うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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占いはよーくみて刻み込んでね

 

 

 

 ある日の夜、風呂上がりの俺とサンデーはジャージ姿でボストンバッグに荷物を詰めていた。

 

「あれ、携帯用の歯ブラシどこにやったかな……」

「この前買った新品のやつなら洗面台の下の棚」

「うーんと……無いんだが」

「綿棒の奥」

「……おっ、あったあった。サンキュ」

 

 見つけた新品の歯ブラシをケースごとバッグにぶち込み、閉めるのが難しくなったパンパンのチャックを気合いで何とか閉め切って準備を終えた。後は寝るだけだ。

 

「ん、ハヅキは荷物が多すぎる」

 

 座布団で胡坐をかいて一息つくと、文句を言いながらサンデーが後ろ向きで俺の胸に倒れ込んできた。マンハッタンと似ている彼女の、分かりやすくあの少女と異なる部分である紅い瞳と同様に、艶やかな漆黒とは異なる淡い白髪から、ふわりと香った甘い匂いが鼻腔をくすぐる。これはマンハッタンが彼女のために持ってきてくれたシャンプーの香りだ。これは子供できたな……。

 

「悪かったって。もしもの時に備えとかないと落ち着かないんだよ」

「心配性すぎ」

「クラスに一人くらいは俺みたいなのがいた方が意外と助かるんだぞ?」

「ふぅん……」

 

 言いながら頭を撫でるとサンデーは目を閉じて静かになった。チョロすぎて怒りを覚えてきた。子供の名前を考えておけ。

 なんかいつの間にかサンデーの距離感が更に近くなっているような気がするのだが、こっちは普通にバチクソ緊張してるし女の子の扱いに慣れたわけでもない。

 まぁ確かに一緒に暮らしている以上互いにいろいろと遠慮が無くなってくるのはしょうがない事だと思うが、それでも一応お互いを好き合って同棲しているわけでもなければ恋人でもなく、呪いを押印された俺が怪異を引き付けて対処することでマンハッタンを守る──そういう利害の一致があったが故にやむなしでこうなっているだけなのだから、もうちょっとこう遠慮をだね。

 

「楽しみ? 修学旅行」

「──まぁ、割と」

 

 うるち米。

 激近距離感できっとおそらく俺をからかっているであろうサンデーにムカついて、反撃するべく横に寝転がって後ろからほっぺを揉み揉みしていると、間近に迫ったイベントについてのコメントを求められたため、ついポロっと本音が漏れ出た。

 

 

 ──文化祭は大成功だった。

 提供商品の数が限られている飲食店と違い、気合いと根性さえあれば無限に続けられるお化け屋敷という形態が功を奏したらしく、ウマ娘たちの宣伝効果で爆発的な集客率を叩き出した俺たちのクラスの売り上げは当然の如く校内で一位だった。

 そして担任に隠れてこっそり売上額を計算したところ──普通にちょっと引いた。中央ウマ娘の集客能力が流石に段違いすぎて、普通の高校の文化祭における一クラスの売上額ではなかったのだ。

 そんなこんなで打ち上げも余裕で成功し、還元される分のお金でクラスの備品が新しくなったり部活連中用の洗濯機が購入されたりなど、高校に著しく貢献した俺たち二年四組の絆はより深いものになっていった。

 中央のウマ娘云々で俺に恨めしい視線を送っていたクラスメイトも、終わってみれば『サンキュー秋川愛してる!』といった風に和解できたため、文字通り万事解決の大団円だ。

 

 そして文化祭が終わった後の二年生のイベントといえば修学旅行。

 明日からそれがようやく始まる──なのでこうして大急ぎで荷物を準備していた、というわけだ。

 

「で、お前はどうすんだ?」

 

 部屋に布団を敷きながらそう聞くと、先に敷いた布団の上で女の子座りして呆けているサンデーが首を傾げた。油断しすぎじゃない? どうやら種付けをされたいらしい。

 

「どうするって、なに」

「いやほら……俺がいない間、やっぱりサンデーはマンハッタンさんのとこに帰るのかなと」

 

 あの三人で戦えるようになったとはいえ、サンデーもそこにいた方が心強い事には変わりない。

 それに俺と一緒に出掛けたら一時的にマンハッタンと遠く離れることになる。基本の行動目的がマンハッタンを守ることである彼女はこのまま残る方が自然だ。

 

「ついてく」

 

 あら。もしかして俺のこと好きになった? イクぞ!イクぞ!我が物とするぞ!

 

「ウマ娘三人で怪異に対処できるあの子たちより、私無しで一人になるハヅキの方が危険なのは自明の理」

「それは……まぁ、確かに」

 

 否定できなかった。度重なるユナイトで素の身体能力が多少向上しているとはいえ、トップアスリートである彼女たちと違って俺が一般人であることに変わりはない。

 

「でもいいのか?」

「カフェはもう一人じゃない。……それに、ハヅキも少しは自分が楽しむことを考えた方がいい。せっかくの修学旅行なんだし」

 

 慈愛の権化。こんな優しい少女に支えてもらえるなんて感慨深いぜ。無様にイけ。

 

「サンデー…………」

「なに、近づかないで」

「いつも優しいきみにお礼がしたい。耳かきなんてどうかしら」

「え。──わひゃっ」

「ほれ膝枕するから大人しくしろ」

「あぅ……」

 

 そんなこんなで彼女を労わりつつ夜も更け、ついに修学旅行の当日を迎えた。

 

 

 

 

 

「秋川ポッキーいる?」

「さんきゅ」

 

 新幹線内にて。

 あの時気絶した山田はショックがデカすぎてその時の事を忘れてしまったらしく、俺たちは変わらない距離感で接している。冷静にあの場面を見られてはいけない相手ナンバーワンだったので、これからは気をつけないと。

 

「京都に着いたらどうしようね。観光名所はあらかた調べたけど」

「自由時間めっちゃ長いし適当にのんびり回ろうぜ」

「おーい、男子たちもババ抜きやろ」

 

 クラスメイトたちとダラダラ移動時間を過ごす──何でもないこの時間がとても楽しい。これぞ修学旅行の醍醐味だ。楽しい時間というのはあっという間に過ぎるもので、気がつけば目的の駅に到着していた。

 改めて自由時間になり、まずは適当に神社でも回ろうという話になった。

 これを機に仲を深めたい男女や、それを応援する生徒、バカ騒ぎする男子や計画通りに進む女子などそれぞれ散り散りになっていき──いつの間にか山田と二人きりになっていた。これじゃいつもとあんまり変わらん。

 

「ねぇねぇ秋川、あそこのテントで占いやってるみたいだよ。やってこ」

 

 占いにはさほど興味はないのだが、断る理由もないため中へ入った。

 待っていたのは丸い水晶で怪しげな雰囲気を醸し出している人と、壁に突っ立ってるのがもう一人。二人ともローブで姿を隠しているため外見の情報が一切なく、あまりにも胡散臭いがこういうのを楽しむのも旅行ならではかもしれない。

 というわけで席に座ると、占いの料金が無料である事を知った。なんで店を出しているのだろうか。

 

「ん゛~、むむむ……これはこれは」

 

 フードで顔を隠しているが、耳が上に飛び出ているところを見るに彼女はウマ娘だ。

 横を見ると出張営業と書かれた木の板がぶら下がっている。どうやら普段は別の場所で占いをしているらしい。

 

「ふおっ、三通りの未来が視えます……どれを選んでも苦悩が伴うかと……」

「は、はぁ」

「救いはないのですかぁ……?」

 

 横のローブの人から可愛い声が聞こえてきた。てかこいつも耳が見えるからウマ娘だな。何なんだこの店。

 

「あの、三通りの未来って具体的にはどんな?」

「全て超常現象に巻き込まれてしまうようです……一つ目は身体が小さくなり、何故か大阪に強制移動したあとに小柄な芦毛のウマ娘に拾われる可能性が高い……」

 

 具体的すぎて怖くなってきた。もう聞くのやめよう。

 

「残りはいいです」

「えっ。ふ、二つ目は私と……その、ゴニョゴニョ……する未来が視えるのですが……」

「なんて?」

 

 俺が難聴なのではなく聞こえない声量で喋られたがもういい。ダラダラのんびり回るとはいえ、こんな場所に時間をかけている場合ではないのだ。早くアクメしろべらぼうめ!

 

「山田も占ってもらえよ。俺は外で待ってっから」

「ああぁあのあのお待ちくださいっ! 回避手段だけでもお教えしたいのですぅッ!」

「は、はぁ……」

 

 無料なのにこんなに必死でやる意味もよく分からんが一応最後まで聞いておこう。

 

「えぇっとですね、この付近で中央の生徒が撮影会をしているので、一応寄ってみてください。あなたを助ける存在がそこにいるはずです……!」

 

 中央の生徒──まさか中央トレセンのウマ娘の事だろうか。聞いた瞬間山田が驚きでひっくり返っている。かわいい。

 一口に中央の生徒と言っても、俺が名前を知っていてかつ撮影会が開催される程の有名ウマ娘はそう多くない。予言にあった“超常現象”という部分を仮に怪異だとすると、放っておくことも出来ない。

 どちらにせよ行くしかなさそうだ。それに中央の生徒を一目見れるなら山田も嬉しいだろう。

 てなわけで占い屋を後にした俺たちは、SNSの情報を基に撮影現場を探し回り──ようやくそれを見つけた。

 

「むぉっ!? ダーヤマさんではないですか! 奇遇ですねッ!」

「えっ、あっ、デジたんさん……っ!?」

 

 そこには複数のウマ娘と──以前俺が怪異を退けようとした際に、ファンの仲間と遠征に向かっていたらしい山田と同じ車の中にいた、デカいリボンを頭に付けたスレンダーなウマ娘の姿があった。

 そして最も気になったのは、彼女を目の当たりにした瞬間に山田が興奮したファンの顔ではなく、露骨に赤面して緊張した面持ちに変わった事実であった。こいつ絶対にあのデジたんさんとやらの事が好きだな、と一瞬で察することができてしまった。

 まさかとは思うが、あの少女が俺を助けてくれる存在なのだろうか。

 

「あれっ、葉月さん……?」

 

 それからマンハッタンもいた♡ とりあえず一緒に路地裏まで来てベロチューするので。油断していたなマヌケが。

 

 




【ちょっとだけ登場人物まとめ】


メジロドーベル:一人目。いろいろあって恋に恋する状態に最近変化が訪れた。弱点は壁ドン。

サイレンススズカ:二人目。バイト中にこっそり手を握ろうとして毎回失敗してる。弱点は壁ドン。

マンハッタンカフェ:三人目。新しく買ったコーヒーメーカーをとある住所に送り付ける予定。弱点は壁ドン。


ウオッカ:バイクの後ろに乗せてとお願いする練習をしている。

ライスシャワー:福引で当たったテーマパークのペアチケットを眺めて一人でう~う~言ってる。

メジロマックイーン:同上。

アストンマーチャン:新しい人形を作った。今度また会ったら渡す。

ゴールドシップ:最近ドロップキックの練習が捗ってきた。本番のタイミングを見計らっている。

デジたんさん:同志の隣の男子、どこかで見た事があるような……。

秋川やよい:いとこ。以前ペアマグカップを買ったのでそろそろ持っていく。来週には合鍵も貰うためここ数日間ずっとテンションが高い。

駿川たづな:高校生男子の心理に関する本を買った。あと忙しくなってきたのでとある人物に連絡を入れた。

ホッコータルマエ:ダート適性のウマ娘。数ヵ月前なぜか芝で走り、サイレンススズカに敗れた。

まだ見ぬ強敵たち:一応縁はできてる。


 -


山田:デブ。親友が有名になってきてちょっと鼻が高い。なんか忘れてる気がする。

樫本先輩:未登場。とある人に呼ばれたためそろそろ中央に戻る予定。

お友だち(サンデー):サイドキック。

秋川葉月:主人公。壁ドンするやつは常識的にあり得ないと思っているので二度とやらない。


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