フランドール・スカーレットは昔から変わり者だった。それは生まれついての異形の羽や破壊の能力に起因しているのかもしれない。彼女は自ら他者との関係を拒み孤独を好んだ。自閉症気味な性格の持ち主だった。彼女は目覚めるとまず髪を梳かしおしゃれをする。見せる相手などもちろんいないし、自らも鏡に映らないので何の意味も無い行為に思える。しかし彼女はその行為を何百年と続けてきた。無論今日もやるであろう。フランはまどろみの中にいたがようやく目覚めた。生活リズムが崩れている彼女はまだ太陽が昇っているというのに起きた。吸血鬼としてはあり得ないことだ。まだトロンとした目をしながら自分の髪を手櫛で梳かした。見事にボサボサになっている。欠伸をしながら軋むベットに坐った。この静かな時間が彼女は好きだった。
しかし、その静寂は突然破られた。いきなり部屋のドアがガチャガチャ揺れ動いたかと思うと刀のようなものが伸びてきてカギを断ち切った。
「え!?」
思わず彼女はビクリとして声をあげてしまった。ドアは自然と開いたが誰も入ってこない。
(何が起こっているの?)
彼女の眠気は既に遠く覚めていた。今頭にあるのは驚愕と少しの恐怖だった。
しばらくの後、姿を現したのは右腕が仕込み刀になっている、顔に傷のある男だった。宮本明である。
「ウソ…少女…」
明も驚いていた。十中八九邪鬼がいるだろうと思って入ったら、パジャマ姿の幼い女の子がいたのだ。しかも七色の宝石のような翼が生えている。
二人とも理解の範疇を超えた状況になりしばらく唖然として見つめあっていた。一足早く硬直から解けたのは明だった。
「アンタ…アマルガムか?」
彼はフランの口元からチラと見えている鋭い犬歯を認めたのだ。おかしな羽も厳重に封じ込められているのもアマルガムなら筋が通っている。
明の言葉を聞き、フランは吹き出した。そのままクスクスと笑いながら言った。
「おかしな人間ね。まあそれはどうでもいいのだけれども、レディの寝室に押し入って無遠慮に物を尋ねるのはいただけない。せめて身だしなみを整えさせてほしいわ」
「おかしなアマルガムだ…アンタは雅の場所を知らないか?」
「申し訳ないけど、なにを仰っているか分かりかねますわ」
フランは演じるような調子で笑いながら言った。
「フン。子供の姿をした奴とは闘りたく無かったが…」
明は義手刀をフランに向けた。
「体に聞いてみるしか無さそうだな」
「身なりを!!整えさせてよ!!」
フランは急に怒号を発した。真っ白な頬には赤みがさし目は涙で滲んでいた。
「なんでいつもこうなの…みんな醜い私しか見てくれないじゃない…分かってるのよそんなことは…いつもいつもしつこいのよ…」
彼女はうずくまりブツブツと呟き始めた。明はまた硬直してしまった。訳が分からなかった。
「…アンタにもいろいろあるんだろうが、俺にも目的がある。悪いがたたっ斬る」
「ねェ、私ってかわいい?かわいいよね?」
いつのまにかフランは明の目の前に立っていた。凄まじい力で明の顔面を掴み自分の真ん前に引き寄せていた。
「くっ!なんたるパワー!」
フランの幼い顔には長い前髪が無造作にかかっていた。涙で濡れて充血した目は妖しい魅力があった。
「クソ吸血鬼め!放しやがれ!」
明は義手刀でフランの手を切ろうとしたが片手で抑えられてしまった。
「フラン!やめなさい!」
大きな声が地下に響いた。と、同時にフランの手が明を放した。視界が霞み足がふらついていた。
「妹がとんだご無礼を…というか最初にご無礼をしたのは貴方の方ね。私は紅魔館の主、レミリア・スカーレットよ」
この姉は…!?