?」

「ん?寝るんだろ?ほら、来いよ。」

 

 寝るために尻尾を枕にして地面に仰向けで寝転んだマメナルがリスタボンを向かい入れるかのように両腕を広げる。リスタボンは鈍感ではないのでそれに込められた意味は分かる。分かるのだが、理解したくない。

 

「流石にちょっと恥ずかしいので……あっちで寝ますね。」

「粗相した服を洗われて下半身晒した状態のまま抱きしめられているのに今更恥ずかしいも何もないだろ。それに近いほうが守りやすい。だからほら。」

「うぅ……、お邪魔します。」

 

 そこまで言われると反論できないが、流石に仰向け状態のマメナルの上に寝転ぶのは無理だと必死にお願いしてなんとかマメナルに体勢を横にしてもらい、差し出されたマメナルの腕にリスタボンは恐る恐る頭をおいて寝転がる。マメナルの言い方的には近い場所で寝転がるだけでもよかったのだが、マメナルが腕を広げて向かい入れる体勢になっていたのでそこで寝るしかないとリスタボンは勘違いした。これがミスリードである。

 

「ん、おやすみ。」

「はい、おやすみなさい。」

 

 アビスで一夜明けることは初めてで、マメナルの匂いとか遠くから聞こえてくる原生生物の声とかで寝ることが出来るのかとリスタボンは不安だったが、身体は十分疲れていたらしく、すぐに寝入ることが出来たのだった。

 

 

 

 次の日、目を覚ましたリスタボンが見たものは、ドアップのマメナルの胸だった。状況を認識するなり一気に覚醒した意識で寝る前の状況を思い浮かべるが、寝る前はここまで近い距離……というより胸に顔を埋めたりはしていなかった。マメナルが引き寄せたのかと思ったが、リスタボンの腕がマメナルの背中に回されていることから、寝ぼけて自分から抱きついたみたいだ。

 

 マメナルに気付かれないようにそっと背中に回していた腕を解き、マメナルの胸から距離を取る。そしてマメナルが起きていないかと確認するために顔を上に上げると、マメナルの赤い瞳と誤魔化しようが無いレベルでバッチリと目があった。

 

「……おはようございます。」

「あぁ、おはよう。人肌恋しかったんだな。」

 

 寝ぼけておいて欲しいと願ったが、マメナルはバッチリと起きていた。甘えん坊だなぁと柔らかい笑みを浮かべたマメナルに頭を撫でられたが、リスタボンにもう抵抗する気力は残っておらず、マメナルが起きたのがついさっきであることを願うしかなかった。

 

 まぁ、マメナルは寝てすらいないので、リスタボンががっしりと抱きついてマメナルの胸に顔を埋めるところも、寝ぼけて顔を擦り付けてくるところもしっかり見ているのだが、それを伝えたところでリスタボンの顔が真っ赤になる程度で終わるので、マメナルはリスタボンの寝顔などを画像に抽出し、スレに投稿するだけで済ませた。スレ民は唐突なおねショタ供給に一部の変態が興奮して騒いだが、目に毒なので詳細はカットします。

 

「じゃあ行くか。」

「はい、よろしくお願いします。」

 

 野営の後始末を済ませた後、マメナルとリスタボンはオースの街を目指して行動を始めた。マメナルがリスタボンに手を伸ばし、リスタボンがその手を掴む。ようするに、ただ手を繋いでいるだけだ。いつ原生生物に襲われるか判らない状況で手を繋ぐというのは危険極まりないのだが、リスタボンはもう何も言うつもりはなかった。どうせマメナルなら原生生物が襲ってきたところで何とでも出来るだろうという一種の諦めでもある。ただ、こうして年上の女性に手を引かれて歩くというのは、どこか新鮮な気分だった。

 

 しかしそんな気分は、上を目指す途中で消え失せた。マメナルは探窟家が作ったルートを進むのが面倒だと思ったのか、ほぼ一直線で上を目指すことにしたらしい。

 

 崖の前でリスタボンを背中に背負い何をするかと思えば崖を登り始める。探窟家が崖を登り降りすることはかなりの頻度であるので、マメナルの行動は全然おかしいことではない。ただ登っている崖に掴まるところがほぼないということを除けば。

 

 リスタボンも最初の一回はこの崖は無理だと言ってマメナルを止めたのだが、マメナルが崖に腕を突き刺し、普通に登れることを強引に証明してきた時点で諦めて背中に抱きついた。

 

 風乗りの風車を超え、石の方舟を超え、地上へ進むたびにマメナルの軽装の理由をリスタボンは察した。そりゃこんなことが出来るなら探窟家の装備なんて要らないよな。

 

「ふぅ、ふぅ、ふぅ……。」

「大丈夫か?崖では俺にくっついててもここまで来れば疲れるだろう。ちょっと休憩にするか。」

「はい……お願いします……。」

 

 上昇負荷で休憩を取ることがあっても、マメナルについていくのはかなり体力を使う。なだらかな道を手を繋ぎながら歩く最中で、息も絶え絶えなリスタボンを見てマメナルは休憩を提案した。リスタボンもそれを受け入れたがその場で休憩をしようとはせず、原生生物に見つかりづらいところまで移動してから座り込んだ。

 

 息を整えているリスタボンの横にマメナルが座り、やることがなくて暇なのかスレの様子を確認する。するとおねショタ好きの変態という名の紳士どもが騒いでいるのが目に入り、内心で引きながらも丁度いいやと何かを思いついたのか更なる燃料を投下するためにリスタボンの方へ顔を向けた。

 

「なぁ、リスタボン。そんなに疲れているなら膝枕でもしてやろうか?」

「はい、お願いします。」

 

 顔を真っ赤にすると思ってマメナルは膝枕を提案したが、リスタボンはそれに即答し、すぐさまマメナルの膝に頭をおいた。リスタボンからすれば膝枕なんてその前の出来事達と比べると恥ずかしがる要素がどこにもないのだ。リスタボンの真っ赤になった顔を撮れないことをマメナルは残念に思いながらも、変態どもならこの光景でも興奮するだろうと適当に撮ってスレに投稿した。案の定、変態どもは興奮した。

 

 抱け〜、抱け〜、と一部の変態が呪文を唱え始めたところでスレを閉じ、マメナルはリスタボンの髪を撫でる。触り心地的には三位くらいかなぁといろんな子供達を撫でてきたマメナルが個人的触り心地が良かった子ランキングにランクインするほどの高評価をつけた。ちなみに一位はナナチで二位はミラヴィーである。どちらもモフモフとしているが、ミラヴィーのモフモフな毛の中に毒針が潜んでいることが評価の分かれ目になった。毒針がなければ未だにマメナルは順位をつけることが出来なかっただろう。

 

 そんなこんなで撫でること数分、マメナルの撫でが気持ちいいのかリスタボンが徐々に眠り始めている時、マメナルが何かに気付いたのかリスタボンに向けていた視線を前へと向けた。

 

「あー、リスタボン。何かが近くに来ているからちょっと追い払ってくる。……リスタボン?」

「ふぇっ!?眠ってないですよ!? ……それで何の話ですか?」

「……まぁ、いい。聞こえてなかったようだからもう一度言うけど、何かが近くまで来てるから追い払ってくる。」

「分かりました。僕はどうしたらいいですか?」

「ここにいろ。護衛に手脚は置いていくから心配はいらん。」

 

 リスタボンに膝の上から退いてもらい、マメナルは感知したものがいる場所へと歩き出す……が何かが服を引いたので歩みを止めて振り返った。すると不安ですと表情で物語っているリスタボンがマメナルのスカートの裾を指で摘んでいた。

 

「どうした?」

「あの……ご無事で。」

 

 リスタボンの言葉にマメナルは少しだけ目を見開いた。今まで出会ってきた奴らは心配することはあれど、心の底まで心配していることはなかった。よく心配してくれるナナチでさえマメナルなら大丈夫だろうと心のどこかで思っているのだ。

 

 ここに来るまでにマメナルの強さをリスタボンはしっかりと見ていたのに。一層の原生生物ではマメナルに傷をつけることは出来ないと理解しているはずなのに。それなのにコイツは俺の心配をするのかとマメナルは愉快な気持ちになった。

 

 マメナルは自身の口角が上がるのを自覚した。くすくすと笑い声を漏らし、マメナルの演技じみた微笑みとは違う本当の笑顔を真正面から見て硬直するリスタボンに心配はいらないという意味を込めて頭を乱雑に撫でる。

 

 それでもポカンとし続けているリスタボンを置いて、マメナルはまた歩き出す。今度はリスタボンに止められることはなく、すんなりと歩くことが出来た。

 

「ここら辺でいいか。ほら、出てこいよ。」

「……やっぱり気付かれていたか。」

 

 リスタボンがいる場所からそこそこ距離を離した場所で、マメナルは振り返り、茂みに向けて声をかける。すると茂みの奥から三人の探窟家が姿を現した。

 

「んで?どんな用件?殺意とかは薄かったからほったらかしにしてたけど、ここまで距離を詰められると流石に聞かないとな。」

 

 なんかいつも自分って待ち伏せとか尾行とかされてるなぁとマメナルが今まで出会った人達のことを思い返し、どうせ今回もそうなんだろうと前にいる三人を無力化する準備をコッソリと進めていると、横並びになっていた探窟家達の隊長と思われる人物がマメナルに向けて頭を下げた。

 

「……急に何だ?」

「まずは感謝を。よくリス坊を見つけてここまで連れてきてくれた。俺達はリス坊の幼馴染に頼まれてリス坊を探しにきた探窟家だ。」

 

 そのまま話し始めた隊長の話を要約すると、昨日川に流されるリスタボンを他の探窟家が見つけ、助ける時間もなく下まで流されたことを組合に報告したようだ。普段なら状況的にも死は免れないとして死亡扱いにするのだが、そこに待ったをかけたのがリスタボンの幼馴染。死体を確認するまで死亡扱いは待ってくれと組合に訴え、所持金のほぼ全てを使ってリスタボンの捜索を周りに依頼し、それをリスタボンと面識がある隊長達が受諾。準備をそこそこに出発したらしい。

 

 発見者の案内でリスタボンが流された川を川沿いに捜索し、途中で川底に引っかかっていたリスタボンのものと思われるリュックを発見。引き上げて中身の確認をしてみると、探窟家としての必需品がまるまる入っており、生存は絶望的と結論を出しながらもそれでも遺体は見つけてやりたいという思いで捜索を続け、一層の最深部で二羽のナキカバネの死骸とリスタボンが好んで使うエンテンの銃弾が落ちているのを発見。嫌な予感を感じながらも身体が綺麗に残っていた方のナキカバネの胃を開けてみたが、予想に反して胃の中には何も入っておらず、時間的にも消化されるには早すぎる。このナキカバネはリスタボンとは無関係と結論を出したところで日が暮れたのでその日の捜索を断念。次の日にもしかしたら行き違いになった可能性を考え、戻っている最中にリスタボンを背負って断崖絶壁を登るマメナルを発見。慌てて尾行してきたらしい。

 

「あんな俺達には登れない壁を普通に登っていたから心臓に悪かったぞ。」

「あー、それはすまん。近道だったからついやってしまった。」

 

 道無き道を進むから追いかける方も疲れたとどこか疲れた様子を見せる探窟家達にマメナルは少し気まずそうに頬を掻く。探窟家気分を味わうために今回は飛ばずにいたのだが、普通の探窟家からすればまだまだマメナルの行動は異常に分類されるようだ。

 

「まぁ、お前らが俺達を追いかけてきた理由は分かった。だが心配するな、リスタボンは無事に上まで送り届けてやる。そういう約束もしたからな。」

「確かに俺達よりあなたの方が安全にリス坊を連れていけるだろう。先程も言ったように本当に感謝している。……だが、これからする質問の返答によっては俺達はあなたを拘束、あるいは排除しなければいけない。」

「……へぇ?そうなんだ。」

 

 仲間に見せるような顔から敵対者に向ける顔へと。ガラッと変わった隊長の表情を見て、マメナルは面白そうに口を歪め、自身を囲むように移動する探窟家達をわざと見逃しながら隊長に顎で話の続きを促した。

 

「ここ最近、原生生物の動きが過去に類を見ないほどおかしくなっている。三層の原生生物は二層へ、二層の原生生物は一層へ、それ自体は今まで何度も似たようなことはあった。だがそれは縄張り争いに負けた個体や餌が取れず飢えそうになった個体がせいぜいだ。複数の群れが一斉に移動するなんてあった試しが無い。」

「うんうん、それで?」

「生物が住処を大きく変える原因は大まかに二つ。一つ目は自身の住む場所が何らかの原因で住めなくなった。大体は自然現象で生息に適した場所が潰されたパターンが多い。もう一つは自分達では対処出来ない化け物の出現。このままこの地で生息していると全滅すると悟った群れのリーダーが逃亡を選択したのだろう。でだ、今回群れに対処した者達はみんな口を揃えて奴らは何かに怯えていたと証言している。その証言を信じるのなら奴らが移動した理由は後者になる。」

「その化け物が俺ってわけ?」

「俺らも半信半疑だ。だから聞きたい。……逆さ森で探窟家に出会ったか?」

 

 隊長がマメナルを疑う証拠は、伝報船から届いた報告書だ。最初は丁寧に書かれていた文章が途中で走り書きに変わったことから慌てて書いたのだろう。そこに書かれていた内容は今回の大移動の原因と思われる生物の発見報告だ。

 

 そこに書かれた特徴的な部位が、マメナルと酷似している。人型で尻尾が生えている。特に強調して書かれていた飛ぶ手脚なんてものはそうそうお目にかかることなんてない。だがそれ以外は曖昧で、もっと伝報船を飛ばした探窟家から話を聞きたかったが、書いた本人は未だに帰ってこない。

 

 隊長の質問に腕を組んで首を傾げるマメナル。恐らくは隊長が言った逆さ森の探窟家のことを思い出そうとしているのだろう。その姿を隊長は邪魔することなくジッと見つめる。

 

 別に否定されたり、とぼけられてもいいのだ。むしろ隊長はそうして欲しいとすら思っている。何故ならマメナルはリスタボンの恩人だからだ。マメナルの姿は報告書の内容と似ているだけで異変の元凶と決まったわけではない。いわばまだ疑惑の段階だ。ならリスタボンを助けたという事実を優先するに決まっている。

 

 このままマメナルが違うと言えば、真実はどうであれ隊長達はマメナルを恩人として扱うと決めている。疑ったことを謝罪してから共にリスタボンのいる場所に向かってリスタボンともしものためにとリスタボンを保護しに向かわせた仲間の探窟家を回収。その後は滑落亭でリスタボンの冒険話を肴にして酒を飲むのもいいだろう。

 

 そんな隊長達が望んだ最良の結末は、脆く崩された。他ならぬマメナルによって。

 

「あぁ、思い出した!あの泣きながら逃げてた青年ぐらいの探窟家か。頬にそこそこ大きな傷があったと思うんだけど、お前が言った逆さ森の探窟家であってるか?」

「…………あぁ、あっている。彼はどうなった?」

「逃げてる途中で脚を滑らせて落ちていったぞ。あんな足場の悪いところで前を見ないで走るなんて自殺志願者だろ。いやぁ、あれは勿体無かったなぁ。」

 

 思い当たった探窟家が当たっていたことにより、マメナルは笑ってその探窟家の最期を隊長達に向けて話す。仲間ではないとしても同じ探窟家の最期を楽しそうに話されて平気な者などそうそういない。本当は何を笑っているとマメナルに隊長は怒鳴りたかった。しかしマメナルの気分を損ねてリスタボンに危害を加えられては堪らないため、リスタボンの保護に向かった探窟家から合図が送られるまでは耐えなければならない。隊長は飛び出そうとする仲間を視線で止めながら、自身も怒りを抑えるために手を強く握りしめた。

 

「彼の最期はわかった。それで聞くが、大人しくするつもりはないのか?」

「あー、原生生物狩りのことか?まだ無理だな。あと数週間したらひとまず止めるつもりだけど。」

「探窟家に被害が出ているんだぞ?」

「それは大変だ。まぁ、だから何って感じだけどな。キツイ言い方だけど、そいつらは運がなかった。実力がなかった。それだけじゃない?」

 

 隊長の言葉はマメナルには響かない。さらに数回言葉を交えるが、マメナルはどうでも良さそうに話を受け流す。これらのことから良心に訴える言い方をしたところで、きっとマメナルには届かないだろうと隊長は確信した。マメナルのことを優しい恩人から人の心がない異常者へと評価を変えながらも、無力化するためにいつでも飛び出せる準備だけはバレないうちに整える。

 

 後は合図だけ。なのにその合図がいつまで経っても来ない。仲間達も流石に遅いと思い始めているのか、互いに目を配っている。原生生物に襲われたのかもしれないと考えたが、回収に向かった者が一層の原生生物に遅れをとるわけがないとすぐに考えを改めた。

 

「もしかしてなんか待ってる?」

「……さぁな、待っているかもしれないし、待ってないかもしれない。」

「そっか、ちなみにだけどリスタボンの方に向かったお仲間は既に地面の染みになってるから来ないぞ。」

「なっ……!?」

「あ、その反応ってことは待ってたのはそいつだったか。悪いな、てっきりリスタボンに害をなそうとしてる奴だと勘違いして潰してしまった。」

 

 愕然とする隊長達にマメナルは申し訳なさそうな顔をするが、マメナルの評価を変えた隊長にはそれが形だけのものにしか見えなかった。嘘の可能性も十分にあるが、どちらにせよ無力化されたことに変わりはないだろう。あの手脚はマメナルの遠くには行かなかったことから、距離を離せば操作は出来ないと判断していた。その判断が仲間を死なせてしまったことを隊長は悔やみながらも、後悔は後でいくらでも出来ると自身を叱責し、まずは目の前の人の形をした何かを無力化するためにナタを取り出した。その内心ではすぐにでもこの場から離れて組合にマメナルの情報を持っていく算段を立てているのだが、手脚の遺物がどこかに潜伏している可能性があるため、迂闊に離れることもできない。そもそも、ここまで素直にベラベラ話したマメナルが全てを知った自分達を逃すわけがないと隊長は確信していた。

 

「同時に行くぞ。ヤバイと思えば無理せず逃げろ。」

「わかってる。」

「おう。」

「ははっ、人相手に多対一なんて久しぶりだな。リスタボンを待たせすぎると拗ねそうだし、ささっと終わらせないといけないか。ほら、いつでもどうぞ?」

 

 挑発するように、向かい入れるように両腕を広げたマメナルに、隊長達は三方向から突進。数歩で距離を詰めると、勢いよくその頭部へとナタを振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、マメナル。おかえりなさい。遅かったですね。待っている途中で一回手の遺物が飛んでいったのですが、何かありましたか?」

「ただいま。用事の途中で襲われたから無力化してきた。手が飛んでいったのはリスタボンの方にも襲ってきた奴らの仲間が来てたのを知って迎撃に使ったからだな。」

 

 そこそこ時間が経ち、一度手の遺物が飛んでいったことでマメナルに何かあったのではとリスタボンがソワソワし始めた時、何事もなくマメナルは帰ってきた。戦闘をしたと聞くなり駆け寄ったリスタボンがマメナルの周りをグルグルと回って傷を確認したが、服に穴が空いていてもマメナルには傷一つなかった。

 

「そうですか。何というか、マメナルに襲いかかった原生生物が哀れですね。」

「ん?あー、そうだな。まぁ、リスタボンも原生生物を見た目で強い弱いとか決めつけるなよ?」

「マメナルに言われると説得力が凄いですね。」

「納得したようで何よりだ。んじゃあ、行くか。」

 

 リスタボンはマメナルの襲ったのが原生生物だと勘違いしていたが、マメナルは適当なアドバイスを送るだけで本当のことを言わなかった。何も知らないリスタボンはマメナルのアドバイスに何度も頷いている。まぁ、マメナルはその気になればタマウガチやベニクチナワ、しまいにはリュウサザイにもなれるため、見た目詐欺にはバッチリかもしれない。

 

 そんなマメナルから差し出された手をリスタボンは掴み、一緒に歩き出す。少し歩いた道の外れにひしゃげたヘルメットと血塗れのリュックが落ちていたが、リスタボンが気付くことはなく、笑顔でマメナルと話しながら通り過ぎていった。

 

 

 

 

 

「よし、ここまで来れば1人でも大丈夫だろ。」

「はい、ここまでありがとうございました。お礼はまた今度させてもらいます。僕では大したものは渡せませんけど。」

「んー、俺は今ここにあるものが欲しいけどな。」

「駄目です。僕が納得しません!例えマメナルが欲しいと言っても駄目です!」

「そっかぁ……。」

 

 アビスの入り口近くまでやってきた辺りでマメナルはリスタボンに別れを告げる。原生生物の気配はほぼなく、あったとしてもリスタボンでも対処出来る程度のやつだけだ。それにこれ以上進めば他の探窟家と出会う確率が高く、隊長達みたいなマメナルを探しているものに出会えば少し面倒くさい。ここらが丁度いい塩梅なのだ。

 

 リスタボンもいきなり別れを切り出したマメナルに少し寂しそうな顔をしながらも受け入れた。本当はオースの街まで一緒に行きたいのだが、マメナルにはマメナルの理由があるのだろうと自分を納得させた。

 

 しかしマメナルに渡す報酬は後で渡すようだ。また会いたいという魂胆が透けて見える。そのお陰で、しれっとバッドエンドを回避していたが。

 

 マメナルが欲しいものはリスタボンの身体そのものなのだが、正常な思考を持つリスタボンからすればマメナルの言葉はリスタボンの所持品ということになる。そうなれば渡せるものはエンテン、ナタ(小)だけであり、命を助けられたことに対する報酬がそれではあまりにもショボい。

 

「じゃあな。」

「はい、マメナルもまた会いましょう。」

 

 手を振ってマメナルとリスタボンは別れた。リスタボンは何度もマメナルの方へ振り返り、マメナルはリスタボンの姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

 

「さて、と。」

 

 リスタボンの姿が見えなくなった後でマメナルは歩いてきた道を引き返す。その足は速く、何やら急いでいるように見える。

 

「まだ残ってたらいいけど。」

 

 途中で歩くのをやめて飛んで目的地を目指す。その途中で不安そうな声を漏らすが、その不安は店の数量限定の品が売り切れていないかというような声だ。

 

「良かった。残ってた。」

 

 そんな不安は、眼下で転がっているモノを見て解消された。不安が解消されたことでマメナルの表情が笑顔になり、鼻歌を歌いながら地面に着地する。

 

「原生生物に喰われてないか不安だったんだけど、よく無事でいてくれた。」

「うっ……クソ……。」

 

 地面に倒れているのは四肢が滅茶苦茶になった三人の探窟家。マメナルに襲い掛かり、力及ばず無力化された後で放置されていたようだ。彼らもマメナルが去った後で逃げようとはしていたのだが、四肢が粉砕された上に逃げないようにと重しを取り付けられので上手く逃げれず、叫んで助けを呼ぼうとしても原生生物が先に来てしまえば終わりだ。故に動いているかどうかも分からないレベルのもがきで移動しつつ、別の探窟家が近くに来るのを待つしかなかった。

 

「それじゃあ、始めるか。」

 

 そんな彼らを前にして、マメナルは自分のスカートを捲り上げる。そうなれば彼らにもマメナルの下着が目に入るのだが、彼らはマメナルの下着よりも別のものに目が引かれていた。

 

「どれにするかな……。」

 

 彼らが見たのはスカートの裏に括り付けられていた数個の遺物。その中で彼らの知っている遺物はチラホラとあるが、全て危険な効果を持っているものばかり。それらのうちの一つをマメナルは抜き取り、1人の探窟家の元へ向かう。

 

「えっと?これは……身体に入れて使うパターンかな?」

「クソ……何で……何で!」

「どうした急に?」

 

 その遺物の使用方法をマメナルが考えていると、堪えきれなくなった1人の探窟家──隊長が叫び出す。その疑問と悔しさが混ざった叫びを聞いたマメナルは隊長に振り向き、不思議そうに首を傾げた。

 

「殺した……はずだ!!何度も!何度も!!何故……生きている!!?」

「そりゃ殺してないからだよ。だから死んでない。当たり前だろう?」

 

 隊長の叫びにマメナルは当たり前のことを言うが、当然隊長は納得しない。

 

 何度も首を斬り落とした。何かが仕込まれた腹部を何度も貫いた。なのに死なない。首がなくなっても身体は動き、腹部に穴が空いても気にも留めない。

 

「この……化け物め!」

「そりゃどーも。……あぁ、でも胸に突き刺したお前の最後の刺突。あれ、良かったよ。でも威力が全然足りない。もし足りていたら、今頃ここで倒れていたのは俺だったかもな。」

 

 隊長の叫びにマメナルはナタが突き立てられた胸の部分をなぞったあと、足元に倒れている探窟家に向けて遺物を突き刺した。




オリ主……リスタボンの前にタイミング良く現れた感じに見えるけど、引き摺り出された辺りから既に見てた。リスタボンの行動がミラヴィーとよく似ていたのでいつもより増しで面倒を見てたが、この世界に来てから初めて心の底から心配されたので少し嬉しかった。原生生物の移動は大体コイツのせい。襲いかかってきたやつを倒して解体、逃げようとしたやつを捕まえて解体、隠れてたやつを見つけて解体って感じでやりたい放題やってたからね、仕方ないね。

ミラヴィー……五層の上昇負荷をくらってダウン中。耐性である程度軽減しているものの、血塗れになってる。起きた後でオリ主から探窟家の世知辛い話を聞かされたが、憧れは止まらなかった。

スレ民……大半がチートありきで活動しているため、探窟家の知識はあまり頼りにならない。

孤独なシルエットニキ……子供の頃からアイタタタタと言われそうな行動ばっかり行なっていたので今のボッチ環境は残当。

おねショタ好きニキ……オリ主なら逆転はあり得ないから興奮しながら応援した。

リスタボン……普段は礼儀正しい男の子。岸壁街出身なので人に対する警戒心は高めだが、マメナルのグイグイ来るムーブにやられた。ちなみに性癖も壊された。オースの街に帰ってから幼馴染に捜索隊のことを教えられ、戻ってきたらすぐにお礼を言うために組合で待っていたが、いつまで経っても戻ってくることはなかった。

探窟家達……飛ぶ手脚が無いとはいえ毒針と尻尾を掻い潜ってマメナルの首を何度も斬り落としている時点でかなりの実力者。マメナルのコアにも攻撃は届いていたが、残念ながら威力が足りなくて敗北した。コアにダメージを与えるには最低でもリュウサザイ並みの攻撃力が必要だから……。

被害者の原生生物……なんか下から来た奴が目に入るもの全てを襲うから群れの存続のために一部は上層へ避難した。





てなわけでまた暫く潜伏します……。3ヶ月以内には投稿するから(震え声)
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