うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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おむライス

 

 

 快晴の早朝。

 カーテンの隙間から差す陽の光にのどかな空気を感じながら、俺は非常に落ち着いた状態でゆったりと朝食に勤しんでいた。

 

「あ……葉月さん、お箸を落とされましたよ」

 

 自分の家。誕生日の翌日。夏休み。バイトや友人との約束も無し。

 ここまで条件が揃えば平和で平坦な朝は約束されたようなものだろう。

 

「ツッキー、目玉焼きにお醤油かけすぎじゃない? そろそろお皿からこぼれそう……」

 

 事実何もない。予定が空白の日に朝から起きて、わりとうまくできた朝ごはんを食べているのだから、もはや穏やかな日常そのものだ。

 心が落ち着く。

 

「秋川くん……? テレビは映ってないけど……どうしてじっと見つめているの?」

 

 本当に、心の底から落ち着いている。

 はずなのだ。

 

「………………」

「どうしたのかしら……あっ、もしかしてサンデーさん?」

「いえ、彼女は今別の場所で休息を……」

「いいなぁツッキー。不可視の存在を認識できる魔眼持ちだったなんて……」

「……んな大層なもんじゃないぞ」

「あっ、やっと喋った。どしたのツッキー、朝は弱いタイプ?」

「いや……」

 

 ──ダメだ。

 何で朝っぱらから美少女三人と食卓を囲んでるんだ俺は。

 落ち着けるわけ無いだろ、こんな異常な状況をよ。

 

 目が覚めた時は夢見心地だったというか、流れに身を任せてまだ現実逃避が出来ていた。

 だが頭が冴えてきてからはどうだ。

 こんな光景はあり得ない。

 もうハーレムだとかそんな冗談を超越してしまっている。

 何だろう、俺は王にでもなってしまったのだろうか。このリアルなエロゲ主人公体験を出来るほど今までの人生で徳を積みまくった覚えはない。もしかしなくても前世で世界を救っているだろ。

 

「……その、三人ともここにいて大丈夫なのかなって。寮には連絡したのか?」

「昨日の内にトレーナーさんには連絡をいれて外泊許可を頂いておきました。急なお願いだったので多少怒られはするでしょうが……昨晩の件を考えたら些事ですから、ご心配なく」

 

 些事か? 大事だろ。

 

「私たちも一緒よ」

「え、スズカはちょっと違くない……? トレセン出る前にもうトレーナーに話をつけてたじゃ」

「ドーベルこの卵焼きあげるっ!!」

「むぐッ!?」

 

 それって俺が怪異とデュエルすることを見越して外泊許可を貰ってたって話か。すげェ洞察力……ムチッと俺に吸い付いてくる。

 

「もぐもぐ……んっ、てかアタシたちの事はいいんだって。ツッキーこそ身体は大丈夫なの? 昨日はけっこう湿布とか貼ったけど……」

「あー、まぁ、大丈夫だ。問題ない」

 

 湿布が貼られている箇所はまだ多少痛みがあるものの問題ない。きっと青春の毎日を部活に費やしている運動部連中のほうが怪我も筋肉痛も段違いのはずだ。

 俺は運動部所属ではないゆえこのスーパー激痛筋肉痛はもう少し時間を置かないと引かないだろうが、それくらいなら何も無いのと同義である。

 

「貼り替えた方がいいよね、湿布」

 

 えっ、嬉しいベル! 枯山水。

 

「食べ終わったら……貼りましょう」

「そうね。じゃあまたカフェさんが支えて──」

「いや待て待て今は自分で貼れるから」

「駄目だってツッキー、背中側は自分でやれないでしょ」

「首や肩の後ろなどもあります……」

 

 ほ~~~っ♡ おい何でこの美少女たち全然手を引かないんだ? 教えておくれ。

 

「とうっ、秋川くん確保。今よドーベルやっちゃって」

「ほいきた」

「マジで恥ずかしいから勘弁してくれ……! 朝っぱらから上裸になる方の気持ちを考えて!」

「ほらツッキー、怪我人はジッとして──ぁっ、鎖骨……」

「ドーベル……?」

「あっはい! 貼ります湿布!」

「私は洗い物をしておきますね……」

 

 

 ──と、そんなこんなで若干の緊張を含んだまま朝の一幕が過ぎ、朝食後に俺の湿布を貼り替えてから彼女たちは学園へと戻っていった。

 ちなみに一番羞恥心を煽りやがったベルちゃんには頭なでなでアタックという反撃をしておいた。距離感が近い女子に対してモテてると勘違いした男子がやりそうになってしまう危険なスキンシップだが、ちゃんと照れてくれてスッキリ。

 マンハッタンとサイレンスの二人はまた今度ねと言いたいところだが恐らくキモすぎて遠慮すると言われる可能性が高すぎるので何も言わないでおいた。別れ際に少しかがんだのは自分も撫でてという意味ではなく、絶対に遠慮しておきますという意思表示のお辞儀だろう。俺が中学時代にフラれた経験のある男じゃなかったら危なかったぜ。さすがの俺も騙されるところだった……。

 

 

 

 

 美少女三人と朝ごはんという有料プレイに等しい神の行為を体験してから二日後。

 サンデーは未だに戻ってこないが俺にもやる事がある。

 書き置きだけ家の中に残し、バイクに跨って自宅を後にした。

 駿川さんから貰った資料にはやよいの仕事のスケジュールの他に、名目上『理事長秘書補佐代理』としてイベント開催側に介入できるようにするためのデータと、大人たちの前で口にするそれっぽい情報の例が記載されていた。

 理事長の秘書の補佐のそのまた代理とかいう一見すると何言ってんだお前となるような立場だが、最後に代理と付ければ大抵はスルーされるのでうまいところを突いたのかもしれない。流石はトレセン理事長の秘書さんだ。

 

「……ん?」

 

 今日から設営の手伝いに加わるためイベントの開催地へ向かう途中なのだが、トレセンの前を通過すると校門の前でオロオロしている制服姿のウマ娘を発見した。

 はて。

 現在学園の生徒はもれなく旅行バスでイベントの現地へ向かっているはずだが。

 

 特殊なステージでの演出の練習だけでなく、イベントで行われる派手な障害物競走みたいなレースの練習もあり、参加希望した生徒は誰でも出られるというルールのためレース場自体がとんでもない広さと作りになっている。テレビ撮影もやるらしいが、それでやよいの仕事も増えまくっているので複雑な気持ちだ。

 ともかく、スケジュールの都合で学園に居残った後発組にとっては今回のイベントが夏合宿のようなものであり、特別なレースへの出走はまだしもイベントの参加自体は絶対のはずだ。

 なのに学園に残っているあの黒い髪のウマ娘は何者なんだろうか。

 

「ひゃっ」

 

 近くにバイクを停めるとビックリされてしまった。許せ! 心からの願い。

 

「どうも、こんにちは」

「あっ、ぅ、えと……」

「怪しいもんじゃなくて。えぇっと……ほら、これ」

 

 ポケットから名札を取り出した。会場で首から下げて役職を明らかにするためのものであり、駿川さんが用意しただけあってかなり精巧な見た目になっている。

 

「り、理事長秘書補佐代理……さん?」

「えぇ、これから会場へ向かうところなんだけど……きみは? バスはもう出てるはず……」

 

 俺の質問にビクッと反応した少女は泣きそうな顔で俯いてしまった。そんな表情をすると美人が台無し。笑顔が最も。

 見た目で判断して敬語はやめておいたが逆効果だったのだろうか。

 

「うぅ……そ、その……電車が遅れて」

 

 なるほど一旦実家に帰ってた生徒。それならしょうがない部分もある。

 

「野生のタヌキさんたちに追いかけられて……」

 

 それは……まぁそういう事もあるか。

 

「なんとか振り切って、急いだら全部赤信号で……」

 

 ……不幸体質のお手本みたいな少女だ。

 

「で、電話で連絡したら、ライスのせいで皆を待たせちゃうと思って……でも、やっぱり間に合わなくて……ごめんなさいっ!」

 

 あるよねそういうの。おじさん分かるよエスパーだから。ウマ娘エスパー♡

 迷惑はかけたくないし急げばワンチャン間に合って全部丸く収まるかもしれない、という思考は何も特別なものではない。

 俺だってそれで失敗して寝坊遅刻をかました事がある。一度は誰でも通る道だ。

 流石に学園の教師やらトレーナーなら一言物申すだろうが、俺は理事長の関係者であって教育者でも指導者でもない。説教も注意も俺のすることではないだろう。

 すぐに謝罪の言葉が出た辺り、向こうに着いてもきっと自分で謝れるはずだ。俺ぐらいは激甘のあまあま対応で接してあげよう。

 

 てかライスって一人称めっちゃ独特だな。

 どこの地域の出身なのか気になるところだが今は急がねばならない。

 

「きみ」

「は、はいっ……!」

 

 ビビりすぎ。怒んないって別に。

 ()むなよライス。

 俺はもう一つのヘルメットを仮称おむライスちゃんに渡した。こいつは可変式でウマ娘の耳にも対応している。ベルが後ろに乗せてと言っていたので一応買っておいたのだ。

 

「それ被って、とりあえず後ろに乗って。俺も会場に向かうところだからついでに送る」

「えっ! そ、そんな悪い……」

「──もしもし、駿川さん? えぇ、学園に一人残ってて……ライスシャワーさん、ですか。あの、きみの名前ってライスシャワーさんで合ってる?」

「は、はい……っ」

 

 駿川さん情報、ライスシャワーちゃん驚きの高等部。さすがに三年じゃないよな……失礼かましてないか心配になってきた。

 ふ~むだがここはたとえ相手が年上でも頼れる男として。ライダーとして、そして一人の男として。ハピネス。

 にしても親父のくれたバイクが最近ずっと大活躍だ。イベント会場は遠いしウマ娘とはいえそこまで走らせたら脚が壊れかねない。俺に乗れ!

 

「今から一緒に向かいます、はい……では。……よし、行こうか」

「あぁあの、本当にいいんですか……? ライスと一緒にいると……さっ、さっき言ってたような悪い事に巻き込んじゃう……」

「はは、大丈夫だって」

 

 他人の不幸体質に屈するほどヤワではない。

 幼少期のやよいを見ていた経験上、不幸体質というものは確かに存在していてもおかしくないが、近くにいる人間の幸運値がバグっていればそんなものは跳ね返せるのだ。俺は従妹に寄ってきたスズメバチを不意のくしゃみで撃退した男だぞ舐めるな。

 肉体的に少しキツい事こそあれ全体的に見たら最近の俺はラッキーボーイなので安心して♡ 身を任せて♡

 

「仮にその悪い事が降りかかってもバイクで全部振り切るから。……ほら、みんなもあっちで待ってるだろうし、早く向こうで合流しよう」

「…………う、うんっ」

 

 というわけで後ろに乗ってもらって──む?

 ほのかに。背中でほのかに感じる柔らかみ。少々あり。

 おむライスめ、さては俯きがちな体勢で隠していたな? 同乗者としては嬉しいサプライズだよ。卑怯者がよ……。

 

 


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