「ひいいい怖いよぉ…どこなんだここは…」
ここは地底世界、旧地獄だ。そこを歩くはでたらめなパーティ最弱の男、ネズミ(本名:池田中太郎)である。
「明さん…鮫島さま…クソガキでもいいから誰か助けてよォォ」
生来ビビりである彼にこの薄暗く血腥い地底に耐えられるはずが無い。怯えながらも動かずにいるのはさらに怖くあてもなくうろついていた。
「え?なんだあれ…橋?」
旧都へ通る道にある、地上と地下を繋ぐ橋。ネズミはいつの間にかそこまで辿り着いていた。そしてそこにいるのは勿論…
「なに貴方、人間?ああ妬ましいわ…地上から来たのね…あの陽光が妬ましい…」
緑眼のジェラシー、水橋パルスィである。
「ひいいいい!はりゃはりゃ終わりだァァ!化け物だァァ!」
「えっ」
パルスィは困惑した。正直言ってこんな弱そうな人間がここに一人で来ていること自体に戸惑っていたが、妬みのプロである彼女はなんとかそれを隠しいつものパフォーマンスをしてあげたのだ。しかしここまで表立って怯えられ、「化け物」呼ばわりされたのは初めてであった。なにせ彼女の容姿は可愛らしい少女なのだ。パルスィの脆い心はかなり抉られていた。
「もう終わりだァァここで死ぬんだァァ…」
ネズミは恐怖のあまり失禁した。勢いよく飛び出した尿はジーパンを突き破り綺麗な放物線を描いていった。
「ひいっ!この人間訳が分からないわ」
パルスィも恐怖した。この人間には関わるべきでは無い、と本能が告げていた。
「あなた…通っていいわよ」
「ひいいいいごめんなさいゥ!」
脱兎の如く橋を走り去るネズミの後ろ姿を見ながら、パルスィは不思議な気持ちになっていた。
あの人間は自分より優れていないし、幸せでも無い。しかし不幸かといったら…おそらくそうでもない。むしろ運が良い人間なのだろう。しかし…こんなことは初めてだった。相手に対しなんの妬みも抱かなかった。それどころか少しの憐れみさえ感じていた。
パルスィは大きく深呼吸をした。澱んだここの空気がいつもより新鮮に感じた。どこか清々しい気分になっていた。
「ありがとう…名も知らぬクソ人間」
橋を渡った先にあるのは地獄の旧都。鬼が住む無法地帯である。
「ひいいいィィ…もう怖くてどうにかなるゥゥ…」
目の前にあるのは飲み屋街のようなところだった。暖簾が連なり道をほのかに照らしていた。
「外に出たいィィ…ここは一体何処なんだよォ」
ネズミはフラフラと進み始めた。何処に行けばいいのか分からない彼はとりあえず進むしかなかった。
突然、行く手にある飲み屋の引き戸が開いた。
「ひいいいいい!!…ん?」
千鳥足で出てきたのは頬を赤らめた幼い少女だった。しかし、その頭からは2本の大きなツノが生えていた。
「あははは、ごっそーさん!…ん?人間?」
「なんだ、ガキじゃねェかビビらせやがって」
ネズミは大袈裟にため息をついた。
「え?誰?なんで人間がここにいんの?」
「ウルセェなガキが!どうやったら外に出れんだ?案内しろ!俺はガキには強ェんだよ!」
「なんかムカつく人間だなぁ…ちょっとクサいし」
その少女の名前は伊吹萃香といった。
この萃香の目的は…!?