うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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カフェラッテをご所望? 愛いヤツ

 

 

 ラスボス打倒の第一段階として、まずは俺と相棒のデバフ状態を解除するため、我が家に学友のマンハッタンカフェさんをお招きしてから小一時間。

 やよいの頭の上に乗っている猫ちゃん先生、もとい夢の案内人とかいうよく分からんファンタジーな役職にも就いている彼女から、俺たちを回復させるためのアイテムをいくつか預かってきてくれたマンハッタンがその内の一つを行使してくれたことで、なんとか理性を飛ばさず食事と入浴を済ませることができたのが現状だ。

 

「葉月さん……首に装着したチョーカーは……苦しくないですか」

 

 夜も更けあとは眠るのみ、となった辺りでマンハッタンカフェ女史による三大欲求解消作戦がスタートした。

 ささっと布団だけを敷き、その上に座った自分と相棒は彼女の施術を見守るのみ。

 もはや今夜から明日の朝にかけてまでの時間は、一挙手一投足そのすべてを目の前の少女の指示に従って動かすことになるだろう。

 

「あぁ、大丈夫だよマンハッタンさん。……にしても凄いな、このチョーカー。強制的に興奮を鎮静化させる、とは聞いていたがここまで落ち着けるとは思わなかった」

「ふふ……会話ができる状態に戻れて何よりです」

 

 マンハッタンカフェが持ち込んでくれたアイテムの一つは、よく首に巻くファッションとして用いられるチョーカーによく似た物で、それをつけた自分とサンデーは普段の日常生活時と同じレベルの平静さを取り戻している。

 正直ムラムラのムの字もない状態だ。

 さすがに自分の家の布団の上で、同年代の女子と向かい合って座っている状況自体はインモラルを感じずにはいられないものだが、その部分に関しては俺も男の子なのでしょうがない。

 

「まだ準備が終わっていないので、二人とも少しだけ待っていてくださいね」

 

 マンハッタンはチョーカーとは別に持ってきたロケットペンダントに何やら細工を施しており、それが完成してからが本番とのことで。

 

「ハヅキ、あそぼ」

「うい」

 

 俺と相棒は手持無沙汰になってしまい、彼女の作業を阻害しない程度に遊ぼうということで指相撲を始めた。

 

「……ハヅキと私、なんかカフェの飼い猫になってる気分」

 

 首輪をつけて、飼い主の用事が終わるまでじゃれついてる姿はまぁ傍から見るとそうかもしれない。首輪っていう形状がよくないよね。いろいろやってもらってるしマジで服従してる気分になってきた。

 それはそれとして、今夜はどんなことをするのだろうか。

 前提としてユナイトの反動ダメージを回復させたいわけだが、その為に必要な癒しの場所こと、俺と相棒にとってのポケモンセンターである夢の世界へログインすることが、現状ではできなくなっている。

 それの対抗策とのことだがコイツは何か知っているのかしら。

 

「で……具体的にはこれから何をやるんだ?」

「簡単に言うと()()をする」

 

 なんそれ。言葉の響きはカッコいいけども。

 

「ハヅキと私は敵からの呪いとか攻撃を直接受けているわけじゃない。夢の世界の入り口に“秋川葉月”っていう人間の情報体を感知すると入場をはじく、セキュリティみたいなのを設置されてるだけ」

「……アカウントが使えなくなってる、って感じか?」

「そう。だからログインできない」

 

 はぇ~催眠おじさんめそんな小細工を。

 というか俺と山田以外アイツのこと『敵』としか呼ばないんだよね。催眠おじさんという呼称はもしかしてコンプライアンス違反?

 

「でもハヅキは人間だから、ゲームと違ってアカウントを新しく作ることはできない。なのでセキュリティに引っかからない形に偽装をします」

「つまり……?」

「夢の世界でだけ別の人、になる。この世界に実在する別の人間に」

「はぁ、なるほど……」

 

 セキュリティ回避の理屈は何となくわかった。

 俺たちが秋川葉月やサンデーではない存在に変身すれば夢の世界には入れて、あとはもうお好きなようにって感じか。

 ──と、そうこうしている間にマンハッタン側の準備が整ったらしく、ドライバーや宝石っぽい何かの破片などを片付けたのち、部屋の電気を落とした。

 カーテンの隙間から差し込む青白い月明りだけが、手元を僅かに照らしてくれている。

 

「……お待たせしました。では、始めましょうか」

「あぁ、よろしく頼む」

「では……まず布団で横になりましょう」

 

 あれ、交尾のお誘い?

 

「二人の間に……私が入ります。それぞれ私の手を握ってください。ほらあなたも」

「わぁい。カフェのおててスベスベ」

「さぁ、葉月さんもどうぞ」

「…………。」

 

 ここで眼下に広がる光景を解説させていただきます。

 二つ並べた白い布団の上にパジャマ姿の美少女が二人、寝ころんだ状態でこちらを手招きしております。

 さらに言えばこの部屋の暖房はつい最近新調したばかりで、室温もわりと高めに設定してあるので、暖かな部屋に油断して彼女たちは薄手の寝間着に身を包んでおります。

 クリーム色の無地の長袖、ロングパンツのサテンパジャマは、仰向けになることでその薄い布が重力に負け、まるで張り付いたように身体のラインが浮き出ます。

 あまりに自然体な少女は自らが醸し出す色香を認識できておらず、無防備に晒された格好の獲物はまさしく誘蛾灯であり私はその光に吸い寄せられるほかにないのでした。ぐおっ……! 無農薬栽培。

 

「ふぅー……」

 

 ──いかん、と首を横に振った。

 まぁ襲っても無罪だとは思うがそれはルートが確定した場合の話だ。催眠おじさんに対処できなかった場合はこの街が危機に陥ってしまうわけで、今夜のこれはあくまでみんなを守る為の戦いの下準備。

 意識を改めて取り掛かろう、というわけで無心で黒髪美少女の隣に寝そべり、何も考えず彼女の手を握った。南無山。

 

「はい、では二人とも……夢の世界の入り口でお会いしましょう」

 

 その言葉の後には静寂だけが取り残され、疲労と眠気から次第に闇の中へと落ちていった。寝つきランクTire.S。

 

 

 ……

 

 …………

 

 

「うおっ……すっげムラムラする……」

 

 気がついた時には真っ白な空が広がっている草原に座っていた。そして急激に襲ってくる三大欲求の波に気圧される。

 

「あぁ、チョーカーの効力は現実世界だけなのか」

 

 そう呟きながら首元に触れると、やはり緊急措置として身に着けたあの首輪の感触はどこにもない。

 アレが無くなったことで現実での欲望がブリ返し始めたわけだが、数瞬前まではマトモだったおかげかまだ少しは余裕があるようだ。

 そのまま何をすることもなく胡坐をかいてボーっと草むらを眺めていると、その視線の先にフッと風のように黒髪の少女が現れた。

 

「──ふぅ。はづ……いえ、トレーナーさん、お待たせしました」

「ぜんぜん、いまここに来たばかりだから」

 

 すっくと立ちあがって彼女の元まで駆け寄ると、首元に銀色のロケットペンダントの存在を確認した。

 どうやら現実世界でいじっていたコレのおかげで、マンハッタンの案内通り現実でも夢の世界でもない曖昧なこの草原に訪れることができたようだ。

 いま俺の名前を呼ばずにトレーナーとして呼んだのも、情報体偽装の一環なのだろう。

 

「えーと、アイツは?」

()()()()()()は先に夢の中心へ連れていきました。……ここだけの話、夢の深い場所までたどり着いてしまえば、普通に振る舞っても問題ないみたいです」

 

 そう言いながらこちらへ手を差し伸べてきたので、そのまま握ると程なくして目の前の景色が移り変わり、見覚えのある街中に周囲が切り替わった。

 これまでの経験から察するに、ここはマンハッタンカフェの夢の世界に近い場所だ。

 きっと道中には同じ心象風景に“府中”や“中央トレセン”を持つ他の人々の夢が見えたり見えなかったりするのだろう。消えたサンデーを助けに向かった際、にゃんこ先生の案内で知った夢の世界の仕組みだ。ここ進研ゼミでやったところ!

 

「私の深層意識付近……具体的に言いますと、中央トレセン学園までたどり着ければ、夢からはじかれることも無いようなので……とにかく進みましょう、トレーナーさん」

「あぁ、行こうか。マ──……か、カフェ」

「……っ!」

 

 いまの俺は彼女の担当トレーナーだ。あまり私的な付き合いはないものの、トレセンやイベント先やマンハッタンの話などからその人となりはある程度だが把握している。

 カフェ、と彼女を呼ぶ。

 柔和で、落ち着きがある。

 なんというか、こう、凄く大人の余裕を感じる男性だ。

 

「……はい、トレーナーさん。早速トレセンへ戻りましょう」

 

 一瞬だけ驚いた顔を見せた彼女だったが、すぐに柔らかい表情で俺の隣へ戻り、緩慢な足取りで中央トレセン学園へと向かい始めた。

 ……のだが。

 

「ふふっ……どこか緊張されていますね」

「そ、そんなことはないよ。いつだって余裕いっぱい。最後までチョコたっぷりだから」

「ふむ……ある男の子からすると、トレーナーさんはそう見えていると。なるほど」

 

 あれなんかちょっとからかってきてない? こんなに必死なのに貴様……。

 ていうか何なんだろ、このロールプレイ。

 まだ始まったばかりなのにキツすぎる。辛すぎる。

 何が悲しくて、学園生活でのあれこれや趣味趣向、走りのクセや歌やダンスの練習風景などなど、好きな女子の学校内でのパーソナルデータをトレーナーとして知り尽くしている完璧な男性の猿真似をしなきゃならんのだ。

 ボクのほうが先に好きだったのにッ! ボクのほうが先に好きだったのにィッ!! ……いや俺と知り合った時点で担当契約は既にしてたんだったよな。あれ、もしかして俺が勝ってる部分って存在しない? 泣けてきた。マゾも悪くないかも……♡ 

 

「……すみません、あまりトレセン内での私の話はしたことがありませんでしたね。……あなたの知っている私も、ウソ偽りのないマンハッタンカフェですから、無理に知らない話をしようとしなくても大丈夫ですよ」

「そ、そう……?」

 

 マンハッタン本人がそう言ってくれるのであれば、この道すがら俺の知っている彼女をもとに会話を構築すれば何とかなりはするのだろう。

 セキュリティもハチャメチャに厳しいわけではないらしく、あまりにも分かりやすく秋川葉月として振る舞ったりしない限りは、少々危うい内容の会話をしてもはじかれることはないみたいだ。

 

 ──だが、気が変わった。

 無論危ない橋を渡る気はないが、俺の知らない彼女をこうも意識させられては、たとえ夢であろうと疵を癒そうにも集中できない。

 トレセン学園のマンハッタンカフェ──その知りようがない彼女の姿に対する疑問を抱いたままでは、たとえ欲望を漂白しきったところで澄んだ水の中には僅かな澱が残るに違いない。

 

「なぁ、()()()()()()()()

「はい? ……あっ。えぇと……呼び方が」

「やべっ、ごめんカフェ」

 

 先行しかけた気持ちを押さえて訂正し、改めて深呼吸を一度挟んだ。

 シンプルな答えだ。

 知らないなら、知ろうとすればいい。

 分からないことは、教えてもらえばいい。

 それが俺たちにはできるのだ。

 トレセンでどんな授業を受けているのかも、長距離トレーニングのベストタイムだって知らないが──秋川葉月とマンハッタンカフェは友人なのだから。

 

「……トレセンでの出来事を、俺にも聞かせてくれないか」

「トレーナーさんに、ですか……?」

「あぁ。なんていうか……いろいろ。トレーナーとはいえ何でも知ってるわけじゃないしさ」

 

 車の一台すら通らないほど静寂に包まれた、真っ白な空の下にある涼しい街の中を歩きながら、俺は馴染みの少女に思い出話を提案した。

 

「俺の知らないきみを、知りたいんだ」

 

 と、そんな心の奥底から出てきた飾り気のない本音を受けて、彼女は。

 

「……ええ、分かりました。私も、貴方に知って頂きたいです……」

 

 わずかに顔を綻ばせ、鷹揚に過去の軌跡を語り始めてくれるのであった。

 

 

 

 

 ウマ娘として生を受けた少女は、例に漏れずその足で大地を駆けることが歓びであった。

 

 こと幼少期に至っては常勝無敗を誇っており、これといってライバルという存在には恵まれていなかった。

 それには()()()()()()が視える、という生まれつきの体質も関係していたのかもしれない。

 不気味に思われることも屡、幼いころから賢かったが故、自分が周囲から疎まれることで家族に迷惑をかけると思ってか、みんなと一緒にという考えは早々に捨てた。

 

 時折、独りで走る。

 親の目を掻い潜り、誰も使わない古びたデコボコの走りづらい山道へ、静かで気持ちがいいからという理由だけで忍び込み、走っていた。

 走っている間はすべてを忘れられた。

 誰もいない闇の中が、彼女にとっては月明りの導きに等しかった。

 

 けれど、いつだったか思い出してしまった。

 競い合う楽しさを、誰かと走る喜びを。

 でも、みんなには、見えないものが見えるし。

 それを誤魔化すのも、なんだかイヤだ。

 はあ。

 やっぱり、でも、独りだと寂しいかもしれない──

 

『…………』

 

 彼女は何も言わなかった。

 自分と同じくらいの、どこか似た雰囲気の白いウマ娘。

 ほんとうに、とつぜん目の前に現れて、一瞥もくれずに走り出した。

 逃げられたように思ってしまって、ついムキになって追いかけてみた。

 でも追いつけない。

 ──負けたのは初めてだったかもしれない。

 追い縋れなかったのは、その背中だけだったかもしれない。

 

『……』

 

 彼女は何も言わなかった。

 自分と同じウマ娘。みんなとはどこか違うウマ娘。

 けれど自分には視えているから、走り終わった後に息も絶え絶えになりながら、当たり障りのない会話を試みた。

 ずっと何度もそれを繰り返して、繰り返して、やっぱり追いつけはしないけど、それでも走って話しかけた。

 そこで一つ気がついた。浅慮だった。

 会話もなにも、まだマトモな自己紹介すらしていなかったのだ。 

 

 ──私はマンハッタンカフェ。それで、あなたは?

 

 名前は無い、と言った。初めて彼女の声を聴いた。

 なんというか、名前が無い人と出会ったのはこれが初めてだったから、どうすればいいのか分からなくて。

 あだ名とかそんな感じで名前を付けるとか、そんな勇気は出なかった。

 そこまで踏み込む覚悟はなかった。

 とはいえそれで終わりにするにはいささか諦めが悪くて、別の角度から図々しくいった。

 

 ──でも、あなたは私のお友だち。

 

 そう決めつけてやった。

 生まれて初めてだった、こんな勝手な物言いをしてしまったのは。

 でもその女の子は仮面のような無表情を、ほんの少しだけ崩して微笑んでくれた。

 私の初めてのお友だち。

 たった一人の、視えない私のお友だち。

 

 

 …………ということだったらしい。

 

「──トレーナーさん? どうかされましたか」

「いや……何でもない」

 

 市街地を外れ、コンクリートの道の先に大きな校舎が見えてきた辺りで、一度足を止めてしまった。

 きっとマンハッタンカフェを通してこの世界へやってきて、次第に彼女の深層領域たる部屋に近づいた影響なのだろう。

 こちらの脳内に、隣で歩く少女のかつての記憶が断片的に流れ込んできたのだ。

 

「……何でもないは嘘だな。ゴメン、たぶん勝手に記憶を見ちゃった」

「っ! ……なるほど、夢の中心が近いせいですね。あそこにはあの子もいますから、それとリンクする記憶が流れてしまったのかもしれません」

 

 そうなの? そうなのかも。

 

「サンデーとの馴れ初めだけだけど……すまん」

 

 ここまで来る道すがら、様々な思い出を聞いていたが、アイツとの出逢いはここまで詳細に語ってはいなかった。あえて伏せていた部分を覗き見てしまったわけで、不可抗力とはいえれっきとしたプライバシーの侵害だ。

 

「いえ、隠そうと思っていたわけではないんです。ただあの子の存在が当たり前すぎて……山で出会ったという部分以外を端折ってしまって。すみません」

 

 そう言って苦笑いするマンハッタンの様子を見るに、わざわざ詳しく紹介しようとも思わないほどサンデーが身近な存在であることは確かなようだ。

 あいつが普段から俺と一緒にいることで忘れそうになってしまうが、ほんの一年前まではマンハッタンのそばにいたわけで。

 人生の大半を共に過ごしていた幼馴染が別の場所で生活を始めても身近に感じる辺り、彼女たちの絆の強さは筋金入りらしい。

 

「あいつがカフェのことを好きすぎるのも納得だな」

「それは……どういう……?」

「基本的にサンデーは現実世界の人間には認識されないだろう。勝手にレースの横で走ったり、山で自己研鑽ばっかりしてたみたいだから、自分を追いかけてくれるカフェの存在は……本当に奇跡的なものだったんだと思うよ」

「……奇跡、ですか」

 

 半年以上も同じ屋根の下で暮らしていれば、同居人の思い出話を聞く機会もそれなりにある。まぁあいつに関してはそのほとんどがマンハッタンに対する惚気みたいなモンだったが、その友愛に関しては曇りのない本物だったというわけだ。……最近は性欲のほうが顕著だけども。なんだよ髪の匂いで香水作るって。

 

「……奇跡的な出会いならば、私にも心当たりがあります。もちろんあの子の事だけではなく」

 

 穏やかな微笑のままそう呟くマンハッタン。

 トレセンまでの道はひたすらに一直線で、走ってしまえばすぐの距離でもあるが、なんとなくそれは勿体ないと感じてしまった。

 たった二人だけで、誰もいない道を踏みしめながら話すこの時間そのものが、きっと欲望の解消以上に今の俺にとって大切な瞬間なのだ。

 

「タキオンさんやトレーナーさん、スズカさんにドーベルさん……理事長や樫本先生もそうです。みんな、私と縁を繋いでくれたかけがえのない大切な人たち……」

 

 そこまで口にしてから、彼女は一拍置いた。

 こちらを向くことはなく、まして足を止めることもなく、ひたすらに前へ進みながら言葉を紡いだ。

 

「そんな私にとって大切な人たちを救ってくれたのが──貴方だった」

 

 マンハッタンのそんな恥ずかしげもない真っすぐな物言いをくらい、こちらは口を噤むしかない。恥ずかしいし恥ずかしい。

 ほんとうに、一番初めに出会った時から変わらない少女だ。

 自らの想いを包み隠さずに伝えて、俺との出逢いそのものを大切にしてくれている。

 むしろ感謝を伝えたいのはこちら側だというのに。

 

「……今回の敵は、とても強力な怪異です。昨年の夏祭りで見せた能力の規模で考えれば……きっと一筋縄ではいきません」

 

 マンハッタンの語る通り、これから接敵することになるであろう相手は非常に厄介だ。

 あの祭りでの集団催眠の影響下に俺もいたとなると、一時的とはいえ唯一“敗北”を喫した存在と言えるだろう。

 だからこそ、事情を知ってくれている大勢の仲間たちが、持てる力の全てを注いで決戦の準備に取り掛かってくれている。

 そしてそれは隣にいるこの少女にも言えることだ。

 

「ああ、ヤツは本当に強い。みんなで作戦を練っていくわけだから、明日からは忙しくなるな」

「……ええ。ですから、二人きりになれる機会は現状これが最後だと思います」

 

 最後、というほどの事でもないと思うが──彼女には何かが見えているのかもしれない。

 いつもそうだ。

 マンハッタンカフェは誰よりも冷静に状況を俯瞰していて、その豊富な知識で数えきれないほど俺たちを救ってきてくれた。

 そんな彼女がわざわざ最後と口にしたという事は、生半可な気持ちで戦いに臨んではいけないという事でもあるのだろう。

 

「……トレーナーさん」

 

 呼ばれて、隣を向いた。

 ──するとマンハッタンは、なんだか困ったように笑っていた。

 

「ふふ……ごめんなさい。脅かすつもりではなかったんです」

「え……あっ。もしかして俺いま怖い顔をしてた?」

「正直、少し」

「ご、ごめん……」

 

 どうやら気合いを入れ直したつもりで真剣(マジ)な顔つきになってしまっていたらしい。多少真面目な話ではあったが、さすがに仲のいい女子と二人きりの時にする表情ではなかった。シンプルに反省……。

 

「私が伝えたかったのは……いまは二人きり、というところでして」

「それは……そうだな」

 

 いまは二人きり。

 そう言われてからようやくハッとした。

 

「……そういやこういうの久しぶりか」

「そうですね。貴方は昔も今もお忙しい方ですから」

「本物の有名人にそんなこと言われたら、俺の立場がないって……」

 

 マンハッタンカフェはいたずらっぽい顔でからかって、ほんのちょっと歩く速度を遅くした。

 二人きり、という言葉で俺も少々()()してしまい、彼女と歩幅を合わせていく。

 ──これからは時間に追われることになる。

 俺の補佐役という事で様々な手伝いはしてくれるだろうが、きっとその場には常に他の誰かが存在する。

 真面目な顔で、真面目な話を、ずっと真面目な雰囲気で進めていくことだろう。

 

 だが、そこで少し思い返してみた。

 俺たちは高校生なのだという事を。

 確かに普通の人たちとは違う特殊な事象に巻き込まれてはいるものの、それでも俺たちの青春はここを置いて他にはない。

 それならいつだって楽しまなきゃ損だろう。トラブルなぞ笑ってはじき返すくらいで丁度いい。

 

「んー……時間だけはたくさんあるんだよな。夢自体は割とすぐ終わるし、その後は寝るだけで……なんか勿体ない気もする」

「……でしたら、トレセンを見て回りますか? ここも現実ではないので誰もいらっしゃいませんし」

「おっ、いいね。合法的に中央へ入れる唯一の機会かも」

「では……いきましょうか」

 

 そんなこんなでもう少しまったりと過ごすことに決めた俺たちは、遮る存在が一人もいない無人の中央トレセン学園へと足を踏み入れたのであった。女子高侵入! 女子高侵入!

 

 

 

 

 グラウンド、野外ステージ、めちゃデカ食堂や三女神の像がある広場など、以前やよいの手伝いで僅かに滞在した時にはお目にかかれなかったトレセンの構内はまさに新鮮の一言だった。というか広すぎ。テーマパークにでも来たみたい。

 とはいえやはりここも教育機関ということで、規模は違えどここも学校らしくたくさんの教室が点在しており──

 

「ここが……私のクラスです」

 

 最後に到着したのが、普段マンハッタンカフェが通っている高等部二年の教室であった。

 ウチの高校よりも幾分か広いうえ席数も多く、現代の最先端をいく学び舎の雰囲気は目の当たりにしただけでそこに在籍している者たちの優秀さを思い起こさせた。

 そうじゃん、なんかずっと一緒にいるから感覚が薄れてたけど、マンハッタンってエリート校の顔だった。雑誌やテレビで引っ張りだこな友達、シンプルにすご。

 

「……一見すると特別に見えるかもしれませんが、何も変わりませんよ」

 

 マンハッタンは見知った様子で教室の中へと入っていき、彼女の席だと思われる場所一番後ろの窓際へ腰を下ろした。ラブコメ主人公のベストポジションやん。

 

「私にとっては当たり前の教室で……ここに座って授業を受けています」

「……隣は誰なの?」

「ポッケさんです」

 

 誰だろう。まぁいいか。

 

「じゃあごめんポッケさん、失礼します」

「ふぇ……」

 

 ひとつ断りを入れてからポッケさんの席──マンハッタンの隣に着席した。

 本来の彼女のお隣さんには悪いが、今は俺がこの少女を独り占めする時間だ。同じ学校に通う事を許されない立場なので今日ぐらいは大目に見てほしい。

 

「……おぉ」

 

 席に座ってみて気づいた。

 

「……なんか、教室だな」

 

 ぜんぜん思ってたよりめっちゃ教室だった。

 ここへ入ってきたときは新鮮な気持ちでワクワクしたものだが、こうして座ってみるとめっちゃ普通の学び舎だ。テレビと黒板はデケぇけどそのくらい。

 

「あはっ……もう。だから言ったでしょう、普通の教室だって」

「いやでもなんか……ねぇ? パッと見だとスゲェ雰囲気あったし」

 

 珍しく破顔一笑を見せてくれた友人に釣られて俺もなんだか笑ってしまう。高倍率のエリート校とはもっととんでもない差があると考えていたので、高校の教室なんてどこも同じなんだと知って安心した。

 

「そういやサポーターさんも同じ教室なんだっけ?」

「タキオンさんも……えぇ、私と正反対で最前列の廊下側です。と言っても、既にサポーターではなくライバルですが……」

「えっ、どゆこと」

「まだ話していないことがありましたね。実はポッケさんが来てから──」

 

 いつもより幾分かハキハキと喋るマンハッタンを眺めていると、なんだか本当に同じクラスの同級生になった気分に陥ってしまって、その状況が楽しくてついつい表情筋が緩んでしまう。

 広々とした教室の中で、机に頬杖をついて隣の席の友達と談笑する、だなんて普段からやっている。

 だというのにその相手が、運よく友人になれた他校の女子になっただけで、驚くほど新鮮な体験に早変わりしてしまっているのだ。

 

「……そういえばさ」

 

 彼女の話がひと段落着いた辺りでポツリと呟いた。

 だらしない態勢になっている俺に釣られてか、隣の少女も少し前かがみになって机に両肘をついている。

 

「修学旅行の帰りに多目的トイレに閉じ込められたの、覚えてるか?」

「……そんなこともありましたね。新幹線から降りた後、怪異の仕業でデジタルさんも巻き込まれてしまって」

 

 なんとも微妙な思い出を想起したマンハッタンは困ったように笑った。

 この様子ではきっとあの時の会話の内容は忘れてしまっていることだろう。しかし俺は覚えている。インモラルな場所でのカフェちゃんとの語らい……♡

 

「叶ったな、あの時にしていた話」

「へ……? ……──あっ」

 

 あえて含みを持たせた言い方をされたことで彼女は自分の記憶を探り、やっとそれを思い出してくれたのか、気づいた瞬間に恥ずかしそうに笑みをこぼした。

 

「ふふっ……確かに、そうでしたね」

「あ、やっぱ覚えてたんだ」

「ええ。私、葉月さんのクラスメイトになりたい……だなんて言ってた。修学旅行中、あなたとの学校生活を楽しそうに語る山田さんを羨んで……」

 

 元を辿ればアグネスデジタルと偶然にも旅行先で鉢合わせた山田を応援するつもりで、恋のキューピッドの真似事をしていた俺をマンハッタンが手伝ってくれたという話だ。

 デジタルと二人きりでは山田が平常心を保てないから、マンハッタンに緩衝材の役割をお願いした、というのが一連の流れだった。

 まぁ肝心の山田がなぜか俺との高校生活の内容ばかり喋っていたせいで、二人の間にこれといった進展は無かったというのがオチなのだが。

 その中でマンハッタンは『もし私があなたのクラスメイトだったら』という考えを抱いたことを、怪異に巻き込まれた際に聞かせてくれたのだ。

 

「どちらかっつーと俺がトレセンの生徒みたいになってるけど」

「これはこれで、新鮮な感じがして面白いです」

 

 俺は男で、彼女はウマ娘。

 エリート校云々以前に女子高であるトレセンに俺の存在は許されないが、夢に近い場所でならその真似事も成立する。

 

「もし、隣にあなたがいたなら……練習場を一緒に走ったり、タイマーの係を交代でやったり……」

「トレセンの広い敷地を走り回れたら気持ちいいだろうな。……あっ、食堂にも行ってみたいかも。トレセンの飯はレベル高いって噂だぜ」

「その代わりに混雑がすごくて……十五分ほど時間をズラすとスムーズですよ」

「経験者の知恵だ……」

 

 もしもを夢想し語らうが、もしもはやはりもしもでしかない。

 だから次々とやりたい事が出てきては消えを繰り返して、いつしか気がつくのだ。

 夢が覚めてしまえば、それは叶うことのない夢なのだと。

 ゆえに俺は呟いてしまう。

 

「……はぁ。一緒だったらよかったのにな」

 

 そんな弱々しい願いを聞いて、彼女もそれなりの相槌を打ってくれるものだと思って呟いた。

 ──けれどそれは勘違いだったらしい。

 隣を振り向くと、マンハッタンカフェは穏やかな表情をしていた。

 その温かい雰囲気を崩さず、少女はゆっくりと口を開いた。

 

「……もう、クラスメイトである事は望みません」

「えっ?」

 

 まるでずっと前から思っていた考えを口に出すが如く、彼女は淀みなく自然にその決意表明を吐露していく。

 

「同じご飯を食べて、隣を歩いて同じ場所へ帰る。それができる関係性は、はたから見たら特別だけれど……その人にとっては当たり前のもの」

 

 ──いつのまにか上体を起こしていた。

 椅子に座って背筋を伸ばした俺たちは互いに向き合っている。

 ここは夢と現実の境界線上にある曖昧な世界。

 だというのに教室へ差す陽の光は白く暖かくて、僅かに開いた窓から優しい風が届いている。

 

「同じ学校じゃなくても、走れる速度が違っても、その隣にいることができるのなら……寄り添って、支えることができるなら──」

 

 そこで、少女の艶やかな黒い髪が揺れた。

 まるで春風のような心地よい色が窓から教室へ遊びにきたらしい。

 ほのかに白い光が、彼女を照らしている。

 

「葉月さん」

 

 ただひたすらに真っすぐこちらを見つめて、マンハッタンカフェは静かに告げた。

 

「私は──あなたが好きです」

 

 まるで当たり前のように、するりとそう口にした。

 とても大切なことを伝える緊迫感なんて欠片も無くて、彼女は自らが抱いていた当たり前の感情を、ただそれに合う言葉を見繕ってくれただけだった。

 

「あなたにとっての当たり前は、私にとって何よりも特別」

 

 だから。

 

「私はあなたの当たり前になりたい。特別な、隣にいるだけの()()()()に」

 

 滔々と語ったその言葉から──数瞬。

 マンハッタンは年相応に幼げのある笑みで、恥ずかしそうに頬をかいた。

 

「ふふ……なんだか矛盾したことばかり言ってしまいました」

「……矛盾なんかしてないよ」

 

 当たり前の存在が何よりも特別なもの、だという彼女の言葉の意味は誰よりも理解している。

 そばにいてくれることが奇跡なのだ。

 最初は逃げ続けたこの人生の中で、何度も間違いを繰り返して、それでも当たり前のようにそばにいてくれる存在が“特別”でなくて何だというのか。

 そういう意味では、目の前で席に座って照れ始めているこの少女の存在は、俺にとって替えの利かない唯一無二の特別な相手だと言えるだろう。

 

「……葉月さん、ひとつ謝らせてください。私……さっき葉月さんが私の記憶を見ているとき、同じタイミングであなたの記憶のかけらも見えてしまったんです」

「内容は……?」

「スズカさんとレイトショーを観に行ったそうですね」

 

 うひゃあッっ!!!!! 思ったより大事な部分を見られてた。

 別段隠し立てするような事ではないが、わざわざ教える内容でもないため完全に事故だ。ハプニングキスと告白なんて、いきなり見るには衝撃的な映像過ぎる。

 

「ふふ……やはり先頭の景色は譲らない方ですね」

 

 小さく笑ったマンハッタンは席を立ち、こちらの目と鼻の先まで接近した。

 俺は未だに座ったままなので彼女を見上げる形になる。

 

「けれど、レースはまだ続いていますので」

 

 どこか意味深なセリフを告げた、その次の瞬間。

 わずかにかがんだ彼女は自然な所作で俺の頬にキスをした。

 

「んっ……──」

 

 温かく、柔らかい感触に瞠目する。

 ()()()()()()()、彼女の親友を助け出したあの時と同じように、マンハッタンカフェはその唇で猛る想いを伝えてくれた。いやでもちょっとビックリしすぎちゃった♡ 突然のキスは避けて然るべきと孔子の教えにも記載あり。

 

「……私もゴールを目指して駆け抜けます。少しだって遠慮なんかしませんから」

 

 そっと両手を俺の頬に添え、慈しむような優しい表情で静かにそう告げた。

 彼女の言葉は一歩先を走っているサイレンススズカへの挑戦状であり、また俺に対する線引きを更新するという宣言でもあるらしかった。

 

「すべてが終わったら……答えを聞かせてくださいね」

 

 いつも、どこか一歩引いた場所から静かに物事を見つめていた彼女が遂に一歩を踏みだしたのだ。

 もう誰に斟酌することもなく、婉曲な物言いすらもやめて、ひたすら真っすぐにレーンを走る。

 

「射止めてみせます。私の(おもい)で──あなたの心を」

 

 それは、スピードの向こう側で先頭の景色を我が物としている異次元の逃亡者の背後に、影の如く迫り来る──漆黒のステイヤーの誕生に他ならなかった。

 

 

 

 

「…………ふむ」 

 

 マンハッタンカフェを通じて夢の世界へダイブした、その翌朝。

 俺は家でとあるフィギュアを手に取って眺めながらうんうんと唸っていた。

 ──とりあえず欲望は解消された。

 にゃんこ先生が用意してくれたあのロケットペンダントを通じて夢に入るとかいう、よく分からんバグ技みたいな入り方をしたせいなのか、俺も相棒も夢の中で特別何かをしたわけではなく、マンハッタンに送り出された後はそれぞれ爆睡かまして起きたらいつの間にかスッキリしていたのが事の顛末だ。

 

 で、それはそれとして。

 

「ぁ、あのう……葉月さん?」

「はい」

 

 丸テーブルを挟んだ向かい側にいるマンハッタンは頬が紅潮しており、なにやら抗議に近い視線で俺を見つめながら声をかけてきた。どうしたの美人かつ変態な僕の友だち。

 

「その……どうして私のフィギュアを舐め回すように見つめて……?」

 

 説明しよう。

 ウチにはウマ娘のフィギュアが数体ほど飾ってある。

 これらは親友がプレゼントしてくれたものや、同居人にゴネられて仕方なくゲームセンターで獲得したものであり、その中には当然マンハッタンカフェの勝負服バージョンも存在している。

 いま、俺はそれを手の中で転がしながらスカートの中やスカートの中やスカートの中などを観察しているのだ。

 

「いやぁ……やっぱり公式監修のフィギュアだとスカートの中が見えないなぁって」

「──~ッ!!?」

 

 なんというか、スカートの中も多少は造形されているのだが、黒いタイツの上から更に機能性を重視した短いズボンのようなレザー風の何かがあって、とにかく外面的なえっち要素は排除されている。匠の技術だ。

 

「……しょっ、勝負服は元々そういうものです……レース以外に、ライブでも使いますし……」

「こっちはどう? 珍しいトレセン制服でのフィギュア」

「みっ見えませんってば……!」

「うおぉぉ……造形の妙だ……なんか絶妙に全然見えない」

「何なんですか一体……っ!?」

 

 どう頑張っても中は見えないのに、フィギュアをガン見されること自体に羞恥を覚えている有名人の知人から正式に抗議の意見が飛んできた。

 なんなんですかいったい、と。

 ──こっちのセリフだよ猥褻美人ウマ娘が。

 

「……マンハッタンさんさ、昨日の俺とサンデーの様子を見てたろ」

「っ……? は、はい」

「私生活が危うくなるレベルで様々な渇きに襲われてるってはたから見れば明らかだし、それが分かってるからキミも先生から抑制アイテムのチョーカーを貰ってきた」

「そう、ですね」

 

 では、ここで疑問をいくつか。

 

「朝、起きた時にハグしてくれたね。俺が朝食を作ってるとき、後ろからくっついてきたね。食べ終わって洗い物も済ませて一息ついたあとに、俺の腕に尻尾を絡ませてくれたよね」

「……そ、それは……まぁ……はい……」

 

 もごもごと恥ずかしそうに身じろぎしてる辺り、しっかりと自覚をもって実行した取り組みであったらしい。ではなおのことタチが悪い。

 

「もちろん嬉しいよ、本当に嬉しい。昨晩は大切な話も聞いたし。……でもさ」

 

 なんといいますか、こう、シンプルに──あなた興奮しすぎです。

 

「最後の戦いに備えて()()()()()()を解消した状態なんだよね、いまの俺。なんでまたソレを煽るの。すべてが終わってから、って言ってくれたのはマンハッタンさんのほうだよな?」

「……ぅ、うぅ」

 

 完全に自分が性欲に振り回されていたことをようやっと自覚したらしく、彼女は両手で顔を隠して小さく縮こまってしまった。かわいい。でもエッチなのはダメ! まんだら刑ッ!

 

「す……すみません。昨日、やっと言いたいことが言えたので……気持ちが昂ってしまって……えへへ」

 

 反省するのか嬉しくて照れるのかどっちかにして♡ その誘い受けの高等テクニックはどうやって育て上げた? この超克心言うは易く行うは難し。

 

「ご迷惑をおかけしてしまって……」

「わかってくれたなら、それで」

 

 やはり流石はマンハッタンカフェといったところか、すぐに自らを省みて冷静になってくれた。それならいいんですよ。

 

「…………ち、ちなみに、ハグの感想など、お聞きしてもいいでしょうか」

 

 コイツさぁッ!!!!!!! 国宝級の賞とかあげたほうがいいんじゃないかな、偉人として。しかしその心の奥底にマゾメスの本性が宿っているのではないか?

 

「ど、どうでした……?」

「抱き心地はマジで神。例えるならばそう、多分、風。」

「……それは……それはよかったです。ふふ……よかった……」

 

 オイここまでの破廉恥を熟成された背景はいったいなんだ? アナリティクスが必要だ。これからの展開を期待してイってんじゃねーよ。可愛いよ。

 ──ホントにどうしちゃったの?

 あくまで予想だが、これまでいろいろと感情を我慢してきた弊害で、一気に反動エネルギーが発露していらっしゃるのかな。本年もよろしくお願いいたします♡

 

「ハヅキ、ごみ捨て間に合った」

「あ、おう。さんきゅ」

 

 もうご近所の誰にも見られずゴミ捨て場に置いてくることが可能になったお手伝い幽霊が戻ってきた……が、相変わらずその友達はぽわぽわした状態のままだ。

 

「カフェは制服に着替えないの。寮に戻るんでしょう、一緒にいこ」

「ぁ……そ、そう、ね。そうだった。着替えなきゃ。よいしょ──」

「ん。ハヅキの目の前で着替えるの」

「えっ? …………ひゃあっ!?」

 

 ヒャア!? じゃないッ!!!! おまえおまえおまえ!!! やってるのぜんぶお前!! マジでいい加減おまえ本当に可憐で美しい一輪の花。

 

「ごっ、ごめんなさい、洗面所を借りっ──きゃっ!」

「ちょっ危なっ!」

 

 そして焦りのあまりハプニング転倒。当然俺が助けに入ってそのまま押し倒されて下敷きになるわけだが、シンプルにマンハッタンの着てる服の布が薄い。クラスの一軍女子と薄布一枚隔てて密着している……!? 地球平面説。

 

「うぅ~……っ! ごめんなさい、葉月さんごめんなさい、こんなはずじゃ……私どうしちゃったんだろう……っ!」

「おおぉぉっほ♡ いいから一回落ち着いてくれ! 深呼吸して! 体の上で身じろぎしないでッ!!」

「ふむ……慌ただしいカフェもこれはこれで良きもの」

 

 テメェは傍観者ぶって眺めてないで早く助けてください! ドスケベ列車マンハッタンカフェ号──次の駅は過去か、未来か。

 

 

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