夏だというのに肌寒い、満月の夜だった。暗い森を2人の少年が歩いていた。
「だから言ったのに…あんまり人里から離れない方がいいって」
「光るタケノコを取りに行くって言ったらついてきたのはお前じゃないか」
背の高い方の少年が顔をしかめながら呟いた。なんにせよこの森からは早く抜けないといけない。妖怪が出る噂がある危険な場所だ。
「もしかして迷っちゃったの?早く家に帰してよ!」
「シッ!静かにしろ」
口に指を当て耳をすますと、遠くから誰かの笑い声が聞こえてきた。こんな深夜の森で騒いでることを考えると、まず人間では無いだろう。
「どうしよう!絶対に妖怪だよ!」
「気づかれ無いように行こう…足音を立てるなよ」
2人は震えながら声から離れていった。視界が悪く足元さえよく見えなかった。
「ここら辺までくれば大丈夫か」
もう声はすっかり遠のいていた。辺りは恐ろしい静けさに包まれていた。
「本当に大丈夫なの?…ヘブシッ!!」
「バカ!くしゃみ!」
「しょうがないじゃん!寒いんだもん!」
「多分バレた!逃げるぞ!」
少年たちは全速力で走り出した。しかし整備などされていない夜の森だ。1人が木の根に引っかかり転んでしまった。
「はやく立ち上がれ!」
「分かってるって…ん?」
目の前には見慣れた友達がいた。そしてその上の太い木の枝に、なにも身につけてない裸の男が何人も乗っていた。
「ひいいいい!追いつかれたァ!」
悲鳴を聞いた瞬間男たちは一斉に笑い始めた。辺りに身の毛もよだつ哄笑が響き渡った。
「うわあああ!」
あまりの恐怖に少年は駆け出して逃げようとしたが、木の上の男に肩を掴まれた。男の手は5m以上伸びていた。
「友達を置いて逃げちゃダメだろ」
男はそう言うと木から飛び降りた。何人もの男達が一斉に飛び降り、2人の少年を取り囲んだ。
「いやあこんなところに人間のガキがいるとは超ラッキーだぜ。ガキの肉は柔らかくてうめェんだ」
「お願いします!どうか見逃してください!」
少年が土下座しながら懇願した。それを見た男達はまた笑い始めた。
「俺たちは妖怪だぞ?逃すワケ無ェだろ!頭からバリバリ喰ってやるよ!」
「なんてことだ…僕たちはこんなところで食われて死ぬのか」
背の高い方の少年が絶望のあまり空を仰いだ。すると、遠くからこちらに近づく足音が聞こえてきた。
「誰か…こっちに来る…」
また妖怪だろう、と思っていた。どんどん近づいてくる足音と周りを取り囲み自分達のどちらから食おうか相談する妖怪の姿に絶望しか感じられなかった。
足音の主が姿を現した。顔に傷のある、眼光の鋭い男だった。
「え?また人間か?」
妖怪の男が驚いた表情で言った。それを聞き少年の心に僅かな希望が宿った。
「ちょうどいいぜ!お前を食った後にデザートでガキ共を食ってやる!」
そう叫びながら妖怪達が男に襲いかかっていった。男は冷静に右手を掴んだ。
「なにをしているんだ?あの人」
少年の疑問はすぐに晴れた。男は右手を抜いた。彼の手は義手だったのだ。かわりに肘の辺りに黒々としたうなぎ鉈のようなものが付いていた。
勝負は一瞬だった。男が刃を見せた数秒後には妖怪の死骸が累々と積み上がっていた。
「ひいいい!こいつ人間の癖にバケモンだ!」
残った妖怪達は男のあまりの強さに戦意を喪失していた。
「おいお前ら!逃げんぞ!」
「分かった!せめてガキ一匹だけでも…」
妖怪は一人の少年の頭を鷲掴みにし走り去っていった。少年の悲鳴が響いていた。
「おいアンタ!なんでただ見てるだけなんだよ!友達を助けてくれよ!」
残された方の少年が叫んだ。
「…悪いが、人助けに興味は無い」
そう言うと男はまた歩き出した。
「ふざけんな!俺の友達を返しやがれ!勝っちゃんを帰しやがれ!」
少年の言葉を聞き男は立ち止まった。
「勝っちゃん?今の坊主は勝っちゃんと呼ばれているのか?」
「それがどうした!」
「…見捨てられなくなっちまったよ」
しばらくすると男は血塗れになりながら帰ってきた。その後ろには怯えて震えている勝っちゃんがいた。
「勝っちゃん!生きてたか!」
「…うん」
「ありがとうなアンタ!最高だよ!」
「ハ 少し友達のことを思い出してな」
「アンタ何者だ?見ない顔だけどどこから来たんだ?」
「…宮本明だ。彼岸島から雅という男を殺すためにやってきた」