うおっ乳デカいね♡ 違法建築だろ   作:珍鎮

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おデジの矢印うぉっ……米俵くらい重てえだよ

 

 

 アグネスデジタルとの予定外デートが始まってから、既に半日が経過している。

 カードゲームの新しいパックの購入や、知らない街での飲食店探しなど、二人でまったりと冒険を続けているうちに陽が傾き始め、俺たちは冬の寒さから逃げるように再びショッピングモールへと足を運んでいた。

 とりあえずは暇が潰せる場所へ、ということでその中の巨大なゲームコーナーに向かったところ、とある景品を目にした彼女の足が止まった。

 

「あわわ……こ、これってェ……」

「どうした? ……おぉ、コイツは」

 

 クレーンゲームの中にあったのは腕時計。

 そしてその箱の側面には()()()()()()というロゴが印字されていた。

 

「デジタルさん、これってもしかしてコラボモデルか」

「そ、そうですね。恋ダビで作中のゴールドシチーさんが身に着けていた腕時計……」

 

 興味深そうにクレーンに張り付いている少女の後ろ姿を眺めつつ、頭の片隅で昨年の出来事を振り返ってみた。

 そういえば『恋はダービー』という恋愛映画を彼女と山田を含めた三人で鑑賞したことがあったんだった。

 中でもゴールドシチーという、トゥインクルシリーズの現役かつモデルや役者の仕事もしているウマ娘の演技が俺の心を鷲掴みにし、まんまと彼女のファンにさせられてしまったきっかけでもある映画だ。

 

「あ、秋川さんっ、デジたんはコレを獲得するまで動けません……ッ!」

「よしきた。俺は横から見て位置を確認するよ」

「助かります! いきますよォ……ッ」

 

 サイフから百円玉を取り出したデジタルが意気揚々とゲームへの挑戦を開始した。

 この腕時計は作中でも主人公とゴールドシチーを繋ぐキーアイテムとして扱われており、最終的にフラれた彼女がコレを海へ投げ捨てようとするも、姉に諭されすんでのところで踏みとどまり、失恋を乗り越え思い出(腕時計)と共に歩いていくことを決めるという名シーンも生み出していた。

 スマホで詳しく調べてみたところ、どこぞのメーカーとコラボした高額でしっかりとしたバージョンの時計もあるらしく、それと比べればゲームコーナーで獲れるコレはオモチャのような物と言っても過言ではない──が、それはそれ。

 

「むむぅ……もう少し角度が決まればこのアームの弱さでもいけるはず……」

 

 ファングッズ全てに等しく価値を見出すウマ娘ガチ勢のアグネスデジタルからすれば、これも立派な“推し活”なのである。恐らく山田でも同じことをしていたことだろう。

 

「デジタルさん、もうちょい奥だな」

「これでどうでしょう……?」

「いい感じ。あとは押し込めば──」

 

 親友に変わって彼女の推し活をサポートした結果、遂にその時が来た。

 

「あっ! ゃ、やったァ!」

 

 しっかりと台座から落下した箱が取り出し口に着地し、すぐにそれを取り出したデジタルがこちらへ駆けよってきた。うおっ近いいい匂い♡ コイツはただのオタク友達だろ! 鎮まれ内なる神々よ……!

 

「やりました秋川さんっ!」

「あぁ、流石だなデジタルさん。まさか千円以内で獲れるなんて」

「サポートあっての獲得ですよ! ウェへへ……やった……絶対開封しないで保管しよ……」

 

 コレクター気質を発動して箱ごと背中のバッグへ収納した少女の顔は、まさにご満悦の一言であった。よかったね……。

 それから少しゲームコーナー全体を見て回り、軽く数百円を使った辺りで一旦その場を後にすると、フロアマップの一部が目に留まった。

 

「おっ……上にアニメショップあるってさ。しかも結構デカいっぽい」

「いいですね、参りましょうっ」

 

 先ほどから若干テンションが高いデジタルが足早にエスカレーターへと向かっていき、追従して数分すればすぐに目的地へたどり着いた。

 サブカル全般を取り扱っている店舗らしく、書店のようなアニメ漫画ゾーンを過ぎるとアイドルグッズや音楽コーナーが顔を出した。

 そこには当然トゥインクルシリーズで活躍するウマ娘たちをまとめた棚も存在しており、とにかくデジタルの視線が忙しない。

 

「ぐぬぬ……秋川さんのスーツの追加武装について、色々な作品からなにかしらインスピレーションを得られればと思ったのですが……ウマ娘ちゃんコーナーに目が奪われてしまうぅ……」

 

 サイレンスやマンハッタンのような有を走ったメジャーどころだけでなく、まだ名前が世間に浸透していない新進気鋭のウマ娘のマイナーグッズですら『これはっ!』などと目を輝かせる彼女を見ていると、やはりこの少女の“愛”には敵わないなと実感させられる。

 

「ひょわっ……秋川さんこれ、恋ダビの主題歌CDが……」

「ハハっ。確かにゴールドシチーは出演してるけど、これ自体はトゥインクルシリーズと関係ないのにな」

「ふふふ、なんならシチーさんも別に歌ってません」

「マジで何でここにあるの……店員の趣味……?」

 

 なんだかクセのある陳列にいちいちツッコミを入れながらショップ全体を散策しているうちに、一つ気がついたことがあった。

 日曜日のショッピングモールという、一週間でトップクラスに賑わっているはずの店内にあまり客がいないのだ。

 ふとアニメショップの外へ目を向けると人もまばらで、反射的にスマホを取り出して時刻を確認してみると、もう随分と遅い時間帯になっていた。

 

「……もうこんな時間か。かなり長居しちゃってたみたいだな」

「うえぇ……! す、すみません、とりあえずささっと会計を済ませてきますっ」

 

 いつの間にか買い物カゴをパンパンにしていたデジタルがカウンターへ向かったため、俺もその後を追った。彼女が自分用のグッズを買うだけであれば付き添っても意味はないだろうが、今回は別に事情がある。

 

「待ってデジタルさん。そのスプレーとかガラス用両面テープとかってスーツの装飾用?」

「あ、はい」

「なら俺も出すよ」

「えっ……」

 

 どうやら完全に自分の買い物ついでにスーツ用の素材も調達するつもりだったらしいので流石に待ったをかけ、その分の代金を彼女の決済アプリに送金した。

 ラスボスと戦う際に用いるレース用のスーツとは、つまるところ秋川葉月にとってはウマ娘で言うところの勝負服や専用衣装に当たるわけだ。その為に用いる費用をまさか友人だけに負担させるわけにもいくまい。

 

「あ、あの、でも秋川さん。なんだかかなり多めに貰いすぎちゃってるみたいです……」

「他にもスーツに使った素材、デジタルさんが自腹で買ったってマックイーンさんから聞いたよ」

「……っ!」

 

 俺の言葉を聞いてデジタルがハッとした表情を浮かべ、やっぱりそうかと心の中で納得した。

 思うに、彼女はスーツ製作に充てた自らの出費を()()()()()()黙っているつもりだったのだろう。

 あまりに作業へ集中するあまり自らの体調を度外視して動いてくれていた山田や、トレーナーと相談して休みの時間を大目に見繕ってそれら全てをデザインの設計や都度必要な買い出しに使っていたデジタルのことなど、頑張りすぎてくれている友人たちのことはメジロマックイーンから事前に連絡を貰っていた。

 

「もしまだ必要な物があるなら言ってくれ。それか後でレシートを頂戴ね」

 

 それにずっと忙しいこともあって貯まる一方だったバイト代の有用な使い道だ。制作作業チームにスーツの組み立て以外の懸念点を持たせるわけにもいかない。

 彼女以外にもマックイーンやゴールドシップも材料を用意してくれたらしいので、それらも含めて当然ながら製作費は全てこちらが持とう。

 

「……うぐぐ、これでは格好がつきませんね」

「何を言ってんだ。今のデジタルさんたち以上にカッコいい人なんて俺は知らないよ」

「──もっ、もう~……ッ!」

 

 ぽこっ、と優しく胸を叩かれた。歯に衣着せぬ言い方だった自覚はあるが、これを誤魔化したところで意味はないだろう。

 まぁ流石に普通に恥ずかしくはある。いまさら顔が熱くなってきた。ほヒョ……。

 買い物を終えて閉館数十分前のモールを出ると、すっかり暗く厚い雲に覆われた灰色の空になっていた。ついでに死ぬほど寒い。

 そのまま駅から電車で府中まで戻ると、先に改札を出たデジタルが荷物を後ろ手に持ちながらこちらへ振り返った。

 

「……と、とりあえずデジたんはガレージに寄って、必要な物を置いてから帰りますね。ではっ」

「いや待ちなさいデジたん殿。こんな夜に一人で帰らせるわけないでしょ」

「あわわっ……!」

 

 なんだか予想以上に照れて気が動転している彼女の隣を陣取り、ガレージまでの道中でさらに褒めちぎって彼女を爆発させて楽しみながら夜道を闊歩した。本日は楽しい会になりそうですね♡ 爆裂イキ♡

 

 

 ……

 

 …………

 

 

「で、荷物を置いてるうちに寮の門限を過ぎたわけだが」

「こんなはずでは…………」

 

 スーツ工房であるガレージを備えたメジロ家所有の一軒家、その生活スペースである殺風景なリビングにて。

 すっかり夜遅い時間という事で、まるで当然のようにトレセン寮のタイムリミットを超過していたデジタルだが、どこか宿泊先を用意しているんだろうなと考えていた俺の思いとは裏腹に、なんと普通に想定外の出来事だったらしく彼女は現在ソファでうなだれている。あなたウマ娘グッズを吟味しすぎ。

 

「どうやらアニメショップに長居しすぎたみたいだな」

「むほほ……ですが後悔はありません。他のお店では売り切れになっていた有衣装のドーベルさんのスタンドポップが買えたので。わっはっは!」

 

 どう見ても空元気だ。なんだか寮の門限を超過する生徒の知り合いが多すぎるせいで感覚麻痺しかけているが、聞いたところによると無断超過の外泊は普通にそこそこ怒られるらしい。

 

「……ハァ」

 

 あ、我に返った。まぁそう落ち込まず。

 

「まぁまぁ、明日のことは明日考えようぜ。とりあえず飯でも食おう」

「はい……食べましょう……」

 

 実は今朝、山田に渡す朝食とは別に軽い備蓄用の食材を買って冷蔵庫に入れておいたのだ。こいつで激うまフルコースをお見舞いしてノックアウトしてやろ。

 ──時間にして三十分も経たないうちに、エビチリやたまごスープなど中華っぽい料理をテーブルの上に並べた。

 食材の量の都合で二人分しか作れなかったので、相棒にはユナイトした状態で食べることで腹を満たしてもらおう。走ったりしなければ反動ダメージも無いし問題はない。

 

「すっ……凄いですね、秋川さん。こんなしっかりとした料理を……」

「自炊してるからこれくらいはね。じゃ、いただきます」

「ありがとうございますっ、頂きます!」

 

 

 ──と、そんなこんなで夕餉は恙なく進行し、すっかり元気を取り戻したデジタルとゲームのマルチプレイなどで時間を潰していると、そろそろ深夜に差し掛かる時間帯に突入していた。

 もしも泊りがけで作業する場合に、と俺もデジタルもあらかじめ着替えをこの家に置いていたおかげで入浴等も無事に終えることができ、あとは眠るのみ──となったところで、一つ重大な問題が発生してしまった。

 

「あ、秋川さん。お布団……一つしかないみたいです」

「え゛っ」

 

 なんとこの家には寝具が一式しか存在しておらず、二人で夜を越すことが難しいことが判明してしまったのだ。

 ここはメジロ家所有と言っても財閥の職員がなにかあって帰宅できない場合の寝泊まりで仕方なしに使う、いわゆる仮眠室のような場所であり、その中でも滅多に使われない所を作業場としてマックイーンが提供してくれた形になっている。

 そうなれば設備が必要最低限のものしかない事にも合点がいくというものだ。むしろスーツ製作の話が浮上してから一日足らずで、この立派な仮住居の利用許可をもぎ取ってくれたご令嬢には頭が上がらない。

 

 ……それはそれとして、いくらメジロの所有物件とはいえやはり滅多に人が泊まらない場所であることに変わりはないため、複数人で宿泊するとなるといろいろ足りていないことは事実だ。

 

「あー……じゃあ俺はソファで寝るから」

「だっ、ダメですよっ。今だって厚着をしないと少し寒いのに……風邪を引いてしまいます」

 

 俺たちは現在、ジャージに着替えたうえで更に上着を羽織っている状態だ。

 どうにもエアコンの効きがそこまで良くなく、さらに暖房と言えるものがこのリビングにあるアレ一つのみなので、温風が当たる位置かつしっかりと寝具に入った状態でなければ体調を崩してしまいかねない、というデジタルの意見は至極真っ当だった。

 

 ──ならばここは全てデジタルに譲って、俺自身はここから少し遠いものの自宅があるため、帰って寝れば話は早い……のだが、困ったことにそうは問屋が卸さない。

 

「……参ったな。()も止みそうにない」

「予報では明日のお昼まで降るみたいです……」

 

 そう、外でそこそこ強い雨が降り荒れているせいで物理的に帰宅しづらいのである。

 どしゃ降りとまではいかずとも風が吹いており、この空の下を歩いて帰ればびしょ濡れになることは想像に難くない。

 流石に一日の終わりで疲れ切った状態で、しかも風呂に入った後なのにクソ寒い雨の中を帰るのは、濁さず言うとダルすぎる。

 ショッピングモールを出たときには既に怪しい雰囲気の曇天だったことから、失敗点を挙げるとすればデジタルと夕食を食べたあとすぐに帰路に就かずダラダラと過ごしてしまったことだろう。だって友達と一緒にいたかったから……。

 

「山田のような無敵のアーマーがあれば良かったんだが」

「あはは。……というかダーヤマさん、本当にガレージで寝泊まりしてて、お風邪など引いたりしていないのでしょうか?」

「さっき少しメッセージでやり取りしたけどマジで問題ないらしい」

「えぇっ! ……ふふっ、もはやウマ娘ちゃんたちより頑丈な身体なのかもしれませんね」

 

 そこは本当にそうなんだと思う。ダーヤマ:むてきポケモン。特性、あついしぼう。

 

「……あのう、秋川さん。それで、今夜のことなんですけど……」

 

 デジタルが胸の前で両手をモジモジと合わせながら、上目遣いでこちらに目配せしてきた。

 既にリビングのテーブルはどかして布団を敷いてあり、暖房の温度も設定済みなので就寝する準備自体は終わっている。

 つまりあとは寝るだけなのだ。

 だからデジタルが言わんとしていることも、なんとなく目途はついている。

 もし俺が彼女の立場であったら同じことを口にするだろうし、なによりさっさと布団に入って温まりたいところだろう。

 

 ──もしも普段の俺であったのなら、それでも彼女を説得して一人ソファで眠っていたかもしれない。風邪を引こうが何だろうが、この状況を良しとするよりはマシだと、そう自分に言い聞かせて。

 しかし来たるラスボス戦へ向けて体調の管理を徹底しなければならない現状では、寒さで風邪を引いている場合ではないのだ。

 なんとなくではなく確信がある。この状態で睡眠してしまったら俺は八割ほどの確率で体調を崩す。

 身体能力云々は置いといて、少なくとも体の頑丈さに関しては山田には遠く及ばない。

 いまの自分が真冬の冷気に対抗する唯一の手段とは、気合いではなくリスク管理なのだ。

 

「デジタルさんは……いいのか?」

 

 自らの結論を決め、布団を一瞥してから彼女に問うた。

 それに対して眼下の少女は若干の緊張を残しつつも、にへらと小さく笑みを浮かべて応えてくれた。

 

「……えへへ、もちろんです。秋川さんなら……だいじょぶ、ですので」

 

 

 

 

 ごうごうと吹き荒ぶ強烈な風と雨音が聞こえる。

 どうやら更に雨脚が強まったようで、窓ガラスを一枚隔てた向こう側では会話すら困難なほどの、空の叫びが響き渡っているらしい。

 だがそんな騒がしい外の世界に反して、俺たちのいる狭く閉じた空間は静寂そのものであった。

 

「……起きて、ますか?」

 

 静かに細い声が耳を擽る。

 二人で布団の中へ入って以降、特にこれといった会話はしていなかった。

 想定よりも部屋が冷え込んでいるせいか、羞恥心よりも暖の確保を優先する本能が働き、俺たちはいつの間にか毛布の中で手を重ね合わせていた。

 

「……ごめん、正直ぜんぜん眠れてない」

 

 それだけに留まらず、腕や足の先も僅かに触れ合っている。

 そもそも使っているのは一人用の寝具。

 無理やりにでも距離を詰めなければすぐに体がはみ出してしまうし、なによりその瞬間に感じる冷たい外気が理性よりも本能を促進させた。

 もっともっと温かくなりたい──その結果が現状を生み出してしまったわけだ。もう親友には下手な言い訳もできん。

 

「あは……まあ、とても寒いですから。……でも、だんだん温かくなってきたかも……?」

「……そうだね」

 

 むしろ熱くなってきたと感じるほどだ。

 とはいえここで安心して離れてしまうと、再び暴力的な冷気に身をさらすことになる。

 どの道ここでは選択肢など無く、朝まで耐え忍ぶ他にないわけだ。

 

「……もう少し詰めますね」

 

 質問ではなく宣言。

 彼女はズリズリと身体を前へ動かし、もう鼻息が当たってしまいそうな距離まで顔が迫ってきた。

 もはや窺うことをやめている。

 ほんの少しずつ遠慮がなくなっている。

 それが暖を取るための行動だとは理解しているものの──俺とて鈍感ではない。

 ()()に別の意図が込められているのは明白だった。

 

「……あの」

 

 弱々しい声をかけられた。

 目を開くと、目が合った。

 視線と視線がぶつかった。め、目のやり場に困るんだが……SDGs。

 

「そ、その……すみません、一方的に喋りますね。……こほん」

 

 一言断りを入れてから、ついでに小さな咳払いを一つ。

 温かな布団の中でさりげなく重なっていた手を、誤魔化さず明確に握ってきた。達人の域だ……この領域に辿り着くとは相当なムッツリスケベ。太公望。

 

「まずは、ごめんなさい。スズカさんやカフェさんとのこと……もう知っちゃってます」

 

 不思議と驚きはなかった──と言いたいところだが別に普通にびっくりした。え、なんで。今朝のニュースにでもなってたの。

 

「と、トレセンでのお二人の雰囲気が今までと明確に違っておりまして。恐れ多くもお昼をご一緒した際に……えと、聞こうか聞くまいか悩んで、言い淀んでるデジたんを察して下さったお二人自ら……その……はい」

 

 校内での雰囲気が違う、という部分に関しては同じ学び舎に通っている彼女にしか分からないことだが、まさか“明確に”とまで言ってのけるとは末恐ろしい観察眼だ。さすがはウマ娘を好きすぎるあまりトレセンへの入学まで果たした傑物といったところか。

 

「ぉおめでとうございますっ。まずは何よりおめでとうございます、です。もはや国民的アイドルの域にあるウルトラウマ娘ちゃんであるお二人から告白だなんて、秋川さんがすんごいスゴい方である何よりの証拠ですよねっ」

 

 言いたい言葉が先行してしまっているのか、若干だが語彙力がすごいことになっている。

 こうして触れ合える距離で顔を見ているせいか彼女の秘めた緊張感が伝播してきて、こちらまで肩に力が入ってしまう。ド緊張♡ 

 

「…………ですから、きっとデジたんが──アタシが釣り合うハズは……ないのですが」

 

 消え入るような呟きと共に、手を握る力が強まった。

 わずかに顔を伏せる。

 何かを考えるように押し黙り、少し経ってから彼女はもう一度面を上げた。

 

「でも、一緒に映画を観たあの日……自分も走るって決めたので」

 

 その瞳から熱を感じた。

 もう既に暑いと思えるほど互いの体温は上昇していて、けれどそれを冷ますことなくデジタルは真っすぐにこちらを見つめる。

 

「推しだし、夢だし、何よりも大好きなウマ娘ちゃんたちを遮るだなんてあり得ません。鉄の掟を、信念を曲げることなく生きていくんだって。それが当たり前なんだって。……けど、でもっ」

 

 ほぼ限界値まで達していた、肩が震えるほどの強烈な緊張をすらも乗り越えて、遂に少女は観念したように──微笑んだ。

 

()()()のことだけは……誰にも譲りたくないって……そう思っちゃった」

 

 デジタルは笑い交じりにそう告げた。

 彼女の言葉の意味を瞬時に理解して、今度は俺のほうが極度の緊張に支配された。

 どうあっても穏やかに受け止めるつもりだったのに、眼前の少女から放たれる本気の感情を目の当たりにして、情けないことに俺は怯んでしまったらしかった。

 

「す……好きっ、です。誰にも負けないくらい大好きなんです……っ」

 

 握っていた手を放し、それをこちらの背中に回してぎゅうと俺の胸に顔を埋めるデジタル。

 

「アタシも待ちます。あなたの答えは、すべてが終わった後に聞かせて頂ければ……」

 

 ──それはそれとして、と一拍置いた彼女は顔を上げ、唇が触れてしまいそうな至近距離で恥ずかしそうに破顔した。

 

「ここまで言っておいてなんですが……秋川さんの一番大切な人、というのになれるかはちょっと自信がなくて」

「……それはどうして?」

 

 ここでようやく口を開いた俺の質問に対して、デジタルは仕方なさそうな表情で答えてくれた。

 

「だ、ダーヤマさんが……」

 

 ──ほへ?

 

「ぅうウマ娘の方々とは恐れ多くも同じ女の子として、同じ土俵で競う心構えもできたのですが……なんと言えばいいか……」

 

 ここまで聞いておいてなんだが本当に何故いま山田の名前が出たのかが分からない。

 サイレンスやマンハッタンとも戦う準備はできたというのに、どうしてか彼女は山田に気圧されているらしかった。なにやってんだアイツまじで何事なのこれ。

 

「とにかく羨ましかったんです。ダーヤマさん……山田さんの事が、ずっと羨ましかった」

 

 どこか告白の宣言の時よりも熱が入っているように感じる。どちらかと言えば俺に対する告白よりも、今の()()()()という宣言のほうが、彼女がずっと言い淀んでいた内容だと思えるほどのハッキリとした声音だ。

 

「秋川さんにとって一番のお友だちで……当たり前みたいに小突き合うくらい気の置けない仲で……ウマデュエも、キャロットマンも、あなたと共有したいものも全部あの人に先に越されてて……たぶん今も嫉妬しちゃってます」

「………………そ、そうなの」

 

 あまりに予想外なせいでまともな返事が出てこない。もう言葉を失う寸前だ。

 なんと彼女は他のウマ娘たちとは別に……どころかそれ以上に、俺の親友であるあの少年へ特別重い感情を向けているらしかった。

 

「だって山田さん、秋川さんがどなたのルートに進んでもそばにいますよね?」

「ルート言うな。……まぁ、理想としてはもうしばらく一緒にバカやりたいって思ってるけど」

「それですっ、それェ! 同性だからクラスメイトだから親友だからって、やっぱりどんな道を選んでもあなたに求められてる! んぐゥぁ~~~~ズルいっっ……!!!」

「あの、デジタルさん? その悩みは本当? 戦おうとしてる相手ってアイツで合ってる?」

 

 なんとか宥めようとしても止まる気配もない。

 こう、シンプルに言ってしまうと、もはや彼女が山田へ向けている感情の矢印は、異性として好きなハズの俺に対するソレよりも遥かに大きい気がする。

 やはり彼女も生粋のウマ娘というか、レースの形は違えど競い合うライバルに対しては想いが爆発してしまう気質なのかもしれない。

 

「デジたんもスーツ製作に本腰を入れねば! ダーヤマさんもあっと驚くような武装を腕や足回りに追加したいですッ! 採寸っ、採寸しましょう!」

「えっちょっま、アヒッ♡ おい落ち着けこの野郎!! はしゃぎ過ぎなり」

 

 ──そうして結局あの男に対する対抗心と昔からの友情でメンタルがぐちゃぐちゃになったアグネスデジタルは、翌日のガレージで山田と張り合うようにスーツ製作に没頭してしまうようになった。

 

 ついでに昼飯の買い出しの際、山田が当然のように俺の好きな種類の弁当を買ってきたことでちょっと打ちのめされたらしく、まるで仕返しとばかりに無言で彼の隣に座って圧をかける始末であった。そしてお互いに照れてまた距離を取った。すんごい仲いいね。キミたちはさっきから何をやっていらっしゃるの? 愛いやつら。

 

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