うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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三人のせいでボクの愛情が空っぽに引き抜かれちゃったよ 責任取って

 

 

「ハヅキ……♡ ん、ぎゅー」

 

 フハハ甘えん坊さんめ。恥を知れ。

 ベッドの中で抱き合おうなど言語道断。おおっ…全身柔らか…っ♡ 全身がスレンダーで抱き心地抜群のため交尾以外の使い道皆無。

 

「耳の付け根が弱いよな。ほれ」

「んっ……ハヅキも耳が敏感なはず。ふにふに」

「おーこら、やめ♡」

「やめない♡」

 

 ────あ?

 

「正気か……?」

「……私もたぶん、いま戻った」

 

 なんだ今の。

 

「……怪異の力で転移させられたとき、ワープゲートに残ってた敵の残滓が私たちの身体に纏わりついたのかも。怪異は触るだけでも変な影響が出るから……発散した欲望が少し戻ってきちゃったのかな」

 

 解説ありがとう。教えてくれる度に思うけどキミ怪異のポケモン図鑑みたいだね。俺がトレセンとか秋川家の事情に詳しいようなもんか。

 

 ──さて。

 これまで蓄積されていた鬱憤を夢で発散し、サンデーの温もりを感じてホカホカしてきたところで、そろそろ現状の把握を始めよう。ここ最近延々とムラムラとねむねむでアホアホになっていたので、何となくでしか状況を掴めていない。順序立てて一つずつ振り返っていこう。

 

 まず、怪異とガチバトルした結果身体がボドボドになったサンデーが夢の境界で療養に入り、夏のイベントの際にそこから連れ戻した彼女は『パワーの応用が可能になった反動で基本の三大欲求が増幅しやすい体質』に変わっていた。

 すると当然、怪異と戦う際に彼女と一体化しなければならない俺もその影響を受ける事になる。

 そして、イベントの夜にクソ強怪異と交戦。

 ユナイトした影響で欲望が増幅したわけだが、俺の頭をおかしくさせていた原因は他にもあった。

 

≪ツッキー! 暇っ!?≫

≪一緒にお祭りを回らない?≫

≪今から会えますか≫

 

 ドーベル、サイレンス、マンハッタンによる三択だ。

 今回の夏はあり得ないほどあの三人とラブコメチックな出来事が発生しまくって、本当に自分がラブコメ物語の主人公なのではないかと錯覚してしまうほど濃い数週間だった。

 結局怪異と戦ったせいで彼女たちとの夏は泡沫に消えたわけだが、なんやかんやあって俺との繋がりを求めてくれるようになり、バイト先が一緒になったり高校まで迎えに来てくれるようになったりなど進展もあった──とはいえ。

 怪異とのレースの為にユナイトした俺は性の欲がダイマックスになり、サンデーの夢操作で欲望を発散しようと目論んだのも束の間。

 足に怪我を負って傷ついたドーベルをどうにかし、トレセンで何やら多くの女子に迫られ、高校にまで現れた怪異に対処して──立て続けに事件が舞い込んで俺は困憊とムラムラと睡眠欲で死ぬ直前まで追い詰められてしまっていた。

 

 で、現在に至るわけだ。

 怪異の力で男子禁制のトレセン寮内にある大浴場に吹っ飛ばされ、別にラッキースケベに遭遇するわけでもなく体力が限界を迎えてぶっ倒れた先で何者かに保護され、今こうしてベッドの上に鎮座している。

 溜まりに溜まった欲望は夢を見て解消した。

 とりあえず目下の問題はだいたい解決することが出来たため、残りはこの後の処遇と俺を保護してくれた人物の正体だが──ちょうど戻ってきたようだ。

 

「おっ、ようやく起きたな。朝メシ持ってきたぜ」

 

 現れたのは寝る直前に顔を見たあの芦毛のウマ娘──だったが。

 あり得ない。

 異次元の大きさだ。

 睡眠に入る前は尋常ではない疲弊っぷりだったせいか気がつかなかったようだが、そのウマ娘の胸部にはとんでもない大きさの乳がぶら下がっていた。

 

「……ふぅ」

 

 夢で発散していて助かったという他ない。この通常状態に戻っていなければすぐにでも飛びついていたところだろう。

 なるべく視線を下へ向けず、誠意を表すため目を見ながらの会話を心掛ける。紳士として、男として。ハピネス。

 

「あの……ありがとうございます、助かりました。……倒れてた俺を助けてくれた方、ですよね」

「見つけたのはマックイーンだけどな。あと敬語はいい」

 

 いいわけないだろ初対面だぞ。中央のウマ娘の距離感マジでどうなってんだ。まあ怖いので従うのだが。

 

「……ありがとう。えと、今の状況を教えてくれないか?」

「職員には言ってねーから安心しな。マックイーンのやつが『必ず何か深い理由があるはずですわッ!』て必死だったからよ。あいつには後でちゃんと礼を言っとけよな」

「は、はぁ……」

 

 マックイーンって確かあの華奢な体型の芦毛のウマ娘だったか。庇ってもらえる程親密になった覚えはないのだが──まぁいいか。

 

「ほれ、朝飯のホットドッグ」

 

 どう見ても海鮮丼。

 

「……ありがとう」

 

 本当に何となくだがこの少女相手にあれこれ指摘したら負けな気がする。

 

「食い終わったら乾かしといた制服に着替えて学園の外に出るぞ。ここじゃ落ち着いて話もできないからな」

「わ、わかった」

 

 プルンと揺れる乳に視線を奪われないよう急いで海鮮丼をかっ食らい、周囲を警戒しながら俺たちはトレセンを後にした。ていうか女子のジャージを着てたの俺。良い匂い。公然猥褻。

 

 

 ……

 

 …………

 

 

 彼女に案内されて付近の公園まで避難してきた。

 男子禁制の花園から連れ出してくれた少女の名はゴールドシップというらしい。

 結構なデカ乳ウマ娘だが俺は彼女を知らなかった。ここ最近のリサーチ能力の低さを今一度猛省するべきかもしれない。数ヶ月前はあんなにデカ乳ウマ娘追いに必死だったのに、怪異を言い訳にサボり過ぎていたようだ。

 

「怪異? あぁ、お前アイツらと戦ってんのか」

「えっ」

 

 そして女子校への不法侵入の言い訳にその怪異を使ってみたわけだが、意外にもゴールドシップは呆れたり驚いたりなどの分かりやすいリアクションは取らず平然としていた。好きなタイプでも聞いたら焦ってくれるかな。

 

「ゴールドシップさんは──」

「呼び捨てでいいって」

「……ゴールドシップは奴らの事を知ってるのか」

「視認できるわけじゃないけどな? 気配でなんとなく察知できるってだけだ。トレーニング中に水筒取られたりとかイタズラされてムカついたからワカメぶん回して追い払った事があるぜ」

 

 あいつらワカメで撃退できんのかよ。帰りに買っとこ。

 

「──はぇー……なるほどなぁ。まあお前の事情は大体把握できたわ。そういう事なら……余計にマックイーンと会わせるわけにはいかなくなってきたな」

 

 危険過ぎるからね。しょうがないね。

 というか、そもそも俺と個人的な付き合いがあるウマ娘はドーベルたち三人だけだ。マックイーンという少女とは顔見知りであって友人ではない。会う予定はおろか連絡先すらも知らないのでドーベルを経由しないと俺たちはほぼ他人同士なのだ。

 だからこそトレセンに転移してきた際に彼女が庇ってくれた事実が不思議でならないのだが──

 

「秋川葉月、スマホを出せ」

 

 言われた通りに差し出すとパパッと連絡用アプリの友達登録を済ませてくれた。

 

「ほれ、困った時は連絡しろよ。マックイーンに危害が及びそうな場合のみ手を貸してやるから」

「どうも……」

 

 他の時は助けてくれないのだろうか。

 

「マックちゃんが関係ない場合は……まぁ宝くじの一等くらいの確率で助けるわ」

「限りなくゼロに近い」

「可能性があるだけマシだろ」

「……そっすね」

 

 助けてもらった立場であるため抗議は不可能。とはいえ怪異の対処は極力俺とサンデーの二人だけで行うものなので、食い下がってお願いするほどでもない。

 

「ところでお前、トレセンでの知り合いって誰がいるんだ?」

「知り合い……マックイーンさん以外だとドーベルとサイレンスとマンハッタンさん、あとウオッカちゃんにライスシャワーさん……かな」

 

 あぁ、あとアストンマーチャン。なんか人形くれた子。

 

「えぇ……婚活どころの騒ぎじゃねえぞ。ハーレム志望か? トレセンでギャルゲーでもやるつもりかよ」

 

 んなつもりは微塵も無く。確かに彼女たちの誰かと恋人になったり、全てが上手くいってハーレム状態になったとしたら最高に気持ちいいとは思うが、本気でそれを求めているほど身の程知らずではない。

 彼女たちはエリート街道をまっしぐらに突き進むスーパースターで、俺は普通の男子高校生──その大きな違いを誰よりも痛感しているのはこの俺なのだ。

 世の男子なら誰もが考える『運命的な出会いによる中央のウマ娘とのワンチャン』というものがどれほど天文学的な数字の上でしか成り立たない奇跡中の奇跡であるのかは心の底から理解している。

 故に、結局ハーレムなんぞあり得ないという話なのだ。ゴールドシップさんは安心して下さい。

 

「んじゃな」

「あぁ、ありがとう。ゴールドシップ」

「帰りは後ろに気ぃつけろよ〜」

 

 怖いことを言われつつも意外にあっさりと解放され、中央トレセン転移事件は幕を閉じた。普通に人生最大の危機だったような気もするが、ゴールドシップという事情を察してくれる相手を引き寄せるなどのスーパー運命力のおかげで何とかなって本当によかった。

 転移で高校から消えた件に関しては怪異について察してくれた山田が周囲に上手いこと説明してくれたらしく、早退扱いになっていたので大事には至らなかったので安心だ。あいつには感謝してもし足りない。

 怪異の起こした超常現象が解明されることはなかったものの、道具が転移しまくる様を撮影して激バズリした影響でクラスメイト達はむしろテンションが上がっており、俺が想像していたような悪い結果にはならなかったようだ。

 

 何はともあれ、結果としては最近ずっと抱えていた欲望を発散することが出来てひとまず落ち着いた。

 呪いや怪異の事を考え続けると気疲れするし、現実逃避するわけではないが今はなるべく目先の楽しい事だけ考えて行動しよう。とりあえずは文化祭だ。

 

 

 

 

 トレセンに転移した日のアレの影響で突然サンデーに抱き着きたくなる癖がついてしまい、それに耐えながら数週間が経過して。

 ついに文化祭の当日を迎えた。

 去年と同様の、ごくごく一般的な高校の文化祭になるため、変に気合いが入りすぎる事もなく平和にイベントを楽しむ──はずだったのだが。

 

「みみみみんなマジヤバい校庭見て校庭っ!! なんか中央のウマ娘がめっちゃ来てんだけどッ!?」

「え、待ってあれメジロマックイーンじゃね……? やばい心臓が破裂しそう……っ」

「去年は来てなかったよね? ウチの文化祭に中央の子が来るくらいのビッグイベントなんて無いし……」

 

 見事に中央のウマ娘たちばかりがやって来て──それだけではなく彼女たちが友人を呼ぶことで更に人数が増え『中央トレセンのウマ娘が集まるイベントがやっている』といった噂が各所に広まった結果、普通の高校の文化祭ではあり得ない程の集客が発生してしまっていた。

 何が起こっているのか分からない。

 バイト先のあの三人には、文化祭の準備が忙しいといった愚痴を少しばかり零していたが、当日に来てもらうよう頼んだ覚えは一度もない。

 中央のウマ娘は多忙の身なのだ。直近にレースを控えている少女たちばかりだろうし誘っても無駄だろうから最初から言わなかった。なのにこの集まり様は異常事態すぎて本当に意味が分からない。

 怪異の心配をしてマンハッタンが一瞬だけ様子を見に来てくれるくらいは、まぁ一万分の一くらいの確率でありえるかもしれないと考えていたが、まさかこんなことになるなんて。

 学校が特大のサプライズイベントでも発表したのだろうか。

 

「さ、サンデー……」

「別に怪異の気配は無い。たぶんみんな本当にただ遊びに来ているだけ」

 

 んなわけあるかい。どこにでもある高校の文化祭だぞ。

 

「ハヅキに会いたかったんでしょ。知らないけど」

 

 マジで。俺そんなハーレム主人公みたいなムーブかましたっけ。やったか。夏のイベントの時に二桁くらいの人数のウマ娘を助けたんだったな。顔はうろ覚えでも名前が多少噂になっているとこの前ゴールドシップが独り言で呟いていた。ならばしょうがない。どうやら俺は無敵のスーパー主人公だった──だなんて開き直れるはずもない。

 目的は絶対に俺じゃない。 

 そんな自己肯定感が最強ならこんな人間にはなってないしもっと全力で陽キャを楽しめているはずだ。

 

「あっ、秋川さんっ!」

 

 廊下の奥から声が聞こえた。

 そこにいたのは芦毛かつサイレンスを彷彿とさせるアスリート体型のウマ娘──メジロマックイーンだった。制服姿なのを見るにトレーニング帰りについでで寄ったのかもしれない。

 

「げっ」

 

 その後方から目力だけで人を殺せそうな睨みを利かせるゴールドシップが見えた。このままだと殺されるかもしれない。

 

「秋川お前……メジロマックイーンとも知り合いなのか……?」

「どうなってんだ! 説明しろカス!」

 

 クラスメイトにも殺されるかもしれない。段々と居場所が無くなってきたぜ。テンション上がってきたな。

 

「ご……ご機嫌ようっ! えぇと、お化け屋敷を出店されていると聞きましたので、遊びに参りました! うう受付はこちらかしらっ!?」

「あ、あぁ」

「……おいマックちゃんよ、アタシのこと引きずってまで来たんならもう少しちゃんと話したらどうなんだ。コイツの事す──」

「さぁゴールドシップ! 参りますわよッ!!」

「痛ででっ!!」

 

 文字通り引きずられながらゴールドシップはメジロマックイーンと共にウチの教室の中へ入っていった。そしていつの間にかスマホに『後で話がある』と彼女からメッセージが届いている。今日が俺の命日である可能性が高い。

 というか、メジロマックイーンという少女はもしや俺のことが好きなのだろうか。あの焦り具合は中学時代に好きだった女の子の前で頑張っていたあの頃の俺にそっくりだ。

 今一度自分のカスみたいな自己肯定感を見直すべきなのか?

 もしかして俺って実はモテる男だったりする? 最強じゃん! 来週からは百人ぐらい女子を侍らせながら登校しよっかな~。

 中学時代を想起したらフラれた思い出まで蘇って辛くなってきた。考えるのやめよう。

 

「あ、いた! ウオッカ、こっちの教室よ!」

 

 ダイワスカーレット!!!!??!?!???!!??!?!?!!!!!!!!!!!!!!!???!??! 緊張感をもって注視していく。

 俺はモテるという現実逃避と思考の放棄を並列稼働させていたら、途端にヤバいのが来た。うおっ下品なお乳が揺れすぎです♡ ふざけるのも大概にしておけよ。

 

「わっ、分かってるって……! ──あ、えと、お久しぶりっす。秋川先輩……」

 

 ウオッカちゃんも来ていたのか。先輩呼びをされるのは初めてで最高に興奮するのでどんどん使ってね。

 

「もうっ、ウオッカったら照れすぎ」

「う、うるせー!」

「あの、アタシたちもお化け屋敷に入ってもいいですか?」

「それはもちろん。暗いから足元には気をつけてね」

「──っ! ……は、はい」

「スカーレット……? お前も照れてんじゃねえのか」

「うううっさいわねッ!? ほら早く行くわよッ!」

 

 今は人前かつ平常なので揺れる乳を注視することなくあくまで余裕のある年上のお兄さんとして振舞うと案外うまくいった。てかあの違法建築ウマ娘のことなんて呼べばいいんだろうか。馴れ馴れしく思われない風にいくならダイワさんかな。

 ハーレムはあり得ない可能性の未来として俯瞰できたが、ここでおっぱいダイワスカーレットとの縁を明確に作れる可能性があるのであれば話は別だ。夢にまで見た規格外デカ乳ウマ娘との交流を叶えられるかもしれない。モチベーションが半端ない。

 

「マーちゃんも入っていいですかね」

「えっ? あ、あぁ……どうぞ」

 

 人形くれたおっぱいウマ娘も入っていった。乳が下品だなぁ調子に乗んなよ。招き猫。

 校庭で見つけたウマ娘たちはほんの一部で、もしやもっと多くのウマ娘がこの文化祭に来ているのだろうか。この上なく大繁盛だ。

 この様子だと文化祭が終わったあと余った売上金で焼き肉に行こうというクラスメイト達の目標が、割と余裕で達成できるかもしれない。もし本当に俺に挨拶がしたくて来たウマ娘がいるなら招き猫ならぬ招き葉月を名乗ろうかな。にゃん。

 

「ライスさん。先ほど入手したチラシによれば二年四組の教室──秋川葉月さんの現在地はこちらです。階段を上がる必要は無いかと」

「えっ!? あ、あの、まってブルボンさん……! その、ライスが行ったら迷惑をかけちゃうかも……」

「そんな事はありません。さあ行きましょう」

「ひゃわわわ……っ!」

 

 あれ『おはし』って知らないの? 押さない話さない喋らない。交尾待ちウマ娘さんには分からせねばだな。丁寧に丁寧を重ねた丁寧なお化け屋敷をな。

 おめめグルグルのおむライスや初めて見るおっぱいウマ娘もやって来て、軽く挨拶をして彼女らも入っていった。

 どんどん訪れる。

 なんならウマ娘だけでなく、彼女たちを一目見ておきたいお客さんや生徒までやってきた結果、下の階まで待機列が伸びてしまった。想定以上の集客でクラスのみんなは大慌てだ。

 

「山田。みんな大丈夫か?」

「テンパってるけど意外と平気みたい。受け付けは僕だけで大丈夫だから、秋川はビラ配りしてきてよ。稼ぎ時だぞ~」

「本当にひとりで回せるか……? 俺も──」

「ウザいウザい大丈夫だってば。中央のウマ娘さんたちに話しかけられまくって廊下をギュウギュウにしてる君はむしろ一旦離れた方がいいよ。早くどっか行ってクソハーレム主人公くん」

 

 え~♡ しょうがないなぁ。他ならぬ親友の頼みだからね♡ マナーが人を作る。

 忙しすぎて普段より口が悪くなってきた山田に後押しされて、俺は一旦教室を離れることになった。

 

「スゲェなこの数……」

 

 いつの間にか外まで待機列が出来てる。一応最後尾用の看板を持ってきておいてよかった。

 集客の主な理由は間違いなく中央のウマ娘がいるからだろう。来てくれた彼女たちには感謝してもし足りない。

 いや、そもそも元を辿れば、中央の彼女らと繋がりを持つことが出来たのはあの三人のおかげ──

 

 

「…………あれ?」

 

 

 ──そういえば、どこにもいない。

 最も繋がりが深いウマ娘であるあの三人が中々見当たらない。

 ビラを配りながら校舎をぐるっと一回りしてみたものの、やはりどこにもいない。

 ドーベルと、サイレンスと、マンハッタンの姿が無い。

 もしや来ていないのだろうか。確かに忙しい身ではあるのだろうが、こんなにも中央の生徒たちがここへ集まれているのであれば、トレセン側で何かイベントが発生しているとは考えにくい。

 もちろん暇だとは思わないが。三人ともフィギュア化された超大人気のスーパースターだ。予定が合わない事もあるだろう。

 しかし、メッセージすらも送られてきていない。

 中でもサイレンスはマメに連絡してくれるタイプのはずだが、二日前から何も──

 

「……考え過ぎか」

 

 ビラを配り終わり、自販機で買った紙パックのいちごオレを片手に、校舎裏の人が少ない場所に謎設置してあるベンチに座り込んだ。

 一連の流れで自己肯定感が上がりかけたが、冷静に考えれば期待しすぎる方がおかしいのだ。思い上がりすぎです。

 クソ忙しいはずの彼女たちとの繋がりを当たり前だと思ってはいけない。

 夏のイベントの後、怪異の幻覚の件で強く繋がりを求めてくれたのは確かだが、何を差し置いても俺を優先してくれるという話ではないのだ。

 友達を助けたいという思いが強い、とても優しい少女たち。

 ただそれだけの話だ。俺たちは気の置けない友人であって恋人ではない。俺が主人公で、彼女たち三人はまだルートを選択していないヒロインたち──だなんて考えはあくまで俺の中でのみ存在するただの妄想に過ぎないのだ。

 

「…………大丈夫だよな」

 

 怪異の事が脳裏に過る。

 もう守られるだけの存在にはならない、とマンハッタンは言ってくれた。

 もしかしたら彼女たちが戦ってくれているのかもしれない。

 傷ついてほしくはないが、心のどこかで『そうあってほしい』と考えてしまっているのも確かだ。

 怪異も関係なく、ただここへ来ないという選択肢を取った──もしそうなら、きっと俺は。

 

「いや、待て。キモいな俺……」

 

 流石に少しばかりキモいが過ぎる。偶然仲良くなれただけなのに、俺をまるで友達以上の存在であるかのように思ってくれると考えるなんてキモすぎだろう。

 こういう振る舞いをして嫌われる前に、今度彼女たちと相対した場合にちゃんと距離感を保って接するよう今のうちにシミュレートを──

 

 

「わわッ!?」

「きゃあっ!」

「ひゃぅっ……!」

 

 

 そう考えてベンチから立ち上がって歩き始めた──その瞬間だった。

 突如俺の真上の空間が歪曲し、そこからドーベル・サイレンス・マンハッタンの順で彼女たちが落下してきた。

 そこで、サンデーとのユナイトで上昇した反射神経を用いて、格好よく受け止める事こそできなかったが何とかギリギリ下敷きになることで彼女たちのクッションとしての役割は果たすことができた。

 思考云々の前に肉体が勝手に動いた。

 時空間を飛び越えてやってきた彼女たちに押し潰されながら、そこでようやくドーベルたちが『怪異と戦って特殊フィールドの中から脱出した』のだと察した。

 

「いたた……。──えっ、あっ、ツッキー!?」

「ご、ごめんなさい……ありがとう葉月くん、重くない?」

「私たちが落ちる場所で待っていてくれたのですね……助かりました」

 

 ここにきて運命力がまた力を発揮してくれたようで、俺は彼女たちが戦っている事を察して出口であろう場所で待っていた男になることができたらしい。

 少し体勢を立て直して、ようやく彼女たちの顔を拝むことが出来た。近くで見ると絶世の美女だな……。

 突然の出来事で動けない俺と、戦いの後ということで疲弊して気が抜けている三人。

 右にサイレンス、左にマンハッタンで真ん中にドーベルときてこの状況、お互い制服だしアレなところを鷲掴みするとかそういうわけではないが広義の意味ではラッキースケベだ。

 ただトレセンの大浴場に転移させられるだけでは何も起きなかったが、彼女たちと関わると途端に俺の日常が慌ただしいイベントに早変わりしてしまうようだ。こんなにも幸福なことは無い。

 

「……ごめんな、三人とも」

 

 ついに俺抜きで怪異と戦ってくれた。

 先ほどまで考えていた邪な感情が吹き飛び、少し破けた袖や汗で滲んだ首元に、汚れた脚を見てただただ申し訳ない気持ちと──感謝があった。

 

「ありがとう。ベル、サイレンス、マンハッタンさん……本当にありがとう」

 

 そのまま自然と身体が動き、俺は自分の腕を目一杯に使って彼女たち三人を抱きしめた。舌出せよオラ早く。

 

「わわっ、ツッキー……!?」

「ど、どうしたのかしら……」

「葉月さん、私たちがいない間に何かあったのですか? 一体……」

 

 なんだかんだ言いながら手が自然と俺を抱き返しているよ♪ 下品に下品を重ねたような女たちだな。

 もちろん少女たちに対する性欲云々もゼロではないのだろうが、それよりも何よりも俺は自分が彼女たちの事を()()であるという事実を再認識した。もしかしてコレが恋……? なかよしなつがいになる第一歩だね♡ 相変わらずえっちな体つきだなぁ見下げ果てたよ。フィヨルドの恋人。

 ──本当に安心した。

 連絡が無かったのは特殊フィールド特有の消し飛ぶ時間の中にいたからだと分かってよかったが、怪異となんてもう二度と戦わないでほしい。俺がアイツらを殲滅するので休んでくれ。あらゆる選択肢を排除せずにしっかりと奉仕して参りますよ。

 

「──ぁ、秋川……?」

 

 校舎裏で三人を抱擁して密着している様を山田に発見されたが自分でも驚くほど焦燥感がやってこない。おねーちゃんたちとはつがいだから密着しないと♪ それが真理。刻み込め。

 

「きゅう──」

 

 あまりにも衝撃的な場面だったのか、山田はバタンと気絶した。その間も四人の中に淫臭籠もる。

 

「や、山田さん!? ちょ、葉月くん! 山田さんが倒れ……!」

「あわわどうしようどうしよう」

「お二人とも落ち着いてください。とりあえず一度保健室に運びましょう。……保健室の場所、わからない……」

 

 まぁそう焦るなよ。武勲を急く武士に実りは少ないと言うよ。三人が慌てふためく中、山田を保健室へ一瞬で連れ込みベッドで寝かせ、ついでに救急箱を持ち出して俺は彼女たちと共に人がいない屋上へと移動した。人の心配をする前に自分がどこを怪我したのか葉月先生に教えてください♡ 

 

「ツッキーに見せるの、ちょっと恥ずかしいけど……えと、脇腹に障害物が掠っちゃって。ほら、これ……」

 

 おい少しは躊躇しろッ! 見境のない女だ。

 

 

修学旅行編やるので次回についてご意見ください♡ そこはかとなくイグっ♡

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