うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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仮面を被れば繋がる縁♡ 吸い付いて離れねぇぞ

 

 

「じゃあみんな気をつけて帰れよー」

 

 そんな担任の一言で本日の学業は終了した。ポッポー♡

 今朝、マンハッタンをトレセン学園へ送り、その場の流れで捕まえようとしたアグネスタキオンに逃げられてから数時間──疲労困憊を悟られないよう全力で普通を演じているが、さすがにそろそろ限界が近い。

 この日は二時間目まで授業をやって、あとは創立記念の長ったらしい校長トークを聞いて解散という流れだったのだが、そんな普段なら楽勝すぎるスケジュールも今の俺には辛すぎて、一時間目に返してもらった英語の小テストに書かれた点数すらボヤけて読めないのだ。

 

「山田ー……♡」

「わっ。ど、どしたの?」

「横腹ぷにぷに」

「やめなさいよ……」

「なぁ、これ俺のテスト何点なの」

「え……読めないレベルの体調不良なの……? 全十問で八問正解だよ。二個だけ間違ってる」

「そんな出来てんだ。じゃあ次の授業んときは指されないな」

「あの先生、点数低い生徒のことよく指して喋らせるからね……」

 

 ダル絡みするフリをしながら山田にもたれ掛かり、なんとか彼に先導してもらいながら昇降口を目指していく。

 この状態では付近のパーキングに停めたバイクを出しても運転して帰るのは無理そうだ。ていうかパーキングまで山田に付いてきてもらおう。来い!お供たち!

 

「俺、どこ間違えたんだ?」

「えーと、ノーザンライトが間のeが抜けてて……テーストも同じ間違いだ。こっちはサービス問題だよ?」

「いやぁ……テスト中も眠すぎたんでしょうがないわ」

 

 確かこの小テストをやった日も朝方に怪異とレースをしたのだ。いつだったかはもう覚えてないしどうでもいい眠いお腹すいたムラムラする死ぬ!!!

 

「あっ、そうだ秋川。これ渡そうと思ってたんだ」

「……?」

 

 パーキングに到着してバイクを出庫すると、別れ際に山田がバッグから何やら丸い鏡のような物を取り出して手渡してきた。

 

「なにこれ」

「マスクというか仮面というか……とにかく顔に装着するやつ。全体がミラーレンズみたいになってて他人からは顔が見えないようになってるんだ。ウチの押し入れの中にあったから引っ張り出してきた!」

「お、おう……サンキュ」

「また急に襲われでもしたら戦わないといけないだろうし、とりあえず今はそれで顔を隠すといいよ。ちゃんとしたやつは土曜に買お」

 

 と、そんなこんなで一体どこで買ったかも分からない謎アイテムを俺に譲渡した山田はそのまま帰っていき、俺もバイクを押しながら帰路につくこととなった。また明日! えへへ。

 

「うおっとっと」

「秋川ー! ほんとに一人で帰れるーっ!?」

「へーきへーき、サンキュな~」

 

 心配してくれた親友に手を振り、改めて前を向き直す。

 ──とりあえずはひと段落だ。

 あの合同イベントに誘われてからは実に忙しない毎日で、怪異の覚醒や身バレしかけたりなど精神的にも落ち着く暇がほとんどなかった。

 このまま帰ったら速攻でメシ食ってお昼寝直行で決まりだ。今夜はもつ鍋にするゾイ♡

 とにもかくにも増幅した欲求を解消してノーマル状態に戻っておかないと、怪異たちとのレースに支障を来たしてしまう。

 またいつ現れるかも分からない連中なんだから──

 

「……?」

 

 ふと、住宅街に差し掛かったあたりで立ち止まった。

 そういえばだが、俺は“怪異”という存在について、思ったより何も知らないのではないか、と考えてしまったのだ。

 あいつらはよく分からんファンタジー存在で、マンハッタン曰く『悪意を振りまくだけで深い目的はない』という、ただはた迷惑な連中として処理してきたが──俺自身が奴らを調べた事は一度も無かった。

 闘うだけで性質を知ろうとしたことは一度も無い。

 それは……どうなのだろう。

 

 秋川家ではウマ娘を見る際に何よりもまず、本人たちの基礎データを調べて頭に叩き込むところから始める。

 その基礎データとはスタミナや脚質だけを指しているのではなく、性格や好きな物、嫌いな事までを含めてのデータであり、それを調べて育成に活かすことを基本としているのだ。

 たとえば極度の負けず嫌いに中盤における我慢比べの駆け引きを強いると、合理的な意見では制御できない感情が途中で爆発して戦略どころの話ではなくなる。

 

 だからウマ娘のスペックだけでなく個性も深く知る必要があるのだ。

 もちろん何もかも無視して暴走した場合に偶然覚醒するワケわからんバグ強ウマ娘もたまにはいるが、秋川家ではそこに賭ける方法などは教えなかった。

 ゆえに解析。

 上辺の情報だけでなく、一見不要とも思えるような情報まで把握してこそ、見えてくる道もあるということだ。

 

 で、そういう部分を調べるための観察に関してだけは、幼い頃に親父から唯一褒められた部分でもある。

 今でも相手の表情から内心を読み取る技として重宝している大事な特技だ。

 とどのつまり、怪異をもっと知れば闘いも楽になる可能性が上がるし、ワンチャンそもそもレースしなくてよくなるルートもあるかもしれない、という話である。

 

「……ハヅキ、すごいね」

 

 そのままバイクを押して歩いていると、隣にいるサンデーが俯きながら呟いた。

 俺が凄いのは当たり前だが具体的にはどこがですか? きみが俺を褒めるなんて珍しい。おまえ美人だね。

 

「一昨日の夜にユナイトして街を疾走。本気は出してないけど……鼻血を出す程度には肉体にもダメージがあった。当然、それで三大欲求の渇きも酷いことになってる」

 

 そりゃそうじゃ。あのカラスのせいで柄にもなく無茶をしたからな。もうボロボロですよホント♡

 

「でも、今はそれを押し殺して怪異のことを必死に考えてる。他のみんなに危害が及ばないよう、必死で方法を模索してる。……だから凄いって言ったの」

「……そ、そうか」

 

 ……照れる素振りも見せずに真正面からそう言えるお前の方がよっぽどスゲえわ。

 あんまり褒められると調子に乗っちゃうからその辺にしておいてね。

 

「ん、前みて」

「えっ? ──いだっ!」

 

 住宅街の電柱に正面衝突。ツッキーも歩けば電柱に当たる。

 

「っ゛~……!」

「大丈夫? 集中すると前が見えなくなるよね、ハヅキって」

「うっせ……」

 

 

 

 

 ──あ?

 

「ッつ……肩いてぇ……」

 

 たぶん、寝てた。変な体勢だったせいか体の節々が痛む。

 ゆっくりと上体を起こして気がついたが、どうやら帰ってから布団すら敷かずにそのまま畳の上で眠ってしまっていたらしい。

 帰宅したらちゃんと昼飯を食って、段取り決めてサンデーと昼寝の中の夢で渇きを潤して、正常な状態になってからネットや図書館を使って怪異について調べようと、諸々考えていたのだが……どうやら疲労感と眠気には抗えなかったようだ。

 

「んぅ……」

「サンデー、一回起きよう。もう夕方だしお腹に何か入れとかないと」

「……はい……わかった……」

 

 いつの間にか俺にくっついて隣で寝ていた相棒を揺すって起こし、部屋の明かりをつけると共に置時計で時間を確認した。

 もう十八時過ぎだ。図書館での調べ物はもうできそうにない。

 それにこの数時間で解消できたのは、ある程度の睡眠欲と疲労感のみだ。

 未だに食欲と性欲はバグったままと言っていいため、早急に何とかしないと。

 

「げっ……まともな食い物が無いな……」

 

 ため息が出た。買い物をサボっていたせいか、冷蔵庫の中は壊滅状態で調味料以外は飲み物くらいしか無い。

 

「ハヅキ……お腹すいた」

「とりあえず一瞬で味噌汁だけ作って、それ飲んだら買い物に行こう。……具なしだけど」

「ないよりまし……」

 

 そんなわけで非常に寂しい味噌汁を用意し、一息ついた後に家を出た。

 制服から着替えるのも面倒だし歩きで行って近場のスーパーで済ませよう。

 この時期の夕方はもう夜と言っても差し支えない暗さで、比例して気温も極端に低くなる。

 おまけに冷たい風が吹いてとても耐えられたものではないと感じたのか、相棒はプルプル震えながらさりげなく俺の手を握ってきた。そう、男の指で暖をとって頂くのがマナーだ。よく知っているな……♡

 

「サンデー、何が食べたい?」

「精のつく料理」

 

 あれ、聞き間違いかな。興奮し過ぎだぞ夜伽係。抱き枕としての自覚が出てきたらしい。

 

「……帰って飯を食ったら、またすぐ寝るつもりなんだが」

「ん、だめ。眠りが浅いとかえって夢が中断される恐れがある。ちゃんと寝れるよう、ある程度は疲れないと」

 

 そんなこと言われても帰ってからやる事なんてパソコンで怪異を調べる事くらいだ。ぐっすり眠れるほどの心地よい疲労には至らないだろう。

 精のつく料理を作ったとして、それで得た元気を発散する方法がない。

 

「………………。」

 

 ジッ、と横から俺を見つめるサンデー。熱っぽい視線とも言うか。ジト目だが明らかに頬が紅潮している。

 ほう。

 なるほど。

 まあ何が言いたいのかはなんとなく理解できる。

 俺も彼女も精神状態はほとんど同じだから、サンデーがやりたいであろう事は、つまり俺のやりたい事でもあるのだろう。本気汁が出てますぞ。

 

 とはいえだ。

 煩悩で頭が沸騰していても弁えるべき一線はいつだって自覚している。それこそペンダントで無理やりにでもタガを外されない限りは絶対に暴走しないと心に決めている。

 これは何回もペンダントやユナイトの影響で心が弱らされたからこそ育った自制心だ。

 確かに俺は、自分から爛れた道へ誘おうとしてくる相手の提案は拒否しないし、そのまま責任を取るという覚悟は持っている。

 王道ラブコメ主人公みたいに鋼の精神をもってヒロインをはねのけるなんてことはしない。いつだって間違える気満々な性欲煩悩スーパーマックス男子高校生だ。

 

 ──しかしこれは駄目だ。

 おそらく自制が利かなくなる。

 恋人になるわけでもなければ、精神的に大きな何かを乗り越えるでもない、ただ合理的な理由に基づく必要な行為──そうなると"言い訳"ができてしまうのだ。

 責任を取る、という覚悟を根本から揺るがす危険な思考だ。

 この先も怪異と闘わないといけないのに『これは必要なことだから』とか『平静を保つ為にはしょうがない』とか()()()()()で際限なく求めることになってしまう恐れがある。

 それは駄目だ。

 あの儀式や夢ですらギリギリなのに、これ以上は本当によくない。

 いま俺が置かれている状況は確かに大変だが、楽をする部分とサボってはいけない苦労はしっかり見極めておかないと、俺とコイツはいつか相棒ではなくなってしまうかもしれないのだ。

 

「ハヅキ」

「……いや、ダメだぞ。それこそ何のために夢で済ませてるんだって話になるだろ。本末転倒じゃ意味が」

「んんー……っ」

「遂に腕に抱きついてきちゃった……♡」

 

 なんと左半身に温かくも柔らかい感触在り。なぜ俺をボロボロに打ち負かそうとするのだ? まぁいいや。

 

「なぁ俺とお前はそういうのじゃないだろ? 今は思考が冷静じゃないだけだ、落ち着けって。あくまで俺たちはマンハッタンさんを守るための協力関係を敷いてるだけの間柄であって、確かに同居人として多少は近しい距離で接しているがそれにもレベルとか限度ってものが──」

「……ハヅキはイヤなの?」

 

 あっ、困った事に子供の名前を今すぐ考えないといけなくなってしまったみたい。器量よし。しかし変態ボディの持ち主。マジで許さん。

 

「夢でやったこと全部するからな」

「ぇ……」

「今度は気絶すんなよ」

「……ちょっと煽りすぎたかも」

 

 うるせえ今更退けねぇよアクメスイッチ・オンだ! いい加減にしろマジで可愛いね。タレントになれるよ、モデルとか……キャスターとか。

 う~んリアルな体験ではありましたがアレもあくまで夢。現実でボクチンごときにやってのけることができるのかな? 不安だお。

 

「ほら外では恋人繋ぎな」

「有無を言わせない勢い……」

 

 プチアクメを感知。この女ちょっと俺のこと好きすぎますね。手を握ってほ~れほれほれほれそいそいそいそい。夫婦間の営みみたいだね♡

 

「精のつく料理か……どうすっかな」

「あの、キャンセル可?」

「そもそもお前が言い出したことだろ」

「……困った」

 

 主役はあとから登場。まごころの籠ったご奉仕を期待しているぞ。そりゃっお待ちかねだぞっ。

 今晩のメニューをどうするか悩みながら街の歩道を歩いていく。毎晩俺との夢を楽しみにしやがってよ。蝶よ花よ。

 嵐の前の静けさと言うべきなのか、単に脳と身体が火照っただけなのか、先ほどまではただ寒いだけだった冬の空気が、今はただの涼しい風にしか感じない。

 普通に恋愛対象として見ていて尚且つ()()()()()()と思いながら接している他の少女たちとは異なり、コイツはお互いに大切な相手(マンハッタンカフェ)を守るための『協力者』という明確な線引きが存在している。

 だから今までやってこられたワケだがもう知らん。何もかも破壊してやる。オイ何か言うことがあるんじゃないのか!? イっていいよ♡

 

「──きゃあッ!? ぁ、わっ、私のバッグ……っ!?」

 

 そろそろスーパーが見えてくる、といったところで目と鼻の先で、なんと引ったくりが発生した。

 若い大人の女性が持っていた高そうなトートバッグを、フードを深く被った不審な男が無理やり奪い、付近に停めていたバイクに乗って逃走していく。

 

「──サンデー!」

「その前に、山田君に貰ったあの仮面を付けた方がいい」

「あっ、おう、確かに顔バレしたら終わりだな……!」

 

 すぐさま路地裏に隠れ、一応買い物用のエコバッグに入れておいた、あの全面がミラーレンズになっているマスクを被ってから走り出した。

 肝心のひったくり犯は事故が怖いのかあまりスピードを出しておらず、映画のようなカーチェイスをする勇気も無いようで道路を恐る恐る進んでいる。

 ──というか。

 

「あいつ交差点で停まってんじゃねえか……」

 

 かなり交通量が多い交差点にビビった逃亡犯は赤信号を無視できずに止まってしまい、その隙に俺たちはあっという間に追いついてしまった。たぷんたぷん♡ まってまって。つかまえたぁ♡

 

「この際しょうがないな……エコバッグ使おう」

 

 いつの間にか横にいた俺に気づいて言葉を失っている犯人の首根っこを掴み、バイクごと道路の端に連れていって、スーパーパワーで千切ったエコバッグを使い犯人の手足を結んで拘束した。今は拘束道具がこれくらいしか無い。主婦の味方。

 後ろを見ると、バッグを盗られた女性が焦った表情でこちらへ向かって走って来ている。

 スマホを耳に当てている辺り警察への通報はもうおこなっているようだし、俺の出番は終わりみたいだ。面倒に巻き込まれる前に退散しよう。

 

「……アンタの事情は知らないが、こういう事にバイクを使うのはやめてくれよな」

 

 そう言って犯人に軽くデコピンしてから跳躍でビルの上に逃げてその場を後にした。不遜な男、恥知らず。マジでもう二度とバイクに触れる事なかれ。

 あとは警察が適当に何とかしてくれることだろう。

 

 ──おっと。

 少し頭がフラついた。

 この前派手なレースをしたばかりで、ほんの数時間の昼寝以外まともな回復をしていないのに、またユナイトして走ったとなれば体調不良は必然だ。

 さっさと買い物をして帰らないと──

 

「……何だ、アレ?」

 

 人気のないところへ飛び降りようとしたのも束の間。

 もう一つ隣のビルの屋上で、何やら怪しげな人影と共に大量のカラスが集まっているのを目視で確認した。

 

「カラス……? でも、別の怪異もたくさんいる……」 

 

 そこには美少女体のカラスと、いかにも亡霊っぽい連中が屯していた。

 俺の宿敵であるカラス以外の怪異は基本的に煙みたいなぼやけたよく分からない姿をしている。

 そこから他の動物に変身することもあるし、カラスほど鮮明ではないがうっすらと人型に変わってレースをする事もあるのだが、そういう今まで見かけた事のある連中が屋上であの黒髪トリ娘を囲んでいるのだ。

 

「うぉっ、何だ……っ!?」

 

 そして、カラスが一瞬眩く光ったかと思うと、いつの間にか周囲にいた怪異たちが、どいつもこいつも人型に変身してしまっていた。変身のバーゲンセールだ。

 ウマ娘に酷似しているカラスとは異なり、男か女かも分からないような、それこそマネキン人形のようなのっぺらぼうの姿だが、それでもハッキリと姿を捉えられる人型に変わってしまったのだ。世も末インフレ。

 

(……カラスが怪異たちに力を分けた……?)

 

 まじ? おませさん♡

 

(たぶん、他の怪異たちも一般人が視認できる姿になってしまってる)

 

 それはとんでもない大問題だが──何のために。アップルパイ。

 

(分からない。怪異は基本的に結託することは無いし……でも、とにかくマズいかも)

 

 イヤな予感がする、というサンデーの読みは当たりだった。

 カラスや一部の怪異はそのままどこへともなく去っていったが、人型に変身した残りの三体が眼下に広がる夜の街へそれぞれ散り散りに降りていったのだ。

 

「あっ! ちょ、待てっ!」

 

 それを追ってビルの屋上から俺も飛び降りた。

 とりあえず近い順に追って倒していかないと、奴らのせいで街が大変なことになるかもしれない。

 なにも怪異のターゲットは俺だけではないのだ。

 レースの勝敗で俺に対して異常な執着を見せるカラス娘は例外として、他の怪異たちは“目的が無い”からこそ()()()()()()()()()()

 ……山田から言われたようなヒーローとやらを演じるつもりは毛頭ないが、とにかく連中を対処できるのは現状俺だけだ。急がなければ。

 

 

 

 

「それは見間違いじゃないか、シービー……?」

「もう、本当に見たんだってば。男の子が道路を蹴って建物の上に飛び乗るとこ! トレーナーだってニュースは確認したでしょ?」

「いやまぁ確かに写真は見たが……しかし……──んっ?」

 

 まず最初の一匹目は律儀に歩道だけを走り、道行く人々からネックレスやマフラーといった装飾品を奪いながら逃走を続けているようだ。ゆえにスピードがどんどん落ちてる。雑魚め。

 奪った品はヤツの身体の中に収納されているため、やはり心を折って倒さないと盗難品は取り返せないらしい。

 レース場を出現させなくなった怪異たちの心を折る方法は、おそらく単純に追いつくことだ。

 そのまま逃げ切れば向こうの勝ち。

 圧倒的に自分が優位な状況から走り始めたにもかかわらず、後ろから追いつかれて捕縛されればプライドが粉砕されて一時的に消滅する。

 

「きゃっ──あっ、アタシの髪飾り……っ!」

 

 おそらく制服からして中央のウマ娘であろう少女の小さな帽子型の髪飾りを奪ったあたりで追いつき、後ろから押し倒してやったら怪異は煙のようにフワッと消滅し、ヤツが奪った物の数々がそこら辺に散乱した。俺の勝ち! ばーか♡ ザコ♡

 盗られた人たちに返してあげたいところだが他の二体を追わなければならない都合上あまり時間が無い。

 せめて持ち主が分かってる髪飾りくらいはそこのウマ娘の少女に返してあげよう。

 ……えっ!?

 このウマ娘──おっぱいがデカい! どうして……。

 マジで仮面なんて装着してる場合じゃないんだが。今すぐ脱いで自己紹介したい。僕をケダモノに仕立て上げて! 責任をとっていただくからね! 生意気な女だ。しかし美しいのだ。

 とりあえずコレは返そう。無言で。ビチビチビュバッビュオオォォォ。

 

「えっ。……あ、うん。ありがとう……?」

 

 あまりにも奇跡的な確率で結ぶことが出来たデカ乳ウマ娘との縁だが、残念ながらこの街を守るためには今すぐここを離れて残りの二匹を潰しにいかなければならない。

 せめて仮面によって視線が隠されている内に、三秒間だけ彼女のデカ乳を後生大事に拝んでおこう。クオリティコントロール。

 

「……?」

 

 一、二──デカい乳、目の保養。いつかこれを鷲掴みにできるほどの王になる。革命の日は近い。ディープキスも忘れないでね♡ 素敵だよ。

 

「えぇと……」

 

 三さよならッ! 大きいおっぱい鑑賞ありがとうございました♡ またお会いしたいと思います♡

 

「ぁっ! ちょっと待ってよ! 名前くらい──あぁ、行っちゃった……」

「シービー! 大丈夫かっ!? い、いま上に飛んでいった仮面の男、もしかして──」

「……ふふ、絶対にもう一度見つけないと」

「し、シービー……?」

「トレーナー。ちょっと久しぶりに隣を走りたい相手──見つけちゃったかも」

 

 すたこっらさっさと目撃者たちの前から去り、次は東の方へ逃げていった怪異を追っていく。

 ちょっと頭が痛むもののまだ無理が可能な範囲だ。

 ぶっ倒れる前に早いとこあのカス共を殲滅しなければ。

 

 こうして移動している間にも俺を目視する人々は増えていて、サンデーの空間歪曲も使っていないため、仮面が外れたら一瞬で人生の崩壊が訪れる。

 ここまで変に目立ってしまうのなら、通常の移動は仮面を外してバイクを使い、対象を見つけ次第身元が割れないような他の衣服にサッと着替えて仮面を装着する、という方法の方がいいのかもしれない。

 ──と、怪異を見つけた。

 どうやら建物の上を飛び回るのはやめて、商店街に入っていったようだ。

 

「ふふふ~、やりましたねスカーレット。福引で二人ともにんじんハンバーグを当ててしまうとは」

「嬉しいけど、こういうところで運を使っちゃっていいのかしら……それにしてもマーチャン、よく福引券を二枚も持ってたわね?」

 

 あそこで歩いてる少女は──ダイワスカーレット!?!??!?!??!!?!??!?

 

「実はトレーナーさんから頂いたのです。なんともう一枚あります。これは帰ってから、ウオッカにプレゼントしましょう」

 

 その隣にいるのは……えぇと、そう、アレだ。夏のイベントで海の家へ行っていたとき、クオリティが異様に高い手作り人形をくれた少女だ。今日も可愛いねぇ~♡

 たしかアストンマーチャンだったか。めちゃめちゃ念入りに自己紹介をされたから覚えている。深く。鋭く。

 本当に顔と名前を知っている程度で、知り合いとも呼べるかは難しい相手だが、ウチの高校の文化祭にもわざわざ顔を出してくれた律儀な少女だ。

 なにより乳がデカい。

 正直ダイワスカーレットに迫る勢いのハイパーおっぱいだ。今日はおもてなしを受ける場合の作法を学んでもらう!

 

「……おや? ぁ、ほわわっ──」

「ッ!? まっ、マーチャン!?」

 

 そんな彼女たちデカ乳シスターズのうち、アストンマーチャンのほうが人型の怪異にお姫様抱っこの形で連れ去られてしまった。

 プルルンと揺れる巨峰。見逃すわけにもいかず追走。

 商店街から飛び上がってまた建物を伝うスパイダーマンごっこを始めた怪異を追いかけながらも、俺の視線は怪異が動くたびに猥褻に震えるアストンマーチャンのデカ乳に吸い込まれていた。3サイズは? ウチのメイドはムチムチじゃないと務まらんよ?

 

「あ、あのう。マーちゃんはこれから寮に戻るところでして。ウオッカにも福引券をプレゼントしなければなので。できれば離していただけると……」

 

 アストンマーチャンは比較的落ち着いた声音で怪異に訴えかけているようだが、その言葉を聞いて素直に従うような連中なら俺もこうして追いかけてはいない。

 なんとか全力で追い縋り、タイミングを見計らって次に着地するビルを思い切り踏みしめて強く跳躍した。そのせいで建物の外壁に少しだけヒビが入ってしまったのは申し訳ない。足のパワー半端ねぇ~!

 

「トレーナーさんも、スカーレットも心配してしまいますし……」

 

 俺はお前の揺れすぎなおっぱいのほうが心配だよ! トラウマになる前に助けてあげるからね♡

 ──というわけで追いついた。ザコ♡

 具体的には先ほどのジャンプで大きく先回りして、ビルの屋上で怪異を通せんぼした形だ。

 追いつかれるばかりか、圧倒的に先をリードされた怪異は敗北感で散滅。

 

「ひゃっ」

 

 そのまま落ちそうになったアストンマーチャンを、再びお姫様抱っこでキャッチ。うおっやわっこ。

 なんとか二体目を倒して人質の解放も成功した──が、俺の人生経験の中でお姫様抱っこというのを幼い頃のやよいとしかやった事がないせいか持ち方が不安定になっており、アストンマーチャンを軽く持ち直したら片手の指先になにやら()()()()()()を感じてしまった。気がする。なんだこの触れる気がないのに触れてしまえるほどの大きさのデカ乳は? VIPに対し無礼であろう。心から誠に申し訳ございませんでした。

 

「降りるぞ。しっかり掴まってろ」

「……は、はい」

 

 あの怪異に対して肝の座った対応をできていたメンタル激つよ美少女も、さすがに目まぐるしく変化し続ける現状には面食らってしまったらしく、言われるがまま俺の首に回した腕に力を込めた。お゛っ♡ 当たってますよ。当ててんじゃねえよ。控えおろう。

 そのまま彼女を抱いてビルの屋上から飛び降り、何度か付近の建物を足場に使って安全な速度で歩道に着地した。もう放していいよ。当たってるって言ってるでしょ。ぐあああぁぁァァァッ!!!

 

「マーチャンっ!」

 

 ゆっくりと彼女を下ろしたあたりで丁度、とんでもない速度で走ってきたデカ乳がダイワスカーレットを揺らしながら合流した。すぐにアストンマーチャンを放さなければならない状況になって逆に助かった。危うくデカパイ妊娠させるところだった……。

 

「ぁあっアンタ誰っ!? マーチャンに変な事してないでしょうねッ!!」

「待ってください、スカーレット」

 

 ダイワスカーレットが焦ってバッグの中にあったスポーツドリンクやら筆記用具やらをぶん投げようと構えると、意外にもアストンマーチャン本人が彼女を手で制した。ドエロい状況判断あっぱれ♡ 私が育てました。

 

「この鏡マスクさんはマーちゃんを助けてくれたのです」

「えっ? ……た、確かによく見たらさっきの奴とは違う……?」

 

 どうやら俺はアストンマーチャンを攫った怪異と間違われていたらしい。別にダイワスカーレットの飲みさしのペットボトルを投げられるなら大歓迎だったのだが時間が無いので誤解を解いてくれて助かった。とにかくもう行かないと。

 

 ──あの小さい帽子の髪飾りのウマ娘だけじゃなく、ダイワスカーレットとアストンマーチャン……と連続してデカ乳ウマ娘と遭遇している。これは間違いなく偶然ではない、仮面を被った事により変動した運命だ。残りの一体からも巨乳の呼び声が轟いているぜ。

 

「あの。あの。お急ぎのヒーローさん。せめて()()()の名前だけでも聞いていただけませんか」

「ま、マーチャン、この人は助けてくれたかもしれないけど、流石に怪しいんじゃ……」

 

 そりゃ全面ミラーコーティングされたお面を付けた変態だからな。ダイワスカーレットの判断が正しいと思います。名乗ったらプロポーズしたものと見なす。

 

「怪しくなんてありません。彼は落ちそうなマーちゃんを掬い上げてくれました。危なくならないよう、掴まっていろと言ってくれました。抱く力の強さも柔らかくて、優しくて……」

「だ、抱っ……!? アンタやっぱりマーチャンにやらしい事したのね!?」

 

 誤解です! 詰め寄らないで! 静粛に! 近づきすぎて胸が当たってしまっていますよお嬢さん。愛おしくて性的で魅力的なボクチンのヴィーナス。

 

「──アストンマーチャンです。……また、どこかで」

 

 これ以上ダイワスカーレットに詰められたらデカ乳の前に敗北してしまうと悟り、助けた少女の自己紹介をしっかり聞き終えてから俺は再び跳躍してその場を離れていった。

 

 めくるめく三体目♡ 記憶をたどって西の方へ走っていたら見つけました♡

 しかしいよいよ視界が茫漠として参りました♡ この程度で弱るとは忸怩たる思いでございます♡

 マジでヤバい。

 本当に限界が近い。

 この状態を例えるなら、まともな休憩を挟まず全力疾走の五十メートル走を何十本も連続して続けている感覚だ。酸欠まっしぐらのシャトルラン:レベル100といったところ。お鍋が美味しい季節ですね。

 うるち米。 

 とりあえず敵は視認できた。

 あれ。なんかアイツを追いかけてるトレセン生がいるみたい。その勇気は俺の嫁に相応しいな……。

 

「か、カイチョー!? そんなヤツ追いかけたら危ないよっ!」

「いいからテイオーは警察に電話を! ──待てッ! 道行く公共物を次々に破壊して……お前の目的は何だっ!?」

 

 なんかトレセンでめっちゃ見た事のあるウマ娘が怪異を追いかけている。

 怪異は大分無茶な速度で走っているが、追いかけているウマ娘もなかなかのスピードだ。通行人などにぶつからないよう状況判断も怠っていない。

 見た事のないヤベーやつが暴れているというスーパー緊急事態なのにあの冴えた思考とそれを支える脚力、なかなかに素晴らしい。ついに求婚する相手を見つけてしまった。

 

「っ!? 路地裏に──!」

 

 そして怪異があのウマ娘を撒こうと入り組んだ道に入ったとほぼ同時に先回りして着地した。ぐず怪異! 俺には敵わず何も得ず。

 

「……! き、きみは……」

 

 とりあえず怪異は俺に追いつかれて狼狽している隙に、デコピンしてやったらロウソクの火が消えるように霧散した。その光景は追いかけてきていたウマ娘も目撃してくれたようで、一旦の脅威は取り除けたみたいだ。この街は俺が守るぜ。王だからな。

 

「っ……」

 

 フラついた。激アクメ寸前。

 

「だ、大丈夫か!?」

 

 なるほどダイワスカーレットほどではないが彼女もデカい。仮面を被った途端にデカ乳ウマ娘たちと縁ができまくって感動ですよホント♡ 逆に仮面を被らずして最初に出会えたベルちゃんがちょっと運命すぎ。おうちで沢山コスプレ着せ替えプレイをしようね。カメラを添えて……。

 一旦地面を蹴ってジャンプ。

 少し上の非常階段の踊り場に着地すると、ここまで追いかけてきたウマ娘は焦って『待ってくれないか!』と声をかけてきた。告白?

 

「あなたが何者でも構わない! とにかくあの不審な人型の怪物を祓ってくれて感謝する! ありがとう!」

 

 感謝する気持ちがあるならベロチューしろそれが社会だ。からだすこやか茶。

 

「私は中央トレセン学園生徒会執行部会長のシンボリルドルフ……以前、あなたを街で見かけたことがあるんだ。もしや日常的にあの怪物と闘っているのか? 奴らの目的は一体……」

 

 う~~~ん小難しい事はこっちも調べてる最中なのでノーコメントだ、自ら死地へ飛び込むマゾ女。しかしその闘志誉れ高い。

 こっちは疲労困憊で無理みがヤバめなのでまともに応対できないのです。無言で黙ってると陰の実力者に見えるかもしれないけど疲れてるだけだから深読みしないでね。

 ていうかこの少女がシンボリルドルフか。シンボリルナドルフではなかったらしい。しかし俺の中ではルナちゃんだ。

 

「……一学生にできることなど限られているが、少しでもあなたの力になりたい。私も学園のウマ娘たちの安全のためにできる限りの事はしたいんだ。……せめて、名前だけでも教えてくれないだろうか……?」

 

 名前。

 ほう、名前か。

 何でもいいんじゃないかな。俺の本名以外なら何でも。しかしダサいネーミングは勘弁ときた。とはいえ頭の中のカッコよさげなワードを引き出せるほどの余裕は無い。正直立ってるだけでも精一杯だ。足腰ガックガクで草。

 なんだろう。

 それっぽい単語──

 

「…………ノーザン、テースト」

「っ!」

 

 今朝に返された英語の小テストの中からの適当な選出です。自分が間違えた問題くらいしか思いつかなかったし、よく分からんがなんとなくコレがしっくりくる。

 

「さらばだ、ルナちゃん」

「えっ……な、なぜ私の幼い頃の呼び名を……? あっ、ちょっと待っ──」

 

 言うだけ言ってその場を飛んで離れた俺だったが、最初から疲労困憊の状態で戦い始めてそこから更に三連戦も休みなく続けたせいでまさに満身創痍の屍と化し、数キロ先の路地裏にあっけなく墜落してしまった。イカロス。

 仮面は割れて砕けてしまい、大事な制服は汚れて体調もボロボロになった俺はゾンビみたいに路地裏を出て大通りに出ていく。

 もうマジで視界が曇りガラス。頭の中も不協和音が鳴り続けてるし、何より全身の激痛でそろそろ倒れそうだ。額から血も出てきた。どうやら死ぬしかないらしい。

 

「……お?」 

「いかがなさいましたか、ゴールドシップ。また宇宙人でも見つけただなんて世迷言でも」

「なぁマックちゃん。あそこにいるのって──うわっとと……!」

 

 そのまま倒れかかった瞬間、遠くから駆けつけてきた誰かが俺を咄嗟に抱えてくれた。この柔らかくも華奢な体躯と甘いスケベな匂いは……?

 

「秋川さんっ!? ──な、なんてひどい怪我……!」

「おーいマックイーン!」

「ゴールドシップ! 早く救急車をっ!」

 

 めっちゃ良い声で耳が孕みそうなのを感じながら相手に全体重付加。

 すると、驚くほどあっさり意識が離れていき、深い泥の中へと沈んでいくのであった。

 

 

 

 

「…………ん……っ」

 

 眩しい日差しが真っ暗だった瞼の裏をオレンジ色に染め、まもなく意識が覚醒した。

 ズキズキ♡と痛む全身を無理やり動かして上体を起こし、眩しさゆえにうっすらとしか開かなかった瞼をしっかりと開眼。俺。

 そこでようやく自分が病室らしき場所のベッドの上にいることに気がついたのであった。

 

「──っ! ツッキー!!」

 

 で、残りの周囲の状況を確認する間もなく、めちゃめちゃ聞き馴染みのある声と共に誰かが俺に抱きついてきた。痛い痛い苦しい柔らかい良い匂い気持ちいい。

 

「よっ、よかった……本当によかった……!」

「……ベル?」

 

 目を覚ました俺に開幕から熱い抱擁をかましてくるとかいう、好感度最大個別ルートまっしぐら確定メインヒロインとしか思えない行動をぶちかましてきたのは、どうやらベッドのすぐそばで俺が目覚めるのを待ってくれていたらしいメジロドーベルだった。

 あまりにも寝起きすぎて焦りも照れも出てこない俺は、彼女に抱きしめられながら視線を横にずらした。

 そこにあった時計は短針が三を示していて、外が明るい事を考えると現在の時刻が夕方の十五時頃であることが分かる。

 いつの間にかユナイト解除がされていたらしく、サンデーも隣で熟睡している。

 

「ベル。ここは……?」

「えっ、あ。えと……ツッキーのお家からはちょっと遠いけど、大きな病院だよ。ここが倒れた場所から一番近かったらしくて……って! それより体は!? どこか痛い!?」

 

 あなたが抱きついてくれたおかげで下半身の一部が痛いくらい自己主張しそうですが。魅力的すぎるよ……今生で一番の女かも。結婚しよう。

 

「いや、大丈夫だ。とりあえずナースコール押すから、一旦離れてくれるか……」

「あ、うん、ごめん……あの、本当に平気?」

 

 平気だっつってんのに離れても手を握ったまま。おぉっ怒りと性欲が登ってきた……! 5合目……! 6合目……!

 

「こほん。失礼しますわ──」

「あ、マックイーン」

「っ! ぁ、秋川さん! 目を覚まされたのですね!? は、はぁ……本当によかった……っ!」

 

 ぬるっと病室に入ってきた芦毛のウマ娘ことメジロマックイーン。

 彼女も安堵しながら俺の元へ駆け寄ってきたが、ドーベルと同じように無意識にもう片方の俺の手を握ってから表情が固まった。何か言え。絵画のようだよ。

 

「……ど、ドーベル? いつから秋川さんの手を握って……?」

「え。マックイーンも現在進行形で握ってるじゃん……」

 

 論争を始めるのは勝手だがまず手を放してくれない? ナースコール押したいのに両手が華で塞がってしまっているよ。素直なメスも嫌いじゃない。

 ──ん。

 外から更に声が聞こえてきた。看護師さんが来てくれたのだろうか。

 

「あら? パーマー、あなたマックイーンと一緒に来るはずでは……?」

「いやぁなんか先に行っちゃって。アルダンさんこそ、ドーベルは?」

「ふふ、学園を出るところまでは一緒だったのだけど、そのあと先に行くと急いで──」

 

 これ絶対看護師さんじゃないわ。俺の予想が正しければまた病室にウマ娘が増えると思われる。全員で胸を押し付けて俺を殺す気か?

 

「ライアンお姉さま……なぜここまでメジロ家総出で集まって……?」

「あはは……そりゃまぁ、ドーベルとマックイーンがあんなに心配する男の子ってなるとね……ほら、あたしたちもでしょ? 来てないのなんてラモーヌさんぐらいだし」

 

 なんか声が増えた。もういっそ寝たふりした方が楽な気がしてきた──が、結局ドーベルとメジロマックイーンには手を放してもらえず、そこへやってきた謎のウマ娘たちに焦って二人との関係を問い詰められた結果、俺は泣きそうになりながらナースコールを連打するのであった。山田……たすけて……っ!

 

 


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